中小企業診断士 泉台経営コンサルタント事務所 ブログ

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経済性入門第10回

2012年03月28日 | Weblog
内部収益率法

 DCF法において、先にNPV(正味現在価値法)を紹介した。ここでは将来のCIF(キャッシュインフロー)を資本コストで現在価値に割り戻したが、内部収益率法(IRR:Internal Rate of Return Method)とは投資の正味現在価値がゼロとなる(投資額と投資によって得られるキャッシュが現在価値において同額となる)割引率(=内部収益率)を求めて、これが、資本コストを上回っておればその投資案件を採用するというもの。

 話はすっきりしていて簡潔であるが、未知数となる割引率(r)は、毎年乗数が加わるため、正確な計算はやっかいである。正味現価(P)を割引率(r)の関数と捉えて、いくつもの数値を代入してグラフ上にプロットして外装し、P=0のrを求めたりする。

 ただ、CIFが単年度ということなら簡単に計算できる。投資額を1億円として、投資後2年目に1億2,000万円のCIFが1度だけ発生したとする。投資額とそのリターンが均衡する。すなわち1億円=1億2,000万円/(1+r)2の式からrを求めれば良い。(1+r)2=1億円2,000万円/1億円と変形して、1+r=√6/5=√1.2  からr≒0.095。すなわち内部収益率は9.5%で、資本コストがこれより小さければ、この投資案件は成立する。

 なお、「内部収益率」という呼び方は、投下資産利益率(ROI:Return On Investment)と区別するために始められたそうだ。

内部収益率法は、計算が煩雑となることに加え、投資の規模が考慮されないなど欠点もあるが、投資の収益性を測る優れた方法である。

 企業活動は常に多くの判断を伴う。企業に限らないけれど組織体の計画案については、経済性(採算性)の判断が非常に大きな比重を占めるけれど、当然にそれだけではない。当面の資金繰りが優先される場合もあり、その他非金銭的(インタンジブル)な要因の検討が必要となる場合も多い。

 企業内の人間関係に配慮が必要な場合もあれば、地球環境問題や公共の安全を優先しなくてはならない場合もある。また得意先や仕入れ先、一般消費者からの信用やイメージはお金に代えられないし、技術的な問題もあろう。ただ、通常においては「どっちが(経済的に)得か」とチョット立ち止まって考え検討するだけで、余分な出費を節約できることにつながるケースも多いと思われる。

 経済性入門は、企業のすべての部門の管理職に必須の素養である。





本稿は、千住鎮雄他著「経済性分析」、(財)日本規格協会1979年初版1986年改訂版を参考に構成しています。

経済性入門第9回

2012年03月25日 | Weblog
設備投資の経済性

 設備投資の経済性の計算を行うためにDCF法(Discount Cash Flow Method)がある。本稿第6回で行ったように、将来の価値を現在という一定の時期に合わせて評価する方法である。ここでは先のペンキ塗と異なり、投資による将来の収益を予測して投資に採算性があるか検討するため、勝手に収益を膨らませれば投資の採算性は有利になるが、それでは意味がないことは言うまでもない。

 DCF法の代表的な方法として、正味現在価値法(NPV:Net Present Value Method)がある。これは設備投資によって将来得られるキャッシュフローをすべて現在価値に割り引いて合計し、その合計額から初期投資額を差し引いた値(正味現在価値)がプラスである投資案件を採用する。複数の投資案件について検討した場合は、通常最も正味現在価値の大きい案件から採用することになる。

 ここで、「キャッシュフロー」について理解しておく必要がある。初めて企業会計について学ぶ人にとっては、貸借対照表(B/S)と損益計算書(P/L)の関係や機械・設備などの減価償却について費用としての扱いと、それがどのようにキャッシュとして還流してくるのかの仕組みが分かり難いと思うので解説する。

 非常に単純なモデルとして、製造設備としての機械・設備は購入設置に5,000万円必要であったため、資本金5,000万円で事業を起した企業を考える。このとき、B/S(貸借対照表)の右側(貸方=負債・資本)は5,000万円となり、B/Sの左側(借方=資産)の現金・預金が5,000万円とバランスしていることになる。ここで現金・預金のすべてを叩いて製造設備を購入するわけで、B/S上の現金・預金は「0」になるが、機械・設備として5,000万円が資産として残るので、やはり貸方とバランスする。ここまでが起業年度の期首時点の話。

