日本の一番ながい日
作品としては古いけれど、安保法案とか70年談話が問題になる、未だ歴史と占領軍に与えられた憲法に縛られるわが国にとっては、ある意味過去のものになっていない題材のようである。
映画としては今回リメーク版ということだが、以前は原作者が大宅壮一氏であり、同じ名前の作品が2つあるのかと勘違いしたけれど、出版時の事情で大宅さんの名で出したけれど、書き手は初めから半藤一利氏であったとのこと。今回知った。
主役は、役所広司さん演じる終戦時の陸軍大臣阿南惟幾(あなみこれちか)大将で、壮絶な切腹シーンは迫真であったけれど、死後駆け付けた妻の戦死した息子の軍隊における有り様を、遺体に向かい説々と報告する姿こそ、作り手の伝えたかったことではなかったか。乃木将軍も日露戦争で息子を二人とも失っている。わが国の戦争は、国家の指導者たちの野心のために起こしたものなどではけっしてなかったことを訴えている。本木雅弘さん演じる昭和天皇の描き方にもそのことは表れているように思う。
もう一人の主役である山崎努さん演じる鈴木総理こそ、昭和天皇の信を受け、戦争終結の一大プロジェクトを成功させた立役者であるけれど、大佐時代天皇の侍従武官を務め、同じく天皇の信の厚い阿南陸相との阿吽の絆がプロジェクトを成功させた。物事を○か×でしか判断できない輩には、両人の口と想いの裏腹さは理解し難いかもしれないが、嘘は駄目だが大嘘は肝の据わった政治家の特権ではなかろうか。
映画の中でも、有名な米国ルーズベルト大統領の死去に際して鈴木総理が米国に送ったという電報草稿時の画面が出てくるけれど、映画の山崎努さん演じる鈴木首相の口から発せられると、国内向けに皮肉の籠った高度なエスプリに聞こえる。
この弔電については、本稿でも平成21年に「いい話を尋ねて」で、阿川弘之氏の著作「大人の見識」新潮新書2007年刊から紹介した。
『鈴木内閣が成立して5日後、敵国アメリカ大統領フランクリン・ルーズベルトが急逝する。その時に、鈴木首相は同盟通信社を通じて「深い哀悼の意をアメリカ国民に送る」という簡単ではあるが、ルーズベルトの政治的功績を認めるステートメント*4)を発している。それが世界各国で大きな反響を呼ぶ。
スイスの新聞「バーゼル報知」の主筆が、「敵国の元首の死に哀悼の意を捧げた、日本の首相のこの心ばえはまことに立派である。これこそ日本武士道精神の発露であろう。ヒトラーが、この偉大な指導者の死に際してすら誹謗の言葉を浴びせて恥じなかったのとは、何という大きな相違であろうか。日本の首相の礼儀正しさに深い敬意を表したい」と、社説で讃辞を発表している。・・・』
大正9年生まれの阿川弘之さんは、この映画の一般公開を待たず、この8月3日天国に召されたけれど、半藤一利氏は、「阿川弘之全集」(新潮社、海軍提督三部作など全20巻)の刊行*5)に際し「阿川さんは敗亡した祖国日本の葬式をたった一人でやってきたのである」との言葉を寄せているというから因縁がないわけでもない。
*4)「今日、アメリカがわが国に対し優勢な戦いを展開しているのは亡き大統領の優れた指導があったからです。私は深い哀悼の意をアメリカ国民の悲しみに送るものであります。しかし、ルーズベルト氏の死によって、アメリカの日本に対する戦争継続の努力が変わるとはえておりません。我々もまたあなた方アメリカ国民の覇権主義に対し今まで以上に強く戦います」という談話を世界へ発信している。byWikipedia
*5)2005年、終戦60年に刊行されている。
作品としては古いけれど、安保法案とか70年談話が問題になる、未だ歴史と占領軍に与えられた憲法に縛られるわが国にとっては、ある意味過去のものになっていない題材のようである。
映画としては今回リメーク版ということだが、以前は原作者が大宅壮一氏であり、同じ名前の作品が2つあるのかと勘違いしたけれど、出版時の事情で大宅さんの名で出したけれど、書き手は初めから半藤一利氏であったとのこと。今回知った。
主役は、役所広司さん演じる終戦時の陸軍大臣阿南惟幾(あなみこれちか)大将で、壮絶な切腹シーンは迫真であったけれど、死後駆け付けた妻の戦死した息子の軍隊における有り様を、遺体に向かい説々と報告する姿こそ、作り手の伝えたかったことではなかったか。乃木将軍も日露戦争で息子を二人とも失っている。わが国の戦争は、国家の指導者たちの野心のために起こしたものなどではけっしてなかったことを訴えている。本木雅弘さん演じる昭和天皇の描き方にもそのことは表れているように思う。
もう一人の主役である山崎努さん演じる鈴木総理こそ、昭和天皇の信を受け、戦争終結の一大プロジェクトを成功させた立役者であるけれど、大佐時代天皇の侍従武官を務め、同じく天皇の信の厚い阿南陸相との阿吽の絆がプロジェクトを成功させた。物事を○か×でしか判断できない輩には、両人の口と想いの裏腹さは理解し難いかもしれないが、嘘は駄目だが大嘘は肝の据わった政治家の特権ではなかろうか。
映画の中でも、有名な米国ルーズベルト大統領の死去に際して鈴木総理が米国に送ったという電報草稿時の画面が出てくるけれど、映画の山崎努さん演じる鈴木首相の口から発せられると、国内向けに皮肉の籠った高度なエスプリに聞こえる。
この弔電については、本稿でも平成21年に「いい話を尋ねて」で、阿川弘之氏の著作「大人の見識」新潮新書2007年刊から紹介した。
『鈴木内閣が成立して5日後、敵国アメリカ大統領フランクリン・ルーズベルトが急逝する。その時に、鈴木首相は同盟通信社を通じて「深い哀悼の意をアメリカ国民に送る」という簡単ではあるが、ルーズベルトの政治的功績を認めるステートメント*4)を発している。それが世界各国で大きな反響を呼ぶ。
スイスの新聞「バーゼル報知」の主筆が、「敵国の元首の死に哀悼の意を捧げた、日本の首相のこの心ばえはまことに立派である。これこそ日本武士道精神の発露であろう。ヒトラーが、この偉大な指導者の死に際してすら誹謗の言葉を浴びせて恥じなかったのとは、何という大きな相違であろうか。日本の首相の礼儀正しさに深い敬意を表したい」と、社説で讃辞を発表している。・・・』
大正9年生まれの阿川弘之さんは、この映画の一般公開を待たず、この8月3日天国に召されたけれど、半藤一利氏は、「阿川弘之全集」(新潮社、海軍提督三部作など全20巻)の刊行*5)に際し「阿川さんは敗亡した祖国日本の葬式をたった一人でやってきたのである」との言葉を寄せているというから因縁がないわけでもない。
*4)「今日、アメリカがわが国に対し優勢な戦いを展開しているのは亡き大統領の優れた指導があったからです。私は深い哀悼の意をアメリカ国民の悲しみに送るものであります。しかし、ルーズベルト氏の死によって、アメリカの日本に対する戦争継続の努力が変わるとはえておりません。我々もまたあなた方アメリカ国民の覇権主義に対し今まで以上に強く戦います」という談話を世界へ発信している。byWikipedia
*5)2005年、終戦60年に刊行されている。