MrKのぼやき

煩悩を解脱した前期高齢者男のぼやき

医学の進歩 2009

2009-12-28 21:02:31 | 健康・病気

いよいよ2009年もあとわずか。

絶え間なく進歩を続ける医学だが、

time.com で特集されている『2009年何でもトップテン』から

今年の医学の画期的発見トップ10を紹介しておこう。

1225日付 time.com

Top 10 Medical Breakthroughs 2009年医学飛躍的前進トップ10

Mammography

1. New Mammography Guidelines 新しいマンモグラフィー・ガイドライン

 女性の乳房についての議論を政策的議題に上げるのはワシントン的には通常スキャンダルととらえられるところだが、11月、ひと騒動巻き起こしたのは、医師からなる政府委員会による乳がんスクリーニング・ガイドラインの定期的改定においてであった。通常のスクリーニング検査のリスクと有益性を勘案した新たな計算に基づいたU.S. Preventive Services Task force (米国予防医学作業部会)の新しい勧告では、女性に対して、現行の40才ではなく50才からルーチンのマンモグラムを始めること、毎年の検診から二年に一回の検診に切り替えることが推奨された。さらに乳がんの自己診断を完全に廃止することも勧告した。医師、患者、がん患者の権利擁護団体、および政治家はこの後退的な勧告に強く反対したが、それはこれらが医療統制の前触れとなり、保険会社が若い女性のスクリーニング検査への補填をやめる方向に向かうことを懸念したからである。しかし、そういった懸念は12月に解消された。上院は医療制度改革法案を可決し、マンモグラムや予防的スクリーニング検査に対する補填を保証する修正案が盛り込まれたのである。

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2AIDS Vaccine AIDS ワクチン

 これまで成功より失敗の多かった分野で、当然の疑念はあるものの専門家たちは有効な新しい AIDS ワクチンのニュースを聞くこととなった。9月、以前からの2種類のワクチンを新たに組み合わせた1500万ドルを投じた治験において初めてHIV感染に対する予防効果が示された。この治験は16,000人のボランティアが参加したもので、感染予防においてワクチン投与群が31%有効であったことが示された。コンドームの使用など行動ベースの予防法が、少なくとも同等に有効であったことを考えると、これは控えめな結果ではあった。ボランティアたちはまた静脈麻薬常習者のような高リスクグループではなく、多くが異性愛者で一夫一婦の関係であったため HIV感染の低~中等度リスク群と目され、この治験結果が実際にどの程度インパクトを持つかについては疑問がある。しかし、AIDS ウイルスに対して有効性を示したワクチンがこれまでなかったことを考えると、称賛に値すると言える。ただし慎重ではあるべきだ。

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3. Funding Ban Lifted on Stem-Cell Research 幹細胞研究への財政支援解禁

 8年間ぶりだったこれを永遠の長さに感じられた研究者もいただろう―39日、オバマ大統領は、幹細胞研究への資金援助に連邦予算の使用を禁じた前任者の大統領命令を撤回した。議会法ではいまだに身体のどの組織にでも分化しうる新たな胚性幹細胞株を作ることに国庫を使えないようにしているが、現在では少なくとも既存の多くの幹細胞株の研究にはそういった資金を自由に使えるようになっている。しかし、そのような研究に乗り出す前には、科学者たちは、National Institutes of Health(国立衛生研究所) のワーキング・グループによって幹細胞株を入念に検査され、それらが厳格な倫理的科学的原理に沿って責任を持って作られたことが確認されるのを待たなければならなかった。12月、この検査に合格した最初の細胞株が使用可能となった。

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脳検索エンジンの作製

2009-12-25 20:49:12 | 科学

今年も残すところあとわずかとなった。

多額(約4億円)の所得申告漏れで

気勢を削がれた感のある

あの茂木健一郎氏の脳と心の考察や

相変わらずの演技力で今ひとつの視聴率に

終わったキムタクの『MR. BRAIN』など、

最新の脳機能研究が脚光を浴びている。

生きている脳の働きを捉えるには

生体における様々な脳のイメージングが必要である。

しかし、それに劣らず重要なのは、

いまだに未知の領域の多い

脳解剖の基本的構造を明らかにすることだ。

今米国では脳の構造研究に向けて

従来の型を打ち破るような画期的なプロジェクト

進められている。

12月22日付 New York Times 電子版

Building a Search Engine of the Brain, Slice by Slice スライスごとに脳の検索エンジンを構築する

Braindissection

脳の裁断:ゼラチンの鋳型の中に認められる Henry Molaison の脳を用いたプロジェクトは、いかなる人にも役立つ初めての完全な再構成された全脳アトラスを作ることを目的にしている

