中小企業診断士 泉台経営コンサルタント事務所 ブログ

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質管理のための人材育成第10回

2015年04月28日 | ブログ
人材育成のQCサークル活動

 問題解決の実践が大切であると同時に、潜在的な問題を発掘する能力も非常に大切で、常に問題意識を持った人材の育成が必要である。日常管理業務(顕在化した問題解決)にしても方針管理業務(課題達成の問題解決)にしても、従業員にすれば当初から与えられた任務であり、潜在的な問題を掘り起こすまでの能力を主業務で求められるのは、企画部門などに配属されるか、ある程度の地位に昇格してからのことが多い。

 例えば米国GE社などは、将来の幹部候補生に対して徹底した経営管理教育を行うと聞く。座学だけでなく、実際の業務の中でも若いうちから大きな責任を背負わせて、成果を出した者に次のステップを準備する。

 ただ、一般の従業員すべてにそのような教育カリキュラムは組めない。しかし、わが国においては、職場の身近な改善をグループで行うQCサークル(小集団)活動が、結果として問題の発掘や解決能力育成の場として活用され、実績を上げたことは周知である。

 QCサークル活動では、仲間との協働を通じて、コミュニケーション能力が高められる。主業務では経験し難い階層の従業員にも、リーダーが経験できる。QCストーリーに沿って、テーマ選定のため、職場の問題点を考える習慣が身につく。改善手法を駆使して現状把握、対策立案の過程で問題解決法を学ぶ。発表会に向けて、プレゼンテーション手法も身につけ向上させることができる。座学だけでは中々会得できないこれら多くのスキルが体得できるのである。

 まさに『QCサークル活動は、自己啓発と相互啓発を醸成する有効な実践的教育手段といえる』のである。

 『QCサークル活動がもつ六つの人材育成要素をまとめてみると、①職場における問題意識の高揚、②創意工夫の醸成、③自己啓発と相互啓発の発揮、④自主性を磨く、⑤グループとしての行動(グループのメンバーが同じ目標をもち、同じ行動をとることで、個人としての活動の限界から一歩レベルの高い意識と考え方を身につけることになる)、⑥全員参加の意識』である。

 また『QCサークルを実践するために必要な要件としては、次の9点をあげることができる。①質第一(製品やサービスを提供する活動は、常に消費者やお客さまの立場に立った質を第一に考えた行動が最優先されるべきである)、②PDCAサイクル、③重点志向、④プロセス管理(よい仕事のやり方の定着)、⑤後工程はお客様、⑥事実による管理、⑦ばらつきの管理、⑧再発防止、⑨標準化』

 QCサークル活動は、わが国では1980年代頃が一番盛んであったように思うけれど、その後、続けておればマンネリ化もあろうし、飽きもある。自主的活動とはいえ、業務の一環ではないかとの超過勤務扱いにしないことが問題となったりした。発表会におけるプレゼン手法優先で、実効がどこまで伴っているのかとの疑問の声も聞かれたりすることもある。しかし、どのような制度やシステムも運用次第で好悪が分かれるところがある。時代とともに変えるところは変えながら、良いところを残し、継続して貰いたいし、やっていない所はぜひ始めて欲しいものである。




本稿は、岩崎日出男氏編著「質を第一とする人材育成」(JSQC選書) 2008年9月8日、日本規格協会刊、第8章を参考に編集し、『 』内は直接の引用(一部編集)です。
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質管理のための人材育成第9回

2015年04月25日 | ブログ
実践力

 前稿に『問題解決を実践する力とは、新しい情報に基づいて、真の原因をつかまえ迅速に行動を展開し、発生している問題を解決していく能力のことをいう。・・・』ことを紹介したが、この先三段論法ではないが、『・・・この能力を身につけるためには、問題を解決するための基本的な手順を熟知しておかなければならない。・・・』となり、「ここで必要な能力は」、①問題点把握力から⑧計画立案力まで8項目にのぼることが挙げられると、はじめの実践力そのものがぼやけてくる。

 実は、人それぞれの能力の総和にはそれほど大きな差はなく、常に「やる」のか「やらない」かの差の方が多いのではないかと思えたりする。その積み重ねが実は能力差となってゆく。能力差は都度実行するかどうかにかかっているように思うのである。いくら前述の①から⑧の能力を持っていたとしても、うまく使わなければ知らないことと変わりはしない。

