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煩悩を解脱した中年男のぼやき

3つの "W" を忘れるなかれ

2023-11-29 13:52:44 | 健康・病気

2023年11月のメディカル・ミステリーです。

 

11月25日付 Washington Post 電子版

 

Medical Mysteries: Dizzy and off-balance, she searched for the cause

メディカルミステリー:目が回り、バランスがとれない原因を彼女は探した

A real estate broker developed memory and urinary problems. Doctors performed many tests but overlooked the reversible cause.

不動産ブローカーの女性に記憶障害と排尿障害が起こった。医師らは多くの検査を行ったが治療可能な原因を見逃していた。

 

By Sandra G. Boodman

 

(Bianca Bagnarelli For The Washington Post)

 

 問題の最初の徴候は読書が難しくなったことだった。2014年の終わりころ、Brooklyn(ブルックリン)とLong Island(ロングアイランド)の2ヶ所を拠点にしているニューヨークの不動産ブローカーである Cathy A. Haft(キャシー・G・ハフト)さんは新しい眼鏡が必要だと考えた。しかし視力検査では彼女の眼鏡度数に概ね変化はなかった。

 次に膀胱障害が起こり、続いて平衡機能障害によって間欠的なめまいと原因不明の転倒がみられた。2018年には、ひどく足元がふらつくようになったため物件を紹介することができなくなった Haft さんは引退を余儀なくされた。

 それからの4年間、専門医らは彼女の悪化する病状の原因を解明しようとして神経筋疾患や平衡機能に関連する耳疾患について検査を行ったが、症状として認知機能の変化もみられるようになっており Alzheimer’s disease(アルツハイマー病)ではないかと彼女の夫は心配した。

 2022年8月、その頃には歩行器が必要となっていた Haft さんは Manhattan(マンハッタン)の神経外科医を受診した。彼女の歩行を観察し、最近の脳検査の画像を見直した彼は仲間の医師に彼女を紹介した。

Cathy Haft さん (Cathy Haft)

 

 それから8週間経たないうちに、Haft さんは、しばしば見落とされ誤診されることのある疾患に対する脳手術を受けた。徐々に失われつつあったために生活の妨げとなっていた各種能力をその手術によって取り戻すことに成功した。

 「この病気がそれほどめずらしいものではないのに、誰も明らかにしてくれなかったことは実に驚くべきことです」と彼女は言う。

 彼女のケースでは、交絡した症状、複雑な病歴に加え、総体的なアプローチがなされなかったことで、しばしば回復可能で劇的な結果が得られる可能性のある疾病を医師らが見逃してしまった可能性がある。

 

Off kilter 調子が悪い

 

 Haft さんの読書障害に先行して2014年3月に恐ろしい出来事があった。彼女と夫がそれまで何年もの間ダイビングの旅行で訪れていたメキシコの Cozumel(コスメル)島の沖合でスキューバダイビングをしていた時、彼女がひどいめまい発作に襲われたのである。

 「水中のすべての景色が回っていました」そう Haft さんは思い起こす。発作が起こったとき彼女は水面から60フィート(約18メートル)の深さのところにいたのである。そしてその翌日にも同じことが起こった。そのひどいめまいは数日後に消失した。

 それから数ヶ月のうちに Haft さんは趣味の一つである読書が難しくなっていることに気付いた。物語の筋を理解することが困難で彼女の視覚はしばしばぼやけていた。Haft さんは新しい眼鏡が必要かもしれないと考えた。かかりつけの眼科医は、彼女の眼鏡の度数が変わっていなかったため、なぜ彼女に症状が起こっているのかわからないと伝えた。

 2016年の初め、Haft さんに尿意切迫と尿失禁がみられるようになった。このため3月に彼女は prolapsed bladder(膀胱脱)の手術を受け成功した。この疾患は出産に起因しうるもので膀胱の下垂を生ずる。しかし2年も経たないうちに尿意切迫と尿失禁が再発した。Haft さんは、手術の合併症ではないかと考えた。薬物治療は効果がなかったため、泌尿器科医から overactive bladder(過活動膀胱の治療)として Botox(ボトックス、ボツリヌス毒素)の定期的な注射(膀胱内局所注射)を勧められ、その治療は有効だった。

 そのころまでに Haft さんは平衡機能障害や間欠的なめまいにも悩まされていた。また小児期から闘っていた頭痛も悪化していた。

 「歩行は面倒な作業になっていました」と彼女は言う。「常にバランスがとれなかったのです」。彼女が受診した数人の神経内科医のうちの一人目は migraines(片頭痛)だと説明した。

 2018年の終わり頃、歩行困難と記憶力の悪化により Haft さんは引退に追い込まれた。頻回に転倒するため毎日の Zumba(ズンバ)の教室から脱落し、ふらつきが強くポーズを保持できなかったため 25 年間行ってきていた yoga(ヨガ)も中止した。

 「私の生活は自ら崩壊したようでした」そう Haft さんは思い起こす。「私はもはや運動できませんでした。仕事もできませんでした。家族は非常に心配していました」

 Haft さんの夫 Lawrenzo Heit(ロレンツォ・ハイト)さんは彼女がアルツハイマー病を発症したのではないかと心配した。彼女には突飛な行動がみられるようになっており「彼女の短期記憶も非常に悪くなっていました」と彼は思い起こす。「彼女は会話を、すなわち前日に自身が話したことを覚えていられなかったのです」

 

Clear ears 耳は問題なし

 

 2019年の終わり頃、二人の耳鼻咽喉科医が平衡機能に関連する耳疾患を除外したため Haft さんは毎週のトークセラピー目的で心理士にかかり始めた。2ヶ月後、療法士は彼女の症状は psychosomatic(心因性)ではないかと言った。

 「彼女は私にこう尋ねました。『あなたはこれを想像できているのでは?これは退職してすることが何もないために起こっているとは考えられませんか?』」Haft さんはそう思い起こし「私が数ヶ月間話してきた人が、原因がすべて私の頭の中にあることだと考えていたのだと思い、不信感を抱きました」と付け加える。

 2021年11月、Haft さんは原因不明のめまいの患者の治療を専門にしている神経内科医を受診した。その医師は、Haft さんは benign paroxysmal positional vertigo(BPPV, 良性発作性頭位めまい症)であると結論づけた。

 この発作性疾患は 50歳以上の人に最も多くみられるありふれたもので、小さなカルシウムの結晶がはずれて内耳の管(三半規管)の中に浮かんだ状態となり、身体の姿勢について脳へ混乱した情報を送ってしまうため発症する。BPPV はしばしば、三半規管から断片を排出させるように頭部を動かす Epley maneuver(エプリー法)で治療される。

 その神経内科医は Haft さんにこの治療法を行った。しかし彼女のめまいは治まることはなく、その後に行った方法でも改善しなかった。また 2022年の初めまでにボトックスの注射は、原因不明に効果がみられなくなっていた。Haft さんは増悪する尿失禁にことさら動揺した。

 2022年の3月から7月の間に彼女はさらに3人の神経内科医を受診した。一人目の医師は、平衡機能や記憶の障害もたらす治療不能なまれな遺伝性疾患である spinocerebellar ataxia(脊髄小脳失調症)を疑った。しかしこの仮説は Mayo Clinic(メイヨクリニック)に送られた血液サンプルの解析によって除外された。二人目の神経内科医は、両下肢に生じた神経筋疾患の可能性を疑った;しかし検査でこれも除外された。三人目の医師はめまいの原因となる vestibular migraines(前庭性片頭痛)と診断した。その医師は多くの片頭痛薬を処方したが効果はなかった。また併せて行われた Haft さんの額への Botox の注射で頭痛は和らいだものの他の症状には効果がなかった。

 20年以上の間 Haft さんは遺伝性の schwannomatosis(神経鞘腫症)というまれな疾患で経過観察されていた。この疾患は神経に発生し圧迫により強い痛みを起こしうる schwannoma(神経鞘腫)と呼ばれる良性腫瘍を引き起こす。Haft さんはこれまでに 6回の手術を受けており、大腿部やその他にできた腫瘍を摘出されていた。彼女はさらに聴力障害を起こす可能性のある腫瘍の検出目的で定期的な脳の MRI 検査も受けている。

 2022年4月に行われた MRI で脊椎腫瘍が疑われたので、schwannomatosis で彼女を治療している神経外科医は彼の仲間である New York-Presbyterian(ニューヨーク・プレスビテリアン)病院に彼女を紹介した。もしかすると彼女の脊髄の腫瘍が彼女の歩行機能を障害し他の症状の原因になっていたのだろうか?

 その脊椎外科医はそうは思わないと Haft さんに説明した。彼は、彼女の shuffling gait(小刻み歩行)に注目し、脳 MRI 画像を調べると脳室という髄液で満たされた空洞の拡大が認められた。これらの脳室は脳の深部に位置し脳脊髄液を産生する。脳脊髄液は脳をその液中に浸して脳への衝撃を緩衝している。

 しばしば、頭部外傷、脳腫瘍が原因となったり、あるいは60歳以上の人ではっきりとした理由なく脳脊髄液が過剰に脳室に貯留することで normal pressure hydrocephalus(NPH、正常圧水頭症)という慢性の疾患を来たすが、一般的には “water on the brain(脳に水が溜まった状態)“と呼ばれている。NPH は治療可能ではあるが、疾病そのものが治癒することはない。

 症状には、尿失禁、記憶障害、あるいは人格変化があり、それらは徐々に進行するためアルツハイマー病と間違われたり、小刻み歩行や不安定歩行により Parkinson’s disease(パーキンソン病)と誤診される可能性がある。転倒や平衡機能障害も起こりうる。医学の分野では、特徴的な3徴候を表現する覚えやすい言い回しが存在する―すなわち、 “ wet, wacky and wobbly“(おもらしをする、頭がおかしい、そしてふらふらする)である。

 これらの症状は、NPH 以外の頻度の高い疾病でもみられることから本疾患はしばしば数年間も見逃されることがある。認知症症例のおよそ6パーセントが NPH であると推察されるが、本疾患は特に治療が早期に始められればしばしば回復可能である。2007年、エール大学の著名な肝臓専門医が NPH による自身の10年におよぶ症状の進行と、その後の回復について詳述しているが、彼もパーキンソン病と誤診されていた。

 

