おなじみのメディカル・ミステリーのコーナー
Medical Mysteries
Mother labored to find reason for son's developmental delays
母親は息子の発達障害の原因を探そうと懸命だったJen Dirscoll さんは息子の Adam が4才になるまで彼の障害の原因を知ることがなかった
By Sandra G. Boodman
Adam Driscoll が赤ちゃんの時、彼に接した人たちは、もの静かで穏やかな性格に好印象を持ったものだった。彼は機嫌が良さそうでほとんど泣かず、生後6週までは夜はずっと眠っていた。しかし、彼の母親 Jen は、やんちゃな上の男の子と正反対な Adam の穏やかさをありがく思う反面、この手のかからない状態を見守りながら、子の成長につれ不安は増してゆくばかりだった。
University of Delaware の遺伝子研究室で働く元介護士の Driscoll さんは、兄弟間で性格や発育が大きく違うこともあると知っていた。しかし、Adam の行動は何かもっと良からぬことの現れであるのではないかと心配していた。彼の筋肉の緊張は弱く、おもちゃで遊ぶというような他の子供たちにはほとんど本能的と思われることにも戸惑っていた。
Driscoll さんはかかりつけの小児科医にその心配を繰り返し話したが、耳を貸してもらえなかった。「彼女は私に『彼は良くなりますよ』と言うのです」
他の専門医たちからも同じような返答しか得られなかった Driscoll さんは、息子の障害の真の原因を知るまでに数年を要することになる。そのころまでには種々の障害が彼の生活の多くの場面で顕著になっていた。
「彼が新生児期に症状を呈していたという点でははきわめて典型的でした」しかし、診断は数年間つけられることはなかったと、現在7才の Adam を診療している George Washington University の小児科学臨床准教授 Carole Samango-Sprouse 氏は言う。
「これは容易に診断あるいは除外できる疾患です」が、実際にはしばしばそうはなってない、と彼女は言う。これは医師たちがこの診断名をよく知らなかったり、小児にその診断を下すことを懸念するためである。結果として、この疾患は数年間も治療されないことになりかねず、どこが悪いのかを知ろうと四苦八苦する家族は大きな負担を抱えることになる。Looking for answers 答えを探す
Adam は4週間早く生まれており、医師はDriscoll さんと数学の教授である夫の Toby さんに、新生児期のAdam の摂食障害はそのことが原因であると話した。彼は乳を吸うことができなかったりできるようになったりを繰り返すパターンに気付くようになったことを母親は思い出す。「早くから、彼には色々と教え込まなければならない感じでした」と、彼の手を掴んで導きながらブロックを手に取ったり、形を選ぶようなおもちゃで遊んだりすることをどのようにして教えていたかを思い起こす。彼の手足の力はいくぶん弱い感じだったが、医師は脳性麻痺を否定していた。
彼の経験豊富な小児科医はAdam の発達についてしつこさを増してくるDriscoll さんからの質問をはねつけた。「Adam が大学に行くころには歩くことや話すことができるようになっていますよ」と、その医師が話したのを彼女は思い出す。
しかし、上の子が歩きだした15ヶ月になっても、Adam には歩く徴候は見られなかった。また話すことも片言を発することすらなかった。託児所のスタッフも心配し、小児科医は彼を就学前早期の教育プログラムに紹介した。
Adam を観察するために看護師が Driscoll の自宅を訪れた。両親が失望したことに、彼女は Adam が順調に発達していると言い、彼は “ほとんどすぐに歩きだせる” 状態にあると言った;しかし、ほとんど2才になろうとしていたが、実際にはさらに8ヶ月以上も第一歩を踏み出すことはなかったのである。
社交的な問題も浮かび上がってきた。託児所で Adam は「他の子供に近寄られることを嫌っていました。彼は一人でいたがったのです」と、母親は言う。また、彼はブランコや滑り台を怖がっているようだった。
彼が2才半の時、Driscoll さんが一緒に働いていた発達小児科医の自宅で行われたクリスマス・パーティーに参加した。その医師は、そこで Adam の行動に衝撃を受けたことを後に Driscoll さんに語った。最初彼はソファ―の後ろに隠れたため、連れ出すためになだめなければならなかった。それから、夜中じゅう両親のそばに静かに座っていて、走り回ったり、他の子供たちと遊ぶことはなかったのだ。
Driscoll さんの求めに応じて、その発達小児科医は Adam を診察したが、自閉症は否定された。彼は原因不明の運動・言語発達障害と診断され、特殊な託児所に入ることになった。
そこで彼は大きく進歩したが、そのころまでに Driscoll さんはもっと根本的なところに障害があることを確信するようになっていた。「起こっていることすべてが関連しているに違いないと感じました」と、彼女は言う。「あまりに多くの領域で多くの障害があったのです」Adam と主治医の小児科医に協力していた専門家たちは耐えるしかないと助言した。
しかし、理学療法士は Driscoll さんと同意見であり、Wilmington にある Nemours/Alfred I. DuPont Hospital for Children の小児神経科医である S. Charles Bean 氏を受診するよう彼女に促した。「もし解明してくれる人がいるとしたら、それは Chuck Bean 氏以外にはいません」と、その理学療法士は Driscoll さんに言った。
