8月のメディカル・ミステリーです。
‘My entire scalp was on fire’: A doctor repeatedly insisted she had a tension headache. Something more serious was going on.
「私の頭皮全体が燃えている」:彼女は緊張型頭痛だと医師は繰り返し主張した。しかし実はもっと深刻な病気が進行していた。
By Sandra G. Boodman,
Galen Warden(ガレン・ウォードン)さんはきついマーケティングの仕事でくたくたの一週間を乗り切り熱い浴槽で横になっていた。いつものように Warden さんの頸と肩は凝っており、浴槽につかることで回復効果のある液体がいつものようにもたらしてくれる弛緩作用が高まると考えていた。
しかし、約30秒後に立ち上がったとき、「私の頭全体が燃えているように感じたのです」と Warden さんは思い起こす。彼女の顔、頸、そして肩には症状はなかったが、頭皮はまるで酸をかけられたかのように感じられた。
緊張型頭痛によると繰り返し言われていた Warden さんの異常な症状の原因が明らかになるまでほぼ3ヶ月を要した。その間、他の症状の出現によって、治療に当たっていた専門医は最初の診断を見直すことができなくなっていた。
それどころか、新たな症状の出現によて、 Warden さんの症状がストレスに関係しているという医師の確信をさらに強固なものにしてしまったように思われた。
Galen Warden さんの燃えるような頭皮と日常的な発熱は彼女の姉も罹患していた稀な疾患の症状だった。
振り返ってみて、今回の出来事は自身の医学的な認識の甘さによってもたらされたものだと Warden さんは言う。
「それは友人たちの間で教訓的な話となっています」と彼女は言う。「枯れた井戸に戻り続けていたということが今では信じられません」
A tension headache 緊張型頭痛
彼女の頭皮を襲った燃えるような感覚にショックを受けた Warden さんはシャワーの栓をひねり頭から水をかけながらそれを引き起こした原因について必死で考えようとした。しかし彼女は頭皮をひどく擦ったことも、変わったシャンプーや浴用化粧品を使用したこともなかった。
53才の彼女は恐る恐る髪の毛を乾かしながらパニックにならないよう努めた。彼女は市販の鎮痛薬を2つ内服したが効かなかったため3つ目を追加した。すると痛みは消失した。
しかし薬の効果が切れると再び痛みが始まった。
2010年5月31日の月曜日、ニュージャージー州の Morris County(モリス郡)に住んでいた Warden さんはかかりつけの内科医を受診した。彼は彼女に神経内科医を受診するよう助言したが、お勧めの医師は知らないと彼女に告げた。
一週間後、Warden さんは自宅近くに診療所がある神経内科医を見つけて受診した。その医師はすぐにできる検査を行った。すなわち、膝をハンマーで叩き、瞳孔を観察し、Wardenさんに鼻を触らせた。これらは受診時にいつも繰り返されていた手順である。そして、彼女は Warden さんは古典的な緊張型頭痛であると説明した。
「それは自分の頭の中ではなく、実際に痛むのは頭皮であると説明しようとしました」そう Warden さんは思い起こす。さらに彼女はその医師に、突然動いたり、頭のてっぺんを触るだけでその痛みが強くなると説明した。
しかしその医師は緊張型頭痛の診断を繰り返した。彼女は Warden さんに 2、3日仕事を離れて休養し瞑想してみるよう助言した。さらに彼女は、常用癖をもたらす可能性がある抗不安薬 Xanax(アルプラゾラム)を処方した。
Wardenさんはその医師から提言されたことをやってみた。しかしその激しい痛みを緩和できた唯一のものは、四六時中内服を続けた最大容量の非処方箋鎮痛薬だった。
2、3週後の次の診察時に、その医師は痛みの連鎖を断つためにはもっと強い薬が必要かもしれないと Warden さんに言った:炎症を抑制する副腎皮質ステロイドである methylprednisolone(メチルプレドニゾロン)が一週間のコースで処方された。
「それは奇跡のように効きました」と Warden さんは言う。しかし指示に従って用量を減らしていくと、頭皮の痛みが再発した。「私はほとんど髪にブラシをかけることもできませんでした」と彼女は思い起こす。
