周辺国の風景(下)
日経ビジネス2016.01.18号に寄稿されている米ハドソン研究所中国戦略センター所長、米国国防省顧問であるマイケル・ピルズベリー氏の中国論(覇権狙う中国の言動を見誤るな))の前稿からの続きである。
『・・・自らの野心を隠し、実力を低く見せ、相手に警戒心を起こさせない。そして相手が油断している間に注意深く動き、その技術、知財、善意などすべての力を利用してナンバーワンになる――。これが中国の戦略なのだ。この戦略は500年にわたって政治闘争が続いた春秋戦国時代や三国志の時代の先人たちの学びを基にしている。
米国の政治家はじめ、世界の多くの国が「脆弱な中国を助ければ民主的で平和的な大国になる」と信じ込んでいたのである。しかし、それは危険なまでに間違っている。われわれは中国観を変えなくてはならない。
しかし、肝心の米国政府は中国観を変えていない。2016年に誰が大統領に選ばれても、米国は中国に莫大な投資を行い、中国の輸出を容認し、政府や公の組織による技術の盗用を見て見ぬふりをして、中国の支援を継続するであろう。
・・・中国は後進的でも脆弱でもない。米国や日本は目を覚ますべきである。中国と彼らの戦略をよく知る必要がある。・・』
加えて『中国の経済成長率は今後も6~7%を維持し、それは米国の成長率1.5%の4倍のスピードであり、中国の狙い通り100年マラソンに勝利するであろう』。ともあるが、中国の今後の経済成長率については先のことでもあり、異論のあるところ。これまでに公表されている統計の信ぴょう性も疑わしい国であるという論もある。さらに結論として、『民主化を進め、人権を尊重し、重商主義的な貿易政策をやめるよう中国に働きかけなくてはならない。中国内の真の改革派を見分けた上で、そういう働きかけを続ければ、2049年までに中国は今とは違う中国になっているかもしれない』。と述べている。この結論であれば、従来の対中国戦略とほとんど変わることがない。他国からの働きかけで変わる中国でないことはすでにはっきりしている。しかし、これ以上の結論を現代人は公言しない。
ピルズベリー氏の論評だけでなく、誰の世界観であろうがすべて正しいなどということはなかろうが、ただ、ピルズベリー氏が中国に対して正鶮を射ていると思われるのは、『自らの野心を隠し、実力を低く見せ、相手に警戒心を起こさせない。そして相手が油断している間に注意深く動き、その技術、知財、善意などすべての力を利用してナンバーワンになる――。これが中国の戦略なのだ』。という一節ではなかろうか。ただ、近年の中国はその野心を露わにし、米中で世界の覇権を分け合おうとまで公言している。習近平主席になって顕著だ。それだけ自信を深めているのであろう。
能天気なのは、世界の経済界である。自社を富ませるために必要であれば、覇権国家であろうが手を組みさらにのさばらせる。自社の世界戦略の中心に中国を置きながら、安倍首相の発言の言葉尻を捉えて、「まるで社会主義、あるいは戦前の全体主義国家に逆戻りだ」*8)とまで言う経営者がいると思えば、「(中国を訪問して)一番強く感じたのは、中国政府が経済の構造改革に本気で取り組んでいるということです。・・・中国政府は都市化を進めているが、その過程では、住まい、水、電気、交通など様々な問題が浮上します。対応には技術も必要ですから、我々には大きなビジネスチャンスがあると考えています」*9)。というわが国のトップ企業のCEOのコメントもある。
先般、インドネシアの高速鉄道でJRが煮え湯を飲まされたのは素知らぬ顔である。直接の軍需技術ではないにしても、小さなビス一本を作る技術であろうが、ミサイル開発や核爆弾製造に通じることはものづくりの常識である。なぜ、お宅に強盗に入るかもしれませんよと公言しているような国家に民生とはいえ、技術を供与しなくてはならないのか。戦後に生まれ、国家なき戦後教育しか受けなかった。多少の専門知識と英語が出来て、本人は実力と思っていようが、運よく登りつめた大会社の社長に国家観など期待することが間違っているのであろう。
*8)日経ビジネス2016.01.11号
*9)日経ビジネス2016.01.18号
