中小企業診断士 泉台経営コンサルタント事務所 ブログ

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今またTQMを考える 第10回

2018年05月29日 | ブログ
大手企業の品質問題

 4月30日の読売新聞に、『日本を代表する製造業大手で昨秋以降、完成車の無資格検査や検査データの改ざん、不正の隠蔽などが相次いで発覚した。高品質を武器としてきた日本のものづくりの現場で、なぜ不正が起きたのか。・・・』との記事があった。

 つい最近も日本ガイシ株式会社で、長期に亘る製品検査での不正が発覚している。

 TQM活動(方針管理)もISO 9000の取得もやっている筈の大手企業で、なぜこのような品質問題が次々と起こるのか。ひとことで言えば、「現代の経営者に品質意識が低い」ことに尽きる。一からTQMを学び直す必要があるが、恐らく当該企業の経営者の辞書に「TQM」など無いのであろう。

 新聞記事から不正の実態を簡単に振り返る。日産自動車とSUBRUの場合は、無資格の従業員に完成検査をやらせていた。これが確信犯の証拠として、両社とも国などの監査の際は無資格者を外していたらしい。

 さらに罪が重いのが、神戸製鋼所、三菱マテリアル子会社、東レ子会社、SUBARU及びこの度発覚した日本ガイシの場合のように、検査データの改ざんややるべき検査をやっていなかったというもの。

 このような不正が横行する原因として指摘されているのが、経営陣に現場への関心が薄く、不正を把握できないことや納期や利益優先があること。ここでは「品質第一」が軽んじられ、無理な受注で顧客の求める仕様の製品を作り込めず、損失を出さないためのデータ改ざんがあったりする。従業員には法令や契約を守る意識が希薄で、自社技術への過信から不適合であっても実用上問題はないと考えていたりすること。ただ、法令・契約遵守では、役員が不正を把握しながら握りつぶした事例もあるようで、従業員の責任でなく、企業風土に根ざす問題であることが多いようだ。

 これらの品質問題を受けて、文藝春秋今年の2月号に、コマツ相談役で日本科学技術連盟会長の坂根正弘氏(社長時代に“品質と信頼性の追求”を掲げた「ダントツ経営」でコマツを世界第2位の建設機械メーカーに導いた)が「大企業の品質偽装はトップの責任だ」と断じている。

 坂根氏は社長時代『取締役会などでバッドニュース・ファーストの経営姿勢を示し、子会社や社内の各事業所・部門から月報を上げる際、最初に環境と安全とコンプライアンスの問題、二番目に顧客で起こっている品質問題を書かせ、業績は最後とした』という。そして近年、経営トップが企業価値の向上に関心が強いことは当然としても、品質に対する関心を失いつつあることを懸念している。

 『新たなビジネスを作り出す最大の武器は、顧客にとってその企業・商品でないと困る度合いを高めるためのダントツのサービス、ダントツのソリューションなのです。つまり広い意味での“品質”があるからこそ対価を払ってくれるのであり、企業価値の源泉はそこにしかありません。そのことに考えが至らないから、品質管理がおろそかになり、昨年のような不祥事が起きてしまったとも考えられます』と述べている。

 各企業は、今またTQMを考えてみる必要があるのだ。





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今またTQMを考える 第9回

2018年05月26日 | ブログ
全員参加と教育重視

 「TQMは全員参加」は工場の「安全第一」と同じで、単なる謳い文句ではない。必須の前提である。TQC時代に品質管理は、検査部門や品質保証部門だけが品質の維持向上に取り組むのではなく、全社で取り組む課題であると進化した。まさにTQC活動からの伝統なのである。

 部門を超えた全員参加と経営者から現場担当者まで、職位を問わない全員参加であり、すなわち全社的、総合的な品質管理活動なのである。

 しかし、工場などで例えば総務課や経理課の社員は、どのように品質管理に関わればいいのか疑問に感じるかもしれない。全員参加が掛け声だけの建前では意味はない。あらゆる部署で自部署での品質管理の意味を確認する必要がある。品質管理を製品やサービスの質と捉ええれば分かり難いかもしれないが、総務課は工場の規則などの元締めであり、すべての規則の整合性をとるためにも、品質管理規則などの作成にも関与すべきである。経理部門は製品の売り上げを管理するなら、その製品・サービスの出来栄えが売り上げの増減に大きく関わっている。従業員の給料にしても、行くつくところ自社の製品・サービスの対価として顧客からいただいているのだ。