3回目の受診のときその神経内科医は、prednisone(プレドニゾン)の一週間以上の内服はリスクが高いと Warden さんに説明した。その医師は、関節炎に使用される非ステロイド系抗炎症薬である indomethacin(インドメタシン)を処方した。
Wardenさんによると、彼女はその薬を忠実に内服したという。しかし「改善はゼロでした」と彼女は言う。
7月中旬までに Warden さんには新たな症状が生じていた:毎日夕方に始まる微熱が全身倦怠感と憔悴感を彼女にもたらすようになったのである。
「もし誰かが私の腕を掴むようなことがあれば」特に目に見えるような痣はできなくてもその部位が数分間痛む状況だったと Warden さんは思い起こす。
最大用量の鎮痛薬なしでは一日を乗り切ることができなかった Warden さんは果たしてどれくらい長く鎮痛薬を飲み続けられるのか、あるいは飲み続けなければならないのだろうかと思っていた。
何か深刻な異常があるのではないかと心配している旨を彼女は神経内科医に話したという。彼女によるとその医師は、身体の痛みと発熱は頭皮の痛みとは関係ないと答えたといい、頭皮の痛みは依然として緊張型頭痛だと主張した。
ひょっとしたら片頭痛薬が効くかもしれないとその神経内科医が説明した。その専門医は Topamax(トピラマート)と呼ばれる強力な抗てんかん薬を処方した。それは片頭痛の治療にも認められているものだ。
しかしその薬は効果がなかった。数日後、Warden さんはその内服を止めた。
Warden さんによると、当時彼女は、国際的企業に勤める彼女の業務に関連して出席しなければならなかった4日間の国内営業会議の準備に追われていたという。そして何とかその会議を切り抜けたと彼女は言う。
しかし、自宅への空の旅を終えて Newark(ニューアーク)に着いたとき、Warden さんに新たな症状が出現した:こめかみ部の痛みが激しく座席から崩れ落ちそうになったのである。その痛みはすぐに消失したが、その後何の前触れもなく毎日数回繰り返した。
「いつ何時それが襲ってくるのではないかと怯えて生活するようになりました」と彼女は思い起こす。
8月上旬の受診のとき、Warden さんは、その刃物で刺すような前頭部の痛みについて神経内科医に話した。その医師はいつもの簡易的神経学的検査を再度行ったが正常だった。彼女は Warden さんに、その新たな痛みは異型の緊張型頭痛であると説明し、それ以上できることは彼女にはわからなかった。
「彼女とはこれまでだと思いました」と Warden さんは言う。しかしどこに頼ればいいのか分からなかったと付け加えて言った。数日後、彼女は内科医の元を再び訪ねた。診察室のテーブルに腰かけたとき、彼女は急に泣き出した。彼女はその昔からのかかりつけ医に対して、助けを求めて緊急室に行こうと思っていたと話した。彼女に思いつくことができたのはそれしかなかったのである。
その内科医は彼女を落ち着かせようとして、彼女の症状を引き起こす可能性があり、またステロイドによって改善効果がもたらされる疾患を一つだけ思いつくことができると彼女に話した:giant cell arteritis(巨細胞性動脈炎)である。
しばしば頭皮や頸部の動脈の炎症をひきおこす疾患である巨細胞性動脈炎は血流が阻害され、迅速な治療が行われなければ永続的な視力喪失をもたらすことがあるため内科的緊急疾患と考えられている。女性に多く、通常50才以降に発症し、しばしば臀部や肩の筋肉の硬直を引き起こす炎症性疾患である polymyalgia rheumatica(ウマチ性多発筋痛症)に合併する。
その内科医は一週間分ステロイドを処方した。(巨細胞性動脈炎は一般に数ヶ月間ステロイドで治療される)。数時間のうちにこめかみの痛みと頭皮の燃える感じは消失したが、ステロイドの用量が減らされると再発した。
Warden さんがその内科医の元を再診すると、この薬は危険性が高いと言って長期にステロイドを処方することを拒否した。彼が彼女に説明したところによると、巨細胞性動脈炎の診断の確定は、側頭動脈の生検を行うことを意味したが、彼にはそれが必要かどうかはわからないということだった。
そのため Warden さんは彼女が最も信頼していた医師の元を受診することにした:それは3年前に彼女の子宮頸癌を治療した婦人科腫瘍専門医である。
彼は彼女の話を聞き、全身のCT検査をオーダーした。
Cancer again? 再び癌?
