MrKのぼやき

煩悩を解脱した前期高齢者男のぼやき

あきらめないでっ!

2022-05-19 17:14:19 | 健康・病気

2022年5月のメディカル・ミステリーです。

 

5月14日付 Washington Post 電子版

 

This woman’s desperate persistence helped spark her lucky break

この女性の必死の粘り強さが彼女の幸運につながった

Her memory was failing, she couldn’t walk without a cane and felt increasingly helpless

記憶力が障害され、杖なしでは歩けず、彼女の無力感は増すばかりだった

 

(Cam Cottrill for The Washington Post)

By Sandra G. Boodman,

 彼女はオンライン検索を頻回に行ってきていたので、たとえ結果がいつもの様に行き詰まってしまうかもしれなくても、検索は強迫的な行動となっていた。しかし、2019年4月のある週末、Nancy M. Chiancone(ナンシー・M・キアンコーネ)さんはメリーランド郊外の自宅近くのスターバックスの椅子に座り、ラップトップを開き、絶望感を増した質問を検索エンジンに打ち込んだ。“どうして私は診断されないの?” と。すると驚いたことに、新たな有効なサイトが現れたのである。

 その予期せず見つけることのできたものが、その先数ヶ月後に、それまで3年以上も医師たちがわからなかった答えにつながることになるとはその時の Chianconeさんは知るべくもなかった。それは、かつては5キロのレースに参加していたこの Prince George’s County Public Schools(プリンスジョージズ郡公共教育学区) の教育の専門家に、左足を引きずる、杖なしでの歩行が困難になる、記憶力が低下する、といった憂慮すべき症状の悪化をもたらした原因についての説明を与えてくれることになる。一年以上も前に Chiancone さんは、amyotrophic lateral sclerosis(ALS, 筋委縮性側索硬化症)という衝撃的な診断名を告げられていたがその後撤回されるという経緯もあった。

 しかし、当時彼女の治療に当たっていて、後に疑問視されることになる強力な治療薬を処方していた専門医らは行き詰まっていた。

 Chiancone さんの頭の中にたまたま浮かんだ質問によって、彼女が National Institutes of Health(国立衛生研究所)の Undiagnosed Diseases Program(UDP, 未確定疾患プログラム)に導かれたことで、事態は一変した。UDPでは、洞察力のある神経内科医が、それまで見逃されていた種々の要因の合流点に正確に狙いをつけた。そして NIHでの精密検査から5週間後、Chiancone さんの病気は同定され、治療が始まり、彼女は概ね健康を取り戻したのである。

 「我々のプログラムでは、多忙な診療のプレッシャーなくこれらの困難な症例を診る余裕があるのです」と Camilo Toro(カミロ・トロ)氏は言う。彼は Chiancone さんを治療したチームのトップで、Adult Undiagnosed Disease Program(成人未確定疾患プログラム)の責任者である。「私は数百例の患者を診てきましたが、最初の一週間の診察で私は3名を診断することができました」その3人のうちの1人が Chiancone さんだったのである。

 

Cold numb hands 冷たくしびれた手

 

 Chiancone さんの症状は彼女が46歳の時に始まった。2013年、指がしびれて痛むようになり白くなる症状を周期的に経験した。彼女の家庭医はリウマチ専門医に紹介、Raynaud’s disease(レイノー病)と診断された。これは、皮膚に血液を供給する細い動脈がストレスや低温に過剰に反応する一般的に自己制御的な疾患である。

 Raynaud’s は特定の自己免疫疾患に伴ってみられることがあるため、そのリウマチ専門医は関節痛を引き起こす lupus(SLE)の血液検査を行った。検査が陽性とみられたため Chiancone さんは免疫抑制薬の plaquenil(プラケニル、一般名 hydroxychloroquine〈ヒドロキシクロロキン〉の名前で良く知られている)の内服を始めたが、2度目の lupus の検査が正常だったため中止した。

