中小企業診断士 泉台経営コンサルタント事務所 ブログ

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中小企業白書を読む第10回

2009年08月28日 | Weblog
イノベーションと人材で活路を開く

 この小題は、白書を読む第4回でも紹介したけれど、2009年白書の副題である。その白書は、「結び」で次のように述べている。

『米国発の世界的な金融危機が世界経済の減速を招き、我が国も輸出の大幅な減少等により景気が急速に悪化し、雇用情勢も厳しさを増す中、中小企業の業況や資金繰り等が大幅に悪化した。こうした状況を踏まえ、政府としては、中小企業に対する30兆円規模の資金繰り対策や、売上減少のしわ寄せを受けやすい下請け事業者への対策など、中小企業対策の実施に注力してきたが、我が国経済の先行きへの不透明感は強い。

 こうした厳しい経済情勢の下、中小企業は何が求められるのであろうか。

 20世紀の代表的な経済学者の一人であるシュンペーターは、1930年代の世界恐慌を目の当たりにしながらも、新たな事業に挑戦する企業家(アントレプレナー)の役割の重要性を強調した。不況期を、既存の事業で余剰となった経営資源の新たな結合を行い、経済成長の原動力になっていくという、動態的な過程と見ることもできよう。いわば企業家にとって、ピンチはチャンスでもある。・・・

 中小企業がイノベーションの実現に取り組んでいく上で、最も重要な課題を敢えて一つ挙げるとすれば、それは、中小企業で働く人材の意欲と能力の向上ではないだろうか。・・・』

 そして2009年白書は第2章第1節に「産業史を彩る中小企業のイノベーション」と題して、その象徴的な事例を紹介している。

 『「ソニー株式会社」は、1946年、東京通信工業株式会社として、資本金19万円、従業員約20名で創業した。「人のやらないことをやる」というチャレンジ精神のもと、小型トランジスタラジオやヘッドホンステレオの「ウォークマン」など、数々の日本初、世界初の商品を生み出し、「SONY」のブランドを世界中で確立した。続いて、「本田技研工業株式会社」。「セコム株式会社」、シュレッダーの「株式会社明光商会」。・・・』と紹介は続く。白書から外れるけれど、期せずして最初と2番目に並んだ二つの会社の創設者、井深大氏と本田宗一郎氏は無二の親友であったことは知られる。

 井深大氏の「わが友本田宗一郎」という文庫本(文藝春秋1995年初版)がある。その解説をエッセイストで評論家の秋山ちえ子氏が書いておられる。

『・・・私と井深さんの出会いは、井深さんの二女が障害を持っていたことから始まった。本田さんとも井深さんを通じて、福祉の仕事が最初の出会いであった。

 大分県別府市に身障者が働くユニークな社会福祉法人「太陽の家」がある。これを設立された整形外科医の中村裕(ゆたか)博士は、障害者も、人から憐れみや施しを受けるより、残存機能を活用し、失われた部分は機械、器具の開発で補うことで仕事をすべきだ。・・・身障者も社員として所得税、社会保険料を支払うということである。・・・「オムロン」の立石一真さんが真先に同意して下さった。井深さんは中村博士の創造性と実行力のある人柄に惚れ込んで「太陽の家」の良き支援者となり会長職も引き受けられた。勿論「ソニー・太陽株式会社」も実現した。本田さんは井深さんに誘われて見学された。「ホンダもこの仕事に参加すべきだ」の、本田さんの一声に「ホンダ・太陽株式会社」が誕生した。

 ・・・新しいコンピューターを駆使したシステムの中で身障者が働く姿には、新しい日本の産業開発につくされた方々の精神が生きていることを感じる・・・』

 普通「解説」に副題はあまり見ないが、秋山氏のそれには「見事な男の友情と信頼」と添えられている。
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中小企業白書を読む第9回

2009年08月25日 | Weblog
仕事のやりがいを求めて

 「企業は人なり」、「人は城 人は石垣 人は堀」。現代の企業組織にあっても戦国の世にも「人」こそ最重要といわれ続けているのだけれど、ほんとうに大切に思われているかといえば、上に立つ人の器量次第のところがある。

