70才を過ぎた方から(時には60才代の方からも)、
「最近、よう物忘れがしてやれん。
アルツハイマーじゃないかいの?」と、
よく訊かれる。
年齢的な記憶力の衰えと、病的な記憶障害…
どこが境界なのか?
難しい問題だ。
Memory lapses are common and increase with age; when do they signal Alzheimer's? 記憶力の衰えはよくあることで年とともに進行する。いつの時点でアルツハイマー病の前兆と言えるのか?
By Rachel Saslow
Where did I park my car? どこに車を止めたっけ?
What is that lady's name? あの女性の名前は何だっけ?
Where are my glasses? メガネはどこに置いたっけ?
これらは、“年寄りの物忘れ”とか“喉まででかかって”体験と呼ばれる。それらは多くの高齢の(またそれほど高齢ではない)大人にとってありふれたことであるが、どういう時、それらはより深刻なものとなるのだろうか?記憶障害として診断を受けるべきはいつなのかをどうやって知ればよいのだろうか?
多くの人たちにとってそれが深刻な懸念となってきた理由は団塊の世代がいよいよリスクの高い集団に突入してきたことだが、さらにこの大きな扇動要因となっているのは団塊世代の親たちなのです」と、Emory University の神経内科医の James Lah 氏は言う。彼自身48才で、73才と81才の親を持つ。「その年齢層はきわめてハイリスクであり、自分の親がそうなるのを見ることで、将来の可能性をひどく意識し、心配にさせられるのです」
軽度の認知障害や認知症のリスクは歳とともに増加する:アルツハイマー病は認知症の主たる原因である。約500万人のアメリカ人はアルツハイマー病を抱えて生きている。疾病対策予防センターによれば、2008年、米国では、同疾患は糖尿病を抜いて死因の6番目となったが、こうして増え続ける理由の一つとして、この疾病に対して進行を止めたり、回復させたりする治療がないことがある。ある研究によれば、本疾患に罹患する率は65才以降では5才ごとに倍増すると推計されている。
記憶力の衰えは20才代から始まるが、通常は50才代になるまでそれを感じたり心配したりすることはない。昨年 Neurobiology of Aging 誌に発表された研究で、心理学者たちは2,000人の被験者に、パズルを解かせたり、パターンを見つけさせたり、物語で単語や細部を覚えさせたり、その他の記憶のテストを行わせた。最優秀の成績を収めたのは22才だった。迅速な比較を行う能力、無関係な情報を記憶する能力、および関係を見抜く能力は27才までに顕著な低下が始まっていた。この研究によれば、記憶力の低下は通常37才前後で発覚しうるという。ただ、喜ばしいニュースとして、人の語彙力と一般的知識は少なくとも60才までは増加するということがある。
「40才代、そして特に50才代に達すると、記憶力はそれまでのようには良好ではありません」と、ロサンゼルスにある University of California の精神・老年医学教授 Gary Small 氏は言う。「加齢の脳科学は確かにそのことを実証しています」
日々の記憶力の減退を過剰に解釈することは健全ではないが、一方で、あなたもしくはあなたの家族に普通ではないと感じられることは何でも医師に相談することは重要である。これを後回しにせず、早めに実行することも賢明な策と言える。なぜなら、Alzheimer 病の治療は完全に有効というわけではないものの、この病気が早期に診断された場合、多少治療効果がある可能性があるからだ。さらに、脳梗塞、薬剤間の有害な相互作用、あるいは甲状腺異常など、記憶障害をもたらし得る他の病態について医師に見極めてもらえる可能性もある。
うつ病、ホルモン異常、ストレス、疲労あるいは貧しい食生活など、ごく普通に見られる状態も記憶障害の原因となり得るため、時に生活様式の変化が記憶機能を回復させることがある。もっとも有効な記憶力保護のライフスタイル戦略は運動であると、Small 氏は言う。毎日わずか10分間のきびきびしたウォーキングによってその人のアルツハイマー病の発病リスクが下がる可能性がある、と彼は言う。Lah 氏によれば、彼の男性患者は皆、社交ダンスを始めてはという提案を嫌うという。社交ダンスは、たとえば、ゴルフに比べて認知症の予防効果が大きい。なぜなら、社交ダンスは肉体的によりきつく、より活動的な思考過程が求められるからである。
「それはいつもむずかしい議論の間でくすくす笑われるだけなのですが」と彼は言う。
頭の働きを維持するために、クロスワード・パズル、音楽の演奏、あるいは外国語の学習など“脳の健康体操”を始める人がいる。Nurology 誌に昨年発表された研究はこのアプローチの裏づけを行っている。週に1回、そのような11種類の活動を行った人は、週に4種類の活動だけ行った人に比べて約1.3年急速な記憶力の障害を遅らせた。しかし、こういった脳の体操プログラムのどれもが記憶障害を予防すると主張することは拡大解釈であると、Small と Lah 両氏は言う。
