中小企業診断士 泉台経営コンサルタント事務所 ブログ

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続、品質管理再考第10回

2015年11月28日 | ブログ
経営のツール(下)

 品質管理の手法から派生した新たな経営手法もあるけれど、実は品質管理の手法に取り入れた他の経営手法からのものも多い。代表的なものとしてIE(生産工学・経営工学)がある。改善の手法であるECRS*4)や5W1H法などもよく知られるけれど、業務をフロー図(流れ線図)で表す手法は、IEの非常に秀でた手法の代表格ではなかろうかと思う。

 業務の「見える化」のために業務の流れをフロー図で表すこと。これを作業場の見取り図に工程設備を入れ、作業順に線で繋げば、レイアウトの効率性が一目瞭然となる。いろんな制約下に現状のレイアウトが出来ていることであろうが、入り組んだフローは改善の余地があることを教えてくれる。

 また業務の流れを、品質保証体系図という書式に沿って記述しておけば、新規顧客などに自社の品質管理システム(品質保証システム)を紹介することに役立つし、業務の過程で必要な標準書や帳票類を記載することで、それらの不備も確認できる。製造業であれば、中核となる生産の部分は、さらにQC工程図に落し込む。QC工程図はまさに初期のTQC活動企業の中から生まれたものと聞く。詳細なQC工程図は原本とし、現場には使いやすい簡易なものを備えることが望ましい。ポイントは工程不具合が見つかった時の連絡先部署、特に工程検査不合格が見つかれば、直ちにアクションをとれるフィードバック体制が維持できる工程図になっていること。

 TQCと呼ばれていた時代。TQCは方針管理に行きついて、経営の中に溶け込んだ。品質管理手法の集大成であるけれど、それを運用している経営者も品質管理手法とは知らずに使っていたりする。コーチングの究極は、上手くできるようになったのは、「コーチのお陰です」と思わせないことと言うけれど、まさに方針管理で品質管理がその域に達したのだ。

 『方針管理を一言でいえば、組織の使命・理念・ビジョンに基づき出された方針を達成するために、職位・職能に応じて方針を整合した形で策定・展開し(Plan)、それを実施(Do)し、結果とプロセスの確認を行い(Check)、必要な処置をとる(Act)組織的な活動である。

 そして、方針の策定手順は次の通りである。①トップマネジメントにより中長期経営計画を策定する。②当年度の社の経営計画に基づき、部門毎に重点課題、目標および方策を決定する。③重点課題の目標を達成するための実施計画を策定する。必要な経営資源およびその運用プロセスも規定する。④目標を達成するために必要な管理項目を選定する。⑤計画を実行し、定期的に進捗を管理し必要な処置をとる』*5)。

 方針管理は大企業には当然のように行き渡っていると思うけれど、中小企業ではまだまだ行きあたりばったり経営が見られる。また年度計画は作成しているけれど、CheckまたはReview(確認・見直し)が不十分なことが多いとも聞くことがある。定期的に経営会議を開催し、各部署の責任者に進捗状況を報告させ、目標との差異について対策なり、計画の見直しを提言させる必要がある。

 方針管理と対となるのが、日常管理であり、これは当該企業の現在の飯のタネ。それをしっかりと管理する活動。一方方針管理は、新製品開発や新規事業開拓など、主に将来の成長に資する活動をマネージするものである。勿論日常管理ではリソースの不十分な歩留まり向上や在庫低減の検討などもプロジェクトとして方針管理の課題とすることが望ましい。

 まさに「品質管理は経営の価値あるツール」なのである。



*4) (改善の)ECRS:①E:Eliminate(排除)=その動作、その操作またはその工程は、やめられないか、 なくせないか。②C:Combine(結合)=この部品とその部品は一緒にできないか。その操作とこの操作は同時に出来ないか。③R:Rearrangement(交換)=操作や工程の順番を変えることで、もっと効率的に楽に出来るのでは。これと、これを交換するともっとうまくゆくのでは。④S:Simplify(簡素化)=簡素化、単純化できないか。
*5)社)日本品質管理学会標準委員会編、(株)日科技連出版社「TQMの基本」2006年12月刊。
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続、品質管理再考第9回

2015年11月25日 | ブログ
経営のツール(中)

