どうやら1月のメディカル・ミステリーは
総説のようでしたのでパスしました。
はやくも3月になってしまいましたが、
2月のメディカル・ミステリーを紹介しておきます。
むずかしい疾患のようです。
An unusual coincidence solved the mystery of the scary nosebleeds and low platelet counts
恐ろしい鼻出血と血小板の減少の謎は、稀有なる一致によって解決された医師らは Sheryl Stein さんの恐ろしい血液疾患の原因を解明することができないでいたが、彼女にはある考えがあった。
By Sandra G. Boodman,
Sheryl Stein さんは北バージニアの病院に横たわり、彼女の血液中の血小板を攻撃しているものが何であれ、医師がその原因を解明するまでにその病気で命を奪われてしまうかもしれないと怯えていた。夫が彼らの幼い二人の子供たちのそばにいるために自宅に戻ったあと深夜に一人となった彼女は、もし自分が死んだら彼らはどのようにやっていけるだろうかと心配した。
Stein さんの症状は2006年2月に始まった。頻回に鼻出血が起こるようになったのである。鼻出血に続いて紫色のアザが見られるようになり、それは彼女の普通の鈍くささに比べ多いように思われた。さらに、これまでに経験したことのないほど量の多い月経が見られた。
その後行われた血液検査で血小板数が危険なほど低いことが判明した。医師は彼女をただちに入院させ、彼女の血小板数を増やすために輸血を行った。この効果はあったものの束の間だった。退院後3日も経たないうちに彼女は再入院し、医師らは彼女の血小板が壊れる原因を特定しようとした。ちなみに血小板は血液の凝固に関与する細胞である。
Arlington に住む Stein さんによると、彼女と長兄とに見られる奇妙な一致について医師や看護師に伝え続けていたという。その一致は彼女の医学的な疾病と関連があるとの考えが強くなっていったが、それを重要だと考える人は誰もいないように思われた。
「彼らは皆、原因が何かについて頭をかきむしっている感じで、私はひどくイライラしていました」と現在48才の Stein さんは思い起こす。
どのようにして自分の考えを聞いてもらえばよいか分からず、彼女は、彼女を治療している血液内科医と、医師である彼女の兄との間で電話で話し合ってもらうよう手筈を整えたいと申し出た。
「医師と医師は楽しそうに話します」と彼女は言う。「しかし、医師に患者の言うことを聞いてもらうのはしばしば困難です」そんな話し合いが、彼女が病院から釈放されるのに役立つ答えにつながるかもしれない、あるいは少なくとも、考えられる疾患についての精査を医師たちに促し、彼女の医学的問題の根底に到達することができるかもしれないと彼女は考えた。
やがてその電話がきわめて重要だったことが明らかとなった:それは Stein さんの恐ろしい症状だけでなく、彼女を何十年間も苦しめてきていた繰り返す一連の病気を説明する診断につながった。そしてそれによって兄妹間の絆が強まったのである。More than klutzy “鈍くささ”以上
最初 Stein さんは繰り返す鼻出血を、アレルギー、冬の乾燥、あるいは慢性副鼻腔炎のせいだと思っていた。アザについては、自分を“実に鈍くさい”と思う人間であるにしても、説明がさらに難しかった。レストランで柱に腕をぶつけたとき、それはぼんやりした薄い紫色に変わった。それからもぶつけた覚えのない彼女の身体の部分もアザになった。ふらつきの症状も出現したため彼女はかかりつけの内科医を受診し、そこで血液検査が行われた。
2月17日、その内科医は Stein さんに電話をかけてきた。おそらく検査エラーと見られるため再検査が必要と思われる一つの数値を除いて彼女の結果は良いようにみえたと彼は言った。彼女の血小板数は 5,000以下だったがこれは事実上ありえない数字だった。正常値は1μlあたり 150,000 から 400,000であり、血小板数が 10,000未満の人は致死的となり得る特発性出血の危険性がある。
ちょうど異常に量の多い月経が始まっていた Stein さんはその医師にそのことを告げた。彼は近くの緊急室に直行し血液を再検査してもらうよう彼女に告げた。動揺した彼女は医師である兄に電話をかけたが、彼も同意見だった。
患者の多い金曜日の夜に夫とともにERに着くと、彼女は数時間待たされたが、出血がかなりひどく毛布まで血液が染み込んだと彼女は言う。医師は血液検査を行い、彼女の健康状態について尋ねた;当時3才と7才の二人の子供が病気であると告げた。一人は溶連菌感染症に、もう一人はウイルス感染症に罹っていて、さらに彼女には頭痛と軽度の咽頭痛があったと語った。
血液検査の結果が戻ってくると看護師が小個室に入ってきてこう尋ねた。「疲れていると感じることはなかった?」
子供たちを学校に迎えに行くまで Washington’s Urban Institute(ワシントン・アーバン・インスティテュート図書館)でウエブサイトの責任者として終日働いていた Stein さんは「私は幼い子供たちの母親です。いつだって疲れているわ」と答えた。
