MrKのぼやき

煩悩を解脱した前期高齢者男のぼやき

わたしの夫は見知らぬひと

2012-02-15 15:22:10 | 映画

10日、バレンタインデーに照準をあわせて全米で公開、
早速、同週末の興業収入ランキング1位となった
映画“The Vow”(原題)は一見感動的な内容だ。
ペイジとレオの新婚夫婦が自動車で衝突事故を起こす。
重傷を負った妻ペイジは一時期危篤状態に陥る。
レオの献身的な介護により、奇跡的な回復を遂げたが
彼女は過去5年間の記憶を失っていた。
夫のことも、夫と出会ってからのことさえ思い出すことは
できなかったのだ。
レオはそんな彼女の記憶と愛を再び取り戻そうと
一人の男性として彼女に愛されようとするのだが…。
妻ペイジに『シャーロック・ホームズ』のアイリーン役を演じた
レイチェル・マクアダムス。
夫レオ役を『G.I.ジョー』のチャニング・テイタムが演ずる。
実話に基づいた作品とのことだが、
あまりに作り話的で美しいお話すぎて
ちょっと抵抗感が拭えない(結末は知らないが…)。
この話題に関する CNN からの記事を紹介する。
著者は CNN health の心の健康の専門家 Charles Raison 医師。
Tucson にある University of Arizona の精神医学の准教授である。

2月10日付 CNN.com

'The Vow' shows our brains are stranger than fiction
映画 “The Vow” は私たちの脳が小説よりも奇なることを示してくれる

