MrKのぼやき

煩悩を解脱した前期高齢者男のぼやき

ピンク・バイアグラ

2010-05-31 21:36:14 | 健康・病気

本エントリーでは性欲の科学と治療についてのお話。

5月24日付 Washington Post 電子版

FDA considers endorsement of drug that some call a Viagra for women 米国食品医薬品局が女性向けバイアグラとも呼ばれる薬の承認を検討中

Photo

By Rob Stein
Monday, May 24, 2010
 詩人、哲学者あるいは大勢の欲求不満の男性たちを悩ませてきた『女性は何を欲しているか?』という問題に連邦の諮問委員たちはまもなく取り組もうとしている。
 この難問は米国食品医薬品局(FDA)の委員会の審議対象となる予定であり、バイアグラが男性に作用するのと同じ、すなわち性生活を刺激するという目的で女性向けに作られた初めてとなる薬の承認が検討される。ドイツの巨大製薬会社 ベーリンガーインゲルハイム社は、文字通り色気のない名前の “flibanserin(フリバンセリン)” という薬を売り出したいと考えているが、この薬には女性の脳の化学物質を変動させることで、性欲を誘発する効能があることが示されている。
 FDAの性と生殖に関する医薬品諮問委員会によってこの申請を検討するための会合が6月18日に開かれる前であるにもかかわらず、発売をめざす他の薬と同様この薬が女性に対する医療の平等性確立への念願の第一歩となるのか、あるいは実際には不必要で危険すら伴う薬を販売するために不確かな疾病を捏造する製薬業界の新たな事例となってしまうのか、などの問題についての議論に、このたびこの薬が承認されそうな見通しが火をつけてしまったようだ。
 「幸福で健康な性生活を送れることを現実的かつ重要な問題と捉えている女性がいるのです」と、ワシントンを拠点とする支持団体、National Women's Health Network の Amy Allina 氏は言う。「しかし、この『ピンク・バイアグラ』については多くの疑問があります」
 1998年の承認後、大ヒットに至ったバイアグラの躍進は、女性に対しても同じような効果を有する薬物への一連の関心を引き起こした。製薬会社のファイザー社は、その『小さな青い錠剤』は弱まった女性の性欲にも刺激的に作用することを期待する一方で、女性の性的指向は男性のそれより一層複雑であることを明らかにしている。一方、ドイツの Boehringer Ingelheim(ベーリンガー・インゲルハイム)社は、米国だけで20億ドルの市場と見込まれていることを受け、近々flibanserin が初めての処方薬となることに対して楽観的な見方をしている。
 「女性にも選択肢が与えられるべきであると思います。Flibanserin は多くの女性にとって安全で有効な選択肢となりうると期待しています。」と、同社で flibanserin の臨床研究の先頭に立つ Michael Sand 氏は言う。
 Flibanserin は当初抗うつ薬として開発されたが、うつ病の治療薬としては効果がないことが科学者により明らかにされた。しかし、この薬物には、女性の性欲促進という予想外の副作用があるとみられたのである。そのことから、重大な精神的苦痛を起こし得る原因不明の性的想像・空想・欲求の喪失である性的欲求低下障害(HSDD: hypoactive sexual desire disorder)に対して本薬剤の研究を開始した。ある研究によれば、女性の10%が HSDD に悩んでいる可能性があるという。
 「彼女らはセックスを嫌っているのではありません。関心を失っているだけに過ぎません。それについて考えることをやめているだけなのです」と、同社の薬剤を研究してきた University of Virginia の精神医学・神経行動科学教授、Anita H Clayton 氏は言う。「それまではスイッチが入っていた状態だったのです。それは彼女らにとって喪失状態と言えます。それがないために寂しい想いをしています。そしてそれを取り戻したいと思っているのです」
 Northern Virginia の主婦 Lana さんは、自身の徐々に進む原因不明の性欲の喪失による結婚生活の危機を恐れていたと言う。
 「そういったことはどこか秘密にしておくべきと考えるものです」と、Lana さんは言う(姓を匿名にするという条件で語ってもらった)。「『男性は電子レンジのようなものであり、女性はクロックポット(電気鍋)のようなものである』という例え話を聞かれたことがありませんか?そう、私はショートした電気鍋のようなものだと感じていました。私は女盛りだと思われていましたが、実際にはしぼみ始めていたのです」
 同社は、米国、カナダ、およびヨーロッパで、HSDD と診断された18才から50才の5,000人以上の閉経前女性を対象にした臨床研究に資金を提供した。一日量 100mgを毎日内服することにより、申告に基づいた一ヶ月間の満足できた性行為の平均回数(この種の薬剤でFDAが重要な基準として用いている)を、2.7回から4.5回に増加させた。一方、プラセボ薬の内服群では3.7回であった。
 一部の批評家からはその差が微々たるものであるとの批判があった。しかし、Sand 氏ら研究者によれば多くの女性にとってこの差は重要であるという。
 「今わかっていることは、満足のいく性行為の増加が全体的として得られたことであり、性欲の量の増加とそれと同時に見られる苦痛の減少は、女性の声を聞くなかで有意義なことであると考えられます」
 厳密にこの薬がどのように作用するかは不明であるが、脳内の化学物質、セロトニンの量を減少させる一方で、ドパミンとノルエピネフリンの二つの物質の濃度を増加させているようである。
 一部の女性に、嘔気、ふらつき、眠気など、軽微な副作用が見られたが、重篤な合併症は報告されていないと Sand 氏は言う。
 批評家によれば、HSDD を正式な精神的疾患と定義することに製薬業界が中心的役割を果たしており、重要な研究に資金提供することでそういった疾病領域の存在を誇張してきたという。
 「実際には違っているのに自分たちが病気であると思う人もいるでしょう。患者として扱われる必要がない場合でも患者にさせられてしまうのです」と、オーストラリア University of Newcastle の講師で、近刊予定の著書 『Sex, Lies and Pharmaceuticals』 の作者である Ray Moynihan 氏は言う。
 多くの女性とって性欲の低下は正常な加齢現象の一部である。それ以外の人では、他の医学的疾患、人間関係の機能不全、あるいはパートナーによる虐待などに基づく一徴候である可能性がある。
 「実際にそれは病気なのでしょうか?それとも、彼女らの経験、パートナーから受ける苦痛、あるいは彼女ら自身における変化といった社会的メッセージなのでしょうか?」、Harvard Medical School 内科の准教授 Susan Bennett 氏は問いかける。
 Flibanserin を処方によって入手可能とすることに伴う見込まれるリスクと便益を評価するため、FDA の委員会(男女同数のメンバーで構成)は、性的欲望、性的興奮、性的満足および精神的苦痛など捉えどころのない情動的な概念といった微妙な領域についての検討が求められる。
 「女性たちが持つ性的解放への欲求は大いに価値のあるものです」と、New York University School of Medicine 精神医学の臨床准教授 Leonore Tiefer 氏は言う。「女性を、そして彼女たちの性を真に理解しようとしない営利指向の企業にこの問題が乗っ取られていることを危惧しています」
 たとえばホルモン補充療法で見られるのと同じように、何年にもわたってこの薬が服用された後、はじめて明らかになるであろう長期的副作用の可能性に加えて、flibanserin が女性たちを濫用に走らせてしまう可能性を懸念する人たちもいる。
 「本剤の作用により、性的虐待を行うパートナーを逆に彼女たちが求めてしまうようなことにならないでしょうか?」と、女性の性障害に対する薬剤の開発における製薬業界の役割についてのドキュメンタリー映画 “Orgasm Inc.” を制作した Liz Canner 氏は問いかける。「それによって通りすがりの男性なら誰でも欲しくなるようなことはないでしょうか?」
 Sand 氏はそういった懸念に異議を唱えている。
 「これは、私たちのまわりで見かける、コップの水に溶かせば、突然、性的興味の強い女性に仕立て上げる媚薬のようなものではありません」と Sand 氏は言う。「この疾病がある種製薬業界によって作り上げられたものであるという考えは誤りです。これは新しいものではないのです。これは長い間女性が悩まされてきたことなのです」
 FDAによれば、承認を待っている特定の製品について論じることはないとの見解だ。一方、Notehrn Virginia の主婦 Lana さんは、この薬が近い将来手に入れることができるようになることを望んでいると語る。
 「この薬を飲み始めてから再び少しずつセックスのことを考えるようになっています。セックスについての夢も見るようになりました。セックスについての夢なんてもう何年も見たことはなかったのです」と、彼女は言う。「私に性欲が戻ってきました」