 経営学においては、組織論と共に人間研究の成果が企業組織に活用されてきた。19世紀末のアメリカで「テーラーの科学的管理法」が生まれたが、その後20世紀に入りメーヨー、レスリスバーガーを中心とするグループによる有名な「ホーソン実験」によって人間的側面の重視が謳われた。

 また20世紀も中半に入り、ハーズバーグによる「動機づけ-衛生理論」が生まれた。組織構成員のやる気を起こさせるものとして、仕事の達成感や承認、仕事への責任、昇進などを「動機づけ要因」として捉え、満たされなければ不満となってやる気を阻害するけれど、それが改善されたからといって積極的なやる気の基にはならないものが「衛生要因」だとし、給与や労働条件、作業環境などをあげている。

 2009年白書は、第3章「中小企業の雇用動向と人材の確保・育成」の第3節で、中小企業の賃金制度における「年功賃金と成果主義賃金」それぞれの狙いや従業員に与える影響を述べている。また第4節には「人材の意欲と能力の向上」についての調査レポートがある。

 まず、企業が正社員の賃金体系において重視している賃金制度を、企業の従業員数規模別に調べており、全体および製造業と非製造業分けてみても、「従業員規模の大きな企業ほど、年功序列を重視している企業の割合が高くなる傾向」と結論づけている。しかし、その差は数%で統計的有意と言えるのか微妙である。いずれも年功を重視する企業は3割から4割であり、成果給重視の傾向にあるようだ。しかし、社員の側は若干保守的で特に従業員301人以上の企業では年功序列重視が50%を超えている。

 企業が成果給を重視する理由としては、「従業員の意欲を引き出すため」および「人事評価の重要性や納得性を高めるため」の2項目で90%を超えており、その他の理由はせいぜい数%である。そして、成果給導入による従業員への影響の企業側の認識として「仕事に対する意欲が上がった」が50%を超えている。ハーズバーグ理論に当て嵌めれば、成果を認められた者にとってはやはり「やる気」の源泉となるということか。

 一方、成果給を重視した賃金体系導入にあたって、企業側も苦労している。多くの企業で「成果を評価するための制度の設計が難しい」と感じ、特に従業員規模の大きい企業ほど、その運用の難しさを感じている。私なども経験があるのだけれど、成果を出したことを直接の上司は認めてくれても、最終的には普通の評価にしかならないことばかりであった。目標管理制度なども体裁だけの形式になっている企業が大企業ほど多いのではないかと感じる。ノーベル賞の研究成果も、企業内から評価されていたわけではない事例があるごとくである。

 「働く人材の仕事のやりがい」について、白書はどう捉えているか。内閣府「国民生活選好度調査」60項目のうち「仕事のやりがい」の満足度をみている。1978年から2005年の間、仕事についての満足感を持つ者の割合は低下傾向にある。81年には31.9%の人が満足していたが、99年では16.1%に凋落。少しずつ景気が回復していた05年で16.6%となっている。その他「雇用の安定」、「収入の増加」や「休暇の取りやすさ」の項目もいずれも満足する人の割合を大きく下げている。まさに日本が元気だったイメージのある70年代から80年代が、数字で確認されている。

 それでは、正社員の仕事のやりがいの源泉は何か。大小企業を問わず、「賃金水準(昇給)」を一番にあげた割合(40%程度)が他を圧倒し、続いて「仕事をやり遂げた時の達成感」(18%程度)が続く。その他、「社内での評価」や「仕事を通じた自己実現」、「裁量の大きさ」などがあげられているが、昇進は昇給に水をあけられており、ハーズバーグ理論に少し反する気もするけれど、功名より実を求める現代勤め人気質の一端が伺われて面白い。
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中小企業白書を読む第8回

2009年08月22日 | Weblog
給与と労働分配率の推移

 先に、「雇用動向」ということで紹介した2009年白書の第3章「中小企業の雇用動向と人材の確保・育成」第1節には、企業規模別に正規、非正規社員の給与や労働分配率の推移も載っている。