脳のCT検査では異常は認められなかった。しかし胸部の検査では病変が一ヶ所あり、多数の腫大したリンパ節が認められた。
その腫瘍専門医は、免疫系の癌であるリンパ腫を発症している可能性があると Warden さんに告げた。一方、放射線科医からはそれと同じほど厳しい疾患である可能性が指摘された:肺癌である。
その腫瘍専門医は胸部外科医に電話をかけ Warden さんの受診の手配を行った。彼女が最近ステロイドを内服していたことから、診断に必須であるリンパ節の生検は数週間遅らせる必要があった。
再びがんと向き合わなければならないかもしれないと恐怖を感じていたことを Warden さんは思い出す。
しかし、9月に彼女が受診した胸部外科医は、3つめの可能性を挙げた:sarcoidosis(サルコイドーシス)である。
Granulomas(肉芽腫)と呼ばれる炎症細胞の集簇・増殖を特徴とする稀な疾患であるサルコイドーシスは一般に肺やリンパ節を侵すが、身体の至る所で発生しうる。その原因は不明だが、起源は自己免疫であると一部の研究者は考えている。(Warden さんのすでに成人している子供たち6人のうち2人は重篤な自己免疫疾患と診断されている)。
サルコイドーシスは家族内発症する傾向があり、男性より女性に多い。アフリカ系や北欧系人種でこの疾患の頻度が高いが、本疾患に対する根本的治療法はいまだない。
Warden さんのリンパ節生検ではリンパ節に肉芽腫が含まれていたが、彼女が大いに安堵したことには、悪性細胞は認められなかった。
Warden さんはサルコイドーシスについてよく知っていた。彼女の姉が、最もよく見られる臨床型である肺サルコイドーシスの診断を数年前に受けていたからである。よくみられることだが彼女の場合、数年間の治療により本疾患は消失していた。しかしサルコイドーシスは、目、心臓、肝臓など、多臓器を侵す慢性化した疾患となっている患者もいる。
その胸部外科医は確定診断と治療のために Warden さんをリウマチ専門医 Vandana Singh(バンダナ・シン)氏に紹介した。「彼女には、私たちがサルコイドーシスでしばしば認める肺の炎症がありました」と Singh 氏は言う。彼女は Summit Medical Group(ニュージャージー州バークレーハイツに本部を置く医師が所有する営利目的の多専門医療機関)のリウマチチームのメンバーである。しかし Warden さんの最初の症状である頭皮の痛みについては「非常にめずらしいです。その症状を有する他の患者はみたことがありません」と Singh 氏は付け足す。彼女はこれまで80例のサルコイドーシス患者を治療してきたという。
しかし彼女によれば Warden さんには巨細胞性動脈炎はみられなかったという。「それは red herring(人を惑わす症状)だったのです」
Singh 氏は2016年に南カリフォルニアに異動するまで Warden さんを治療したが、最初の神経内科医がなぜ緊張型頭痛と診断したのかわからないという。
「それは神経学的なものとは思えないからです」と彼女は言う。
Lesson learned 学んだ教訓
Warden さんの病気をコントロールすべく Singh 氏は6ヶ月間、高用量のプレドニゾンを処方したところ、効果がみられた。
この数年、病変が肝臓に広がり疾病が慢性かつ全身性になっていると考えられている Warden さんは低用量の methotrexate(メソトレキセート)を毎週自己注射している。この薬は一般に癌や関節リウマチの治療に用いられるものである。さらに彼女は神経の痛みを緩和させる薬である gabapentin(ガバペンチン)を内服している。
Warden さんは自身の経験から、答えを強く求めることの重要性や、知識が豊富でなく関心を寄せてくれないように見える医師は断ち切る重要性を学んだという。彼女は医師の資格認定をチェックし、きちんと教えてくれる医師を選ぶようにしている。そういう医師は「好奇心が強く原因を見つけることに熱心である」と認めることができるからである。
Warden さんによると、診断から数年以内にこれらのスキルを身につけたところ、ちょうど彼女の息子の2人が稀な疾患と向き合うことになったという。
「埒が明かない人物だとわかればたちまち、私は多くの質問を始めます。そして、もし医師に知識がなかったり、知ろうとしないようであれば、即あきらめをつけるのです」
サルコイドーシスの詳細については下記サイトを
参照いただきたい。
サルコイドーシスは、
原因不明の特徴的な病変(非乾酪性類上皮細胞肉芽腫)が
全身の様々な臓器に形成される病気である。
本疾患は 1877年 Hutchinson が皮膚病変として