 その後 Chiancone さんの手の痛みが悪化したためそのリウマチ専門医は関節を侵す慢性の炎症性疾患である rheumatoid arthritis(RA, 関節リウマチ)の血液検査を行った。RA の検査は陰性だったが、彼女は erhthrocyte sedimentation rate(赤血球沈降速度)と他の炎症マーカーが亢進していた。炎症には、他のタイプの関節炎、一部の腸管疾患、および一部の癌など、多くの原因がある。肥満とも関連があるとされている。

Nancy M. Chiancone さんは National Institutes of Health の Undiagnosed Diseases Program による支援を見つけた (Family photo)。

 

 2014年、そのリウマチ専門医は関節リウマチの稀なタイプである seronegative rheumatoid arthritis(血清反応陰性関節リウマチ)の可能性があると診断した。彼女は RA の薬を処方し、Chiancone さんに、もし痛みが改善したら高い確率でその診断が正しいことが実証されることになると説明したことを Chiancone さんは覚えている。

 Chianconeさんは methotrexate(メトトレキセート)の内服を始めた。これは化学療法薬として、あるいは他の薬剤に反応しない RA の治療に用いられる強力な薬である。さらに彼女は中等症から重症の RA の治療に用いられる薬剤 Enbrel(エンブレル)の自己注射を始めた。Chiancone さんは folic acid supplements(葉酸補充薬)を内服するよう言われた;これは、その機能の一つとして血球の形成に必須となっているビタミンである folate(葉酸)の濃度を methotrexate が減少させることが知られているからである。

 彼女がこれらの治療を始めると最初のうち両手の痛みは改善したが、その後再発がみられた。

 2016年、生まれてこの方ずっと体重と闘ってきていた Chiancone さんは gastric sleeve surgery(胃スリーブ状切除術)を受けることを決意し、胃の約80%を切除した。手術は成功(以後115ポンド[約52kg]減量)したが6ヶ月後 Chiancone さんの両手の痛みが強くなり、その後痛みは股関節や下肢まで広がった。

 リウマチ専門医は、減量手術が methotrexate の吸収能を障害したと考え、注射タイプの薬に変更した。しかし Chiancone さんはあまり改善を感じられなかった。その後数ヶ月間で彼女は倦怠感、痛みを強く感じるようになり、全身的にも体調が悪化した。

 2017年12月、彼女はふくらはぎにひどいこむら返りが起こるようになったが、それは妹の Janet と一緒にたびたび行っていた長距離の散歩の後に増強した。Chiancone さんの家庭医は超音波検査を依頼したが、血栓症は除外された。

 リウマチ専門医は筋弛緩薬とステロイドを処方したがいずれも効果はなかった。その一週間後、Chianconeさんがオフィスの棚の上の物に手を伸ばそうとしたとき、もはやつま先で立つのがむずかしいことに気づいた。「それは本当に嫌な感じでした」と彼女は言う。

 

Dire diagnosis 恐ろしい診断

 

 彼女が神経内科医に紹介されると、すぐに血液検査、脳・脊髄のMRI検査に加え、筋電図と神経伝導速度検査が行われ、神経と筋の機能が評価された。筋電図と神経伝導速度検査のいずれにも異常がみられた。2018年2月1日、その神経内科医は Chiancone さんに、彼女は ALS であると告げた。これは脳と脊髄の運動ニューロンが変性する進行性の稀な致死的疾患である。

 「私には何か悪いところがあることはわかっていましたが、その病気は考えにありませんでした」と Chiancone さんは思い起こす。「『私がこの病気なわけはない』と思い続けました。しかし、この診断を受けた他の人達が思うこともおそらく同じなのだろうとそのとき考えてしまうのでした」

 その神経内科医は ALS を専門とするクリニックに彼女を紹介した。その ALS の専門医が、ALS ほど悲惨ではない病気が原因だと言ってくれるに違いないと思っていたと Chiancone さんは言う。しかし、彼はその診断に同意見であり、フォローアップの受診の予約を行った。