 賃金は、中小企業に比べて当然大企業が高い。大企業の正社員は中小企業の正社員の3割近く高い賃金(38.3万円vs29.8万円)を得ている。しかしその格差は90年から07年の間あまり広がっていない(27.3%→28.5%)。また中小企業の19.5%は大企業の平均給与38.3万円を上回っている。一方非正規社員では、大企業と中小企業の間で給与差がほとんど見られない。そのため、大企業の正社員と非正規社員の給与差は一貫して3倍近いものになっているのに対して中小企業では2.5倍程度である。しかしこのデータには賞与が加味されていないため、正社員と非正規社員の格差はさらに大きいものであろう。

 これらを時給でみると大企業の正社員が90年の1,694円から07年2,187円に対して中小企業では1,232円から1,618円。また非正規社員では大企業の818円から1,154円に対して中小企業は759円から1,067円となっている。労働時間の関係で、正社員の大小企業格差は増大している。最終2007年は今回の不況期に突入しておらず、派遣切りも問題にならなかった時期のため、直近の格差は分からないけれど、小泉構造改革による格差拡大の批判は月額給与ベースで見る限りには当たらない。

 労働分配率ではどうか。これは中小企業が大企業を凌駕する。企業全体の平均値を83年から07年のスパンでみた場合、中小企業は65%から75%の間で上下しており、大企業は47%から52%程度の間で上下しているにすぎない。さらに大企業は97年から07年の10年で緩やかな下降傾向を示している。

白書から外れるけれど、今回の衆院選のマニフェストに労働者の最低賃金を1000円にしようというのが見られる。どうも根拠がわからない。非正規労働者に対する配慮から「上げればいい」で、思考を停止させているように思えてならない。労働分配率からして大企業には余力がある。東京と地方では元々賃金格差はある。都会や大企業には問題ない制度も、地方では雇用維持が困難となる問題も生じる恐れがある。ボツボツやればいい仕事もあれば、厳しい仕事もある。非正規社員の仕事の付加価値もいろいろである。最低が1000円になって、今1000円以上の仕事がスライドされて上がるとも考え難い。

もっとも、民主党の「子供手当て」にしても「高速道路無料化」にしても、どなたか選挙担当の偉い方が「これでいこう」で決まっているようで、党内でも十分議論がなされているとは思えない。

 昔々、田中角栄さんという方が「日本列島改造論」を掲げてこの国の総理大臣になられた折、列島改造論をして「哲学なき政策」と新聞の誌面で批評されていた高名な哲学者の方が居た。その田中元総理の流れを汲む小沢氏、鳩山氏そして岡田氏とやっぱり哲学なき政策がお好みで、兎に角「後は野となれ山となれ」で、政権交代さえ実現すればいいのであろう。

ドイツにヒトラーが登場したとき、それを支持したドイツ国民はその祖国の歴史に拭えぬ汚点を残した。日本陸軍の満州事変に喝采した日本国民の多くも、行き着いたところで、軍部の暴走の所為にしてもやはり自業自得としかいいようがない悲惨な結果をみた。同様に近未来の日本が、ウイグルやチベットになってからでは遅すぎるのだけれど。

 「哲学なき政策」とは、「深い洞察も検討もなく、その副作用も考慮せず、ただ国民にアピールすることを目的とした見てくれの政策」を言うのではないか。
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中小企業白書を読む第7回

2009年08月19日 | Weblog
理工系離れ

 2009年白書、第2章第4節「技術革新を生み出す技術・技能人材の育成」の項には、「我が国における理工系学生の動向」調査データがある。我が国学生の理工系離れがいわれて久しいけれど、ここには具体的に数字が示されている。

 まず、高校・高等専門学校をみる。1985年から2008年のデータで高校生の総数は、団塊世代女性の子供たちが高校に進学した時期と思われる1990年前後がピークで564万人。このうち工業科に属する生徒は49万人であった。しかし、2008年高校生総数は337万人、工業科の生徒は27万人までそれぞれ減少している。1985年に9.2%を占めた工業科の生徒は、2008年では8.1%である。

 高校生の進路を見ると、大学への進学率は85年の30.5%から08年は52.8%まで上昇。就職者数は85年の55万人から08年の21万人まで減少している。工業科の生徒でも就職率は85年の81%(11万人)から08年は63%(6万人)まで低下している。