 実践力とは、まさに実行力、前向きの行動力が伴ってこそ意味がある。「ガッツが大切」といえば精神論に走るように聞こえるけれど、実際の現場ではその精神力こそが実現のために重要な因子となる。勿論「段取り8分」と聞くように、物事の実現には、綿密な事前準備に占めるウェイトが高い。実はこの段取りの中に、知識や技能が含まれる。そのベースがあって後の2分は精神論でいいのではないか。

 似たような言葉も、表現が違う分意味も微妙に異なってくる。実践力と実行力も似ているが当然異なる。「実践」とは目的達成のためのプロセスを含み実行することであり、「実行」は行動そのものである。すなわち実践力には行動のための指針となる知識や技能を含むが、実行力は他人に命じられるままに行うということもあり、必ずしも知識や技能を含まないこともあり得る。

 昔、行政機関で「すぐやる課」などが流行ったことがあった。ということはそれまでは、すぐにやらないことがいかに多かったかということである。書類を整えることに汲々として、肝心の現場での実践、実行が疎かになっていたのである。それは業務の質が低いことを意味し、そのような組織は人材育成が十分ではないと言える。所謂組織の「官僚化」であり、コスト意識の喪失であり、大企業病である。

 そのような組織では、周囲の怠慢に反してガッツに働く人は敬遠されたりする。リーダーは全体の和を重んじ、自らの仕事も増やしたくない思惑もあって、一般多数の従来通りの無難な職場を指向したりする。このような職場風土が蔓延すれば、利益を追求することの必要のない税金からの予算で成立する組織ならいざしらず、民間企業であれば、いかに今は大企業であっても遠からず凋落する。

 実践力を鍛えるためには、組織の、現場リーダーの部下への正しい評価が必須である。汗を掻くことを厭わない社員を評価すること。それによってすぐに動くことに価値を見出し、前向きで実践力のある組織文化が形成されてゆくのだ。そのことが質管理の人材育成の真骨頂である。



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質管理のための人材育成第8回

2015年04月22日 | ブログ
人材育成の本質(2)

 「問題の解決の実践こそ人材育成」であるなら、問題解決を実践する力とは何か。「質を第一とする人材育成」(JSQC選書)には、次のような記述がある。

 『問題解決を実践する力とは、新しい情報に基づいて、真の原因をつかまえ迅速に行動を展開し、発生している問題を解決していく能力のことをいう。この能力を身につけるためには、問題を解決するための基本的な手順を熟知しておかなければならない。・・・』

 問題を解決するための基本的な手順とはすなわち「QCストーリー」と呼ばれるものであり、ここで必要な能力は、①問題点把握力、②現状分析力、③目標設定能力、④解析力、⑤対策案設定力、⑥効果確認力、⑦標準化力、⑧計画立案力である。

 ②と④の違いは、②の現状解析は、問題の程度、すなわちあるべき姿と現状の差(ギャップ)を的確に把握するための分析であり、④の解析は、問題の要因の解析である。いずれも有効なデータを収集し、QC7つ道具や統計的手法を活用する能力が問われることは共通している。

 ここに上げた8つの能力はいずれも大切であるが、②や④は特に重要であり、②は最重要である。現状を正しく認識しなければ、その対策も的外れなものになる恐れが強い。現場主義とか三現主義(「おまえ、あそこ行ったか俺は行ってきたぞ」「者に聞くな物に聞け」-トヨタの口ぐせ-)*2)とか言われるものも結局この現状を正しく把握するためのものである。

 ④の要因解析では、なぜなぜを繰り返して真の原因を追及することが求められる。ただ、左翼系政党や文化人、マスコミを先頭とした論調のように、根本原因を取り除くとして、東日本大震災による原発事故を受け、原子力発電そのものを全て停止しろというのは論理の飛躍であり、建設的な意見ではない。あの事故は原因不明で起こった事故ではない。津波によってその送電システムが破壊されたことによって原子炉への冷却水供給が停止したことで起こったのである。想定される地震や津波によってもけっして冷却水が停止しないシステムとすることが対策として求められるのである。