 この企業は購入した機械・設備を使って生産を行い、製品を販売して期末にP/L(損益計算書)を作成してみると、営業利益が丁度「0」となった。営業利益は売上から製造原価や諸経費(販管費など)を差し引いたもので、購入した機械設備の減価償却費も入っている。ここでは5年間の定額法で償却し、残存価額「0」という条件で行っているとする。機械の寿命としても5年間で終わり当該設備を使ってのその後の生産はないものとする。

 従って、操業1年後の期末のB/Sをみると資産の機械・設備は4,000万円となっている。これは購入価額の5,000万円から1年間の減価償却費1,000万円を差し引いたものなのである。機械・設備の価値はここまで減価したというわけである。税金は利益が出ていないので猶予して貰ったとしても、B/Sの左側(借方)だけ1,000万円不足するようであるが、営業利益が「0」ということは、実はキャッシュアウトしない減価償却費の1,000万円がそのままキャッシュとして現金・預金に戻っているのだ。*3)

 このモデルは、減価償却費を浮きだたせるために、営業利益を「0」とおいたが、今後は少しでも利益を上げて行かないと企業としては継続できないことは当然である。そのことはさておき、ここでは、投資をキャッシュの流出(キャッシュアウトフロー)で捉えているのだから、入りについても会計上の利益ではなく、キャッシュインフロー(CIF)で捉える必要があることを確認したわけである。

 資本コストを4%、実効税率40%として、この投資案件はペイするものか。営業利益が5年間「0」では問題なので、2,3年目100万円、4,5年目200万円の利益があったとおいて計算してみる*4)。1年目962万円、2年目980万円、3年目942万円、4年目957万円、そして5年目921万円の合計4,762万円で投資額よりCIFが低くこの投資案件は成立しないことが分かった。

 もっとも初年度から毎年200万円を少し上回る営業利益が出せれば、ペイすることも分かる。




*3)キャッシュフローの増減には、売掛金や仕入れ債務、在庫の増減なども影響するが、投資の採算性分析においてそれらは関係しないため考慮しない。
*4)NPV=キャッシュフローの現在価値総額={営業利益×(1-実効税率)+減価償却費}の現在価値総額-設備投資額

経済性入門第8回

2012年03月22日 | Weblog
機械の買い替えの採算性比較

 前号に続き「埋没費用」を理解するための練習問題。因みに中小企業診断士試験の科目で、この「埋没費用」は経済学に出てくる。損益分岐点や限界利益、資本コストのことは財務・会計で学んだ。すなわち本稿で取り上げている「経済性」の話は、財務・会計と経済学にまたがる企業経営にとっても関連深い課題なのだ。

 今回の機械の買い替えの話は、前号のレンタカーの場合より企業活動において起こりそうな問題として取り上げた。早計に判断すると間違う恐れがあるため、このような問題に出くわした場合は慎重に検討する必要がある。考え方をしっかりと腹に落としておく必要がある。

 ある会社で1,000万円の機械Aを購入設置した。この機械では毎年の操業費用が400万円かかる。ところが機械Aの操業を開始して間もなくして、安くてしかも高性能の機械Bの存在があることが分かり、買い替えを検討することにした。機械Bは700万円で、しかも毎年の操業費用は100万円で済むという。A、B共に寿命は5年である。5年後の償却残(残存価額)もいずれも0である。すでに使い始めた機械Aは現在部品などを売却できたとしても、取り替え費用など見込むと処分費用は差し引き0と考えられる。

 ここで、機械Bを新たに購入するかしないかの損得(経済性)を考える場合、間違いやすい次のような理屈がある。「新たに機械Bを購入した場合の投資合計は、1,000万円に700万円を加えて1,700万円となるが、操業費用の5年間のコスト削減は(400-100)×5=1,500万円に過ぎず、採算が合わない。すなわち買い替えるのはペイしない」というもの。勿論この理屈は正しくない。先に投資した1,000万円の機械Aの価格もコスト削減のための投資額に算入しているからである。コスト削減1,500万円は機械Bの導入によって得られるもので、その投資額は700万円なのである。よく「データで話をせよ」などというけれど、このように数字をかざした論理のすり替えはよく起こるので、注意が必要である。

 このような問題では、次のようにそれぞれの場合の費用合計で比べると明確になる。(比較は同じ土俵で行うことが肝要)

