中小企業診断士 泉台経営コンサルタント事務所 ブログ

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コーチング その10

2017年05月28日 | ブログ
ビリギャル

 「ビリギャル」は2015年に公開された映画のタイトルである。主演のギャルを演じた有村架純さんは、今、最も活躍している若手女優の一人である。

 実は映画「ビリギャル」の原作本は、「学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話」という少々長い題のノンフィクション。この本は2013年暮れに出され、ベストセラーとなり、2015年には文庫にもなっている。

 著者である坪田信貴氏は、個人指導の進学塾で講師をやっており、その時の体験に基づく全くの実話である。モデルとなった女性も「すべて本当のことです」と証言しているそうだ。

 そもそも慶應大学がどれほどのものか、大学に行っていない私にはよくは分からないが、卒業生は上から目線の人物が多く、全体としてあまりいい印象は持っていない。

 しかし、この話は、見事にコーチングが嵌った事例として称賛できるものだ。著者である坪田氏は、作中で『心理学を学んで生徒の指導に活かしてきた僕は、いつも初対面の時のしぐさや反応で、生徒の性格を見極め、指導方法を切り替えていきます』と述べている。金髪ギャルの主人公が入塾面談に来た時に、その風体とは裏腹に、しっかりと挨拶を返した彼女に、初対面で「行ける」と踏んだという。そこで、「志望校どうする?」「よくわかんない」「じゃあ、東大にする」「東大は・・・ダサいからいやだ」「じゃあ、慶應にする?・・・君みたいな子が慶應とか行ったら、チョーおもしろくない?」「おお、確かに!・・・超ウケる!」

 そして、彼女と共に、現状把握(学力テスト)が始まる。みごとに学年ビリの学力。高校2年生にして、小学4年生の学力。それからのやり取りは、引き続きそのまま漫才のネタになりそうな内容である。『しかし、僕が好感を抱いたのは、彼女がいずれの質問に対しても屈託のない笑顔でうれしそうに答えていたことでした』。

 聖徳太子を「せいとく たこ」と読み、きっと超デブの女の子でかわいそうだという。歴史上の知識を問えば、「イイクニ作ろう ヘイアンキョウ」追い打ちをかけるように「・・・ヘイアンキョウさんって何した人?」。『でも、僕はポジティブに考えることにしました。歴史関連のことを2“も”知っているじゃないか!と』。さらに坪田先生は、名前(聖徳太子)から人物像を描こうとしていた彼女の姿勢にも可能性を感じたという。『僕は、初対面の時に、この生徒の良いところはなんだろう、と必ず5つは探すことを習慣づけています。そして中でも一番良いところを、「こういうところが、いいよね!」と言葉に出してほめていきます』。

 こうして、信頼関係を構築してゆくわけだが、彼女の抱える問題は家庭にもあった。母親の子供時代にも遡り、問題点が浮き彫りになる。しかし、そのことが、彼女の母親が彼女に向けて絶対的な愛情を持つようになっていたこと。それが彼女を支え、彼女が持っていた莫大な資源となるのである。

 徹夜で勉強する娘が、せめて高校の授業中に眠れるようにと、教師と徹底的に交渉する。また、塾に通うには当然お金が必要である。母親は、子供のために積み立ててあった定期預金、自分で積み立ててあった生命保険も解約し、アクセラリー類はすべて売り、へそくりをかき集めてお金を工面する。そして娘が慶應に受からなくても、何も惜しくないと思っていた。娘が、この塾で勉強することにワクワクしている。だったら思い切りやらせたい。それだけだったという。娘が慶應をあきらめかけた時には、坪田先生の示唆にも応えて、娘と雨の中、車で名古屋から東京の慶応大学を見に行ったという。

 この本には、目標・計画の立て方・モチベーションの上げ方など、心理学テクニックや教育メソッドも述べられているが、この母娘の愛情物語こそが合格の、そして、この本の成功要因に私には思えたものだ。




本稿は、坪田信貴著「学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話」平成27年、株式会社KADOKAWA文庫特別版によります。