女性の性障害とは生理的な加齢現象なのか?
それとも製薬業界が薬を売るために作り上げた疾患なのか?
この薬の効果云々の前に根本的な問題が横たわる。
日本人女性ではなおさら人には相談しにくい事柄だろうし、
実状把握が困難な問題であるといえる。
これまで、女性用バイアグラと呼ばれてきた薬には
女性自身の潤いを保つダイフルカン(ジフルカン)がある。
ファイザー社によるバイアグラ発売の数年前から発売され、
FDAの認可も受けている。
しかし、この薬はもともとカンジダ性膣炎の治療薬であり、
局所的な効果のみで、性欲そのものに対する作用はなかった。
また、男性向けのバイアグラと同じ成分で
女性自身の血行を改善することで性感を高める
同じファイザー社の Womera という製剤もあるようだが、
本剤も性欲そのものへの効果は確かではない。
本記事にある flibanserin(フリバンセリン)は
肉体的に効果を発揮するこれまでの薬剤とは異なり、
脳内で作用し性欲を高める効果が期待できることから
画期的とされているようだ。
文中にあるようにその作用機序はいまだ不明だが、
ドパミンの増加を促す薬となれば
男性にも同様の効果を期待できるのかもしれない?
そういう意味では、この薬、認可されることになれば
セックスレス化や少子化の進む日本においては
優れたカンフル剤となりそうだが、
一方で、社会的に大きな問題を招いてしまいそうな
そんな心配が頭をよぎるのである。
その意味では厳密な使用条件を決めておくことが必要かもしれない。
なおフリバンセリンについての日本での記事は以下をご参照あれ。
2009年11月28日産経ニュース 