その看護師は Stein さんに、血小板数がきわめて少なく重症の血小板減少症と呼ばれる状態であるため、致死的な脳出血を起こす危険があると告げた。彼女は血小板数を増やす緊急の血小板輸血を行うためにその病院に入院し、その間に根本的原因を医師によって調べてもらうこととなった。疑わしい疾患としては、癌、ループス、ウイルスあるいは細菌による感染症などがあった。
Stein さんは気が遠くなり答えることができなかったことを覚えている。
真夜中近く、夫が家に帰ったあと、血液内科医が彼女のもとに立ち寄った。「彼は大変冷静でした。それで私は気分が楽になりました」と彼女は思い起こす。「彼はこう言いました。『何かが起こっていますがその原因についてはよくわかりません』」
「あの時点では私はそれほど心配していませんでした。なぜなら『たぶん彼らはこれを解明してくれるだろう』と考えていたからです」 そう彼女は思い出す。彼女の血小板減少はおそらく immune thrombocytopenia purpura(ITP:免疫性血小板減少性紫斑病)と呼ばれる疾病によるものだろうと医師らは考えていた。これは身体が感染に対する防御を開始するときに起こりうる凝固障害で、重症度は単純なウイルスから肝炎ウイルスやHIVまで及ぶ。‘You can’t have it’ 「君がそれであるはずはない」
Stein さんの兄は最初信じられなかった。数年前に彼自身が ITP の診断を受けていたからである。「彼はこう言いました。『それはあまりに妙だ。君がそれであるはずはない。なぜなら私がそれだからだ』」ITP は遺伝的疾患ではないことが知られており、家族の誰にも同じような疾患は見られていなかった。
2日間の入院ののち彼女は退院した:鼻出血は減り、月経もほぼ止まり、血小板数も36,000まで増加していた。しかし、一日後、血小板数が4,000まで急降下しているのを血液内科医が確認した。Stein さんはさらなる輸血と検査のために病院に連れ戻された。白血病や他の血液癌はますます考えにくい状況となった:骨髄生検ではおかしいところが何も認められなかったからである。感染症の専門医は、彼女が子供のとき免れていたものの子供たちの一人からうつされた疾病に対して非常に攻撃的な免疫反応を彼女の身体が起こしているのではないかと考えた。
しかし ITP をオンラインで検索してみたり兄と話したりすると、Stein さんの考えは兄の既往に繰り返し戻ってしまうのだった:彼のITP は common variable immune deficiency(CVID:分類不能型免疫不全症)によるものだった。これは米国民25,000人に一人の割合で見られる疾患である。この疾患は、感染を防ぐための十分な抗体を身体が産生することができないことにより発症し、頻回の感染が引き起こされる。ITP はその症候の一つとなり得る。このタイプの免疫不全症は他の疾患に類似しており、様々な全く異なる疾患を引き起こすことから、患者が正しく診断されるまでに平均6年を要する。Immune Deficiency Foundation によると、ほとんどの症例は20才から40才までの年代で診断されるという。
「奇妙な小さなベルが私の頭の中で突然鳴り出しました」と彼女は言い、「たぶん私もそれなのだと思いました」子供のころから彼女はあらゆる種類の呼吸器疾患を呼び寄せていた:頻回のカゼ、連鎖球菌および副鼻腔感染症、さらには彼女の子供たちがさらされているすべてといってもよさそうな微生物に罹っていた。小学校のパーティーに出席した後、連鎖球菌咽頭炎と伝染性結膜炎にかかった時、夫は冗談めかして尋ねた。「君は何をやってたんだ、机でも舐めていたのかい?」
Stein さんによると、兄の勧めにより彼の CVID の診断のことを医師に伝え続けたが誰もそれを深く調べようとはしないようだったという。「彼らはこう言うのです。『やぁ、それは興味深いですね』」
苛立った彼女は、専門家同士の言葉で話し合われることを想定して、兄とその血液内科医とで電話での話し合いをしてもらうことを提案することにした。血液内科医は理解を示し、その後、この二人が話をしたが、「それが物事がうまく行き始めるきっかけとなった」という。最初の入院期間中、検査で、IgG と IgA の2つの重要な抗体レベルが低いことがわかった。これは考えられる免疫不全の重要な手がかりとなっていた。
血液内科医は intravenous immunoglobulin(IVIG:免疫グロブリン静注療法)を行って彼女を治療することにした。これは多数の献血者の血漿から抽出した抗体を含む点滴剤であり、これが Stein さんの免疫系を増強できるかどうかを見ようとしたのだ。
果たして効果が認められた。それぞれ約12時間を要する追加の点滴をさらに2回行ったところ、その数日後には Stein さんの血小板数は140,000以上に跳ね上がった。その後6ヶ月間、医師は彼女の血小板数を観察し、プレドニゾンを徐々に減量した。ステロイドには血小板の破壊の機会を減らす作用がある。5月には彼女の ITP が寛解状態にあることがわかった。
Stein さんは CVID だったと見られたが、確定診断は免疫専門医の Shelby Josephs 氏に委ねられることになる。Prized by researchers 研究者らの注目を集める