 ドイツはわが国の原発事故を受けて、原子力発電をすべて止めると決めたではないか、わが国も現在の与党が決めれば実現可能なことだというのも、現状を正しく認識した論理ではない。なぜならドイツとわが国ではエネルギー状況が全く異なるし、経済状況も違う。ヨーロッパの国々は、電力供給を隣国からも受けることが出来る。またユーロ圏においては、ギリシャやイタリア、スペインなど国家財政の危機的状況にある国が多いため、ユーロは値下がりし、元々ものづくりに比較優位を持つドイツの工業生産品は、輸出に非常に有利な状況である。ヨーロッパはドイツの一人勝ち状態と聞く。他国の為政者の人気取り政策に同調する必要はない。

 原子力発電を持ち出すまでもなく、政治・経済・社会関連の現象においても品質管理の考え方は正しい導きを与えてくれるのである。




*2)「トヨタの口ぐせ」株式会社OJTソリューションズ編著、株式会社中経出版2006年10月第一刷

 本稿は、岩崎日出男氏編著「質を第一とする人材育成」(JSQC選書) 2008年9月8日、日本規格協会刊、第9章を参考に編集し、『 』内は直接の引用です。
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質管理のための人材育成第7回

2015年04月19日 | ブログ
人材育成の本質(1)

 「質を第一とする人材育成」(JSQC選書)では、人材育成の本質を「問題解決の実践」と明言し、その第9章の表題は、そのまま「問題の解決の実践こそ人材育成」としている。

 それなら「問題」とは何か。それは“あるべき姿と現状の差”と定義される。日常管理において発生したトラブルは、維持すべきあるべき姿から悪化した状態である。これを速やかにあるべき姿に復帰させる能力がすなわち問題解決能力となる。

 これが、方針管理における課題解決型の問題では、あるべき姿は現状の上位にある。すなわち現状からの改善か改革か、はたまたイノベーションによって、現状を打破して高みに至るところにあるべき姿を置く。この現状レベルとの差が問題である。

 この課題解決型の問題解決には高度な知識やその応用力が問われることも多く、一般の従業員には困難な分野とも思われがちであるけれど、勿論基本的な最低限の専門知識は必要であろうが、知恵を組み合わせての根気強い取り組みによっては革新的課題を解決できることもある。

 問題にはまた、顕在化されている問題と潜在する問題がある。日常管理業務におけるトラブルや不具合の類は顕在化して発見されるが、問題でありながら見過ごされているものは無数にある。

 分かり易い例を上げれば、福島第1原発の設備は15m程度の津波の被害を受けるほど低地にあるべきではなかった。そのこと自体が大変な問題であったのだ。もっともこれは一部には事前に指摘があったものの改善がされていなかったものらしい。技術的に不可能な課題では全くなかった。場所を移動できなければ、後付けの浜岡原発ではないが、巨大な堤防を築けば良かった(浜岡原発に設置中の防潮堤は、津波に耐えられないのではないかという懸念の声もあるが)だけのこと。この事故のためにすっかり原発そのものが悪者にされてしまった。関係者の責任は重大である。

 このような例は交通事故対策にも多い。信号機がないから危ないと思われている交差点。立体交差ができないことによる鉄道の踏切。一方、鉄道駅のプラットホームドアは東京山手線など徐々に設置が進んでいる。やれば出来るのだ。予算との関係もあろうが、関係者の無為な先送りで、一体これまで幾人の尊い人命が失われたことか。

 学校での勉強は、学問体系に沿って行われていると承知しているが、実務における模擬的な訓練的要素も強く、秀才は単に記憶力や試験要領が良いだけで、創造力は担保されず、実社会で通用しないケースが多いという、現在の教育システムの不備を批判する意見も聞くけれど、やはり学校の秀才と実社会での適応にはそれなりの相関関係が成立するものと思う。要は秀才とは、先生の話を聞いても、教科書を読んでも要点に対する勘どころがいいのだ。もっとも相関性とは100%でない限り、落ちこぼれは当然にあり、高学歴のインテリが社会で通用しない。すなわち実社会での問題解決能力の乏しい人も多いことも事実。だからこそ、学校での勉強に加えて品質管理教育が必要なのである。それがまた人材育成の本質なのである。




