土木・建築分野の品質保証
わが国の経済力の停滞が言われ続けたここ20年、しかし東京でも大阪にも新たな高層ビルが立ち続けた。その様を外国人は不思議がって見ていたそうな。東京ではスカイツリーが完成し、東京駅も立派に復元された。東京駅では隣接するデパートも新装開店したし、周囲のビル街や通りもさらに整備された。駅構内の所謂駅ナカと呼ばれる商店街も一層充実した。2020年五輪に向けてまだまだ東京は変貌する。東京の街を歩き地下鉄など利用すると、本当に人類の土木・建築技術の偉大さを見せつけられる。
瀬戸内海に掛った3つの橋も木更津と川崎を結ぶ東京湾アクアラインも多くの建設費がかかったことで批判もあったが、完成してみればやっぱりその威容と利便性は、お金に卓る価値を感じる。夢を叶えたこれらプロジェクト推進者の功績は大きい。
「ガイドブック」では、『土木・建築分野の企画・調査・設計・施工・維持管理・廃棄に至る建築事業プロセスにおけるさまざまな形態のプロジェクトの特徴を次の8点と捉えている。
①ほとんどの建造物は個別の一品生産である。
②生産場所が全国に点在しており、環境や地域社会への影響が大きい。
③生産設備や施工チームが移動し、完成後に生産設備とチームが解散する。
④労働集約型の屋外産業で、気象などの環境条件の影響を強く受ける。
⑤設計と施工が分離されることが多い。
⑥技術指向が強く、経験に負うところも多い。
⑦完成後に建造物がどのような形態になるのかが生産過程ではわかりにくい。
⑧特定の直接顧客である発注者が介在し、最終的な利用者の声を聞きにくい。』
この産業を支える『50万社といわれるうち資本金1億円以上の企業はわずかであり、大半は中小企業で、零細な個人企業も多い。労働生産性は製造業と比べて高くなく、人への依存度の高い労働集約型の裾野の広い産業である。また、労働災害は減少傾向ではあるが他産業に比べて多い。さらに売上高のうち、外注費・材料費・労務費の占める割合がきわめて高く、特に外注費が大きいことも特徴である。
土木工事と建築工事に分けて見てみると、公共投資は社会基盤形成のため土木工事が大半であり、民間需要は住宅、店舗など建築工事が大半となる。
土木工事では、設計と施工を分離して発注されることが多く、またその施工にあたっては、自然環境の影響を受けることから既存の技術では予測できないリスクも多く、所定の品質、工期、安全などを確保するための施工技術、環境への環境評価技術などが不可欠である。一方建築工事は、設計施工一貫方式であり、設計品質と施工品質を整合させやすい。
これら土木・建築分野の品質保証の特徴は、(1)「日本文化に育まれた品質保証の考え方」が根付いていること。すなわち施主と棟梁との強い信頼感に裏付けられた、匠の技術を背景とした請負制度が発達していること。(2)「TQMを推進」してきたこと。すなわち土木・建築分野のリーディングカンパニーは1980年代積極的にTQMを推進し、良い品質の製品・サービスを安定して社会へ提供し続けるための品質保証のやり方を学び、実践し実効をあげてきたのである。
さらに最近では、WTO/TBT協定*18)やISOのマネジメントシステムなどのグローバル化の進展に伴い、品質に関する透明性を高める思考が強まり、品質保証を中心に据えた品質競争力に秀でた透明な建設プロセス構築への取組みがなされている。』
*18)世界貿易機関(WTO)が1995年に制定した「国際標準に規制や標準を整合する」という参加国間の協定。「各国は貿易に支障をきたさないよう、国内の規制や標準を国際標準に整合させなさい」というもの。
本稿は、(社)日本品質管理学会編2009年日科技連刊“新版品質保証ガイドブック” (文中「ガイドブック」と略称)第Ⅳ部第11章「土木・建築分野の品質保証」を参考にし、『 』内は直接の引用ですが、加筆省略があります。