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恋することはグローバル

2010-05-26 19:04:30 | 科学

前エントリーに引き続いて
Tara Parker-Pope 氏による
愛の脳科学についての記事。

5月24日付 New York Times 電子版

Love on the Global Brain 脳の恋愛反応は世界共通

Loveonglobalbrain

By TARA PARKER-Pope
 早期の情熱的な恋愛はユニークな脳活動パターンを生ずることが脳スキャン研究で示されている。愛する人の写真を人が見る時、中毒や精神疾患まで関係する脳の領域の活動がスキャン上認められた。
 しかし、これまでほとんどの研究が英国や米国など西洋の文化圏で行われている。そのため、ニューヨークの Stony Brook University の研究者たちは情熱的な恋愛によるこういった脳内の撹乱が文化を越えて当てはまるかどうかを知ろうとした。例えば、恋愛中、中国人の脳もアメリカ人の脳と同じように見えるのか?
 文化や国といったものが、どのように恋愛するか、あるいは少なくとも恋愛をどのように表現するかといったことに影響を及ぼしていると考えられる理由がある。例えば、調査によると、中国人は一般に情熱的な恋愛を『ずっと肯定的でない言い方で』表現する、と愛と脳の画像研究を行っている Stony Brook 大学の心理学教授 Art Aron 氏は言う。
 「ロマンチックな恋愛が唐突に生ずる見合い結婚の習慣がある文化では、違いが存在する可能性がアンケート調査からは示唆されています」と、Aron 博士は言う。「情熱的な恋愛は我々にとっても完全に素晴らしいものであるとは限りません。もし、あなたが恋に落ちても相手がそれに報いてくれなかったり、あなたが他の誰かと親密な関係にあったりするような場合には、悲劇的で暗い一面を持ち合わせます」
 中国の人が愛について語る時、「しばしばよりネガティブな特性、すなわち、不安、怖い、気が滅入る、などの言葉を選ぶ傾向にあります」と、Aron 博士は説明する。「アメリカ人もまたネガティブな感情を挙げるかもしれませんが、ネガティブの度合いが中国人でははるかに高いのです」
 そこで、Aron 博士の大学院生の一人 Xiaomeng Xu 氏が夏の一時期を中国で過ごすと決めた際、この研究チームは、新たに恋愛状態に入ったと申し出た中国人の脳を研究するよう手筈を整えた。この結果は Journal Human Brain Mapping でオンライン発表されている。
 恋愛がどのように表現されるかの文化的違いは、情熱的な恋愛に対する脳の神経科学的反応に変化を来たさないことを彼らは発見した。民族的背景に関係なく、恋愛は同じように脳を活性化することが画像によって示されたのである。「この測定方法は文化に依存しません」と、Aron 博士は説明する。「恋愛のあり方が最も異なっているだろうと誰もが考えていた文化において、我々はこれまでの知見を再現することができたのです」
 脳における恋愛を研究するために、男女は脳の画像装置に入り、それぞれの愛する人の写真を見せられた。彼らはまた、恋愛感情を持たない親しい友人の写真も見せられた。米国における恋愛の研究結果とまさに同じく、愛する人の写真は強い報酬に関連する脳の領域に特徴的なパターンの神経活動を惹起した。そのパターンは人が常習性薬物を用いたりギャンブルをしたりする時に見られるそれと類似していた。
 中国研究においては、さらに18ヶ月間、男女関係を追跡する追加の手順が踏まれた。その時点でこれらカップルに7点スケールで二人の関係を表現してもらった。追跡を続けた被験者全員が共に言い関係にあったが、二人の関係に6点をつけるものもいれば7点をつけるものもいた。この評価を元の画像所見に照らし合わせると、若干低いスコアを付けた人たちに比べ、最も満足な関係にあった人たちの間には脳の活性パターンに明らかな違いがあるのを研究者たちは発見した。
 「うれしいことに、そこにはきわめて明確なパターンが得られたのです」と、Aron 博士は言う。「脳の可能性のある領域がそれを予測できるかどうかについて確かめられ、きわめて強力な結果が得られました」
 ただし、この結果は予備的なものであり、同じ結果の再現が必要であると、Aron 博士は警告する。とはいえ、この研究は、情熱的な恋愛の早期における脳の活性パターンの強さによって、18ヶ月先の未来の男女関係の質を予測できる可能性を初めて示唆したものである。
 「我々がこのことからわかったことは、恋愛は単に文化的な構成物ではないということだと思います」と Aron 博士は言う。「この研究から示唆されることは、恋愛が人類の生活において強大な力となっている、ということです。脳の深いレベルで起こっていることは世界中のあらゆる所で起こっているということに他なりません。とはいうものの、愛についてどのように話し、思うかということ、人に対してそれを示すために何をするかということなどは当然ながら文化によって形づくられるものなのでしょう」

要するに恋愛における脳の反応は世界共通。
記事中の脳スキャンとは機能的MRI(fMRI)と思われる。
以前より、
恋愛に強く関与している部分は、報酬系の一部とみられている
中脳にある『腹側被蓋野(ふくそくひがいや)』と呼ばれる箇所と
考えられており、性欲と関連する領域とは異なっているという。
情熱的な恋愛状態にある時にはこの領域の活性化が起こり、
ドーパミンが大量に分泌され強い快の感情をもたらす。
文中にもあったようにコカインなどの麻薬使用時にも
同じ部位が活性化する。
つまり恋愛とは一種の中毒状態であり、恋に落ちることは、
すなわち理性では抑えがたい状況に陥っていると言える。
とはいえ、恋愛時の実際の脳の反応は、このように
脳の一部だけが活性化するような単純なものではなく、
はるかに複雑な要素が関与しているものと思われる。
とにもかくにも、こういった脳の恋愛関連領域の活性化、
生涯、一人の異性に対してだけ起こるのであったなら、
男と女の関係もずっと平和になっていたに違いない。

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『幸せな結婚』の科学

2010-05-18 20:23:39 | 科学

結婚は人生の墓場。
結婚生活は忍耐の連続。
結婚式が過ぎればロマンスは衰退の一途…
そして高まる浮気の危機。

結婚式のスピーチでは口が裂けても言えない
ネガティブに語られる結婚生活の一側面。
しかし、何十年たっても新鮮で刺激的な
パートナーシップを維持しているカップルが
存在するのもまた事実。
そんな結婚生活の成否も
科学的根拠に裏打ちされているとしたら…