本稿は、岩崎日出男氏編著「質を第一とする人材育成」(JSQC選書) 2008年9月8日、日本規格協会刊第9章を参考にしています。
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質管理のための人材育成第6回

2015年04月16日 | ブログ
人材育成(評価)システム

 人材育成に必要なシステムには、長期的な技術戦略や人材育成の教育体制の整備と共に、質技術に限らないのだけれど、その伝承者に対する貢献や有用な技術保有に対する評価システムがなければならない。

 取引先などから得た情報を、自身で抱え込んで共有化しないような人物が組織の中で幅を利かせるようなことがあってはならない。自分の知見を周囲に教えることで、自身の立ち位置が浸食されると考えるのかどうか、なるべく周囲に自分のノウハウを伝えたがらない輩も同様である。組織の構成員は、どのような人物が上司から評価されているかを敏感に感じ取り、自然にその色に染まるものだ。技術伝承に積極的な人物が評価されることで、協働し共有する組織文化が形成されてゆく。

 評価方法には、昇給・昇格などの他、「マイスター」などの称号を与えることもモチベーションアップにつながる。すなわち社内で必要な技能に対して、認定制度を設ける企業は多い。また従業員個人が所有する各種資格などの一覧を職場に表示(従業員スキルの可視化)することも有資格者への顕彰となるし、職場に必要でありながら有資格者が不足していることを「見える化」出来、資格取得促進に有効である。企業によっては必要な資格取得を直接給与や昇格・昇進に反映するところもあるようだ。

 教育制度などを人材育成システムとするからには、単にこのような制度を導入します。だけでなく、その制度の運用面のルールを確実にすることが重要である。すなわち、所轄部署でのシステムの運用責任者を明確にし、何を、誰が、いつまでに、どのレベルまで実行するのか、そしてその効果の確認まで行うこと。すなわちPDCAを廻すことでシステムは有効となる。

 評価については、社内の部署によってその所属長によるばらつきが大きくてはシステムへの信頼性が乏しくなる。所属長の裁量はある程度認めるにしても、組織として最低のガイドラインの設定(標準化)は必要である。

 そして、これらのシステムや評価のガイドラインは社内で共有化されることが必要である。そのためには、階層別・分野別教育体系図を作成すること。その内容を中長期計画と年度計画に確実に反映することが必要である。

 また評価のガイドラインには、例えば品質管理(QC)検定レベル1級~4級などそれぞれにレベルの目安を成文化することと、そのレベルに達すれば、企業内の昇進(役職名)・昇格(役職の目安となる社内等級)とどのようにリンクするのかも目安として成文化しておくことは必要かもしれない。ただ、例えば英語検定何級とかTOEICテスト何点以上などは明解なのに対して、「ISO9000を理解していること」など曖昧な表現をガイドラインに用いて、数値化できる指標と同等のように扱うのは避けた方がいいように思う。

 特に人材評価は従業員に納得性の高いことが、その育成制度を支える重要な因子である。時流に流されず、自社のポリシーに照らして長期的な視点でシステムを構築することが重要である。



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質管理のための人材育成第5回

2015年04月13日 | ブログ
なぜ、質管理技術者は育たないのか

 質管理技術者に限らないであろうけれど、多くの企業は人材育成に何らかの危機意識を持っているといわれる。最近はわが国でも労働市場の流動化が聞かれ、折角人材育成投資を充実しても、育った人材が転職すれば無駄になってしまうと考えられること。特に海外進出し、現地従業員を対象にした場合にその懸念が大きい。

 しかし、ある企業では、海外工場の外国人従業員も一定数を毎年日本に招いて、日本人と一緒に合宿訓練を実施しているという。その受講生は計50名程度に上っているが、転職者はゼロであると話していた。企業の労働条件にもよるのであろうが、企業内教育においても企業側が真摯に従業員と向き合えば、どんなドライな従業員だって、そう簡単にその企業を見限るものではなかろうと思う。

 技術伝承については、団塊世代の大量定年退職が始まった「2007年問題」などが話題になったけれど、それ以前から、景気変動に合わせた企業の新規採用数の調整の繰り返しで、社員の世代間に断層が生じていたことも問題視されていた。