San Diego ― 12月初旬のどんよりした水曜日の午後、科学者たちは 7 リットルほどの容積の凍らせたヨーグルトの箱のように見えるものの周りに集まった。上部からはドライアイスの煙が渦を巻いて立ち上っていた。可動式の台に固定された立方体の容器が、その表面に平行に取り付けられたスチール製の刃の方に近づくと、みな一様に息をひそめた。刃が上層の部分を削ぎとると、プロシュート(イタリアの生ハム)のように、スローモーションで巻き上げられてゆく。
 「もうすぐだ」と、誰かが言った。
 次から次へと新たな層が削りとられてゆく。そしていよいよである:最初はピンク色の点、次に染み、そしてクリーム色のカーペットにこぼしたロゼのようにスライスごとに大きくなってゆく。それは人間の脳である。ただし普通の脳ではない。多くの記憶の研究に協力し、昨年82才で死去した記憶喪失者で世界中に H.M. として知られた Henry Molaison の脳である。(Molaison 氏は肉親と協議の上、数年前に自身の脳を提供することに同意していた)
 「みんながこれほどまでにドキドキしている理由はお分かりでしょう」University of California San Diego 校(UCSD)の放射線医学准教授 Jacopo Annese 氏はそう言いながら、そっと画家の絵筆で薄片を取り出し、それをラベルされた生理食塩水のトレイの中に置いた。「世界が私の肩越しに注目しているように感じます」
 事実その通りだった:生中継の Webcast を通してこの手技を見るために数千人がログオンしていた。この解剖は、一つには H.M. の非凡な人生の、そしてまさにこの瞬間のための一年以上に及ぶ準備の終着点となるものだが、これは Molaison 氏の人生の最後の5年間を彼とともに仕事をした Massachusetts Institute of Technology で記憶の研究を行っている Suzanne Corkin 氏によって計画された。
 しかしそれはもっと大きな何かの始まりでもあったと Annese 博士や多くの他の科学者たちは考えている。「脳イメージングの出現によってたいへん多くのことが明らかになりました」と、カナダ McMaster University, Michael G DeGroote School of Medicine の神経科学者で、Albert Einstein の脳など125人の脳のバンクを管理している Sandra Witelson 氏は言う。「しかし、興奮のあまり人々は脳の解剖学的研究が依然どれほど重要であるかを忘れてしまっていると思います。これは、この分野における関心を実際に復活せんとする一つのプロジェクトなのです」
 多くの提供脳を受け入れるように企画された Brain Observatory と呼ばれるこのカリフォルニア大学プロジェクトは過去と未来の橋渡しをめざす取り組みである。
 脳の解剖は数世紀をさかのぼる手技であり、言語処理や視覚などの機能がどこに集積しているかを科学者たちが理解したり、異なる集団で灰白質、白質および細胞密度を比較したり、あるいはアルツハイマー病や脳卒中などの疾患で受けた損傷を理解したりするのに役立ってきた。
 しかし脳を裁断する単一の基準はない。ある研究者は頭頂部から下の方へ向って、鼻と耳を通る平面に平行にスライスする。またあるものは脳をいくつかの塊に切り、関心領域を切り進める。今のところ完全な方法はなく、いかなる切断方法を用いても、脳の異なる領域間の細胞を連絡し思考したり感じる心を何らかの形で創り出す神経回路を再構成することを、、全く不可能にするとまではいかないものの、困難にしてしまう可能性がある。
 可能な限り完全な像を作成するために、Annese 博士は紙のような、それぞれが70ミクロンのきわめて薄いスライスを、おおよそ前額面に平行に前から後ろに動かして切り出した。そのような脳の裁断法の開発者として有名なのは Paul Ivan Yakovlev 博士である。彼は現在、ワシントンのある施設に保存されている数百の脳からのスライスを収集している。
 しかし Annese 博士には Yakovlev 博士にはなかったものを持っている。それぞれのスライスを追跡し、デジタル処理で再現する高度なコンピューター技術である。脳全体で約2,500スライスが作られ、微視的な詳細が加えられると、それぞれの脳標本における情報量は約1テラバイトのコンピューター容量を一杯にするほどである。UCSDのコンピューターは現在、Molaison の脳についてそういった情報要素を組み合わせているところである。これによって、Annese 医師が “Google Earthlike サーチエンジン” と呼ぶところの、ログオンしたい人誰にも役に立つ、完璧に再構成された初の全脳アトラスを作ろうとしている。