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コーチング その9

2017年05月25日 | ブログ
GROWモデル

 前項でコーチングのプロセスを述べたが、ここでは現場で実際にコーチングを実践する場合の典型的な進め方であるGROWモデルについて考察する。

 GROWは、GOALS(目標の明確化)、REALITY(現状把握)、RESOURCE(資源の発見)、OPTIONS(選択肢の創造)及びWILL(意志の確認)と、進め方のステップ順に頭文字を並べてものであるが、Growは、「育てる、育成する」という動詞であり、まさにコーチングの趣旨に適う。

 コーチングの進め方には諸説あって、唯一最善というものはない。しかし、何らかのガイドラインに沿って展開することは効率的で漏れも少なく進めやすい。GROWの5つのステップはシンプルかつ実用的で、非常に有効であると評価されているものだ。

 まず、GOAL(目標)を設定する。目標は曖昧であってはならない。ゴールまで息切れしないために、モチベーションを維持するためには、具体的で明確な目標が必要であり、それは何のために掲げた目標なのか、その目的も重要である。

 目標は、コーチングを受ける人のレベルによって、低めのところに設定する(ベビーステップ)場合もあるが、通常は実力より少し高めの「ストレッチ目標」とすることが多い。それはコーチングを受ける人の「HOPE TO~」(達成できたらいいなあ)というレベルでもある。

 ふさわしい目標を設定するためのフレームワークとして「SMART」の法則がある。S:Specific(具体的である)、M:Mesurable(計測可能である)、A:Agree upon(同意している)、R:Realistic(現実的である)、T:Timely(期日が明確である)の頭文字をとってSMARTである。

 次にREALITY(現状把握)であるが、現状を的確に把握することで、目標との乖離(ギャップ)も明確になり、目標がより見えるようになる。現状把握では、主観、推測、思い込みを排して客観的な事実だけをみること。現状把握を間違えると本当の問題を見逃して効果的な計画に結び付かない。

 現状が把握され、目標とのギャップが確認できれば、アクションプラン(行動計画)を立てるが、そのプランを推進するためのRESOURCE(資源:人、物、金、情報、時間)の確認が必要となる。そしてその実施方法(手段・方法・道筋)は、複数の案から選択できることが望ましく、「他に方法はありませんか?」「もっと良い方法を考えてみてください」などの質問によって、数多くの選択肢(OPTIONS)を得て、その中から最善の方法を選ぶのである。

 GROWの最後は、クライアントがそのアクションプランを絶対に実施し、目標を達成するという強い意思とやる気の確認で、「WILL」となる。具体的には、何を(WHAT)、いつまでに(WHEN)、誰と(WHO)をスケジュール表に記入することで、サポートが開始されるのである。

 以下に、各ステップにおける質問例を上げる。

 Goals:「今、あなたが一番達成したいことは何ですか」、「こうできたらいいと思っていることはありますか」、「その目標が達成されたとき、あなたはどんなふうに変わっていると思いますか」など。

 Reality:「今、一番緊急の問題は何ですか」、「現在の状況を具体的にまとめると、どのようになるのでしょう」、「今、重要なポイントは何だろう」など。

 Resource:「そのために誰かの力を借りることはできますか」、「その情報はどうやったら手に入れることができるのでしょう」、「その件について、詳しい人を知りませんか」、「あなたの一番の強みは何だと思いますか」など。

 Options:「例えば、こうしてみたいという方法はありませんか」、「明日からでもできることがあるとしたら何でしょう」、「これらの選択肢それぞれのメリット、デメリットを上げてみましょう」など。

 Will:「自分に言い訳をさせないために、できることはありますか」、「それを成し遂げたいという強い意思を持っていますか」、「成功のイメージが明瞭に描けていますか」など。

 GROWモデルは、プロのカーレーサーで、ル・マンでの優勝経験をもち、その後、英国でビジネスにスポーツコーチングを導入して高い評価を得た「はじめてのコーチング」の著者として知られるジョン・ウイットモアが用いた訓練法なのである*6)。