2006年10月、Stein さんは Montgomery 郡で開業している Josephs 氏を受診した。彼女の免疫反応を検査するために、彼はジフテリアと破傷風の追加免疫と、Stein さんがそれまで一度も受けたことのなかった肺炎球菌性肺炎を予防するワクチンを行った。そして数週間後、彼は彼女の抗体産生状況を測定した。
「明々白々なケースではありませんでした」と Josephs 氏は言う。なぜなら Stein さんの身体はいくらか抗体を産生していたからである。しかし、全般的にみると両ワクチンに対する彼女の反応は弱かった。彼女の病歴や入院歴に今回のワクチンやその他の検査結果を組み合わせると、彼女は深刻な感染症を予防するための IVIG 治療を継続すべき対象であると Josephs 氏は考えた。
Stein さんがいつごろ、なぜ CVID を発症したか知ることはできないと Josephs 氏は言う。彼が言うには、「患者はそれを発症する傾向を持って生まれるというのが私の仮説です」。免疫系は時間をかけて弱まっていき、未知の誘因により本疾患が引き起こされる。
Stein さんの兄が同じ疾患だったという事実は、遺伝的基盤の可能性についての研究に関心を持っている研究者たちから注目を集めている。この兄妹に加えて正常の免疫系を持つもう一人の男の兄弟が National Institutes of Health の研究に参加している。これまでのところ Stein さんの子供たちはふたりとも免疫異常の徴候を示していない。
生涯点滴を受けなければならないことに気が進まず、CVID の診断が間違っているのではないかと考えた Stein さんは 2007 年に University of Pennsylvania にセカンドオピニオンを求めた。「自分が CVID であると信じたくはなかったのです」と彼女は言う。「この疾患は治療法がない上に、リンパ腫や他のあらゆる厄介な疾患に罹る可能性があるのです」
University of Pennsylvania の免疫専門医は彼女の再検査を行ってその診断を確認し Josephs 氏の提案と同じ意見を述べた。
それ以降、Stein さんは毎月の点滴を受けている。点滴は約6時間かかる上、点滴後数日間、頭痛と発熱が続く。彼女はまだ副鼻腔炎と風邪を患うことはあるが、鼻出血や血小板減少の再発は見られていない。
「私は限られた空間で生きていたくはありませんし、普通の生活を生きようと必死に努力してきました」と彼女は言う。「この病気になって最悪です、でも、この病気であることを知ったことで力が生まれるのです」
この診断により彼女の中で兄との親近感が増大した。CVID の多くの患者に比べてはるかに迅速に原因が発見されたことも兄のおかげだと彼女は思っている。「変わったことが起こったときには彼に電話できるのです」と彼女は言う。「彼がいてくれて理解してくれるのを感じていられるということには何か素晴らしいことが存在しています」
分類不能型免疫不全症(CVID)とは
ガンマグロブリン値が低いため
感染症を繰り返す原発性免疫不全症の一つだが、
症例数が多く多彩な臨床症状を示す、分類不能な疾患群として、
暫定的につけられている病名である。
詳細は原発性免疫不全症候群情報サイトe-免疫.com を参照されたい。
ヨーロッパ免疫不全症学会によれば、
『2歳以上(多くは10代以降)で発症する低γグロブリン血症で、
同種血球凝集素の欠損、あるいはワクチンへの低反応を示し、
既知の免疫不全症ではな い疾患』とされている。
現在本邦では、
『成熟Bリンパ球、および抗体産生細胞である形質細胞への
分化障害による低?グロブリン血症を認め、
易感染性を呈する先天性免疫不全症候群』として捉えられ、
現時点では基本的に他の疾患の除外によって診断されている。
大半の症例で責任遺伝子は未だ特定されておらず
原因遺伝子が発見される例はまれである。
最低10種類以上の責任遺伝子が存在すると予測されている。
20才代から40才代で診断されることが多いが
小児期や高齢で診断されることもある。
性差は見られない。
すべての血清免疫グロブリンが減少しているが、
一部にはIgM値が正常のものもある。
反復する細菌感染症(気道感染症が多い)が主症状となる。
脾腫、リンパ節腫脹、肉芽腫性病変、自己免疫疾患、
悪性腫瘍を合併することがある。
合併する自己免疫疾患として最も多いのは、
自己免疫性溶血性貧血や血小板減少症である。
その他、関節リウマチ、炎症性腸疾患、多発性筋炎などが
認められる。
悪性腫瘍ではリンパ腫などリンパ系悪性腫瘍が多いが、
甲状腺腫瘍、子宮頸癌、消化器系腫瘍も見られる。
基本的治療は定期的な免疫グロブリン補充療法である。
200~600mg/kgの免疫グロブリンを3~4週間毎に投与する。
また、感染症に対する迅速な対応や
自己免疫疾患や悪性腫瘍に対する注意と治療も重要である。
現時点では根本的治療がないため
患者は生涯免疫グロブリンの注射を受けなければならず、
また自己免疫疾患や悪性腫瘍の発症に警戒し続ける必要があるなど、
患者にとって大変過酷な病気となっており、
福祉面や心理面からのサポートもきわめて重要となっている。