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煩悩を解脱した前期高齢者男のぼやき

妊娠、難病、そして決断…

2024-01-23 15:27:58 | 健康・病気

2024年最初、1月のメディカル・ミステリーです。

 

120日付 Washington Post 電子版

 

Medical Mysteries: A daughter’s pregnancy and a life-or-death decision

メディカル・ミステリー:娘の妊娠、そして生死にかかわる決断

A teenager’s headaches, hallucinations and bizarre behavior forced her mother to make “the hardest decision of my life.”

十代女性の頭痛、幻覚、そして奇妙な行動に対し彼女の母親は“人生で最も難しい決断”を強いられた

 

By Sandra G. Boodman,

 

(Bianca Bagnarelli For The Washington Post)

 

 2021年のクリスマスの翌日、妊娠約3ヶ月の Abigail Aguilar(アビゲイル・アギラー・Abby[アビー])さん(18歳)が母親の寝室に入ってきて、活気のない無感情な声でこう話した「ママ、これから喉をかき切るつもりなの」。

 この数週間、Quintina Sims(クインティナ・シムズ)さんは、徐々に奇妙さを増すゾッとするような娘の行動に悩まされていた。Aguilar さんは、絶え間ない嘔気、激しい頭痛、および衰弱にも悩まされていたが、それらの症状がひどいため、彼女の義父はしばしば彼女をトイレに連れていかなければならなかった。医師らは大概、彼女の症状を妊娠早期の正常の徴候として片づけていた。

 Aguilar さんの重大な病気が一連の症状をもたらしていたため、彼女の自宅があるカリフォルニア州 Kern County(カーン郡)から南へ130マイルの病院に入ることとなり、それまで健康だった十代の女性をそれほどまでに悪化させた原因を発見すべく多くの医師が動員された。

 治療が不成功に終わったため、現在42歳の Sims さんは、自身が語るところの“人生で最も難しい決断”を下すよう求められた。そしてその決断が娘の命を救ったように思われる。

 あと数週間で21歳になる Aguilar さんは、現在、幼稚園の教員補助としてフルタイムで働き、コミュニティ・カレッジで小児の発達について勉強している。彼女は Loma Linda University Medical Center(ロマリンダ大学医療センター)での辛かった6週間についてはほとんど覚えていないが、回復に要した数ヶ月は鮮明に記憶しているという。

 「それは私に、命をもっと大切にしなければならないことを教えてくれました」と Aguilar さんは言う。「そして私の家族はいつも私のためにいてくれていたのだということを知りました」

 

An unexpected surprise 予想外の驚き

 

 2021年の秋、高校新卒だった Aguilar さんは映画館で働きパートタイムで大学に通いながら Los Angeles(ロサンゼルス)で祖父母と一緒に暮らしていた。

 10月、彼女は妊娠していることがわかった;赤ちゃんは2022年7月に生まれる予定だった。「それは驚きでした」と彼女は思い起こす。結婚していなかった Aguilar さんはどうすべきか苦悩した。彼女は赤ちゃんを産むことに決めたが、その決断を母親が支えた。「最初はすべてが順調でした」と Aguilar さんは言う。

 しかし、普通のつわりとして始まった症状はたちまちほぼ持続的な嘔吐へと変わり、激しい頭痛を伴った。近くに住んでいた Aguilar さんの兄は彼女を数回 emergency room(緊急室)に連れて行った。彼女は、片頭痛、およびひどい嘔吐の原因となる妊娠関連の病態である hyperemesis gravidarum(妊娠悪阻・にんしんおそ)と診断された。医師らは彼女に頭痛薬を投与し輸液を行った。Aguilar さんはおよそ数週間のうちに約 10ポンド(4.5㎏)体重が減り、頭痛が続いたが、それが刺すように辛いためしばしば家の中でもサングラスをかけていた。

 しかし、「医師らによって懸念されることは何も確認されませんでした」グラフィック・デザイナーをしている彼女の母親は言う。「私はとても心配でした。Abby はしきりに電話をかけてきていましたが、いつもとは違っている風でした。彼女は時折、本当にボーッとしているようでした」、

 11月中旬には Aguilar さんの具合がひどく悪化したため両親の自宅に戻り、別の産婦人科医にかかり始めた。診察に付いていった母親は、その新しい医師も Aguilar さんの増悪する病状を妊娠のせいであるとし、心配していないようだったという。