 ITの急速な発展・普及によって、若手社員とベテラン社員が同じ土俵で評価し難くなったようなこともある。グローバル化も影響する。外国語に堪能でなければ管理職には登用しないというような人事制度も幅を利かせる。単なる計算やコミュニケーションのツールが重要視されると、肝心の本来の現場力が軽視され、伝承されずに消えていく懸念も大いに有り得るのである。

 ITの発展・普及ではまた、車や家電品を始めとして、電子制御の部分が非常に多くなり、謂わばブラックボックスと呼ばれる部分が多くなったし、電子制御部品で生じる不具合には予知せぬことが多い。バグをすべて潰すことは不可能とさえ言われるからである。ここら辺りの知見では技術継承を担当すべき一般のベテラン層もお手上げのところがあるのではないか。

 グローバル化の面では、品質向上に寄与するものではないISO9000対応に追われ、従来の改善活動が疎かになった時期が続いた。また系列メーカーから調達される部品であれば、仕様書に表現し難い暗黙知の部分にも作り込みが成されることが多いが、海外現地メーカーからの部品調達ではそうはゆかず、暗黙知にしても可能な限り具体的に仕様書に盛り込むための対応が必要となった。すなわち品質を確保するための技術が高度化しているのだ。

 米国企業などの影響から短期的な業績評価が経営者に向けられる傾向も人材育成にマイナス要因だし、伴って生じる人件費の変動費化を進めるための派遣社員など非正規雇用者の比率を増大させていることも、人材育成から決して良い傾向ではないだろう。

 これらのマイナス要因を克服できる質管理技術者を養成することは容易ではないが、いつの世も問題は尽きないものだ。問題の質が時代とともに新しくなるだけである。対処するための基本は同じではないか。問題から目を逸らさず、真摯に向き合うこと。経営者が質管理を第一と考えることに尽きるのではないかと思う。




本稿は、岩崎日出男氏編著「質を第一とする人材育成」(JSQC選書) 2008年9月8日、日本規格協会刊第4章、及び遠藤功氏著「「日本品質」で世界を制す!」2010年9月24日、日本経済新聞社刊からそれぞれの一部を参考にしています。
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質管理のための人材育成第4回

2015年04月10日 | ブログ
質管理の知識をどのように教えるか

 この課題について、「質を第一とする人材育成」(JSQC選書)では第5章に次のように述べている。

 『質管理技術者を育成するためには、それを目的とした教育プログラムを確立し、実践することが重要である。このプログラムには、個々の質管理技術者がもっている潜在的能力を引き出すための教育訓練、新しい質技術を創造し開発するための技法の教育訓練などが盛り込まれている必要がある。そのために、①質管理技術者育成に対する教育研修計画の中長期目標を設定する。②質管理技術者育成に対する教育研修体系を確立する。③質管理技術者育成に対する教育研修後の能力評価方法を確立する。』

 多くの大企業には恐らく①と②には整備されているように思う。難しいのは③である。私の経験からしても、社内外でいろいろな研修を受けたが、その成果を問われることはなかった。ただ、管理職になってから社外研修を受講した際は、自主的にその内容を報告書にして職場内に回覧するようにした。知見を職場内に共有する効果を期待したものだが、報告書作成の過程で、講座内容を反芻することになり、自分自身の研修成果につながったように思う。研修受講後に能力向上評価として、試験をするわけにもゆかまいから、しっかりとしたレポート提出を義務付けるくらいの必要はあると考える。

 質管理教育に限らないが、企業内教育では階層別教育が中心である。すなわち『階層区分を、経営トップ層、部課長層、係長・職組長層、中堅社員層、新入社員層などとし、事務系か技術系かにもよってその職種に応じたカリキュラムを組む。』

 カリキュラムの中身としては、社内で行うOJT(日常業務の中で教育を行う)やOff-JT(業務を離れて教育を受ける)としての社内講座と社外での講座を受講するものがある。

 『特に経営者層には、社外で開催される経営者向けの質管理教育への積極的な受講が望ましい。他企業の経営トップ層と交わる機会でもあり、自社の質経営のあり方を再認識することにつながるからである。