 白書から外れるけれど、ものづくり工場の現場で、建築・土木現場で、種々のメンテナンスの現場で、優秀な技能者が輩出されにくくなっていることは、この数字からも明らかであり、現場技能者の高齢化は確実に進む。国家としても深刻な事態に陥る懸念を持つけれど、少子化対策名目の「子供手当て」現金支給というさもしい発想の、しかも国の税金を当て込む新手の選挙買収マニフェストが効を奏した場合に、それは解決に向かうのであろうか。

 白書に戻って、大学・大学院での理工系離れを検証する。大学生の総数は85年の173万人から増加基調にあり、2000年前後からほぼ横ばいとなり、08年には253万人。この中で理工系学生の割合は、85年の23.3%から08年19.6%まで低下しているが、この間大学への進学率が上昇しているため、理工系学生数は40万人から49万人に増加している。ただ、理工系学生数のピークは2000年前後にあり、この時の56万人からすれば7万人減少していることになる。

 白書では、学生の理工系離れの原因には触れられていないが、国家の経済が安定期にあれば、既成の企業を維持する能力においては、文系の管理技術すなわちマネージメント能力がより問われるためと推測する。事実、大会社の社長には大分以前から法学部や経済学部出身者が多いように思う。しかもこの10年の大企業では経営者層の待遇改善を優先した。「金持ち父さん」*7)的風潮も世に蔓延した。技術者はものづくり企業の起業には向くが、猿カニ合戦のカニの役割のイメージがあるのかも知れない。  

しかしいつの世にも地道に知恵を出し、汗を流して働くという価値観が重要である。企業組織はそのことをしっかりと評価する人事制度を構築する必要がある。それ以外に長期的にみて企業を発展させる方策はないようにも思う。
 

*7)「金持ち父さん 貧乏父さん」ロバート・キヨサキ/シャロン・レクター共著、白根美保子訳で、2000年11月初版が筑波書房から出ている。
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中小企業白書を読む第6回

2009年08月16日 | Weblog
中小企業の求める人材

 先に、イノベーションの実現に向けた課題では、大企業も中小企業いずれも「適切な人材の維持・確保が難しかった」とあることを述べた。それでは白書は中小企業が求める人材をどのように捉え、考察しているか。

 白書、第2章第4節「技術革新を生み出す技術・技能人材の育成」では、『中小企業が、新製品・新サービスの開発等によるイノベーションを実現してゆくためには、研究開発や生産プロセスの改善等の過程でアイディアを生み出し、それを実現していく技術・技能人材の役割が極めて重要である』としながら、まず時代の変遷による求められる人材像の変化を捉えている。

 中小企業が技術・技能人材に求める知識・能力のトップは、「複数の技術・技能に関する幅広い知識」で、これは5年前も現在も5年後の見込みとしても、時間軸で若干下降気味ではあっても他を引き離している。

 一方5年前の順位では2番目である「加工・組立に関する知識・能力」は、現在では5番目に重要な知識・能力とされ、5年後の見込みでは6番目までランクを下げている。5年前に3,4番目の「特定の技術・技能に関する専門知識」と「生産工程を合理化する知識・能力」は現在も5年後も重要度は評価されており、順位を入れ替えて2,3番目を占めた。

 先の「加工・組立に関する知識・能力」に加えて「生産設備の保守・管理能力」が過去から未来で大きくランクを下げる一方、「顧客ニーズを把握し、製品設計化する能力」、「顧客ニーズを把握するためのコミュニケ-ション、プレゼンテーションができる能力」や「製品の問題点を抽出し、改善提案を行うコンサルティング能力」はランクを上げている。すなわちより顧客に近いところへの対応能力が求められるようになって来たと見る。また、イノベーションへの期待を示すものとして「革新技術を創造していく能力」は5年前の10番目から5年後見込みで7番目までランクを上げている。