初めて報告しているが、
その後 140年近くが経過した現在でも原因は不明のままである。
日本での有病率は10万人に7.5~9.3人で、男女比はほぼ同じか、
女性にやや多い傾向にある。
若年者から高齢者まで発症するが、男性は20歳代、
女性は60歳代にピークがみられる。
発病時の臨床症状は多彩、さらにその後の臨床経過も
多様であることが本疾患の特徴の1つとなっている。
肺門・縦隔リンパ節、肺、眼、皮膚の罹患頻度が高いが、
その他にも、神経、筋、心臓、腎臓、骨、消化器、唾液腺など
全身のほとんどの臓器で罹患する。
以前は検診で発見される無症状のものが多く自然改善例も多かったが、
近年は自覚症状で発見されるものが増加、経過も長引く例が
増えている。
乾酪壊死を伴わない類上皮細胞肉芽腫が証明され、
既知の原因の肉芽腫および局所サルコイド反応を除外できれば
『組織診断群』として確実に診断されるが、
組織生検による診断が得られない場合には
呼吸器、眼、心臓の3臓器中の2臓器以上において
本症を強く示唆する臨床所見が認められ、
かつ、下記特徴的検査所見の5項目中2項目以上が陽性の場合、
『臨床診断群』として診断が得られる。
特徴的な検査所見 :
1) 両側肺門リンパ節腫脹
2) 血清アンジオテンシン変換酵素(ACE)活性高値
または血清リゾチーム値高値
3) 血清可溶性インターロイキン- 2 受容体(sIL-2R)高値
4) ガリウムシンチグラムまたはFDG-PETにおける著明な集積所見
5) 気管支肺胞洗浄検査でリンパ球比率上昇、
CD4/CD8比が3.5を超える上昇
また血清あるいは尿中カルシウム高値 が認められる。
診断に際しては、他の疾患の除外が重要であり、
サルコイドーシスに類似した肺、眼、皮膚、リンパ節病変を呈する
Behcet(ベーチェット)病やSjogren(シェーグレン)症候群、
リンパ増殖性疾患などを除外する必要がある。
原因は不明とされているが、特異的な抗原により
Th1型細胞免疫反応(IV型アレルギー反応)が起こり、
全身諸臓器に肉芽腫が形成される可能性が考えられている。
原因抗原としてプロピオニバクテリア(アクネ菌)、
結核菌などの微生物が候補として挙げられており、
一方宿主側の遺伝要因としてヒト白血球抗原(HLA)遺伝子のほか、
複数の疾患感受性遺伝子の関与が推定されている。
発病時の症状は極めて多彩である。
肺サルコイドーシスでは検診時に無症状で発見される場合もある。
サルコイドーシスの症状には、『臓器特異的症状』と
『(臓器非特異的)全身症状』がある。
臓器特異的症状は、侵された臓器に起こる咳・痰、ぶどう膜炎、
皮疹、不整脈・息切れ、麻痺、筋肉腫瘤、骨痛、関節痛などの
様々な臓器別の症状をいう。
ぶどう膜炎では霧視、ものが眩しく見える羞明、飛蚊症、視力低下が
認められる。
心サルコイドーシスでは、不整脈、動悸、失神発作、心不全が
みられることがある。
一方、全身症状は、臓器病変とは無関係に起こる発熱、体重減少、
疲労感、痛み、息切れなどである。
これら全身症状は、特異的な検査所見に反映されないために
見過ごされることがある。
現状では原因不明のため根治療法といえるものはなく、
肉芽腫性炎症を抑える治療が行われる。
症状が軽微で自然改善が期待される場合には、
無治療で経過観察される。
サルコイドーシスの約 70%は予後良好で、
発病2年以内に自然に病気が消退するといわれている。
臓器障害のために日常生活が障害されている場合や、
将来の生命予後・機能予後の悪化のおそれがある場合には
積極的治療が行われる。
全身的治療薬は、副腎皮質ステロイド薬が第一選択となる。
ただし、ステロイドの使用は、持続的あるいは
高度な臓器病変がある場合や、難治性で進行性の病変が
ある場合など限られた症例に対して行うべきであり、
可能な限り短期的な使用にとどめることが望ましいと
考えられている。
またステロイドで治療を行っても再発する症例や
難治となる症例も多く、
二次治療薬として、メトトレキサート、アザチオプリン、
シクロフォスファミドなどの免疫抑制薬や
TNF-α阻害薬などの生物学的製剤の使用が考慮される。
臨床経過は極めて多様であり、短期改善型(ほぼ2年以内に改善)、
遷延型(2年から5年の経過)、慢性型(5年以上の経過)、
難治化型に分けられる。自然治癒するケースもあるが、
自覚症状があり病変が多蔵器にわたる場合には、
慢性型となり数十年の経過になることもまれではない。
肺線維化進行例や拡張型心筋症類似例など、
著しいQOLの低下を伴う難治化型に移行するものもある。
サルコイドーシス…何とも不可思議で謎の多い疾患である。