中小企業診断士 泉台経営コンサルタント事務所 ブログ

経営のこと、政治のこと、社会のこと、趣味のこと、人生のこと

IoTについて考える 其の10

2017年10月28日 | ブログ
健康・医療

 日本は世界一の長寿国であるが、元気で長生きでなければ幸せとは言えない。また高齢化によって、国の医療費は増大し国家予算を蝕んでいる。昨年、平成28年の医療費は41.3兆円(税金で賄われているのはこのうち、約16兆円)で、そのうち75歳以上の高齢者分が37.2%を占めている。75歳以上の人口は全体の13.4%だから、高齢者医療費の負担が大きいことが分かる。これに介護費用が加わる。お年寄りの医療費が高くなることは当然であり、高齢者の健康増進は国家の社会保障費負担の観点からも喫緊の課題であることが分かる。

 お年寄りに限らないが、国民の健康がIoTによって守られるようにできるのだろうか。通常健康診断は年1回であるが、IoTの普及により、個人の健康状態を常時モニタリングできるようになり、栄養バランスのとれた食事、適度な運動、十分な睡眠なども自動的に支援ができるようになる可能性がある。

 健康状態に個々人の脈拍・血圧、体脂肪・体組成、活動状況や食事画像のデータ等を蓄積し、これらを分析する。その結果を自動的に各人にメッセージとして配信するのである。

 「○○さん。昨日は食べすぎです。今日は歩いて下さい」、「××さん。高血圧症です。今日は気温が高いので、外出を控えましょう」、「△△さん。今日は睡眠不足です。車の運転は控えて下さい」、「□□さん。今日もリハビリ頑張って下さい」、「○×さん。昨日は薬を飲み忘れていませんか?今日は飲んで下さい」、「△○さん。今日、血圧異常です。担当医に連絡します」(本項参考本からの引用)などなど。

 自身の健康のためとはいえ、24時間監視されているようで却って気分が悪いと思う方もおられるであろう。ただ、これらは誰か他人が見張っているわけではなく、すべてセンサーと自律電源、無線ネットワーク機能を備えたセンサーモジュールの仕業であり、これを利用するかしないかは本人次第である。

 しかし、栄養・運動・睡眠など生活習慣をいい形で持続することにIoTが役立つわけで、それこそ健康で長生きを叶えるひとつの道筋かもしれない。

 一方医療費の問題を考えると、検査漬け、薬漬け医療と言われるものがある。国民皆保険は良いのだけれど、高齢者保護の1割負担は、過剰な検査や投薬に個人の負担感が少ない分、受け入れやすい。それらの処方箋を透明化し、医療機関で共有することで、検査や投薬負担が軽減されるのではないか。

 本稿「其の4:サービス4.0」に書いたけれど、保険証と診察券を一体化してデータを残し、どこの医療機関でも過去の診療履歴や検査データまで閲覧できるようにしておけば、何処で診察を受けても必要な処置が効率的に受けられるし、無駄な検査や投薬に歯止めが掛かるのではないか。

 ただ、個人情報がどこかで部外者に詐取されることがあってはならず、セキュリティーはIoTの永遠の課題となろう。



本稿は、三菱総合研究所編、日本経済新聞社2016年7月初版、「ビジュアル解説 IoT入門」を参考に編集しています
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IoTについて考える 其の9

2017年10月25日 | ブログ
防災

 地震大国、そして台風の進路にあたるわが国にとって防災は、他国からの侵略に備える安全保障や国民の衣食住を支える経済と共に、政治の最優先課題でなくてはならない。

 本稿「其の3:IoTの社会的活用」の項でも触れた話なのだけれど、センサーと自律電源、無線ネットワーク機能を備えたチップ(センサーモジュール)を建造物にもれなく埋め込み、地面の震動、地殻変動、地電流、地下水の水位の変動や水質の変化、電磁波などを常に測定し、そのビッグデータを解析することで、今まで見えなかったそれら因子の関係性が見えてくることで、困難とされていた地震予知の可能性を秘めている。