 その脊椎外科医が NPH の可能性に焦点を絞った最初の医師だったようであるが、2017 年と 2018 年に行われた MRI でも軽度から中等度の脳室拡大が認められていた。

 2022年の MRI を読影した放射線科医は、Haft さんの2018年の画像からほとんど変化はなかったと述べており、水頭症は“考慮されるかもしれない”が拡大した脳室は“現状での臨床的意義は疑わしい”と追記されていた。しかし脳外科医は違う考えだった。

 彼は Haft さんに、一連の腰椎穿刺で過剰な脳脊髄液を抜いた後に彼女の状態を詳細に観察するといった入院での措置を受けるよう勧めた。

 それによって彼女が改善すれば NPH の診断が確定し、Haft さんはシャント手術の対象者候補となる。シャント手術とは脳から排除した過剰な脳脊髄液を抜いて腹腔あるいは心臓など体内の別の場所に流すものである。

 Haft さんは9月の初めに検査を受けた。

 「腰椎穿刺の前は、この病気がすべてを牛耳っていました」と Heit さんは思い起こす。「彼女はほとんど歩くことができず、尿失禁がひどかった。私たちは(夜間は)2時間毎にアラームが鳴るようセットして彼女はトイレに行っていたのです」

 それが腰椎穿刺の直後から Haft さんは歩行器を使わずほとんど問題なく病院の廊下を75フィート(約23メートル)歩いた。尿失禁も認知機能も改善した。

 「原因が存在していたことにとにかく安堵しました」と遅ればせながらの NPH の診断について彼女は言う。脳外科医は彼女自身がシャント手術を受けたいかどうかについて考えるよう助言した。成功率は多様であり、およそ50~80%の患者で有益であるとみられているが、劇的な改善を見る人がいる一方、そうでない者もいる。またこの治療には感染症や血栓症などの危険が伴う。

 「それについて考える必要はありませんでした。可能な限り早く予定したかったのです」

 数週間後彼女は手術を受け、続いて10日間、病院とリハビリ施設で回復を目指した。

 正確な診断までにそれほど長くかかったことに Haft さんはいまだに怒りを感じている。「実に…気の滅入る話です」と彼女は言う。

 何年にも渡って Haft さんはマンハッタンの内科医 Sharon Hochweiss(シャロン・ホックワイス)氏にかかっていた。彼女はその女医を“丁寧で、思いやりがあって、話を聞いてくれる、すばらしい医師”と表現している。「Hochweiss 先生は私をすばらしい人たちに紹介してくれましたが、誰一人としてそれを見つけられませんでした」と言い、その一方で Haft さんは自力で何人かの医師を見つけていた。

 Hochweiss 氏によると、Haft さんのケースは、症状の多様な原因によって複雑化したところがあったという。

 「どれだけの期間彼女に NPH があったのか、あるいはそれがどの症状の原因になっていたのかを知る術はありません」と Hochweiss 氏はインタビューで答えている。早い時期での彼女の尿失禁は重症の膀胱脱が原因であり、確かに手術を要するものだった。

 NPH は 2022 年の脳の MRI を読影した放射線科医によって言及されていた。「内科医として私は専門医の解釈を信頼します」と Hochweiss 氏は言う。

 Hochweiss 氏が言うには、Haft さんが紹介なく受診した数人の医師からの医療記録を持ち合わせていないという。「私が得たいと思う、あるいは得る必要がある十分な情報は与えられていなかったのです」と彼女は言う。

 その後の eメールでこの内科医は、「恐らくこういった医師からの情報を集めようとすることに以前に比べ今後は固執する様になるでしょうと」いう。「今回のできごとで、診断をより迅速に確立する助けとなったかもしれないデータを得ることにこだわらなかったことを残念に思っています」

 シャント手術から1年以上が経つが、Haft さんにはいまだに頭痛、時折のめまい、および倦怠感がみられるものの、生活は劇的に改善したという。

 彼女は定期的な Pilates(ピラティス)と aerobics(エアロビクス)の教室に参加しており、問題なく読書でき、記憶力が低下して以降家族から禁止されていた車の運転を再開している。昨夏は数年ぶりに木を植えたり、庭の手入れを行い、先月は結婚式でダンスを踊った。

 「病気になる前にしていた様に今、生活できることに感謝しています」と Haft さんは言う。「普通の生活を送れないということはとてつもなく辛いことなのです」

 

正常圧水頭症(NPH)については以下のサイトを

ご参照いただきたい。

 

千葉大学大学院医学研究院脳神経外科学

慶応義塾大学医学部外科脳神経外科教室

 

脳の中心に存在する空洞である脳室と、

脳周囲にあるくも膜下腔とはつながっていて

いずれも脳脊髄液で満たされている。

脳脊髄液は脳室内で産生され、一部は脳内の血管から吸収、

あるいは脳表をめぐって太い静脈やリンパ管から吸収されるが、

この流れが腫瘍などで途中で妨げられると脳室内に脳脊髄液が貯留し

脳室が拡大して水頭症となる。

この場合には髄液圧(頭蓋内圧)は上昇することが多い。

一方、髄液の流れは保たれるが産生と吸収のバランスが崩れて生じるのが

NPH である。

おそらく微妙なバランスの崩れのために脳室は拡大するものの

髄液圧は正常範囲内にとどまっている。

NPHは、原因がはっきりしない

特発性正常圧水頭症(idiopathic normal pressure hydrocephalus, iNPH)と、

くも膜下出血、外傷、髄膜炎など原因が明らかな

続発性正常圧水頭症(secondary normal pressure hydrocephalus, sNPH)とに

分けられる。

iNPH は NPH の20~30%を占め、高齢者に発症し緩徐に進行する。

ここでは iNPH について詳述する。

 

原因・症状:

歩行障害、認知障害、尿失禁の3つが主な症状である(3主徴)。

この中では、歩行障害が最初に出現し、3症状のうち頻度が最も高い。

歩幅が狭く、すり足になり、また思うように足が前に出ない

すくみ足歩行などパーキンソン病に似た歩行障害が特徴である。

 

認知障害は、最近の記憶が障害され、自発性の低下がみられる。

尿失禁は、3つの症状の中で最後に出現することが多く、

頻度も他の2つの症状に比べると低い。

 

検査・診断:

上記の主症状(歩行障害・認知障害・尿失禁)を認め、

MRI・CTにて特徴的な画像所見(脳室拡大・くも膜下腔の不均衡な拡大)

があり、水頭症をきたす他の明らかな原因がない場合、iNPH が疑われる。

くも膜下腔の不均衡な拡大とは、脳底部くも膜下腔(シルビウス裂)の

拡大と、それと対照的に脳表の脳溝の狭小化を認める所見である。

iNPH が強く疑われる場合には入院の上、腰から穿刺(腰椎穿刺)を行って

髄液を採取する。

正常な髄液所見で、髄液圧の上昇がなく(20cmH2O以下)、

髄液を一定量(約30cc)抜いた後に認知機能低下や歩行障害などの症状の

改善を認める場合(タップテスト陽性)には、

特発性正常圧水頭症と診断され、外科的手術が考慮される。

 

治療:

治療法は、過剰な髄液を身体の別の箇所に誘導するシャント術が行われる。

シャント術は脳室または脊髄腔と、他の体内の腔内や血管内とを

皮下を経由した管をつなぐ手術である。

シャント術には、脳室腹腔シャント術(VP シャント)、

腰椎腹腔シャント術(LP シャント)、脳室心房シャント術(VA シャント)

がある(図参照)。主として前2者が行われる。

 

千葉大学大学院医学研究院脳神経外科学 より

 

また、髄液が過度に排出されないよう、カテーテルの途中に髄液の流れを

調節するバルブがついていて適正な圧を設定することができるようになっている。

 

治療後の経過:

適切に髄液が排出されれば症状の改善が得られる。

歩行障害が最も改善する可能性が高く(6~7割)、続いて認知障害、尿失禁の

順となっている。

 

iNPH は治療可能な認知症の一疾患として重要であり、

認知症患者を診る際には常に念頭に置いておく必要がある。

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結婚はストレス?それとも心の支え?

2023-10-11 22:42:03 | 健康・病気

2023年10月のメディカル・ミステリーです。

 

10月7日付 Washington Post 電子版

 

 

Medical Mysteries: Were wedding jitters making her sick?

メディカル・ミステリー:結婚前の不安な気持ちが彼女に不調をもたらしたのか?

Doctors blamed her marriage for her sudden severe anxiety and weight gain. Testing revealed the real cause.

医師らは彼女の重度の不安と体重増加の原因は彼女の結婚だと考えた。しかし検査によって本当の原因が明らかとなった。

 

By Sandra G. Boodman,

 

(Bianca Bagnarelli for The Washington Post)

 

 Bridget Houser(ブリジット・ハウザー)さんは失望を感じていた。それまで自身の体重に悩んだことは一度もなかった Houser さんだったが、2018年に彼女が結婚する前の数ヶ月のうちにどういうわけか徐々に体重が増加し始めたことに気づいた。それに対して彼女はランニングの距離を8マイルへと倍増し、続けざまにかなり激しいトレーニングのクラスに参加、さらには、時にほとんどが野菜の質素な食事の前日に水、コーヒー、および果物だけを摂取することもあった。

 しかし Houser さんが何を行っても、彼女の体重は増加する一方であり、彼女の瓜実顔はさらに丸くなり、その変容は彼女の一卵性双生児の姉妹と比べると一目瞭然だった。

Bridget Houser. (Bridget Houser)

 

 Houser さんは自身の超人的な努力にもかかわらず体重が5ポンド(約 2.3kg)増えたのはなにか別の問題が原因ではないかと考えた。それまでの2年間、彼女は相次ぐ病気と闘っていた:最初は毎日の頭痛、それからひどい不安症、そしてその後に不眠、脱毛、にきびがみられたが、にきびは10代の頃には決して見られなかったものである。

 「ストレスというのがあらゆる所で聞かされた原因でした」と Houser さんは思い起こす。彼女は Chicago(シカゴ)で小さな企業の業務管理者をしている。近づいていた結婚が彼女の不調の原因かもしれないと医師から告げられた時、Houser さんは考え込んだがその説を否定した。それは自身の気持ちと全く合致していなかったからである。

