勝負の極北
これはもう10年も前に刊行された本のタイトルで、囲碁の藤沢秀行名誉棋聖と将棋の米長邦雄永世棋聖(現、日本将棋連盟会長)の対談本である。『秀行(しゅうこう)先生にお会いすると、いつも心が安らぐのを覚え、元気が出てきます。・・・これは私に限ったことではなく、多くの人がそうなるようです。では秀行先生が孔子やキリストのような聖人君子かというと、まったくの逆。飲んでは禁句を連呼し、博打を打っては大借金を作る。・・・やりたい放題の人生です。それでいて、碁石を持てば天下一品、60歳を超えてタイトルを手にし、二度のガンにも負けないというのですから、これはもう「神様に好かれている」としか思えません。・・・』米長永世棋聖の「まえがき」からの抜粋である。
将棋、囲碁棋士も芸人同様、昔は「芸の肥やし」などと称して遊蕩に耽り、破滅型の人生を送る人もいたようだ。しかし、今の棋界を代表する精鋭たちには、そのような風評はほとんど聞かない。それだけ全体のレベルが向上し、遊んでいても勝てる時代ではなくなったのではないか。プロ野球選手なども同様のように思う。傍から見ている分には面白みに欠けるかもしれないが、勝負事は結果がすべてで、別のところでの面白おかしい人生では長くは続かない。負け続ければ消えてゆくしかない。
それだから、勝負師は吐く。『われわれの世界は盤面で、・・・負けるのは自分がヘボだからです。タイトルを獲られても、それはすべて悪手を指した自分の責任です。ところが政治家と官僚は、悪手を指したことを認めません。認めないですむシステムになっている。・・・世の中には1ドルが1円違っても、顔色真っ青という中小企業のオヤジさんがたくさんいるわけです。ところが、・・・総理大臣にも、大蔵大臣*5)にも、事務次官にも関係ない。赤字が400億だろうが、400兆だろうが、自分の懐とはまったく関係ない。・・・世の中を取り仕切ろうというのなら、一局、一局を対局者として生きていなくてはいけないでしょう。ところが、今の政治家なり官僚にはその自覚がない。言わば、対局と関係ない人が碁を打ってるようなものです。』「勝負の極北」(株)クレスト社 平成9年3月刊
父や兄たちの影響で、私は子ども頃から将棋も囲碁にも親しんだが、熱心に取り組んだのは30歳頃からだった。そんなことで、その頃から棋士に関する本を読み、若い頃の「人生論」とは異なる切り口から人生を学んだように思う。升田幸三「勝負」サンケイ新聞出版局、中平邦彦「棋士・その世界」(株)講談社、大崎善生「聖(ひさし)の青春」(株)講談社、など名著としても知られる。
米長永世棋聖の「人生一手の違い」祥伝社、平成元年12月刊 は、化学総連の将棋大会で初めて日本将棋会館に行った際、その売店で買った。帰りの電車の中で読みはじめたのだけれど、プロ棋士を目指す一途な若者たちの話に、涙が出て仕方がなかった。この本が出て3年余後7度目の挑戦で史上最年長50歳の名人米長邦雄が誕生する。
『今回の勝因は、なんといっても“女神に好かれた”ことに尽きます。・・・失敗しても、挫折しても、“どうしたら女神に好かれるか”と念じつつ努力さえしたならば、必ずや勝利の美酒に酔いしれることができる。・・・』米長邦雄「運を育てる」(株)クレスト社、平成5年7月刊。この女神は、後々診断士受験の私を励まし続けてくれることになる。
*5)本が出版された当時の呼称
これはもう10年も前に刊行された本のタイトルで、囲碁の藤沢秀行名誉棋聖と将棋の米長邦雄永世棋聖(現、日本将棋連盟会長)の対談本である。『秀行(しゅうこう)先生にお会いすると、いつも心が安らぐのを覚え、元気が出てきます。・・・これは私に限ったことではなく、多くの人がそうなるようです。では秀行先生が孔子やキリストのような聖人君子かというと、まったくの逆。飲んでは禁句を連呼し、博打を打っては大借金を作る。・・・やりたい放題の人生です。それでいて、碁石を持てば天下一品、60歳を超えてタイトルを手にし、二度のガンにも負けないというのですから、これはもう「神様に好かれている」としか思えません。・・・』米長永世棋聖の「まえがき」からの抜粋である。
将棋、囲碁棋士も芸人同様、昔は「芸の肥やし」などと称して遊蕩に耽り、破滅型の人生を送る人もいたようだ。しかし、今の棋界を代表する精鋭たちには、そのような風評はほとんど聞かない。それだけ全体のレベルが向上し、遊んでいても勝てる時代ではなくなったのではないか。プロ野球選手なども同様のように思う。傍から見ている分には面白みに欠けるかもしれないが、勝負事は結果がすべてで、別のところでの面白おかしい人生では長くは続かない。負け続ければ消えてゆくしかない。
それだから、勝負師は吐く。『われわれの世界は盤面で、・・・負けるのは自分がヘボだからです。タイトルを獲られても、それはすべて悪手を指した自分の責任です。ところが政治家と官僚は、悪手を指したことを認めません。認めないですむシステムになっている。・・・世の中には1ドルが1円違っても、顔色真っ青という中小企業のオヤジさんがたくさんいるわけです。ところが、・・・総理大臣にも、大蔵大臣*5)にも、事務次官にも関係ない。赤字が400億だろうが、400兆だろうが、自分の懐とはまったく関係ない。・・・世の中を取り仕切ろうというのなら、一局、一局を対局者として生きていなくてはいけないでしょう。ところが、今の政治家なり官僚にはその自覚がない。言わば、対局と関係ない人が碁を打ってるようなものです。』「勝負の極北」(株)クレスト社 平成9年3月刊
父や兄たちの影響で、私は子ども頃から将棋も囲碁にも親しんだが、熱心に取り組んだのは30歳頃からだった。そんなことで、その頃から棋士に関する本を読み、若い頃の「人生論」とは異なる切り口から人生を学んだように思う。升田幸三「勝負」サンケイ新聞出版局、中平邦彦「棋士・その世界」(株)講談社、大崎善生「聖(ひさし)の青春」(株)講談社、など名著としても知られる。
米長永世棋聖の「人生一手の違い」祥伝社、平成元年12月刊 は、化学総連の将棋大会で初めて日本将棋会館に行った際、その売店で買った。帰りの電車の中で読みはじめたのだけれど、プロ棋士を目指す一途な若者たちの話に、涙が出て仕方がなかった。この本が出て3年余後7度目の挑戦で史上最年長50歳の名人米長邦雄が誕生する。
『今回の勝因は、なんといっても“女神に好かれた”ことに尽きます。・・・失敗しても、挫折しても、“どうしたら女神に好かれるか”と念じつつ努力さえしたならば、必ずや勝利の美酒に酔いしれることができる。・・・』米長邦雄「運を育てる」(株)クレスト社、平成5年7月刊。この女神は、後々診断士受験の私を励まし続けてくれることになる。
*5)本が出版された当時の呼称