 2014年9月の御嶽山の噴火は、死者、行方不明者63名という戦後最悪の火山災害となった。噴火警戒レベルは1であったことで、秋の行楽シーズンでもあり、山頂付近に多くの登山者が居たことが大災害につながった。

 噴火警戒レベルが1であったということは、火山性微動等の測定データからの現代科学の噴火予測が役立たなかったことを意味するもので、今後IoTを活用すればここでもこれらの災害の減災化につながるものと期待できるのである。

 今後、センサーの高性能化、低価格化が進むことで、「街中センサー化」が実現し、地震災害からの予知避難誘導が可能となり、また河川や港湾、海岸の潮位変動から水害予知の確度も上がり、減災に効果的となる。

 気象衛星の発達で台風の進路や大雨情報の確度は向上しており、緊急災害速報や各地の防災センターからの情報を自治体が受け、広域的に避難勧告や警告を行っている。しかし、それに従うかどうかは個人の判断によるところもある。IoTが行き渡れば、災害発生懸念現場周辺で、センサーを含めた装置自体が防災センターや自治体を経由せず避難の判断を支援・誘導するようになり、避難の徹底が期待される。

 IoTの減災、防災対策としての各種施設の強靭化も、地震計、雨量計、水位計、風速計等各種センサーと監視カメラから日常的に情報収集を行い、それらのデータから危険予測を行うことで効率的に実施できる。

 技術もさることながら、これらの施策には相当の費用も掛かる。国内の自然災害に脆弱なところから、計画的に手当してゆくしか無かろうと思う。



本稿は、三菱総合研究所編、日本経済新聞社2016年7月初版、「ビジュアル解説 IoT入門」を参考に編集しています
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IoTについて考える 其の8

2017年10月22日 | ブログ
スポーツとIoT

 スポーツの世界でも単なる根性だけでなく、科学的な取り組みから技量の向上や記録の更新が実現してきたことは論を待たない。

 ビデオの登場は、自身を客観的に見えるだけでなく、相手側の選手の癖や弱点を掴むことに活用され、また優れたアスリートの模範プレーを繰り返し鑑賞することで、自身の技量の向上に役立ててきた。

 また、道具を使う競技では、その材料の改善が記録を向上させる。競泳用の水着、棒高跳びの棒、陸上選手の靴、ゴルフのクラブ、さらに陸上競技場のトラックなど、競技者の記録向上に貢献して来たことは間違いない。

 これらの現状にIoTが加わるのである。その対象は「用具」、「フィールド」そして「アスリート自身」に及ぶ。用具には、ゴルフクラブやテニスや卓球のラケット、野球のバットなどが浮かぶが、これらにセンサーを付けて、フォームやプレースタイルを測定し、その解析から体格や体力、技能レベルに合わせたコーチからのアドバイスを受ける。グランドやトラック、テニスコートなどにもセンサーを設置して、気温、湿度、風向きなどのプレー条件を測定しアスリートにフィードバックする。

 すなわち、これまで見えなかったものを可視化することで、技量の向上に役立てるのである。ビデオで単に繰り返し見ることで把握してきた優れたアスリートの体の使い方を、IoTの活用で、手首、肩、腰、膝など部位ごとに把握し、自身と比較することで、その技量の向上に役立てることができる。

 またスポーツ鑑賞の世界でも、VR(バーチャルリルティー)ヘッドセットを付ければ、試合場に同時に立っているような臨場感を得ることができ、単なる観る世界から一緒にプレーしているような世界を体験できるわけだ。

 ただ、自身の技量向上に活用する場合、功をあせって優れたアスリートと同様のやり方を早急に行えば、体を壊す恐れはある。まずは基礎体力、体幹を十分鍛え上げておくことは、どんなスポーツにも基本であり、その部分は何処まで行ってもアナログの世界かも知れない。





本稿は、三菱総合研究所編、日本経済新聞社2016年7月初版、「ビジュアル解説 IoT入門」を参考に編集しています
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IoTについて考える 其の7