 結婚式から約6ヶ月後の2019年の初め、Houser さんは医師たちにいくつかの検査をするよう求めた。それにより最終的に、彼女の症状がストレス、あるいは結婚に対する不安の結果ではなく、何年間もくすぶっていた重大な疾患によるものだったことが明らかとなった。

 治療が成功し長期の回復が得られた Houser さん(現在34歳)は、20代後半の悲惨な数年間に比べ、はるかに具合は良くなっている。

 「起こっていたことで自分を責めることなく自身にもっと優しくしていればよかったと思っています」と彼女は言う。

 

Getting through the wedding 結婚式を乗り切る

 

 2016年、Houser さんは緊張型頭痛でよくみられる箇所である後頭部の痛みを毎日感じ始めていた。食べ物の変更や市販の鎮痛薬で頭痛が改善しなかったため、彼女はプライマリーケア医に相談、その後神経内科医を受診し片頭痛であると言われた。

 当時27歳だった Houser さんは、コンタクトレンズを装着しているときに頭痛が増悪することに気づいた。「それは私の毎日の生活に影響を及ぼしていましたが、問題はコンタクトなのだと考えるよう自分に言い聞かせていました」と彼女は言う。彼女は Lasik surgery(レーシック手術)が有効かも知れないと考え、2017年10月にその治療を受けた。この治療はレーザーを用いて角膜を形成するもので、それによってコンタクトレンズやメガネへの依存を減らし、あるいは排除することができる。

 彼女の視力は改善し痛みも消失した、がそれも一時的だった。眼の手術から一週間後、頭痛が再発した。「私は過度に心配しませんでした」と Houser さんは言う。「多くの人たちが頭痛持ちであることを知っていましたから」

 しかし、数ヶ月後、明確な理由がないまま Houser さんは「実にひどい不安症に襲われました。それは単に私が不安に感じているといったレベルではなかったのです」そう彼女は思い起こす。「私は正常に機能することができませんでした。私はA型人間ですので、不安症がどんなものか知っていました。でもここまでとは思いませんでした」

 2018年初めのある平日の朝、彼女は打ちのめされる感じがしたため欠勤し、双子の Molly(モリー)と母親に電話をかけ、すぐに助けが必要であると話した。

 彼女らは、Houser さんが定期的に受診を始めていた精神科医とセラピストの同日中の診察予約を何とか手配した。その精神科医は近づいていた結婚式に注目し、そのイベントが“非常に大きな不安”をもたらしている可能性があると House さんに説明した。彼女は抗うつ薬の内服を開始するとともに、状態が本当に悪いときには抗不安薬の Ativan(ロラゼパム)を用いた。また精神が静まる効果を期待してヨガを行うよう手筈を整えた。

 Houser さんは、ある朝オフィスへのエスカレーターに乗っていたときのことをありありと覚えていて、そのときには何が原因かわからないまま、「頭の中で『まずいことになった、まずいことになった』と言い続けていました」という。

 彼女の変わっていく容姿もひどい憂鬱の原因となっていた。Houser さんの体重は正常範囲にとどまっていたが、徹底的な食事量制限と著しい運動の強化にもかかわらずなぜ彼女の体重が増えるのか理解できなかった。彼女の元々濃かった髪の毛が著しく細くなっていたため、担当美容師は医師に相談してみるようそっと彼女に助言した。

 Houser さんの精神科医は彼女の脱毛は内服している抗うつ薬が原因ではないかと考え薬を変更した。しかし効果はないようだった。

 Houser さんは最近になって丸くなった顔を特に気にしていた。「家族の中ではジョークのようになっていました」と、彼女が過度に神経質になっていると指摘されからかわれていたという。

 彼女の結婚式の日でさえ、自身の容姿に対する憂鬱と、至るところに存在した形のない強い不安とに襲われていた。

 「考えたのは、どれほど私の胸が高鳴るかではなく、『どうやってこの日を乗り切ることができるか』でした」

 

Normal thyroid 甲状腺機能は正常

 

 結婚してから Houser さんの具合はさらに悪くなった。ひどい不眠、寝汗、そしてにきびが出現した。2019年2月、彼女のプライマリーケア診療所のナース・プラクティショナーが甲状腺の検査を依頼したが正常だった。Houser さんがさらなる検査を強く求めたので彼女は内分泌専門医に紹介された。ストレスを感じているためだとその医師は彼女に説明した。

 満足できなかった彼女は2人目の内分泌専門医を受診したが1人目と同意見だった。「彼女はこう言いました。『あなたには代謝的にはどこも悪いところはないと思います』」そう Houser さんは思い起こす。2人目の内分泌専門医の看護師は診察に一緒に来ていた Houser さんの夫 Doug(ダグ)のいるところで結婚に関する質問を再び持ち出した。「彼女はこう言ったのです。『私は結婚すべきではなかったということがハネムーンの時にわかったのよ』と」彼女がそう話したことを Houser さんは覚えている。「そして『あなたは幸せな結婚生活を送ってる?』と。私は信じられませんでした」

 数ヶ月前、甲状腺の検査を行ったあのナース・プラクティショナーが cortisol(コルチゾール)の数値を測定することに軽く言及していた。このホルモンはストレスに対する身体の反応や他の機能に関与している。Cortisolの上昇は、身体が長期間に渡ってこのホルモンを過剰に産生するときに起こるまれなホルモン異常である Cushing’s syndrome(クッシング症候群、以下 Cushing’s )の可能性を示唆する。

 「彼女は cortisol の検査を無視していましたが、私の心の奥にはずっと残っていました」と Houser さんは言う。

 彼女は2人目の内分泌専門医に cortisol の検査をするよう頼んだ。その医師は同意したが、Houser さんには古典的徴候:すなわち顕著な体重増加、紫色の皮膚線条、および両肩の間の fatty hump(脂肪性のこぶ)、が見られなかったので彼女は Cushing’s ではないと考えていたことをそれまでに彼女に話していなかった。しかし Houser さんには、様々な疾患の治療で長期間高用量のステロイドを内服する人でもみられる Cushing’s に特徴的な “moon face(満月様顔貌)” があった。しかし Houser さんはステロイドを内服していなかった。ただ、不眠、頭痛、にきび、そして不安症は Cushing’s の症候である可能性がある。

 Cushing 症候群にはいくつかのタイプがある。典型的には過剰な cortisol を産生する脳の下垂体あるいは副腎の腫瘍に起因するもので、通常は良性だが時に癌性のことがある。時に、腫瘍は肺や膵臓など体内の別の場所にできることがある。Cushing’s は男性より女がおおよそ5倍多く罹患し、一般的に30歳から50歳の間にみられる。未治療で放置されると致死的となることがある。

 Houser さんの血液、尿、および唾液中の cortisol の濃度を測定した3つの検査では有意に上昇していた;彼女の尿中の濃度は正常に比べ8倍高かった。それまで懐疑的だった Chicago の内分泌専門医は Houser さんに、彼女が Cushing’s であることを告知し、Milwaukee(ミルウォーキー)の内分泌専門医である James Findling(ジェームス・フィンドリング)氏に彼女を紹介した。本疾患に対する彼の治療は国際的に認められている。

 「診断がついて本当に幸せでした」と Houser さんは思い起こす。

 

Revealing photos 写真を見せる

 

 Findling 氏は Houser さんに、2018年10月の診察の際に、数年前に撮られた写真を持ってくるように頼んだ。証拠となる身体的な特徴を見分ける方法として彼が患者に行っている依頼である。Houser さんのケースでは、顔貌の変化が特に目立ったが、それは彼女が一卵性双生児の片方だったからなおさらだった。

 Findling 氏は診断の遅れはよくあることだと指摘するが、それは身体的な変化や他の症状は徐々に知らぬ間に起こる傾向にあるからである。「Houser さんは典型的な Cushing’s の患者には見えなかったのです。彼女には肥満はなく糖尿病や高血圧もありませんでした。多くの症例に比べて捉えにくかったのです」と彼は付け加えて言う。

 次のステップは小さな腫瘍の存在部位を決定することだった。検査では Houser さんの下垂体や副腎には何も認められず、骨盤、胸腹部の CT 検査でも異常は見られなかった。Findling 氏は、高い感度を持つ 検査で、通常の画像検査では捉えられない腫瘍を発見することができる dotate PET スキャン(ソマトスタチン受容体イメージング)を依頼した。この検査で Houser さんの左肺に結節病変が発見された。

 Houser さんは Chicago の胸部外科医にセカンド・オピニオンを求めた。Findling 氏と Milwaukee のFroedtert Hospital(フロエッドタート病院)の胸部外科医は腫瘍を切除する手術を受けるよう強く勧めたが、Chicago の医師は意見を異にした。彼は、肺の結節病変が Cushing’s を起こしているとは考えられないと言い、Houser さんには心理療法と抗不安薬治療を継続することを勧めた。

 「手術後に目が覚めて良くなっていないことがどんな感じかわかりますか?」彼がそう尋ねたことを彼女は覚えている。

 夫とともに熟考し Milwaukee の医師たちと協議したあと、Houser さんは手術を選択、手術は 10月30日に施行され左肺の一部が切除された。病理医は、その結節がbronchial carcinoid(気管支カルチノイド)と呼ばれる緩徐に増大する稀な神経内分泌性肺癌であり Cushing’s を引き起こしうる腫瘍であると診断した。ステージ2のその癌は近傍のリンパ節まで広がっていた。

 「幸運にも早期に切除できたと思います」と Findling 氏は言う。「彼女には持続的寛解と Cushing’s の治癒が得られています」

 「その癌は私を震撼させるものではありませんでした」と Houser さんは言う。彼女は過去に皮膚の悪性黒色腫の切除を受けていたのである。(医師らはそれらの癌には関連はないと考えていると彼女に説明している。)「より重要なことはもはや Cusghing’s がみられないということでした」

 それでは Houser さんを診てきた医師ら(それらの中には内分泌専門医もいた)はなぜ Cushing’s を疑わなかったのだろうか?

