MrKのぼやき

煩悩を解脱した前期高齢者男のぼやき

手術後も続く痛み、その原因は?

2013-07-30 22:56:59 | 健康・病気

7月ももう終わりですが、
今月のメディカル・ミステリーでございます。

7月23日付 Washington Post 電子版

Joint replacement had been a success, but pain persisted in patient’s shoulder 人工関節置換術は成功、しかし患者の肩の痛みは持続した

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By Sandra G. Boodman,
 実際に見ていなくても、Jan Harrod さんは、彼女の肩の持続する痛みを治療することができないでいた整形外科医への電話に対応する彼の拒否的なあきれ顔を想像することができた。
 2009年1月20日の祝日(Inauguration Day)、当時49才の Harrod さんは、転落して受傷した重症の肩関節の軟骨損傷に対する修復が2回の関節鏡手術でうまくいかなかったため人工肩関節全置換術を受けた。
 しかし、痛みは和らぐどころか、この手術で Harrod さんの右肩と上腕に原因不明の絶え間なく続く痛みが残った。多くの検査、何ヶ月にも及ぶ強力な抗生物質や辛い手術を受けたにもかかわらず、彼女の整形外科医は感染の徴候を見い出せず、また他の問題も認められなかった。受け持ちの理学療法士も同じように当惑していた。というのも Harrod さんの手術した肩は、手術の成功を示す重要なバロメーターであるところの可動域(自由に動かせる機能)は申し分なかったからである。
 それではなぜ、電子レンジにティーカップを置いたり、洗濯機から洗濯物を取り出したりするときに痛むのだろうか?Harrod さんは問い続けていた。
 最終的に彼女のケースの再評価につながり、原因と最善の治療法についての長期にわたる想定を覆したのは、彼女の兄から偶然出た質問だった。彼女の肩が正常に機能し調子が良くなるまでに、Harrod さんは3人の専門医から計7回の手術を受けたのである。
「自分の意思を強く持っていることがどれほど重要であるかということを、以前は本当には理解していませんでした」と彼女は言う。「私はみずぼらしい中年の女であり、医師、特に威厳を持った外科医に対してはすぐに怖気づいてしまうのです」

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7回目の肩の手術を受けたあと Jan Harrod さんは、痛みを感ずることなくゴルフや水中エアロビクスやカヤック漕ぎをすることができるようになった

 2007年6月、北バージニアの教会で発表をしていたとき、Harrod さんは低い演壇から転落し、肩の軟骨を損傷した。
 3ヶ月間の理学療法と鎮痛薬で効果がなかったため、最初の整形外科医は関節鏡手術を行った。これにより関節内を観察し外科的修復を行った。しかし、SLAP 損傷(superior labrum anterior and posterior lesion)として野球の投手によく見られる関節唇の損傷は当初考えていたより悪く、もっと拡大した手術が必要かもしれないと彼は彼女に告げた。
 さらに何ヶ月か理学療法を行った 2008 年6月、Harrod さんは依然として腕を拳上することが難しく、強い痛みが続いていたので、麻薬性鎮痛薬の Vicodin(バイコディン:ハイドロコドンとアセトアミノフェンの合剤)が必要となっていた。2度目の関節鏡検査で広範囲の関節炎であることが明らかとなったためその外科医は Harrod さんに人工肩関節全置換術が必要かもしれないと告げた。
 さらに5ヶ月間の治療でも Harrod さんはよくならなかったため、シアトルの病院の弁護士である彼女の兄が総合的整形外科医ではなく、豊富な経験を有する肩の専門医を見つけるよう彼女に助言した。北バージニアで開業している新しい整形外科医もまた人工肩関節全置換術を勧めた。Harrod さんが理解していたところによるとそれはチタン製の人工関節を用いる手術である。術前の検査のとき、彼女は、特に薬剤やラテックスに対するアレルギーがないかどうかについての標準的な質問に回答した。彼女にはいずれもなかった。
 彼女に対する2009年の手術は成功し、三角巾で1ヶ月を過ごしたあと、彼女は新たに理学療法を開始した。まもなく Harrod さんの関節可動域は大いに改善していることが明らかとなったが、上腕と肩に深部の痛みが持続していた。それは、人工関節置換術の前に経験していた痛みとは違うように感じられた。彼女は腕を頭の上方に持ち上げることはできたが、歩くときの普通の腕ふりが難しかった。
 リハビリ訓練を6ヶ月行ったとき、なぜいまだに痛むのか彼女は整形外科医に尋ねた。彼の口調は冷ややかなものに変わった。
 「私は2004年以降、関節の感染症を経験していません」手術の最も重大な合併症の一つについてそう語った。「今回についてもそれはないと思います」Harrod さんは歯がゆい思いをした。良くならないことで彼女が彼から責められているかのように感じられたからである。
 とはいえ感染が最も考えられる痛みの原因であったため、この整形外科医は抗生物質の数多くあるコースの最初のものを処方し、ステロイドの注射を行った。彼はまた彼女の白血球数、血沈、赤血球数を含む測定、さらにC反応性たんぱく(CRP)値を測定監視するために検査を毎月行った。彼女の血沈とCRPは持続的に上昇しており、これは炎症を示唆するものだが、白血球数は正常だった。その後行われたライム病、ループス、関節リウマチなどに対する検査はすべて陰性だった。
 手術から10ヶ月後の 2009年11月、彼女の主治医は、人工関節の構成材が緩んでいて痛みが起こっている可能性が疑われると彼女に告げた。彼は、問題が発見できるかどうか確認するために関節鏡検査を施行したが何も見いだされなかった。Harrod さんによると、このころには夜、痛みで目が覚めていたといい、救命士をしている娘の一人は、母親が日常的に内服している Vicodin のことを心配していた。
 「もし私が69才とか70才とかだったら、『ああ、これ以上良くはならない』と言っていたでしょう」と彼女は言う。「でも私は50才にもなっておらず、このままの状態で残りの人生を生きることが想像できませんでした」
 その整形外科医と彼のスタッフは、相次ぐ検査で何ら確定的なことが発見できないことから徐々に冷淡になっていくように思われた。「『あなたにとって私はあなたのカレンダー上で月に一度の15分間に過ぎないかもしれませんが、これは私の大切な時間なのです』と言いたい気持ちでした」と彼女は思い起こす。
In March 2010, her surgeon, contemplating removal and replacement of the joint, sent her to Philadelphia for a second opinion. Shoulder specialist Gerald Williams recommended that her Virginia surgeon leave the joint in place but culture its surfaces and the surrounding tissue to determine if a smoldering infection was present. Harrod’s fifth surgery, performed the following month, found nothing amiss.
 2010年3月、人工関節の除去と再置換が考慮され、セカンドオピニオン目的でフィラデルフィアに紹介した。肩関節の専門医 Gerald Williams 氏は、彼女のバージニアの整形外科医に対して人工関節はそのままにしておき、一方で深部に感染がくすぶっていないかどうかを判断するために、関節表面と周辺組織を培養するよう勧めた。しかし早速翌月行われた Harrod さんの5度目となる手術では何もおかしいところは発見されなかった。
 その手術後、Harrod さんは主治医の整形外科医の要請により感染症専門医を受診した。彼は彼女の痛みが感染によるものではないと考えたが、Harrod さんは“何かをしてほしい”と主張し、より強力な薬を要求した。彼女は一ヶ月間、投与できる最も強力な抗生物質の一つであるバンコマイシンの静注を受けた。これは彼女の左上腕に外科的に埋め込まれた中枢ルートから投与された。
 しかし彼女の痛みは軽減しなかった。