 さらに、品質管理はそれぞれの従業員の仕事の質も問うている。さらにそれぞれの職場環境の自分たちによる身近な改善は、立派な品質管理活動となる。外部からいろんな人を迎える事務所・事務室の3S(整理・整頓・清掃)は重要である。

 TQM活動という社員共通の旗の下、それぞれの部署でそれぞれの役割に一生懸命取り組む事ができれば、全社一丸の風土が生まれ、経営者の掲げた方針や目標の達成に大いに威力を発揮するであろう。

 またTQMは、「教育に始まり教育に終わる」と言われる。そのベースとなるのは「人間性尊重」である。わが国の江戸時代。封建社会でありながら、庶民の識字率はヨーロッパ先進国を凌いでいた。就学率や識字率が5割に満たなかったという当時のイギリスやフランスに対してわが国は寺小屋などの普及で9割程度の人が読み書きを出来ていたという説がある。

 そのことが、明治維新後の文明開化、富国強兵を短期間に達成し、また第二次大戦後の戦後復興、驚異の経済成長を成した大きな要因であった。

 「企業は人なり」、ならば優秀な人材を採用するだけでなく、「人間性尊重」をベースにした豊かな人間教育、技能教育、管理技術教育が必要である。

 中條武志、山田秀両氏の編著による、日科技連出版社「TQMの基本」2006年刊から「教育・訓練の実践のポイント」を引く。

①組織としてどのような能力を持った、どのような人材が必要かを明らかにする。
②職種ごとのキャリアパスのあるべき姿を明らかにする。
③一人ひとりの能力の現状を評価し、獲得すべき能力の目標を明らかにする。
④階層別・分野別教育、小集団活動の活用など能力を獲得するためのしくみを作る。
⑤人材の育成状況をフォローする。




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今またTQMを考える 第8回

2018年05月23日 | ブログ
TQMのツール

 TQMのツール(道具)には種々の改善に役立つものから、工程の状態を把握し確認するのに適したツール。また情報の共有化のためのツールもある。先に本稿第2回「TQMの手法」でも紹介した。

 良く知られる「QC7つ道具」や「新QC7つ道具」の他、SQC(統計的品質管理)手法、品質・信頼性解析手法(QFD:品質機能展開、FTA、FMEA、エラープルーフ化)、プロセスフローチャート、QC工程表(プロセス管理計画)と前項で紹介したQCストーリーなるステップ改善手法などがある。

 「QC7つ道具」は、グラフと管理図を一つとし、層別を加えて7つとしたものと、グラフと管理図は切り離し、層別はあらゆる改善手法に有効として7つ道具に加えない考え方もある。層別は「分けることは分かること」であり、少なくてもQC7つ道具を学ぶ初期の頃には7つ道具に加えて深く認識しておいた方がいいように思う。

 「QC7つ道具」はTQMのもっとも基本的なツールで初歩的な改善手法であるが、これを完全に使いこなせれば、囲碁や将棋でいえばアマ有段者。囲碁や将棋では、一応の手筋とか定石は心得ておかないと高段者に大きなハンディー(飛車や角を落とす、囲碁なら5子以上置く)を貰ってもなかなか勝てないように、改善もそのイロハである基本をしっかりと押さえておかないと効率良くゆかない。

 統計的手法にあっても、平均や標準偏差、相関係数、工程能力指数、検定・推定、相関分析、回帰分析くらいまでは中級で、実験計画法、タグチメソッド、多変量解析くらいになると上級だという。各種改善には、中級程度の統計的手法は学んでおく必要がある。

 特性要因図(フィッシュボーン)を考案した石川馨先生は、「身近な問題の8割程度はQC7つ道具など基本的な改善手法で解決できる」と言われていたそうだ。簡単な問題であっても数多く解決することで、仕事のスキルは確実に向上する。

 道具は、それぞれに適した使い途がある。問題・課題に応じて都度適したツールを使うことだ。とは言って、私など50名くらいの主に主婦のパートさん達と仕事をしたときには、小集団活動と称して改善活動をやって貰った際、事前に特性要因図の使い方だけを指導して、それですべての問題に当って貰ったりした。それでも十分成果を出してくれたものだ。まず何からでも使ってみることだ。