 40年のキャリアで本疾患の患者をおよそ2,000人治療してきた Findling 氏によると、医師は Cushing’s が稀であると教えられているが、実際はそうではないという。彼は 2016 年の研究を引用するが、それによると353人の内分泌疾患の患者のうち26人が本疾患であったことがわかっている。

 紫色の皮膚線条とこぶの存在を含めた教科書の記述は、“ほとんど caricature(パロディ)”だと Findling 氏は言う。「Cushing’s は実際には教科書に比べ捉えがたいことがかなり認識されていますし、一方で本疾患は神経精神医学的および神経認知機能的な症状を引き起こし得るのです」

 Houser さんの体重が正常であり高血圧や糖尿病がみられなかった事実が医師らをミスリードした可能性がある。

 「私たちは、特に内分泌専門医の間に少し変化を起こしたように思います」と彼は言い、続けて「スクリーニングの閾値を変える必要がありました。プライマリーケア医に、それは稀な疾患であると説明した時点で、以後顧みられることはなくなってしまうのです。彼らはそれを二度と見ることはないだろうと思ってしまうのです」と話す。

 「この診断が成されれば素晴らしい結果がもたらされるのです」Houser さんのケースを引用し彼はそう付け加える。「それが、私がこの歳までこの診療を続けている理由です」

 Houser さんは Findling 氏を自身の“文字通りの命の恩人”であると考えている。彼女はその翌年の一年をかけて彼の元を受診し、彼女のホルモン値を正常化し体力を回復する薬をゆっくりと中止した。

 彼女は毎年 Cushing’s について観察を続けてもらっているが癌の再発がない状態を維持しており、倦怠感が残っている以外、体調は良い。2021年10月、彼女は女児を出産した。そして8週間前には男児が生まれている。

 Houser さんは家族からの支援が不可欠だったと考えている。特に夫については“私の最大の支援者”と呼んでいた。それはことさら皮肉に思われる。なぜなら彼らの結婚に対するストレスが、実際には癌によってもたらされていた症状の原因とされていたからである。

 「私にもはや戦うエネルギーが残っていなかった時に、医師に電話をかけたり、必要な予約を取ってくれるなど彼は非常に大きな助けとなってくれました」彼の揺るぎない愛こそが「私たちの強い結婚の証だったのです」と彼女は言う。

 

 

 

クッシング症候群(Cushing’s)の詳細については以下のサイトを

ご参照いただきたい。

 

Doctors File

日本内分泌学会

兵庫医科大学

 

Cushing’s は、

腎臓のすぐ上にある副腎から分泌される cortisol(コルチゾール)という

ホルモンが様々な原因で過剰分泌されることで発症する症候群である。

本症候群では、肥満、筋肉の衰え、皮膚の菲薄化などの症状が特徴として現れる。

Cortisol は生体機能をサポートする働きを持つ生命維持に不可欠なホルモンで、

通常は起きている間に多く分泌され、寝ている時には分泌量が減るが、

Cushing’s では常時大量の cortisol が分泌され、糖尿病、高血圧、うつ病など

様々な病気が誘発される。

 

Cushing’s の原因として以下の病態が挙げられる。

① 副腎に発生した腺腫、癌、あるいは結節性過形成から cortisol が

過剰に産生される。

② 脳の下垂体にできた腺腫から、副腎からの cortisol 分泌を促進する

副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)が過剰産生され cortisol が高値となる。

このケースは特に『クッシング病』と呼ばれる。

③ 下垂体以外の部位に発生した腫瘍が ACTHを過剰に産生する。

④ Cortisol と同様の作用を持つ薬剤の投与による副作用。

 

1998の本邦における調査によると、上記の原因別では、

副腎腺腫が 47.1%,下垂体性が 35.8% とこれら二者で大半を占め、

異所性 ACTH産生腫瘍は 3.6% となっている。

 

①の場合、cortisol の過剰により下垂体に抑制がかかり

ACTHが低値となる。ACTHが低値にもかかわらず cortisol が

正常~高値を呈する場合には副腎の異常を疑う。

Cortisol 値が正常の場合でも、深夜の cortisol が高かったり、

cortisol の作用をもった薬であるデキサメタゾンを負荷しても

cortisol 分泌が抑制されない場合には、本症候群の可能性を疑う。

なお、副腎腫瘍や結節性過形成のケースでは一部に遺伝子異常の関与が

示唆されている。

②の下垂体に異常がある場合、微小腺腫のことが多く、

腫瘍が同定できないことがある。

そういったケースでは下垂体近傍の静脈にカテーテルを挿入し血液を採取、

同時に採血した末梢静脈血のACTH値と比較して診断される。

③の病変には、小細胞肺がん、あるいは、肺またはその他の部位の

カルチノイド腫瘍などが挙げられる(異所性 ACTH 産生腫瘍)。

異所性ACTH産生腫瘍は、小細胞肺癌が最も多く全体の約50%を占め、

次いで胸腺もしくは気管支カルチノイドが約25%、膵島細胞腫が約10%、

その他のカルチノイドが5% となっている。

異所性ACTH産生腫瘍はやや男性に多く、40歳から60歳に多い。

 

ところで、cortisol 値の異常があっても、後述の特徴的な身体徴候を

欠く場合がある(サブクリニカルクッシング症候群)。

Cushing’s はかなりまれな疾患であるが、近年では人間ドックなどでの

画像検査を契機に副腎腫瘍が発見される機会が増えており、

この病気(特にサブクリニカルクッシング症候群)が診断される頻度は

増加傾向にある。

 

 

症状

Cortisol の影響により体幹に過剰な脂肪がつくため、肥満傾向が見られる。

丸く大きな顔貌(ムーンフェイス・満月様顔貌)は特徴的な徴候の一つ。

肥満については、手足の筋肉が萎縮し体幹に比べ細くなることから

“中心性肥満”と呼ばれる様相を呈する。

また肩の後ろに脂肪がつくため、水牛のような盛り上がった肩となるが、

これは水牛様肩、野牛肩、あるいはバッファローハンプと呼ばれている。

一方、皮膚は薄くなり毛細血管が拡張するためピンク味を帯びたまだら模様になる。

少しの打撲でも内出血を起こしやすくなり、傷を生ずると治りにくくなる。

腹部やでん部に赤いスジ(赤色皮膚線条)もみられる。

ただしこれら特徴的な身体所見が顕著に認められないケースも多いため

注意を要する。

病気が進むと感染症にかかりやすくなり敗血症が原因で死亡に至る場合もある。

また精神的症候としてうつ傾向が見られる。

その他、合併症として糖尿病、脂質異常症、高血圧、骨粗鬆症などがみられる。

 

 

検査・診断

中心性肥満、ムーンフェイス、皮膚萎縮、皮下出血などの特徴的臨床徴候から

本症候群を疑う。

診断を確定するには、血液検査で血中の cortisol 値の日内推移、

他の副腎ホルモンの数値、ACTH の値などを測定する。

また尿中の cortisol やその代謝産物を測定する。

ホルモン過剰分泌の原因病変を特定するためCTやMRIなどの画像検査を行う。

Cortisol を産生する副腎腺腫の確認には 131I-アドステロールシンチグラフィーが

行われる。

異所性ACTH 産生腫瘍の局在診断にはソマトスタチンアナログを用いた

111N-オクテレオチドシンチグラフィー(ソマトスタチン受容体シンチグラフィー)や

FDG-PETが用いられる。

 

 

治療

基本的には、外科的治療が選択される。

下垂体腺腫が原因の場合は、経鼻内視鏡手術によって腫瘍を摘出する。

下垂体腺腫が小さくて同定し難い場合には、再発することもあり、

その際は再手術が必要となる。

手術での改善が見込めない場合には、コルチゾールの合成を阻害する内服薬や

注射薬の使用も検討される。

副腎の腫瘍が原因の場合は副腎の腫瘍のみを取り出すか副腎そのものを摘出する。

一側の副腎を摘出した場合、残存副腎の機能が十分となるまでに

術後6ヶ月から1年以上を要するため、その間は内服でホルモンを補充する。

治療が成功した場合、満月様顔貌や中心性肥満などの症状は徐々に改善するが

骨粗鬆症は完全には回復しないこともある。

現在 Cushing’s は、早期に発見しきちんと治療をすれば2~3ヵ月で改善に向かう

完治の可能性の高い疾患とされている。

なお特徴的な徴候がみられない“サブクリニカルクッシング症候群”においては、

手術の適応は腫瘍の大きさや合併症の程度に応じて判断される

ただし放置され病状が進行すると、様々な合併症(高血圧、糖尿病、脂質異常症、

骨粗鬆症など)が引き起こされ生命に関わることがあるため注意が必要となる。

 

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謎に包まれた新しい病気

2023-09-13 17:11:29 | 健康・病気

2023年9月のメディカル・ミステリーです。

 

9月9日付 Washington Post 電子版

 

 

Medical Mysteries: He’s lucky his Iceland vacation ended in a hospital

メディカル・ミステリー:彼は幸運にもアイスランドへの休暇旅行が病院につながった

 

By Sandra G. Boodman,

 

(Bianca Bagnarelli for The Washington Post)

 

 Randolph H. Pherson(ランドルフ・H・ファーソン)さんは自身の健康のこととなるとその不確実さには慣れている。この元CIA 解析官は、ひどく重症で数時間後に4本のバイパス術を受けなければならなかった冠動脈疾患と診断されるまで、10数人の医師の診察と緊急室への受診を経るなどで5年を要した。

 その経験の衝撃から Pherson さんは、機密情報収集の能力を医療に適応しようとし、2020年に『How to Get the Right Diagnosis: 16 Tips for Navigating the Medical System(正しい診断を得る方法:医療システムをうまく進むための16のヒント)』というタイトルの本を出版した。

 

「アイスランドへ行ったことで私の命は救われました」Randolph H. Pherson さんはほとんどキャンセルするところだった旅行についてそう話す。(Courtesy of Randolph Pherson)

 

 しかし、自身の人生においては、Phersonさんの努力は成功と失敗の繰り返しだった。2014年の心臓手術から2週間後、Pherson さんに痛みを伴う発疹、急な発熱、さらに血球数の異常など様々な不可解な最初の症状が出現した。それからの7年間、多くの専門医を受診し50の疾患が除外されたものの診断が得られることはなかった。

 Pherson さんが重篤となり(アイスランドの)Reykjavik(レイキャビク)の病院に運ばれたのは 2021年9月のことで、偶然に集中的に現れた症状から何年ものあいだ彼を苦しめてきた稀な疾患の発見につながることとなったのは休暇旅行中のできごとだった。Pherson さんは、そこの医療チームにかかっていなければ未だに答えを探し続けていただろうと考えている。彼らによる包括的な精査、協力的アプローチ、そして National Institutes of Health(NIH1、米国国立衛生研究所)とのやりとりが2022年2月の確定診断につながったのである。