 機械Aをこのまま使い続ける場合の費用合計額は、1,000+400×5=3,000万円・・・①式。機械Bに買い替える場合は、1,000+700+100×5=2,200万円・・・②式となり、この場合機械Aを捨てて機械Bを新たに購入した方が有利なのである。すなわち機械Aの購入費用を除いて、機械Aの5年間の操業費用と機械Bを新たに購入する費用とその操業費用の合計を比べる。すなわち、①式と②式に共通である機械Aへの投資額1,000万円は、計算に入れても入れなくても関係がない、すなわち「埋没コスト」なのである。

 このような問題の場合、機械Aの処分によって固定資産処分損が発生するため税金を減らせる効果もあるが、通常優劣比較に関係しない場合がほとんどで、考慮しなくていい場合が多い。




本稿は、千住鎮雄他著「経済性分析」、(財)日本規格協会1979年初版1986年改訂版を参考に構成しています。

経済性入門第7回

2012年03月19日 | Weblog
埋没費用

 過去の投資額で、回収不能となった固定費用を「埋没費用」(sunk cost)という。固定費用が埋没化されない(サンクされない)産業は撤退時に固定費用が回収可能なため、参入・退出が容易となり競争が激しく成り易い。埋没コストは、採算性分析の方策の優劣に関係しない費用でもある。

 埋没コストが、採算性分析の方策の優劣に関係しないことを分かりやすく説明する事例として、レンタカーの料金が車種によって固定料金プラス走行距離による変動制であったとした場合の借り換えについての経済性比較を取り上げる。(この問題は現在のレンタカー料金制度を反映したものではありません)

 所用で100km程度の道のりに車が必要ということで、レンタル料金を調べてみると同じ車種で固定料金が1日3,000円に加えて走行距離1km当たり50円のA車と、固定料金が1日9,000円であるが、走行距離1km当たり20円のB車があったとする。走行距離100kmで計算すると、A車の場合8,000円、B車の場合は11,000万円掛かる。

 そこで、前日3,000円を払ってA車を借りた。ところが当日予定が変更になり、400km程度走行しなくてはならなくなった。B車に借り換えるためA車を返しても払い込んだ固定料金は返ってこない(回収不能)。そこでA車のままで済ますのか、それとも思い切ってB車に借り換えるのかという問題。

 優劣分岐点は走行距離数をMと置くと、A車のままの場合=3,000+50×M・・・①式、B車に借り換えると=3,000+9,000+20×M・・・②式で、①=②からMを求めると300kmと出る。すなわち1日の走行距離が300km以上ならB車への借り換え、以下ならA車のままが有利であると出た。事実1日400kmを走行した場合、A車のままでは固定費と合わせて23,000円掛かるのに対して、B車に借り換えた場合固定料金は回収不能の3,000円と合わせ12,000円となるが、走行距離による料金が8,000円しか掛からず合計20,000円と3,000円得となる。

 ここで、①式および②式に共通の数字である3,000を消去して計算しても同じM=300が得られることが分かる。すなわち過去の投資額であるA車の固定料金は、この場合方策の優劣に関係のない費用であり、すなわち「埋没費用(サンクコスト)」なのである。





本稿は、千住鎮雄他著「経済性分析」、(財)日本規格協会1979年初版1986年改訂版を参考に構成しています。

経済性入門第6回

2012年03月16日 | Weblog
寿命の違う塗料の経済性比較

 買い物をする場合には、商品の品質、デザイン、使いやすさなどと価格を見比べて自然のうちに経済性の評価をしている。「安物買いの銭失い」とは良く聞く言葉で、安ければ経済的というものでもない。

 『ある会社で、工場建屋の塗り替えを考えている。普通の塗料を使うと塗料代は200万円で済むが、その後5年ごとに塗り替えが必要となる。一方最新の高級塗料を使うと塗料代は1,000万円かかるが、15年間は塗り替えが要らない。1回の塗り替えに掛かる人件費はいずれも300万円である。この会社の資本コストを4%とし、次の場合の採算性を比較せよ。なお、当面の資金繰りは問題ないものとする。

 (1)人件費も塗料代もこれからの10年変わらないとした場合

 (2人件費が毎年2%、塗料代は3%上昇すると考えた場合       』

 合計のキャッシュアウトを単純に比較すると、この10年間で1,500万円と1,300万円で、高級塗料の場合が200万円安いようだが、資本コスト4%によって、また人件費等の上昇によって結果がどう変わるか。与えられた条件で実際に現価法(将来の価値を現在価値に割り戻す方法)で計算して比較する。

