自動車部品分野の品質保証
わが国の製造業には、長らくケイレツ(系列)と呼ばれる部品や素材の強固な調達網が企業間連携の中心にあったが、その典型例が自動車部品メーカーと自動車メーカーの関係であった。自動車メーカーをピラミットの頂点として1次、2次、3次と数多くの部品メーカーが連なっており、自動車メーカーは発注先や購入価格の決定で圧倒的な力を持っていた*24)。
1980年代、急速な円高で海外での競争力を低下させた自動車メーカーは、部品メーカーに厳しい価格低減を求め、苦悶に喘ぐ小規模部品メーカーが連日のようにテレビのニュースで紹介されていたのを思い出す。その後所謂下請け企業は、取引先企業数の拡大を求め、自動車メーカーはその生産拠点を海外に移し始めた。そして取引構造は系列に囚われずメッシュ化していった。
もっとも自動車部品メーカーといって、中小企業ばかりではない。業界規模は22兆3,136億円(平成24年7月~25年6月決算)、労働者数約21万人であり、売上トップ10では、1位デンソー(売上高:3兆5,809億円)、2位アイシン精機(売上高:2兆5,299億円)、3位豊田自動織機(売上高:1兆6,152億円)、4位トヨタ紡織1兆794億円)、5位ジェイテクト(売上高:1兆675億円)と実に上位5社が1兆円以上の売上高を誇っている*25)。もっとも自動車業界の影響を直接受ける自動車部品メーカーにとっては、自動車メーカーの業績がその明暗を握っていることは間違いないのである。
この分野の市場の特徴を、「ガイドブック」は、『①気温45℃を超えるような高温地域からマイナス40℃を下回る低温にさらされる地域、わが国では考えられないような最高車速での連続走行や、荒れた路面での高速走行など、想定される過酷な条件での走行耐久性を求められること。②直接の顧客は自動車メーカーであるが、最終製品の使用者は不特定多数の消費者のため、設計者の予測しないような操作にも対応する品質確保が必要で、それぞれの専門分野において、自動車メーカーと同等以上の技術知見や市場情報収集が必要となること。③自動車部品の中には、数百の部品からなるシステムもあり、そのような部品の多くは取引先からの購入品となるが、その生産拠点の近くでの生産が求められ、自動車メーカーの海外進出に伴い、自らの構成部品の調達先もグローバル化していること。④グローバル化にも伴い、さらに低コスト短納期、一段と厳しい品質レベルが求められること。⑤自動車の性能はハード面ばかりではなく、ソフトにより決定される度合いが強くなり、電子制御技術の進歩と要求品質の向上で、制御条件は複雑化していること』。などを挙げている。
そして、この分野の品質保証の特徴としては、まず、「安全性の確保と信頼性・保全性」を挙げているのは当然である。『自動車の基本機能である「走る、曲がる、止まる」にかかわる部品においては、機能が失われたり、異常作動した場合には直ちに致命的な事故につながる恐れがあるからである。また、部品個々に欠陥がないことは勿論、システムとしての信頼性確保、経時劣化への配慮、誤った操作に対する自己防御、故障発生時の安全退避可能なフェールセーフ。加えて故障の診断や修理の容易さなども品質保証の範疇である』。
2番目に『「地球環境、地域社会への配慮」がある。燃費向上(CO2削減)のためのエンジン(部品)設計、車体重量やフリクション(摩擦)の低減。排ガス中の有害物質低減も課題であった。
3番目に「自動車メーカーおよび取引先との連携」がある。自動車メーカーの新車開発期間の短縮に対応するために、あらかじめ決められた期間の中で定められた機能を満足させ、信頼性を確保する設計仕様や生産工程を、自らの取引先とも連携して作り上げなければならない』。とある。
なお、部品メーカーの売上トップテンNo.1およびNo.2のデンソーやアイシン精機は(一社)日本品質管理学会の主要メンバーで、海外拠点も含め現在も熱心にQCサークル活動(デンソーでは、海外含め7000サークル:2012年)を行い、成果を挙げていることを申し添えておきたい。
*24日経ビジネス2014.04.28・05.05合併号「ケイレツは’血’より’知’」
*25)「業界動向SEARCH.COM」データによる。
本稿は、(社)日本品質管理学会編2009年日科技連刊“新版品質保証ガイドブック” (文中「ガイドブック」と略称)第Ⅳ部第7章「自動車部品分野の品質保証」を参考にし、『 』内は直接の引用ですが、一部編集があります。