 「我々は一細胞レベルに至るまでの解像度を得ようとしています。これは今まではどこででも手に入れられるようなものではありませんでした」と、University of Southern California、Brain Architecture Center の客員研究員である Donna Simmons 氏は言う。「全脳を薄く切ることで、我々がこれからも学ばなければならないことの多い細胞間の連絡や神経回路を研究するための良い機会が与えられることになります」
  世界には約50の脳バンクがあると専門家は推定している。その多くは神経疾患や精神疾患を持った患者からの臓器であるが、異常のない人たちから提供され集められたものもある。「理論的には、この技術を持つ人は誰でも、所有する標本を用いて同じことができるはずです」と、Corkin 博士は言う。
 しかし技術的な問題は小さくはない。薄切用に脳を準備するために Annese 博士は最初にホルムアルデヒドと蔗糖の溶液の中で冷凍させ、摂氏約マイナス40度とする。H.M. のケースでの凍結は4時間以上かけて行われた。一度に2、3度ずつ下げてゆくのである。他の多くのものと同じように、凍らせると脳は一層もろくなる。割れてしまう可能性もある。
 Molaison 氏は、両側の大脳半球の深部から弾丸サイズの組織塊を摘出した手術の後、新しい記憶を形づくる能力を失っており、他の標本よりさらに壊れやすくなっていた。
 「ひびでも入ったら最悪でした」と、Annese 博士は言う。幸いそれは起こらなかった。
 南極で用いられる器具を考案したUCSDの機械技師 David Malmberg の力を借りて、この研究室は、浮遊する脳をきっちりと適正な温度に維持するための金属性の環を作製した。2、3度温度が低いだけで刃は切れ味が悪くなり波打ってしまう。逆に温度が高すぎると、刃は組織の中に深く入ってしまう。Malmberg 氏は環を通じてエタノールを送り込むことによって温度をマイナス40度に安定させた。彼はサーフボードの鎖を用いてホースをつるし、薄切を行う数日前に回収した。
 スライス・保存という53時間近くかかる過程が終わると、Annese 博士の研究室はガラスのスライドにそれぞれの切片を載せるという、さらに同じくらい骨の折れる作業にとりかかる。その後研究室では一定の時間ごとにスライドを染色し、これによって再構成が行われた組織の構造が明らかにされる。今後は研究用にこういったスライドを提供しようという計画だ。外部の研究者たちはサンプルを要請し、染色に独自の方法を用い、個別に高い関心領域の構成を解析することができるようになる。
 「私が行っている研究では、脳の異なる領域でどの遺伝子が選択的に発現しているかを見ているのですが、これはとてつもない情報資源となるでしょう」と Simmons 博士は言う。
 もしすべてが計画通りにゆき、Brain Observatory が正常あるいは異常な脳の様々な集積の目録を作成し、そして、他の研究所が同様の技術をそれぞれの標本に応用したならば、脳科学者たちが何世代にもわたって夢中にさせられてしまうようなデータを手に入れることになるだろう。Witelson 博士は自身の研究において、男性脳と女性脳の間の興味深い解剖学的な違いを見つけた。また、アインシュタインの脳において、空間認知の中枢である頭頂葉が平均より15%大きいことを発見した。
 「この種のさらに多くのデータにより、あらゆるジャンルの比較を行うことができるでしょう。例えば、数学に優れた人の脳を、それほど得意でない人の脳と比較することなどです」と、Witelson 博士は言う。
 「たとえば、アイスホッケー選手の Wayne Gretzky を例に挙げることができます。彼は、アイスホッケーのパックがどこにあるかというだけでなく、それがどこに向かおうとしているかを知ることができました。彼は明らかに4次元空間と時間を理解していたのです。彼が何か特別な解剖学的様相を呈するかどうかを見てみるのもいいでしょう」(ただし、まだ当分の間、Gretzky 氏は自分の脳をご使用の予定だ)
 そこでまずは、20世紀の半ば、研究に協力することで記憶の近代の研究の火蓋を切らせた男、Molaison 氏が21世紀の新時代を始動させるのに一役買うことになるかもしれない。それも、Annese 博士と彼の研究チームが、集めたスライスの仕分けを終え次第となりそうだ。
 「こうして話すだけでも興奮を覚える研究です」と、Annese 博士は言う。「しかし、この研究が進められてゆくのを見ることは草が生えてゆくのを見ていると同じようなものなのです」