 設問(1)では、普通の塗料を使用する場合に、5年後及び10年後に塗り替えが必要なため、その費用である(塗料代+人件費)合計各500万円を資本コストで割り引いて、それぞれ現価に割り戻す計算が必要である。5年後の500万円は500/(1+0.04)5≒411万円。また10年後の500万円は500/(1+0.04)10≒338万円となり、初年度の500万円と合わせて普通塗料の場合の合計費用は1,249万円となる。これは現在1,300万円の費用がかかる高級塗料の場合より有利である。

 設問(2)では、まず5年後と10年後に人件費や塗料代がいくらになっているかを計算する必要がある。5年後の人件費は、毎年2%の上昇のため300万円×(1+0.02)5≒331万円となっており、塗料代の200万円は、毎年3%の上昇で200×(1+0.03)5≒232万円になっている。10年後のそれぞれは、同様の複利計算を行い、366万円と269万円となった。5年後に生じる費用の合計331+232=563万円を資本コストで現価に割り戻すと463万円。10年後では366+269=635万円が429万円となり、この10年間の出費合計の現在価値は1,392万円で、設問(2)では、高級塗料が有利となった。

 このように物価上昇等を見込む程度によっては、長期に塗り替えの必要のない高級塗料に一括投資した方が有利ともなる。このような問題では、資本コストがいくらか、物価上昇等をどのように見積もるかで採算性比較の結果が変化することを念頭に、いろいろなケースを想定して計算して比較する必要があることが分かる。

経済性入門第5回

2012年03月13日 | Weblog
資本コスト

 前号の設問の解法で、限界利益の増加分と広告費を相殺したことに疑問があったかも知れないので、老婆心ながら解説を加える。実は損益分岐点売上高で、固定費は消え、その後の売上の増加は変動費を差し引いてすべて利益になっているのだ。最近の激安航空会社の航空運賃はさておき、通常の航空会社の定期便でも旅行会社の団体ツアーなどに相当安い運賃で航空券を販売できるのは、このカラクリによる。一定の席数(損益分岐点)を通常運賃で販売できれば、残りの席は変動費より高い料金で販売できれば、その差額はすべて利益となる。

 うどん屋の問題の場合を検証してみよう。このうどん屋の損益分岐点売上高は1,188杯、正確には1,187.5杯だった。そして2,000杯の売上の利益は26万円だった。(2,000-1,187.5)[杯]×(500-180)[円/杯]=26万円。すなわち損益分岐点売上高を超えた部分の売上からの利益は、販売価格から変動費のみを差し引いたもの(限界利益)がすべて利益になっていたのである。

 今回の主題に入る。企業が事業を行うためには、何といってもお金がいる。その調達先は自己資金(資本金=株主資本)であり、借入金(他人資本=有利子負債)である。自己資本は返済の必要はないし借入金のような利子も付かないが、株主への配当としてやはりコストがかかる。一方借入金は負債として返済の必要があり、利子の支払いが生じるけれど、利子分は営業外損失として計上出来る(法人税法上損金算入される)ため、その分税金が減るメリットはある。

 これら配当や税引き後の利子にかかるコストを「資本コスト」と呼ぶ。複数の資金調達源泉がある場合、それらの加重平均を求めて得られる値であり、加重平均資本コスト(WACC:Weighted Average Cost of Capital)*2)と呼ばれる。投資の採算性を比較する場合などに、将来に見込まれる投資額や収益を現在価値に割り戻す(正味現在価値法)場合にこの資本コストが使われるため、採算性分析に必要となる。

 企業は調達した資金のコスト(資本コスト)を投資して利益を生み出すが、その収益率は資本コストを上回る必要がある。資本コストは必要収益率の最低であるため、将来の投資額を現在価値に並べて比較する場合に、この資本コストで割り戻すのである。資本コスト3%の企業の5年後の1,000万円の現在価値は、1,000/(1+0.03)5=862.6万円である。

 有利負債が3,000万円で、自己資本1,000万円の会社のWACCを求めてみる。それぞれの税引き前資本コストは有利子負債が3%、自己資本を4%とし、実効税率を40%とすると、{1,000/(1,000+3,000)}×0.04+{3,000/(1,000+3,000)}×0.03×(1-0.4)=0.0235、すなわち2.35%となる。