A revealing question 打ち明けられた疑問

 2011年1月、Harrod さんの兄は出張でニューオーリンズに滞在し、当地で開業しているリウマチ専門医の従兄弟と会った。話題が Harrod さんの長引く肩痛に転じ、兄は Harrod さんのニッケルに対する生まれつきの重度のアレルギーが何か関係している可能性がないか尋ねた。
 Harrod さんの小児期の発疹は家族内でわかっていたことだった。これは金属を含む安い宝石で起こり、彼女の腕はツタウルシの中を歩いたようになった。たとえわずかでもニッケルが含まれるものは決して身につけないよう言われていた。特に女性に多いが、成人の約10%は金属に対してアレルギーを持つ。その従兄弟は、金属性のインプラントを受けたあとひどい反応を起こしたアレルギー患者のことを聞いたことがあると言った。
 Harrod さんは最初その説をはねつけた。
 「『それはありえない、人工関節はチタン製なのだから』と私は兄に言いました」
 しかし次第に興味をそそられ~半分自暴自棄になって~彼女は人工関節における金属アレルギーを調べ始めた。約20年前からそのほとんどが膝関節と股関節の置換術において金属アレルギーが報告されており、様々な金属が関与していることを彼女は知った。米国食品医薬品局(FDA)のウェブサイトには、ステンレス鋼製ステントに対する重症の全身反応を経験した心臓病患者の例が記載してあった。
 Harrod さんは術前、規定通りアレルギーについての質問を受けていたが、彼女は自身の金属アレルギーについて話すのを忘れていた。医師および患者は術前にそのようなアレルギーについて明確に話し合っておくことをFDAは推奨している。というのも、『可能性のあるアレルギー反応を特定するための術前の質問が、しばしば、薬物反応やラテックスに対する感受性に向けられてしまっている』からである。
 2011年3月のバージニアの整形外科医への受診の際、Harrod さんは、自分がチタンに対するアレルギーを起こしている可能性が考えられないかどうか尋ねた。彼女によると「彼はその考え全体を鼻で笑っただけ」で、彼女が持参した調査結果を非難の目で見たという。しかし彼が彼女に伝えたところでは、彼女の肩関節は完全にチタン製ではなくニッケルを含む多くの金属でできていたという。

