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煩悩を解脱した前期高齢者男のぼやき

ウィローブルック肝炎研究

2013-03-27 16:33:26 | 映画

約半世紀前、かのアメリカでも
公然と人体実験が行われていた。
それをもとに映画が作られているそうである。
日本での公開の可能性は低そうだが、
一体どのような内容なのだろうか。

3月11日付 ABCNews.com

Film Highlights Hepatitis Research on Kids With Disabilities 障害を持つ子供たちで行われた肝炎研究を題材にした映画

Willowbrook

By SYDNEY LUPKIN
 1960年代に実際にあった、障害を持った子供たちに対する肝炎研究を題材にした映画 “Willowbrook” が、障害をテーマにした映画祭 Reel Abilities の一環として先週末ニューヨークで上映された。
 「その作品は私たちの委員会によって全会一致で承認されました」ReelAbilities の委員長 Isaac Zablocki 氏は言う。「それを見たとき、迷うことなく選びたいと思いました」
 この映画はフィクション作品であるが、Willowbrook State School(ウィローブルック州立学校)がもとになっている。これは1980年代後半まで、知的障害のある子供たちのためにニューヨーク州 Staten Island(スタテン島)にあった施設である。1950年代から1960年代にかけてそこの一部の子供たちが研究のために意図的に肝炎にさらされた。
 この映画は新人医師 Bill Huntsman を追う。彼は、この研究の患者たちが入院治療のために我慢していることを知り、彼がそこに加わるべきかどうかを決断しなければならない状況にあった。Horowitz 医師という名前でしか知られていない Huntsman の上司は、親たちは他の選択肢はないと考えているので自分たちの子供たちを実験台にする肝炎研究を進んで承諾するのだと説明する。研究の行われない病棟は新たな患者の受け入れを中止していたが、もし彼らが肝炎の注射を受けるというのであれば研究病棟で子供を受け入れてくれるのである。
 監督の Ross Cohen 氏も脚本の Andrew Rothschild も Willowbrook と個人的なつながりはなかったが、Cohen 氏によると、偶然それを見つけ興味を持ったのだという。
 「危害を与えることはないと医師たちが予測していたという事実はさておき、主たる倫理的問題はその決断が自由に行われなかったことです」とCohen 氏(29才)は言う。「その学校の収容者が満杯状態だったという事実に基づいており、1963年の終わりまでにはもはやそれ以上の人たちを受け入れないようにしていたのです」
 映画の中に出てくる主演男優を除くすべての子供たちには実際に障害があった。彼らは Ann Belles 氏とカリフォルニアに住んでいた。彼女は1989年以降、障害を持つ59人の少年たちを受け入れ育ててきた。さらに彼女は非営利団体を運営し、障害を持つ成人のための生活支援プログラムを実践している。
 「彼らは実際、それに参加することに冷静でした」そう Cohen 氏は言う。「彼らにとってそれは楽しいことだったのでしょう」
 すべての俳優たちが Belles の子供たちと時を過ごしたが、Zachary Winard ほど彼らと多くの時間を過ごしたものはいなかった。彼は知的障害で話すことができない十代の若者 Brian Sussman を演じた俳優である。この映画の中で、この少年 Sussmanの母親は肝炎研究の同意書にサインすべきかどうか思案する。
 「人々はその信憑性に期待するのです」と Zablocki 氏は言う。そして、映画の中に正確な感覚を得ようとすれなら障害を持った監督や俳優が求められることが多いと付け加えた。
 ReelAbilities には何千人もが参加するが、彼らのうち障害を持っていたり、障害のある人とつながりを持つ人は約半数に過ぎないと彼は言う。
 「認識を高めるだけでなく、格差を埋めることにもつながります」と Zablocki 氏は言う。「障害の壁を越え、主流となるコミュニティとつながれることに期待しているのです」

この “Willowbrook” という映画は
非倫理的臨床研究として悪名高いウィローブルック肝炎研究を
題材にしたものである。
この研究についてはここに詳しく記載されている。
ご一読いただければ幸いだが、内容を以下に要約してみる。

