今月のメディカル・ミステリーです。
Medical Mysteries: A clue to a girl’s painful ailment goes long overlooked メディカル・ミステリー:少女の痛みを伴う疾病の手掛かりは長い間見逃され続けた
By Sandra G. Boodman,
「あゝ、なんてこと。こんなことが再び起こるなんて」そう思ったことを Leigh Partridge さんは覚えている。想像を超えることを考えようとして彼女の心は揺れた。
Children’s Hospital of Philadelphia(CHOP、フィラデルフィア小児病院)の緊急室の医師たちが Partridge さんに、彼女の16才の娘の腹部の腫瘍が癌かもしれないとちょうど告げたときのことである。
少女に腹痛と背部痛が起こったとき、考えらえる原因を誰も思いつかなかった
2年前に、数ヶ月の経過で脳腫瘍により夫を失っていた Partridge さんは、彼女の真ん中の娘が癌かも知れないという可能性に身がすくんだ。
「ここに来て私のそばにいてくれるようお願いするのに、誰に電話をかけたらいいのかわからないほどでした」と Partridge さんは思い出す。そもそも「私のそばにいてくれるべき人はもはやいなかったのです」
当時高校2年生だった Allison Partrige(Allie)さんは、その前日の晩、自宅のベッドに横になっていたとき、腹部の拳大の腫瘍に気付いていた。それまで何ヶ月もの間、 Allie は下腹部と尾骨部の増悪する激しい痛みに悩まされていたのである。彼女は自分自身や母親を守ろうと、ずっとその痛みを軽く考えたり否定したりしようとしてきた。しかし、今やその痛みと大きなしこりは顕著となり無視できないものになっていた。
「母は私よりずっとひどく怖がっていました」と Allie は思い出す。
2011年4月の彼女のこの入院は衝撃的なものだったが、同時にまた大きな転機となった。医師に見過ごされていた最も重要な手がかり~これは母親にもわからなかった~だけでなく、彼女の症状のまれな原因も明らかとなったのである。Cleared to play 競技が許可される
今回のことは Allie を襲った初めての医学的恐怖ではなかった。
Leigh Partridge さんが妊娠したとき、出生前血液検査で Allie にダウン症候群の可能性があることが示唆された。追加試験によってそれは除外されたが、超音波検査で、彼女には腎臓が一個しかないことが明らかとなった。
1994年8月、彼女が誕生し、彼女の単一の腎臓は正常より大きかったが十分機能していることが明らかとなった。約750人に1人が単腎で生まれるが、結果的に長期的問題がないことがほとんどである。
聾の子供たちに関わる仕事をしていた聴覚学者の Partridge さんは発育遅滞に敏感であり、単腎ということで、娘の成長とともに何らかの追跡検査が必要かどうか医師に尋ねた。しかし、ノーと言われたと Partridge さんは言う。
Allie がサッカーをしても安全であることを確かめるために、彼女が11才のとき、母親はフィラデルフィア郊外にある自宅近くの小児泌尿器科医に彼女を連れて行った。「『タックルフットボールはだめですが、普通の生活を送ってください』そう彼は言いました」と Partridge さんは思い出す。特別な予防措置は不要だったので、Allie は競争心を持ってサッカーやラクロスの競技を始めた。
彼女が高校1年生、14才の時の父親の突然の死は大きな衝撃だった。しかし、常に頑張り屋で負けず嫌いな Allie はスポーツでも学校でも人一倍努力しているようだった。「父親が亡くなってから成績はオールAでした」と母親は言う。
しかし16才が近づくと Allie には新たな心配の種が生まれた:彼女に生理が始まっていなかったのである。かかりつけの小児科医は心配していなかった。というのも彼女は背が高く痩せていて筋骨たくましい体格で、これらがあるとしばしば初潮の遅れを生ずることがあるからだ。しかし、母親は徐々に心配を募らせ、2010年7月、小児内分泌専門医への受診予約を入れた。しかし、その受診の1ヶ月前に、Allie に生理が始まり母娘とも安堵した。
Allie は動じない性格だったが、生理そのものは軽いながら、ひどい痛みを伴った。あまりの痛みの強さに Allie は1日か2日はベッドで過ごすようだった。
「最初、私は母親に話しませんでしたが、尾骨がかなり痛み始めたのです」と彼女は思い起こす。まるで何かに尾骨が押されているような感じで、激しい生理痛や腰痛に対処するために彼女は市販の鎮痛薬を内服した。