イチョウの葉を信ずる人もいるが、昨年 Journal of the American Medical Association に報告された研究では、そのエキスは認知症の頻度を減じないことが示された。この他、いくつかの研究によって、有用ではあるが “その証拠は絶大ではない” ことが示されていると Small 氏が言うところの ω-3 脂肪酸や前評判の高いザクロのジュースがある。ザクロの鮮紅色の種には大量のビタミンCや脳細胞を損傷するフリー・ラジカルの攻撃に対抗するその他の抗酸化物質が含まれている。抗酸化物質の摂取とアルツハイマー病のリスク低下との間の関連を示す研究はある。ザクロ・ジュースの摂取が有用であるという主張は、二重盲検、プラセボ比較試験に基づいていなければならないのだが、Small 氏は、そんな成績を見たことはない、と言う。
「記憶力の衰えについては、問題の程度が重要です。もし鍵を置いた場所を忘れたとしてもそれはよくあることです。しかし、何度も鍵を冷蔵庫の中に入れているとしたら、それは問題です」
Small 氏の例に続いて、以下に日常よく目にする“年寄りの物忘れ”を挙げるが、それらはさらに問題と思われる状況と隣り合わせの状態にある。
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正常:鍵を忘れる
異常:鍵を冷蔵庫の中に置く
鍵が本来ミルクと卵の間に存在するものであるかのように行動することは日常生活に支障を及ぼすレベルの混乱を示し、見受けられる誤りがさらに深刻なものであるかどうかを決定する良い基準となる。従って、もし車の鍵を乳製品用の冷蔵庫の引き出しの中で見つけるようなことがあれば、神経内科医を受診すべきだろうか?いや、そうとも言えない、と National Institute on Aging の行動システム神経科学部門の Molly V. Wagster 部長は言う。
「たとえば、運転可能な年齢で認知的に健康な人間が、注意散漫な状態でいくつかの包みを抱えている場合を想定すると、彼らは仕事に出かける途中ヨーグルトを取り出し、そのまま鍵を冷蔵庫に置いてしまう可能性はあります」と Wagster 氏は言う。
人間年をとると一度に複数の仕事をこなすことは一層難しくなる。重要なことは、何かがなくなっていることに気づくことと、それが見つかるまで探し続けるかどうかということである、と彼女は言う。認知症の患者は車の鍵を見つける必要があることも忘れ、仕事に行かなければならないことも忘れる可能性があるのだ。
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正常:どこに駐車したか忘れる
異常:週に一度はどこに駐車したか忘れる
ワーキング・メモリー(作業記憶)は年を取ると特に障害されやすい記憶の一種である。私たちのワーキング・メモリーには、どこに車を停めたかといったような特殊な目的のために短い時間保持しておくべき情報が含まれる。
「もし大きなショッピング・モールに隣接する駐車場に車を停め、店に入りいくつかの店を歩いてめぐり、別のドアから出るような場合、ワーキング・メモリーの更新ができなければなりません。なぜなら、異なる位置関係を持って店を出ているからです」と Wagster 氏は言う。「しかし、一度自分の車にたどりついたら、その情報はそれ以上必要ではなくなり」、そのためそれを捨てることができる。
どこに駐車したかをたまに忘れてしまうのは正常だが、週に一度そういうことがあればワーキング・メモリーに障害があることを示唆し、日常生活に支障を生じるため、これはさらに大きな問題の前兆と言える。
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正常:人の名前を忘れる
異常:人の名前を忘れ、その人に繰り返し「もう一度、お名前何でしたっけ?」と尋ねる
ちょうど私たちの筋肉、骨、あるいは皮膚が年を感じさせるのと同じように、年を取るにつれ脳が変化してゆくのは正常に見られることである、と Lah 氏は言う
70才では20才時と同じように速く走れないのと同じように、70年間持ち続けてきた脳細胞は20才の時と同じように迅速に信号を出したり情報を伝達したりできないのです」と、彼は言う。
人の名前などの情報を読み出すためには、正しく記憶されていなければならない。それは、初めての人に出会った時、その人の顔、名前、あるいはその人を識別する詳細な事項を学習し、それぞれの知識を結合し強化しなければならない。もしそういったシステムが機能しなければ、読み出しは不可能となるだろう。
「アルツハイマー病を気にかけている人にとってさらに一層心配な点は、効率の悪くなる箇所がまさにその読み出しの過程ではないということです。情報の学習に関与する神経細胞やネットワークが障害されてしまうのです」
質問を繰り返すことはアルツハイマー病でよく見られる症状であり、短期記憶の障害の前兆である可能性がある。
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正常:ケーブルテレビ用チューナーをプログラムできない
異常:テレビのスイッチのつけ方を忘れる
ケーブルテレビ用チューナーのプログライイングはめったにやる必要のないことであり、3台のリモコンやだんだんと複雑化する娯楽システムにより、いくらか助けが必要となるのは正常だ。しかし、毎晩テレビを見ている人が突然リモコンのボタンに混乱したとしたら、それは問題である。記憶障害の患者は、車で仕事に行くこと、好きなゲームのルールを覚えていること、あるいは入浴することなど、普段機械的に行ってきた日常の作業を遂行するのにしばしば困難を感じるようになるのである。
わかったようなわからんような…
家族から見て、明らかにおかしい言動があれば
認知症の始まりとか。
しかしそこに明確な基準はない。
『正常な老化』とは一体何か。
あらためて考えてみる必要がありそうだ。
家族から見て、明らかにおかしい言動があれば
認知症の始まりとか。