1956年から1972年にかけて、
ニューヨーク大学のソール・クルーグマン博士の研究チームは
肝炎ワクチン研究のため
ニューヨーク州・スタッテン島にある知的障害児施設
『ウィローブルック州立学校』において肝炎ウイルスを
障害児たちに意図的に感染させる実験を行った。
入所者の大半はIQ20以下の重度知的障害児で
施設の衛生状態はきわめて悪く、
便を介して経口感染する肝炎が蔓延していた。
当時はまだ肝炎の病原体であるウイルスを
実験室で培養することが不可能な時代で、
治療研究には人体を用いるしか方法がなかった。
1954年にウィローブルックの顧問医に着任したクルーグマンは
ガンマ・グロブリンの肝炎予防効果の研究にとりかかる。
同施設内にある隔離病棟に入所してきた
3才~11才の知的障害児を二つのグループに分け、
一方はガンマ・グロブリンを投与後、
もう一方はガンマ・グロブリンを投与しないまま、
両グループに肝炎発症患者の便から採取したウイルスが投与された。
その後、6ヶ月後、9ヶ月後、1年後にもウイルスが追加され、
ガンマ・グロブリンの発症予防効果が調べられた。
また同じように被験児を肝炎に感染させる別の実験を行い、
肝炎ウイルスに、潜伏期の短いタイプ(現在のA型肝炎)と
潜伏期が約90日と長いタイプ(現在のB型肝炎)が
あることを確認し、それぞれのウイルスを分離することに
成功した。
クルーグマン博士のこれらの研究成果は
世界から賞賛を受けることになる。
現在では考えられないような人体実験も、驚いたことに
当時の倫理的審査では問題なしとして承認されていたのである。
その後、告発者の登場やマスメディアによって
この研究は世論の批判を浴びることになるが、
これに対してクルーグマンは、
もともとウィローブルックの衛生状態は
きわめて悪く入所者は放っておいてもいずれ肝炎に感染する、
被験者になれば衛生状態のよい特別病棟に入り他の感染症に
罹る危険は低くなる、
被験者は肝炎ウイルスに対する免疫が獲得できる、
親に十分説明し同意を得ている、などと反論した。
これに対して批判者らは、
放っておいても肝炎に感染するなら人為的に感染させられることで
被験者が特に利益を得られるとは言えない、感染すると
1,000人に1~2人の割合で劇症肝炎となり死亡することがあり
慢性肝炎から肝硬変になる危険性がある、
免疫獲得は実験の本来の目的でなく副次的結果に過ぎない、
親への説明は一方的で同意も半強制的に取られたものである、
などと主張した。
実際、入所する知的障害児の親に対しては、
実験の詳細については告知せず、
『発症する率は低く、発症しても穏やかなものに過ぎない』
『一生続く免疫が獲得できるかもしれない』
『予防できる可能性のある新しい方法を実施する』などと
説明していたようである。
さらに収容人員が過剰となり
1964年からは一般の入所者募集が中止されるが、
被験者になることに同意すれば入所できると
通告されるようになる。
重度の障害のある子供を預ける場所を持たない親たちには
子供たちが被験者になることに同意する以外の選択肢は
なかったであろう。
しかしこの非人道的研究の結果、800名近くの肝炎患者が発生し、
大勢が亡くなっている。
肝炎研究に邁進したクルーグマンは、
施設の衛生状態の改善を図るという基本的施策より、
注射による肝炎発症予防の研究を優先したことで
多くの犠牲者を出してしまったのである。
こうした批判を浴び、施設の劣悪な環境も問題視され、
ウィローブルック州立学校は1975年に閉鎖されることになる。
しかし同施設に入っていた障害者たちは、
他の施設に移ってからもB型肝炎の感染者として
登校禁止措置をとられるなど
ひどい偏見や差別にさらされたという。
しかし一方、クルーグマン博士は
1972年にはアメリカ小児科学会会長に就任、
全米肝炎研究委員会委員長や、
『米医学雑誌』の編集委員などを歴任し
1983年にはアメリカ医学会最高の賞とされる
ラスカー賞の公益事業賞を得るなど
医学界での名声に傷がつくことはなかったのである。

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1 コメント

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Unknown (CIC担当)
2020-12-15 22:24:03
吐き気がする…。
確かに、医学の発展には寄与したでしょう。
が、このようなおぞましい事件を起こしてもなお学会で何ら批判されず、医師としての名声になんら影響はなかったというのは納得できかねますね。
さらには、実験に被検体になる事に同意し、行う側の責任が問われない事という条件にサインしないと実験が行われた学園に入学できないというのは、悪辣と言われてもおかしくないのでは?
当時の学会では、どんなおぞましい実験をしても、結果が伴えばそれでいいという考え方なのでしょうか?もしそうなら、この先、類似の出来事が起きても、不思議はないですね。
その程度の事は、どんな馬鹿でも解ります。
それとも、被験者が重度の障害者だったから、よかったのでしょうかね?
だとしたら、障害者である私も、いずれは被検体にされないとは言えないかな。
そんなに人体実験をやりたいのなら、自分の家族を被検体にでも何でもすればいい。
仮に、今肝炎治療で多くの人が救われていたとしても、結果を重視して何をやってもいいわけではない筈。それとも、研究者の心の中にはそれを肯定する感情があるのでしょうか?
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