2010年11月、Allie の増悪する痛みを心配した Partridge さんは彼女をいつもの小児科医のところに連れて行った。しかし彼は無関心な感じで、強い痛みも生理中には当たり前だと彼らに告げたことを母娘は思い出す。
2011年1月、Allie があまり食べなくなっており、空腹そうに見えるのに食べ物を皿のまわりに押しのけるようにしていることに気付いた。彼女が摂食障害を起こしているのではないかと心配し、顕著な体重減少に危機感を募らせた Partridge さんは娘に拒食症なのかどうか尋ねた。
Allie はその話をはねつけ、時々吐き気を感じるとだけ言った。「問題はないの、拒食症でもない」と彼女は断言した。「摂食障害の友達がいるけど、私はそうじゃない」
納得できない Partridge さんは、父親の死のトラウマや、摂食の問題、さらにその他彼女を悩ませている可能性のあるすべてに対処する支援を受けるためにセラピストを受診するよう Allie を説得した。Nosedive 急な悪化
3月には尾骨の痛みは持続的となり、彼女の臀部も痛み始めていた。Allie は、彼女の学校代表のラクロスのチームが彼女なしで何とかやっているのをただ座って見ていた。
夜には、胎児の姿勢で横になるのが有効であることに気付いた。ボーイフレンドと卓球をしたことで痛みがひどくなり途中で止めざるを得ない状況になっていたのである。
母親は小児科医に彼女を連れて行った。その小児科医には、前年秋以降、摂食や頻回のカゼなど色々な問題で数回受診していた。彼女が腰を痛めていると彼は考え、ラクロス競技を禁止した。便秘をしていることを Allie が告げるとその医師は食事の変更を指示し下剤を処方した。
一週間後、臀部の痛みのためにカイロプラクターを受診した。彼は姿勢を改善する必要があると彼女に告げた。しかし、小児科医からの助言も、カイロプラクターによって行われた矯正も効果はなかった。
4月4日の夜、ひどい痛みのために、母親は彼女を Philadelphia Children's のERに連れて行った。診断は、重度の便秘と臀部損傷だった。ラクロスは禁止とその医師は言い、浣腸を処方して彼女を自宅に帰した。
それからの48時間は悪夢だったと Partrige さんは思い出す。数回浣腸を行ったが Allie の便秘は続き、ほとんどの時間を痛みと不安で泣きながら過ごした。4月6日の真夜中、彼女は母親を自分の部屋に呼び、左側の腹部から突き出ている大きなしこりを彼女に見せた。
「彼女は普段からかなり痩せていましたが、そのときは戦争捕虜(POW)のように見えました」と母親は思い出す。身長 5フィート9インチ(175.2cm)で体重は105ポンド(47.6kg)まで減っており、そのため、そのしこりは恐ろしいほど目立っていた。
翌早朝、母親は彼女をER連れて行き、そこで医師たちが次々に彼女のお腹を触り、Partridge さんに、娘さんには癌の可能性があると告げた。
「それが何であるのか実際に誰にもわからなかったのです」と Allie は思い起こす。母親、そして自分自身がこれ以上パニックに陥らないよう「私の痛みの強さが大したことでないように見せようと」努めてきたと彼女は付け加える。
しかし幸いなことに、わずか数時間後にはその腫瘤が悪性でないことが判明した。腹部超音波検査によって、驚くべきものではあるが、予測できるものだった答えが明らかとなった。
Allie は重複子宮(double uterus、または uterus didelphys〔分離重複子宮〕)と呼ばれる稀な異常を持って生まれていたのである。子宮を含む彼女の生殖器の一部が胎生の発生早期に重複化していた。重複子宮では、その重複する器官は通常お互いに隣接しており、単腎で生まれた女性では発生頻度が高い。症例の15~30%で、経血が閉塞しきちんと排出できなくなる。問題の“腫瘤”は貯留した血液であったことが判明した。
オンライン医学百科事典の emedicine によると、uterus didelphys は稀で、推計は 2,000人に1人から100万人に1人と幅広い。これが全く症状を起こさないこともあり、一部の女性では自分にその異常があることを知らないことがあるからである。しかし、通常初潮後に始まる異常な痛みを経験する人たちには手術が必要となることがある。
Uterus didelphys は習慣性流産を来たすこともあり、きわめて稀な例では、数時間、あるいは数日間の間隔で娩出される2卵性双生児を生み出すことがある。
翌日の土曜日朝、手術の予定となった。「実際には彼女には2つの半分のサイズの子宮と2つの子宮頸部があり」、血液を閉じ込めていた膣組織が認められたと Hospital of the University of Pennsylvania の生殖器外科部門の部長 Samantha Pfeifer 氏は言う。思春期婦人科学の専門家である Pfeifer 氏は CHOP の外科医とともに手術を行うために協力を求められていた。
数ヶ月に及ぶ閉塞は Allie の一側の卵管を損傷しており、これを切除しなければならなかった。貯留した血液は他の内臓器を圧迫しており、それらが彼女の尾骨を圧迫し、増悪する痛みや食欲の低下やひどい便秘を起こしていたのである。
ペンシルベニア大医学部の准教授である Pfeifer 氏はこういったケースに対する治療を専門にしている数少ない外科医の1人である。
「腹立たしく思うのは、単腎で生まれた赤ちゃんの母親に、この異常が起こりうること、生理が始まるときに治療が必要になるかもしれないことを、医師たちが伝えていないことです」と Pfeifer 氏は言う。多くの医師たちは医学部でそのような異常について学んでいないために、そのような合併症を知らないのである。
結局、「与えられた条件から正しい結論を導く人間が伝統的に存在しないため、こういった子供たちは数ヶ月、さらには数年にわたって、便秘と痛みで ER を繰り返し受診するのです」多くの放射線科医もこの疾病をよく知っていないと彼女は付け加える。「これが“卵管内の液体”と診断されているのを見たことがあります」
Pfeifer 氏によると、最近彼女はフロリダの2つの病院にいたことのある10代の患者を手術したが、「そこでは誰もこの病気のことを聞いたことがありませんでした」という。
Allie の場合、医師たちは17オンス(約482 g)の貯留液を排除し、血液の流れを遮断していた組織を除去した。医師たちは両方の子宮を温存した。それらを結合する手術は不必要であり危険性もあるので行われることは稀である。
「妊娠するのはやや難しい可能性があり、またしたとしても帝王切開をする必要があります」と Allie について Pfeifer 氏は話す。彼女は Allie の追跡を続けるが「問題はないはずです」と言う。Aftermath 後遺症
そして彼女には問題は見られていないと、Allie も母親も口を揃える。彼女の痛みは消失し、8月には19才になる Allie は最近 Bucknell University の第1学年を終えた。彼女はそこで土木工学を専攻している。
しかし精神的な後遺症からの回復は長い経過となっている。
Partridge 氏は、例の癌の恐怖の後、ER の医師にこう話したという。「私は彼女の母親です。この病気を考えておくべきでした」彼女によるとその医師は次のように答えたという。「あなたではなく、医師がすべきだったのです」「彼女は単腎について2人の専門家にかかったが2人ともこの病気について何も言わなかったことを今でも腹立たしく思っているようです」と Partrige 氏は言う。
Allie はトラウマと決別したいと思っている。「私は経験してきたすべてのことで間違いなく強くなったと思っています」と彼女は言う。「大学では、他の学生たち以上に健康であることに感謝しています」
『重複子宮(uterus didelphys)』は子宮奇形の1型である。
子宮は胎生期に2つの管状の組織(ミューラー管)が
左右から癒合して形成されるが、
その融合がうまく行われない場合に
『弓状子宮』『中隔子宮』『単角子宮』『双角子宮』
『重複子宮』などの奇形が遺残する。
子宮が二つに分離しているケースのうち、
子宮と頸部が完全に2つある場合を『双頸双角子宮』、
膣も2つに分かれている場合を『重複子宮』と呼ぶ。
(重複子宮)
http://www.k-sato.com/womensmed/utanomaly.htmより
発生学的な関連性から
子宮奇形には腎臓の発生異常を伴うことがある。
子宮奇形は全女性の約1~5%に見られるが
大部分は自覚症状が認められず
特別に問題を引き起こすことはない。
検査や他の手術で偶然に発見されることが多いが、
不妊や流産の原因となり得る。
また本例のような月経痛、下腹部痛や、
性交痛が見られることがあるが、
これは経血の流出異常による。
診断は、子宮卵管造影、超音波断層検査、MRI、
子宮鏡検査などで総合的に行われる。
さらに精密な検査が必要な場合には、
腹腔鏡検査が施行されることもある。
無症状のケースでは治療は不要だが、
子宮奇形が
不妊や習慣性流産の原因であることが明らかな場合には
手術による治療が考慮される。
また、下腹部痛や月経痛が子宮奇形と関係していて、
手術による症状の改善が期待される場合にもその適応となる。
手術は、開腹術や腹腔鏡下に形成術が行われるが、
中隔子宮に対しては最近では子宮鏡手術によって
経腟的に中隔切除が行われるようである。