 白書から外れるけれど、現在では大企業は勿論、中小企業でもある種ベンチャーといわれる企業では、研究開発部門に高学歴の技術者ばかりを採用しているところもあるようだ。確かに高度な固有技術を必要とする分野においては、高い技術力が必要で、例えば一流大学の修士課程以上の学歴者を集めるのは分かる。しかし、多様性とは幅に加えて深さもある。同じような学歴者だけで組織を構成すると、彼らの専門分野は違っても、同じような境遇で育って来た人材ばかりとなり、真に発想の異なりを得られないこともあり得る。私どもの時代は、工業高校程度の学歴ながら周囲と異なった発想で研究開発に貢献することも多かった。人材にはいろんな角度からの多様性を求めることが必要であろう。
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中小企業白書を読む第5回

2009年08月13日 | Weblog
中小企業のイノベーション

 2009年白書では、その副題の通り「イノベーション」と「人材」を中心テーマに各種統計データが提供され、考察が述べられている。

 『そもそも、「イノベーション」とは、一般に、企業が新たな製品を開発したり、生産工程を改善するなどの「技術革新」だけにとどまらず、新しい販路を開拓したり、新しい組織形態を導入することなども含むものであり、広く「革新」を意味する概念である。特に中小企業にとってのイノベーションは、研究開発活動だけでなく、アイディアのひらめきをきっかけとした新たな製品・サービスの開発、創意工夫など、自らの事業の進歩を実現することを広く包含するものである。

 現在、厳しい経済環境の中にあるにもかかわらず、なぜ中小企業はイノベーションの実現に取り組んでいくことが重要とされるのであろうか。まず、そこから考察を始めることにしよう』

 そして、まず図表に、97年から06年の間の景気後退局面においては中小企業の売上高経常利益率は低下し、それと連動して設備投資額の売上高に占める割合も低下していることを示している。しかし、中小企業における研究開発費の売上高に占める割合は、その景気循環の中でも、一定水準(0.6-0.7%)で推移しているのである。すなわち「景気後退局面で厳しい経済環境にあるものの、中小企業は研究開発活動を重視し、研究開発活動に継続的に取り組んでいる可能性を示唆している」と述べている。

 その次の図表は、中小企業における研究開発費が売上高に占める割合と営業利益率の推移である。94年から06年まで、研究開発費が売上高に占める割合が2.5%以上の企業の営業利益率は3.8%から6.6%で推移し、2.5%から4.0%で推移する2.5%未満(0%を除く)の企業をいずれの年次でも上回っている。すなわち研究開発費が売上高に占める割合が高い企業ほど、営業利益率も高い傾向にあることを明確に示している。

 また、イノベーションを実現し、売上高に占める新製品の比率が一定程度高い中小企業ほど、売上高が増収傾向にある。そしてそのイノベーションへの取り組みは、中小企業では大企業に比べて、経営者のリーダーシップの比重が大きい。大企業が組織としてシステマチックにイノベーションに取り組むのに比べて、中小企業はどうしても経営者の資質やリーダーシップに依存するのである。

 また、中小企業と大企業の差異が特徴的なのは、イノベーションの実現に向けた課題にある。大企業も中小企業いずれも「適切な人材の維持・確保が難しかった」、「活動のビジョン・戦略が明確でなかった」や「従業員の動機づけ(やる気の維持)が難しかった」が上位に並ぶが、大企業では1%に過ぎない「資金調達が難しかった」という課題は、中小企業では18%を占めて2番目に大きな課題となっていることである。

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中小企業白書を読む第4回

2009年08月10日 | Weblog
白書課題の推移

 毎年の中小企業白書には、表紙に課題というか副題が付いていて、2009年のそれは「~イノベーションと人材で活路を開く~」である。21世紀に入ってのこの9年間の白書課題を挙げると、

2001年 目覚めよ!自立した企業へ
2002年 「まちの起業家」の時代へ
      ~誕生、成長発展と国民経済の活性化~
2003年 -再生と「企業家社会」への道-
2004年 多様性が織りなす中小企業の無限の可能性
2005年 ~日本社会の構造変化と中小企業者の活力~
2006年 「時代の節目」に立つ中小企業
       ~海外経済との関係深化・国内における人口減少~
2007年 地域の強みを活かし変化に挑戦する中小企業
2008年 ~生産性向上と地域活性化への挑戦~