*6)by「新、図解コーチング術」佐藤秀郎著2010年8月初版、株式会社アーク出版刊
本稿は、「コーチング入門」<第2版>本間正人・松瀬理保共著2015年8月刊、日本経済新聞社刊及び「新、図解コーチング術」佐藤秀郎著2010年8月初版、株式会社アーク出版刊他を参考にして編集しています。
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コーチング その8

2017年05月22日 | ブログ
コーチングのプロセス

 『コーチングの真髄とは、人の潜在能力を解き放ち最高の成果を挙げさせることだ。教えるのではなく、自ら学ぶことを助けるのである。』

 そのコーチングも段取り八分で、まずは準備から。続いてコミュニケーションを取るため、信頼関係を構築するための会話に入る。ここに「傾聴」「質問」「承認」のスキルが活きる。

 コーチングの過程では、あらゆる活動と同様に計画(Plan)と体験(実行:Do)、さらにその結果を検証する(See)振り返りが必要である。

 まず「準備」段階で行うことは、相手(クライアント)のニーズに個別対応するため、どのような考え方をしているのか、どのように感じているのか、どのような問題意識を持っているのか、何がしたいかなどをリサーチし、それに基づく仮説を立て、その仮説を検証し、相手との接点を線、さらに面に広げてゆかねばならない。その際には、相手がどんなタイプで、どのような強みがあり、その強みをどのように引き出すべきかのシミュレーション(模擬的想定実験)が必要である。

 続いて、コミュニケーション技術を駆使(会話)しながら、何が問題なのか問題の特定化(明確化)を図り、問題意識の集中点を明確にする。問題解決のための焦点を明確にすることによって、コーチを受ける人の安心感ややる気が醸成される。「安心感で人を動かす」ことがコーチングの第一の鉄則なのである。

 行動量は、意識の度合いに比例すると言われる。あるべき姿をイメージしながら、どのように行動するかアクションプランを立てる。コーチングは未来に向かってサポートすること。目標について頻繁に数多く語り合うこと。「信頼関係を構築する」。これはコーチングの第二の鉄則。

 アクションプランができれば、それに基づいた体験をして貰う。コーチは、「準備」と「会話」の段階で、基本的な方向性を示すが、「体験」させる段階で一つひとつについて指示を出さないこと。学習能力を発揮できる環境を整備することに注力する。

 体験を通じた振り返りでギャップ(乖離)を修正する。つまり計画と実際(実績)とのギャップを修正する必要がある。この場合出来なかったことを指摘するのではなく、「できたことを成功として誉めつづけること」がコーチングの第三の鉄則である。

 コーチ自らが修正の指示・指摘をするのではなく、あくまでコーチを受ける人の自発性にまかせること。コーチは、不十分な点について、新しい視点を与えることが役割である。たとえ失敗があっても、不安感や恐れを感じさせないこと。成功するためには、失敗が不可欠あるいは前提であることを理解させる。

 コーチングでは、いかなる場合でも、「3つの原則」(①人は誰もが自分で答えを見つけ出す力を持っている。②人は誰もがパーフェクトな存在である。③人は誰もが限りない可能性を持っている)と上述の「3つの鉄則」に則ってクライアントと関わる必要がある。コーチングの基本は相手を認めること、つまりは相手をありのまま受け入れ、とことん信じて、相手の無限の可能性に目を向けることが、コーチに必要不可欠な心得なのである。



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コーチング その7

2017年05月19日 | ブログ
承認のスキル

 コーチングは、①人は誰もが自分で答えを見つけ出す力を持っている。②人は誰もがパーフェクトな存在である。③人は誰もが限りない可能性を持っている。という前提(3つの原則)に立って、一人の強みや持ち味を引き出してゆくコミュニケーションである。その中で「承認のスキル」は、傾聴、質問に次いで三番目に重要なスキルである。