 12月14日、Aguilar さんが頸の凝りを訴えたので、母親は健康保険の緊急ラインに電話をかけた。医師は迅速な治療を要する脳や脊髄に腫れをもたらす髄膜炎の可能性を考慮し、ただちに娘を ER に連れて行くよう助言した。

 「私たちは4、5時間待ちました。そして超音波検査と血液検査が行われ『うーん、妊娠の症状の一環とすべきでしょう』と言われました」そう Sims さんは思い起こす。医師らは筋弛緩薬とステロイドを処方し、二人を帰宅させた。

 およそ妊娠10週のころ、Aguilar さんは突然ひどい不眠に陥った;30分間の断片的な睡眠となり、一晩に合計で約3時間しか眠れなかった。彼女の人格は劇的に変化していた。Sims さんによれば、彼女は、「非常に穏やか」な時もある一方、翌日にはひどく精神的に落ち込み泣き止まないこともあったという。

 「彼女の行動に目を光らせ続けました」と Sims さんは言い、不眠と抑うつで娘を ER に連れて行ったが、それはその週 2度目の受診となった。医師らは Aguilar さんに尿路感染症の検査を行ったが異常なかったため、彼女の病状は妊娠が進めば改善するだろうと予測した。

 しかしクリスマスの当日、Aguilar さんは悪化したようだった。彼女は贈り物を見つめていたが、明らかにそれが何か理解できていなかった。ある時点で「うつろな表情で私を見ていて、『私は死んだの、死んだことはわかってる』と言ったのです」そう Sims さんは思い起こす。家族が再び彼女を ER に連れて行くと、そこで医師は彼女に鎮静薬を投与した。彼は Sims さんに、娘さんは“pregnancy psychosis(妊娠期精神病)”の症状を呈している可能性があると説明した。これは精神疾患の診断を受けていない Aguilar さんのような人では極めて稀なものである。

 

母親の Quintina Sims さんと写る Abigail Aguilar さん(右)(Abby Aguilar さん提供)

 

 

‘Not a mental health issue’ ‘メンタルヘルスの問題ではない’

 

 その翌日、Aguilar さんが自分の喉を切りたいと宣言した後、Sims さんは警察に助けを求めて電話した。彼女が包丁を使うつもりであることを警察官に告げると、警察は彼女を精神科のクリニックに移送した。「私たちがそこに着いた時、彼女は正常に見え、署名を拒否しました」と Sims さんは言う。

 しかし、それがきわめて重要で予言的な瞬間となったことが後でわかったのだが、すぐさま看護師は Sims さんと夫を脇に連れ出した。「彼女はこう言ったのです。『これはメンタルヘルスの問題ではありません。ただちに Loma Linda に彼女を連れて行く必要があります』」そう Sims さんは思い起こす。

 Sims さんは質問をしなかった。「私たちには、それが有効な証明を行う手段であるように聞こえたのです」と彼女は言う。夫婦は4人の子供たちを車に押し込み、彼らの家に最も近いティーチング・ホスピタルの一つである Loma Linda まで2時間のドライブを開始した。

 Aguilar さんが動いている車から飛び出そうとするのではないかと心配した彼女の兄は後部座席で彼女の隣に座り、家族は彼女の気を紛らわそうとしてディズニーソングを流したり歌ったりした。彼らは真夜中少し過ぎに病院に到着した。

 ERで Aguilar さんはたちまち興奮し精神的異常をきたした。彼女は女性の髪を引っ張り、服を脱がそうとしたりドアから走り出そうとした。そして彼女のバイタルサインを取ろうとした看護師を蹴った。彼女は入院し、72時間の involuntary psychiatric hold(非自発的精神障害者措置入院)に置かれ、その間に医師らは原因の究明に努めた。

 精神科医が Sims さんに、一つの可能性として schizophrenia(統合失調症)があると告げた。これは妄想や幻覚が特徴的な重大な精神疾患である。Aguilar さんは幻覚を起こしており、家族の名前や住所を何度も何度も繰り返す意味不明な言葉を発する時間と、異常は身体的な動きと長時間の無言状態に特徴づけられる catatonia(カタトニア=緊張病)の時間が交互に現れていた。