*2)加重平均資本コスト(WACC)
  ={E/(E+D)}×rE+{D/(E+D)}×rD×(1-T)
  E:自己資本、D:他人資本(有利子負債)、rE:Eの資本コスト
  rD:Dの資本コスト、T:実効税率

経済性入門第4回

2012年03月10日 | Weblog
広告の採算性

 まずは前号に続き、本稿第1回の問題を与件として、次の設問を考える。

 『(設問5)このうどん屋が、新聞に折り込み広告を行うと、200人ほど客が増える見込みである。この折り込み広告の費用がいくら以内なら採算が取れるか。』

 現実的には、折り込み広告を行う範囲によって広告の規模が決まり、その対価が決まる。その費用に対して客が何人以上増えれば採算が取れるか。と考えるのが普通だと思うけれど、一人の従業員で対応できる範囲で考えたいという問題の制約上、先に客数増加を持ってきたものと考えられる。

 問題の前提から人件費は歩合でなく、かつ問題文の前提の中に「生産時間にはかなり余裕がある」とも入っていたので、一割(200人)程度客が増えても固定費は変わらない。またうどん一杯の単価は、固定費部分が低下するため、一杯の販売利益が増大する。「変動費は変化せず、固定費は変動する」という事実を確認するための問題のようでもある。しかし、この設問の答えを考える場合、最終的なうどん一杯の利益額は計算に使わない。計算に必要なのは限界利益である。

 200人の売上増加は、実は(200×うどん一杯の限界利益)分のキャッシュ増加と考えられ、広告費がその範囲内なら採算性があると考えるのが正解と思える。この場合、広告費に使える額は、200[杯]×(500-180)[円/杯]=64,000円以内となる。

 前号の設問1~4では、機会損失を考えるかどうかも問われたが、この(設問5)では広告を打つことで「(生産)の機会」が増加し、売上が増加するという機会損失とは逆の利益が生じている。しかしそれは、固定費が増加しない範囲で得られる利益であり、この場合は広告費に依存した利益である。

 広告費64,000円を費用に組み込んで、このうどん屋の利益の変化を検証してみる。広告をしていない時は、2,000[杯]×500[円/杯]=百万円の売上で、費用は、変動費の2,000[杯]×180[円/杯]=36万円に人件費の20万円、固定費配賦の18万円を加えて74万円。差し引き利益は26万円であった。そこで広告を打つことで売上数は2,200杯となって額は10万円増加した。この場合固定費の増加はないが、変動費が200[杯]×180[円/杯]で36,000円増加し、これに新たな広告費64,000円が加わり、費用増加分は、丁度売上増加によって得た10万円と釣り合うのである。広告費が限りなく0に近づけば、最大で64,000円まで利益は増加するが、折り込み広告をデザインから起して印刷し、折り込み手数料など考えると、余り利益の増加にはつながりそうにない。

 採算性を考える場合、前提が重要で、広告の効果で倍も客が来るようになれば、一定限度で「売り切れ御免」とするか、設備の増強や従業員増員などの判断が必要となる。売上が上がることが固定費の増大を伴うなら、広告の採算性にも大きく影響することを考えておく必要がある。

経済性入門第3回

2012年03月07日 | Weblog
限界利益

 本稿第1回に載せた問題からの設問がある。ただし、この問題の正答を私は持っていない。従って解答はデタラメかもしれない。あくまで頭の体操と思って考えていただきたい。

 『(設問1)うどんを客に渡す時に手元が狂って1個落としてしまった。客は待っていてくれたため、作りなおして出すことができた。落としたための損失はいくらか。』

 この場合、待っていた別の客が帰ってしまった。などという所謂機会損失を考える必要もなさそうだし、変動費のうちおしぼりは関係ないので、うどんの材料費等の150円がそのまま損失となると考えられる。

 『(設問2)折角客が入ってきたのに、当店の飼い犬に出くわして、犬嫌いの客が帰ってしまった。この犬が居たためのこの場合のうどん屋の損失はいくらか。』

 飲食店の店内に店側が動物を入れることはあり得ないとは思うけれど、そこは作られた問題である。この場合、客が帰って売上がその分減った(機会損失)と考えれば、500円の売上低下でその分が損失か。あるべき1個あたり130円の利益がなくなったのだから130円の損失。否、変動費を除く320円(限界利益)が無くなったとも考えられる。しかし、与件(問題文)にある通り、所詮月に2000個は売れるのだから、一人の客の出入りは全体の売上に関与せず、この場合の損失は無いとも考えられる。こちらが正答ではなかろうか。

