8月23日、米東部を67年ぶりに
マグニチュード5.8の地震が襲った。
ワシントン市では、
日本の震度3~4程度の揺れが起こったと
みられている。
めったに地震の起こらない当地では
一時パニック状態となり、
震源地近くの原子力発電所では
原子炉が運転を停止したと伝えられている。
そんな中、ワシントン市内にある
国立動物園の動物たちはこの地震の襲来を
いち早く察知していたという。
この話題は日本のメディアでも
取り上げられていた
(8月28日付 Asahi.com ウェブ魚拓)。
一体動物たちは何を感知していたのだろうか?
Zoo mystery: How did apes and birds know quake was coming? 動物園のミステリー:猿や鳥たちはどのようにして地震が起こるのを知ったのか?
8月24日、National Zoo のO-line(Orangutan line)の塔にぶら下がっているオランウータンの Iris。前日の地震が実際に起こる直前、うなるような遭難声を発していた。
By Joel Achenbach
彼女の名前は Iris。まっすぐでエレガントな赤橙色の毛の持ち主で、National Zoo において最も可憐なオランウータンであることに議論の余地はない。彼女は穏やかで、静かで、うろたえることはない。「彼女は女王のような生活を送っています」と、類人猿の飼育係である Amanda Bania さんは言う。8月23日の午後、この女王様はその冷静さを失った。
動物園の動物たちはどのようにして東海岸の地震を予知したのだろうか?
それは午後2時ちょっと前に起こった。霊長類飼育係の K.C.Braesch さんがほんの数フィート離れて立っていたとき Iris が大きな耳障りな叫び声を発した。それは科学者により belch-vocalizing と呼ばれているものだ。そして Iris は檻のてっぺんまで慌てて登った。
Braesch さんは後ずさりしてこの猿を興奮させたものを確認するために檻を見渡した。オスの Kiko だったのか?普段はのんびりな Kiko だが、怒りっぽくなって物を投げることがある。しかし違っていた。Kiko はのんびりとしていた。これらはすべて約5秒以内に起こったことだが、それから Braesch さんは地震を感じたのである。
「動物たちはわかっていたようです」と、24日に彼女は語った。「話にはいつも聞いていますが実際に目にしたのは今回が初めてです」
歴史的なマグニチュード5.8の地震を人間が感じる前に、オランウータン、ゴリラ、フラミンゴ、アカエリマキキツネザルらが奇妙な行動を示した。今この動物園で持ちきりとなっている疑問は、動物は何を感知したのか、そしていつ彼らはそれを知ったのかということである。
そこには科学的ミステリーが存在する。その一つに、厳然たる事実やきちんとした観察がこれまでの言い伝えや伝説とごっちゃになっているという事実がある。断裂した断層によって発生したよくわかっていない電磁場について何年も議論されてきた。また、人間には聞こえない音、造岩における微妙な傾斜、あるいは人間には嗅ぐことのできない気体の放出などについての推察もある。
しかし、このミステリーは見ため以下のものかもしれない。23日の動物園における異常は、人間が行っていることが何であれ、それと関係なく多くの野生動物たちは自然に対して細心の注意を払っているということを思い起こさせる手がかりとなっているだけかもしれない。
同動物園は、バージニア中部を震源とし米国東部の多くで揺れが生じたこの地震の前、最中、さらに地震後に、幅広く動物の行動を記録している。たとえば、ゴリラの Mandara は、地面が強く揺れ始める数秒前に、甲高い声を上げ、自分の子 Kibibi を抱いて構造物のてっぺんに急行した。二匹の他の猿、オランウータンの Kyle とゴリラの Kojo は餌を投げ捨てて、高い所に駆け上がった。64 羽のフラミンゴも同様に数秒前に揺れを感じていたようで、地震が起こる前に興奮気味に密集した。同動物園の像の一頭は、まるで他の2頭の像に知らせるかのように低音の声を発した。
同動物園によるとアカエリマキキツネザルは今回の地震の15分も前に警戒声を発していたという。
この地震の最中、この動物園内はうなり声や叫び声であふれかえった。昼間は普段不活動性の蛇も身をくねらせずるずると動き回った。ビーバーは後ろ足で立ち上がり、池に飛び込んだ。コモドオオトカゲの Murphy は逃げ場所を求めて走った。屋外で休んでいたライオンは突然立ち上がり、壁が揺れている自分たちの建物を凝視していた。
スマトラタイガーの Damai は驚いたように跳び上がったがすぐに落ち着いた。動物の中には、その日ずっと興奮したままだったり、食事を取ろうとしなかったり、いつもどおりに寝ようとしないものがいた。
「彼らは我々以上に環境に対してより敏感なのです」と哺乳類の上級管理者である Brandie Smith 氏は言う。「こういったことが発生することを彼らが直感できるとしても驚きはありません。そうやって彼らは生き延びてきたのです」
動物飼育副部長の Don Moore 氏は、「象が超低周音波の感知能力を持っていることを、私たちは実験的研究から知っています。私たちが聞くことのできるレベルより低い音を聞くことができるのです」
そのような奇妙な動物の行動が地震に対する前触れであるという考えは大昔にさかのぼる。最近の科学的研究では、イタリア・ラクイラの2009年の地震の数日前にヒキガエルがより高い場所へ逃走したことが示されている。近代で最も有名なケースでは、1975年、中国・海城のマグニチュード7.3の地震の数週間前、真冬に蛇や蛙が穴から姿を現した(この奇妙な動物の行動は地震の直前に市外に避難することを役所に踏み切らせることになっている)。
しかし、科学者たちは事例的証拠を、論文審査のある学術誌での発表に耐え得る検証可能な仮説と強固な結論に変換するよう努力してきた。しかし海城の例でさえ脆弱なものである。なぜなら、実際には蛇を混乱させ役人に措置を講じらせる前震が多く存在していたからである。
地震予知を研究している米国地質調査所地震学者 Susan Hough 氏は、火曜日に同動物園で起こったことの最も簡潔な説明として科学者に P 波と呼ばれているものが挙げられると言う。
地震では2つのタイプの地震波が生ずる。最初のものは速く伝わる比較的弱い波である P 波(primary wave)である。続いて強力な S 波(secondary wave)が来るが、これはゆっくりとした速度で荒々しく伝わり地面を上下にうねらせる波である。
Hough 氏の簡単な計算によると、第一波の P 波は S 波の約15秒前にワシントンに到達していたことが示唆されている。ということはこれで多くのことが説明できるかもしれない。人間が地面の揺れに気づく前に Iris や他の動物たちが P 波に反応していた可能性がある。
しかしそれではアカエリマキキツネザルの謎が残る。彼らは地震の15秒ではなく約15分前に大声を上げ始めたのである。しかしそれは偶然の一致であり、地震に無関係の叫び声だった可能性もある。後からの評価は誤解を招く恐れがある。選択的記憶は原因と結果の間に錯覚を生ずるからである。
これらすべてには未解決の問題が残っており、動物たちが人間には把握できない地球上の現象に敏感であるという可能性も排除できない。
Hough 氏はこう言う。「地球上には私たちの理解を越えたことが起こっているのです」
地震に対する危機管理能力も
人間より動物たちの方が
格段すぐれているということかもしれない。