 相手を認めるためには、しっかりと観察する必要がある。事実をしっかりと観察する能力が必要であり、相手の多様な持ち味、強み、長所、進歩、成長などを心に留めることが承認の第一歩となる。そしてそのことを相手にメッセージとして伝える必要がある。すなわち伝達能力が問われるのである。褒めればいいというものではない。それが事実でなければそれは単なる「おだて」「おべんちゃら」であり、成長を阻害し却って相手を傷つける結果を招く元となる。

 短所は長所、長所は短所と言われるように、表現次第で良くも悪くもなることは多いものだ。例えば、「軽薄、おしゃべり」な人と言えば悪口だが、「明るい、快活、面白い」では褒め言葉に変わる。「暗い」も「重厚、思慮深い」と言い換えられるし、「鈍い、愚鈍、不器用」は「慎重、冷静沈着、おおらか」と換える。

 相手を観察し、短所として気が付いたことも、長所の表現に変えながら、どうしても直して欲しい習性も、まずは良い所を認めてゆくことで、自身で欠点を修正してゆけるようにコーチングすることが必要である。

 褒める際のポイントは、①事実に基づいて本当のことを伝える。②細かい事実も見逃さないように。③褒めるタイミングも大切。④心をこめて褒める。⑤相手の状況、心理状態に合わせて褒める。言うは易しではあるが、コーチする側は、経験を積み上げてスキルアップしてゆくしかない。

 人は他人から認められることで、自信を得て成長できる。些細なことでも変化に気づき適切なメッセージを相手に伝えることで、見守ってくれているという安心と信頼を相手に与えることができ、力づけることになるのだ。

 仲間同士であっても、「君はいつも朝早く来ているね」「君は机の上はいつも整理整頓されているね」「それは、あなたしか思いつかないアイデアだと思うよ」「あなたは、いつも元気一杯で明るいね」「あなたのお陰で、私も勇気が湧いてきましたよ」「われわれは、みんな君に感謝しているよ」などの言葉掛けが自然に出来れば、お互いに嬉しいものだ。



本稿は、「コーチング入門」<第2版>本間正人・松瀬理保共著2015年8月刊、日本経済新聞社、及び「コーチングの手法と実践がよ~くわかる本」谷口祥子著 (株)秀和システムを参考にして構成しています。
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コーチング その6

2017年05月16日 | ブログ
物から受けるコーチング

 将棋の最年少棋士(藤井聡太四段)のプロデビュー以来の連勝記録が話題を呼び、お昼のワイドショーで紹介されるほどになっている。AI(人工知能)に席巻されそうだった将棋界には嬉しいスター誕生であろう。

 そして、彼が将棋を覚えたきっかけとなった、祖母が買い与えたという将棋のおもちゃ(スタディ将棋)や、幼少期に遊んでいたという立体パズルのCuboro(キュボロ・クボロ)が売れているそうだ。それらのおもちゃに天才を生み出した仕掛けがあるのではないかとの世間の想いである。確かに幼児期に子供に与えるおもちゃは、安全であることを前提に、何となく器用さや思考力を伸ばしそうな意味合いで購入するケースは大いにある。

 サービス業の品質保証で学んだことだが、サービスは通常「人対人」で行われると考えがちで、確かに「人対人」は大切であるが、実は、例えばホテル業などでは、客室という空間、すなわち“物”が顧客にサービスを行う割合が高いのだという。そこで、ホテル側はまず客室という物に対して、人が手を掛け心を尽くして顧客満足すなわち品質保証のために十分に配慮し設計する。それを「人対物」サービスと言う。お客さまが客室を使う間は客室がお客さまにサービスを行う。すなわち「物対人」サービスとなる。*5)

 子供のおもちゃでは、それを設計し製造するメーカーが、それで遊ぶ子供の満足と、加えて成長に資する部分を付加する設計を考えるのではないか。まず人がおもちゃに仕掛けを施し、そのおもちゃは子供が遊んでいる間に、遊びそのものだけでない示唆を与える。すなわちコーチングをしていることになるのではないか。

 おもちゃによって生まれたかもしれない天才は、そのおもちゃの作り手を知らない。おもちゃのお陰とも思わない。勿論その因果関係が立証されているわけではないが、現実には見事なコーチングが成立しているのかも知れないのだ。