 『(設問3)先のような犬嫌いの客が、おしぼりを使っている時に犬が出てきたために、あわてて出て行ったということにすると、うどん屋の損失はいくらか。』

 この場合は、確実におしぼり代の30円はキャッシュとして流失するため、損失となる。機会損失まで考えればこれにあるべき利益の130円などがプラスされての損失となるが、この場合もキャッシュが出てゆかない機会損失は考慮しなくてもいいように思う。

 『(設問4)客から千円札を貰ったので、500円釣りを渡したが、あとで貰った千円札がニセ札だと判明した。その客のためうどん屋はいくらの損をしたか。』

 この場合もキャッシュの流失のみを損失と考え、まずお釣りの500円、そしてうどんの材料費・加工費におしぼり代で180円。合計680円と考えるのがこの場合には妥当と思うが。

 異なった考え方として、先述の設問2のケースのように、本来入るべき500円が0になり、おつりの500円を持って行かれたのだから合計1000円の損失とも言えなくはない。ただ、月2000杯の売上が前提で問題が構成されている以上、このような客一人の入り出は設問3でも述べたように考慮しなくていいように思う。

 機会損失までを損失と考えた場合に、機会損失の範囲も問題になる。その範囲の一つに「限界利益」がある。限界利益=売上高-変動費=固定費+利益。もっとも変動費部分で材料が不良在庫化する場合までを考えれば、損失額はその部分をプラスしたものになる。

経済性入門第2回

2012年03月04日 | Weblog
安全余裕率

 損益分岐点の計算は、費用項目が固定費と変動費に明確に分けられておれば、後は公式によっていとも簡単に計算できるけれど、理屈をしっかり頭に入れておくことで、公式を忘れても対応できる。

 売上高(S)、利益(P)、変動費(V)、固定費(F)の関係はS=V+F+P・・・(①式)で、変動費率(α)と置くと変動費(V)=αSとなるから、これを①式に代入するとS=αS+F+Pとなり、Sを左辺に集めS-αS=F+P式を得て、S(1-α)=F+Pとなる。従って売上高(S)=F+P/(1-α)・・・(②式)が得られ、損益分岐点すなわち利益(P)=0を②式に代入して、損益分岐点売上高(SBEP)=F/(1-α)の公式が完成する。

 損益分岐点の練習問題は、通常前もって変動費と固定費を分けてくれているからいいけれど、現実には変動費と固定費を分けるのは結構大変である。従業員を雇った以上仕事がなくても給料を払う必要があるから固定費なのだけれど、忙しく残業が続き、それが生産量や売上高に反映されていれば残業代は切り離して変動費になると考えられる。水道代や電気代、光熱費も生産量や売上に連動する部分とそうでない部分がある。材料費でも厳密にみれば、生産量が多い時にはロス分が少なく、変動費割合は小さくなる傾向にある。

 そんなことで、総原価の費用項目(勘定科目)を固定費と変動費に分解する方法を知る必要がある。その代表的なものの一つが「勘定科目法」で、財務諸表上の勘定科目ごとに変動費か固定費かを決定しておく方法。科目中身の細かい内容は無視する。次に「高低点法」。過去の総原価の実績データのうち、最高と最低の売上高なり生産量のときの原価を直線で結び、外装して売上高なり生産量がゼロとなり、総原価を示す縦軸との交点とその交差する角度から固定費と変動費率を知る方法である。

 さらに確度を上げる方法として、「散布図表法」や「最小自乗法」が知られている。「高低点法」と同じ縦軸が総原価、横軸に売上高や生産量を取ったグラフ上に過去のすべてのデータをプロット(散布図を描く)して、中央線を引いて固定費と変動費率を求めるのが「散布図表法(スキッターグラフ法)」であり、プロットするデータから数学的に回帰曲線を求めるのが「最小自乗法」である。

 損益分岐点の実際の売上高に占める割合を損益分岐点比率といい、当然この数値は小さい方が、経営状態の安全度は高いといえる。例えば損益分岐点比率が90%であれば、余裕率(安全率)は10%ということ。前号に掲げた問題の与件から損益分岐点は月1,188杯と出たが、与件によれば毎月2,000杯売れることになっているから、この場合の損益分点比率は59%で安全率は41%であり、採算性の良さが数値で示された形となる。