 三番目は、事実に基づく判断。そのためのツールは、統計的品質管理と呼ばれるもので、すなわちデータを取り解析して現象を客観的に掴む手法である。統計的と聞いただけで難しく感じるかも知れないが、通常、それほど難しい解析手法を使わなくても多くの問題は解決できる。まずデータを取り記録を残すことから始めればいい。ただ、データは数字で表されるものだけでなく、言語データも立派なデータである認識を持つこと。

 三現主義は問題を生じている現場に駆けつけ、生の状況を自身の目で確認する。現場担当者や目撃者から記憶の確かなうちに聴き取りを行うこと。すなわち良質の言語データを得る必要がある。

 数値データを取ることで、見える化が図れる。言語データは特性要因図はじめ新QC7つ道具の多くの解析手法に用いられている。数字はグラフ化すれば傾向が一目瞭然となるし、他の要因との組み合わせで相互関係やそれぞれの要因の影響度も見えてくる。

 日本的品質管理であるTQC(TQM)の研究から生まれたシックスシグマ活動は、まさにこの統計的品質管理を中心としたものであった。しかしデータは、生産現場のデータだけではなく、日々の売上や諸経費も立派なデータである。これらのデータの分析による経営向上こそ、経営ツールとしての品質管理の真骨頂に思える。

 TQMでは、重点志向や源流管理も重要であるが、ツールという観点では、「層別」すなわち「分けることは分かること」が最重要である。狭義の品質管理の世界では、現場トラブルの原因探索として、作業者別、機械別、冶具別、原材料別、不具合の種類別などに層別することに始まったものと思う。しかし経営課題の中心には「売上向上」がくることが多い。しかし、売上全体額の推移だけを見ていても、あまり解決策は浮かんでこない。同じ売上高であってもその内容を精査することが重要である。一例を上げれば、製品別、顧客別、地域別、季節別などに分けてみて、どこで売り上げが高く、何処が低いのか。分けて眺めて、その原因を考察してみれば、売上向上のための方策が見えてくる。

 そんなことは知っているよとおっしゃるかも知れない。ではちゃんとやっていますかと問うと答えは曖昧になることがある。やっても仕方がないとの答えも想定内だ。しかし、経営者の頭の中で概略把握しているつもりと、しっかりとデータで表現することには大きな差異がある。

 商店などの売上で言えば、もう少し細かく分けて見てみると、例えば曜日や時間帯、天候でも売れ筋商品が異なることがある。細かくデータを取って検証してみると思わぬ事実が掴め、売上向上策につながることがある。

 経費節減の筆頭格である在庫削減なども、単に在庫が多いことが問題ではなく、問題なのはその中身である。例えばすでに陳腐化したりパッケージが傷ついて売れないような製品、商品が倉庫料を支払って存在していないか。ほとんど出荷されることのない製品が倉庫の中で幅を利かせていないか。こちらも分けてみることで、大きな改善につながる可能性があるものだ。
以下次号


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続、品質管理再考第8回

2015年11月22日 | ブログ
経営のツール(上)

 品質管理がなぜ経営のツールとなるのか。それはTQMの考え方を紐解けば解が得られる。まず『TQM(総合的品質管理)は、顧客の満足を通じて長期的な成功、並びに組織の構成員及び社会の利益を目的とする、品質を中核とした、組織の構成員すべての参加を基礎とする、組織の経営の方法』とある。キーワードは「顧客満足(CS)」、「長期的な成功」、「組織の構成員及び社会の利益」、「組織の構成員すべての参加」である。

 まずCSを得るためには、いい加減な製品を世に出すことはできない。企業はゴーイングコンサーンを旨とするから長期的に繁栄することが必要である。現在の経営者が経営者であるうちだけ利益を上げればいいというのは論外であることは誰でも分かる。企業の利益はまず従業員に還元され、税金等として社会に貢献する。株主主権で株主だけが儲かるという思想はTQMには無い。そして組織の構成員は想いをひとつにして、セクショナリズムを排して、全員参加で企業活動に取り組むのである。

 概念的な話だけではツールという説明にはならない。そこで順次TQMの手法の説明をしたいと思う。TQMでは顧客第一主義の次に、PDCAすなわち、管理と改善のサイクルをまわすことが重要だと教えている。計画し、計画に沿って実施しその結果を検証し、次の計画なり行動に活かすというサイクルを常に意識して廻しなさいと言っている。