記事中に登場する Molaison(H.M.)氏の
波乱に富んだ生涯については、
拙ブログの2008/12/8のエントリー『通過してゆく自分
をご参照いただきたい。
死後も自ら提供した脳によって
さらに研究の進歩に貢献し続けることができるとは
なんど素晴らしいことだろうか。
さまざまな最新技術や生理学的実験によって捉えられた
神経細胞や神経回路の機能についての仮説も
確かな解剖学的裏づけが成されてこそ
初めてその確証が得られると言えるだろう。

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『その話何度も聞いたし…』

2009-12-06 10:45:42 | 科学

「その話、前にも聞いたよ」

なかなか言えないものである。

相手は最高のスクープだと言わんばかりに

雄弁に語っているのだから

しかし、かく言うワタクシは、同じ話を同じ人に

繰り返し話すなんてそんなアホなことするわけない…わけない。

たぶん相当やらかしている。

聞かされる相手は戸惑いを感じるに違いない。

この人、認知症が始まった?とも思われるかも。

が、こういったヘマが、必ずしも認知症によるものではなく、

人間の記憶の生理的な現象であるというのである。

そんな研究結果が最近報告された。

121日付 New York Times 電子版

Story? Unforgettable. The Audience? Often Not. 話の内容は忘れないけど、話した相手は?