であり、これだけを眺めても何となく国の中小企業に寄せる期待の変遷が見えるような気がする。

 すなわち、非常に大まかに捉えれば2001、2年頃は、気がつけば20世紀の後半、法人にあっても廃業が起業を上回っていた*6)。政府は中小企業IT化促進や海外進出、経営革新を支援すると同時に、バブル崩壊後の低成長時代の企業数減少に危機感を持った。金融セフティネット、創業支援、技術開発の促進とものづくり基盤の強化が唱えられたとのこの時期だ。しかし、2001年白書付属統計資料によれば、昭和61年(1986年)の企業数535万社は、平成11年(1999年)485万社になっている。2009年版白書では2006年421万社まで減少し、廃業に歯止めはかかっていないことが分かる。

 2003年の白書に再生支援が登場し、2004年白書では「多様性のシーズとなる中小企業」、「グローバリゼーションと中小企業」などの言葉が登場しているが、この年日本の経済成長率は2%を超え、主要行の不良債権残高も9月には4%台まで減少するなど、長かった低迷期から明るさが見え始めた年であった。この年の白書に登場した「多様性」は、2005年の「新連携」そして2008年の「農商工連携」へ発展してゆく。

 2005年白書は、日本社会の構造変化を捉えている。すなわち人口減少時代そして高齢化による労働市場の変化が、中小企業にもたらす影響を考えずにはおけない。マーケットを見据えた販路開発や新商品開発の重要性から、経営革新や事業連携が本格化した年ではなかったか。またこの年の白書に「地域再生」という言葉も見られるようになり、2006年白書の「まちのにぎわい創出、新たな地域コミュニティーの構築と中小企業」につながり、2007,8年では「地域」が白書課題のキーワードになった。

 2006年白書は、中国はじめ台頭する東アジア経済との関係深化から、中小企業の国際化の課題。それゆえの基盤技術の重要性、産業集積の役割の変化や下請け取引のメッシュ化などが取り上げられている。一方2007年問題に絡めて、事業承継と技能承継の問題。少子化対策観点からの仕事と育児の両立対策。またここに来て、フリーターの増加など若年者雇用の不安定化についても述べている。

 
 *6)全企業数ベースでは1980年代後半に廃業率は開業率を上回っている。
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中小企業白書を読む第3回

2009年08月07日 | Weblog
雇用動向

不況によって心配なのが雇用問題である。倒産やリストラで職を失う人が増えるほど社会不安を増大させるものはない。年金だ、少子化だと大きく問題視されているけれど、働き盛りの人が職を失うほど辛いものはないように思う。また、雇用状況の悪化に便乗して、低賃金で長時間労働などを強いる企業が増加する懸念もある。経営には常に大きなリスクが伴っており、経営側にはそれに相応しい見返りは必要なのだけれど、雇用者側の論理で被雇用者を犠牲にさせてはならない。一方、最低賃金の引き上げが議論されているけれど、仕事の中身(生産性)との整合性がなければ、運用現場では新たな問題を生む恐れがある。

 2009年白書は、前半の第3章に「中小企業の雇用動向と人材の確保・育成」として2008年度の状況が述べられている。2008年10月時点で経済状況の変動に対する対応策は、人件費以外の経費削減が69.5%と優先されていることは健全である。続いて商品、サービスへの価格転嫁28.5%で、賃金調整や雇用調整は18.8%と3番目の対策になっている。そして、その賃金調整や雇用調整の中身は、ボーナスの切り下げなど賃金調整が57.0%、残業規制38.5%、中途採用の削減・見直し20.1%、派遣・パート・アルバイト・契約社員等の再契約停止17.8%、業務日数の短縮15.8%と続くが、希望退職者の募集や解雇というのも各3%強見られる。

 2008年10月は、今回の大不況の初期にあり、中小企業における雇用の過不足感でも、不足感と過剰感が入れ替わる形で交差した時期にあたる。今不況下の雇用動向をまだ十分反映していない恐れはある。2009年1-3月期いずれの業種においても雇用の過剰感が不足感を上回り、特に製造業や卸売業において、その差が非常に著しい。企業内失業者が数百万人といわれる所以である。