 最近、Re-Engineering Partners社長の稲田将人氏は、企業の盛衰の研究から創立後順調に成長した企業が、低迷期を迎える要因として、市場からのかい離があるという。すなわち市場起点のPDCAが回らなくなったことが低迷期を迎える要因だと言うのである*2)。本稿第6回で述べた、これも立派なひとつの品質管理からの派生理論である。

 稲田氏は、PDCAの「P」は“挑戦”であり、「D」では“きちっとやる”、「C」は“学習”、「A」は“進化”と読み換えられていた。因みにPDCAは日常管理ではSDCAとなる。「S」は標準である。

 品質管理の大家の先生のセミナーで、「P・D・C・Aの4つのうち何が一番重要と思うか」を参加者に問うたことがあった。参加者の挙手はばらついたけれど、結論は「D」、要は実行力、パフォーマンスが大事だと言われた。確かに計画もその検証も次のステップのための改善・改革も確かな実行のためにある。

 次の経営ツールは、問題解決のQCストーリーである。昔、職場の同僚から「TQMとは何か」という質問を受けた。当時TQMの全体像を十分把握していなかったが、TQMのイメージとして浮かんだのが、この「QCストーリー」であり、TQMとは問題解決のガイドラインのようなものという認識があって、そのように答えたものだ。

 課題解決型と問題解決型では進め方に多少異なる点もあるが、基本的には同様と考えていい。問題解決型では一般的に現在顕在化した問題解決であるからテーマ選定後、現状把握と問題の要因解析から入るのに対して、課題解決型では、まず課題の明確化がくる*3)。しかし、それは結局現状把握であると考えられ、いずれにしても物事の解決には現状把握が最重要なのである。これがお粗末だと方策も曖昧になる恐れがあり、真の解決に向かわない。 以下次号



*2)2015年9月29日、日経MJフォーラム2015「市場起点のPDCAとIT戦略」
*3)「新版品質保証ガイドブック」2009年、(一社)日本品質管理学会編、日科技連刊
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続、品質管理再考第7回

2015年11月19日 | ブログ
失われた20年の要因

 わが国の戦後の品質管理の歴史を振り返ると、当然ながらこの国の経済史を抜きに考えることはできない。

 戦後の品質管理は、1949年米国GHQによる米軍規格(MIL-STDZ1)を学ぶところから始まるとなっているが、これはその前年に大韓民国(韓国)と朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)が成立しており、半島はすでにきな臭くなっていたのであろう。半島で戦乱が起これば、米軍は日本を兵站基地にする必要があると考えたのではないか。

 1950年6月北朝鮮軍は突如ソウルに侵攻3日で制圧したという。戦乱は3年1カ月続き400万人の人命が失われた。韓国は米軍が支援し、北朝鮮は中共(現、中華人民共和国)が兵を送った。そして韓国のほぼ半分の工業施設が破壊された。朴大統領はわが国に対して1000年の恨みとか言うけれど、朝鮮戦争における中共の厄害の方がはるかに大きく、近い出来事ではないのか。

 隣国の不幸な戦争ではあったが、わが国にとっては膨大な特需を得て、国内の消費景気と投資景気が誘発され、その後の高度経済成長につながる。そして、デミング博士やジュラン博士の来日による品質管理セミナーは、製品品質の飛躍的な向上のきっかけとなった。

 昭和30年年代(1955年~)から昭和40年代後半(~1973年)にかけて、わが国資本主義史上で空前の高度経済成長が実現した。1960年代にはもの作りにおける工程管理の充実とQCサークル活動の成果などにもよって、日本の製品品質は急速に良いものになっていったと聞く。

 しかし、この時代(1960年代後半から1970年代)の米国ではシリコンバレーにおいてシリコンラッシュと言われる起業家を英雄視する独特の文化が醸成されていた。「コンピュータの能力は18カ月ごとに指数関数的に向上する」というムーアの法則が世に出たのは1965年のこと*1)である。情報技術において、米国はわが国のはるか先を行っていた。その後のわが国の失われた20年が始まる1990年代に突然彼らの反攻が始まったわけではないのだ。

 また最近、こんな記事をネットで拾った。『松下幸之助さんは聞き覚えがあっても、盛田昭夫や井深大、土光敏夫、石田退三、永野重雄といった偉大な経営者のことを、今の若い人たちはあまり知らないでしょう。こうした優れた経営者は、今はほとんどいなくなってしまいました。