 Chiancone さんは、もし自分の人生が大幅に短いものとなってしまうのなら、残された時間を最大限に伸ばしたいと考えた。彼女は残った住宅ローンの支払いを行い、妹と一緒に美術を見るためにメキシコに旅行しようとして自身の年金口座から10万ドルを借りた。

 しかし6ヶ月後、ALS の専門医は疑念を呈した:Chiancone さんの病状が予想されていたより悪化しなかったのである。数ヶ月後クリニックは彼女を退院させたが、それは、彼女に非特異的な筋疾患がある可能性が示唆されたからである。しかし続けて行われた筋生検は基本的に正常だった。

 それから2年以上、答えに近づくことはなく、Chiancone さんの関節痛は、疲労感、動きにくさ、予測不能な転倒などの陰に隠れてしまっていた。彼女は自宅の階段から転落し足を骨折したり、ダレス国際空港の建物の中で大勢の人の前で転倒するなどした。

 さらに彼女には記憶力の低下がみられた。「前の週のことであっても、(生徒たちについての)長い会話に関してそれを話したことを覚えていないことがありました。自分自身の問題で、誰も私を助けてくれることはできないと強く感じていました」と彼女は言う。

 

Defying long odds 全くありそうもないことは否定する

 

 そんな Chiancon さんだったが、NIH のプログラムによって何ヶ月かぶりに希望が湧いてきた。人生の前半、重症の産後うつに襲われて一年の大半を過ごしたことがあったが、母親の支援によって有効な治療を見つけることができた。そのときの試練が「自分を助けることのできる誰かを見つけることへの自身の執念の強さに間違いなく影響を及ぼしています」と彼女は言う。

 2008年に立ち上げられたこの NIH のプログラムは、草分け的な Undiagnosed Diseases Network(未確定疾患ネットワーク)の基となった部門で、現在、国内12のメディカルセンターで稼動している。創設以来、約4500人が UDP に申し込み、1500人が受理されている。費用は無料で、患者は NIH Clinical Center で一週間を過ごし、複数の専門分野からのエキスパートによって行われる詳細な精査を受けることになる。約22パーセントで診断が下されるが時には診断が数年後となることもある。

 このプログラムによりこれまでに25の新たな疾患が同定されており、患者の疾患について遺伝的基盤となりうる情報を引き出したり、診断が得られていない人たちに有用な助言を与えたりする試みが成されている。

 彼女が申請書、診療録、および神経内科医からの紹介状を提出して2ヶ月後に、Chiancone さんは受理された。彼女は2020年1月の最後の週を NIH で過ごした。「それは驚きでした」と彼女は言う。

 Toro 氏は Chiancone さんの特異な病状に興味をひかれたという:彼によると神経伝導速度検査は“強く ALS を示唆するものだったこと;広範な脳の白質病変は ALS ではなく多発性硬化症のような神経変性疾患でよく見られるものであること;そして彼女の減量手術である。そのような手術を受けた患者は吸収不良によってもたらされる危険性や関連する問題について注意が喚起されており、生涯に渡ってビタミンやミネラルの補充サプリメントを摂取すべきであると言われる。

 Toro 氏によると、減量手術と、folate(葉酸)を枯渇させることが知られている methotrexate の組み合わせが、血液脳関門を越える必須ビタミンの輸送を阻害し、中枢神経系への到達を妨げていたのではないかと考えたという。

 その結果、神経障害、筋力低下、認知症様の記憶障害、および脳白質病変を引き起こす cerebral folate deficiency(脳葉酸欠乏症)となる可能性がある。(小児では、脳葉酸欠乏症は遺伝子変異で起こる)

 脳葉酸欠乏症は 5-methyltetrahydrofolate(5MTHF, 5-メチルテトラヒドロ葉酸) を測定する特殊な検査で検出されるが、これには腰椎穿刺が必要となる。Chiancone さんはその検査を受け、それによって Toro 氏の直感が立証された:血中の葉酸濃度は正常だったが、脊髄液中の葉酸はほとんど検出されなかったのである。