Destinationmemory

 もし我々の話に笑ってくれるような友人がいたとして、話を聞くのが二回目だったとしてもそれを楽しんでくれたとすればそれは良い友人だろう。しかし、聞くのが三回目となる話を聞いて歓喜のあまり息を飲むような人がいるとすれば、その人はきっとそういうふりをしているのだろう。あるいはそれが親戚であるとか:かわいそうな甥のウィルやエミリーおばさんは休日の食卓に拘束され、丁寧な態度で接しながら、話の落ちがいつも同じ無限ループに生活が奪われるという恐怖に身ぶるいしそうな自分を隠しているに違いない。
医学雑誌 Psychological Science に発表された新しい研究によれば、そういった事実すべてが非合理的な恐怖というわけではないという。
「高齢者だけでなくすべての年代の人が『この話を前にしていたら私を止めてください』と言うのを聞くことがあるでしょう」と、トロント市にある Rotman Research Institute の博士研究員である Nigel Gopie 氏は言う。彼はこの雑誌の最新号にこの種の記憶力の衰えについて論文を載せている。
「私たちはしばしば、事柄を誰に話したかを覚えておくのがむずかしいことがあり、明らかにそれは早期に始まります」
これまでの長期にわたる記憶の研究で、心理学者は短期記憶と長期記憶の間に重要な区別化を行ってきた。彼らは、顔や語彙などに関する顕在記憶と、運転技術に関する潜在記憶との間の重要な違いを実証してきた。彼らはまた、自伝的記憶、虚偽記憶、そしていわゆる情報源記憶(事実をどこで知ったか、ラジオからか、書物からか、職場の同僚からか、はたまた井戸端会議からか、を思い出す能力)について何百もの研究を報告している。
しかし、Gopie 博士や彼の共同研究者であるオンタリオ州 University of Waterloo の Colin M MacLeod 氏らが destination memory (MrK 注:『送り先記憶』と訳してみた)と呼ぶ記憶、つまり誰の耳に情報がたどりついたかについての記憶についてはほとんど注目されてこなかった。記憶された情報のソース(それを読んだのはニュースサイトの“The Onion” だったか?それとも日刊紙だったか?)がきわめて重要であるのと同じように、その情報の届け先というのも重要なのである。私たちの話、ジョーク、ゴシップなどは自分たちの社会的アイデンティティーの重要な部分を形作るものであると、心理学者は言う。同じことを繰り返して言うことは単にきまりが悪いだけではない。外交官も、嘘つきも、あるいはそれが個人的なものであれ、職業的なものであれ、秘密を守ろうとしている他のすべての人々にとって不利になりうるのだ。
「人は単純に情報源を監視する慣習を身に着けていて、『それはどこからのものか?』と自問したり人に聞いたりしていると思います」と、University of Toronto の心理学者、Morris Moscovitch 氏は言う。「その一方、誰に話したかについてフィードバックを得ることはまれなのです」
Gopie、MacLeod の両医師による今回の主な発見は送り先記憶とは比較的弱いものであるということであり、ばつが悪かったり迷惑となるような社会的相互作用を説明するのに役立つ。一つの実験では、60名の University of Waterloo の学生に50の無意味な情報(エビの心臓は頭部にあるとか、男性の8%が色覚異常である、など)を、マドンナ、ウェイン・グレツキー、あるいはオプラ・ウィンフリーなどの50人の有名人の顔と結びつけて考えさせた。学生の半分はそれぞれの情報をその有名人の写真がコンピュータ画面に現れた時に声に出して読んでもらうことで一つの顔に向かって『話しかけ』た。残りの半分にはその情報を黙読してもらい、その直後に有名人を見せられた。
それから学生たちには記憶テストが行われた。彼らは顔‐情報のペアを選択する。それらは情報を知ることで覚えた顔と、情報を声に出して読むことで覚えた顔である。模擬的に情報を話しかける作業を行った学生は、有名人を見て情報を与えられた学生に較べて16%成績が悪かった。外に出してゆく情報は、入ってくる情報に較べて、環境状況(すなわち人物)と(記憶として)一体化しにくいと、この研究の著者らは結論づけている。
注意についてこれまで知られていることを考えるとこれは道理にかなっている、と心理学者は言う。すなわち注意が限定されてしまうという事実である。たとえ些細な情報であろうと、情報を伝えようとする人は、あくまで伝えられていることの方への監視に対して精神的能力を配するだろう。もう一つの研究では、Gopie、MacLeod 両医師は有名人の顔の訓練を繰り返したが、ここでは一つだけ大きな違いをつけておいた。今回は学生たちが有名人に模擬的に話す事実を個人的なものとした(『私の星座は蟹座です』など)。彼らの送り先記憶は有意に悪くなるという結果となった。
「ただし、深刻な個人的な不安などのきわめて感情に支配されるような個人的情報ではこの状況は完全に逆転してしまうのかもしれません」と Gophie 医師は言う。「言い換えれば、そのような場合、人は語っている相手をきわめて意識するということです。私たちはそのことにまだ気づいていないだけなのです」
それにもかかわらず今回の結果は、自分の気晴らしに話したい複雑で内容豊かで詳細な話のほとんどで「その話はすっかり聞いた」と言われて人にあきれられる目に遭ってしまう危険性が高いことを示唆している。
自分が誰に何を話したかについての記憶が消去される傾向は実際のところ健全な記憶の働きを反映している。パスワードを変えたり古い友人の電話番号を新しいものに置き換えたりするとき、脳は期限切れの数字を積極的に削除しようとするという証拠を心理学者はつかんでいる。古い番号は競合記憶であり混乱する可能性があるからだ。
繰り返される話が常にばつが悪く社会的に不必要であるというわけではない。もしそれらが十分頻回に繰り返されれば、それらは慣習的なものとなり、あるいは十分時間が経過すれば口述歴史になりうる、と Gobie 医師は言う。一方、誰が何を聞くかということを最も重用してきた人たち(セールスマンやロビイスト)は彼らが誰に話しかけているかをしばしば積極的に意識するようにしていることが言われている。「ゲイル、レーザープリンターに特別価格をつけていること、お話ししましたっけ?」それは一種のご機嫌とりかもしれないが、その情報がどこに向かっているかをきちんと把握しておく一つの方法となるのかもしれない。
それはまさにこの二人の研究者が自分たちの論文で報告した最後の実験で見出したことなのである。聞き手の名前を口に出すことで送り先記憶の確度を高めていたのである(「オプラ・ウィンフリー!米国の郵便事業は世界の郵便業務の40%を扱っているんだ!」というふうに)。
もし今後の研究で送り先記憶がきわめて弱いということが明確にされれば、次のステップはこの記憶が減弱する危険が、いつ、どのような人間において最も高まるのかを見出すことへと移ってゆくことになる。送り先記憶に対する理解が進むことで、たとえば年齢に関係した記憶障害を早期に医師たちが発見するのに役立つ可能性がある。それは記憶がどのように機能するかについてのある種のモデルとも関係するかもしれない。
しかし、それらすべては、繰り返し話を語る最中に不意打ちを食らう休日の談話家を救ってくれるものではない。彼、または彼女がこっそりと話の内容を変えるか、口述歴史としてそれをごまかすことができない限り…。