 当時の昭和の経営者には、人を追いかけ、国を良くし、国民の生活を良くする、社員を大事にするという考え方や志がありました。ところが、平成に入ってバブルが弾けてデフレ状態が続く中で、かつての日本式経営ではデフレ脱却はできない、企業経営はできないと、欧米式・アメリカ式の経営が導入されました。その代表的な手法がリストラクチャリングや成果主義、能力主義だったのです。

 そのアメリカ式経営は、「企業の繁栄」もっと言うならば「経営者の繁栄」が最優先されました。社長は経営者としての任期中にいかに利益を上げるかを追求します。株主中心主義ですから、当然利益を上げなければ株主総会で追及されてしまう。そのため、何が何でも利益を上げることが優先され、社員、すなわち「人」が犠牲になっていったのです。利益を上げるために一番簡単なのは、固定費と人件費の削減。つまり利益を確保するためには、首切りや給料カットが一番早かったのです。

 平成の経営者たちは「日本式経営は時代に合わない」ということで、十分考えもせずにこのアメリカ式経営に飛び付きました。その結果、逆に大きな痛手を被ってしまったのです。』これは、PHP研究所前社長の江口克彦氏の弁である。


 *1)マイケル・マローン著、土方奈美訳「インテル」(世界で最も重要な会社の産業史)、2015年9月(株)文藝春秋刊から引用



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続、品質管理再考第6回

2015年11月16日 | ブログ
派生

 1990年代、米国発の優れた経営手法がわが国にも押し寄せた。株主主権とか、M&Aによる安易な膨張、誇張された成果主義・能力主義、それによる過剰な賃金格差など、負の影響と思えるものも多いけれど、ITを武器に、標準化・体系化を得意とする彼らは、サプライチェーンマネジメント(SCM)、ナレッジマネジメント、Con-current engineeringなどを生み出し、これまでの会社のあり方、仕事の進め方をご破算にして、企業を根底から建て直す業務改革である「リエンジアリング」という経営手法を編み出したのだ。

 一方、わが国でも京セラの稲盛さんのアメーバ経営が注目を集め、最近では法政大学の坂本光司先生の「日本でいちばん大切にしたい会社」が称賛されている。これらはTQC(TQM)活動の一環としての小集団活動であり、さんざん聞かされた人を大切にする経営である。日米の今日的な経営手法のルーツを辿れば日本式品質管理に行き着く。

 リエンジニアリングは、1980年代後半から1990年初頭にかけてのアメリカ企業の経営のやり方を、マイケル・ハーマー氏を中心とする経営コンサルタントたちが分析してまとめたものだと言う。最初にアメリカ企業の個々の行動があった。世の中、うまくいった事例をまとめ体系化してひとつの流儀のようにまとめることは自然である。

 リエンジニアリングは従来の「リストラ」(事業の再構築)でも日本的TQCでもないというが、実は1970年代から1980年代にかけて、米国企業がそしてその関連機関が日本式経営を徹底的に研究した結果生まれたものだ。

 なぜ車や家電という身近な工業製品で日本やドイツに遅れを取ったのか。特に日本企業の強みは何かを研究した。米国の経営者は短期的な利益を追っていた為、場当たり的な経営になっていたし、労使関係でも常に対立意識と階層主義で、従業員の企業に対するロイヤリティが薄い。従業員参加型の提案制度なども生まれる土壌になかった。すべて日本的経営の逆だったのである。

 第二次大戦で戦場にならなかった米国は1960年代まではわが世の春であった。大いなる油断があったことは否めない。そしてベトナム戦争で疲弊し、目の前に繰り広げられる産業の衰退に気付き、復活への苦闘に立ち上がったのだ。

 その後のリエンジニアリングにおけるCon-current engineeringにみる複数の部署が同時並行的に協力して製品開発に取り組むなどのシステムは、従来米国では考えられなかったことだという。日本における多能工化、工程分割、組織間の協力などを取り入れたものだ。TQCの顧客第一主義を取り入れたCS(顧客満足)という言葉も頻繁に使われるようになったという。