 われわれは本からも刺激を受ける。専門分野とは全く関係のない書物から仕事に有益な大いなるヒントを得ていることもあるかもしれない。

 日頃使っている身の回りの品々。良く見ればいろんな工夫が施されている。当たり前と使っているけれど、アイディアを実用化し生産し販売し売れるまでには、困難な状況もあったであろう。

 数十年前は漫画の世界が、現実になっている。超高速鉄道(リニア)も立体交差の高速道路網もスマートフォンも自動運転乗用車も。そのうち何処でもドアが出来るかもしれない。いろんな刺激の知らぬ間の寡黙なコーチングを受けながら、天才と言う超高感度の受信機を持つ一部の人類によって、その努力によって過去の天才から物を介したコーチングが功を奏して、文明は発展して来たのではないか。



*5)「新版品質保証ガイドブック」(社)日本品質管理学会偏、日科技連2009年11月刊
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コーチング その5

2017年05月13日 | ブログ
質問のスキル

 カウンセリングでは、「答えはクライアントが持っている」という前提に立つといわれるが、そもそもカウンセリングもコーチングも「人がより良い人生を生きるためのサポート」に変わりなく、双方の技法も活動領域も重なっている。カウンセリングは問題解決であり、コーチングは目標達成(課題解決)であると言える。

 いずれにしても、その解決や目標達成のためには、この質問のスキルがキーとなる。クライアントが答えを持っているにしても、それを聞き出すための適切な「質問」が必要であり、この巧拙がコーチングの成果に直結する。

 適切な質問によって、情報やアイディア、解決策や意欲を引き出すのである。質問のスキルは、「状況に合わせて多彩な質問を発する能力」であり、コーチングとして専門領域に入る。

 質問には、大別するとクローズドクエッション(特定質問)とオープンクエッション(拡大質問)がある。特定質問とは、YESかNOかのどちらかを答えさせるもので、相手の答えを限定させる質問となる。一方拡大質問は、どう答えるか考えさせるもので、思考の広がりをもたせ、気づかせ、可能性を最大限にひきだすための質問である。

 コーチングでは主に、後者が用いられるが、事実関係を確認する時やコーチを受ける人の意思を明らかにしておきたい時などには、特定質問が使われる。

 拡大質問(オープンクエッション)では、「未来質問」(=コーチを受ける人の意識を未来に向けて可能性をイメージできるような質問)や「肯定質問」(=相手の可能性を肯定し、行きたい方向に誘導する質問)などもあるが、ここでは分類に囚われず、コーチングで使われる質問例を上げる。

 「一つ提案してもいいかな?」「良いアイディアがあるんだけど聞いてくれる」「君はその時、どんな風に感じたの」「あなたが、一番やってみたい仕事はどんな仕事ですか?」「それは、どうして」「それでどうしたんですか」「いつ頃から、そう思っていたのですか」「例えば?」「他には?」「それについて、もっと聞かせてくれませんか」「今、話してみてどんな感じですか」「どんなアイディアが思いつきましたか」「今できることを3つあげるとすれば、何と何だろう」などなど。

 これら質問のスキルを上手に活用するためには、原則がある。①「答えやすい質問」から始める。但し、質問攻めにしないこと。一方通行の質問では、説教調になってしまう恐れがある。双方向の会話がコーチングの基本である。②質問は短めに。③語気に気を付ける。どんなトーン、イントネーションで質問するかで印象や効果は大きく変わる。詰問調になってはコーチングから外れる。常に一緒に目標を達成するのだという気持ちで質問すること。

 「ほかに何か問題は?」と聞けば「ありません」という答えが返ってくるだろう。「ほかに問題があるとすれば、それは何でしょうか?」と聞けば、相手はさらに良く考えるだろう。




本稿は、「コーチング入門」<第2版>本間正人・松瀬理保共著2015年8月刊、日本経済新聞社、及び「コーチングの手法と実践がよ~くわかる本」谷口祥子著 (株)秀和システム2010年2月第1版第2刷及び「はじめてのコーチング」ジョン・ウイットモア著、清川幸美訳、ソフトバンクパブリッシング(株)2003年8月刊を参考にして構成しています。
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コーチング その4

