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人事について考える第3回

2014年06月07日 | Weblog
人事戦略

 企業経営においてやたら「戦略」という言葉が氾濫した時期があった。外交の世界でも「戦略的互恵関係」などという言葉が登場したが、その関係は悪化の一途を辿っている。こちらは友好的にと思っても、端からその気のない国には「のれんに腕押し」「馬耳東風」「馬の耳に念仏」なのである。かの国は当初から、わが国を利用するだけ利用して経済成長を遂げれば、軍備を拡大、兎に角難癖をつけてその領土領海をせしめようという戦略であったのだ。

 外交問題は兎も角、企業経営において、戦略を立て方向性を明確に示すことは、「経営の見える化」の第一歩であり必要なことである。

 経営戦略には、事業戦略と機能戦略があり、人事戦略は財務戦略、生産戦略、開発戦略などと共に機能戦略のひとつである。事業戦略があって人事戦略もある。余力人材の活用のために新規事業を立ち上げることは有り得るが、組合対応の雇用確保でPPM*3)にいう「負け犬」事業をいつまでも継続することなど戦略とは言わない。

 人事戦略とは、雇用(採用)、賃金(報酬)、人事異動(配置)、教育(能力開発)、昇進昇格、定年制や年金制度、福利厚生など人事制度を、企業の成長戦略にマッチさせることである。不景気な時こそ新規に優秀な人材を雇用するチャンスだと捉える経営者もおれば、リストラ(人員整理)ばかり考える経営者もいる。どちらが戦略的思考かは云わずもがなである。人事システムは「顧客満足はまず従業員満足から」とのインターナルマーケティングを担う。ハーズバーグの言う、「動機づけ要因」*4)の充実であり、「衛生要因」*5)の改善である。

 近年は、中小企業にあっても海外進出が盛んとなっているが、海外事業においては、現地従業員への人事施策にさらに注意が必要である。2012年7月に起こったマルチ・スズキのインドマネサール工場での暴動は記憶に新しい。

 また、海外進出のための人材としてグローバル人材を求める声が多く聞こえるようになっている。島国で、他国に支配された歴史のない日本人は、従来一般的に外国語が不得手であった。そのため、グローバル人材と聞けば、すぐさま外国語に堪能な人材を連想するが、それほど底の浅い話ではないようだ。

 日経ビジネス6月2日号に、アビームコンサルティング株式会社が、一橋大学の楠木教授*6)と社長の岩澤氏の『日本企業が世界で勝つために「グローバル人材が育つ設計図づくりを」』と題するアドバトリアル*7)対談を載せている。この冒頭で楠木教授が『グローバル人材を端的に言えば、慣れ親しんでいない場所に行って、自分で商売を丸ごと動かせる「経営人材」のこと。外国語でのコミュニケーションや国際的な専門知識を持つことではない。・・・』と発言され、岩澤社長が『まったく同感です。いま日本企業が「グローバル人材が足りない」と言っている理由は明確で、海外売上比率が経営者の思ったほど伸びていないからです。・・・』と応えている。

 人事では、事業戦略に沿ってどのような人材をいつまでにどれほど確保するか。雇用の質が戦略達成の鍵を握る。新卒者か中途採用か、はたまた他社からの引き抜きまでを考えるのか。即戦力人材に重きを置くか、将来性に期待するのか。多くの選択肢を企業の資金力などの制約条件を考慮しながら最適解を求めてゆくことである。そして「人は人間社会で育てられて人間となる」と言われるように、企業人は企業で育てられる。当該企業における教育制度が加えて重要となるのである。
 



 *3)プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント:SBU(戦略事業単位)とPLC(製品ライフサイクル)を前提とし、事業の市場成長率を縦軸に、相対的市場占有率を横軸にとった各SBUのポジショニングチャートを作成し、事業のバランスを視覚的に捉えて各事業への資源配分を考察する手法
 *4)勤労意欲を向上させるもの。(達成感、仕事のやりがい、昇進など)
 *5)不足であれば不満となってモチベーションを減ずるが、良いからといってさほど勤労意欲の向上にはつながらないもの(労働条件、作業環境、人間関係、給与など)
 *6)楠木健(くすのき・けん)氏。一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授。専門はイノベーションの組織と戦略。
 *7)雑誌などにおいてPR内容が通常の編集記事とよく似た体裁で編集されたペイドパブリシティ(記事広告)の一形態。

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