5月10日付 New York Times 電子版

The Science of a Happy Marriage  幸せな結婚の科学

Happymarriage

By Tara Parker-Pope
 世の中の男と女…誘惑をはねつける輩もいれば、パートナーを裏切る輩もいるのはなぜなのか?
 この答えを見出そうと、コミットメント(男女の結びつき、詳細は Mr K が後記 )の科学に焦点を当てた研究が増加している。結婚の安定性に影響を及ぼすとみられる生物学的要因から、パートナー以外の人とたわむれた後の心理的反応に至るまで、科学者によって様々な研究が行われている。
 彼らの知見によれば、生来誘惑に抵抗性の強い人が存在する一方で、男女は自分たちの関係を守りコミットメントの気持ちを高めるよう鍛えることもできる可能性があるという。
 遺伝的因子が果たしてコミットメントや夫婦間の安定性に影響を及ぼすかどうかという疑問が最近の研究によって提起されている。スウェーデンのカロリンスカ研究所の生物学者、Hasse Walum 氏は、bonding hormone(結びつけホルモン)と言われる脳の化学物質 vasopressin(バソプレシン)の調節に関係する遺伝子について詳しく調べる目的で 552組の双生児を対象に研究した。
 全体的に、この遺伝子に変異を持っている男性は結婚する頻度が低い傾向にあり、結婚している場合でも深刻な結婚上の問題やふさわしくない妻を持っている頻度が高かった。その遺伝子変異の2つのコピーを持っている男性ではその約3分の1が過去一年以内に重大な関係の危機を経験しており、この割合は変異を持っていない男性の2倍であった。
 この遺伝形質はしばしば “fidelity gene(貞節遺伝子)”と呼ばれているが、Walum 氏はそれは誤った名称だと言う。彼の研究は貞節にではなく夫婦間の安定性に焦点を当てているからである。「男性における将来の行動の予測にこの情報を用いるのは困難です」と、彼は語る。現在、彼らは今回の知見の再現性に取り組んでおり、女性においても同様の調査を行っているところである。
 このようにコミットメントに影響を及ぼす遺伝的な違いが存在する可能性がある一方、脳は誘惑に耐えるよう鍛えることができる可能性を示唆する研究もある。
 モントリオールの McGill University の心理学者 John Lydon 氏が主導する一連のユニークな研究では、まじめな交際をしている人が誘惑を前にしてどのように反応するかを見ている。ある研究では、強く結ばれている既婚の男女に一連の写真を用いて異性の人たちの魅力を評価してもらった。当然のことながら、彼らは一般的に魅力的とみなされている人たちを最も高く評価した。
 その後、彼らは同じような写真を見せられ、その人間が彼らに会うことに興味を持っていると聞かされた。そういった状況になると、参加者たちは一貫してその写真を最初の時より悪く評価した。
 関係を脅かしかねない人に誘惑されようとする時、彼らは無意識に自分にこう言い聞かせていたと思われる。「そんなに素敵ではない」と。「より強く結ばれている人ほど、二人の関係を脅かすよその人を魅力的に感じないのです」と、Lydon 博士は言う。
 しかし、この McGill 大学の研究では浮気の危機への反応の仕方に性差があることも示されている。300人の異性愛の男女を対象にした研究で、魅力的と感じる人とのいちゃつきの会話を想像して浮気心を持った人が半数に認められた。他方、残りの半数の人は単に通常の出会いを想像した。
 その後で、被験者たちは LO_AL や THR__T などの穴埋め問題を完成するよう求められた。
 被験者たちには知らされていないが、この単語はコミットメントについての潜在意識を明らかにする心理学的検査になっている。(同様の単語完成パズルは偏見や既成概念についての潜在意識を調べるのに用いられる)
 通常の出会いを想像していた被験者では一定の傾向は見られなかった。しかし、いちゃついた空想を心に抱いた人たちでは男女間で違いが見られた。このグループでは、男性はあまり意味のない単語、LOCAL (局所?)と THROAT (喉?)でこのパズルを完成させる傾向が見られた。しかし、いちゃつきを想像していた女性では、LOYAL(誠実な) と THREAT (脅威)を選択する傾向がはるかに強かった。このことは、予行練習によってコミットメントに対する意識下の懸念が誘導されたことを示唆している。     もちろん、このことから必ずしも現実の世界での行動が予測されるわけではない。しかし、この明確な反応の差から、女性には、男女関係の脅威について注意を喚起する一種の早期警報システムのようなものが備わっている可能性があると、研究者たちは考えている。
 別の McGill 大学の研究ではそのような脅威に対する反応の仕方の男女間での違いを明らかにしている。一つの研究では、被験者と待機室でいちゃつき相手として(無名の?)魅力的な俳優や女優が動員された。その後で被験者たちは自身の男女関係について、特に、時間に遅れるとか、電話をかけ忘れるなど、パートナーの良からぬ行動に対してどのように反応するかを評価する質問を受けた。
 きっちりいちゃついていた男性はパートナーの良からぬ行動に対し寛容さが小さく、魅力的な女優が男性のコミットメントを一時的に壊しかけたことを示唆していた。しかし、いちゃついた女性の方はより寛大であり、男性を弁護する傾向にあった。これは、男女関係について論じる場合、あらかじめ浮気心を持ったことがその関係に保護的に反応する引き金になったことを示唆する。
 「この研究の男性たちもコミットメントを持っていたとは思いますが、女性の方は一種の危機管理のプランを持っていたのでしょう。すなわち魅力的な代替者が警報ベルを鳴らすのです」と、Lydon 博士は言う。「女性は気づかぬうちにそれを脅威としてコード化するのです。これは男性には見られないことです」
 問題は、果たして人は誘惑に抵抗するよう訓練できるのか、ということだ。別の研究では、デートをするような恋愛関係にある男子学生に、ガールフレンドがいない週末に魅力的な女性と出会うことを想像するよう促した。その後、この男子学生の一部には次の文章を完成してもらい危機管理のプランを作ってもらった。『When she approaches me, I will ____________ to protect my relationship.』(彼女が私に言い寄ってきたら、自分の交際関係を守るために私は_____するだろう)
 誘惑者として行動してもらうのに本物の女性を連れてくることはできないため、4つの部屋のうち2つに魅力的な女性のサブリミナル・イメージを盛り込んだバーチャル・リアリティ・ゲームを作成した。誘惑への抵抗を準備していた男性は一定時間の25%、その部屋に自然に惹きつけられたが、それ以外の男性では、その数字は62%だった。
 とはいえ、男女のカップルをつなぎとめているのは愛や貞節の感情ではないかもしれない。むしろ、皆さんの恋愛関係のレベルは、どの程度パートナーがあなたの生活を高めてくれ、皆さんの視野を拡げてくれるかに依存しているのかもしれない。この概念は Stony Brook University の心理学・人間関係学の研究者 Arthur Aron 氏が “self-expansion”(自己拡大)と呼んでいるものである。
 この質を測るためには、カップルは一連の質問を受ける必要がある:あなたのパートナーはどれほど多く刺激的な経験の源を与えてくれますか?パートナーを知ることがどれほどあなたをよりよい人間に成長させてくれますか?あなたのパートナーはどれほどあなた自身の可能性を広げる手段となってくれますか?
 この Stony Brook 大の研究者らは自己拡大を刺激する行動を用いて実験を行った。一部のカップルには日常的なありふれた課題が与えられる一方、別の一部のカップルはお互いを結びつけられ、マット上を這って、頭で発泡スチロール製の円柱を押すという意味のない運動に参加してもらった。この実験は操作されており、カップルたちは最初の2回の試みでは時間制限内に成功しないが、3度目にはすれすれでやり遂げ、多くの称賛を受けるように仕組まれていた。
 カップルたちはこの実験の前後で男女関係のテストを受けた。共同で達成を経験しなかった人たちに比べ、挑戦的な活動に参加した人たちは、愛情度も二人の関係の満足度もともにより増大していたのである。
 今、研究者たちは、自己拡大が男女関係にどの程度影響を及ぼすかを調べる一連の研究に取りかかっている。未知の場所を探索したり新しいことにトライしたるするカップルは自己拡大感が引き出され、コミットメントのレベルが高まるだろうと理論づけている。
 「他人が自分の一部になることで、人間関係が始まり、それによって自分が拡げられてゆくのです」と、Aron 博士は言う。「恋に落ちた人が一晩中起きていて話をするのはそのためですし、実際にそれによって興奮を感ずるのです。やりがいがあり、刺激的なことに一緒に取り組むことで、カップルはその関係を取り戻すことができると私たちは考えています」