Thevow

By Charles Raison
 スポーツで頭をぶつける子供たちから戦場で頭部を打撲する兵士に至るまで、外傷性脳損傷(traumatic brain injury, TBI)は昨今メディアで盛んに取り上げられている。
 悲しいかな、TBI はきわめて頻度が高く、米国疾病対策予防センターによると、米国では年間 170 万人が発症しているという。この疾病の重症度は、長期的後遺症のない軽度の脳震盪から、昏睡や死に至るような重症の脳損傷まで幅広い。
 今、ハリウッドは、映画“The Vow”で TBI に対して国民的な議論を招いている。本映画は、TBI の悲劇的なケースによって夫婦間の愛がどのようにして大きく壊れされたかを物語る実際にあったできごとをもとに作られたものである。
 この映画では、結婚したばかりの若い夫婦が悲惨な自動車事故に遭遇し、そのため妻に重篤な脳損傷が残る。彼女は過去5年間の生活を完全に忘れていた。
 彼女はそれ以降に夫と出会っていたため、今は彼女にとって彼は全くの見知らぬ人である。彼はいまだに熱愛していたが、彼女は困惑する。これまでに出会った記憶のない誰かと、人生を、そしてベッドを共にすることをどうして彼女は承諾できるだろうか?それでも、その夫は、自分の妻を取り戻すことを固く決意し、愛の火を再び取り戻すことを願って彼らはもう一度付き合い始めようとする。
 非常識なハリウッドの古典的なお手本が人生を騙っているだけ?決して起こりえないことに違いない…。とはいえ幾分それに類したことは起こるのである。実際、この映画の多くの基本的事実は Kim および Krickitt Carpenter 夫妻の実話に基づいている。そしてこれは、医学に関連して重要な問題を浮かび上がらせている。
 医師としての数十年間の経験で何かを学んだとするなら、それは、人間の脳と身体は小説よりも奇なりということだ。もしそれが想像できることであれば恐らく実際に起こっている、そして決して想像しないようなことの多くもまた現実に起こっているのである。
 実際、記憶喪失は外傷性脳損傷後にはかなり頻繁に認められる。通常、以下の二つのタイプのいずれかの形で見られる。
 順行性健忘は二つのタイプのうち、より頻度の高いものである。このタイプの記憶喪失は受傷後の一定期間、新たな記憶の形成ができないことを特徴とする。
 逆行性健忘はより頻度の低いものである。これが起こると、患者は頭部外傷に先行して起こったことの記憶にアクセスすることができなくなる。通常この“失われた時”の期間は短い。しかし、特殊な例においては、一年間あるいはそれ以上の期間の記憶を失うことがあり、Carpenter 夫妻の話はこれによって説明される。
 映画“The Vow”が現実から逸脱しているのは、重症の健忘を生ずるほど重症の TBI であれば、そんな TBI のエピソードは、その人に対してそれ以外の多くの障害を生ずる可能性があるという事実を軽視している点にある。15年前の People.com の記事で明らかにされているように、Carpenters 夫妻の失われたロマンスを再び燃え上がらせることは、Krickitt さんの失われた記憶に取り組んだのと同じくらい、彼女の人格の変化に何とかして取り組む必要があった。
 重症の頭部外傷の多くの人たちと同じように、彼女は事故の後、事故の前とは同じ人間ではなかったし、その変化は良いことばかりではなかった。
 人間の性格を変化させた TBI の歴史上最も有名なケースは1848年に起こっている。非常にまめで、誠実な完全主義者で勤勉な鉄道乗務員の責任者だった Phinneas Gage 氏は、脳の前頭部の多くを、不運な事故で頭部を直撃した鉄の棒によって吹き飛ばされた。驚くべきことに Gage 氏が近くのホテルに運ばれてきたとき頭を光が透けて見えたにもかかわらず彼は意識を失っていなかった。
 Gage 氏は顕著な回復を見せたが、時とともに彼の知人たちは奇妙なことに気付き始めた。Gage 氏は怠惰で、不精で、短気で、直情的で、だらしなくなっていた。彼は酒を飲み、売春婦に金をつぎ込んだ。彼は職を失い、社会の下層へと落ちてゆき、彼の窮状を知った人たちの善意でなんとか生きのびた。
 こういった点を考慮すると、映画“The Vow”は TBI の悲惨な真実を忠実に表わしていないと言える。つまり、TBI はしばしば人から、その人たるものを奪うが、それは単に記憶だけでなく、思考力や感情や行動も含まれるのである。
 さらに、記憶喪失そのものは時々、深い哲学的重要性を持った問題を提起することがある。数年前、私には神学的意味合いにあふれた非常に驚くべき経歴を持っていた患者がいた。彼を Carlos と呼ぶことにしよう。
 ギャングが初めてアメリカの舞台に登場してきたころアリゾナ州の小さな町からやってきた。10代のころ、彼は、当時はしりとなっていたギャングの一人と付き合い始め、次第に暴力的になり軽犯罪に手を染めることになっていった。しかし、当時18才だった彼は強い改宗を行い、信仰を新たにしたクリスチャンとなった。彼は飛び出しナイフを聖書に持ち替え、犯罪人生を捨て、地元のジュニア・カレッジに入学した。
 ある夏の暑い日、彼は所属する教会グループとピクニックに出かけたとき、運転中、橋から浅い水路に落ち、川底の泥の中に突っ込み頭部を打撲した。友人たちは彼を引きずり出し、近くの病院に急いで連れて行った。彼は、その日ほとんど意識がなかった。
 彼が意識を回復したとき、すこぶる正常に見えたが、ただ一つ、際だった症状が確認された。“The Vow”のヒロインや、実在する Krickitt Carpenter さんと同じように、彼には逆行性健忘の強い症状が認められ、健忘の期間は1年半までさかのぼり、彼にはこの間起こったことについて全くつぎはぎだらけの記憶しかなかった。
 特に彼に思い出せなかったことは、彼の強い改宗経験だった。彼は、自分がどうして聖書についてそんなにまで知識があるのか混乱した。そして、かつての教区民たちによるたゆまぬ努力にもかかわらず、彼の言葉によると、再び “神に対して心に火がつくことは” なかったという。しかし、彼は犯罪生活に戻ることもなかった。彼はジュニア・カレッジでの生活を続け、電気技師となり、結婚し、ついには小さなコミュニティの市議会議員となった。しかし、クリスマスと復活祭の時を除いて妻が彼をうまく教会に連れ戻すことはできなかった。
 この物語が強調することは、他のいかなる傷害以上に、脳への傷害は、私たちの多くがむしろ見落としてしまいがちな問題を提起しているということである。私の患者は魂の救済を失ってしまったのだろうか?あの事故は彼の魂を変えてしまったのだろうか?頭部の打撲によってそれほど根本的に変わってしまうことがあるとするならば、魂というものは存在しうるのだろうか?
 これらの疑問に対する答えは誰も持ち合わせていない。しかし、TBI に見られるしばしば悲劇的な後遺症に対していくらかでも慰めがあるとするならば、適正に機能している私たちの脳が実際にいかに尊いものかということをこの病態が私たちに思い起こさせてくれるのだということだ。

いかにもハリウッドが好きそうな題材だが、
このようなお膳立ての整ったラブ・ロマンスは
日本人の好みでないような気がする。
日本での公開は現時点では未定とのことだが、
ものすごく観てみたい映画、
ではないようだ。

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