病気ではないから、

それが本来の脳のあり方だから心配ない、と言われても

できればばつの悪い思いはしたくない。

『小公女セイラ』のセイラ(誰だよ)ではないが、

一文話すたびに必ず相手の呼び名を言葉に出すように

心がけてみたいものだ。

「ありがとうございます、院長先生」

「女の子は誰でもプリンセスです、院長先生」

てな感じ?(勝手にやりなさいよ)

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精神外科の展望

2009-12-01 21:50:17 | 健康・病気

脳科学の進歩には目を見張るものがあるが、
人類が知り得ていることは複雑な脳機能のうち
ごくわずかに過ぎないに違いない。
一方、脳機能の異常とされる多くの精神疾患についても、
その原因はいまだ不明のものが多く、
疾患ごとに類型化されているものの
類似の病像を示す患者であれば脳内で
同様の異常を来たしているに違いないという
確証はない。
そのような状況下で、
複雑な脳内の神経回路のうち
そのごく一部を手術等で遮断することで
難治な精神疾患が軽快するとは
にわかには信じ難い。
しかしここに出てくる強迫性障害の患者では
脳深部刺激療法あるいはガンマナイフを用いて
脳の一部を焼いてしまうことで
症状の良くなるケースがあるというのだ。

11月27日付 New York Times 電子版

Surgery for Mental Ills Offers Both Hope and Risk 精神疾患に対する手術は希望と危険をもたらす

Ross

2年前に Ross さん(21)が脳手術を受けるまでは、強迫性障害により家から出ることができなかった。「その治療は私を救ってくれました」と、彼は言う

 一人はシャワーを浴びるのを拒絶する中年男性。もう一人は外出を怖がるティーネイジャー。
 シカゴ郊外に住む著述家の男性、 Leonard さんは自分の体を洗ったり歯を磨くことがまったくできなくなっていた。ニューヨーク郊外で育ったティーネイジャーの Ross さんは細菌が怖くていつも数時間シャワーを浴びていた。いずれのケースも obsessive-compulsive disorder (OCD、強迫障害)と診断され、何年間も気楽に外出することができなかった。
 しかし彼らはついに外出し、必死の思いで試験的脳手術を受けるため Rhode Island の病院を訪れた。その手術ではレーズンほどの大きさで脳深部の4ヶ所が焼かれた。
 手術後2年が経過した現在、21才になる Ross さんは大学にいる。「命を救ってもらいました。その効果を心から信じています」と彼は言う。
 1995年に手術を受けた 67才の Leonard さんは違った。「なんら変化がありませんでした。いまだに外出することができません」と彼は言う。
 この二人の男性はプライバシー保護のため苗字を使ってほしくないと希望された。
 精神疾患の治療が大きく変わるのではないかというのが、前世紀の終わりの神経科学の大きな展望だった。しかし、進歩した脳科学の最初の臨床応用は決して斬新なものではなかった。それは古くから議論の多いアプローチを正確で精密なものにバージョンアップしたに過ぎなかった。そのアプローチとは脳を直接手術する精神外科 psychosurgery である。
 この10年あまりで500人以上がうつ病、不安症、Tourette 症候群、あるいは肥満などの疾患に対して、大部分は医学研究の一環として脳手術を受けている。その成績は有望であり、1950年代にロボトミー(前頭葉白質切截術、frontal lobotomy)が不評を招いて以降初めて、食品医薬品局は今年、強迫性障害の症例の一部に対して手術手技の一つを承認した。
 現在、そういった手術の厳格な基準に合致するほどの障害を持つ人がたかだか数千人しかいない一方、うつ病から肥満までずらりと並んだ過酷な状態に苦しむ数百万人以上の人たちが、その手技がさほど試験的でなくなった手術を求めたとしてもおかしくない。
 しかし、そういった希望には危険を伴う。進歩したとはいえ、手を加えている神経回路について医師たちにはいまだ十分な理解が得られておらず、治療の結果が予測できないままである、と言う精神科医や医学倫理学者もいる。すなわち、改善するものもいれば、ほとんど、あるいは全く変化のないものや、不幸にも実際に悪化する少数例も存在する。本邦では手術の失敗により食事や、身の回りのことができなくなった患者が少なくとも一人いる。
 さらに、手術の要望が大変多いので、研究施設の監視や支援のないまま経験の少ない外科医が手術を行いかねない状況だ。
 そして、もしこういった手術が、情緒障害の一種の汎用的治療法(実際にはそうではないと医師は言うのだが)として過大に評価されたなら、大きな期待はたちまちのうちに裏切られた感じとなるだろう。
 「ほとんどやみくもな崇拝の世界ですが、進歩とはそれ自身を正当化することであり、もし期待されて何かがあるとすれば、そのまま苦痛の軽減に向かわない状態でいることができるだろうか?という考えがあります」と、Emony University の医学倫理学者である Paul Root Wolpe 氏は言う。
 医師たちがロボトミーを大きな進歩であると考えたのはそれほど昔ではなく、結果は、この手術が数千人の患者に不可逆的な脳損傷を残したことを学んだだけだったと彼は言う。「それゆえに私たちはきわめて慎重に動く必要があるのです」と付け加えた。
 Massachusetts General Hospital の神経治療部門の部長であり、Harvard の精神医学の准教授である Darin D Dougherty 医師はもっとあっさり言う。ロボトミーなどの失敗に終わった手技を考慮しながら、「もしこの取り組みがどうもうまく行かないのであれば、今後100年の間にこの方法は行われなくなるでしょう」と彼は言う。