 部課長層には、上位方針を正しく理解し、自部門への展開が的確にできる能力を身につける教育が必要である。日常管理と方針管理のマネジメントシステムを運用する能力が求められている。

 また技術系の管理職には、開発や生産現場から収集される質データを統計的解析する能力や問題解決のやり方を部下に指導する能力を身につける教育が必要となる。

 一般社員には、QCサークル活動などを通じて、QC7つ道具の活用による問題解決の実践を通じて、統計的解析や実験計画法、質管理の推進方法などを易しいところから学んでゆけるカリキュラムが有効である。』

 中小企業の場合、従業員数も少なく、日々の仕事の中で教育に割ける時間もなく、教育投資も難しいと考えがちであろうが、そこは工夫次第である。個人の通信教育などに補助する方法もあり、業務に必要な各種資格取得など、自己研鑽を手助けする形で進める方法もある。中小企業こそ従業員教育に注力すべきと思う。



本稿は、岩崎日出男氏編著「質を第一とする人材育成」(JSQC選書) 2008年9月8日、日本規格協会刊、第5章を参考に編集し、『 』内は直接の引用です。
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質管理のための人材育成第3回

2015年04月07日 | ブログ
質管理として何を学ぶか

 人材育成というが、では質管理のために何を教え、何を学ばなければならないのか。「質を第一とする人材育成」(JSQC選書)第3章に、「学び教えなければならない質管理技術」として18項目を上げている。

 質管理のための技術18項目とは、

 ①各種要素技術と量産化技術
 ②量産化に向けての質確保の技術
 ③課題・課題解決に必要な技術
 ④標準化・マニュアル化の技術
 ⑤設備保全や設備劣化診断、余寿命診断及び予測の技術
 ⑥TQM推進の技術
 ⑦開発・設計段階での質評価技術
 ⑧質情報システムのIT
 ⑨外注管理及び協力会社の質確保に関する技術
 ⑩検査の設計や製品評価に関する技術
 ⑪市場ニーズの把握、市場トラブルへの対応技術
 ⑫質保証を仕組みとして運用する技術
 ⑬未然防止、故障解析などの信頼性技術
 ⑭質データに対する統計的解析技術
 ⑮固有技術を蓄積し、必要なときに活用できる技術
 ⑯製品要求を仕様化できる技術
 ⑰各種マネジメントの仕組みと運用に関する技術
 ⑱質を軸とした部門間調整の技術
である。

 これらの技術のすべてを、ひとり一人の質管理担当技術者が全て身に付けることは容易ではなく、恐らく分業として職場分けされ、それぞれが専門分野を担当することになるが、管理職レベルでは、このような技術があることは一通り知って、その概要は心得ておく必要がある。また、学問的な知識が必要な分野を所掌する職場では、採用時点から適切な人材を確保しておく必要もあるかもしれない。

 すなわち一般の従業員が業務上の経験によって身に付けてゆける技能と、専門知識に裏打ちされることが必要な技術は、分けて考えておく必要がある。担当者に専門知識が不足であれば、どのような方法かは兎も角、自己研鑽が必要であり、企業はその熱意のある従業員を始めとして投資する必要があるのだ。

 このため、企業として従業員の能力に応じた教育体系を構築し、計画的に人材育成を図ってゆくことが必要である。自助、共助、公助とは防災や社会保障の有効となる在り方の順序であるけれど、組織としての教育プログラムを確立する(公助に当たる)と共に、自己研鑽(自助に当たる)を促進するシステムと組織文化の醸成が必要なのである。


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質管理のための人材育成第2回

2015年04月04日 | ブログ
人材育成こそが質管理

 JSQC選書「質を第一とする人材育成」の第一章に「多様な人材の活性化」による企業価値の向上として、積水化学工業株式会社の2007年CSRレポートからの引用図がある。この図の頂点は、「事業の際立ちとCSR」、ポリシーは、従業員は「社会からお預かりした貴重な財産」であるという。その心は、「自己実現を目指した多様な働き方、安心して働ける職場」であり、それを具体的には「チャレンジの場づくり」「学び自ら成長する風土」「成果主義(成長・コミトメント)」とし、社内各部門における得意技を持つ専門人材として、「ビジネスリーダー」「高度な専門人材」そして「グローバル人材」の3つを上げ、それらが成長フロンティアを拓くとしている。