 改善の手法は、それぞれに易しく書かれた専門書もある。それらを参考にまずQCサークル活動で使うことから始め、主業務の問題や課題にもそれら手法を駆使して取り組めるようになれば、それこそTQMの従業員教育効果の真骨頂である。



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今またTQMを考える 第7回

2018年05月20日 | ブログ
日常管理の要点と基本

 例えば、良い提案があって実行に移したとしても、それが日常的に確実に実施されないと効果は薄い。QCストーリーのステップ7:「標準化と管理の定着」(歯止め)が必要である。「標準化」はTQMの原則の5番目にある通り「・・・各人が勝手に行動すると結果にバラツキを生じることは当然である。結果が良くなり効率的なやり方を標準として定め、文書化し、これを遵守することで継続的に良い結果を得る。・・・」

 従って、「標準化」は、日常管理における本来前提でもある。しかし、これを確実に実施し、維持管理することはなかなか難しい。私などもISO9000取得によって、特に1987年版(初版)のISO9000は文書管理が非常に厳しかったことで、マスターリストによる最新版管理、配付先管理そして適宜の見直しによって、今やっている手順・方法と標準書が確実に整合すること、の重要性を認識したのである。

 異民族の多い欧米ではマニュアル(手順書・標準書)が進化したが、日本人はほとんどが同一民族であり、阿吽の呼吸があり、家庭や学校での基礎的教育が行き届いていたため、いちいちマニュアルがなくても、担当者の気づきや裁量で大きな問題にならなかった。

 しかし、組織の管理は性善説に依存しては成り立たない。解釈は誰もが同じにできなくてはならない。大相撲の横綱の品格さえ、低級な評論家はマニュアル化せよと言う時代である。

 大相撲の「手強い相手は潰せ」という何とかチームの暗躍や官僚の黒を白と言う嘘も、水掛け論のうちは逃げおうせるという態度は、遂に大学のアメフトにまで影響し、堂々と危険な反則を繰り返した選手と、それを監督が指示した気配が濃厚だが、「指示しない、言っていない」で選手を切り捨てる。*註)「美しくない日本」になってしまった。

 「標準化」と共に日常管理の要点であり、基本は「5S」である。すなわち「整理・整頓・清掃・清潔・躾(ルールを守る)」。5Sには高度な学問が必要なわけではなく、誰でもできることでもあるが意外と定着していない。軽視しがちな企業もみかけるが、実は非常に日常業務に関わりが深い。企業活動の前提である、「安全」「品質」の基本でもある。

 作業場の整理・整頓は、通路の確保や作業スペースに関連し、どこに何があるかを確実にすることで、モノを探すという無駄な時間を減らせる。工具や事務用品などの無駄な購入も減る。清掃・清潔は、モノづくりの現場では品質に直接影響するし、従業員の健康管理のためにも重要である。ルールを守る習慣がなければ、立派な標準書を作っても日常管理には意味を成さない。

 「標準書」「5S」に加えて「改善」も重要である。経営者主導の少し大きな改善・改革は、「方針管理」の範疇となるが、日常身近な改善を繰り返すことで、職場は段々とより住みやすく働きやすくなる。製品品質にも磨きが掛かる。5S活動や改善活動は大きな費用は掛からず、職場を変え従業員教育にも有効なまさに魔法の方策である。



*註)5月19日になって監督は責任を取って辞任



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今またTQMを考える 第6回

2018年05月17日 | ブログ
続、QCストーリー

 企業診断やコンサルにもそのフレームワークとして、QCストーリーの考え方は使うことができる。まず企業の現状を的確に把握することで、経営上の問題点が浮かび上がる。その問題または課題に対して対策案をまとめ、手を打つことである。

 コンサルタント業は多岐に亘るが、経営コンサルタントであれば、クライアント企業を現状より儲けさせる必要がある。人事の仕組みを変える。製造プロセスをもっと効率よくさせたい。拡販するにはどうすればいいか。創業支援をして貰いたい。銀行から新たな融資を受けるための経営改善計画書を作成して欲しい。補助金申請の書類を作って貰いたい。