2017年05月10日 | ブログ
傾聴のスキル

 プロが使うコーチングのスキルは、100種類くらいあるそうだが、最も大切なスキルを3つ上げると「傾聴」「質問」「承認」となる。通常、企業のマネージャーが部下とのコミュニケーションにコーチング技法を用いる場合、まずはこの3つを会得することが必要である。中で、「傾聴」は日常生活にも大切なスキルであり、マナーの部分もある。「質問」や「承認」のスキルとなるとずっと専門的になるが、「傾聴」はコーチングの専門家でなくとも必要なスキルである。

 人望のある人には聞き上手の方が多いと云われる。「聴く力は人徳に比例する」とも言われ、「コミュニケーション上手は聴き上手」と言われる。そしてコミュニケーションは、仕事であれプライベートであれ、他人との付き合いの基本となるものだ。

 わが国でも古来、「雄弁は銀、沈黙は金」などと、やんわりと多言を諌めている。「多言は身を害す」とのことわざもあり、おしゃべりは、とかくいらざる事をしゃべったり、漏らしてはならぬ事を漏らしたりして、身を誤るから慎まねばならない。と諭しているのだ。政治家に失言が多いことでも頷けることだ。

 聴き上手になるために気を付けることは、コーチングの教科書でなくても、一般の教養書にも話を聞くときの時のマナーとして述べられている。コーチング以前のビジネスマンとしての素養でもある。

 コーチング本には、アクティブ・リスニング(積極的傾聴)の三要素として、「繰り返し」、「あいづち」、「うなずき」を上げている。相手の話のポイントとなる言葉をオウム返し(繰り返し)にすることで、相手には言葉と思いを受け止めて貰った安心感を与える。あいづちでは、「なるほどね」「そうそう」「そうですね」「たしかにね」など役立つフレーズがあり(同意のあいづち)、「へ~」「ほ~」「そう~」「そうですか」「おもしろいね」「わかる気がする」(共感のあいづち)、さらに「から」「ので」「だから」などの順接(一方が成立すれば他方も成立する関係)の接続詞を使った催促のあいづちや、「つまりこういうこと」「ポイントはこうですね?」など整理するあいづちを使って、徹底的に話を聞く姿勢が話し手の信頼感を高める。

 また、話を聞く際の心構えとして、可能な限り相手に好感を持つこと、相手の話を共に楽しむ気持ちを持つことや心を開いて接することは重要である。相手の話を途中で遮らない、途中で横取りしない、最後まで聞くなどはコーチング以前のマナーの範疇である。

 コーチングにあっては、話し合いの場所を選ぶことから始め、相手と対面であるよりはテーブルなどを挟み、90度の角度で向かい合うこと、カウンター席などの隣に陣取る座り方も話しやすいポジショニングであるといわれる。

 話を最後まで聞くことは勿論であるが、部下からの提案などに対して、初めから否定する発言はコーチングにはない。たとえ間違った提案であっても、頭ごなしに否定するのではなく、「なるほど」「面白い視点だね」「そういう風に考えたことはなかったなあ」などフレーズのレパートリーを増やしておく準備も大切である。結論を急がず、できるだけ部下に考えて貰うような対応がコーチングの基本である。




本稿は、「コーチング入門」<第2版>本間正人・松瀬理保共著2015年8月刊、日本経済新聞社、及び<新版>「上手な聞き方・話し方の技術」福田健著2008年2月刊、ダイヤモンド社を参考にして構成しています。
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コーチング その3

2017年05月07日 | ブログ
コーチングとは

 昔からスポーツの世界で「コーチ」とはよく聞く指導者の名称だ。コーチにingを付けた形のコーチングはこのコーチから出てきた言葉であることは間違いなかろう。

 コーチはその技術の向上を指導、支援する立場の人である。「コーチする」という動詞の定義は、「指導する、訓練する、ヒントを与える、事実を教え込む」*2)であるが、非常に成果を上げたコーチのやり方を観察していると、「指導」、「訓練」、「教える」ことより「ヒントを与える」に比重が高いことが分かる。コーチは単に技術を教える(ティーチング)のではなく、コーチングに進化、そして深化させていたのだ。

