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安全考その3

2011年05月07日 | Weblog
知識の重要性

 若い頃に何かの本で読んだ次のような話は、安全管理の一つの教訓となった。

 『先の大戦が終わって中国戦線から引き揚げる日本兵は、大変な思いをした。中国大陸は広い。加えて日本兵には食料がない、水がない。日本兵といっても、徴兵制度や開戦後徴兵された一般国民も多い。青白きインテリといわれるような人から、頭は兎も角、体育会系で体力自慢の無頼者まで様々であった。彼らの中で、無事に生還を果たせたのは、過酷な環境に耐え得ると考えられる屈強な体力自慢の者ではなく、青白きインテリが多かったというのである。それは、体力自慢の者は喉が乾けば、泥水でもすすった。しかし、インテリは、そこに生息する細菌の怖さを知っており、怖くて飲めなかったためだという』。

 産まれおちて、本能的に知っている自己防衛能力は限られており、意識するかしないかに関わらず、体験による感覚知および教えられ、または自ら学んだ知識によって人は危険を知ることは多い。文明社会は利便性の見返りとして新たな危険を限りなく生み出している。人間が作り出した危険物も多い。本能だけではリスクを回避することは不可能なのである。

 例えば、車の燃料であるガソリンや家庭で暖房用に使用している灯油は、非常に燃えやすい危険な液体であることは大抵の人は知っている。その取扱いについては、ガソリンは一層の注意が必要であることも知っている。そんな漠然とした知識に少し科学的考察を加えると危険の本質が見えてくる。

 ガソリンの引火点はマイナス40℃以下(-20℃~-40℃とのデータもある)で激寒地にあっても空気との燃焼範囲の混合気を常に発生させるのに対して、灯油の引火点は40℃以上。すなわち、灯油は真夏でさえその蒸気が燃焼範囲に到達しないのである(但し、霧状に噴霧された場合は常温でも引火の危険がある)。また沸騰する温度すなわち沸点*4)もガソリンは灯油より低く、開放状態においた場合の気化拡散速度も灯油より早い。いずれも蒸気となった場合、空気より重く(約3~5倍程度)低地や窪地に滞留し、引火爆発的燃焼のリスクを高める。
 
 とにかく化学物質には、燃えやすい物から発がん性など人体に非常に悪影響を与える物など、危険なものばかりと考えた方がいい。しかし、それをうまく使えば、錬金術のごとく人類に有益な物質を生み出してくれる。要は取り扱う物質の危険性を熟知して、取扱い法を心得ることが必要と言う訳である。知ることが安全の第一歩なのである。

 労働災害として酸欠事故は多くはないが*5)、一旦発生すれば救助をしようとした仲間をも巻き込む事例が多く、死につながり易い怖い事故である。それらは、事業者の酸素欠乏症等に対する認識の不足が原因で、そのため、労働者に対して必要な知識が与えられていないために発生しているとの報告がある。すなわち、これを防止するためには偏に一般常識以上の知識が必要なのである。

 空気の組成は酸素が約21%を占めている*6)が、マンホール、発酵タンク、穀物サイロ、井戸、基礎抗、トンネルなど換気の悪い場所では、穀物や微生物の呼吸、土中の鉄の酸化などにより酸素濃度が低下しやすい。また船倉タンク、ボイラーなどの密閉された鉄の構造物も、鉄さびが発生すると酸素濃度は低下する。これらの場所での作業では、まずこれら危険性についてよく認識しておく必要があるのだ。また高圧ガスや可燃性液体、空気との接触で酸化劣化する物質などのシールに使われる窒素などの不活性ガスも酸欠事故の原因となる*7)。

 酸欠事故と硫化水素(H2S)中毒*8)は併せて取り上げられるけれど、それは水の酸欠が嫌気性バクテリアである硫酸還元菌を増殖させるためである。動物の体を構成するたんぱく質*9)は、アミノ酸重合体の硫黄架橋された構造をおり、動物や魚介類の死骸が硫黄供給源となり、硫酸還元菌の働きで硫化水素を発生させるのである。

 防災のために必要な知識は限りない。前項の危険予知(KY)と絡め周辺の危険物について改めて調査し、安全作業や日常生活の安全に生かして欲しいと思う。






*4)ガソリンも灯油も混合物(ガソリンは炭素数4~10程度、灯油は炭素数9~15程度のいずれも炭化水素からなる混合液体)のため、一定の沸点を持たない。
*5)酸欠場所における硫化水素中毒と併せ年間20~30件というデータがあり、
 毎年10数名の命が絶たれている。
*6)酸素濃度18%が安全下限。16~12%で集中力の低下、頭痛、耳鳴りなど人体に障害が出る。10~6%では嘔吐、幻覚、意識喪失などさらに重篤な症状が出る。酸素濃度6%以下の空気を吸うと直ちに失神、昏倒、心臓停止。
*7)中央労働災害防止協会編「新酸素欠乏危険作業主任者テキスト」から引用。
*8)空気中50ppm以上で障害が出る。600ppmでは、30分の曝露で生命の危険。0.1%(1000ppm)以上で即死の危険。
*9)人体(60%は水分)にたんぱく質の占める割合は約~20%といわれる。
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