 兎角経営者は、コンサルタントに相談することで、魔法のような解決策が聞けるものと期待するかも知れないが、よっぽど稚拙な経営を行ってきたのならいざ知らず、世の中誰に相談したところで簡単に儲かる話にはなり難い。勿論コンサルタントは同業の成功事例等から提案まではできるが、楽をして儲かる話に乗れば詐欺くらいが落ちで、業績向上のためには、やっぱり経営者を筆頭に、抽出された問題・課題の解決に必死で取り組むしかない。

 QCストーリーはテーマ選定に始まり、テーマについての現状把握を行うが、経営コンサルでは、テーマは儲けを拡大することであり、その為の現状把握はSWOT分析や決算書に基づく経営分析、経営者からの組織、人員構成、社内制度や現状認識についての聴取、現場の見学、現場従業員からの聴取など。勿論、業界情報の事前調査は欠かせない。

 これら現状把握における現状認識に齟齬があると、的確に問題点を捉えることが出来ず、間違った方向で検討が行われ、多くの資源を浪費することになる。すなわち、現状把握こそ最重要で、思い込みを排し、客観的事実を捉える必要がある。

 現在の中小企業が抱える問題は、業界自体が縮小している場合に多いが、売上が漸減してゆくことで、拡販の方策を求めることが多い。汎用品を扱っておれば外国製品に押され、大手に集約してゆく業界もある。小売店は大手資本のフランチャイズのコンビニエンスストアや家電量販店、ホームセンター、ショッピングセンターやドラッグストアなどに飲み込まれる。街の酒屋さんは量販店に価格競争で太刀打ちできない。家電品しかりである。

 これらの問題にQCストーリーで対応できるのか。TQMは顧客第一である。顧客目線で今一度問題点をしっかりと見つめ直してみたい。そのために問題要因の解析をしっかりと行うこと。誰もまだ思いつかない方策が隠されているかもしれない。あきらめないことである。現在の事業を継続したい経営者の想いの強さが新たな方策を生む。

 QCストーリーはQCサークル活動など小集団活動の代表的な改善手法で、大手企業は1970年代から80年代に掛けて従業員の教育訓練として活用した節もあるけれど、経営コンサルに、そして経営者自身による自社の業績向上策にこのフレームワークを用いてステップで諸問題の解決にあたることは大いに有効であろう。




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今またTQMを考える 第5回

2018年05月14日 | ブログ
QCストーリー

 TQMは、製品・サービスの質に始まり、仕事の質・経営の質までも継続的に改善し続けてより高いレベルにすることで、顧客はじめステークホルダーの満足を高め、究極的に企業の経営理念を実現してゆくためのものである。

 この改善の手順は、品質管理では「QCストーリー」と呼ばれ、「問題解決型QCストーリー」と「課題解決型QCストーリー」がある。

 経営の質の向上を論じる際までにQCストーリーはないだろうと思われるかもしれないが、基本的な手順は同様と考えていいのではないか。勿論、大手企業ではその業種・業態に応じ、環境変化に沿って独自の取り組みで経営革新に挑んでいることで、それらまでをTQMの範疇と捉える必要もない。

 われわれの仕事は日々問題解決である。一見全く同じ動作・操作・行動の繰り返しに見える仕事でも、実は微妙なインプットの変化を捉えて、アウトプットにばらつきを生じないように調整しているものである。この場合、インプットの変化を問題と捉えることができる。インプットの変化が大きく瞬時に対応できなければトラブル発生となり、元の定常状態にいかに早く復帰させるかが問われる。

 一方、課題は現状レベルより上を目指して改善・改革するための案件である。ここでは特にPDCAを早く多く回すことが肝要である。

 QCストーリーとしては、いずれも同じようなものだけれど、それぞれについて書いておく。「新版品質保証ガイドブック」2009からの引用となる。

 問題解決型QCストーリーS1(ステップワン):テーマの選定。S2:問題(現状)の把握と目標設定。S3:要因の解析。S4:対策の立案。S5:対策の実施。S6:効果の確認。S7:標準化と管理の定着(歯止め)。S8:反省と今後の対応。この各ステップをPDCAに当てはめると、S1、S2、S3はCheckであり、S4がPlan、S5がDo、S6はCheckで、S7がAct、S8はAct/Planとなる。