2017年10月19日 | ブログ
小売業への展開

 観光旅行において、風景や神社仏閣などの文化遺産も、旅館やホテルでおもてなしも大切であるが、旅先での経験や出会いが想い出づくりに重要であり、再来訪の大きなモチベーションとなるという。

 小売業においても、モノ余りの時代、モノより「コト」を売る時代と言われる。消費者はモノの先にある「コト」すなわち使い道を考え、売り手はその「コト」を提案する。

 これは今に始まった話ではなく、昔から消費者は、形あるモノを必要にしているのではなく、そのモノが生み出す機能なり、使用後の出来栄えを必要としているのである。まさにセオドア・レビットの著作「マーケティング思考法」1974年に述べられた「1/4インチのドリルが100万個売れたのは、人々が1/4インチのドリルを欲したからではなく、1/4インチの穴を欲したからである」という論理にも示されている。

 作ったものをどのように売るか、製品中心の販売力重視の時代をマーケティング1.0。必要とされるものをどうやって作るかという消費者志向の時代となってマーケティング2.0。生産者と消費者が製品・サービスの価値創造を目指したマーケティング3.0。そして現代は、顧客の自己実現にフォーカスする時代であり、これをマーケティング4.0と呼ぶ。フィリップ・コトラー氏が2016年に著書『Marketing 4.0: Moving from Traditional to Digital』で述べているという。

 IoTの時代(マーケティング4.0)は、「コト」(顧客価値、経験)を売るスタイルが主流となるのだ。

 顧客の自己実現を製品・サービスの提供から支援するためには、顧客の属性、嗜好やライフスタイルなどの特性データが必要となる。旧来の小売業においても、八百屋や魚屋店の主人と顧客である主婦等の店先での会話から、店の主人は顧客の家族構成や生活様式を把握し、顧客の夜ご飯の献立まで提案することができたりしていた。

 すでにECポータル(電子商取引窓口)やウェブマーケティング(インターネット活用の市場開拓)の世界では、顧客の購買傾向と属性情報などから次の購買を誘導するような取り組みはされているし、多くの店舗ではクレジット販売とポイントカード、ポスシステムなどによって、顧客の囲い込みと顧客の属性のデータを蓄積している。

 まさにIoTではビッグデータを収集し、意味ある情報に変えていく。この時代、顧客属性・特性データを収集・蓄積・分析することで、顧客価値をコーディネート(調整)できる販売者(プレーヤー)が、小売の新業態を創り出すと言われているのだ。




本稿は、三菱総合研究所編、日本経済新聞社2016年7月初版、「ビジュアル解説 IoT入門」を参考に編集しています
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IoTについて考える 其の6

2017年10月16日 | ブログ
農業への展開

 わが国の農林水産業の産出額は10兆円程度であるが、関連産業による最終製品の市場規模は平成22年で約100兆円。これが平成32年には120兆円となる見込みの成長産業である。このうち農業は約8割程度を担っているのではないか。

 世界の人口は、われわれ団塊世代が20代の頃には50億と聞いていた。今は70億人を超えている。僅か半世紀足らずで20億人、40%も増加した。世界人口は120億人程度まで地球は支えられるということを聞いたことがあるが、100年後に世界の人口はその数字に達しているかも知れない。

 人口増加の一番のネックは食糧であろう。水は海水の淡水化技術がすでに実用化レベルだから問題ないが、人口増加に伴って食糧増産のため、農業の進歩は不可欠である。すでに植物工場は実用化され、再生可能エネルギー発電とLED照明、水の循環使用によって砂漠の国でも稼働する。その管理はコンピュータが担っているのである。

 蛋白源として養殖漁業の進展、酪農も技術革新が必要となるが、農商工連携、コンピュータやITの発達ですでにその兆しはある。

 今後は、IoT関連技術が付与されてゆく。近く農業は個々の農家の家業としては、その生産性からも技術の面でも成り立たなくなるであろう。多くの資本が投入され、大規模化しさらに技術革新が進むのである。また、そうならないと補助金バラマキ農業では国家そのものが成り立たなくなる。