『コミットメント』とは簡単に訳せば『関わり合い』という
ことになるのであろうが、この単語はもっと意味の深い言葉で、
『自分の心の方向を決め、目標に対して自分のすべてを
捧げようとする決意』。
これを男女の関係で用いるなら、
『自分の強い意思で相手と全力で関わろうと心に
決めること』。
日本人には簡単には理解できない言葉であるが、
『当初(機械的に?)デートを重ねていた時と違って
相手のことを限りなくいとおしく思えてきたその状態』
と言えばわかりやすいだろうか?(違うだろ!)
この記事によれば、男性ではこのコミットメントの
維持力が女性に比べて弱いようで。
女性には危機管理能力があるが、男性には乏しいらしい。
このように男女間のコミットメントを保つには
女性に負うところが大きいのかもしれないが
男性には種々の誘惑に打ち勝つ精神力と
共に生きるという強い決意を持つことが
求められると思うのだ。

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"blockbuster"(大当たり)を狙え!

2010-05-13 22:41:45 | 健康・病気

ようやく来年2011年には
アルツハイマー型認知症の新たな治療薬が
相次いで発売される見込みである。
2010年3月1日付 asahi.com (ウェブ魚拓)

これまで同疾患に対する治療薬は
『アリセプト』ただ一つだっただけに
朗報だ。
しかし、アリセプトを含め
これらの薬はいずれも病気の進行を遅らせるだけで、
本疾患の根本的な治療薬ではない。
今、世界の薬品メーカーは
根本的な原因を阻害する薬の開発に躍起になっている。

5月4日付 Los Angeles Times 電子版

Drug makers enter crucial phase in search for Alzheimer's disease treatments アルツハイマー病治療薬の開発で重要な局面を迎えている各薬品メーカー