 日本式品質管理は多くの所に派生し良い影響を産業界に及ぼし続けていたのだ。しかし、その陰で、「21世紀は日本の時代だ」などという褒め殺しに、うさぎの昼寝よろしくゆとり教育を始め、学校教育から統計的な考え方の授業は消えていた(2009年復活)。一方欧米では学校の現場で問題発見とその解決手法に取組む教育を行うようになっていた。

 結果、わが国の現場力は「今や中国やタイ以下」という記事が日経ビジネスに載る(2015年5月11日号)ようなことになってしまった。経営手法に多くの良い影響を与え続けている管理手法を編み出した本家本元の誇りを取り戻す時期ではないのだろうか。



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続、品質管理再考第5回

2015年11月13日 | ブログ
企業支援と品質管理

 経営コンサルタントは企業規模の大小から業種・業態の違い、マーケティングや生産管理や人事制度など、機能別の問題への対応と、非常に幅広い分野に跨る。それらのすべてに精通することなど誰にも出来ないようでいて、本来の中小企業診断士に求められるスキルとしては、すべての問題に一次的には対応できることであるように思う。

 だからこそ品質管理の考え方の基本はマスターする必要がある。品質管理を特定の専門性と捉えるレベルまで高める必要は通常のコンサルにはない。例えば、QC7つ道具という比較的初歩的な問題解決ツールがあるけれど、石川馨先生は、「職場の身近な問題の80%はQC7つ道具で解決できる」と言われていたと記憶する。すなわち一般企業の経営上の問題も80%程度はそれほど深い専門性を必要とせずに解決できる問題と考えられる。

 非常に深い特定分野の専門性を「中小企業診断士」に求めるのは本来過ちである。それはその分野の博士(学者)であり、弁護士や会計士・税理士、弁理士、不動産鑑定士、技術士、特に士業でなくてもいいのだけれど、各専門家の所掌である。診断士が特定の専門性を持っていけないということでは勿論ないが、中小企業診断士の資格の範囲には、特定分野の深い専門性を含んでいない。どうも診断士自身が専門性を云々して、研究会や能力研修などと銘打ったやたら難しいセミナーを受講したり研究したりするけれど、その努力は良しとしても、それで専門家に成れるわけでもなかろう。

 すなわち、品質管理の手法なり考え方を学び、仕事の基本である5SやIEの考え方や技法、信頼性評価法を取り込み、さらに方針管理などを理解して、コンサルの現場で活かす方が、診断士のスキルとしては正当で、現実的には救える企業は多くなると思われるのである。

 事業再生や承継、内部統制にBCP、知的財産に化学物質管理まで専門性を問われるアイテムは数限りなく、それらの分野で真に専門家足らんとすることは勝手だけれど、その世界でずば抜けたスキルに到達しないと仕事は来ないのではないか。依頼側もそのような専門性の必要な案件を、敢えて診断士だからということで依頼することはしない。

 もっとも、企業側も経営者の自社の不具合を思い込みで、ピンポイントの専門家を求める傾向はある。しかし、難しい話をありがたがったりするところがあると却って間違うことがある。中小企業支援機関もコンサルタント、経営者自身も裸の王様になっているだけのことはないか振り返ってみる必要がある。

 診断士は経営の基本的な部分で、当たり前のことを当たり前にできるようになる方策の相談を得意とする士業でありたい。その診断士の役割から、品質管理こそ学ぶべきスキルである。戦後のわが国の未だ混乱期に来日されたジュラン博士は、「品質管理は経営の道具である」という箴言を残した。そのことがわが国の「品質中心主義に基づく経済」への基礎を築いたと言われる。その道具をもっともっと活用すべきなのである。



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続、品質管理再考第4回

2015年11月10日 | ブログ
品質マネジメント研究会

 中小企業診断士は診断協会を元締めとして、都道府県別に一般社団法人として中小企業診断士協会がある。そして会員診断士は、自らのスキル向上のため仲間を募り各種の研究会と称する勉強会を組織している。協会から所定の補助を受けるためにその条件を満たして登録するも良し、会員に呼び掛けの為に登録のみして活動している研究会もあるようだ。

 しかし、多くの研究会がある中、知る限り「品質管理」を冠した研究会は無かった。品質管理は経営の基本であると考える者にとってみれば、唯一の経営コンサルタントの国家資格である中小企業診断士に、品質管理の考え方や手法をさらにブラッシュアップしてコンサルに活用しようというグループが無いことに不満を持っていた。