わが国の製造業には、長らくケイレツ(系列)と呼ばれる部品や素材の強固な調達網が企業間連携の中心にあったが、その典型例が自動車部品メーカーと自動車メーカーの関係であった。自動車メーカーをピラミットの頂点として1次、2次、3次と数多くの部品メーカーが連なっており、自動車メーカーは発注先や購入価格の決定で圧倒的な力を持っていた*24)。
1980年代、急速な円高で海外での競争力を低下させた自動車メーカーは、部品メーカーに厳しい価格低減を求め、苦悶に喘ぐ小規模部品メーカーが連日のようにテレビのニュースで紹介されていたのを思い出す。その後所謂下請け企業は、取引先企業数の拡大を求め、自動車メーカーはその生産拠点を海外に移し始めた。そして取引構造は系列に囚われずメッシュ化していった。
もっとも自動車部品メーカーといって、中小企業ばかりではない。業界規模は22兆3,136億円(平成24年7月~25年6月決算)、労働者数約21万人であり、売上トップ10では、1位デンソー(売上高:3兆5,809億円)、2位アイシン精機(売上高:2兆5,299億円)、3位豊田自動織機(売上高:1兆6,152億円)、4位トヨタ紡織1兆794億円)、5位ジェイテクト(売上高:1兆675億円)と実に上位5社が1兆円以上の売上高を誇っている*25)。もっとも自動車業界の影響を直接受ける自動車部品メーカーにとっては、自動車メーカーの業績がその明暗を握っていることは間違いないのである。
この分野の市場の特徴を、「ガイドブック」は、『①気温45℃を超えるような高温地域からマイナス40℃を下回る低温にさらされる地域、わが国では考えられないような最高車速での連続走行や、荒れた路面での高速走行など、想定される過酷な条件での走行耐久性を求められること。②直接の顧客は自動車メーカーであるが、最終製品の使用者は不特定多数の消費者のため、設計者の予測しないような操作にも対応する品質確保が必要で、それぞれの専門分野において、自動車メーカーと同等以上の技術知見や市場情報収集が必要となること。③自動車部品の中には、数百の部品からなるシステムもあり、そのような部品の多くは取引先からの購入品となるが、その生産拠点の近くでの生産が求められ、自動車メーカーの海外進出に伴い、自らの構成部品の調達先もグローバル化していること。④グローバル化にも伴い、さらに低コスト短納期、一段と厳しい品質レベルが求められること。⑤自動車の性能はハード面ばかりではなく、ソフトにより決定される度合いが強くなり、電子制御技術の進歩と要求品質の向上で、制御条件は複雑化していること』。などを挙げている。
そして、この分野の品質保証の特徴としては、まず、「安全性の確保と信頼性・保全性」を挙げているのは当然である。『自動車の基本機能である「走る、曲がる、止まる」にかかわる部品においては、機能が失われたり、異常作動した場合には直ちに致命的な事故につながる恐れがあるからである。また、部品個々に欠陥がないことは勿論、システムとしての信頼性確保、経時劣化への配慮、誤った操作に対する自己防御、故障発生時の安全退避可能なフェールセーフ。加えて故障の診断や修理の容易さなども品質保証の範疇である』。
2番目に『「地球環境、地域社会への配慮」がある。燃費向上(CO2削減)のためのエンジン(部品)設計、車体重量やフリクション(摩擦)の低減。排ガス中の有害物質低減も課題であった。
3番目に「自動車メーカーおよび取引先との連携」がある。自動車メーカーの新車開発期間の短縮に対応するために、あらかじめ決められた期間の中で定められた機能を満足させ、信頼性を確保する設計仕様や生産工程を、自らの取引先とも連携して作り上げなければならない』。とある。
なお、部品メーカーの売上トップテンNo.1およびNo.2のデンソーやアイシン精機は(一社)日本品質管理学会の主要メンバーで、海外拠点も含め現在も熱心にQCサークル活動(デンソーでは、海外含め7000サークル:2012年)を行い、成果を挙げていることを申し添えておきたい。
*24日経ビジネス2014.04.28・05.05合併号「ケイレツは’血’より’知’」
*25)「業界動向SEARCH.COM」データによる。
本稿は、(社)日本品質管理学会編2009年日科技連刊“新版品質保証ガイドブック” (文中「ガイドブック」と略称)第Ⅳ部第7章「自動車部品分野の品質保証」を参考にし、『 』内は直接の引用ですが、一部編集があります。