Dementia_2

By Bruce Japsen
 シカゴからの報告―アルツハイマー病治療法の発見をめざし様々な研究や多くの試行錯誤が数十年にわたり行われてきた今、製薬業界はアルツハイマー病の進行を遅らせたり停止させることのできる薬剤の開発において重要な局面を迎えている。
 人口の高齢化が進んでいることから薬品メーカーはここに膨大な収益増加の可能性があると考えている。米国疾病対策予防センターによれば、米国民の500万人以上がアルツハイマー病に罹患しており、本疾患は米国における主たる死因の一つとなっている。世界的に見ても患者市場は2010年の約3,000万人から2050年には1億2,000万人に達し、数十億ドルの売り上げをもたらすと見込まれている。
 この徐々に悪化する疾患の進行を変更するよう開発され、米国が認可する臨床試験のフェーズ3の最終段階に来ているこれまでに類を見ない5つの薬剤がある。これらの “ interventional drugs(根本的治療薬)” は、もし認可されれば、ファイザー社が強力に売り込んでいるアルツハイマー病に一時的に有効なアリセプトなど現在投与可能な薬剤とは大いに異なるものとなる。
 まさにいつこれらの実験的治療のいずれかが米国食品医薬品局に認可申請されるかは明らかでなく、それらが国民に届く保証もない。しかし、研究者やウォール街のアナリストの中には5年以内に根本的治療薬が米国のマーケットに登場するとの予測がある。
 「市場に出される製品を実際に手にすることができる直前となる科学的研究の最終ステージにあることは確かです」と、アルツハイマー病協会の医学および科学事務局長である William Thies 氏は言う。「実際それは私たちがどの程度まで達したかについての重要な指標なのです。アルツハイマー病に対する第2世代の薬品開発もようやく成熟を見ようとしているところです」
 その注目されている製品の一つに、免疫異常の治療薬としてイリノイ州 Deerfield に拠点を置く Baxter International Inc. から販売されている血漿由来の生物学的薬剤がある。
 先月、New York-Presbyterian Hospital(ニューヨーク長老派教会病院)/Weill Cornell Medical Center の Norman Relkin 医師が主導する研究チームは 24 例の患者を用いた研究で、Baxter 社の薬 Gammagard がアルツハイマー病の患者に対する有効な治療法として期待が持てることを示した。この試験で経静脈的にGammagard を投与された16例の患者で、脳萎縮の進行の抑制と “思考能力” の改善が確認された。Baxter 社はこの研究を最終段階の米国臨床試験に拡大する予定にしている。
 Baxter 社のこの薬剤の背景にある考え方は、アルツハイマー病の発生や進行において重要と考えられている粘稠なプラーク様の物質を免疫システムによって脳から排除するのをこの薬剤が促進しうるというものである。
 New York に住む Jason Marder さん(67)とその夫人 Karin さんは、Relkin 医師の臨床試験の患者として2006年に治療を開始して以降、月2回の Gammagard の注射が病気の進行を遅らせてくれていると信じている。
 「 Jason に悪化が見られていないのは信じがたいことです」と 17年間連れ添っている Karin Marder さんは言う。
 彼に活動的な生活を送らしめているのがこの薬であるという確証がないことは Marder 夫妻も理解している。さらに、彼らは、高齢者においては心筋梗塞や脳卒中などを招く Gammagard の危険性や、発疹や血圧の変動などの副作用についても承知している、と医師は言う。
 40 代後半で死亡した Jason Marder さんの兄に起こったこの疾患の衝撃的な症状を目の当たりにしていたことから、こういった危険性にも進んで立ち向かえると Marder 夫妻は言う。
 「Jason に見られた変化が普通の老化現象ではないことに気づいたのです」と、Karin Marder さんは言う。「一緒に座っていると、彼はこう言いました。『夕べすごい映画を見に行ったよね?』。そこで私はこう答えるのです。『夕べ映画なんか行ってないわよ』と」
 今もJason Marder さんには同じような記憶障害の会話が続いている。しかし、Gammagard の治療を受けていなかったならそういったエピソードはもっと頻繁となり、もはや自立できなくなっていただろうと、夫人は考えている。アルツハイマー病と診断されて7年になるが、Jason Marder さんは今でも Manhattan の自宅から地下鉄に乗り、食料品の買物に行き、自分の食事を用意することが可能である。
 「私は彼の兄 Mitchell と親しくしていました。ですから病状の進行もわかったし、恐ろしく衝撃的に受け止めていました」と Karin Marder さんは言う。「私はそういった症状の増悪を見てきましたが、Jason には増悪は見られていません。ベービーブームの世代が今を迎え、今後この病気が増加してゆくでしょうし、私たちはそれに対して何かをしなくてはならないのです」
 アルツハイマー病治療の開発を行っているのは Baxter 社だけではない。世界最大の製薬会社もまたフェーズ3の段階にある臨床試験中のアルツハイマー病の根本的治療薬を持っており、研究に数億ドルをつぎ込んでいる。
 New York に本社を置く Pfizer 社は、New Jersey を本拠とする Johnson & Johnson 社の子会社と協力して、神経変性疾患の治療あるいは予防のための薬品の研究、開発を行い、商品化をめざしている。このベンチャー事業の主要な薬は bapineuzumab と呼ばれるもので、アミロイドを除去するための抗体(モノクローナル抗体)である。
 「我々の bapineuzumab を用いた計画はアルツハイマー病の経過を変化させることを期待して研究された根本的治療法です」と、Pfizer 社の副社長であり同社のプライマリーケア事業の医学部門のトップである Steve Romano 博士は言う。
 2年前の研究でこの薬物と脳浮腫の関連が示唆されたが、Pfizer 社はbapineuzumab の患者での臨床試験に踏み切った。J&J 社と Pfizer 社のベンチャー事業は臨床試験を世界的に展開して4,000人の患者を対象にするよう拡大する意向である。北米の臨床試験は2012年に完了するとアナリストは言うものの、同社は今の段階でFDA への申請に山を張るつもりはない。
 Pfizer 社はリスクについても十分に理解しているのである。3月、かつて有望視されていた Pfizer 社のアルツハイマー薬 Dimebon の研究では、フェーズ3試験においてプラセボと比較し有効性がなかったことが明らかとなっている。それでも有望な Alzheimer 治療薬としての Dimebon に対する評価は変わらないと同社は言う。
 「たとえ失敗に終わっても新しい作用機序を考え、治療を一つ上のレベルに持ってゆく努力をすることを考慮するべきです」と、Romano 氏は言う。「リスクはありますが、それだけの価値はあるのです」
 その他にも最近の3年間には後期臨床試験において注目される失敗が見られている。たとえば、Myriad Genetics Inc. により開発された Flurizan や Neurochem Inc. の Alzhemed などがある。
 Baxter 社の最高経営責任者である Bob Parkinson 氏は、この Gammagard-アルツハイマー病プロジェクトを“wild card(予測不能なもの)”と呼んでいるが、同社通のアナリストは、いつかは年間10億ドル以上を生み出す可能性がある大ヒット商品と見ている。
Baxter 社は慎重に進めているが、Gammagard の研究がかなり少ない患者で行われたことを考えるとその姿勢も当然であろうと業界アナリストは指摘する。国内の24ヶ所以上の場所で360人以上の患者で行われる大規模研究や、近頃発表されたこの先2、3年の間に並行して行われることになっている研究によって、アルツハイマー病の治療薬としての Gammagard の将来像がより明らかになるだろう。
 「このフェーズ2試験は臨床的にほとんど治療選択肢のなかった患者にとって有望な結果が出ました。しかし、そのサンプルサイズが小さかったため、本治療法の臨床的有益性について明確な判断を下すためにはこの2つのフェーズ3試験の結果を待たなくてはなりません」と、シカゴの投資銀行 William Blair & Co のアナリスト、Ben Andrew 氏は言う。
 さらなる失敗の可能性に直面しているとしても、研究が継続されれば、薬剤がアルツハイマー病の進行にどのような影響を及ぼすかを医学界が知るのを後押しすることになるだろうと研究者たちは言う。Baxter 社の薬の Weill Cornell の臨床研究では、“脳全体の萎縮の抑制”を示す明確な計測値を得るために患者の脳のMRIが用いられた。
 「MRI技術の使用は、従来の臨床的な検査の結果に脳イメージングによる所見など生物学的指標を組み合わせることによってアルツハイマー病の臨床試験を円滑化できるという励みを我々に与えてくれます」と、Relkin 氏は言う。「MRI技術の使用は試験そのものの正確性を向上させる可能性があります。これは他の臨床試験に刺激を与えることになるかもしれません」