 活用される技術は、各種センサーによる可視化、情報の収集と分析、さらに農業の重労働から解放する省力化の3つである。

 可視化のためのセンサーには、温度、湿度、土壌成分、日射量、生育・病変、鳥獣害及び監視カメラなどがある。

 情報の分析にはビッグデータ解析のため、囲碁や将棋の世界で人智を超えすでに実用化されたディープ・ラーニング(深層学習、機械学習)が使えるのではないか。

 自動化・省力化のためには、ドローン、ロボット、アシストスーツ、自動運転コンバイン、自動灌水・散水機などがすでに実用化されつつある。

 IoTの進展によって、農業は漁業も林業も同様であるが、抜本的にそのイメージを変えるかもしれない。


 


本稿は、三菱総合研究所編、日本経済新聞社2016年7月初版、「ビジュアル解説 IoT入門」を全面的に参考に、編集しています
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IoTについて考える 其の5

2017年10月13日 | ブログ
IoTの課題

 インターネットに繋がるということで、現在でも多くの犯罪行為が半ば公然と行われる。ひとつは個人情報の詐取であり、一つはいかがわしい情報の氾濫、スパムメール、サイバー詐欺、ウイルスなど。まさにデジタル社会の闇が深まっている。

 サイバー攻撃などは国家組織が軍事機密や最新技術を盗み出すために行うもので、いわばスパイの電子版、現代版である。当然、組織はセキュリティ対策を施しているが、いろんな手口で仕掛けてくるし、高度なハッカーのターゲットにされると、国家機関でさえ侵攻されるようだ。

 犯罪者を特定することは難しく、国家ぐるみの犯罪であれば、法律で取り締まることも困難なようだ。最高機密はインターネットから外さねばならないのが現実だ。

 IoTはまさにインターネットを介して情報をやり取りして、個人の属性情報まで扱うことになるから、プライバシー保護をどこまで徹底できるか。現在でも街やホテル、店舗などに設置された防犯カメラの映像に写った個人の行動は、犯罪に関与しない限り公開されることはないが、これらがインターネットに繋がれば、悪意の第三者が悪用することも無いとは言えなくなる。

 交通渋滞回避のため、IoTを活用したとすれば、悪意の第三者がこれを操り、社会を混乱に落とすことも出来るかも知れない。

 無線通信は傍受される危険度は高いから、インフラに取りつけたセンサーモジュール情報も漏えいし、一般人には思いつかないような犯罪に活用されるかもしれない。

 まさにプライバシー保護とセキュリティはIoTの大きな課題である。

 人類の進歩の過程では、獲物を捕るためや生活を便利にするための道具が人殺しに転用され、軍事に転用された。移動や輸送に利便性の高い車は、これまでどれだけの人を殺してきたか。航空機、船舶しかりである。原子力の平和利用として登場した原子力発電でさえ、一旦事故が起これば重大な被害をもたらすことは現実化している。それでも、その経済性、利便性、科学技術への貢献などに鑑み、いかにリスクを低減化するかに意を用い、ある程度の保有は許容せねばならない。

 情報通信技術、IoTも同様に多くの課題、懸念事項を抱えている。どこまで克服できるかは盾鉾の関係でもあるが、それら課題を克服しながら活用してゆかねばならないことは、世界の趨勢で止めることはすでに出来はしないようだ。

 利便性の影で、あらゆるものにリスクは常にある。リスクを最小にできるのも技術であり、その発展は追い求めざるを得ない。
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IoTについて考える 其の4

2017年10月10日 | ブログ
サービス4.0

 『インダストリー4.0は、蒸気機関の導入を第一次産業革命として1.0、モーター等による電機化を2.0、コンピューター等による電子化で3.0、だからIoTで4.0だという。同様にサービス分野のエポックな革命でいうなら、電話という音声通信技術の導入で1.0、コピーやFAXという文書通信技術で2.0、コンピューターやインターネットというデジタル通信技術で3.0、そしてIoTで4.0という感じだろうか。