 他の神経疾患、稀な癌、様々な代謝障害、および遺伝子変異が除外されたため、Toro氏とそのチームは Chiancone さんが恐らく減量手術と methotrexate によって引き起こされた重症の成人発症の脳葉酸欠乏症であると結論づけた。

 「手術単独あるいは投薬単独ではそれを起こさないだろうというのが私の感覚です」と Toro 氏は言う。彼女は、手術と投薬の組み合わせは予期せぬ結果をもたらしうることを印象付けるケースだと彼は付け加えて言う。「Nancy さんのケースでは、それらが重なってお互いに副作用を悪化させていたのです」さらに未確認の遺伝的感受性が関与していた可能性もあると Toro 氏は言う。

 

A revelatory conclusion 啓示的結論

 

 2020年3月上旬、パンデミックに襲われるまで2週間もないころ、Chiancone さんと妹は Toro 氏と面談した。「彼らは私に、病名を解明したことを伝えただけでなくそれを治療できると言いました。私は衝撃を受けました」と Chiancone さんは言う。

 彼女は methotrexate の内服と Enbrel の注射を直ちに中止し、methotrexate の効果に拮抗する folinic acid(フォリン酸)を高用量で始めるよう指示を受けた。数週間かかったが、彼女の症状は少しずつ軽減した。Chiancone さんは杖なしで歩けるようになり、ふくらはぎや関節の痛みは減弱しその後消失、重度の疲労感もなくなり記憶力は回復した。

 6ヶ月後に NIH で行われた検査では、彼女の脊髄液中の folate の値が正常になっていることがわかった。筋電図検査は依然として異常だったが安定しており、脳の白質病変については概ね変化はなかった。「さらなる改善が期待されますが、ずっと改善し続けるかどうかはわかりません」と Toro 氏は言う。

 Toro 氏によると、成人発症葉酸欠乏症はカナダなど国外ではよく知られているが、米国では過小認識された状況にあるという。「この疾病は私たちが認知しているよりはるかに頻度が高いと考えています」と彼は付け加える。

 Chiancone さんの立場からみて皮肉に思えることは自分が実際には、ほぼ6年間 methotrexate を処方されてきた根拠となった関節リウマチではなかったのではないかと考えていることである。彼女は2年間以上 RA の薬を使用していないが、特に悪影響はみられていない。

 「それは最初からレイノー病と osteoarthritis(変形性関節症)に過ぎなかったのかもしれません」関節の “wear and tear(摩耗)” によって発症し、一般には市販の鎮痛薬で治療される最もありふれたタイプの関節炎の可能性をほのめかしながら Chiancone さんはそう推察する。

 Chiancone さんは、もし NIH のプログラムを見つけていなかったら自分がどうなっていただろうかと思っている。「彼らが解明することができ、それに対する解決法があった病気が原因だったことは大変幸運だったと思います。今回のことから、世の中にどれくらい多くの人たちがこの病気に苦しんでいるのだろうかと思わずにはいられません」と彼女は言う。

 

 

葉酸欠乏症の詳細については

MSDマニュアルプロフェッショナル版

参照いただきたい。

 

ここでは、葉酸欠乏症の中でもかなり特殊な

cerebral folate deficiency(CFD, 脳葉酸欠乏症)について

National Organization for Rare Disorders のサイトを参考に

要約する。

 

まず用語の用い方に混乱があるため最初に名称の説明を行っておく。

Folate(葉酸塩)は水溶性のビタミンB群の一つ(ビタミンB9)と

されるが、これは葉酸の総称的用語である。

Folate には二つのタイプが含まれる。

5-methyltetrafolate(5MTHF, 5-メチルテトラヒドロ葉酸)と

folic acid(葉酸)である。

果実や野菜など食事に含まれる folate は 5MTHF と呼ばれる

最も活性の高い folate に変換される。

消化管内で変換されると 5MTHF は血液中に入る。

これに対し folic acid は強化食品や栄養補助食品に

しばしば認められる葉酸塩の合成形態である。

Folic acid の大部分は体内の活性型に変換されず、

完全に代謝されることなく血中に入る。こちらはより効率が悪い。

人体は folate を用いて骨髄中で赤血球や白血球を産生したり、

DNA や RNA の合成、あるいは脳の機能や聴覚の維持を図る。

 