アルツハイマー治療薬が当たれば
空前のビッグ・ビジネスになるのは確実である。
有力な治療薬候補となっている
抗アミロイドβ抗体をめぐっては
日本のメーカーも負けじと開発を進めているところである。
こういった第2世代治療薬の実用化には今後まだ
数年を要する見込みである。
副作用が少なく、有効性の高い夢の薬は
果たしていつ、どこのメーカーによって
世に送り出されてくるのだろうか?

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景気低迷と揺さぶられっ子

2010-05-09 17:35:00 | 健康・病気

親による子供の虐待が年々増加していることは
以前から言われており、そこには
核家族化、コミュニティの希薄化などの関連が
指摘されてきた。
しかし今年になって、テレビや新聞などで、
幼児に対する身体的虐待やネグレクトなどのニュースを
やたら目に耳にするように感ずるのは気のせいか…
長引く景気低迷、雇用不安、将来に対する閉塞感、
政治不信などなど、
様々なストレスが親の心から余裕を奪っているのは
確かだろう。
虐待の仕方こそ異なるが、それは米国でも同じようで…

5月3日付 TIME.com

Study: Shaken-Baby Cases Rose During the Recession 研究:景気低迷時に増加する揺さぶられっ子

Shakenbaby

By ALICE PARK
 低迷する経済、失業率の急増、不安定な家計など様々なストレスの影響は恐ろしいほどである。人はそれに対応しようとして喫煙を始めたり、アルコールを利用する、あるいはうつ状態となったり、自暴自棄になったり、心臓疾患などのストレスに関係する疾病に罹ることもある。ストレスが思わず自分たちの子供を傷つける方向に親たちを向かわせてしまい、被害が子供たちにまで及ぶ恐れがあることを、今回研究者らが報告している。
 バンクーバーで行われた Pediatric Academic Societies の年次総会で5月1日に発表されたもので、Children's Hospital of Pittsburgh の児童虐待の専門家 Rachel Berger 医師が主導する研究チームは、児童が大人によって乱暴に揺さぶられる shaken-baby syndrome(揺さぶられっ子症候群)の件数が、現在の不況が始まって以来顕著に増加していることを報告した。研究者たちは 4病院(ペンシルベニア州ピッツバーグ、オハイオ州シンシナチ、オハイオ州コロンブス、およびシアトル)の小児センターにおける頭部外傷 512 例のデータを解析し、症例数が2007年12月1日以前は月6例であった(この比率は2004年以降変わっていなかった)のに対し、それ以降は月9.3例と増加していたことを明らかにした。
 揺さぶられっ子件数の増加は不景気に関連する経済の低迷と関連している。「これは悪い状況下にみられる “perfect storm(一層悪い状態)” です。そこには、児童虐待を防ぎこれに本気で取り組むことになっている社会福祉組織の排除まで引き起こしてしまう経済的ストレスがあります」と、Berger 氏は言う。この研究で観察された関連性には別段驚きはなかった彼女は言うが、虐待による小児の頭部外傷例の最近の急激な増加については“特筆すべき”事態であると言う。
 Berger 氏の研究が明らかにしたのは、不景気と揺さぶられっ子の頻度の間の因果関係ではなく、両者間の関連であると彼女は警告する。しかし、今回の知見は、様々なストレスの多い状況、たとえば家族の不幸、自然災害、財務状況の悪化などが親たちをその対処能力の限界まで追い詰めてしまう可能性があることを明確に思い起こさせるものである。1999年、ノースカロライナ東部地域を襲った壊滅的なハリケーンの後、Chapel Hill にある University of North Carolina の研究者は、ハリケーン後の6ヶ月間に児童虐待による脳損傷の頻度が、この災害の前に比べて5倍に急増したことを明らかにした。同州の被害のなかった地域ではそのような件数の増加は見られなかった
 乳幼児に対する揺さぶられっ子症候群や脳損傷の症例の大部分は、苛立っている親が、泣いている子供を鎮めたり、子供の癇癪を止めようとして彼らを揺さぶる時に発生する。この動きの力は頭蓋骨の中で幼児の脳を激しく移動させるため、脳血管の破綻を生じたり、発達中の組織を損傷したりする。それはストレスにさらされた親にみられる無条件反射的に表面化してしまう自暴自棄的行動である。
 たとえその激しい揺さぶりがほんの数秒間であっても子供の発達には長期的に深刻な結果を招き得る。こういった揺さぶりは、学習障害、視覚・聴覚障害、てんかん、行動異常さらには死亡を引き起こす可能性があるとされている。Berger 氏の研究では揺さぶりを受けた9ヶ月から6才までの子供の63%は重度の障害のため入院を要しており、16%が死亡したという。