 個々のサービス分野ではいろいろな革新があるだろうが、分野を超えて「サービス」という枠で言えば、その本質は情報通信であるからだ。』

 「おもてなし」の基本は、お客様の識別に始まると言われる。お客様を識別し、その属性情報を的確に把握し、記憶し、次の機会に活かす。すなわちIoT的情報処理が「おもてなし」の基本であり、それを実現するための基盤がサービス4.0である。

 東京オリンピックを3年後に控え、IoTの社会的活用は十分間に合わないにせよ、東京の複雑な鉄道網を、外国から初めて東京に来た人にも使いこなして貰うためにICT(情報通信技術)に磨きをかける必要がある。公衆無線LANはじめ、自動翻訳やデジタル・サイネージ(看板型情報端末)の充実が当面の課題だ。

 現在すでに交通系ICカード(Suica、PASMO等)やnanacoをはじめとする電子マネーは相当普及し、使用できる範囲が拡大している。これらのインフラにIoT的機能を加味すれば、比較的短時間に利便性を向上できるという。

 日本の食文化は世界で高く評価されているが、イスラム教徒にとってハラルされて(神に許されて)いないと食せない。積極的にハラル対応する料理店も増えてはいるようだが、其処ら辺りの情報もICTにIoTを加えて活用すれば効率的となる。お客様の属性情報から、食物アレルギーの有無や、糖尿病でのカロリー制限、好みのワインまで合わせることができる可能性がある。

 先の東京オリンピックでは、首都高速道や新幹線が実現した。今回のオリンピックは、サービス4.0がどの程度に実現されるか期待したい。

 病院ごとにある診察券など健康保険証と合体させ、どこのクリニック、病院でも1枚のカードで診察を受けられるようにすることもサービス4.0の範疇かもしれない。過去の診療履歴や検査データまでクラウドサーバを活用して記録しておけば、何処で診察を受けても必要な処置が効率的に受けられる。さらにその診療料金も別にクレジットカードを提示しなくても自動的に銀行口座から引き落とされるようになるであろう。海外からの入国者には、その滞在期間に応じた医療保険に強制的に加入させ、万一の場合に備えて貰う。サービスから外れるかも知れないが、パスポート情報もICカード化することで、諸々の属性情報を記録でき、犯罪等の抑止にもなるかも知れない。

 サービス4.0の可能性は無限に広がってゆきそうである。



本稿は、坂村健著「IoTとは何か」、2016年3月初版、株式会社KADOKAWAの主に第2章「IoTの実用化とその可能性」を参考に編集したものですが、私見が入っており技術的な裏付のない部分があります。

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IoTについて考える 其の3

2017年10月07日 | ブログ
IoTの社会的活用

 日本に限らないが、社会インフラである道路、橋梁、トンネル、ダム、上下水道などの建造物は、現在老朽化が進んだものが多く、そのメンテナンスは追いついていないのが現実ではないか。事実米国内でさえ古い橋の崩落事故が過去に起き、現在でも旧いダムは崩壊の危険が迫っているそうだ。

 これらの問題は、インダストリアル・インターネット的な予防修理の考え方で、解決、もしくは緩和される可能性がある。IoTによって集まるビッグデータによって補修の必要な個所が予測できれば、メンテナンス全体の効率化に繋がるからである。さらに災害発生時には、インフラの被害状況を円滑に伝達し、その復旧の効率化にも貢献する。

 センサーと自律電源、無線ネットワーク機能を備えたチップ(センサーモジュール)をインフラ建造物に埋め込み、適宜検査車両が走行してデータを受信するのだ。

 自律電源には、長寿命電池、太陽光発電及び微小振動発電の3方向から自律発電素子の研究が進んでおり、電池交換の必要がなく、長期に亘り自律的に動作するセンサーネットワーク用の自律モジュールの実現が予想される。