 企業は、このような人材育成に対する強い想いを持ち、それを実現するための確かな方策を掲げ実行してゆくことが重要である。人材こそがゴーイングコンサーン(継続企業)を支える唯一のものである。

 近年、質問題による不祥事が多発する根本原因として、質管理技術者の育成がおろそかになっていることが挙げられるという。その要因は、バブル崩壊後のマイナス成長で、企業が従業員への教育投資を控えたこと。派遣社員など非正規雇用者の比率を増大させていることなどが挙げられる。また不景気であればあるほど、いかにヒット商品を生み出すか、いかに売上を上げるかに血道を上げ、大切な今のお客さまを忘れる。ただでさえ目立たない地味な存在である質管理を主導する部署は、問題が発生しなくて当たり前と軽視される傾向があるのではないか。

 実は市場において自社製品が質問題を発生させていないということは、当たり前ではなく、関係者の大変な努力が積み上げられているのだ。その努力に正当な評価を与えず、教育投資を惜しんでいると、ある日突然その当然が瓦解する。

 「質管理は教育で始まり、教育で終わる」といわれているが、それは、質管理を直接担当する従業員だけを対象にするものではない。全員参加が原則であり、経営者から従業員一人一人までが、必要な教育を受ける必要がある。それぞれの専門分野の教育も大切だけれど、質管理教育を通じて、問題発見能力とその解決能力が育まれる。

 現在においても優良企業は、(一社)日本品質管理学会などに参加し、講師を派遣し、自社の活動を他企業に紹介している。恐らく当該企業には提供した何倍もの気付きが還元され、さらに高度な活動が展開される筈である。まさに優良企業ほど産学一体の切磋琢磨を呼び掛けているのである。そのような企業風土の中で、人は育ち質管理が充実してゆくのである。




本稿は、岩崎日出男氏編著「質を第一とする人材育成」(JSQC選書) 2008年9月8日、日本規格協会刊、第1,2章を参考に編集しています。
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質管理のための人材育成第1回

2015年04月01日 | ブログ
経営における質の重要性

 『なぜ近年、質問題による不祥事が多発するのか、それは、経営トップに質を重要視する意識が足りないからである。・・・
 ・・・近年多くの企業において質問題が頻発し、消費者や社会を裏切る結果となり、企業の存続すら危ぶまれる事態が発生している。・・・

 経営トップから現場の第一線までが、質を第一とする考え方を実践できる経営体質を確立しなければならない。そのために今一度、質を第一とする人材育成を考えてみたい。・・・』

 これは、2008年9月8日付けで日本規格協会から刊行された、岩崎日出男*1)氏編著「質を第一とする人材育成」(JSQC選書)のまえがき冒頭からの抜粋である。この本が出て、すでに6年以上が経過したけれど、現在においてこのような書物を出版したとしても、冒頭には同じような言葉が並ぶのではないか。

 免震ゴムのデータ偽装が大きな問題になっているし、少し前までは食品異物問題が連日報道されていた。昨年は車のエアバックにおいて最大手社製のエアバックに大量のリコールが出たことも記憶に新しいからである。

 製品にしてもサービスにしても、人から創出される。すなわち、製品やサービスの質は偏に人に依存する。そして企業の質管理は経営トップの仕事なのである。質管理のためには、その人材育成が必須なのである。

 経営学の巨人、あのP.F.ドラッカーはその著書「マネジメント」において、『企業の目的は、顧客の創造である。したがって、企業は二つの、そして二つだけの基本的な機能を持つ。それがマーケティングとイノベーションである。マーケティングとイノベーションだけが成果をもたらす。』と述べているが、マーケティングの4つの要素すなわち4Pと呼ばれるものの第一番目は勿論Product(製品)であり、その質レベルが顧客満足につながり市場を獲得する最大の要素なのである。製品(サービスを含む)が無ければ企業活動は成り立たないのである。

 ここからしばらく、上述したJSQC選書「質を第一とする人材育成」を基に、人材育成について考えたいと思う。



*1)岩崎日出男(1945- )氏、近畿大学理工学部機械工学科名誉教授、2013年デミング賞本賞受賞
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