知床遊覧船事故の教訓を新たに
遊覧船の船長さんのご遺体が見つかったこと。フィアンセと同乗し、プロポーズを遊覧船で受ける筈だった当時21歳の女性がロシア領で見つかっていたが、そのご遺体がこの度日本側に引き渡され帰ってこられたこと。などで、4月の知床遊覧船の悲劇が再び報道され、悲しみと怒りが新たになっている。
9月19日号の日経ビジネスにも、全体テーマが「出直し観光立国」であったこともあってか、「敗軍の将、兵を語る」に、当該事故の関係機関である、知床斜里町観光協会会長の反省文を掲載していた。
私事であるが、私は18歳で、工業高校卒業と同時に石油化学専業メーカーに就職した。そこでは1.5か月間の高卒新入社員を集めた座学の教育の後、製造現場に配属された。そこでも1か月の座学を中心に研修があって、三交代の現場に入った。石油化学の工場は、可燃性液体、ガスを大量に扱い、しかも高圧(超高圧もある)・高温(極低温の装置もある)での取り扱いも多いため、安全管理が最重要となる。
その後の現場での危険な実体験も含め、5年間ではあったが安全管理、安全意識は叩き込まれた感がある。
最近、70歳も過ぎて、診断士協会の新人向け支部研修で、「工場診断」というテーマで講師を務めたが、まず工場における「安全管理」を説いたことは言うまでもない。
中小診断士向けセミナーというと、それなりに専門性の高い講座が求められることもあろうが、私は常に「基礎的」な話を中心に据える。「そんな話は知っているよ」と物足らなく感じる受講生も多かろうが、皆さん知っているつもりで実は本当のところは身に付いていないことが多いのではないかと思っている。
国も「観光立国」を唱える前に、観光地の安全対策を総点検するべきだろう。もっとも私などが若いころは、道路整備が十分行き渡っておらず、観光バスが路肩を踏み外す転落事故など結構あった。当時からすれば観光道路は整備され、道路の表示板等の整備も進んだと思う。それにしても、世界遺産に登録された場所を観光する遊覧船が、非常時緊急連絡に携帯電話を使用することが許可され、しかもその観光ルートは電波の域外のエリアも多かったように聞くと、観光地は「安全管理」以前の状態だと思ってしまう。
企業の安全管理も確かに、しっかりした利益を出していない状態では不十分になりがちで、何といっても利益優先となるところに落とし穴がある。
救命胴衣など確保していても、海水温2℃とか3℃の海に放り込まれて、人間は何分持つのだろう。3歳児も居たという。その恐怖はいかばかりだったかと思う。膨らませ型プラ製の救命艇などの備え付けはできないのだろうか。
SOSが緊急事態発生と同時に近くの海上保安庁に届いたとしても、ヘリコブターで1時間以上かかるという場所であったという。しかし、個人で山に登って遭難したのとはわけが違う。地元観光協会と観光関連企業経営者、海上保安庁、地元警察合同の定期的な「安全管理」に関する会合を設け、安全管理の改善を皆で学んでほしいと思う。