 因みに、コーチの語源はハンガリーの小さな村の名前に始まる。15世紀にこの村の馬車職人がサスペンション付の馬車を製造し好評を得たところから、コーチ村の馬車が「4輪の旅客用の馬車」の代名詞となり、「大切な人をその人が望むところまで送り届ける」という意味で使われるようになった。学習指導やスポーツで「コーチ」が登場するのは19世紀末のこと。マネジメント分野に登場するのは20世紀半ば。企業経営に有益な技法として脚光を浴びるようになったのは、1980年代に入ってからである。*3)

 グローバル化とIT化が急速に拡大し、第三次産業の占めるウエイトも高くなった。産業界は画一化された製品を量産すれば良かった時代を終える。時代背景が変われば個々の人間も変革が求められる。自己責任ということばが使われ、自律型(自立型)の人材が求められる。個が尊重される今日、自らが考え、決定したことについて創造力を働かせて自らが積極的に取り組んでいかねばならない時代に、自らが答えを発見するコーチングが注目されるようになったのだ。

 『コーチングは命令・統制型マネジメントの対極に位置する行動である。』

 『有能なコーチは、めったに解決法を与えたり処方したりしない。』

 『クライアントは確かに何かを学ぶが、それはコーチから教えられるのではなく、刺激を受けて自分自身で発見するのだ。』*4)

 「コーチのお陰で成功できました」というコメントを聞くが、本当は「自分がやり遂げた」と言わせること、つまりクライアントが自然にスキルを修得できるような環境をつくり、自分で成し遂げたと思わせることがコーチの役割なのである。

 スポーツの世界では、コーチ、インストラクターやトレーナーなども同義に用いられているが、技術の指導、訓練法の伝授から選手の体調管理まで広くマネージする役割を持つ。コーチングはその過程で、よりよく選手の能力を引き出すための技法である。

 さらに「名選手は名監督」にあらずなどと言われるが、選手として優秀な人は、往々にして、自分の成功体験を教えこもうとしがちである。つまり、相手の立場に立たずに、相手にスキル(技術・能力)を教え(ティーチング)ようとする。コーチングの対極になっていたことが失敗の原因である。コーチングは信頼関係によるパートナーシップを基本とし、相手の立場(相手の目線)に立ったパートナー(上下関係ではない)としての役割を果たさなければならないのだ。


 

*2)by『コンサイス・オックスフォード辞典』、「はじめてのコーチング」ジョン・ウイットモア著、清川幸美訳、ソフトバンクパブリッシング(株)2003年8月刊
*3)by「コーチング入門」<第2版>本間正人・松瀬理保共著2015年8月刊、日本経済新聞社
*4)by 「はじめてのコーチング」ジョン・ウイットモア著、清川幸美訳、ソフトバンクパブリッシング(株)2003年8月刊
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コーチング その2

2017年05月04日 | ブログ
コーチングの罠

 「人を見て法を説け」という格言がある。北朝鮮に核開発や長距離ミサイル開発を止めるように話して聞いてくれるわけではない。自分の国は相当量の核兵器や高性能ミサイルを持ちながら、小国だから持ってはいけないというのは、勝手ではないですか。というのが恐らく北朝鮮の言い分で、核兵器を持たねば対等の話し合いにならない。いつまでも従属関係を強いられると信じているようだ。単に米国向けだけでなく、恐らく中国に対しても同様の気分であろう。

 米国は、中国に北朝鮮への説得を依頼するが、そもそも現在の北朝鮮と中国の関係は昔のように友好的ではなかろうと診る。中国も北朝鮮には手を焼いているのが実情で、抑える力はないが聞いているようなふりはする。中国は米国の東アジアに展開する軍事力の誇示を、臥薪嘗胆、自分たちの軍事力が米国を凌駕するまでの辛抱と、今のところ面従腹背である。間隙を縫ってロシアが北朝鮮に手を差し伸べる構図になってきた。