 安全余裕率が低い状態であれば、景気の悪化等で売上が低下すると途端に赤字ということになるため、日頃から安全余裕率を高めに維持することが望ましことは言うまでもない。

 そのための方策として、売上高の向上と経費削減により損益分岐点比率の引き下げがある。売上高を上げるためには販売数量の増加もしくは販売価格の引き上げがある。勿論価格を上げた場合、そのために売上がそれ以上に落ちれば意味はない。経費削減には、変動費あるいは固定費、または両方の削減がある。いずれにしても採算性の向上は常に企業の課題となるのである。

経済性入門第1回

2012年03月01日 | Weblog
損益分岐点の計算

 およそ四半世紀前、工場の従業員教育で大学の先生から、「経済性入門」という講義を受けた。講義内容は面白かったように記憶する。その後の仕事を進める上で非常に参考になった研修の一つである。その時の講師の先生の著書*1)である教科書などを参考にしながら、経済性の評価について考えてみたいと思う。

 身近な家庭での採算性という問題では、原発事故で脚光を浴びる太陽光発電、ソーラーを自宅の屋根に付けるかどうかというのがある。この場合電気をどのくらい使っているかで損益が分かれる。ざっくりソーラー設備の設置に200万円掛かるとして、年間20万円電気代を払っている家庭で、その使用量がソーラーの能力内なら10年で採算が取れるが、10万円の家庭では20年掛かる。ソーラーの耐用年数は20年以上あるとしても、途中メンテをしないと出力が落ちてきそうな懸念もある。一方余った電気は当面電力会社が買い取ってくれるようだし、原発が完全停止すれば当然電気料金はさらに高くなるから、実際はもっと短い期間で元が取れるとも考えられる。損益は諸々のファクターを総合的に捉えて判断する必要があり、損益の分かれ目が損益分岐点となる。

 この場合、エコとか環境負荷軽減とかいう付加価値は当てにならないのではないか。コストは環境負荷分も入っていると考えた方がいい。ソーラー設備が高いのはそれを生産するために多くのエネルギーを使っているためで、生産過程では相当の環境負荷があったと考えるべきだと思う。ソーラー発電システムは環境負荷の貯金のようなものと思う。将来に亘って環境負荷低減があるとするなら、利子のようなものだ。ただし、貯金は目減りする時もある。

 電気自動車だって、充電する電気をLNG(液化天然ガス)や重油を炊いて発電所で作るなら、ガソリンエンジンでそれぞれの車で直接燃やして使った方がエネルギー効率はいいような気がする。もっとも電気自動車のモーター駆動の効率とピストン駆動のガソリンエンジンの効率の数値比較ができているわけではない。ただ発電所で熾した電気は送電線で大量にロスをすることは確かだ。もっとも、発電所は公害対策が充実していると思われるので、CO2以外の有害物質の拡散は抑えられる可能性はある。

 さて、主題に戻って、昔の研修での採算性に関する練習問題に挑戦してみようと思う。

 『(問題)「手打ちうどん」だけを作っている小さいうどん屋がある。月給20万円の従業員を1人雇っている(固定給)。「うどん」の売価は1杯500円、材料費および個数に比例する加工費は1杯当たり150円で、その他に売上数量によって変わらない固定的な諸経費(家賃、設備の減価償却、その他)が毎月18万円かかる。また、客にはおしぼりを出すが、そのコスト(おしぼり会社へのレンタル料)は1本30円につく。「うどん」の売上個数は毎月ほぼ2,000個で一定している。従って、費用や利益を1杯当たりに直してみると、次のようになる。

<「うどん」1個当たりの計算> ・売価(1杯):         500円
                ・材料費・比例加工費:     150円
                ・おしぼり代:          30円
                ・人件費(20万円÷2000):   100円
                ・固定費の配賦(18万円÷2000):90円
                ・利益(1個当たり):      130円
なお、毎月2000杯の現状は、生産にはかなり余裕があるものとする。』

 この場合の損益分岐点売上高を計算してみる。売価が500円で、うどん1杯にかかる変動費がおしぼりを加えて180円だから変動費率は0.36となる。損益分岐点売上高は、固定費÷(1-変動費率)だからその解は593,750円となる。すなわち593,750[円/月]÷500[円/杯]≒1,188[杯/月]以上の売上が利益を上げるために必要なことが分かる。

 毎月の売上2,000杯は、損益分岐点売上高から余裕があり、採算性は良好であるといえる。