 白書データから外れるけれど、2009年6月末で失業率は5.4%、有効求人倍率は0.43倍とある。この第Ⅱ四半期(7-9月期)に入り、政府のエコ補助金制度の効果もあって乗用車生産などが持ち直しつつあり、景気は回復基調と思われるけれど、「羹(あつもの)に懲りて膾(なます)を吹く」ごとく、なお失業率は上昇し、求人倍率は低下していると聞く。雇用状況が悪いと、人事制度が必要以上に賃金の切り下げ方向で見直しされる恐れがある。しかしそれは、一層の内需拡大を促さなければならないと言われている時に、全く逆行する話しともなる。

 派遣切りなどでもそうなのだけれど、政府の施策に十分な配慮が重要だけれど、法制度の現実社会での運用にあたっては、国民一人ひとりが正しく対応すべきであり、特に大企業は影響力が大きく社会的責任は重い。経営陣は特に人事制度や雇用問題にあって、国家レベルの見地からの運用を心がけて欲しいものである。
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中小企業白書を読む第2回

2009年08月04日 | Weblog
経済情勢(とマニフェスト)

 中小企業白書の構成は、まず発行前年の中小企業を巡る経済情勢の分析に始まる。2009年版白書は例年より少し遅れて、6月末に発刊された。景気の極端な悪化の状況の見極めに手間取ったためと推測する。その第1章は、「2008年度における中小企業を巡る経済金融情勢」であり、種々の経済指標が折れ線グラフなどで示されている。

その中の最初のグラフ「国別、地域別の実質経済成長率」(IMF統計)を見ると、2001年から2004年まで、いずこも成長率の上昇が続き、わが国も2004年には2%を超えている。その後アジアを除くわが国を含めた諸国は横ばいで推移し、2008年(予測)、2009年(予測)と全世界で急速に下落する。特に日本では2008年で▲0.3%*2)、2009年は▲2.6%と予測され、米国も1.6%のマイナス成長である。このため世界全体の成長率もマイナスであるけれど、アジアは2007年ピーク時の10%超の成長から5.5%まで下落するもプラス成長を維持する。

誰もが耳タコであろうけれど、「100年に1度といわれるこの世界的大不況」の下で、2009年予測の成長率が世界全体でマイナス2%である。その程度のものかと思ってしまう。例えば日本のGDP(国内総生産)でみた場合、2007年のそれは561兆円で、そこから0.3%、さらに2.6%成長率が低下してもGDPは545兆円に低下する*3)だけで、それは2005,6年の規模に戻るだけだ。しかもこの4-6月期の大手企業の決算はすでに回復傾向を示しており、最終的な成長率は今年の白書予測より上昇する可能性もある。

しかし、これは年収561万円の家庭が2年間で年収545万円(522万円)*3)に下がるというのとは異なる概念で捉える必要がありそうだ。2007年度には1兆数千億円の利益を上げていたトヨタ自動車が、2008年秋以降の景気低迷で一気に数千億円の赤字に転落したけれど、企業の設備投資(すなわち成長)は、その目論見が外れて新たな設備の稼働がなければ、その固定費負担であっという間に赤字になる。国や世界の経済も同様で、前年度の成長分が新たな成長に結びつかない場合は苦しくなるのだ。

経済学で、中央銀行が直接供給する貨幣量すなわちハイパワードマネー(H)が「信用創造」によってm倍(マネーサプライM=m*4)×H)に膨らむことを学んだけれど、恐らくその真逆に近い現象が起こるのであろう。

それにしても、このような経済状況の中、総選挙の各党マニフェストはバラマキ合戦に終始している。特に次期政権を担うと見られている民主党には改めてあきれる。政権を担う4年間の国民との約束で十分として、中長期の目標も掲げる自民党マニフェストを批判しているけれど、それは経営というものが全く分かっていないことを意味する。この国をどのような方向に導こうとするのかのビジョンも示さず*5)、2007年参議院選挙で功を奏した農家への個別補償の柳の下で、子供手当てや高速道路無料化等々。選挙に勝てばいいと考えるのは分かるけれど、それは国民を軽蔑していることではないか。麻生首相は財源が見えないことを批判しているけれど、問題は財源ではなく、国民の心を蝕むことが問題ではないのか。