 しかし医師らはほどなく精神疾患が根本的原因ではないと考えた。Aguilar さんの頭痛、頸部の凝り、およびカタトニアは神経疾患の可能性を示唆していた。そう話すのは彼女の治療に関わった医師の一人で脳神経内科の教授 Travis Losey(トラヴィス・ロージー)氏である。理学的検査で彼女の反射に異常があっただけでなく、脳の電気的活動を測定する electroencephalogram(EEG、脳波)でも異常がみられたからである。ターゲットは感染、脳腫瘍、あるいはてんかんへと移った。

 MRIでは腫瘍あるいは他の異常の徴候はみられず、検査でてんかんの徴候は見つからなかった。Aguilar さんの髄液検査の異常な結果から、anti-NMDA receptor encephalitis(抗NMDA受容体脳炎)と呼ばれる、生命の危険がある稀な疾患の可能性が示唆された。2007年に発見された本疾患は脳内の信号伝達を分断するが、これは感染、あるいは身体が自身を攻撃する自己免疫反応によって引き起こされる。しばしば十代の女性や若い女性に発症し、年間150万人に1人が本疾患に罹患すると推定されている。

 本疾患では発症第1週に錯乱、人格変化、および幻覚がよくみられ、統合失調症と間違われる可能性がある。ステージが進むと、てんかん発作が起こりしばしば遷延する。治療されなければ昏睡、永続的脳障害を引き起こし、死に至ることもある。

 医師らは Aguilar さんの血液と脳脊髄液のサンプルを Mayo Clinic(メイヨ・クリニック)に送った。2週間後、確証となる抗体が彼女の脳脊髄液中に確認され、この脳炎の診断が確定した。

 しかし Aguilar さんの妊娠は、彼女の治療について懸念される難しい問題をもたらした。治療についてのガイダンスが事実上存在しなかったからである。世界中で妊娠女性におけるこの新しい疾患の報告は35例に満たず、治療に用いられる薬剤が胎児に及ぼす有害作用の可能性についての安全性の問題は未解決のままである。産婦人科や医療倫理を含めたいくつかの部門の医師が彼女の治療チームに参加していた。

 一次治療であるステロイド静脈投与が失敗に終わったため医師らは rituximab(リツキシマブ)の注射を開始した。これは、特定の癌や重症の自己免疫疾患の治療にしばしば用いられる monoclonal antibody(モノクローナル抗体)で、Losey 氏はこれを“ the big gun(大砲)”と呼んでいる。発達中の胎児に危険を及ぼす影響があることから、患者は、妊娠中、あるいは妊娠予定であれば投与を受けないよう警告されている。

 一方、医師らは、脳炎を起こす可能性がある teratoma(奇形腫)と呼ばれる通常は良性の卵巣腫瘍の検索を同時に開始した。

 

A fateful decision 運命を決する決断

 

 1月下旬、医師は Aguilar さんの左卵巣の奇形腫とクルミ大の嚢胞を切除した。

 しかし医療チームを失望させたことに rituximab の注射でも腫瘍摘出でも何ら変わりは見られなかった。Aguilar さんの病状は良くなることなく悪化していた。彼女はなぜ入院しているのかわからなかったし、妊娠していることも覚えておらず、病室で幽霊が見えると話した。

 既に病院の弁護士に相談していた彼女の担当医らは、Sims さんに難しい問題を持ちかけた。彼らは治療の選択肢が尽きているため、現時点では妊娠の中断が娘の生命を救うための最善のチャンスとなるかもしれないと Sims さんに伝えた。彼女と赤ちゃんの両方が生き残れる見込みはないように思われた。

 彼らが彼女に説明したところによると、いくつかの症例で妊娠が、恐らくホルモン変化の結果として抗NMDA 受容体脳炎を増悪させている可能性があった。Aguilar さんの病気が長引けば長引くほど、彼女の生命への危険は増大する。そして、彼女自身は therapeutic abortion(治療的人工中絶)について決断できないと医師らが判断したため、彼女の代わりにこれを決断することが母親の肩にかかることになった。

 「目指すところは、もし患者が決断をすることができたなら、どのように決断しただろうか?です」と Losey 氏は言う。「本ケースでは、家族は自身の役割が何かについて非常に明確に理解していました」