日経ビジネス2016.01.18号に寄稿されている米ハドソン研究所中国戦略センター所長、米国国防省顧問であるマイケル・ピルズベリー氏の中国論(覇権狙う中国の言動を見誤るな))の前稿からの続きである。
『・・・自らの野心を隠し、実力を低く見せ、相手に警戒心を起こさせない。そして相手が油断している間に注意深く動き、その技術、知財、善意などすべての力を利用してナンバーワンになる――。これが中国の戦略なのだ。この戦略は500年にわたって政治闘争が続いた春秋戦国時代や三国志の時代の先人たちの学びを基にしている。
米国の政治家はじめ、世界の多くの国が「脆弱な中国を助ければ民主的で平和的な大国になる」と信じ込んでいたのである。しかし、それは危険なまでに間違っている。われわれは中国観を変えなくてはならない。
しかし、肝心の米国政府は中国観を変えていない。2016年に誰が大統領に選ばれても、米国は中国に莫大な投資を行い、中国の輸出を容認し、政府や公の組織による技術の盗用を見て見ぬふりをして、中国の支援を継続するであろう。
・・・中国は後進的でも脆弱でもない。米国や日本は目を覚ますべきである。中国と彼らの戦略をよく知る必要がある。・・』
加えて『中国の経済成長率は今後も6~7%を維持し、それは米国の成長率1.5%の4倍のスピードであり、中国の狙い通り100年マラソンに勝利するであろう』。ともあるが、中国の今後の経済成長率については先のことでもあり、異論のあるところ。これまでに公表されている統計の信ぴょう性も疑わしい国であるという論もある。さらに結論として、『民主化を進め、人権を尊重し、重商主義的な貿易政策をやめるよう中国に働きかけなくてはならない。中国内の真の改革派を見分けた上で、そういう働きかけを続ければ、2049年までに中国は今とは違う中国になっているかもしれない』。と述べている。この結論であれば、従来の対中国戦略とほとんど変わることがない。他国からの働きかけで変わる中国でないことはすでにはっきりしている。しかし、これ以上の結論を現代人は公言しない。
ピルズベリー氏の論評だけでなく、誰の世界観であろうがすべて正しいなどということはなかろうが、ただ、ピルズベリー氏が中国に対して正鶮を射ていると思われるのは、『自らの野心を隠し、実力を低く見せ、相手に警戒心を起こさせない。そして相手が油断している間に注意深く動き、その技術、知財、善意などすべての力を利用してナンバーワンになる――。これが中国の戦略なのだ』。という一節ではなかろうか。ただ、近年の中国はその野心を露わにし、米中で世界の覇権を分け合おうとまで公言している。習近平主席になって顕著だ。それだけ自信を深めているのであろう。
能天気なのは、世界の経済界である。自社を富ませるために必要であれば、覇権国家であろうが手を組みさらにのさばらせる。自社の世界戦略の中心に中国を置きながら、安倍首相の発言の言葉尻を捉えて、「まるで社会主義、あるいは戦前の全体主義国家に逆戻りだ」*8)とまで言う経営者がいると思えば、「(中国を訪問して)一番強く感じたのは、中国政府が経済の構造改革に本気で取り組んでいるということです。・・・中国政府は都市化を進めているが、その過程では、住まい、水、電気、交通など様々な問題が浮上します。対応には技術も必要ですから、我々には大きなビジネスチャンスがあると考えています」*9)。というわが国のトップ企業のCEOのコメントもある。
先般、インドネシアの高速鉄道でJRが煮え湯を飲まされたのは素知らぬ顔である。直接の軍需技術ではないにしても、小さなビス一本を作る技術であろうが、ミサイル開発や核爆弾製造に通じることはものづくりの常識である。なぜ、お宅に強盗に入るかもしれませんよと公言しているような国家に民生とはいえ、技術を供与しなくてはならないのか。戦後に生まれ、国家なき戦後教育しか受けなかった。多少の専門知識と英語が出来て、本人は実力と思っていようが、運よく登りつめた大会社の社長に国家観など期待することが間違っているのであろう。
*8)日経ビジネス2016.01.11号
*9)日経ビジネス2016.01.18号