「アイスランドへ行ったことが私の命を救いました」Randolph H. Pherson さんは直前にあやうくキャンセルするところだった旅行についてそう話す。

 現在74歳の Pherson さんは国家安全保障のコンサルタントとして頻回に海外への旅行を続けている。北バージニアの自宅近くの医師と NIH の医師が、彼の複雑で予測不可能な疾患の管理を支持している。

 

Missing the mark 的を外す

 

 2009年、熱心なランナーだった Pherson さんは、間欠的に息切れを感じるようになった。初めの頃、心臓への血流を評価するために放射性トレーサーを用いる核医学心筋負荷検査の結果も参考にされ、医師は彼の心臓は健康であると彼に断言した。そのため注意は彼の肺に向けられ、Pherson さんは喘息として治療された。数年間、彼にはほぼ10種類以上の薬が繰り返し用いられ、多くの医師を受診、その多くはアレルギー専門医だったが、彼の息切れは長引いていた。

 Pherson さんが1ブロックも歩くことがむずかしくなったため家庭医が ER を受診するよう助言し、はじめて冠動脈の4ヶ所に狭窄があることが発見された。緊急で4本のバイパス手術が行われたあと、Pherson さんは、複数の動脈が実質的に同じように血流が障害されたために負荷検査で偽陰性となりうる balanced ischemia(心筋全体が均等に虚血に陥る状態)と呼ばれる稀な状態であったことから、何年も前の時点で誤診されていたことを知った。Pherson さんは、各動脈が80~90%の狭窄を起こしていたと知らされた。

 バイパス手術の2週間後、Pherson さんは両側の下肢に強い痒みを伴う発疹が出現、数日続いたがその後消失した。何年間かその発疹は周期的に再発したが、みられたのは下肢のみだった。しかしその後、それは痛みを伴う50セント硬貨大の紅斑に変化、全身に広がり、数週間続くことも時々あった。

 2021年、Pherson さんは新たな症状に悩まされた:それは一日の後半に華氏101~102度(38.3~38.9℃)の周期的な発熱で、足、手首、あるいは肩など様々な関節の突然の疼痛に加えて悪寒がみられ、数日間続いた。折に触れ、医師らは、症状が Pherson さんの飲んでいる薬に対する反応、あるいは特定されていない疾患の徴候を反映しているか否かの究明に努めた。

 次第に血液検査ではただならぬ何らかの異常が示唆された。Pherson さんは貧血で、白血球数が増加しており、時には、正常の10倍に達しており、hypereosinophilia(好酸球増加症)と呼ばれる状態だった。そして彼の顔色は蒼白となっていた。

 

Randolph H. Pherson さんと彼の家族:Richie Pherson(リッチー・ファーソン)さん(左)、Kathy Pherson (キャシー・ファーソン)さん、Amanda Pherson(アマンダ・ファーソン)さん、そしてMichael Pederson さん(マイケル・ペダーソン)さん(Courtesy of Randolph Pherson)

 

 海外への旅行の合間、彼は、アレルギー専門医、皮膚科医、胃腸科医、耳咽喉科医、リウマチ専門医、腫瘍専門医、そして“wellness”practitioner(健康管理医)などの医師を受診した。検査で偶然膵嚢胞が見つかり、良性とみられたが、悪性の可能性に備えて定期的観察が必要とされた。

 Pherson さんが自身の著書で推奨していた戦略は、準備して来ること、メモをとること、質問をすること、医師との間に“active pertnerships(積極的相互関係)”を築くことだったが、いずれも彼をずっといい方向へ導いてくれることはなかったようである。

 彼の病状に対する総体的な見方より「何の薬を処方すべきかという点に注意が向けられていたようでした」と Pherson さんは言う。彼が受診した専門医たちは、それぞれの領域には通じていたが、しばしば他の専門領域の医師あるいは彼本人との間で十分意思疎通ができていなかった。

 いつものように仕事をすることが慰めになっていた。「私は大変予定が詰まっていました。常に進行中のタスクが20はありました」と Pherson さんは言う。

 2021年9月、彼と妻の Katherine(キャサリン)さん、そして8人の友人たち―その中には引退した手の外科医と看護師がいた―はアイスランドへ行く予定になっていた。その休暇旅行は新型コロナによる制限で2度延期となっていた。Phersonさんは100ヶ国目となるその旅行を特に楽しみにしていた。

 しかし出発の1週間前、増悪する息切れを心配した彼は二の足を踏み、彼を治療してきた2人の専門医を受診した。医師らは話し合って、彼が旅行に行くべきだと考えているかどうか知らせてくれるはずだった。しかし Pherson さん(よると彼らのどちらからも連絡はなかったという。「私は彼らを見限りました」そして私はこう言いました「アイスランドにも病院はある。行っちゃおう」と。

 

Meltdown in Iceland アイスランドでメルトダウン(崩壊)

 

 最初の5日間、Pherson さんは、発熱、右手の腫れと痛み、および息切れに苦しんだ。9月30日、火山の頂上までの登山中にほとんど意識を失いかけたためレイキャビクにある Landspitali University Hospital(ランズピタリ大学病院)のERに行った。そこで彼はリウマチ専門医と心臓専門医の診察を受け、ただちに入院した。

 Pherson さんの熱は104度(40℃)まで急上昇し、ひどい脱力を来たしたので腕を持ち上げることができなかった。医師らは疑われた肺炎に対して抗菌薬と経静脈的解熱薬によって治療した。

 しかし彼の呼吸状態と腎機能は増悪、検査により心臓を取り巻く組織の炎症である心膜炎に加えて、右心不全、肺の血栓、および慢性の貧血があり、後者に対しては輸血を受けることになった。有痛性のびらんが足首と手に出現した。18日間の入院中のある時点で Pherson さんは hypertensive crisis(高血圧性クリーゼ)となり、血圧が突然 207/112 まで上昇した。

 「私は崩壊しかけていました」と Pherson さんは思い起こす。彼は医師の一人から、もし治療を求めなかったら恐らく月末までに死んでいただろうと言われた。

 一人のリウマチ専門医は Pherson さんが vasculitis(血管炎)の一型ではないかと考えた。これは、血管の炎症を起こす稀な一群の疾患で、一般に50歳以上の人が罹患する。彼は高用量のステロイドの内服を開始した。反応は急速だった:Pherson さんの熱は下がり、手の腫れも劇的に改善した。

 時を同じくして、彼のバージニアの皮膚科医から、彼が旅行に出発する前に行われた皮膚生検で血管炎が示唆されるようだと報告があった。アイスランドで行われた動脈生検の結果に基づいて、医師らは giant cell arteritis(巨細胞性動脈炎)を疑った。これは頭部内外や頭皮に炎症を来す。しかし Pherson さんの他の症状は、しばしば頭部の痛みや失明を引き起こす同疾患に一致しないようだった。

 非常に幸運なことに、Pherson さんを診ていたレイキャビクの医療チームには、NIH の National Institute of Arteritis and Musculoskeletal and Skin Dieseases(国立関節炎および筋骨格および皮膚疾患研究所)の血管炎トランスレーショナル・リサーチ・プログラムの責任者である Peter Grayson(ピーター・グレイソン)氏の長年の友人であるリウマチ専門医 Gunnar Tomasson(グンナー・トマソン)氏がいた。二人はボストンの同じフェローシップ・プログラムでトレーニングを受けていた。

 Tomasson 氏は Pherson さんが D.C. 地区に住んでいるのを知り、彼が、新たに発見された稀な自己免疫疾患である VEXAS syndrome(VEXAS 症候群、ヴェクサス症候群)に罹患しているのではないかと考えた。本疾患は New England Journal of Medicine(ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスン)の2020年12月の論文に初めて記載されていた。Grayson 氏は VEXAS を発見した国際チームに関与しており、NIH は当時、本疾患を診断するの必要な遺伝子配列解析を行うことのできる米国で唯一の施設だった。Tomasson 氏は Grayson 氏に Eメールを送ったところ彼は Pherson さんのケースに興味を示した。というのも、Pherson さんのケースでは hypereoshinophilia(好酸球増多症)を含め、VEXAS の患者では普通みられないいくつかの特徴があったからである。

 疾患の臨床的特徴に基づいた頭字語である VEXAS(詳細は後述)は X 染色体に位置する UBA1 遺伝子の変異によって起こる:この遺伝子変異は遺伝によるものではなく後天的なもので、そのため子孫に伝えられることはない。何がこの変異を引き起こすのかはわかっていない。

 男性はX 染色体が一本しかないため、女性に比べはるかに高頻度に VEXAS を発症しやすく、同疾患は 50歳より前にみられることはまれである。血管炎が本疾患の最初に見られる症状の一つとなりうるが、皮膚の発疹や原因不明の発熱も特徴的である。患者はまた進行性の骨髄機能不全を起こし、輸血が必要となる。これまでに100人以上がこの炎症性疾患と診断されている。VEXAS は50歳以上の男性のおよそ4,000人に一人が罹患すると推定されている。

 「これはありふれた状況に潜む疾患であると考えています」と Grayson 氏は言う。「私たちはこれが生命にかかわる病気であることを知っています。症状の発現からの平均生存期間はおよそ10年です」。NIH では、骨髄移植が VEXAS の治療となりうるかどうかを決定する臨床研究を行っている。期待されるのは移植が疾患を起こしている遺伝子を不活化もしくは排除して免疫系をリセットできるかもしれないということである。ただしこの臨床試験は他の治療に反応しなかった患者に限定されている。

 

Coming home 自宅に戻る

 

 2021年10月19日、入院中より顕著に体力は回復したが、彼の血栓症や心臓の問題により民間航空を利用できないため Pherson さんはレイキャビクから Dulles International Airport(ダラス国際空港)まで救急輸送機を利用した。そこから彼は Inova Fairfax Hospital(イノバ・フェアファックス病院)まで移送されそこで一週間過ごした。その入院中に医師は血液を採取、検査のために NIH に送られた。

 2022年2月、Pherson さんは自身が VEXAS であることを知らされた。「それはいくらか不安の軽減になりました」と彼は思い起こす。ついに彼は7年間の混乱させられた症状の説明が得られたわけだが、彼の余命が短くなるかもしれないこと意味していたので「若干心配でした」と付け加えて言う。

 Pherson さんは、疾患をコントロールするためステロイドと他の免疫抑制薬を内服しているが、彼の病気は周期的に再発し、2021年以降も3回の入院を要した。しかし彼は仕事を続けており、頻回に旅行している。「私は70%から90%へと生産性が増えました」と Pherson さんは言う。「私は非常に冷静でいます…私はこれ以上できないというところまで、できることをただやり続けていきます」

 彼と Grayson 氏は、特に医師の間で本疾患の認知度を増したいと考えている。

 「VEXASについて聞いたことのある医師にはこれまで一度もお目にかかっていません」と Pherson さんは言う。彼はNIH での2つの臨床研究に登録されている。「私たちは情報を発信する必要があるのです」

 Grayson 氏も同意見である。「私がどこで医学症例検討会を開いても、必ず聴衆の中の医師の頭には閃くものがあるのです」と彼は言う。「もしあなたがリウマチ専門医、または皮膚科専門医、あるいは血液専門医で、VEXAS について聞いたことがなければ、いくらか学ぶことが求められます。このような患者があなたのクリニックにおられるのですから」

 

 

VEXAS症候群についての詳細は以下のサイトを

ご参照いただきたい。

マイナビ 2025

 

2020年、米国 New York University Grossman School of Medicine

(ニューヨーク大学グロスマン医学部)の生化学部・分子薬理学部の

David Beck氏らは新たな自己免疫疾患として VEXAS 症候群を

有名な医学雑誌、『Journal of the American Medical Association(JAMA)』に

報告した。

VEXAS症候群の名称は、

同疾患が特定された際に認められた患者の臨床的な特徴から取られ、

Vacuoles(空胞)、E1 enzyme(E1酵素)、X-linked(X連鎖性)、

Autoinflammatory(自己炎症性)、Somatic(体細胞性)の頭文字を

組み合わせたものである。

空胞とは骨髄細胞にみられる空胞変性のことである。

本症候群は多くは高齢男性に発症する自己炎症性疾患で,

炎症に起因する発熱や関節炎、軟骨炎、血管炎、皮膚病変、肺病変を

特徴とし、骨髄細胞の変性から血液検査の異常(血球減少)をみるなど

多彩な臨床像を呈する。

このため、結節性多発動脈炎、巨細胞性動脈炎、再発性多発軟骨炎、

Sweet症候群,骨髄異形成症候群(MDS)といった既存の疾患に

本症候群が隠れている可能性がある。

本人男性の再発性多発軟骨炎症例の 73%にUBA1 変異が

確認されたとする報告もあり、他疾患と診断されている症例の中に

本症候群が埋もれている可能性がある。

たとえば皮膚病変を伴う軟骨炎症例をみたら本症候群を疑い

骨髄検査を施行することが推奨されている。

 

米国におけるVEXAS症候群の推定罹患者数は15,000人以上に上り、

その有病率は、さまざまなタイプのリウマチ性疾患の有病率よりも

高いとみられている。

本症候群は、X染色体上のUBA1遺伝子に後天的に生じた変異により

引き起こされることが明らかにされている。

この遺伝子はたんぱく質の翻訳後修飾過程の一種であるユビキチン化を

開始させるユビキチン化活性酵素(E1酵素)をコードしている。

同遺伝子の変異は、50歳以上の男性の4,269人に1人、

50歳以上の女性の26,238人に1人にみられると推定されることから

推定罹患者数は男性約1万3,200人、女性約2,300人と算出された。

この結果に基づき、米国では、特に男性の間では本症候群は

決して稀な疾患ではないと考えられることとなっている。

また男性では本症候群による死亡率も高く、Beck 氏らによると

患者の半数は、診断から5年以内に死亡するという。

以上の事実から、彼らは持続的で原因不明の炎症や血球数減少が

認められる患者に出会った際には、鑑別診断に本症候群も

加える必要があると主張している。

なお、研究グループによると、本症候群の症状の治療においては、

高用量のステロイド、JAK阻害薬、骨髄移植が有用である

可能性があるという。

 

どうやら既存の疾患概念を覆すような新たな症候群のようである。

この先、本症候群の他にも、まだまだ埋もれた真の病態が掘り起こされる

可能性があるのかも知れない。

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2023年10月新ドラマ

2023-09-06 13:56:50 | テレビ番組

史上最高に暑かった2023年の夏もようやく終わりいよいよ秋到来である。

Cov-19 パンデミックは爆発的ではないものの依然くすぶっている状況だ。

これから気温が下がってくればさらにインフルエンザの流行が心配になる。

 

さて2023年7月クールドラマを振り返る。

世帯視聴率を以下に示すが、前クールに続いて TBS 日9 の一人勝ち状態。

一方、テレ朝は飛び抜けたドラマこそなかったが、安定した数字が獲れている。

しかし、あとのドラマはかなり厳しく、特にフジ系は不評の月9以下、4本とも下位に沈んでしまった。

ただ、個人的一推しドラマとしては『転職の魔王様』を挙げたい。

これまで成田凌はあまり好きな俳優ではなかったのだが、

本ドラマのキャラクターはうまく演じられていたように思う。

2クール連続で小芝風花出演ドラマを推しにしたのは私情を挟みすぎですかね?

 

『あなたの人生、このままでいいんですか?』(カンテレ『転職の魔王様』より)

 

『そのためなら私は何でもします』(日テレ『最高の教師~1年後、私は生徒に■された』より)

 

 

7月クールの各ドラマの視聴率を以下に記載する。

(数字はビデオリサーチ調べ・関東地区の世帯視聴率、〇数字は順位)

月9フジ『真夏のシンデレラ』(全11話、平均 5.60)          

月10フジ『転職の魔王様』(全11話、平均 5.05)          ⑩  

火9テレ朝『シッコウ!!~犬と私と執行官~』(全9話、平均 8.03)    

火10 TBS『18/40 ふたりなら夢も恋も』(全10話、平均 6.38)           

水9テレ朝『刑事7人season9』(全9話、平均 9.81)                

水10日テレ『こっち向いてよ向井くん』(全10話、平均 4.98)           ⑪

水10フジ『ばらかもん』(全11話、平均 4.95)                        

木9テレ朝『ハヤブサ消防団』(全9話、平均 9.28)                    

木10フジ『この素晴らしき世界』(全9話、平均 3.88)                

金10 TBS『トリリオンゲーム』(全10話、平均 5.52)                   

土10日テレ『最高の教師 1年後、私は教師に■された』全10話、平均 5.86) 

日9 TBS『VIVANT』(全10話、平均 14.26)                            

日10時半 日テレ『CODE―願いの代償―』(全10話、平均 5.14)    

 

 

それでは、今年の秋ドラマを一通りチェック(随時更新します)。

 

 

フジ月9 10/9 ~ 『ONE DAY~聖夜のから騒ぎ~』 二宮和也(主演)、中谷美紀(主演)、大沢たかお(主演)、松本若菜、中川大志、中村アン、福本莉子、小手伸也、加藤諒、大水洋介、江口洋介、他

人々が思い思いに過ごすクリスマスイブという“たった1日”の出来事を1クールかけて描く、謎と愛と奇跡の物語。徳永友一によるオリジナル脚本ドラマ。主人公は3人、別々の人生を歩んできた全く関わりのない男女。逃亡犯、報道キャスター、そして孤高のシェフである。ドラマではその1日の中で3人の物語が同時並行で進行していくが次第に運命の交錯へと導かれていく。舞台は 12月24日午前0時の横浜。聖夜の訪れに人々は浮き足立ち、真夜中にもかかわらず、街は喧騒の真っただ中。鳴り響くクリスマスソング、恋人たちが集う巨大なクリスマスツリー、そしてライトアップされた赤レンガ倉庫。そんなきらびやかな光の陰に隠れるように横浜で銃殺事件が発生。容疑をかけられたのは二宮和也演じる記憶喪失の男・勝呂寺誠司(すぐろじせいじ)。目を覚ますと目の前に頭部を撃たれた死体が横たわっていたのだが、彼にはこの男を殺した記憶はない。不安と恐怖に襲われるが、現場に落ちていたスマホから『早く逃げろ!』と男の声が。パトカーのサイレン音が迫る中、逃亡することとなった誠司は、失われた記憶をたどりながら事件の糸口を探っていくが、一方、薄れゆく記憶の中には大切な人との約束があった…。時を同じくしてクリスマスディナーの準備に追われていたのは大沢たかお演じる頑固な孤高のシェフ・立葵時生(たちあおいときお)。彼がシェフを務めるのは横浜・関内界隈で愛される三代続く老舗レストラン、初代の頃から80年受け継がれてきた秘伝のソースを求めて遠方から足を運ぶファンも少なくなかった。妻を亡くして以来、『もう二度と誰も愛することはないだろう』と孤独な人生を歩んできたが、一度だけ、一瞬の恋に落ちたことがあった。それでも脇目を振らず仕事に打ち込んできた時生。この日もクリスマスイブの予約は満席で朝から仕込み作業に追われていたが、突然店に見知らぬ男が侵入してくる…。また同じ時刻、事件現場に直行したのは中谷美紀演じる地方テレビ局『横浜テレビ』の報道キャスター・倉内桔梗(くらうちききょう)。理想の報道を追求し続け、自らの企画で立ち上げた報道番組『日曜NEWS11』を5年間キャスターとして背負ってきた。しかし、突如番組の打ち切りを告げられ、料理番組への異動を言い渡されてしまう。恋を捨て、プライベートを捨て、仕事に生きてきた彼女に突きつけられた残酷な現実。非情な通達に納得できないでいたが、腹をくくり“最後の事件”を追うことに。独身を貫いてきた彼女もまた、心の中に忘れられない人がいた…。これら3人の物語が同時並行で進められるが、無関係に見えるそれぞれの人生が交錯し、聖夜のエンディングへと向かっていく。クリスマスイブ“24”てな感じのドラマ?

 

 

フジ(関西テレビ)月10 10/16 ~ 『トクメイ! 警視庁特別会計係』 橋本環奈(主演)、佐藤二朗、松本まりか、JP、徳重聡、沢村一樹、他

荒木哉仁、皐月彩の脚本によるオリジナルドラマ。警察組織の経費削減のため本庁から派遣された特別会計係の女性警察官が、所轄のクセの強い刑事たちと時にぶつかり合い、時に協力して、次々と起こる事件を解決へと導く警察エンターテインメント。緊縮財政を強いられた警察組織は、かねてより警視庁のお荷物所轄と呼ばれてきた万町署で、捜査費などにメスを入れる“経費削減”テストを行うことを決定。そんな経費削減の“特別命令(トクメイ)”を背負って本庁から派遣されたのが橋本環奈演じる特別会計係の女性警察官・一円(はじめまどか)。そこで待ち受けていたのは無駄な器物破損やいかがわしい情報屋との交流、使途不明な経費などがまかり通ってきた所轄署のひと癖もふた癖もある個性豊かな刑事たちだった。『捜査に金は必要だ!』と話す刑事たち激突することになる。数字にめっぽう強く、1円のズレも見逃さない“几帳面さ”と周囲を巻き込む“凶運”を持ち合わせた円は、刑事の捜査費を監督し経費削減案を提案することで現場の刑事たちを振り回してゆく。刑事ドラマ好きの祖母に育てられた影響で刑事に憧れを抱いており、刑事たちの仕事や考え方に興味を持っているが、口うるさく『経費削減!』を唱えるため現場の刑事たちからは煙たがられてしまう。彼女が警察官になった理由は、もちろん憧れの刑事になりたかったから。しかし、生まれながらに極度に運が悪く、周りをトラブルに巻き込む“凶運”のせいで『疫病神』と呼ばれ、刑事課への配属はかなわず内勤となっていた。そんな彼女だったが、遭遇する事件を『お金』という角度で捉え、現場の刑事たちには気付くことのできない違和感や手がかりを察知することで、独特な方法で事件を解決に導いていく。円とバディを組むことになる万町署刑事課強行犯係係長・湯川哲郎を沢村一樹、同署の金庫番を務める警務課長・須賀安吾を佐藤二朗が演じる。これまでとは異なる視点からの警察ドラマ。

 

 

テレ朝火9 10/10 ~ 『家政夫のミタゾノ』 松岡昌宏(主演)、伊野尾慧(Hey! Say! JUMP)、余貴美子、平田敦子、桜田ひより、しゅはまはるみ、他

女装した大柄な家政夫・三田園薫(松岡昌宏)が派遣先の家庭・家族の内情を覗き見し、そこに巣食う“根深い汚れ”までもスッキリと落としていく“覗き見”ヒューマンドラマ。2016年10月から続くシリーズ。今回第6シリーズにしてついにゴールデン帯に登場。主人公は、家事のスキルは完璧、でも無表情で何を考えているのかわからない上、なぜか女装しているという謎多き“最強の家政夫”三田園。『むすび家政婦紹介所』に所属、同所長の結頼子(余貴美子)、所属する家政婦の村田光(伊野尾慧)、阿部真理亜(平田敦子)、式根志摩(しゅはまはるみ)らは前シリーズから引き続き登場するが、今シリーズから新たな家政婦が加わる予定である。

 

 

TBS 火10 10/17 ~ 『マイ・セカンド・アオハル』 広瀬アリス(主演)、道枝駿佑(なにわ男子)、伊原六花、飯沼愛、水沢林太郎、箭内夢菜、濱尾ノリタカ、イモトアヤコ、他

北川亜矢子によるオリジナル脚本ドラマ。“学び直し”を決意したどん底OLが大学生となり、恋に、勉強に、夢に奮闘するセカンド・アオハル・ラブコメディ。広瀬アリス演じる主人公・白玉佐弥子(しらたまさやこ)は、昔から絶妙に『運』と『間』が悪く、学歴もお金もない社会人。建築について学びたいと大学受験に挑むも失敗。以来、抱き続けてきた『こんなはずじゃなかった』という想いを胸にしまい、このまま低空飛行な人生を送っていくのか・・・と覚悟した矢先、想像以上にどん底の30歳を迎えてしまう。そんなとき、佐弥子はひょんなことから大学生の小笠原拓(道枝駿佑)と出会う。佐弥子が『あのとき大学に行けていれば、今とは違った人生があったのに』と胸の内を打ち明けると、拓は『今からでも遅くないんじゃない? なればいいじゃん、大学生』と言い放つ。一度は諦めた“建築デザイナー”の夢。拓のこの一言がきっかけで佐弥子はその夢を掴む第一歩として学び直しを決意、かつて行きたかった大学の入学を目指す。猛勉強の末、晴れて合格した佐弥子が同じ建築学科の“年下の先輩”として出会ったのは、あのとき自分の背中を押してくれた拓だった・・・。運命の再会を果たした二人の関係は年の差の“友情”にとどまるのか、それとも究極の “恋”へと発展していくのか?30歳の大学生が傷も過去も全部ひっくるめて新たな夢を見る姿を通して人生を楽しむことを諦めないというメッセージが描かれる。

 

 

テレ朝水9 8/16 ~ 『科捜研の女 season 23』 沢口靖子(主演)、内藤剛志、小池徹平、若村麻由美、風間トオル、斉藤暁、山本ひかる、石井一彰、西田健、金田明夫、他

変則的に8月16日からスタート。1999年に初回放映開始、今回でシーズン23となり25年目に突入の超長寿ドラマ(相棒より長い!)。さすがの沢口靖子女史も御年58歳となられ、それなりにお歳を召されたようにはお見受けする。これまでは木曜20 時枠が定位置だったが、前シーズンは火曜 21時、そして今シーズンは水曜 21時で放映中である。本ドラマについては特にコメントすることはない。

 

 

テレ朝水9 10/18 ~ 『相棒 season 22』 水谷豊(主演)、寺脇康文、森口瑤子、鈴木砂羽、川原和久、山中崇史、篠原ゆき子、山西惇、田中隆三、神保悟志、小野了、片桐竜次、杉本哲太、仲間由紀恵、石坂浩二、他

水谷豊主演の人気刑事ドラマシリーズの最新シーズン。前作で、初代相棒・亀山薫(寺脇康文)が“五代目”として復帰。約14年ぶりのコンビ復活だが、やはりこの二人が一番しっくりいく感じである。

 

 

日テレ水10 10/18 ~ 『コタツがない家』 小池栄子(主演)、吉岡秀隆、作間龍斗(HiHi Jets/ジャニーズJr.)、小林薫、他

金子茂樹によるオリジナル脚本ドラマ。やり手の女社長が3人のダメ男家族を抱えて奮闘するホーム・コメディ。小池栄子扮する深堀万里江は、上司・部下問わずみんなから頼りにされ『彼女に頼めば離婚しない』という伝説のやり手ウェディングプランナーにして会社社長。若い頃から恋に仕事に全力投球、欲しいものはすべて手に入れたはずだった。しかし気付けば夫・息子・父の 3人のダメ男たちを養う羽目に。廃業寸前の売れない漫画家の夫・深堀悠作(吉岡秀隆)、アイドルを夢見るもオーディションで脱落し人間不信になってしまった息子・深堀順基(作間龍斗)、さらに熟年離婚を言い渡され一人になったため万里江が引き取った父親・山神達男(小林薫)である。『よくもまあ毎日トラブルを起こせるもんだ』と3人のダメ男たちとの日々にてんやわんやな万里江。が、時にはその温もりに涙しそうになりながら新しい家族の形を探していく。どんな苦難も持ち前の前向きさで立ち向かい、たとえ男たちが100の大きな失敗をしても小さじ一杯の成長で感動し、小さじ一杯の優しさで涙が溢れ、そのたびに心の中で高らかに宣言する。『私が食わせる心配するな』と。最近にはめずらしい心温まるホーム・ドラマ?

 

 

フジ水10 9/27 ~ 『パリピ孔明』 向井理(主演)、上白石萌歌、菅原小春、宮世琉弥、八木莉可子、関口メンディー、森山未來、ディーン・フジオカ、他

現代の日本へ若かりし姿で転生した中国三国時代の名軍師・諸葛孔明が、出会った歌姫の歌声に惚れ、彼女の夢をかなえるため、軍司(マネージャー)として成功に向けて全力でサポートしていくSF 青春音楽コメディ。原作は『ヤングマガジン』(講談社)にて現在も連載中のコミック『パリピ孔明』(原作:四葉夕ト・作画:小川亮)。向井理演じる主人公の諸葛孔明は「魏」「呉」「蜀」という三つの国が天下の覇権争いをしていた三国時代に、「蜀」に仕えた“天才軍師”。魔法のような作戦を考えては、次々と敵を倒し、戦で数多くの功績を残してきた。西暦234年、戦いのさなか孔明は病で倒れてしまい息を引き取る。しかし、病死したはずの孔明が、なぜか現代の日本へと転生、ハロウィーンでにぎわう夜の渋谷に降り立つ。そこでゾンビや吸血鬼、オオカミ男など仮装をしている人たちを見た孔明は、見慣れぬ光景に戸惑い、その場所が“死後の世界”だと勘違いする。状況が分からないまま、渋谷の若者たちに絡まれて、ダンスミュージックが鳴り響くクラブにたどり着いた孔明はそこで一人の歌姫と出会い彼女の歌声に心を打たれる。現代のものに触れ、鏡に映る若き日の自分の姿を見て、孔明は自身が未来の日本へと転生したことを理解する。そして、歌手を目指す少女の歌声に惚れた孔明は、彼女の軍師として全力でサポートすることを決意、時を超え現代の日本で一人の少女の夢をかなえるため、音楽によって作られる泰平の世を目指すため、最高の頭脳をもって日本の音楽界に新たな風を吹き込もうとする。果たして日本語はちゃんと理解できるのだろうか?