 新任のマネージャーが、中途半端な能力と覚悟で、命令や統制ではなく、皆の意見も聴きながら職場を変えようなどと考えると、古狸連中に、今度のマネージャーは御しやすいと侮られ、収拾がつかなくなる恐れがある。古狸連中へのコーチングには高度なコーチング技法を習得しておく必要があるようだ。

 スポーツのコーチだって、基本がしっかり出来ている選手に対して、さらに上を目指すのならコーチング技法は有効であろうが、基本が出鱈目な上に、しっかりした練習法も学んで来ていない連中に、自分で考えた練習をやらせて成果がでるものではない。基本を学ぶところから始めて貰う必要がある。

 コーチングを有効に行うためにも、相手を選ぶ必要があるのだ。

 「ゆとり教育」などもコーチングと似た発想のように思えるが、こちらも出来上がった人間(官僚)の一方的な思い込みで、使い方を間違えた代表例。経験の未熟な児童や生徒が自由時間を自分で考え有効に使える確率は小さいのだ。それでも未だに支持する向きもあり、「私も子供の頃に、ガツガツ勉強などしませんでした」などと、ご自分の天才ぶりを吹聴したいのかどうかテレビで発言している高名なジャーナリストもおられた。しかし、「鉄は熱いうちに打て」のことわざ通り、学問や人間としての躾の基本は、子供の頃にしっかりと会得させておく必要がある。

 万能薬は無いように、コーチングを学んでこれで往こうなどと、国家の教育体系や小さな組織であってもそれを預かる者は安易に考えない方がいい。環境、対象、時間、場所などあらゆる変動要因によって、その用いたかは変わってくるものと思う。コーチング技法を適切に用いるためには、しっかりとコーチングの真髄を学ぶ必要があるのだ。半端では却って方向性が曖昧になり現場を混乱させる恐れがあるのだ。
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コーチング その1

2017年05月01日 | ブログ
誰でも使えるコーチング

 ある教室の社会人講話の時間に講師をやらせていただいている。安全、品質、5S、改善提案、企業経営、エントリーシートの書き方etc、以前は経済の話などもやっていた中で、コーチングの話も盛り込んでいる。勿論、専門家としてコーチが出来るようになるための講座ではない。職場や家庭で、仲間や親子での何気ない会話が、相手を勇気付けたり、逆に傷つけたりはよくあることで、コーチングの話法、心がけ的な基本を知ることで、周囲の人を傷つけるよりは、勇気付ける確率が高くなることを願っての講座である。

 何事も奥が深い。他人様にコーチングの指導ができるような知見も経験もないが、事業再生研修のカリキュラムの中で指導を受け、また専門家によるコーチングセミナーの受講、そしてコーチングの本からの借用で、基本的な話はできる。受講生の能力は分からない。釈迦に説法になるかも知れず、一方で何か一つでも受講生の心に残り、これからの生活に参考にして貰えればとの願いである。

 部下を育てるには、「部下を立派な人として扱えばいいのです」とコーチングの本*1)にある。家庭で、自分の子供の能力を伸ばしたいと思えば、この子は天才だと信じることだ。出来ないことを詰るのではなく、出来たことを「凄いね!」と褒めてあげることだ。一般的に人間は他人から認められたいという欲求がある。子供はもっとも身近なそして愛する親から認められることは最も嬉しいことの筈だ。

 子供が成りたい自分に「こうしなさい。ああしなさい」と命じるのではなく、「そのためにどうすればいいのかな」と問えば、小学生の子供だって、結構分かっているもので、学校では先生の言うことをよく聞いて、宿題もきちんとやって、と自分で答えを引き出すように向かわせるのがコーチングのエキスで、その程度のコーチングの真似事なら誰にもできる筈で、それでいいのである。




*1)「コーチングの手法と実践がよ~くわかる本」谷口祥子著 (株)秀和システム2010年2月第1版第2刷

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