 聞くところによると「昔はあった」そうだけれど、バブル崩壊後はITだグローバル対応だと、「品質管理」は前時代の遺物のように感じられているところがあったのかも知れない。時代の流れがさらに急速になったことで、長期的視点で、企業体質の改善を標榜する日本的品質管理では、時代に間に合わないと感じられる節もあったのかも知れない。

 そこで、仲間を募って、品質管理の研究会を作ろうと考えた。言い出しっぺではあるが、中心となって活動するのは避けようと考えていたのに、会長候補の発起人の仲間が参加できない事態となった。一時は一旦研究会作りを中断しようかとも考えたりしたが、乗り掛ってくれていた仲間が意外と前向きで、新たに声を掛けた品質管理の専門家氏が非常に好意的に話に乗ってくれたこともあり、この度「品質管理」を冠する新たな研究会を診断士協会に誕生させることが出来た。「石川馨先生生誕100周年の記念の年に」とまでは大袈裟だけれど、微力でも品質管理の世界に貢献できれば光栄なことだ。

 研究会の名称として、当初は「品質経営研究会」と仮称し、創立メンバーで話し合って決めることにしていたが、どうも「品質経営」では漠然としていて、却って「品質管理」そのままがいいようにも思っていたところ、メンバーから「品質マネジメント」という候補名が挙がり、マネジメントは「経営」とも「管理」とも読み換えられるので、ここに落ち着いた。

 当初は、われわれ勤め先を定年退職したシニア層の診断士を募り、その長い企業での実務経験も武器に、仕事を取れる診断士集団を作ろうという目論みもあったのだけれど、実際に研究会を立ち上げてみると、逆に、若い企業内診断士などに大いに参加して貰い、われわれが企業時代に取り組んだ日本的品質管理の良いところを汲んで貰いたいという気持ちの方が強くなった。

 とは言って、研究会での検討が実際のコンサルに活きなければ意味は薄い。現場からのフィードバックによって、さらに進化したコンサルタント用の新たな品質管理手法の開発につなげることも大切な目標となる。診断士の後輩の参考になり、まさにそのことが、経営コンサルタントの世界にイノベーションと云えばまたまた大袈裟だけど、その進化にも寄与したいと願う。

 それと、やっぱり大切なのは仲間との良き人間関係であり、研究会を通じて人としても高め合える仲間でなければならない。新しく加わってくれる仲間たちにも居心地の良い研究会を目指したいものである。


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続、品質管理再考第3回

2015年11月07日 | ブログ
不祥事の裏側

 昨年タカタ製のエアバックの不具合が指摘され、ホンダ車など大量のリコールに繋がる甚大な品質トラブルが起こった。現在タカタへの発注を見合わせる企業が増加しており、経営が危機的な状況に陥る懸念があるそうだ。海外でもドイツの名門フォルクスワーゲン(VW)車の排ガス検査偽装ソフトは、VWだけでなく、ドイツの信用をも失墜させた。

 さらに、東洋ゴム工業の免震ゴムデータ偽装や最近の旭化成建材のくい打ち施工データの流用・改ざんと似たような事件が相次いでいる。

 2005年に発覚し大問題となった一級建築士の耐震構造計算偽造(姉歯事件)の際にも、事件の土壌となった業界や行政の体質が問題視されていたと思うけれど、結局何も変わらないまま似たようなことが繰り返されていることになる。

 品質を脅かす要因には、コストと納期と技術力の問題がある。購入側は当然により安価を求め、規格の遵守と納期を守ることを要求する。それは自然なことで、約束事項の遵守は供給側の責任である。

 東洋ゴム工業とVW社の偽装は同類で、技術的に現状では規格を満足させることが出来なかったのであろう。そのことを分かっておりながら製品を市場に出せばどうなるか。どこかで不具合が発覚し、当該企業は存亡の危機に立たされる。経営陣が市場を甘く見ていたのか。現場担当者が経営陣を欺き、自分達の無力を隠ぺいするために突っ走ったのか。第三者には判らない。

 検査の現場で仕事をしたことがある人間なら見て来たことだと思うけれど、抜き取り検査等では不合格にすべきところ、再検査を繰り返し良い検査結果を採用して出荷してしまうことはなかったか。逆に厳しい社内規格を遵守して、不合格品の山を築き、新規事業を赤字経営で行き止まらせたことを。いずれも見方によっては言い分があろうが、狭義の品質管理の面からは後者は正しく、前者は問題である。