CFD は小児にみられる疾患とされていたが、

ごくまれに成人発症例も報告されているようである。

 

 

CFD は、通常生後1年目の発達は正常だが、およそ2歳になると

患児に精神機能や運動機能の喪失(精神運動発達退行)が始まる

神経学的症候群である。

早期の症状には知的障害、言語発達障害のほか、

繰り返すてんかん発作が患児の3分の1にみられる。

振戦、筋制御や自発的運動の協調性の欠損(失調)などの運動障害は

重篤になることがある。

CFD は、 folate receptor alpha(FRA, 葉酸受容体アルファ)機能の

障害により脳脊髄液中の 5MTHF が低値となることで脳内の

ビタミンB葉酸(ビタミンB9)が欠乏し発症する。

最も多い病因に、FRA に結合する2つの自己抗体の1つがあり、

これが受容体機能を阻害する。

また FRA はミトコンドリア機能への依存が高く、

ミトコンドリアや他の代謝障害があっても FRA 機能の破綻に

つながる。

さらに FOLR1 遺伝子の稀な変異も FRA 機能を阻害する

常染色体劣性遺伝タイプの本疾患の原因となる。

 

原因

 

CFD は前述のように FRA の機能の障害によって起こる。

FRA 受容体は細胞膜内に存在し folate と結合し、

folate はそこから細胞内に輸送される。

この受容体たんぱくは脳の脈絡叢に大量に存在する。

脈絡叢は脳と脊髄を保護する脳脊髄液を産生する器官である。

FRA は脈絡叢を介して脳に拡散する脳脊髄液中に folate を

移動させる。Folate は髄鞘や脳内で信号を伝達する

化学伝達物質(神経伝達物質)の生成に重要である。

脳内の folate の欠乏はこの病態に関連した神経学的合併症の

引き金となる。

 

FRA の機能障害は以下の3つの原因によって起こり得る。

最も一般的な原因は FRA に結合してその機能を阻害する

2つの自己抗体のうちの一つに由来する。

自己抗体とは、免疫系によって作られる個々の自身の

たんぱくの一つまたはそれ以上に向けられたたんぱくである。

自己抗体産生のメカニズムのうち一つ考えられているのは

ミルク(乳たんぱく)由来の可溶性葉酸受容体が

免疫反応を引き起こす可能性である。

 

ミトコンドリア疾患などの代謝障害が FRA 機能障害の

2番目に多い原因となる。

FRA が十分に機能するためにはエネルギーを要するが、

それは、folate の濃度が血液中よりも脳内で高いため

脳内へは能動的に輸送する必要があるからである。

ミトコンドリアはこのエネルギーの産生に重要であることから

ミトコンドリアの機能を障害するいかなる代謝障害も

脳内への葉酸の輸送を妨げる可能性がある。

 

最後に、異常もしくは欠損した FRA たんぱくの産生をもたらす

FOLR1 伝子変異がこの疾病のまれな原因となっている。

このタイプの  CFD は常染色体劣性遺伝様式で遺伝する。

 

罹患者数

 

20例に満たない CFD の患者が科学誌に報告されている。

この疾患の正確な頻度はわかっていない。

一般に乳幼児に多くみられるがいずれの年齢でも発症し得る。

 

兆候および症状

 