 課題解決型QCストーリーでは、S1:テーマ選定。S2:課題の明確化と目標の設定。S3:方策の立案。S4:最適解(成功シナリオ)の設計(追及)。S5:最適策(成功シナリオ)の実施。S6:効果の確認。S7:標準化と管理の定着。S8:反省と今後の対応。でほとんど問題解決型と同じようだが、PDCAに当てはめた場合、S1からS2、S3、S4までがPlanで、S5がDo、S6はCheck、S7がAct、S8はAct/Planとなり、こちらはPDCAの順となっている。同じテーマ選定も一方ではCheck、他方ではPlan。意味合いが違うのである。

 これら具体的なステップには、ステップの区切り、名称などにいくつかのバリエーションが存在しており、紹介しているものは代表的なステップである。

 このような改善のステップを知っていることで、問題や課題に直面した時に、「どうしていいか分からない」と少なくともパニックになることは避けられる。分けて考える「分けることは分かること」と共に、解決の拠り所となる心強い改善の手法である。





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今またTQMを考える 第4回

2018年05月11日 | ブログ
続・TQMの原則

 前稿に続き、TQMの原則を中條武志、山田秀両氏の編著による、日科技連出版社「TQMの基本」2006年刊から引く。『 』内は直接の引用である。

 (9)「未然防止」、言うは易しの典型のような原則で、これが出来ればトラブルは起こらないのだけれど、全くの未知の問題をあらかじめ推測することは難しい。しかし、過去の失敗事例を整理し、十分吟味することで、似たような製品やプロセスで起こりそうなトラブルは、安全面にしろ、品質面にしてもある程度類推できる。少なくとも同様の機器やプロセス、製品のトラブル対策の水平展開は確実に実施する必要がある。

 (10)「潜在トラブルの顕在化」、『品質クレーム、トラブル、不良などのデータはとられていても、それは氷山の一角に過ぎないことが多い。再発防止や未然防止に先駆けてまず手掛けるべきことは、報告されていない、表面化していないクレーム、トラブル、不良の顕在化であるという考え方である』。

 (11)「QCD(結果)に基づく管理」、ここでは製造業の生産管理の根幹であるQCDを結果事例にあげているが、ものづくりの品質管理に於いては、Q(品質)C(コスト)D(納期)の互いに背反する課題をうまく調整する必要がある。結果を視ずにやみくもに品質を追究して過剰品質になっていないか。コストや納期は顧客の要望に沿ったものになっているか。結果からプリセス・しくみを構築してゆく考え方である。

 (12)「重点指向」

 (13)「事実に基づく管理」、経験や勘は重要ではあるが、三現主義に基づきデータ(数値データ、言語データ)や情報を十分信頼できるものにし、適切な方法で解析する。「統計的手法」の活用が重要である。

 (14)「リーダーシップ」、組織の盛衰はトップの器、力量にかかっている。企業経営者の責任は重大であり、企業内における各部署のリーダーもまた同様である。トップはあらゆる利害関係者の要求に配慮し、部門間の調整を行う。人材を育て、組織の将来に明確なビジョンを示し、挑戦的な目標を設定する。・・・

 (15)「全員参加」

 (16)「人間性尊重」

 (17)「教育・訓練の重視」以上17項目。

 「品質管理」という言葉は、企業等においては「安全管理」と同様にありふれて使い古された言葉のようにさえ感じるかもしれないが、企業の存続のベースとなるもので、これなくして企業は成立しない。それでいて大きな問題が起こらない限り、日常での認識は薄い。「安全」はまだ分かりやすいが、品質管理という言葉はよく聞いてはいるが、何なのかと問われると一言で説明するのはやっかいだし、よく分からないと答える人がほとんどではないか。

 これら17のTQMの原則を繰り返し読み返してみれば、ぼんやりと品質管理というものが分かってくるのではないか。この概念を捉えることで、企業での仕事がよりよいものに変わるのである。