わが国の経済力の停滞が言われ続けたここ20年、しかし東京でも大阪にも新たな高層ビルが立ち続けた。その様を外国人は不思議がって見ていたそうな。東京ではスカイツリーが完成し、東京駅も立派に復元された。東京駅では隣接するデパートも新装開店したし、周囲のビル街や通りもさらに整備された。駅構内の所謂駅ナカと呼ばれる商店街も一層充実した。2020年五輪に向けてまだまだ東京は変貌する。東京の街を歩き地下鉄など利用すると、本当に人類の土木・建築技術の偉大さを見せつけられる。
瀬戸内海に掛った3つの橋も木更津と川崎を結ぶ東京湾アクアラインも多くの建設費がかかったことで批判もあったが、完成してみればやっぱりその威容と利便性は、お金に卓る価値を感じる。夢を叶えたこれらプロジェクト推進者の功績は大きい。
「ガイドブック」では、『土木・建築分野の企画・調査・設計・施工・維持管理・廃棄に至る建築事業プロセスにおけるさまざまな形態のプロジェクトの特徴を次の8点と捉えている。
①ほとんどの建造物は個別の一品生産である。
②生産場所が全国に点在しており、環境や地域社会への影響が大きい。
③生産設備や施工チームが移動し、完成後に生産設備とチームが解散する。
④労働集約型の屋外産業で、気象などの環境条件の影響を強く受ける。
⑤設計と施工が分離されることが多い。
⑥技術指向が強く、経験に負うところも多い。
⑦完成後に建造物がどのような形態になるのかが生産過程ではわかりにくい。
⑧特定の直接顧客である発注者が介在し、最終的な利用者の声を聞きにくい。』
この産業を支える『50万社といわれるうち資本金1億円以上の企業はわずかであり、大半は中小企業で、零細な個人企業も多い。労働生産性は製造業と比べて高くなく、人への依存度の高い労働集約型の裾野の広い産業である。また、労働災害は減少傾向ではあるが他産業に比べて多い。さらに売上高のうち、外注費・材料費・労務費の占める割合がきわめて高く、特に外注費が大きいことも特徴である。
土木工事と建築工事に分けて見てみると、公共投資は社会基盤形成のため土木工事が大半であり、民間需要は住宅、店舗など建築工事が大半となる。
土木工事では、設計と施工を分離して発注されることが多く、またその施工にあたっては、自然環境の影響を受けることから既存の技術では予測できないリスクも多く、所定の品質、工期、安全などを確保するための施工技術、環境への環境評価技術などが不可欠である。一方建築工事は、設計施工一貫方式であり、設計品質と施工品質を整合させやすい。
これら土木・建築分野の品質保証の特徴は、(1)「日本文化に育まれた品質保証の考え方」が根付いていること。すなわち施主と棟梁との強い信頼感に裏付けられた、匠の技術を背景とした請負制度が発達していること。(2)「TQMを推進」してきたこと。すなわち土木・建築分野のリーディングカンパニーは1980年代積極的にTQMを推進し、良い品質の製品・サービスを安定して社会へ提供し続けるための品質保証のやり方を学び、実践し実効をあげてきたのである。
さらに最近では、WTO/TBT協定*18)やISOのマネジメントシステムなどのグローバル化の進展に伴い、品質に関する透明性を高める思考が強まり、品質保証を中心に据えた品質競争力に秀でた透明な建設プロセス構築への取組みがなされている。』
*18)世界貿易機関(WTO)が1995年に制定した「国際標準に規制や標準を整合する」という参加国間の協定。「各国は貿易に支障をきたさないよう、国内の規制や標準を国際標準に整合させなさい」というもの。
本稿は、(社)日本品質管理学会編2009年日科技連刊“新版品質保証ガイドブック” (文中「ガイドブック」と略称)第Ⅳ部第11章「土木・建築分野の品質保証」を参考にし、『 』内は直接の引用ですが、加筆省略があります。