A Last Resort 最終手段

 強迫性障害の診断を受けた患者のうち 5~15%は標準的な治療で効果が得られない。Ross さんが他の大勢の人たちより手を洗うのに時間がかかることに気付いたのは12才の時だったという。やがて彼は一日に数回、きれいな服に着替えるようになっていた。そしてついにほとんど部屋を出なくなり、仮に出たとしても、その時には触わるものに用心した。
 「状態はきわめて悪くなり、人と一切接触したくなくなりました。両親とすら抱きあうことができなくなりました」と彼は言う。
 著作業に転向する前は、Leonard は健康でやり手のビジネスマンだった。その後いつのころからか昆虫やクモへの恐怖に襲われるようになった。その恐怖症を克服した彼だったが、今度は入浴に対する強い嫌悪を抱くようになった。彼は身体を洗うことをやめ、歯磨きや髭剃りもできなくなった。
 「わたしはただきたなく見られていました。長く醜いあごひげでしたし、皮膚は黒ずんできました。そして公衆の面前にさらされるのを恐れていました。私は路上生活者のようでした。もしあなたが警察官だったら、私を逮捕していたでしょう」、と彼は言う。
 両人とも Prozac などの抗うつ薬やその他の様々な薬が試された。強迫性障害に対する標準的な精神療法に多くの時間を費やしたが、たとえばカビだらけのシャワー室など、恐ろしい状況に徐々に曝されることになったり、不安を鎮めるために認知療法やリラクセーション療法が行われた。
 しかしすべては徒労に終わった。
 「一時的には効果がありましたが、決して続きませんでした。やはり、自分の人生は終わったと思うしかありませんでした」と、Ross さんは言う。
 しかしもう一つの選択肢があると医師から告げられた、最終手段だと。Harvard、University of Toronto、そして Cleveland Clinic など近隣や海外にある少数の医療センターでは、高解像度の画像技術によるガイド下に、ほとんどは強迫性障害やうつ病に対して様々な試験的手技が行われていた。いくつかの装置を製作している企業がこの研究を支援しており、医師たちに金を出して手術に取り組んでもらっていた。
 帯状回切除 cingulotomy とよばれる一つの手技では、頭蓋骨にドリルで穴をあけ、前帯状回と呼ばれる領域に針金を刺入する。両側大脳半球内で、脳深部の情動中枢と意識的発案の中枢である前頭葉皮質とを連絡する神経回路に沿って存在する狭い領域を特定し破壊する。
 重篤な強迫性障害の患者ではこの回路が過活動状態にあると考えられており、この手術によってその活動性が抑えられることが画像による研究で示されている。内包切除 capsulotomy というもう一つの手術は、さらに深部の内包と呼ばれる領域に進み、やはり過活動状態にあると考えられている場所を焼くものである。
 これらの手技は異なるものの総じて脳深部刺激 deep brain stimulation (DBS) と呼ばれ、術者は脳内に針金を刺入し、それらを留置する。ペースメーカーのような装置がこの電極に電流を流し、強迫性障害(そしてまた重症のうつ病)の患者で活動が亢進していると考えられている回路を確実に遮断する。電流を上げたり下げたり、あるいは切ることも可能なため、深部脳刺激は調節でき、ある程度可逆性もある。
 さらにもう一つの手法では、頭蓋内に放射線のビームを当てる MRI に似た様な機械の中に患者を置く。ビームが集中する点を除いては損傷を受けることなく脳内を通過する。強迫性障害に関係する回路の領域を放射線で焼き、手術と同様の効果を得ることができる。ガンマナイフと呼ばれるこの方法を Leonard さんとRoss さんは選択した。
 各施設は治療の対象者の選別に厳格な倫理的審査を行っている。
 障害は重症で日常生活に支障をきたしていなければならない。またすべての標準的治療が施さされていなければならない。さらにこの手術が試験的であり、成功が保証されていないことがインフォームド・コンセントの文書に明記されているのである。
 また絶望感それ自体は適格とするに十分ではないと、ロードアイランド州、Providence 市の Butler Hospital で審査過程を監視している Richard Marsland 氏は言う。この審査過程は Leonard さんと Ross さんが手術を受けた Rholde Island Hospital の外科医とも連携している。
 「一年間に数百件の要請がありますが、行われるのはわずかに一例か二例です。我々が却下した人の中には悪い状態の人もいます。しかし、我々はあくまで基準にこだわります」
 手術により好結果が得られた人たちから見るとこういった徹底的なふるい分けは行き過ぎに思えるだろう。「そういった選別が行われる理由はわかります。しかし、これは多くの人たちにとって生きるか死ぬかの違いを生むような手術なのです」と、Gerry Radano 氏は言う。彼女は著書 “Contaminated: My Journey Out of Obsessive-Compulsive Disorder” ( Bar-le-Duc Books, 2007 年)で自身の苦悩と手術で得られた長期間の回復について記述している。彼女はまたウエブサイト freeofocd.com を持っており、世界中の人たちが彼女に相談を寄せている。
 しかし、このプログラムを実行している医師たちにとって、この選別は重要である。「もし患者が不完全に選ばれたり、十分な追跡がなされなければ、不幸な結果に終わる症例数が増加し、この分野の期待がしぼんでしまうことになるでしょう」と、Butler でこのプログラムを担当している精神科医の Ben Greenberg 医師は言う。
 ガンマナイフ治療、あるいは深部脳刺激のいずれかを受けた患者の約60%は有意な改善を示しているが、残る患者ではほとんど、または全く改善を認めなかったと、Greenberg 医師は言う。彼は今回の記事のために、良い結果が得られなかった一人、Leonard さんに記者が連絡をとることに同意してくれた。

Surgeryformentalills_2

精神外科:標準的治療の力の及ばない重症の強迫性障害に対する最後の手段としていくつかの試験的脳手術が少数の医療センターで行われている。

Cingulotomy:針が脳内に刺入され前帯状回のある場所を破壊する。これにより情動中枢 と意識的発案の中枢とを連絡する回路を遮断する。

Capsulotomy:針が脳深部に刺入され内包前脚の一部を加熱破壊し重症の強迫性障害の患者で過活動となっている回路を遮断する。

Deep brain stimulation:内包切断の変法として電極を脳の一側あるいは両側に永続的に留置する。ペースメーカー様の機器から調節された電流を通電する。