 しかし、品質マネジメント(広義の品質管理)の観点からは、いずれも問題である。前者は採算性を重視し、本来の品質第一の基本を忘れている。後者は、正義は我にありとする、経済性を考慮しない合否判定部署なり、担当者の独善がある。どこで社内基準が決まったのか。本来の製品であれば、納入規格を5σに取り、出荷規格を4σ、製造基準を3σで管理しておれば、市場に不適合品を提供する確率は非常に小さくなる。しかし、開発製品は未だ十分な工程能力を有しておらず、まず客先との納入規格の見直し交渉が必要であり、徹底した工程管理・改善による工程能力の向上への取り組みこそが必要である。

 企業活動には、企業活動に限らないけれど、さまざまな問題に取り囲まれている。これが大きな組織になればなるほど、担当部署ごとに対処することで、自部署の不都合な真実が他部署に漏れにくくなり、問題を拡大させるようだ。TQMとは総合的品質管理のことだとは大抵の人は知っているけれど、その意味合いを本当に理解しているかといえば心もとない。そこに各種不祥事の見えにくい裏側が覗く。総合的品質管理はセクショナリズムを排するところから始まる。



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続、品質管理再考第2回

2015年11月04日 | ブログ
品質管理とは

 「品質管理再考」は丁度2年前にやはり11月が品質月間ということで、本稿のテーマに選んでいる。その第1回に書いていることは、どこからか借用してきた言葉ではない。

 『誰でも、手軽に売れる方策があれば飛び付きたいわけで、安易な価格戦略や宣伝・広告が重視される風潮が濃くなるのだけれど、実はこれはアスリートに喩えれば、練習をしないで勝つ方法を求めるに似ている。優れたアスリートは練習の重要性を知っている。・・・実は「品質管理は企業活動に正しく効率的な練習方法を伝えるメニュー、プログラムのようなものなのだ」。これがこの度、私が思い至った品質管理の企業経営における役割の結論である。練習は辛くとも、これを省略して企業活動においても勝利を収めることはできないことはアスリートの世界と同様なのである。』

 加えて、アスリートに限らずどのような分野のプロフェッショナルであろうが、基本を大切にする。アナウンサーは出番に備えて基本の発音を繰り返すであろうし、ダンサーは舞台の袖で、基本動作を繰り返していると思われる。アナウンサーのことは実は知らないけれど、大分昔になるけれど、世界的な日本人バレリーナーがそんなことをどこかに書いていた。すなわち企業経営の基本とは何かと問いたいのである。そこに品質管理がある。

 しかし、企業経営には、資金繰りや人事管理、顧客管理、製品開発、マーケティングとさらに当節はグローバル活動への対応もあって、品質管理を基本などとは言っておれないと経営者の多くは考えるかも知れない。

 先に(本稿第1回)に書いたのだけれど、1924年のシューハート管理図が世界の品質管理の始まりと言われている。すなわち統計的品質管理である。さらにその前にテーラーの「科学的管理法」があって、欧米に於いてはIE(生産工学・経営工学)という改善手法も発達した。ファヨールの全社的な視点からの管理やメーヨーやレスリスバーガーによる1930年前後に行われたホーソン実験など、人間関係に注目した経営研究なども進んだ。

 しかし、1940年代にドラッカーは当時の世界最大企業であり、資本家ではなく経営のプロが運営するゼネラル・モーターズ(GM)のコンサルタントを引き受け、その成功要因が今に言う事業部制(分権化)にあることを見抜いた。さらに大規模な従業員意識調査から、労働者が連帯しながら品質改善に取り組む必要性を痛感して提案したが、それは労働者が経営権を侵害する思想であると採用されなかったのである。

 ところが、この試みを1950年代前半に取り入れたのがトヨタ自動車であり、わが国のQCサークル活動や改善提案制度の先駆けとなり、その後のわが国の発展に貢献する。

 欧米の優れた合理主義は産業革命を生み、人類の科学技術の進歩に多大の貢献をしたが、一方で、資本家や経営者、技術者と労働者を分けて考える階層主義が根強く、わが国のような全員参加の品質管理を生まなかった。