現在の自民党も対抗して似たようなことをやっているのだけれど、不労所得を得た人間の精神の堕落を考えるべきだ。昔からたとえ貧民でも、日本人の親は、子供にさえ他人からの謂れなき施しを拒否することを教えたものだ。ここらあたりの機微は、共に御曹司である鳩山代表も麻生首相も同じ程度に分かってはいないと見えてしまう。しかも子供手当ては一時的な定額給付金と違い、将来さらなる財政難でも止めるのが難しい。

また、高速道路は無料化でなく、償却済み路線を除き日常は半額化程度で十分ではないのか。一般道と比べてはるかに快適な道路は、やはり受益者負担を幾らかは要求すべきだ。車で高速道路を走れる人は、日々の暮らしに困窮している人などいない。通行を多くすることでの経済効果はあろうが、電気自動車は追いついておらず、CO2の増加はどうするのか。ガソリン税の廃止も同様の問題を含んでいる。
 

  *2)近々のデータでは▲3.5%というのもある。
*3)2009年も2008年と同様▲3.5%のマイナス成長と考えればGDPは2007年から39兆円減の522兆円
  *4)信用乗数あるいは貨幣乗数
    m=(c+1)/(c+r) c:現金預金比率、r:法定準備率

  *5)5原則5策では抽象的、本質を避けている
    旧社会党系党員との調整が全くついていないものと考える
    憲法問題、防衛、日米安保、対北朝鮮や中国政策
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中小企業白書を読む第1回

2009年08月01日 | Weblog
雇用形態の変化

 今年も中小企業診断士の第1次試験が8月8日、9日の両日に行われる。中小企業白書は、中小企業診断士受験生必携と言われ、私も受験生当時から毎年購入した白書が今年分までで書棚に9冊並んでいる。もっとも、各受験支援校の教科書はその内容のポイントを示してくれているため、試験対策として必ずしも必要はないのだけれど、神社のお守りよりは頼りになりそうで購入し続けた。白書需要の何割かは診断士試験の受験生で占められているのではないか。

 所有する最初の白書は2001年版である。この年(平成13年)の4月に小泉内閣が発足。5月に発刊された当該白書のまえがきは、郵政民営化で自民党と袂を分けたけれど、第1、2次小泉内閣で経済産業大臣を務めた平沼赳夫氏によるものであった。

『本年1月、「戦後の我が国の社会、経済システム全体にわたる大転換」を図っていくという行政改革の理念に沿って、通商産業省は経済産業省へと再編されました。今回の白書は、経済産業省が発足してから初めての白書であります。
 新世紀の幕開けにあって、我が国経済は、米国経済の減速にバランスシート調整の遅れもあいまって、未だ景気回復に向けた力強い歩みを期待することができない状況にあります。・・・』

 2000年(平成12年)の中小製造業設備投資動向は、中小製造業の回復傾向にあることを伝えており、特に、携帯電話やパソコン等の情報通信機器向けに電子部品の増産が見られたとある。「時流に乗って設備投資するIT周辺企業」の事例も紹介されている。しかし、2001年に入りIT関連機器の生産は急落する。所謂IT不況の到来だった。

 また2001年白書には、昨年暮れ以降の猛烈な「派遣切り」で随分と話題になり、格差社会創出の諸悪の根源のように言われ、小泉構造改革反対論者の拠り所の一つともなった「労働者派遣法改正」のことが書かれている。

『平成11年12月の法改正により派遣対象業務が原則自由化されたこともあり、事業領域が更に拡大している。首都圏の人材派遣会社23社における派遣実績は平成11年12月より対前年比で増加に転じ、平成12年2月以降では20%前後の増加が続いている。・・・中小企業にとっては単なる固定費削減のためだけではなく、専門分野の即戦力や新規事業のために派遣労働者を活用することも有効な手段の一つとなっていくであろう。』

 雇用形態に変化をもたらせた「労働者派遣法改正」は小泉政権発足の1年半近く前に行われたものであり、ある種の期待を込めた改革でもあったのだ。平成12年12月には紹介予定派遣(テンプ・ツー・パーム)*1)も解禁されている。


 *1)派遣就業終了後に派遣先に職業紹介することを予定とした労働者派遣
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