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今またTQMを考える 第3回

2018年05月08日 | ブログ
TQMの原則

 ここでも中條武志、山田秀両氏の編著による、日科技連出版社「TQMの基本」2006年刊から「TQMでの基本原則」を引く。以下『 』内は直接の引用である。

 (1)「マーケットイン」、まず品質管理の王道である顧客重視がくる。プロダクトアウトと対を成す言葉で、生産者側の技術や都合で製品を作ってもなかなか顧客には届かない。常に顧客の視点から組織の活動を見直し、改革することが必要であるという考え方である。ただ、顧客も自身何が欲しいのか分かっていないことも多く、市場に登場した今までにない商品に飛びつくことはよくあることで、顧客の潜在意識にまで視点を伸ばすことが、真のマーケットインとなる。

 (2)「後工程はお客様」。『顧客と直接接触のない部門では、顧客の声を直接聞く機会が少ないためにマーケットインの考え方が薄れ、プロダクトアウトになりがちである。後工程をお客様のように考え、後工程の立場に立って担当業務の出来栄えを評価する考え方』。

 (3)「品質第一」。『売上向上より、原価低減より、効率向上よりも品質を第一に取り上げ、質の向上、すなわち顧客のニーズに合った製品・サービスの提供およびそのための技術の確立を最優先させていく考え方』。これが結局不適合品の低減につながることで、原価は低減し、生産の効率化にもつながり、信用が増して売上げも向上する。

 食品会社の産地偽装や賞味期限改ざん、建築会社の耐震性偽装によるコスト削減などあってはならないことが過去には何度も起きている。「品質第一」はそれらを防止するための警句でもある。

 (4)「プロセス重視」は、『結果のみを追うのではなく、結果を生み出すプロセス(仕事の仕組み・やり方)に着目し、これを管理し、向上させる考え方である』。

 (5)「標準化」。組織は通常多人数で構成されるが、構成員各人が勝手に行動すると結果にバラツキを生じることは当然である。結果が良くなり効率的なやり方を標準として定め、文書化し、これを遵守することで継続的に良い結果を得る。標準を文書化しておくことで、新たに組織に加わった者への技能伝承に役立つ。標準書にはなぜそのように行う必要があるのかまで書き込むことで、読む者の理解を深めることになる。また定めた標準書は絶対的なものではなく、適宜加筆修正も必要である。これをPDCAに模してSDCAと呼び(S:標準)、日常管理において重要視している企業もある。

 (6)「源流管理」

 (7)「PDCAサイクル」

 (8)「再発防止」。起こってしまったトラブルは仕方がないが、同じようなトラブルを二度と起こさないように、“トラブル解析シート”などを使って再発防止処置を行うこと。「なぜ」「なぜ」「なぜ」の「なぜ」をトヨタは3度でなく5度繰り返すと言われているが、表面的な問題ではなく、真の原因に対策を打たないと繰り返すという考え方である。また例えば問題を‘歩留まりが悪い’という括りでは原因探索に不十分で、歩留まりを悪くしている種々の不具合を分けて考える(「分けることは分かること」)必要である。その不具合毎に原因は異なり、原因毎に対策は異なってくるのである。続く。



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今またTQMを考える 第2回

2018年05月05日 | ブログ
TQMの手法

 中條武志、山田秀両氏の編著による、日科技連出版社「TQMの基本」2006年刊から「TQMで用いられる代表的な手法」を引く。ここでは、活動要素を<新製品開発管理・プロセス保証>、<方針管理・小集団改善活動・品質管理教育>及び<標準化・日常管理>の3つとし、それぞれに手法とその概要を示している。

 手法には、<新製品開発管理・プロセス保証>には「品質機能展開(QFD)」、「FMEA・FTA」及び「工程能力指数」があり、<方針管理・小集団改善活動・品質管理教育>では、「改善の手順」、「QC7つ道具」、「統計的方法」及び「言語データ解析法(新QC7つ道具)」、<標準化・日常管理>に「プロセスフローチャート」(業務フロー図や品質保証体系図など)、「QC工程表」、「管理項目一覧表」、「工程異常報告書」、「作業標準書」、「エラープルーフ化」及び「能力・技能評価シート」を挙げている。

 これらの手法は勿論代表的なもので、2009年に日科技連出版社から出された「新版品質保証ガイドブック」には、第Ⅲ部品質保証のための要素技術として網羅的に解説されている。