CFD の症状は生後4~6ヶ月のときに興奮、易刺激性や

睡眠障害(不眠)で始まる。

発達の遅延は、頭囲発育の遅れ、筋緊張の低下(hypotonia)、

失調、自発運動の喪失(ジスキネジア)、持続する筋収縮(痙性)、

言語障害、てんかんなどで気づかれることがある。

その他、視力障害、聴覚低下、および自閉症兆候がある。

典型的な folate の欠乏と異なり、血清中や赤血球中の

folate 濃度が正常であっても、脳脊髄液中の測定では

5MTHF の濃度の低下が認められる。

MRI 検査で脳は正常所見のこともあるが、一部の患児では

脳の白質容積の縮小(leukodystrophy, 大脳白質萎縮症)が

みられることがある。

前頭側頭葉の萎縮や脳・脊髄内の神経線維を覆う

髄鞘の障害(皮質下脱髄)が生後18ヶ月前後でみられる。

 

関連疾患

 

次に挙げる疾患の症候は CFD のそれと類似している

可能性がある。鑑別診断には比較が有用である。

 

Folinic acid-responsive seizures(FARS, フォリン酸依存性てんかん)は

ミオクローヌス性あるいは間代性けいれん、呼吸障害(無呼吸)、

生後5日以内の易刺激性を特徴とする疾患である。

脳の画像検査で脳萎縮と多数の白質異常が認められる。

FARS は ALDH7A1 遺伝子の変異で起こる。

 

5MTHF 濃度の減少した Kearns-Sayre syndrome の患者では

二次的に脳葉酸欠乏症を来すリスクがある。

Rett syndrome, Aicardi-Goutiere syndrome および

自閉症スペクトラム障害の患児の一部でも葉酸輸送能低下が

報告されている。

 

診断

 

神経学的検査により、緊張低下、失調、不安定歩行、小頭囲など

CFD の症状を確認する。

脳の MRI 検査は皮質下・白質に異常があるか否かを

確認するのに有用となる。

CFD は脳脊髄液中の 5MTHF 濃度を測定することで診断される。

これは腰椎穿刺で行われる。

脳脊髄液中の神経伝達物質の減少は CFD の診断の一助となる。

Folate は神経系がドパミンやセロトニンなどの神経伝達物質を

産生するのに必要であることから 5MTHF の低下と合わせて

これらの数値の低下がみられれば folate 輸送に問題がある証拠となる。

脳波は脳の電気的活動を記録するのに用いられる検査で、

高電位で不規則な波(hypsarrhythmia)などの異常な波形を

示すことがある。聴力検査や眼科的検査も行われる。

FOLR1 遺伝子の変異に対する分子遺伝子検査は診断の確定に

有用である。

自己抗体が CFD の原因かどうかを確定するために

2つの FRA 自己抗体(遮断抗体および結合自己抗体)に対する

検査が行われる。

 

治療

 

症状の改善と脳脊髄液中の 5MTHF 濃度の安定化を目的に

leucovorin calcium(ロイコボリン・カルシウム)あるいは

Deplin が用いられる。

前者は folinic acid(フォリン酸)とも呼ばれる。

Folinic acid は非メチル化タイプの代謝活性のある folate で

体内で変換を受ける必要がない。用量は患者の体重に依存する。

5MTHF を回復するまでにこの補充は少なくとも1年を要する。

 

 

総じて転帰は治療が開始された年齢に依存するようであり、

治療開始が早ければ早いほど転帰は良好である。

なお治療に folic acid の補充は推奨されていない。

それは folic acid の摂取によりてんかん発作、失調、易刺激性などの

症状がむしろ増悪するためである。

このため CFD における重大なポイントは folic acid が含まれる

栄養が強化された食物やビタミン類を避けることとされている。

ロイコボリン・カルシウム治療での重篤な副作用は報告されていない。

特に疾患の早い段階でロイコボリン・カルシウムの内服と乳製品制限を

組み合わせることで良好な改善がみられたとの報告がある。

 

CFDという疾患、まだまだ分からないことばかりのようである。

患者さんには、ただこう言ってあげるしかない。

『あきらめないでっ!』

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする