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MrKのぼやき

煩悩を解脱した前期高齢者男のぼやき

診断困難な診断名

2014-02-28 23:20:06 | 健康・病気

どうやら1月のメディカル・ミステリーは
総説のようでしたのでパスしました。
はやくも3月になってしまいましたが、
2月のメディカル・ミステリーを紹介しておきます。
むずかしい疾患のようです。

2月24日 Washington Post 電子版

An unusual coincidence solved the mystery of the scary nosebleeds and low platelet counts
恐ろしい鼻出血と血小板の減少の謎は、稀有なる一致によって解決された

Scarynosebleeds

医師らは Sheryl Stein さんの恐ろしい血液疾患の原因を解明することができないでいたが、彼女にはある考えがあった。

By Sandra G. Boodman,
 Sheryl Stein さんは北バージニアの病院に横たわり、彼女の血液中の血小板を攻撃しているものが何であれ、医師がその原因を解明するまでにその病気で命を奪われてしまうかもしれないと怯えていた。夫が彼らの幼い二人の子供たちのそばにいるために自宅に戻ったあと深夜に一人となった彼女は、もし自分が死んだら彼らはどのようにやっていけるだろうかと心配した。
 Stein さんの症状は2006年2月に始まった。頻回に鼻出血が起こるようになったのである。鼻出血に続いて紫色のアザが見られるようになり、それは彼女の普通の鈍くささに比べ多いように思われた。さらに、これまでに経験したことのないほど量の多い月経が見られた。
 その後行われた血液検査で血小板数が危険なほど低いことが判明した。医師は彼女をただちに入院させ、彼女の血小板数を増やすために輸血を行った。この効果はあったものの束の間だった。退院後3日も経たないうちに彼女は再入院し、医師らは彼女の血小板が壊れる原因を特定しようとした。ちなみに血小板は血液の凝固に関与する細胞である。
 Arlington に住む Stein さんによると、彼女と長兄とに見られる奇妙な一致について医師や看護師に伝え続けていたという。その一致は彼女の医学的な疾病と関連があるとの考えが強くなっていったが、それを重要だと考える人は誰もいないように思われた。
 「彼らは皆、原因が何かについて頭をかきむしっている感じで、私はひどくイライラしていました」と現在48才の Stein さんは思い起こす。
 どのようにして自分の考えを聞いてもらえばよいか分からず、彼女は、彼女を治療している血液内科医と、医師である彼女の兄との間で電話で話し合ってもらうよう手筈を整えたいと申し出た。
 「医師と医師は楽しそうに話します」と彼女は言う。「しかし、医師に患者の言うことを聞いてもらうのはしばしば困難です」そんな話し合いが、彼女が病院から釈放されるのに役立つ答えにつながるかもしれない、あるいは少なくとも、考えられる疾患についての精査を医師たちに促し、彼女の医学的問題の根底に到達することができるかもしれないと彼女は考えた。
 やがてその電話がきわめて重要だったことが明らかとなった:それは Stein さんの恐ろしい症状だけでなく、彼女を何十年間も苦しめてきていた繰り返す一連の病気を説明する診断につながった。そしてそれによって兄妹間の絆が強まったのである。

More than klutzy “鈍くささ”以上

 最初 Stein さんは繰り返す鼻出血を、アレルギー、冬の乾燥、あるいは慢性副鼻腔炎のせいだと思っていた。アザについては、自分を“実に鈍くさい”と思う人間であるにしても、説明がさらに難しかった。レストランで柱に腕をぶつけたとき、それはぼんやりした薄い紫色に変わった。それからもぶつけた覚えのない彼女の身体の部分もアザになった。ふらつきの症状も出現したため彼女はかかりつけの内科医を受診し、そこで血液検査が行われた。
 2月17日、その内科医は Stein さんに電話をかけてきた。おそらく検査エラーと見られるため再検査が必要と思われる一つの数値を除いて彼女の結果は良いようにみえたと彼は言った。彼女の血小板数は 5,000以下だったがこれは事実上ありえない数字だった。正常値は1μlあたり 150,000 から 400,000であり、血小板数が 10,000未満の人は致死的となり得る特発性出血の危険性がある。
 ちょうど異常に量の多い月経が始まっていた Stein さんはその医師にそのことを告げた。彼は近くの緊急室に直行し血液を再検査してもらうよう彼女に告げた。動揺した彼女は医師である兄に電話をかけたが、彼も同意見だった。
 患者の多い金曜日の夜に夫とともにERに着くと、彼女は数時間待たされたが、出血がかなりひどく毛布まで血液が染み込んだと彼女は言う。医師は血液検査を行い、彼女の健康状態について尋ねた;当時3才と7才の二人の子供が病気であると告げた。一人は溶連菌感染症に、もう一人はウイルス感染症に罹っていて、さらに彼女には頭痛と軽度の咽頭痛があったと語った。
 血液検査の結果が戻ってくると看護師が小個室に入ってきてこう尋ねた。「疲れていると感じることはなかった?」
 子供たちを学校に迎えに行くまで Washington’s Urban Institute(ワシントン・アーバン・インスティテュート図書館)でウエブサイトの責任者として終日働いていた Stein さんは「私は幼い子供たちの母親です。いつだって疲れているわ」と答えた。
 その看護師は Stein さんに、血小板数がきわめて少なく重症の血小板減少症と呼ばれる状態であるため、致死的な脳出血を起こす危険があると告げた。彼女は血小板数を増やす緊急の血小板輸血を行うためにその病院に入院し、その間に根本的原因を医師によって調べてもらうこととなった。疑わしい疾患としては、癌、ループス、ウイルスあるいは細菌による感染症などがあった。
 Stein さんは気が遠くなり答えることができなかったことを覚えている。
 真夜中近く、夫が家に帰ったあと、血液内科医が彼女のもとに立ち寄った。「彼は大変冷静でした。それで私は気分が楽になりました」と彼女は思い起こす。「彼はこう言いました。『何かが起こっていますがその原因についてはよくわかりません』」
 「あの時点では私はそれほど心配していませんでした。なぜなら『たぶん彼らはこれを解明してくれるだろう』と考えていたからです」 そう彼女は思い出す。彼女の血小板減少はおそらく immune thrombocytopenia purpura(ITP:免疫性血小板減少性紫斑病)と呼ばれる疾病によるものだろうと医師らは考えていた。これは身体が感染に対する防御を開始するときに起こりうる凝固障害で、重症度は単純なウイルスから肝炎ウイルスやHIVまで及ぶ。

‘You can’t have it’  「君がそれであるはずはない」

 Stein さんの兄は最初信じられなかった。数年前に彼自身が ITP の診断を受けていたからである。「彼はこう言いました。『それはあまりに妙だ。君がそれであるはずはない。なぜなら私がそれだからだ』」ITP は遺伝的疾患ではないことが知られており、家族の誰にも同じような疾患は見られていなかった。
 2日間の入院ののち彼女は退院した:鼻出血は減り、月経もほぼ止まり、血小板数も36,000まで増加していた。しかし、一日後、血小板数が4,000まで急降下しているのを血液内科医が確認した。Stein さんはさらなる輸血と検査のために病院に連れ戻された。白血病や他の血液癌はますます考えにくい状況となった:骨髄生検ではおかしいところが何も認められなかったからである。感染症の専門医は、彼女が子供のとき免れていたものの子供たちの一人からうつされた疾病に対して非常に攻撃的な免疫反応を彼女の身体が起こしているのではないかと考えた。
 しかし ITP をオンラインで検索してみたり兄と話したりすると、Stein さんの考えは兄の既往に繰り返し戻ってしまうのだった:彼のITP は common variable immune deficiency(CVID:分類不能型免疫不全症)によるものだった。これは米国民25,000人に一人の割合で見られる疾患である。この疾患は、感染を防ぐための十分な抗体を身体が産生することができないことにより発症し、頻回の感染が引き起こされる。ITP はその症候の一つとなり得る。このタイプの免疫不全症は他の疾患に類似しており、様々な全く異なる疾患を引き起こすことから、患者が正しく診断されるまでに平均6年を要する。Immune Deficiency Foundation によると、ほとんどの症例は20才から40才までの年代で診断されるという。
 「奇妙な小さなベルが私の頭の中で突然鳴り出しました」と彼女は言い、「たぶん私もそれなのだと思いました」子供のころから彼女はあらゆる種類の呼吸器疾患を呼び寄せていた:頻回のカゼ、連鎖球菌および副鼻腔感染症、さらには彼女の子供たちがさらされているすべてといってもよさそうな微生物に罹っていた。小学校のパーティーに出席した後、連鎖球菌咽頭炎と伝染性結膜炎にかかった時、夫は冗談めかして尋ねた。「君は何をやってたんだ、机でも舐めていたのかい?」
 Stein さんによると、兄の勧めにより彼の CVID の診断のことを医師に伝え続けたが誰もそれを深く調べようとはしないようだったという。「彼らはこう言うのです。『やぁ、それは興味深いですね』」
 苛立った彼女は、専門家同士の言葉で話し合われることを想定して、兄とその血液内科医とで電話での話し合いをしてもらうことを提案することにした。血液内科医は理解を示し、その後、この二人が話をしたが、「それが物事がうまく行き始めるきっかけとなった」という。最初の入院期間中、検査で、IgG と IgA の2つの重要な抗体レベルが低いことがわかった。これは考えられる免疫不全の重要な手がかりとなっていた。
 血液内科医は intravenous immunoglobulin(IVIG:免疫グロブリン静注療法)を行って彼女を治療することにした。これは多数の献血者の血漿から抽出した抗体を含む点滴剤であり、これが Stein さんの免疫系を増強できるかどうかを見ようとしたのだ。
 果たして効果が認められた。それぞれ約12時間を要する追加の点滴をさらに2回行ったところ、その数日後には Stein さんの血小板数は140,000以上に跳ね上がった。その後6ヶ月間、医師は彼女の血小板数を観察し、プレドニゾンを徐々に減量した。ステロイドには血小板の破壊の機会を減らす作用がある。5月には彼女の ITP が寛解状態にあることがわかった。
 Stein さんは CVID だったと見られたが、確定診断は免疫専門医の Shelby Josephs 氏に委ねられることになる。

Prized by researchers 研究者らの注目を集める

 2006年10月、Stein さんは Montgomery 郡で開業している Josephs 氏を受診した。彼女の免疫反応を検査するために、彼はジフテリアと破傷風の追加免疫と、Stein さんがそれまで一度も受けたことのなかった肺炎球菌性肺炎を予防するワクチンを行った。そして数週間後、彼は彼女の抗体産生状況を測定した。
 「明々白々なケースではありませんでした」と Josephs 氏は言う。なぜなら Stein さんの身体はいくらか抗体を産生していたからである。しかし、全般的にみると両ワクチンに対する彼女の反応は弱かった。彼女の病歴や入院歴に今回のワクチンやその他の検査結果を組み合わせると、彼女は深刻な感染症を予防するための IVIG 治療を継続すべき対象であると Josephs 氏は考えた。
 Stein さんがいつごろ、なぜ CVID を発症したか知ることはできないと Josephs 氏は言う。彼が言うには、「患者はそれを発症する傾向を持って生まれるというのが私の仮説です」。免疫系は時間をかけて弱まっていき、未知の誘因により本疾患が引き起こされる。
 Stein さんの兄が同じ疾患だったという事実は、遺伝的基盤の可能性についての研究に関心を持っている研究者たちから注目を集めている。この兄妹に加えて正常の免疫系を持つもう一人の男の兄弟が National Institutes of Health の研究に参加している。これまでのところ Stein さんの子供たちはふたりとも免疫異常の徴候を示していない。
 生涯点滴を受けなければならないことに気が進まず、CVID の診断が間違っているのではないかと考えた Stein さんは 2007 年に University of Pennsylvania にセカンドオピニオンを求めた。「自分が CVID であると信じたくはなかったのです」と彼女は言う。「この疾患は治療法がない上に、リンパ腫や他のあらゆる厄介な疾患に罹る可能性があるのです」
 University of Pennsylvania の免疫専門医は彼女の再検査を行ってその診断を確認し Josephs 氏の提案と同じ意見を述べた。
 それ以降、Stein さんは毎月の点滴を受けている。点滴は約6時間かかる上、点滴後数日間、頭痛と発熱が続く。彼女はまだ副鼻腔炎と風邪を患うことはあるが、鼻出血や血小板減少の再発は見られていない。
 「私は限られた空間で生きていたくはありませんし、普通の生活を生きようと必死に努力してきました」と彼女は言う。「この病気になって最悪です、でも、この病気であることを知ったことで力が生まれるのです」
 この診断により彼女の中で兄との親近感が増大した。CVID の多くの患者に比べてはるかに迅速に原因が発見されたことも兄のおかげだと彼女は思っている。「変わったことが起こったときには彼に電話できるのです」と彼女は言う。「彼がいてくれて理解してくれるのを感じていられるということには何か素晴らしいことが存在しています」

分類不能型免疫不全症(CVID)とは
ガンマグロブリン値が低いため
感染症を繰り返す原発性免疫不全症の一つだが、
症例数が多く多彩な臨床症状を示す、分類不能な疾患群として、
暫定的につけられている病名である。
詳細は原発性免疫不全症候群情報サイトe-免疫.com を参照されたい。
ヨーロッパ免疫不全症学会によれば、
『2歳以上(多くは10代以降)で発症する低γグロブリン血症で、
同種血球凝集素の欠損、あるいはワクチンへの低反応を示し、
既知の免疫不全症ではな い疾患』とされている。
現在本邦では、
『成熟Bリンパ球、および抗体産生細胞である形質細胞への
分化障害による低?グロブリン血症を認め、
易感染性を呈する先天性免疫不全症候群』として捉えられ、
現時点では基本的に他の疾患の除外によって診断されている。
大半の症例で責任遺伝子は未だ特定されておらず
原因遺伝子が発見される例はまれである。
最低10種類以上の責任遺伝子が存在すると予測されている。
20才代から40才代で診断されることが多いが
小児期や高齢で診断されることもある。
性差は見られない。
すべての血清免疫グロブリンが減少しているが、
一部にはIgM値が正常のものもある。
反復する細菌感染症(気道感染症が多い)が主症状となる。
脾腫、リンパ節腫脹、肉芽腫性病変、自己免疫疾患、
悪性腫瘍を合併することがある。
合併する自己免疫疾患として最も多いのは、
自己免疫性溶血性貧血や血小板減少症である。
その他、関節リウマチ、炎症性腸疾患、多発性筋炎などが
認められる。
悪性腫瘍ではリンパ腫などリンパ系悪性腫瘍が多いが、
甲状腺腫瘍、子宮頸癌、消化器系腫瘍も見られる。
基本的治療は定期的な免疫グロブリン補充療法である。
200~600mg/kgの免疫グロブリンを3~4週間毎に投与する。
また、感染症に対する迅速な対応や
自己免疫疾患や悪性腫瘍に対する注意と治療も重要である。
現時点では根本的治療がないため
患者は生涯免疫グロブリンの注射を受けなければならず、
また自己免疫疾患や悪性腫瘍の発症に警戒し続ける必要があるなど、
患者にとって大変過酷な病気となっており、
福祉面や心理面からのサポートもきわめて重要となっている。

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“ロード・ランナー”を捕まえろ

2014-02-25 20:50:22 | 健康・病気

昔から癌の免疫療法は話題には上るものの、
画期的な治療効果は得られず期待を裏切られてきた。
しかしここ数年、癌ワクチン療法の他に
免疫チェックポイント阻害薬という聞き慣れない治療薬が登場、
これにはかなり有望な治療効果が期待されているという。
一体どのようなメカニズムで効力を発揮するのだろうか?

2月18日付 Washington Post 電子版

New therapies raise hope for a breakthrough in tackling cancer
癌への取り組みにおける新展開の期待を抱かせる新たな治療

Newtherapiesforcancer

By Arthur Allen,
 妻を肺癌で亡くして一年が過ぎた 2012 年の夏、Michael Harris 氏は以前よりあった背中のほくろを引っ掻いたところ出血が止まらなくなった。彼が事実上手術不能な腫瘍を持つステージ 4 のメラノーマであると医師は診断し、彼のような状況にある患者は通常約8ヶ月しか生きられないと告げた。昨年の 6 月までにその癌は肝臓と肺に転移していた。
 その時点で Harris 氏は Georgetown University の臨床試験に参加した。これは immune-checkpoint inhibitors(免疫チェックポイント阻害薬)と呼ばれる新しい種類の癌治療薬を試験するために米国内で立ち上げられた多数の臨床試験の一つだった。最初の点滴の2週間後、Harris 氏の元の腫瘍は、その周囲の黒色の癌の小病変とともに小さくなっていた。一ヶ月後、肝臓と肺の病変はきれいになっていた。
 「この薬はまるで vanishing cream(バニシング・クリーム:油分含有量が少ないため皮膚にのばしたとき消失するように感じる)のようでした」Harris 氏の娘 Rhonda Farrell さんは言う。ベトナム帰還兵でメリーランド州 Waldorf に住む66才の Harris 氏は現在仕事に戻っている。そして彼の主治医らは彼に治ったとは宣言してはいないが、「私は健常人のように思っています」と彼は言う。
 癌はきわめて容赦なく致命的であることから、しばしば奇跡的治療の希望を人々にもたらす。しかし、これまであらゆる奇跡的治療が失敗に終わっていることから、癌の専門医たちは用心深い集団となっている。この事実を考慮すると、Harris 氏をはじめとする数千人が受けているこの治療について、慎重な姿勢をとる臨床医や科学者たちの説明を聞くとかなり驚かされる。
 「それは飛躍的な前進です」腫瘍専門医の Michael Atkins 氏は言う。彼は Georgetown の Lombardi Cancer Center の臨床試験に Harris 氏を登録した人物である。「これは本物です」同センターのトップで医師の Louis Weiner 氏はそう言い加える。「私たちはいまだに少しショックを受けています」Johns Hopkins University の癌免疫学者 Suzanne Topalian 氏は言う。彼女はこの薬剤を臨床試験へと進めてきた中心的人物である。
 免疫チェックポイント阻害は免疫療法の一様式であり、患者自身の免疫系が癌と戦うのを手助けすることを意味する。それにはモノクローナル抗体と呼ばれる物質が用いられ、細胞表面のきわめて特異的な分子を標的とするよう製薬会社によって作られている。この場合、その抗体は侵攻してくる癌細胞に対して免疫系が行う本来の攻撃を止めさせようとする反応を解除する。
 乳癌に対する標的化学療法や白血病に対する細胞情報伝達阻害薬など様々な新しい癌治療が過去20年にわたって好ましい効果を示してきたが、このチェックポイント阻害薬は比類ないほど長期間の効果をもたらしているように思われる。少なくとも7つの製薬会社がこの抗体の試験を行っている。
 Topalian 氏の夫 Drew Pardoll 氏もまた Hopkins の癌免疫学者だが、彼は、これより5年後、毎年進行癌の診断を受ける60 万人の米国民の半数がチェックポイント阻害薬、あるいは他の免疫関連治療を受けることになると予測している。
 この新しい薬剤に対する医学的、商業的、さらには患者からの関心は非常に強い。「研究活動はまさに急激な高まりを見せています」と Topalian 氏は言う。Bristol-Myers社、Merck 社、およびその他の企業が、メラノーマ、肺癌、および腎臓癌の治療に対して、米国食品医薬品局から各社の治療の承認を急ピッチで得ようとしている一方、この薬剤は、血液、大腸、胃、乳腺、膀胱、肝臓、頭頸部、および脳の悪性腫瘍に対する小規模の臨床試験が行われているところである。「この領域は今まさに燃え上っています」ボストンにある Dana-Farber Cancer Institute の免疫学者 Gordon Freeman 氏は言う。
 このチェックポイント阻害薬は、一部の慢性感染症との戦いにおいても使える可能性がある。B型肝炎、HIV、さらには毎年20万人の米国人の死亡原因となっている血液感染症に対してこの抗体を用いた臨床試験が進行中もしくは、計画段階にある。
 しかし、チェックポイント阻害薬がそれほど潮流を変えるものと誰もが確信しているわけではない。National Cancer Institute で何十年も免疫療法の研究をリードし、チェックポイント阻害薬を研究してきた Stephen A. Rosenberg 氏は懐疑的な人たちの一人である。
 「この抗体は自然な免疫反応を利用しているため、少数の癌でしか作用しない可能性があります」と Rosenberg 氏は言う。「癌患者の90%を死に至らしめる癌の治療への道はやはり免疫系の遺伝子操作を介するものとなりそうです」Rosenberg 氏はそういった遺伝子治療の先駆者である。彼は NIH でのいつくかの小規模のメラノーマの臨床試験で40%の治癒率を得ている。

How they work それらはどう働くのか

 私たちの身体が感染や癌に対抗する一つの手段はT細胞と呼ばれる免疫細胞を活性化することによるものである。この細胞は外からの病原体を認識し、それらを排除したり制御したりするために免疫系の各所を先導する。特定のタイプのT細胞は腫瘍に入り込み、攻撃するよう免疫系の他の部分に向け命令する化学的信号を放出する。しかしこのような信号の一つであるインターフェロン・ガンマと呼ばれる化学物質は腫瘍細胞に対しT細胞の反応を実際的に阻害する分子を産生させる。
 この不活化のスイッチは、恐らく我々の免疫システムが暴走、つまり過活動となり臓器を損傷することがないよう進化したのであろう。しかしながら、癌に対処する場合、このメカニズムは Catch-22(不条理な規則に縛られて身動きできない状態)となってしまっている。なぜならそれによって癌の増大が許されてしまうからである。
 そのため1990年代半ば、この免疫のスイッチが切られてしまうのを避けるために科学者たちはモノクローナル抗体を考案し始めた。開発中のチェックポイント阻害薬の大部分はT細胞のたんぱくを標的にしており、1992年に科学者たちはこのたんぱくを“Programmed Death Receptor 1(プログラム細胞死受容体1)”と命名した(当時は細胞の自然な死の過程におけるその役割だけが知られていた)。それは現在 PD-1 と呼ばれている。別のモノクローナル抗体は PD-1 と結合する PD-L1 と呼ばれている腫瘍分子をターゲットにしている。この分子はT細胞からの攻撃を受けるときに特定の腫瘍細胞の表面にのみ出現する。インターフェロン・ガンマがその出現を引き起こす。
 Bristol-Myers Squibb(ブリストル・マイヤーズ・スクイブ)社の腫瘍学および免疫科学の国際部責任者である Michael Giordano 氏によると、アメリカやヨーロッパの約3,000人の患者に対して、Michael Harris 氏が治療を受けた抗 PD-1 薬、nivolumab(ニボルマブ)が投与されたという。Pardoll 氏によると、PD-1 の臨床試験において腎臓癌やメラノーマの患者の約半数で腫瘍の有意な縮小や消失を見たという。この新しい薬剤において治癒を論じるのは難しいが、例えば、この薬が投与された肺癌患者の約24%が少なくとも2年間生存している。ちなみに化学療法に依存したこれまでの治療では、同様の患者は約5%しか2年間生存していない。
 チェックポイント阻害薬の最も熱心な支持者たちでさえ、およそ半分の患者がその恩恵を受けられなかったことを認めている。彼らにはその理由が完全にはわかっていないが、この抗体に反応しない人の多くは、その癌細胞が PD-L1 分子を欠いている。その人たちの癌は免疫反応のスイッチを止めるのに他の分子を用いている可能性がある。
 Harris 氏の場合、この治療を開始してからまだ6ヶ月である。彼のメラノーマが完全に消失したかは定かではない。活動的な腫瘍であるか、もしくは死んだ腫瘍であるかのいずれかの可能性がある約十数個の黒い斑点が彼の背中に残っている。この時点で彼の主治医は彼を“a partial response(部分的反応)”に分類した。
 「残念ながら、状況が良好に維持されていれば癌は良好な状態にあるという以外に予測はできないのです」と Harris 氏は言う。
 ケーブル設置業者の Harris 氏は“インターネット上で自分の病気を思い悩むようなことはしない能天気な人物である”と Atkins 氏は言う。Harris 氏の娘が予約診療に彼が行くことを確認する。そして彼は医師からしなければならないと言われたことはするが、人生を楽しむことに重点を置く。彼には3人の子供と7人の孫がいて、たとえば来月には彼が参加することになっているカントリー・ミュージックの祭典が Austin で行われる。
 Harris 氏には軽度の発疹以外にはほとんど副作用はなかった。しかし少数の患者で有害な免疫反応が見られている;ニボルマブが用いられた早期の3人の患者が肺の炎症(肺臓炎)で死亡している。それ以降、臨床医はより慎重になっており、そのような問題を防ぐため他の薬(ステロイド)が併用される。
 メリーランド州 Bel Air のM. Dennis Sisolak 氏(72)は2009年に末期の腎臓癌だったが、その時点から Johns Hopkins Hospital でニボルマブの注射が18ヶ月間行われている。この治療後数ヶ月で彼の癌は消失し、それ以降彼の画像検査ではきれいなままである。「唯一の副作用は2週間ごとにバルチモアまで1時間半のドライブをしなければならない面倒だけです」と Sisolak 氏は言う。

‘Breakthrough of the Year’  “その年の飛躍的発見”

 Science 誌で 2013 年の“その年の飛躍的発見”と発表されたチェックポイント阻害薬の出現は、癌免疫療法の長い歴史の中でも大きな盛り上がりを見せている。1891年、ニューヨークの外科医 William Coley 氏はある癌患者に細菌感染を起こさせることで長く生き続けられたことを発見した。細菌感染によって彼らの免疫系に回復の血清が放出されたのである。
 長年にわたって興味を抱いた多くの科学者たちが Coley 氏の実験を拡大させようとし、1975年には免疫系の画期的物質が単離され、それを tumor necrosis factor(腫瘍壊死因子)と名付けた。しかし免疫療法は1985年まで大きな成功はほとんどなかった。しかしその年、NCI の Rosenberg 氏は別の免疫化学物質 interleukin-2(インターロイキン2)で何人かのメラノーマの患者を治療した。この仕事は、当時 Harvard Medical School にいた Atkins 氏の主導で行われた外部の研究者らによってその正当性が立証され、1997年の FDA の承認につながった。腫瘍治療医らはそれ以降、メラノーマと腎臓癌に対してこの物質を用いており、時に素晴らしい成績をもたらしてはいるものの重大な副作用も引き起こされている。
 他にも多くの免疫療法が癌に対して試されている。実際、2012年8月に Harris 氏が診断を受けたとき  Rosenberg 氏のもとでの臨床試験の一つに登録するよう主治医から勧められた。Harris 氏は NIH Clinical Center でその秋冬の8週間を過ごし、緻密で複雑な治療を受けた。
 彼の血液を採取しT細胞を集め、癌に対して強く戦えるよう遺伝子的に手を加えたあと彼の身体に戻すことで彼の免疫系を強化した。Rosenberg 氏とそのスタッフはこの治療の様々なバリエーションで劇的な効果を得ていたが Harris 氏には効かなかった。
 2月までに彼の癌はわずかに縮小していたが、4月に新たな癌が出現した。Rosenberg 氏のチームは Harris 氏にチェックポイント阻害抗体を受けるよう強く求めた。6月に Georgetown で臨床試験が始まったとき、Harris 氏は登録されたわずか10人の患者の第一号となった。
 「臨床試験に参加しようとする患者さんが続々と出てきました」と Atkins 氏は言う。彼は Lombardi の他の医師たちと、他の薬剤との併用も含めたこの阻止阻害薬のいくつかの別の研究も行っている。「私たちにはオーストラリア、イスラエル、ヨーロッパ東部から電話がかかってきます」

A fundamental difference  根本的な違い

 免疫療法は NIH から資金提供される他の癌研究とは根本的に異なっている。他の多くの研究の路線は特定の癌においてスイッチが切れたり入ったりする遺伝子を同定することや、個々の癌の遺伝子を標的にする薬剤と患者とを適合させることに狙いを定めている。
 分子標的医療のこれらの新しい高度な形式が古い化学療法からの前進であることは明らかである。これまでの化学療法では癌細胞を殺すため強力な薬剤を用いるがしばしば重篤な副作用を引き起こし、癌がそれらを回避する手段を見つけるまでの期間だけ利益をもたらすというものだが、その期間は一般に平均6ヶ月となっている。
 チェックポイント阻害治療の支持者らは、そのアプローチによって、より長期間の期待が持てると考えている。腫瘍およびその変異に狙いを定めたり、インターロイキン2のようなやり方で免疫系を促進したりするのではなく、チェックポイント阻害抗体は免疫系からブレーキを外すよう考案されているためであると Freeman 氏は言う。
 「癌は『ロード・ランナー』という漫画のキャラクターに似ています〔註:『ロード・ランナー』とは鳥のミチバシリ (roadrunner) が主人公の漫画。アメリカ南部の砂漠地帯の道路で腹ペコのワイリー・コヨーテ (Wile E. Coyote) に追いかけられたり謀略を練られるが、いつもうまく逃げる〕。癌の一つのターゲットを選んでも、癌は結局変異することによってそれを回避するでしょう」と彼は言う。化学療法は通常、最終的に失敗します。なぜなら腫瘍はそれを克服する手段を展開するからです。チェックポイント阻害薬は免疫系の攻撃能を回復させるため、癌は「何か一つを変化させたり、探知を逃れたりすることはできないのです。なぜなら癌はマシンガン攻撃を受けているからです」と Freeman 氏は言う。「免疫系は進化による学習システムです。もしそれを手に入れ、うまく機能させることができたら、癌への攻撃の仕方を学習するのです。そしてそれが効果を発揮すれば素晴らしい結果につながります」
 Michael Harris 氏の35才だった妻 Helen Harris さんはこの新しい治療を行うには病に倒れた時期が早すぎた。生涯喫煙者だった彼女は2008年に肺癌の診断を受け、最期の数ヶ月は重篤でつらい合併症を抱え約3年後に死亡した。
 Harris 氏の受けた治療がもしその時行えていれば彼女に効果が得られていたかどうかはHarris 氏と彼の娘にはわからない。「父は彼女にとってすばらしい夫だったのです。彼女は幸せな女性でした」と Rhonda Farrell さんは言う。「彼女のような癌が消えることはないだろうとは思っていました」

これまで、どうやら癌は
生体による排除機構から逃れているようだという証拠は
得られていたものの、その機序が明確にはされていなかった。
しかし、本来生体には、免疫系が自らの身体を攻撃しないための
免疫逃避機構である免疫チェックポイントが存在しており、
そこでは癌細胞の持つリガンドがリンパ球T細胞の受容体と結合し、
T細胞の抑制と同細胞による反応を
低下させていることが明らかにされた。
つまり癌細胞はこの免疫チェックポイントの仕組みを
巧みに?利用して免疫反応から逃れているのである。
そこで、T細胞側の受容体である PD-1 受容体や、
あるいは腫瘍細胞側の受容体である PD-L1 受容体を阻害する
モノクローナル抗体を用いることによって
本来の免疫機構による癌組織への攻撃を誘導できると考えられた。
そのモノクローナル抗体が免疫チェックポイント阻害薬である。
すべての癌に有効というわけではないが、
悪性黒色腫、肺癌、腎臓癌、卵巣癌、頭頸部癌、大腸癌などでの
有効性が期待されている。
特にこれまでほとんど有効な治療法がなかった治療抵抗性の
悪性黒色腫に有効例が見られたことは前例のないことだという。
免疫チェックポイント阻害薬、
今後の癌治療薬の主流となることが期待される。

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疑わしきは滅すべし?

2014-02-16 18:41:12 | 健康・病気

巷ではインフルエンザウイルスやノロウイルスなど
ウイルスによる叛乱?が見られている。
しかし感染症を引き起こすのはウイルスや細菌だけではない。
体内の正常なたんぱくが異常なたんぱくに変化し、
それが感染することで中枢神経系に蓄積し
神経機能を障害・破壊する致死的疾患がある。
この異常たんぱく(異常プリオンたんぱく)が
通常の消毒・滅菌法では感染性を完全には防げないという
大きな問題がある。

2月11日付 CNN.com

18 may have been exposed to incurable disease
18人が治療不可能な疾患に曝露

Creutzfeldtjacobdisease

By Val Willingham, CNN
 ノースカロライナ州 Winston-Salem にある Novant Health Forsyth Medical Center(ノバント・ヘルス・フォーサイス医療センター)の医師および病院関係者らは、18人の脳神経外科患者に対して、彼らが重篤で治療法のない神経疾患 Creutzfeldt-Jakob disease(CJD:クロイツフェルト・ヤコブ病)に曝露された可能性があると通告している。
 「今日、私たちは Forsyth Medical Center で過去3週間にクロイツフェルト・ヤコブ病に曝露された18人の脳神経外科患者に連絡をとっています」CNN 系列の WGHP によると、同センター長の Jeff Lindsay(ジェフ・リンジー)氏はそう述べた。
 同病院はその18人と連絡をとっている段階であると女性広報担当の Jeanne Mayer(ジェーン・メイヤー)氏は2月11日に語った。何人と連絡がとれているかは明らかにはしていない。
 National Institute of Neurological Disorders and Stroke(国立神経疾患・脳卒中研究所)によると CJD は世界中で年間100万人に一人の割合で発生するという。
 「CJD には多くのバリエーションがあることを知っておくのは重要であり、今回のケースは狂牛病とは関係ありません」と Novant Health は声明で述べている。
 1月18日、CJD の症状のある患者に手術が行われたが、後にこの患者に同疾患の陽性反応が出たことを同病院が認めた。
 手術器具を標準的な病院のやり方で消毒していたのなら、もし CJD の確診例あるいは疑診例が存在した場合に用いられる強化した消毒法を行っておくべきだった。
 その患者は「CJD もしくはもう一つ別の脳疾患に起因していた可能性がある神経症状を示していました」と Novant Health は述べている。「この患者が CJD だった可能性を疑う理由がありました。その可能性があるとして、追加の予防策が行われるべきでしたが、実際には行われませんでした」
 世界保健機構(WHO)だけでなく米国疾病対策予防センター(CDC)も、CJD 患者に使用された手術器具は廃棄されるか強力な消毒処置を行って汚染除去が行われることを推奨している。CJD は手術器具を介して感染する可能性があるが、今回の患者が本疾患に罹患する可能性はきわめて低いと病院関係者は述べている。
 CDCの見解もこの判断を裏付けている。
 1976年以降、本疾患の患者で汚染された医療器具の使用に関連している例はいないと CDC は述べている。しかし、Lindsay 氏は言い訳を行っていない。
 「Novant Health の全チームを代表してこのたびの患者様ならびにそのご家族に対してこのような不安を招いたことについて謝罪します」
 National Institutes of Health(NIH)によるとCJD はまれな致死的な変性性脳疾患であるという。急速に進行する認知症が特徴である。最初の症状として、筋の協調運動障害や記憶・思考の障害を伴って起こる人格変化、あるいは視覚障害などがある。
 CJD はプリオン(prion)と呼ばれる特殊なたんぱくによって引き起こされると考えられている。本疾患には孤発性、遺伝性、あるいは後天性の場合がある。NIH によると後天性のタイプは最もまれな型で、全症例の1%未満であるという。日常的な接触では感染することはない。
 今回の18例に対して検査が行われるかどうかを問われて CJD については迅速な検査法は存在しないと Mayer 氏は述べている。元の患者は脳手術を受け、その後のいくつかの検査で本疾患であることが判明したと彼女は語った。Mayer 氏によると、ケースによっては CJD が発症するまで数年かかることがあるという。
 同病院は脳手術で用いられるすべての手術器具に対して強化した消毒法を開始していると Novant Health は述べている。
 9月、ニューハンプシャー州とマサチューセッツ州の2つの病院から13人の患者が同様の通告を受けているが、脳神経手術を受けていた元の一人の患者が後になって CJD であることが疑われたケースである。

 この2病院は、その患者の手術に用いられた特殊な手術器具を共用していたが、本疾患に曝露した疑いが表面化するまでそれを使用し続けていたのである。

一時狂牛病で話題に上った
クロイツフェルド・ヤコブ病(CJD)は
プリオン病といわれる特異な疾病の代表である。
プリオン病については
『プリオン病および遅発性ウイルス感染症に関する
調査研究班』の HP
を参照されたい。
プリオン病は、
脳内に存在する正常型プリオンたんぱくが
分解できない異常型プリオンたんぱくに変化することで蓄積し、
それが神経細胞を破壊することによって発病する一群の
進行性・致死性脳症のことをいう。
これには原因不明の孤発性 CJD、
プリオンたんぱく遺伝子変異により発病する
遺伝性プリオン病、
そして感染原因の明確な感染性 CJD などがある。
感染性 CJD は、
牛海綿状脳症(狂牛病)と関連する変異型 CJD、
硬膜移植手術後に発症する CJD、
パプアニューギニアで発生する Kuru 病からなる。
本邦ではプリオン病の約80%は孤発性 DJD、
10%が遺伝性プリオン病、
残りが感染性 CJD(変異型 CJD が1例、残りが
硬膜移植後 CJD)となっている。
孤発性 CJD は
認知障害、視覚障害、小脳失調で発症することが多く、
そのほか、高次脳機能障害、錘体路・錐体外路症状、
ミオクローヌス(急激な筋肉の痙攣が起こる不随意運動)
などを併発し病状が急速に進行。
平均3.5ヶ月ときわめて短期間に無言無動状態となる。
脳波上周期性同期性放電が特徴的に見られるが、
神経細胞の破壊に伴って
髄液中に神経細胞特異たんぱく(neuron specific enolase〔NSE〕、
14-3-3蛋白、tau蛋白など)が検出され診断に役立つことがある。
しかし生前の確定診断は困難である。
現在様々な治療が試みられているが、
いまだ根本的治療法は確立されていない。
上記のように
プリオン病は異常型プリオンたんぱくの感染で発症するが
基本的には空気感染・飛沫感染・接触感染はしないとされている。
このため通常の社会生活において
感染が起こる可能性はまず考えられない。
問題は中枢神経系の組織や臓器を直接扱う脳神経外科手術である。
異常型プリオンに対しては、
通常の消毒・滅菌法ではその感染力を低下させることはできない。
完全な感染性の消失は焼却のみであるが、
プリオン病感染予防ガイドラインによると
60~80%の蟻酸で2時間、
100℃の3%SDS(sodium dodecyl sulfate)で3~5分、
7M の塩酸グアニジン・チオシアネートで2時間、
50%のフェノールで2時間、
などの方法が感染力を有効に低下させると言われている。
CJD であることがわかっている患者に手術を行った場合、
これらの滅菌法を行うことは絶対的に必要となるが、
CJD の患者数自体が少なく、またその患者が
脳手術を受ける可能性はきわめて低いと考えられるため、
通常の手術器具の滅菌に毎回これらの方法を行うことは
現実的ではない。
しかし、
脳神経外科手術を行う患者が CJD である可能性は
必ずしもゼロではないことから、
今後日本でも今回の米国のケースのようなことが
起こる可能性があることを忘れてはならない。

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“死の援助”運動

2014-02-11 12:28:15 | 健康・病気

人間は自分の意思で生まれてくるわけではない。
同じように、
自分の意思で死を選ぶこともできないとされてきた。
しかし死が確実に目前にありながら、
耐えがたい苦痛に直面している人にとって、
自らの医師で死の時を早める選択肢があることは
大きな心の安らぎとなるかもしれない。
そんな人たちの“死を早める援助”を容認する動きが
ここ数年、アメリカの一部の州で高まりを見せている。

2月8日付 New York Times 電子版

‘Aid in Dying’ Movement Takes Hold in Some States 
“死の援助”運動がいくつかの州で実を結ぶ
By ERIK ECKHOLM

Aidindying_3
心機能が衰えている Robert Mitton氏(58)は、人は死ぬことに手を借りることができるべきだという考えの支持者となっている。

デンバー発:末期患者が自身の生命を終わらせるに手を貸すことは、何十年もの間、非人道的なものとして非難されてきたが、このところこのことに注目が増してきている。2008年までオレゴン州を除くすべての地域で禁じられていたが、今、5つの州で合法となっている。“Assisted suicide(自殺幇助)”という言葉を避けるようになったその支持者らは、弱った親たちが病気になるのをベビーブーム世代の人たちが目の当たりにするようになり、彼らが“aid in dying(死の援助)”運動と呼ぶものへの支持がさらに高まっていくと考えている。
 1月、ニューメキシコ州の地方裁判所は、医師に死をもたらす薬を処方することを認め、“適格な終末期患者に死の援助を選択する”憲法上の権利を宣言した。昨年5月、バーモント州立法府もそれを容認する法律を通過させ、モンタナ州、オレゴン州、ワシントン州に加わった。この春、支持者らは、コネチカットをはじめとする他の州で“尊厳死”法案を強く推進しようとしている。
 死の幇助に対する一般市民の支持は過去半世紀で増大したが、それの表現の仕方に部分的に依存する。例えば、5月に行われたギャラップ世論調査では、患者やその家族がそれを望むとき、医師には“苦痛のない何らかの方法によって患者の生命を終わらせること”が許されるべきであることには回答者の70%が同意していた。1948年にはその割合は37%であり、その後40年間は着実に上昇したが、1990年代半ば以降は大体に安定している。
 一方、同じ2013年の世論調査では、末期患者が“自殺を行う”のを手伝うことを医師に許すことについては51%しか支持していなかった。
 年間、あらゆる州から約3,000人の患者が、終末期の苦痛を減らし、おそらく彼らの死を早める合法的手段についての助言を求め、支持団体である Compassion & Choices に連絡してくる。
 同団体によると、安らかで尊厳ある死のチャンスを死にゆく患者に与えることは自殺ではなく、自殺とは重症のうつ病や他の精神疾患を持つ人による行為であると定義しているという。
 しかしたとえどのような呼び方であれ、あからさまに死をもたらす援助はほとんどの国でいまだ違法である。そのため、心不全がある58才の Robert Mitton 氏にとって、先月のニューメキシコ州のニュースはほろ苦いものとなった。
 「私は差し迫った死に直面しています」と彼は言い、なぜモンタナ州とニューメキシコ州の人たちは“尊厳を持って死ぬことができ”、(コロラド州に住む)私にはそれができないのかと問いかける。
 「これは基本的人権であるべきです」
 白髪のポニーテールでがっしりとして多弁な Mitton 氏は死にゆく人には見えない。しかし、彼の主治医は、この2、3ヶ月のうちに大がかりな開心術を受けない限り、ほぼ確実に苦しい最期に直面することになるという。
 彼によると、大動脈弁を置換した過去の手術があまりに辛かったため、以前埋め込まれたものが機能していない今、彼は再び手術には耐えられないだろうという。彼はどうにも行動できなくなる前に自身の生命を終わらせるために医師の援助を求めている。
 Mitton 氏の苛立たしい要求は、その行為を禁じている大多数の州の患者に直面する限られた選択肢への関心を集めている。
 人がどれだけ衰弱していようと生命を積極的に終わらせることは道徳に反することであり、患者は他の人たちの便宜のために早く死に追いやられてしまう危険性があると反対者らは言う。
 「生命は自然の死を迎えるまでずっと人の思惑から免れると教会は教えています」ニューメキシコ州 Santa Fe の 大司教 Michael J. Sheehan 氏は、最近の朝食の時に立法者たちにそう話し当地での判決を批判した。
 「この自殺幇助のことは気がかりです」ニューメキシコ州議員によると Sheehan 大司教はそう付け加えさらに次のように言ったという。「私は危険な影響を予感します」
 Mitton 氏の窮状はこの論議においてめったに論じられることのない一面を明らかにしている。つまり経験される激しい苦痛のこと、さらには、それとわかっていながら死に至る薬を処方したり患者がその薬を手に入れるのを手伝う肉親が“自殺幇助”の重罪の対象となり得るような州において一部の患者によってしばしば行われる窮余の手段、などである。
 1997年に施行されているオレゴン州の尊厳死法は、患者が6ヶ月以内に死亡する見込みであり、自由にその道を選ぶことに2人の医師が同意する場合、致死量の処方を許可するというものである。
 別の州が後に続くまで10年以上がかかった。2008年、ワシントン州の有権者たちは同様の法律を容認した。マサチューセッツ州では 2012年、政治的論争のあと、同州の有権者たちは僅差で同様の法案を無効化した。しかし昨年5月、バーモント州立法府は同法律を容認した。
 訴訟に応えて、モンタナ州では2009年に、そしてニューメキシコ州ではこのたび、それぞれの州立裁判所は死の援助が合法であるとし、自殺幇助の罪とは区別した。
 法律ならびに医療的スタンダードによって、地元の医師と関わりを持つ生粋の住民だけが、これらのいずれの州においても処方を受ける資格を与えられる。従って Mitton 氏のような患者はいよいよという時に転入することはできないのである。
 全国的に、自分の思う様に死ぬ権利の一貫した静かな要求があると Compassion & Choices の代表 Barbara Coombs Lee 氏は言い、さらに、その要求はベビーブーム世代の人たちが年をとるにつれ高まる傾向にあるという。Lee 氏によると、同団体は助言を求めて電話してくる人々に助言を与えるが、選択肢を示すだけで、彼らに命を終わらせることを勧めたり、直接の援助を与えたりはしないそうである。
 精神に異常があったり自殺を図ったりしそうに思われる電話者は自殺防止のホットラインに回されると彼女は言う。もし彼らが差し迫った苦痛や死に直面しているなら、同団体は彼らに対してまず、次のステップと考えている緩和ケアあるいはホスピスケアの手筈を整えることを促す。
 「人は最善のケアを受けるべきですが、もし最高のケアを行っても彼らの残された日々を受け入れることができないのであれば死の時間を早めることも選択肢として持てるべきです」
 一部の人にとっての一つの手段は、透析治療やインスリンなどの生命維持に必要な治療を単に中止することだ。他にも、ペースメーカーを切ること、あるいは Mitton 氏のように望まない新たな治療を拒絶することがある。彼女によると、人気の高まっている選択肢として、“心から感情的にも霊的にも死ぬ覚悟のできている患者にとっては”食べることや飲むことを止めることがあるという。
 穏やかな死をもたらす薬物を貯めこもうとする人たちもいる。
 しかし、死の援助を法律が許可するところに住んでいることは非常に大きな違いをもたらす。恥ずかく思い人目を忍びながら代わりとなる方法を探すことは非常に多く、しばしば、致死的薬剤を求めて必死の海外旅行に出かけたり、自殺するのにより過激な手段を用いたりする。
 オレゴン州の調査では多くの人にとって選択肢があることを知っているだけで大きな安らぎとなっていたと彼女は言う。2013年に致死的薬剤を手に入れた122人の患者のうち 71人だけがそれを使用し、残りの人たちはその薬を引き出しに入れたまま自然に亡くなっている。
 Mitton 氏はまれなケースである。というのも、進行がんやALSといった典型的な対象者と異なり、彼は公的保険で補填されるであろう救命の見込まれる治療を拒否しているからである。彼は10代のころのリウマチ熱で心臓に障害を受けた。1999年、開心術が行われ機能を失った大動脈弁を牛の組織でできた弁に医師によって置換されたが非常に回復は思わしくなかった。
 15年後、置換された弁は急速に悪化し、彼の心臓は血液を送り出す効率がさらに悪化している。かつては自らを“crazy hot-dog skier(素晴らしい最高のスキーヤー)”と呼び、子供のころから Florida Gators のフットボールの熱心なファンだったが、徐々に衰弱し苦痛が増大している。
 Denver Health Medical Center の彼の主治医らによると、彼はおそらく6ヶ月以内に死亡するだろうという。
 「これに対する唯一の治療法は再び私を切り開くことですが、それは私が望むことではありません」彼は猫と一緒に住んでいるアパートでそう語った。
 もしそれほど恐ろしくない治療法が行えるのならそれを試すかもしれないと Mitton 氏は言う。しかし彼は、新しい低侵襲の手術法の適応ではないと言われている。労働能力が低下するにつれ、彼は金銭的な問題についてもひどく心配しており、収容施設やさらにはホスピスに入るくらいなら死を選ぶと言う。
 ノースカロライナ州の彼の妹 Holly Mitton-Cowan さんは電話でこう述べた。「私は泣かないように努めていますが、彼の決断を尊重します」
 Mitton 氏は海外の地下マーケットで pentobarbital(ペントバルビタール)を探している。これは、死刑や動物の安楽死で用いられる薬である。昔は、これをラテンアメリカや中国から、患者が直接、あるいは通信販売によって手に入れていた。しかしこの薬は手に入りにくくなっており、政府は不法取引を厳重に取り締まっている。
 Mitton 氏は言う。もしいくらかでも液体のペントバルビタールを入手できたら、しかるべき時に彼は安楽椅子に座り、ソルティドッグにそれを混ぜて飲むだろうと。ソルティドッグは彼が10代の時に初めて飲んだウォッカとグレープフルーツジュースと塩のカクテルである。
 もし手に入らなければ、硫化水素ガスの致死的な煙を発生させるよう家庭用薬品を混合して行う、巷で“chemical suicide”と呼ばれる手段に訴えるかもしれないという。これは有毒ガスの大混乱を引き起こす。彼はさらにヘロインの過量接種も考えている。
 手段が何であれ「私一人だけならばそれがベストと思っています。そうであれば誰にも面倒は起こらないでしょう」

人間にとって
死を選ぶことは基本的人権なのか、
それとも死は定めとしてそれに甘んじるべきなのか。
この問題、
日本ではタブー視されているところもあり、
なかなか議論の進まないところである。
アメリカでは着実に動いている問題でもあり、
本邦でも終末期患者の心情をしっかりと汲み取り
議論を重ねていく必要がありそうだ。

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“自殺病”撲滅をめざして

2014-02-05 17:39:16 | 健康・病気

痛みは人間から正常な生活の営みを奪う。
それがさらに強い痛みであれば、
それから逃れるために
自らの命を絶とうとすることもありうる。
理不尽な痛みが根絶されることを
強く願わずにはいられない。

1月31日付 ABCNews.com

Girl Has 2nd Brain Surgery to Alleviate Painful 'Suicide Disease'  
少女は痛みを伴う“自殺病”の緩和をめざし2度目の脳手術を受ける
By GILLIAN MOHNEY,

Painfulsuicidedisease
KatieRose Hamilton さんは三叉神経痛の緩和を求めて2度目の脳手術を受けたところである。

 10代女性の KatieRose Hamilton さんは頭痛が起こるとアスピリンを飲むことも横になることもできない。それだけでなく、trigeminal neuralgia(三叉神経痛、さんさしんけいつう)と呼ばれる疾病に関係する頭痛で彼女はまともな生活はできなくなり、暗い部屋の中でほとんど動くこともできずに横たわる以外何もできない。
 KatieRose さんの母親 Mogan Hamilton さんによると、娘がこのような強い頭痛に襲われたときには彼女のためにしてあげられることは何もないという。
 「彼女に発作が起こると、すすり泣き、足を蹴り、うめき声を上げ、神にそれを止めてくれることを願うしかありません」と Hamilton さんはABCNews.com に語った。「それはひどいものです。私は親としてそこに横たわり彼女のそばで泣くのでした」
 KatieRose さんは三叉神経痛と呼ばれる疾患で、この病気は三叉神経という脳神経を侵し、激しく、しばしば燃えるような、あるいは刺すような痛みを引き起こす。三叉神経は頭部に最も広く分布する神経の一つであり、National Institute of Neurological Disorders and Stroke(米国立神経疾患・脳卒中研究所)によると、こういった疼痛のエピソードは数時間続くことがあるという。
 通常この痛みは、動脈や静脈が拍動時にこの神経を圧迫するなどして生ずる。最終的にこの拍動が神経を損傷し激しい痛みにつながる。
 三叉神経痛は患者にとってあまりに苦痛なため、その軽減を求め人が自殺に追いやられることもあることから“suicide disease(自殺病)”とも呼ばれてきた。本疾患は多くは50才以上の人にみられ、通常女性に多い。
 「太い包丁があるでしょう?2~3時間、誰かに自分の頭の横をそれで突き刺されている感じですが、為す術は何もないのです」ABC News 系列の KABC-TV に KatieRose さんは語った。
 米国立神経疾患・脳卒中研究所によると、この疾患は年間 10 万人あたり12人に見られるという。
 症状緩和のために Hamilton 家の人は内服薬から脳手術まですべてを試みてきた。
 一部の抗てんかん薬が痛みの予防に有効だったが、それらは KatieRose さんに“brain fog(脳の霧=頭のもやもや)”をもたらし、簡単な計算問題を解いたり文章を読んだりすることも時にできなくなった。
 加えて、それらは彼女に対して永続的な効力を発揮できないと医師は言う。彼女の身体がその薬に慣れて、投与量を増やさなければならなくなるからである。
 1月28日、KatieRose さんは University of California Irvine のメディカルセンターでその痛みを和らげる脳手術を受けた。それはこの2年で2度目となる脳手術である。
 Johns Hopkins Medical Center で行われた以前の手術で彼女の痛みを和らげることはできたが、それはわずか8ヶ月間だった。
 「再発し、貨物列車のように彼女を襲ったのです」と Hamilton さんは言う。「発作は3時間にも及びました。私たちはそれに打ち勝ったと思っていたのでひどく打ちひしがれました」
 今回は娘は自身の回復に対してより神経質になっていると Hamilton さんは言う。
 手術の翌日、娘が外科医に次のように言ったのを Hamilton さんは思い出す。「私の手術をしていただきありがとうございます。もしうまくいかなかったとしても、そのことであなたを責めたりはしません」
 KatieRose の医師は彼女の神経を圧迫している静脈は以前から存在していたように考えていると Hamilton さんは言う。しかし、拍動する静脈が神経の外側を覆っている髄鞘を磨り減らすのには何年もの期間を要すると彼らは考えている。
 「あたかも裸の電線のようであり、発火すべきでないときに発火し始めるのです」とこの脳神経について Hamilton さんは言う。
 今回の2回目の手術の際、外科医によって彼女の脳神経に、何本かの静脈と一本の動脈による圧迫箇所が少なくとも10ヶ所認められたと Hamilton さんは言う。それら圧迫のいずれもが彼女の激しい疼痛発作を引き起こしている可能性があった。
 KatieRose さんに薬が処方されるまでは 12時間~48時間毎に発作が起こっていたと Hamilton さんは言う。
 今回の術後、娘の病状に対してはこれまで以上に期待を寄せていると Hamilton さんは言うが、この手術がどれくらい長く頭痛を抑えてくれることになるかの保証はないという。
 もし痛みを6~10年間止めることになれば、その手術は成功と見なされる。23年間痛みのなかった人もいれば、わずか数ヶ月から2、3年で痛みが再発した人も知っていると Hamilton さんは言う。
 「結局私たちは彼女のこの先の人生に何が起こるかを見守っていくことになるでしょう」と Hamilton さんは言う。「私たちが望むことは、この手術で長期間彼女に痛みがなく薬が不要な状態を保つことができ、その間に治療法が見つかることです」

三叉神経痛の詳しい情報は
脳神経外科疾患情報ページを参照されたい。

直接脳幹に入る12対の脳神経のうち
顔の感覚(温痛触覚)を伝える神経が三叉神経である。
脳腫瘍など明らかな病変によるこの神経への圧迫で
顔面の痛みを生ずる場合もあるが、
特に病変が見当たらないのに三叉神経痛が見られる場合、
その多くは脳の動脈あるいは静脈がこの神経に接していることで
起こっていると考えられる。
三叉神経痛は突発的に起こる非常に強い痛みである。
電撃的な一瞬の走るような痛みで、
通常数秒から数十秒の持続にとどまる。
洗顔、化粧、ひげ剃り、歯磨き、食事などの動作で誘発され、
寒い時期に増悪する傾向が見られる。
その痛みは想像以上に激しいもので患者の苦しみは深刻である。
三叉神経への血管の圧迫が
脳のMRI検査で描出される場合もあるが確認できないこともある。
鑑別診断として、
帯状疱疹後三叉神経痛、副鼻腔疾患、群発頭痛などが挙げられる。
治療には内服治療、三叉神経ブロック治療、定位放射線治療、
手術療法がある。
内服治療では抗てんかん薬のカルバマゼピンが用いられ
8割以上の人で一時的に痛みが消失したり軽減するが、
内服を続けても再発や増悪が見られることがあり、
増量でのふらつきや眠気などの副作用も問題となる。
このほかバルプロ酸ナトリウム、フェニトインなどの
抗てんかん薬や筋弛緩薬のバクロフェンなども用いられるが
カルバマゼピンの有効性には及ばない。
ブロック治療は三叉神経に直接局所麻酔薬や
神経破壊薬を注射して除痛を図るものである。
いずれも一時的には効果が見られるが再発は避けられない。
ガンマナイフやサイバーナイフと呼ばれる定位放射線治療が
行われることもある。
これは三叉神経に集中的に放射線を照射する方法で
6~8割の患者に有効であると言われているが、
再発も認められる。
現在、三叉神経痛に対しては
三叉神経を圧迫している血管を外科的に解除する
手術療法が最も有効である。
圧迫部位は脳幹から三叉神経が出てくる箇所であり
手術は耳の後ろ側で頭蓋骨に穴をあけて
目的の場所に到達する。
神経を圧迫する血管が同定できれば
この圧迫を解除することで手術の目的が果たされる。
この手術では5~6年程度の経過観察で
7~9割の患者で痛みが改善もしくは消失したとの
報告が多いが、無効例や再発例も見られる。
本記事の少女のように若年にも見られることから
血管の圧迫には動脈硬化以外の要因も考えられている。
また血管の圧迫以外の原因が関与しているのかもしれない。
本疾患のすべての患者を救う
確実な治療法の確立が待たれるところである。

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