サタジット・レイ『大地のうた』

2008-05-06 10:18:22 | 塾あれこれ
『大地のうた』は西ベンガル州政府制作の映画です。

祖母、と夫婦、姉弟の5人家族を描いています。
貧しいけれどもしっかりした家庭。

汽車の扱い方などとても印象的なところの多い
映画でした。
白黒映画ですがカメラも美しい。
上手ではないかもしれませんがね。


淀川長治さんのようにエンエン映画の内容を話する
のには技術が必要です。
大いに端折って雨が来るシーンだけを述べます。

物語としては子供が雨に遭うというだけの意味しか
ないのですが、大変に重要な場面でもあります。
映画が描くのは家族の姿だけではない、からです。


岩波のパンフレットにはシナリオが採録されています。
『大地のうた』は品田雄吉(あのヒゲの映画評論家)が
担当されています。
美しい映画をかなり上手に文章にしておられますが
無断でここに引用するとお叱りを受けるでしょう。

幸い?当時映画キチだった私のメモがありますので
そのシーンを再現してみましょう。
いかに細やかな映画であったか・・

①小さな池の水面に風が渉ります。小波が美しい。

②静かな水面にアメンボウ。トンボも飛びます。
 池にはハスの葉が茂っています。

③家では犬や猫が寝そべっています。蒸し暑そう。
 小鳥が写り、お母さんは午睡。

④姉が化粧をしている。
 身だしなみでもあるのでしょうが大人に近づく
 年齢でもあるのですね。

⑤姉は庭に降ります。

⑥母の午睡。けだるいほどの平和な光景。

⑦庭では姉が木を植えている。

⑧道を歩いている弟、と庭の姉のカットバック

⑨道をゆく人々、空の雲行きがあやしい。

⑩庭でお祈りをする姉

⑪雨の気配に走り出す弟

⑫何か一心にお祈りをしている姉

⑬母が起き上がる

⑭家に走って戻った弟。道を走る人々。

⑮池に強く風が吹き、揺れるハスの葉。

⑯洗濯物を取り込む母、姉の名を呼ぶ。

⑰道を走ってゆく姉弟

⑱池の端、誰かの禿頭にポツリと雨粒が
 雨傘をさす男

⑲池に降る雨

⑳雨の中を走る弟

21 びしょぬれの犬が家に入って身震いする

22 沛然たる雨

このあとは引き続き子供たちが雨に打たれている
シーンになりますが省略します。

雨中の子供のシーンの後、映画は一転、熱をだして
寝込む姉へ。

姉は肺炎を起こして亡くなってしまいます。


説明が細かすぎましたか?

実は②のところだけでも数え切れないほどの美しい
画面を細かくカットでつないであります。
映画を研究する人ならもっと詳しく調べたいでしょう。

ただ細かくするだけならばだれでも可能です。
それを退屈しないようにつなぐことが難しいのです。
細やかな感性としっかりした理性がないと出来ません。

クロサワ型のアジア的感覚も大切ですが
現代の日本にはレイ型の細やかさが欠けている?

今の若者に上記のシーンを撮らせたら数カットで
済ませてしまいそうです。
レイの映画はもう分からない若人も多いのかなあ。


できればもう一度①からのカットを見てください。
姉を思い出している雨なのです。


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