 Sims さんによると医師らは発表されている数少ない研究を見直したという。妊娠 11例の2020年の報告では、抗NMDA受容体脳炎の母親から生まれたほとんどの赤ちゃんは健康に生まれたようであるが、55%は早産だった。死亡例はなかった。著者らはさらに、2010年から2019年までに報告された他の21例を解析した:2人の母親が敗血症性ショックで死亡、2例が流産し、2例が中絶を受けていた。出生16例のうち、9例が早産で 1児が出生後間もなく死亡していた。

 「この決断が私自身のそれとならざるを得ないことはわかっていました」と Sims さんは言う。「私は Abby と、もしかして母親がいなくなるかもしれない赤ちゃんのどちらかを選ばなければなりませんでした」

 「それは人生で最も難しい決断でした」20歳代のとき流産を経験していた Sims さんはそう付け加える。「私は夫、彼女の兄弟、私の両親と話をしました。そしてそれについて神とも話をしました。全員が同じ答えを私に伝えました。Abby を選んでいいのだと」

 そのとき妊娠約17週だった Aguilar さんは2月7日に人工妊娠中絶を受けた。家族、そして医師らは待ち受ける事態を心配しながら見守った。

 

Stunning turnaround 驚くべき好転

 

 その手術の翌朝、Sims さんが娘の病室に入っていくと、目にした光景に驚いた。「Abby が自力でトイレから歩いて出てきたのです。そして自分の名前を明瞭に書くことができました」と Sims さんは思い起こす。そんな行動は 1、2日前であれば不可能だったのである。「私はその場で泣き出してしまいました」

 Aguilar さんは2月12日に退院した。彼女の回復には数ヶ月を要したが、その間に症状は治まり、様々な薬剤が中止された。彼女が経験してきたことの影響の大きさは、ステロイドや他の薬剤が原因となった一時的な身体的変化や妊娠の中断と相俟って、彼女の胸を痛めた。

 「私の友達は皆赤ちゃんを産んでいました」と彼女は言う。「なぜこれが私に起こってしまったのかという、自己嫌悪や自己憐憫を強く感じていたように思います。結局、人は自分に起こることを選ぶことはできないのです」それでも彼女は復学し、仕事を得て、自分の未来に焦点を合わせることに決めた。

 2022年12月、思わぬ展開がみられた:非常に驚いたことに Aguilar さんが再び妊娠したのである。彼女は妊娠を継続することを選択した。

 「私は怒ったり悲しんだりしませんでした。ただ怖かったのです」と母親は言う。

 彼女が再発する可能性があったため、Aguilar さんは神経内科医と2人の産科医(そのうち 1人は高リスク出産の専門家)によって注意深く観察された。「今回の妊娠は非常に順調でした」と Sims さんは言う。娘にはなんら合併症がみられなかったと話す。「ずっと私はビクビクしていました。私は四六時中彼女にメールをし、医師の診察には彼女について行きました」

 2023年8月、Sims さんにとって初めての孫となる女の子が“全く健康に”生まれたとき、彼女は分娩室に付き添っていた。Sims さんによると、「その赤ちゃんを見ると、私はやるべきことをちゃんとやったのだということを少しだけ思い出させてくれました」

 Aguilar さんも同じ思いである。「自分自身の娘を持った今、私も全く同じ事をするでしょう」と彼女は言う。

 

 

抗NMDA受容体脳炎については 2011年11月6日の弊ブログで

取り上げているのでそちらもご覧いただけたら幸いである。

“眠らせるしか道はない”

 

抗NMDA受容体脳炎についての詳細は下記サイトを参照いただきたい。

 

東京都立神経病院

脳科学辞典

 

以下これらサイトの内容を要約して記載する。

 

本疾患は、脳内シナプスの信号を受け取る側(シナプス後膜)に存在する

グルタミン酸受容体の一つ N-methyl-D-aspartate(NMDA)受容体に

対する抗体を介して発症する自己免疫介在性脳炎である。

2007年に若年成人女性に好発する『卵巣奇形腫関連傍腫瘍性脳炎』として

米国の Dalmau(ダルマウ)らにより報告された。

その後、卵巣奇形腫以外の腫瘍と関連するケースや、

腫瘍と関係なく、小児、高齢者、男性に発症するケースも認められている。

 