Gamma knife surgery:MRIに似た装置が脳内の一点に数百本の微細な放射線のビームを集中させ微小な範囲で組織を破壊する。

The Danger of Optimism 楽観主義に潜む危険性

 手術の真の意義は、特定の症状への効果だけでなく、その人の人生への総体的な効果である、と医学的倫理学者は言う。
 第二次世界大戦後の精神外科の初期、医師たちはロボトミーがいかに精神障害による症候を緩和したかについて詳述した多くの論文を発表した。1949年、ポルトガルの神経学者、Egas Moniz 氏はこの手技を編み出したことでノーベル生理学・医学賞を受賞した。
 しかし注意深い追跡調査により暗い面が明らかとなる。1975年にジャック・ニコルスンが演じた Ken Kesey の小説『カッコーの巣の上で』で反抗的な主人公 McMurphy のロボトミー術後の状態がドラマティックに描かれる。自発性の喪失、救いようのない無関心状態に陥った人間の姿である。
 現代の新しい手術は、精密に位置決めされた特定の回路上の標的を正確に目指すものであるのに対し、前頭葉のロボトミーは、目の後ろの脳におおざっぱな切り込みを入れるに等しく、そこにある線維や回路が何であれそれらを盲目的に切断することだった。さらに、手術を施す神経回路に対する医師らの理解度にも大きなギャップが存在する。
 昨年発表された論文で、スウェーデンの Karolinska Institute の研究者たちが強迫性障害に対して最も行われていた手術を受けた患者の半数に、強迫性障害の重症度スケールでは点数が下がったものの、数年後に無気力や自制心の低下といった症状が見られたと報告した。
 「ほとんどの研究に潜む固有の問題は、自分たちの方法を信ずるグループによって進歩が独り歩きし、それによってほとんど避けがたいバイアスを招いてしまうことです」と、この論文の筆頭著者である Christian Ruck 医師はEメールのメッセージで述べた。この施設の医師たちは、他の施設が行ったより明らかに多くの組織を焼いていたが、彼の報告したこの成績も一因となって、もはやこの手術は行われなくなった、と Ruck 医師は言う。
 米国では少なくとも患者一人が強迫性障害に対する手術で日常生活に支障を来たすほどの脳障害を残した。このケースでは、手術を行った Ohio hospital に対して2002年に750万ドルを支払う審判が下された(同病院ではもはや手術は行われていない)。
 治療結果が良好であろうとなかろうと、効果の大部分は早期には顕著には認められなかった。術後に脳が完全に適応するまで数ヶ月あるいは数年かかることがある。Karolinska で治療を受けた患者の実情から、「有害な症候については直接対面して評価することの重要性が示された」と Ruck 医師と彼の共同研究者たちは結論した。

The Long Way Back これまでの長い道のり

 Ross さんによれば、術後数ヶ月は何ら変化を感じなかったが、ある日、彼の兄が地下室でテレビゲームをしないかと尋ねると、彼は階下に降りて行ったという。
 「単純にそれをしたいと思ったのです。それまではそこに降りていこうとしたことは一度もありませんでした」と、彼は言う。
 彼によれば、この手術によって心理療法セッションが機能するようになり、昨年の夏には順調にそれを中止することができるまでになったという。彼は今、勉強し、教室に通い、リラックスするためにちょっと変わったテレビゲームを楽しむ毎日を過ごしている。手術について友人に話したが、「彼らはそれについては全然OKでした。今すべてを知っています」と彼は言う。
 一方、Leonard はまだもがき苦しんでいる。それは誰にもわかってもらえないという理由で。夜は一晩中働き、日中の大部分は寝ているという不規則な生活を送っている。彼によれば不幸ではないが、身体を洗うことへの同様の嫌悪は続いており、依然世捨て人のような生活を送っているという。
 「なぜわたしがこんな風なのかいまだにわかりません。これからも役立ちそうなことは何でも試みるつもりでいます」と彼は言う。「しかし現時点では手術の有効性については懐疑的です。少なくとも私にとっては」
 自身の回復についての本を書いた Radano 女史は、手術について最も重要なことは、それが患者にチャンスを与えたことだと言う。「こういった状況下にあるすべての人たちが望むことなのです。そういう状況にいたからこそ私にはわかるのです」と、つい先日の午後、車に乗っている時に彼女は言った。
 助手席には除菌用の手拭きの容器が置かれていた。それを指さして彼女は笑った。「そうね。すっかり縁が切れるってわけにはいかないでしょ」

脳深部刺激(DBS)は、もともと難治性疼痛や
パーキンソン病、ジストニアなどに対する
外科的治療法として行われ始めた。
近年、その対象疾患が拡大し、
難治性うつ病、強迫性障害、摂食障害などの治療にも
応用されるようになり、
日本でも一部施設で行われ始めている。
さらにアルツハイマー病などの記憶障害に対しても
その効果が期待されているところである。
それにしても廃人を作り出すことで悪名高い
ロボトミー手術の考案者がその功績で
ノーベル生理学・医学賞を受賞しているとは驚きだ。
(このエガス・モニスという御仁、脳血管撮影の開発という
功績はあるのだが、ロボトミーでの受賞はまずかった)
いつの時代でも、
時の重大な発見が必ずしも真理とは限らないことを
思い知らされる史実である。

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