 米国には揺さぶられっ子の統計をとる公式な中央登録制度はないが、非営利の人権擁護団体のスポークスマンの Amy Wicks 氏によれば、毎年1,200~1400人の子供が揺さぶられることによって死亡あるいは損傷を受けているとNational Center on Shaken Baby Syndrome (NCSBS) は推測しているという。虐待はほとんどの子供たちに深刻な障害を残す。虐待を生き延びた75%のうち、80%は精神発達遅滞から運動機能の発達障害までの永続的障碍に苦しんでいる。
 すでに親のストレスが報告される揺さぶられっ子症候群の主要因であることが報告されていることから、悪化する経済と関連して本症の増加を見ることに驚きはない。国内の多くの病院で児童虐待の増加が認めらるようになっていると研究者らは報告している。「カリフォルニア州 Oakland の Children’s Hospital での私自身の事例となる経験では、肉体的虐待の頻度はここ2、3年間で上昇してきており、経済の状況を反映しているように思われます」と Children’s Hospital and Research Ceneter Oakland の Center for Child Protection の医学部長である James Crawford-Jakubiak 医師は言う。
 景気低迷が始まって以来、NCSBS では、虐待の疑い事例の調査のために緊急室の医師から要請を受ける検察官からだけでなく Crawford-Jakubiak 氏の病院のような医療施設からも揺さぶりっこ症候群の報告が増加してきている。「Berger 氏による今回の報告はこれまで長い間私たちが耳にしてきたことを明らかにしてくれるものです」と、Wicks 氏は言う。
 今回の知見は、経済が厳しい状況を迎えると都市によって提供される社会福祉サービスまでもが削減されてしまう危険性を浮き彫りにすることにも役立っていると Berger 氏は言う。これらのサービスは、親たちがストレスにうまく対応する支援を行い、児童虐待の発生を未然に防げる可能性がある。
 揺さぶられっ子症候群の件数が増加していることは特別に憂慮されるべきであると、Berger 氏は言う。なぜならそれは児童虐待の中でも最も暴力的な形態の一つであり、それゆえ病院で発見され、追跡できる数少ない虐待のタイプの一つだからである。児童虐待の多くは表に出ることなく、そういった例は失業や不景気が長く続くにつれ同様に増加している可能性がある。個人的なものであれ、社会的なものであれ、ストレスは、特に自身の家族と良好な関係を保つ能力をくじかせる可能性があることを親は強く心に留めておく必要がある。「ストレスがどのように私たちに影響を及ぼすかを私たちは大人として認識しておく必要があります。そして、生活上のストレスを子供たちにぶつけることがないよう肝に銘じておかなければなりません」と、Crawford-Jakubiak 氏は言う。

日本テレビ系水曜夜10時『mother』…
全編暗い表情で瞬時として笑顔を見せないが
なかなかの好演を見せる松雪泰子以上に
名演し怪童ぶりを発揮する子役の芦田愛菜が
見ものである。

Photo

このドラマ、ほとんどの出演者が
小声でささやくようなセリフ回しなのだが、
大声を上げて演技をするのは、松雪の育ての母親役、
高畑淳子ただ一人…(苦笑)
それはさておき、このドラマを見ていると、あらためて
児童虐待に対する取り組みのむずかしさを
考えさせられてしまう。
『揺さぶられっ子』症候群とは奇異な訳であるが、
キリスト教の影響か、欧米では自分の子供の躾として
殴ったり、叩いたりすることが忌避される(鞭打ちはよい?)ため、
子供への叱責の方法として両肩を持って強く身体を
揺さぶるという手段が取られがちである。
頸部の筋肉の発達が未熟な乳幼児ではこの行為によって
頭部が強く前後に揺さぶられることとなり、
脳組織や眼球に衝撃が加わり
急性硬膜下血腫、脳挫傷、びまん性脳損傷あるいは眼底出血が
引き起こされる。
ストレスや焦燥から溜めこまれた怒りが、過大なエネルギーを生み
それが一気に揺さぶりの行為に注ぎ込まれるのであろう。
そういう意味では日本流の平手打ちは、
鼓膜を損傷しないように、一発だけに限定という条件なら、
脳損傷の可能性は低いし、すぐれた躾の方法と言えるかもしれない。
何より子供はそれによって自分の非を痛感するとともに
親の愛情を感じることができ、一方、親は親で
その一発でストレス発散できるかもしれない(な、わけない)。

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