 IoTは、モノ、状況、時間と場所の認識に加えて「どう処理されたか」といったことを、ビッグデータとして記録することが基本であるが、インフラ管理では「どこで」という位置情報が重要となる。現在でも位置情報としてGPSが実用化されているが、ここに言う位置情報とは、場所の情報、つまり「このビルは何というビルで」「今、その何階のどの部屋にいる」というような「意味を持った空間」の識別である。

 そのためにはそれぞれの「場所」にucode*2)を付ける。モノにID(ユーザーを識別するために用いられる符号)付けてネットからモノを認識できるようにすることが「モノのインターネット」の最初の意味だった。ここで場所にIDを付けることで場所を「ネットに繋ぐ」のである。

 このようにIoTが進化して、「ネットに繋ぐ」モノが単なる「物品:Things」から「Everything」となってきた。すなわちIoEという言い方も出てきた。

 IoEの応用として、「マンナビ」(車を誘導するカーナビでなくManを誘導する)がある。位置座標ベースの「カーナビ」ではなく、「マンナビ」ではビル内や建物内の案内情報までが得られるのである。マンナビでその場所の意味情報が分かれば、知らない場所に行っても不安なく歩くことができる。視覚障碍者がひとりで移動する場合にも大いに役立つ。

 さらにIoTそしてIoEは、物流や交通渋滞の緩和からビル内のエレベータの運転効率化と利用の利便性の向上のようなことにも活用が期待されているのだ。




*2)ユビキタスコンピューティングにおいて個々のモノや場所を識別するために割り振られるID番号の体系のこと、あるいはその体系によって割り振られた固有の識別子のこと

本稿は、坂村健著「IoTとは何か」、2016年3月初版、株式会社KADOKAWAの主に第2章「IoTの実用化とその可能性」を参考に構成したものです。



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IoTについて考える 其の2

2017年10月04日 | ブログ
インダストリー4.0

 IoTを産業界、特に製造業に導入を先行して目論んだのが、ドイツの「インダストリー4.0」であり、米国の「インダストリアル・インタ-ネット・コンソーシアム(企業連合体)」だといわれる。

 ドイツの「インダストリー4.0」構想は、IoTの応用によって、工場のまるごとロボット化からさらに一企業の枠を超えて、ドイツ全土に広げようというものである。ドイツの産業全体を有機的に自動連携し、ひとつの生態系のようになることを目指すものだと言う。

 製造業においては、少量の部品でも迅速に融通し、個々の顧客の多様なニーズに対応でき、直前の仕様変更等にも対応できる、柔軟性の高い生産が可能となる。すなわち生産の現場から消費までが見える化され、意思決定が最適化されることで、生産性が大幅に向上し、少量生産で従業員は高賃金であっても、利益が出るビジネスモデルが完結する。

 IoTはすべてのモノがコンピュータに繋がること。例えば、帰宅前にスマートフォンから自宅のエアコンを操作するようなネットワーク経由の「人対モノ」のコミュニケーションはその応用として初期段階であるが、「モノ対モノ」すなわちコンピュータが組み込まれた機械同士のコミュニケーションまでを考えると、高度に自動化された最新工場がイメージできる。そこではあらゆる製造装置がネットワークで繋がれ、いちいち人間に制御されなくても機械同士が連携して生産活動を行う。どこかが故障すれば対応し、材料や部品が足りなくなればそれを感知して補充する。そこから生み出された製品もバーコードや電子タグで自らの情報を持ち、機械装置とやり取りできる。すなわち第4次産業革命なのである。

 一方、米国の「インダストリアル・インタ-ネット・コンソーシアム(企業連合体)」は、米国GE社のインダストリアル・インターネットがベースだ。こちらの対象は同じ製造業でも製造段階を対象とするのではなく、設備機器の運用・メンテナンス段階でのIoTの応用である。