 目次に沿って、羅列すると、「商品企画七つ道具」「感性評価手法」「品質機能展開」「QCストーリー(問題解決型、課題達成型)」「QC七つ道具」「新QC七つ道具」「統計的検定・推定」「実験計画法」「相関分析・回帰分析」「多変量解析法」「ロバスト設計」「デジタルエンジニアリング」「工程能力調査」「QC工程表による工程管理」「シューハート管理図」「検査技法」「ソフトウェア設計技法」「デザインレビュー」「FMEA」「FTA」「故障解析」「製造物責任」「クレーム管理」「標準化」「人・教育」「作業管理」「設備管理」「資材管理」「計測管理」「品質監査」などとなる。

 大企業の品質管理のスタッフといえど、一人でこれらすべてに精通することは難しく、製品開発部門、設計部門、生産部門、検査部門など分業体制でそれぞれのスタッフが分掌することになるのが一般的であろう。それぞれにスペシャリストが必要であり、さらにこれら全体を概念的に把握するジェネラリストこそが必要である。

 ただ、当該ジェネラリストもどこかの分野のスペシャリストであることが望ましいことは当然である。周辺技術への深い洞察は、自身の専門分野への高い専門性がないと難しいからである。総括者その人のレベル以上に組織は成果を発揮しえない。

 TQMの多くの手法の中でもっとも大切な手法は何か。それは「人・教育」である。まず自身の仕事を改革し、時代と共に組織を革新してゆける人材の発掘と育成が最重要である。そのためには、職場風土に始まり、外部人材であれ内部の上司または先輩であれ、教育指導者こそが重要となる。
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今またTQMを考える 第1回

2018年05月01日 | ブログ
TQCとTQM

 1990年代の半ば頃からTQCと呼ばれていた企業における品質管理活動が、TQMと呼ばれるようになった。その違いについて、簡単に言えば、ものづくりのための品質を良くするための管理手法であったものが、経営にまで踏み込んだ管理手法となったことである。「品質経営」などと言う言葉が聞かれるようになり、結果品質管理活動そのものが霞んだ。

 TQCとTQMでは、基本的な部分は変わっていないが、方針管理が入ってきたことが大きい。方針管理は大きな組織、企業にあって、トップの経営方針を現場第一線の従業員にまで浸透させるための手法であるが、ISO9000における要求事項にも添ったものであり、方針管理を行うことでISO9000の要求事項の多くの部分に適合できるのである。それはISO9000がわが国のTQCを研究し取り入れた結果でもある。

 方針管理は元々大企業向けの感があるが、中小企業に適用して何ら問題はない。それどころか、中小企業では組織階層が少ない分、展開の必要が少なく行いやすいとさえ言える。

 『方針管理を一言でいえば・・・組織の使命・理念・ビジョンに基づき、だされた方針を達成するために、職位・職能に応じて方針を整合した形で策定・展開し(Plan)、それを実施し(Do)、結果とプロセスの確認を行い(Check)、必要な処置をとる(Act)組織的な活動』日科技連出版「TQMの基本」2006年、中條武志、山田秀編著より

 要は、課題解決のために目標を定め活動し、活動の過程で適宜検証を行い、必要な新たな行動につなげる。すなわちPDCAをまわすことである。最近、黒字経営のためには「経営計画書」が必要であるといわれるようだが、まさにその計画を着実に達成するために実施後のチェック、アクション(アクト)が必須なのである。また目標を達成するためには具体的な方策が必要なのである。

 前述の通り、TQM(総合的品質管理)の基本はTQC(全社的品質管理)と変わることなく、顧客第一であり、設計から原材料メーカー、外注先、自社のすべての部門の全員参加であること。人間尊重であり、従業員教育こそが重要であると言われるが、TQMではそれが単に製品品質の向上に留まることなく、働く人の仕事品質、経営そのものの品質向上でなくてはならない。長期的な経営向上に結び付かなくてはならないのだ。

 最近「働き方改革」が政府主導で呼びかけられているが、数々の工業製品で世界最高レベルの品質を達成した日本であるが、それは労働生産性が欧米先進国に比べて低い*1)と言う犠牲の上で成したものだったことになる。TQMでは、労働生産性まで改善してこそ真価と言えるのではないか。



*1)OECD加盟35か国中、日本は20位(製造業に限れば、14位)。全体で1位アルゼンチンの約半分、6位米国の3分の2(2016年)
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