 今、手元に石川馨100周年記念国際シンポジウムでいただいた久米先生編集による「石川馨品質管理とは」2015という小冊子がある。その第1項「企業の経営」の冒頭に、『私は企業経営を次のように考えている。①人 経営で最初に考えなければならないのは、企業に関係する人達の幸せである。企業に関係する人達が幸せになれないような、幸せと思えないような企業は存在する価値がないということである。・・・』とあるのだ。

 欧米の合理主義、効率主義ではなく、人間尊重の精神で始まる日本的品質管理こそ企業経営の第1番目にくる。すなわち品質管理とは企業経営の基本なのである。




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続、品質管理再考第1回

2015年11月01日 | ブログ
品質月間と100周年

 毎年11月は「品質月間」。第56回となる今年のテーマは、「あなたが主役 みんなでつくる 感動と安心を!」。主催団体は、一般社団法人日本科学技術連盟、一般財団法人日本規格協会及び日本商工会議所。社団法人日本品質管理学会は後援団体で、日本商工会議所が主催団体というのは逆のような気がしないでもない。

 品質標語の募集も毎年行われているようで、今年は昨年(7,781件)を超える応募があった(7,814件)ようだ。入選作は特に転記禁止でもなかろうから、ここでもご紹介させていただくと、

・「手に取る人に感動を! 高い品質 優れた技術」
 入選者:奥山 泰明さん(株式会社日本ケイテム 天竜製作所)

・「品質づくりは ひとづくり 皆が主役の表舞台」
 入選者:中嶋 藍奈さん(共栄工業株式会社 品質保証課)

・「あなたがつくる品質で 安全 安心 確かな信頼」
 入選者:長尾 正人さん(株式会社安川電機ロボット事業部 品質保証部信頼性技術課)

・「あなたも主役、私も主役 全員参加の品質づくり」
 入選者:吉野 順さん(株式会社クボタ京葉工場 市川事業所鋼管製造部研究・生技グループ)

・「届けたい お客様へ安心を 一人ひとりのプロ意識」
 入選者:渡邉 瑞浦さん(福島キヤノン株式会社 コンポーネント製造第二課)

以上5作である。入選者氏名五十音順。

 品質管理にとって今年は、石川馨先生の生誕100周年の記念の年にあたる。9月28日には東京大学本郷キャンパスの伊藤国際学術研究センター伊藤謝恩ホールで、100周年記念国際シンポジウムが開催されている。来場者は約260名。国際シンポジウムというだけに、わが国は勿論、台湾、インド、英国、米国から石川先生の指導を受けたという方々の講演があり、その業績を称えていた。それらの講演を聴いていると、この世界にノーベル賞はないが、その国際的な貢献からも匹敵するものがあるのではないかと感じるほどであった。

 1980年米国のNBCが「If Japan can…Why Can’t We?」(日本に出来て、なぜわれわれに出来ないのか?)というドキュメンタリーを流し、W・エドワーズ・デミング博士やジョセフ・M・ジュラン博士の日本での活躍を全米に知らしめたという話は有名であるが、その後、当時経営コンサルタントであったデミング博士へのオファーが急激に増加したというのも痛快である。

 1954年、統計学者であったデミング博士の8日間のセミナーを受講した石川先生ら受講生はまさに「目から鱗」であったのであろう。石川先生は博士の来日の翌年1955年に日科技連から『管理図法』を刊行されていたそうだが、先生は直弟子の久米均先生(現、東大名誉教授、日本適合性認定協会理事長)にその本を兎に角3回読めと言われたそうだ。

 管理図は、1924年、米国の物理学者、統計学者であったウォルター・A・シューハート(1891-1967)が手がけたものであり、これが品質管理の始まりと言われている。

 戦後のわが国産業の揺籃期、統計的品質管理などほとんど知られておらず、その分野でも欧米にはるかに遅れていたのだ。しかし、その僅か四半世紀後、米国のテレビ局が嘆きと共にその要因を探ろうとするほど、わが国の工業製品の品質は向上した。石川先生はじめ東工大の水野滋先生や東大の朝香鐡一先生、それに続く、今もご活躍の先述の久米先生、東京理科大の狩野先生、東大の飯塚先生などなど、品質管理の先達のわが国の戦後産業の隆盛に寄与し、貢献している功績は大きい。


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