2007年11月、集中的な90分間の診療で、Bean 氏は詳細に病歴をとり、Adam が歩いたり食べたりするのを観察し、彼と一緒にゲームをした。それから彼はいくつかの代謝性疾患や遺伝子疾患のための血液検査をオーダーした。Adam は fragile X syndrome(脆弱X症候群)が疑われると彼は Driscoll さんに告げた。この疾患は、学習障害から精神発遅滞にいたる一連の症状に関連する先天性精神障害の最も多い原因となっている。
Driscoll さんは fragile X より軽症型の筋ジストロフィーの可能性が高いと思っていた。
2週間後、検査室から結果が返ったきた。「信じがたい結果となりました」と、Bean 氏が彼女に話したのを思い出す。二人とも違っていたのである。'A punch in the gut' お腹への一撃
アダムは、XXY 症候群とも知られているクラインフェルター症候群(Klinefelter syndrome)だった。遺伝性ではないこの疾患は胎児形成の初期に発生するが、そこで男児は、一つのX染色体と一つのY染色体にさらに余分なX染色体をランダムに獲得する。この症候群は、1942年に初めてこの疾患を記載した医師 Harry Klinefelter の名前に由来するが、Genetics Home Reference によると、男児500~1,000人に1人の割合で発症する。最もよく見られる染色体異常の一つであるという以外に、最も悪評高かった疾患の一つでもある。早期の研究は囚人で行われていたし、研究者たちはこの疾患を誤って犯罪行動や低いIQと結び付けたことから、その汚名をなかなか拭い去ることが困難となっているのだ。
「早い時期からそれはきわめて悪い風評を得てしまっていたのです」と、性染色体異常を持つ子供たちの研究に取り組んでいる神経発達学の専門家 Samango-Sprouse 氏は言う。そういった関連性が、小児において可能性のある診断名として医師の頭に思い浮かぶのを妨げているのではないかと彼女は考えている。
XXY症候群には様々な重症度が見られるが、この疾患ではテストステロンの産生が障害されるため、ほぼ全例で不妊を生ずる。必ずしもすべての細胞に余分なX染色体を持っていない男性は軽微な症状である可能性があり、不妊症の精査で発見されるまでこの疾患であることが発覚しない。重症の男児では身体的、社会的、および言語性の発達に様々な困難を抱えている。そういった子は乳児期には内向的で手のかからない子である傾向がある。
もしこの疾患が早期に診断されれば、男児は思春期にテストステロン補充療法が施されるが、これによって成長に重要な段階に男性ホルモンが高まり、大きい筋肉や、まばらになる傾向があるひげや体毛の成長の増進が得られる。10代では、乳房の発達をみることもあり、ほとんどのケースで高身長である。
クラインフェルター症候群は他の疾患に類似しているため、思春期前に診断することは困難なことがあると、Bean 氏は言う。もし、子供に重大な運動障害がない場合、「私でも頻繁に遭遇するようなものではありません」と、神経学者の立場から彼は言う。
Adam の診断がついた時の最初の反応は大きな安堵のため息をついたことだったと Driscoll さんは言う。「それですべての説明がつき、彼の命が奪われることはないのだと。これから行うべきことについて、その道筋がきわめてはっきりしたと思いました」
「しかし、それはまた多少お腹への一撃ともなりました」と、彼女は付け加える。なぜならその診断は Adam のこれからの人生に影響を与えることになるからだ。彼女の家族は遺伝子病、特に性染色体に関わる疾患に付随する汚名、そして誤った認識に立ち向かうことにもなると Driscoll さんは言う。Adam が2つのX染色体を持っていることを知る人は、彼がゲイではないのかと母親に尋ねることがしばしばあるという。(研究では、全人口における率と比較して、クラインフェルター症候群の患者がゲイである割合は決して高くないことが示されている)
心臓の欠損症もしばしばXXY症候群に合併するが、心臓医によってAdam にはそのような異常は認められていない。彼は理学療法を続けており、知能も平均を上回っていることがテストでわかっている。
Driscoll 夫妻は彼の診断結果について Adam に話しており、『重複して印刷された説明書のように』彼が余分な染色体を持っていることも説明している。彼女がこれまで会ったことのある、成人になるまで疾患が診断されなかったが、子供のころ怠惰で、頭が悪く、精神に異常があると言われてきた人たちと同じように、Adam にはこの疾患が彼の欠点であると考えてもらいたくないと思っている。
Adam は粘り強く、自分の困難さを乗り越える決意を持っている、と彼女は言う。これまで他の子供たちと一緒に遊ぶことを嫌がっていたこの少年は、数週間前、自分の7才の誕生日を祝う初めて行ったパーティーにクラスメート10人を招待した。
Adam の病気がもっと早く診断されていたら、家族は数年にわたり不要な心配やフラストレーションなど持たなくて済んでいたのにと Driscoll は思っている。しかし、「彼のことをこの若さで診断してもらったことは途方もなくラッキーなことだと感じています。一方で、原因不明の病気でありながら血液検査を行えば明らかになる可能性のあるほかの子供たちのことが気になっています」と、彼女は言う。
クラインフェルター症候群(以下KS)
この症候群には軽症から重症まであって、
軽症例では、
成人になって初めて判明することもあるというのは
今回初めて知った。
男児500 人に1人というKSの頻度は
かなり高いように思う。
発見されない患者もかなり多いと思われる。
生来症状が明確となっている患者さんの苦悩は
言うまでもないことだが、
アイデンティティがある程度固まってからの宣告は
当人にとってこれまたどれほどの衝撃だろうか?
私たちは偏見を持つことなく、
KSに対する理解を深め、
サポートに努めることが重要だろう。
治療は記事中にあるように
男性ホルモン(テストステロン)の補充療法が主体となるが、
心のケアにも十分な配慮がなされるべきと思われる。