‘Your way isn’t working’ 『あなたの治療は効果がない』

 Harrod さんは愕然とした。「私には生まれつきニッケルに対するアレルギーがあるのです。ニッケルが含まれていることを伝えておいてほしかった」と彼女は言った。その医師は固まったようになって口をつぐみ、その後、ちょうど終了予定となっていた抗生物質をさらに6週間いくことを提案した。「あなたの治療は効果がありません」そう彼に告げ彼の診療室を出た。そして二度とそこに戻ることはなかった。
 2、3週後、彼女のかかりつけ医が MELISA という血液検査の手筈を整えてくれた。この検査は金属アレルギーを検出できるが米国では広く行われてはいないものだ。Harrod がスクリーニング検査を受けた20の金属のうち、彼女の唯一のアレルギーはニッケルに対するものだった。
 自分の調査資料と検査結果を持って彼女はフィラデルフィアに戻り Williams 氏を受診した。
 金属製の関節に対するアレルギー反応はまれである。Williams 氏自身も、約4,000例の肩関節置換術のうち4例しか見ていないという。しかし、Harrod さんの病気の原因が何であるかは依然明らかでないものの、感染ではないと彼は確信するようになった。しかし金属アレルギーを特定することは困難である。検査は不明確であり、感染や人工関節の緩みや装具の不整合など、痛みの他の原因がまず除外されなければならない。
 そこで Williams 氏は2段階手術を提案した。まず、人工関節を除去し、その空隙を満たすために抗生物質を浸み込ませた装具を埋め込み、その状態で特注のニッケルを含まない人工関節の製造を待つ。その後、そのニッケル・フリーの人工関節を設置するというものだ。
 「何が予測されるか分かりませんでした」と Williams 氏は思い起こす。彼は Jefferson Medical College の整形外科学の教授である。最初の人工関節は完全な位置にあり、不整合の問題は除外できたという。「彼女がよくなるかどうか少し心配でした」
 彼が問題の人工関節を除去したあと、痛みは収まり始めた。しかし、本当の意味の検証機会は、彼によってニッケルが含まれない人工関節が埋め込まれる2ヶ月後に訪れる。「まるで誰かがスイッチを入れたかのように顕著な結果でした」と Williams 氏は思い起こす。
 Harrod さんは再び、数ヶ月間の回復と理学療法に向き合ったが、この一年あまりの期間に初めて楽観的に感じることができたという。「どんどんよくなり続けたのです」と彼女は言う。「そしてこう考えました。『今度こそ、ようやくあるべき方向なのだ』と」
 2012年3月、彼女の7度目の肩の手術から7か月後、彼女は理学療法と術後の治療を免除された。彼女は自身の新しい肩関節には注意を払っているが、痛みはなく、ゴルフができ、水中エアロビクスやカヤックを行え、犬を散歩させることもできる。
 それでは Williams 氏は患者に対して手術の前に金属アレルギーについて質問することにしているのだろうか?
 「恐らく今まで以上に多くを質問すべきでしょう」と彼は言うが、標準的診療ではそのような質問は求められていないと付け加える。「しかし、患者と話す際には、特に女性の患者では、もう少し質問を掘り下げ、ニッケルアレルギーがあるかどうかを知ることはおそらく意味があるでしょう」
 「私の生活を取り戻せた」のは Williams 氏のおかげであると考えている Harrod さんはそのような質問が必須であり、そうされていれば痛みの3年間を省略できたと考えている。「さらに、皆さん一人ひとりの擁護者となるべきだということ、そして座ったままで『ああ、わかりました』と言ってるだけではだめだということを学びました」と彼女は付け加える。
 Williams 氏への最後の受診のとき、彼のそばにいる整形外科のフェローに対して自身の厳しい体験について詳しく話した。「私は次のように言いました。『私はあなたのお役に立ちたいのです。これについて理解いただけたら、私の存在によってあなたの患者にはこんな体験をさせずに済むでしょう』」

通常、人工関節は
チタン合金・コバルトクロム合金・ステンレス合金・
セラミック・ポリエチレンでできている。
チタン合金やセラミックは元来アレルギーを生じにくい
材質であり、その他の金属が問題になる。
金属アレルギーの患者では、
指輪、ブレスレット、ピアス、時計などの金属で
接触皮膚炎を起こすが、
5,000~10,000に1人の頻度で
金属に対するアレルギー反応が骨に生じることがある。
骨にアレルギー反応が起こると、皮膚の発赤が生じたり、
人工関節周囲の骨が融解し人工関節が緩んだりする。
人工関節の金属アレルギーでは、
人工関節が埋め込まれ体内で金属がイオン化して初めて
アレルギー反応が生ずることから、
術前に金属片を皮膚に貼ってアレルギーを調べるパッチテストでは
発症を確実に予見できないという問題がある。
従って可能な限り詳細な問診で
金属アレルギーを既往を確認することが重要である。
金属アレルギーがあることが分かっている患者には
金属部分が露出しないよう
セラミックで覆われた製品などが用いられるが、
この場合、耐久性の問題は十分に解決していない。
それにしても、この記事に登場する Harrod さん。
ニッケル・アレルギーが分かってたのなら、
ちゃんと申告しなさいよっ!ってことなのだ。

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