 航空機エンジンをはじめ医用電子機器などあらゆる産業機械に多くのセンサーを付け、データをネットワークでクラウドサーバーに送り、「ビッグデータ」を処理することで、制御の効率化と故障の兆候を事前に見つけ修理を行うというもの。日本でも、IHI社発電用ガスタービンの異常検知や予防保全にビッグデータ解析が活用されているという。

 ここで「ビッグデータ」とは、対象とする多くの設備機器から秒単位でサーバに溜まる巨大なデータ群だ。その日々のデータを過去の故障事例のビッグデータと突き合わせることで、故障が発現する前の兆候を見つけると言うのだ。

 ただ、現在までのGEに代表される企業の取り組みは、企業という枠に閉ざされたものだ。IoTは、インターネットのように所与の公的ルールに従うことを条件に誰でも参加し何にでも利用できることが必要である。そこでインダストリアル・インターネットがよりオープンになることを目指して設立されたのが、「インダストリアル・インタ-ネット・コンソーシアム(企業連合体)」なのである。



本稿は、坂村健著「IoTとは何か」、2016年3月初版、株式会社KADOKAWAの主に第2章「IoTの実用化とその可能性」からの引用です。


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IoTについて考える 其の1

2017年10月01日 | ブログ
ユビキタス

 インダストリー4..0、第4次産業革命だと言い出したのはドイツで、その影響で数年前からわが国でもIoT(Internet of Tings)という言葉が頻繁に聞かれるようになった。そしてその喧騒には、黒船到来のような驚ろきと、あわてふためきが入っていたものだ。ところが、実はこの分野で地道に研究開発と実用化を図っていたのは日本なのだ。

 東京大学の坂村健教授を初めて知ったのは、2003年4月、日経ビジネス誌の「ひと列伝」という記事だった。コンピュータの世界でわが国にもすごい人が居るもんだと感心したが、昨年3月東京商工会議所の工業部会のセミナーで、その坂村教授ご自身の講演があった。日経ビジネス誌での印象の通り、直接お話を聞いても凄い方だった。

 ユビキタス(「どこにでもある」と言う意味のラテン語)の概念は1988年頃に生まれたと言うが、それを可能にしたのが、坂村教授によるコンピュータOS(基本ソフト)の「トロン」である。坂村教授の「トロン」の基本設計発表は1984年とある(英文による論文発表は1987年)から、「ユビキタス」という言葉の登場より前である。「トロン」によって「ユビキタス」が実現したのだ。

 「どこでもコンピュータ」すなわち「ユビキタス」は、組み込み式コンピュータとして、携帯電話はじめ家電製品、自動車などに用いられているが、その心臓部が「トロン」なのである。

 2015年、ITU(国際電気通信連合)150周年記念賞が世界で情報通信技術に貢献した6人に与えられたが、坂村教授はユビキタスの第一人者として、アジアからただひとり受章しているのだ。その業績はノーベル賞にも匹敵するものだと思う。

 6人とは、坂村教授の著書*1)から引く。インターネットの発明とも言えるTCP/IPの仕組みを考案した、米国ロバート・E・カーン氏、携帯電話の発明者(セルラー方式を考案)マーチン・クーパー氏(米国)、デジタルテレビのデータ規格を推進したロシアのマーク・I・クリボシュフ氏、マルチメディアデータ圧縮方式のトーマス・ウィーガンド氏(ドイツ)、そしてオープンな組み込みシステム環境TRON(The Real-Time Operating system Nucleus)の確立とIoTのコンセプトを世界に最初に提示した日本の坂村教授、そして特別賞のビル・ゲイツ氏を加えた6人である。

 IoTと聞いて日本人が狼狽えることはない。「IoT」=「ユビキタス」であり、その前は「どこでもコンピュータ」である。それは日本人である坂村教授の手になる情報通信技術なのである。




*1)「IoTとは何か」著者:坂村健、2016年3月初版、株式会社KADOKAWA
本稿は、日経ビジネス2003年4月28日号「ひと列伝」及び上記著作を参考にしています。



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