血液脳関門を通過した抗体産生細胞により中枢神経内で産生された抗体が

シナプスに存在するNMDA受容体と架橋結合し同受容体は

内在化(受容体が膜表面から内部に取り込まれること)される。

これによりシナプス上の受容体数が減少して

NMDA受容体を介した神経機能を低下させると考えられている。

 

症状

発熱、頭痛、倦怠感などの非特異的な感冒症状が先行することが多く、

その後に急性に(3ヶ月以内のうちに)精神症状を示すようになる。

精神症状は病初期には無気力、抑うつ、短期記憶障害、行動異常が生じ、

その後興奮、幻覚、妄想などの統合失調症様症状および

睡眠障害が出現したりけいれん発作がみられることもある。

成人例の約2/3が行動異常で発病する。

睡眠中に突然目を開け、体を起こしたり話をしたりするなどの

confusional arousals(混乱性覚醒)をきたすケースもみられる。

その後自発性が低下し、舌なめずりするような口部ジスキネジアや

四肢のジストニア、舞踏運動、ミオクローヌスなどの不随意運動がみられ、

さらに、血圧、脈拍、体温などの異常を呈する自律神経障害や

中枢性低換気が生じる。

 

診断

原因不明の急性発症の精神症状、けいれん、不随意運動、

意識レベルの低下を見た場合、単純ヘルペス脳炎と日本脳炎が

除外されれば自己免疫性脳炎の可能性を疑うことが重要である。

本疾患が疑われれば、頭部画像検査、髄液検査、脳波検査などが行われる。

ただし小児の抗NMDA受容体脳炎では、急性期には頭部MRI画像で

異常を認めないことが多いとされている。

認められる異常所見としては T2強調画像/FLAIR画像で、

大脳皮質・白質・小脳・基底核に高信号域(白い病変)を認める。

髄液検査では軽度の細胞数増多、たんぱくの増加などがみられる。

脳波検査では、徐派化や基礎波の乱れが出現する。

成人ではExtreme Delta Brushという特徴的な脳波異常を

認めることがある(30.4%)とされているが小児ではまれ。

なお本疾患は卵巣奇形種などに随伴することがあるため

超音波やCTを用いた腫瘍のスクリーニングも必要となる。

確定診断には、抗NMDA受容体抗体の検出が必要となるが

血清検体では疑陽性が多いため髄液での検出も重要である。

 

治療

抗NMDA受容体脳炎に対しては免疫療法が主体となる。

第1選択の治療としてはステロイドパルス療法、

免疫グロブリン静注療法、および血漿交換が行われる。

現在 first line としては前2者の併用が推奨されている。

重症例や第1選択の治療が無効の場合には、第2選択の治療として

リツキシマブやシクロフォスファミドによる治療が推奨されている。

ただし、いずれの薬剤も抗NMDA受容体脳炎に保険適応されていない。

さらにこれらが無効な難治例に対しては、

IL-6 阻害薬の tocilizumab(トシリズマブ)や分子標的薬の

26S プロテアソーム阻害薬 bortezomib(ボルテゾミブ)などが

が試みられている。

 

一方、急性期にはけいれん発作、不随意運動、自律神経症状、呼吸障害、

精神症状などに対して ICU 管理や対症療法が行われる。

なお卵巣奇形腫など腫瘍が同定された場合、その大きさにかかわらず

早期の外科的切除が勧められる。

 

急性期を過ぎた後の維持療法は重症度によって異なる。

経口の免疫抑制薬が用いられることが多い。

急性期治療が成功すれば徐々に意識障害は改善、神経精神症状も軽快する。

約80%は軽度の障害で自立した生活が可能となるが、

日常生活動作の障害、てんかん、精神障害、認知機能障害などの

後遺症を残すケースも少なくない。

 

 

ホラー映画の代表作『エクソシスト』(1973年)に登場する

リンダ・ブレアが演じた悪魔に憑りつかれた少女・リーガンが、

実はこの病気だったのではないかと言われている。

(映画が作製された時代にはこの病気はまだ同定されていなかったのだが…)

非常に不気味な症状を呈する難病だ。

妊婦に発病した場合には悩むべくなく母体の治療が優先されるべきだろう。

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