 

 

テレ朝木9 10/19 ~ 『ゆりあ先生の赤い糸』 菅野美穂(主演)、田中哲司、鈴鹿央士、木戸大聖、他

2023年『手塚治虫文化賞』大賞を受賞した入江喜和の同名コミックが原作。売れない小説家と結婚した主婦の数奇な運命を描く家族の物語。菅野が演じる主人公・伊沢ゆりあは、心優しい売れない小説家・伊沢吾良(田中哲司)と結婚した主婦。年齢を重ね、女として薄らいでいく自分を実感するものの、自宅で刺繍教室を開きながら、穏やかな幸せを味わっているごく平凡な女性だった。ところが、そんな彼女の人生は、夫がホテルで昏倒し、緊急搬送されたことから急展開をみせる。慌てて病院に駆けつけると、意識不明状態となった夫の傍らには、さめざめと泣きながら“恋人”だと名乗る美青年・箭内稟久(やないりく、鈴鹿央士)がいた。さらに、夫を『パパ』と呼ぶ2人の女の子と、その母親である夫の彼女までも現れ、ゆりあは愕然とする。しかし、『カッコよく生きる』が座右の銘で、幼いころ『おっさん』と呼ばれていた愚直で辛抱強いゆりあは、ここで心が折れてしまうこともなく、なんと『みんなでダンナの介護をしよう!』と奇想天外な提案をし、夫の愛人2人と血の繋がらない子ども2人を家に招き入れ、要介護状態となった夫とともに奇妙な共同生活を始める。さらに、そんな数奇な人生の渦中で踏ん張り続けるゆりあに、二度とないと思っていた新たな恋の予感まで到来する。踏ん張る“おっさん”主婦を中心とした珍妙な組み合わせの家族が“ひとつ屋根の下”で繰り広げるヒューマンドラマとのことである。 

 

 

フジ木10 10/12 ~ 『いちばんすきな花』 多部未華子(主演)、松下洸平(主演)、今田美桜(主演)、神尾楓珠(主演)、仲野太賀、他

生方美久の脚本によるオリジナルドラマ。 “男女の間に友情は成立するのか?”をテーマに年齢も過ごしてきた環境も異なる男女4人の感情を描く、新たな時代の“友情”や“恋愛”に向かっていく物語。4人の俳優が主演を務める。この物語の主人公は、潮ゆくえ(うしおくえ・多部未華子)、春木椿(はるきつばき・松下洸平)、深雪夜々(みゆきよよ・今田美桜)、佐藤紅葉(さとうもみじ・神尾楓珠)という別々の人生を送ってきた4人の男女。そんな4人がある日、『唯一心を許せた異性の友達が、結婚を機に友達では無くなってしまった』『結婚を考えていた彼女を、彼女の男友達に奪われた』『友達になりたいだけなのに、異性というだけで勝手に恋愛と捉えられてしまう』『友達の友達もみんな友達と思っていたが、気付けば本音を話せる相手はいなかった』と、それぞれの日常のなかで“友情”や“恋愛”にまつわる人間関係に直面する。それまで別々のものだった4人の物語がいつしか重なり合い、1つの物語となっていく。多部未華子演じる潮ゆくえは、新潟から上京し、妹と2人で暮らしながら学習塾の講師として働いている。他人や物事を一辺倒に見ないという意味で、ゆとりのある性格をしており、それによって周りに新鮮な意見を与えることができていた。一方で自身のことに関しては『こうしなきゃ』と思い込みがちな一面も持っていた。子どもの頃から勉強も運動も人間関係も全部がんばってきたが、『がんばると嫌われる』ということもわかっていた。女友達にあまり本音を出すことができず居心地が悪い思いをしてきていた経験から、『子供の頃から二人組をつくるのが苦手だった』という思いを抱えている。しかし、そんなゆくえにも学生時代から1人だけ気さくになんでも話せる男友達がいた。恋愛関係に発展することもなく、唯一がんばらなくていい関係でいられる相手だったが、ある日、その彼から『もう会えない』と言われ、突然、友情関係は終わりを迎えてしまう。その男友達を失って、さすがに全部をがんばれなくなり、いつからか家族や妊婦やカップルを見てもうらやましいと思えなくなっていた。そんなゆくえが、ふとした出来事で椿、夜々、紅葉と出会うことになる。松下洸平が演じる春木椿は、出版社で働く会社員。実家が花屋を営んでいるが、『花は好きだけど花屋は嫌』」と実家と距離を置くなど、花屋を営む家族に対して少し複雑な感情を抱いている。会社ではいい人だと思われているが、実際は『人が良いのも仕事ができるのも、めんどくさいことを避けてきた結果でしかない』という思いを持っている。椿には長年付き合っている彼女がおり、結婚を見据え、新居での新しい生活をスタートしようとしていた。そんなある日、彼女を“彼女の男友達”に奪われてしまう。“男友達”が友達ではなかったことを知った椿は、『男女の間に友情なんて芽生えるはずがない』ということを思い知らされる。傷心の椿だったが、その後ゆくえらと出会うことにより、自分が“友達”という存在に求めていたものに気付きはじめる…。何やら色々とややこしい人間関係に振り回されそうなドラマである。

 

 

フジ金9 10/13 ~ 『うちの弁護士は手がかかる』 ムロツヨシ(主演)、平手友梨奈、吉瀬美智子、他

スター女優を育てた芸能事務所の元敏腕マネージャーが、超エリートなのにどこか不器用でポンコツな新人女性弁護士に振り回されながらパラリーガルとして奮闘する育成型リーガルエンターテインメント。フジテレビでは金曜21時に54年ぶりにドラマ枠が復活する。ムロツヨシ演じる主人公・蔵前勉(くらまえべん)は人気女優・笠原梨乃(かさはらりの)(吉瀬美智子)を30年間サポートしてきた超敏腕マネージャー。スケジュール管理、気の利いた営業、的確な仕事の精査はもちろん、プライベートでのトラブル処理まで完璧なマネジメント力で“笠原梨乃”を日本トップ女優としての確固たる地位を築いてきた。しかし、2人の夢だった海外進出を目前に、突然『あなたの仕事は誰がやっても変わらない』と蔵前は解雇されてしまう。結婚もせず家族や友達とも疎遠になっても、人生の全てを彼女にささげてきた蔵前は絶望し、生きる意味すら見失ってしまう。そんな折、ひょんなことから、パラリーガルとして平手友梨奈演じる新人弁護士・天野杏(あまのあん)のマネジメントを任されることになる。最年少で司法試験に合格した超エリートの杏だが、人とのコミュニケーションが苦手な上にやる気が空回りしてしまい、弁護士として全く成果を出せずにいた。しかし、不器用ながらも依頼人に力を尽くそうとする杏の姿に心を動かされた勉は、杏が一人前の弁護士になるためのサポートをすることを新たな目標に掲げ、芸能界から法曹界へ全く異なる世界へ飛び込むことを決意する。『マネージャーは、担当のアーティストのパフォーマンスを上げるため力を尽くす最高の裏方』をモットーに掲げる勉は、培ってきたマネジメント力を発揮して杏のために奮闘する。

 

 

TBS金10 10/20 ~ 『フェルマーの料理』 高橋文哉(主演)、志尊淳(主演)、小芝風花、仲村トオル、板垣李光人、白石聖、宮澤エマ、細田善彦、高橋光臣、宇梶剛士、他

カリスマシェフに料理の才能を見出された数学少年が数学的思考で料理という難問に立ち向かう。原作は『月刊少年マガジン』(講談社)で連載中の小林有吾による同名漫画。高橋文哉演じる北田岳(きただがく)は幼い頃から数学に魅了され、数学に人生を捧げてきた数学少年。裕福な家庭ではなかったものの、学業、とくに数学では優秀な成績を収め、数学者になることを目指し、特待生として名門校に通っていた。しかし、高校3年生で挑んだ数学オリンピック選考会でライバルの圧倒的な実力を目の当たりにし、数学者の道を挫折。そんなときに志尊淳演じる謎のカリスマシェフ・朝倉海(あさくらかい)と出会う。海は東京にある二つ星レストラン『K』のオーナーシェフ。幼い頃から料理人になるべく育てられ、史上最年少で星を獲得した。海は岳の才能に目をつけ、“お前の数学的才能は料理のためにある”と料理の世界に導き、凄まじいスピードで成長させていく。一方で、謎めいた意味ありげな発言も目立つ。実は岳の才能を利用し、成し遂げたい企みがあるようだった。二人は超一流レストラン『K』で、世界中から集まった実力あるシェフたちと切磋琢磨し、誰も到達していない“料理の真理の扉”を開くべく、【料理×数学】で前人未到の世界に挑む。そしてこの二人と共演するのが小芝風花。レストラン『K』で働く唯一の女性シェフ・赤松蘭菜を演じる。普段は前菜を担当しているが思ったままを口にする素直でクールな性格。突如やってきた岳を当初は料理人として認めていなかったが、少しずつ興味を抱いていく。時折、岳に対して先輩としての優しさを見せる一方、冷たく忠告することも・・。数学と料理がどう融合するのか見てのお楽しみ?

 

 

テレ朝 金23:15 10/27 ~ 『今日からヒットマン』 相葉雅紀(主演)、山本舞香、他

2005年から2015年まで「週刊漫画ゴラク」(日本文芸社)にて連載された、むとうひろしによる同題漫画をドラマ化。平凡なサラリーマンが、ある日突然、伝説の殺し屋の名を継ぐことになる。相葉雅紀が演じるのは主人公・稲葉十吉(いなばとうきち)。妻に頭の上がらない平凡なサラリーマンである十吉はある日、偶然にも《二丁》と呼ばれる凄腕ヒットマンと出会う。《二丁》は突然、自分の標的を殺して自分の女を助けろと命令し、助からなかった時は十吉と家族を皆殺しにすると言い出す。こうしてサラリーマンとヒットマンの《二刀流》の生活が始まった十吉だが、その根底にあるのは妻子を守るという“家族愛”だった。普段は平凡なサラリーマンながら、誰にも知られてはいけないヒットマンとしての顔も持ち合わせる主人公のドタバタの日常に、ハードボイルドな犯罪劇の要素やガンアクションが展開される。相葉君が“殺し屋”とは、ちと無理があるような…。

 

 

日テレ土10 10/14 ~ 『ゼイチョー~「払えない」にはワケがある~』 菊池風磨(Sexy Zone)(主演)、他

原作は『BE・LOVE』で連載された慎結による同題の漫画。税金の取り立て屋である徴税吏員が滞納者に寄り添って救う方法を模索していく物語。菊池風磨演じる饗庭蒼一郎(あいばそういちろう)はみゆきの市の市役所納税課に勤務するイケメン徴税吏員。滞納されている税金の取り立てが業務である。饗庭は基本的にいつも笑顔で軽いノリの脱力系。公務員だが堅苦しいところがなく、第一印象で誰にでも好かれる人たらし。税に対する豊富な知識、状況を的確に捉える観察眼、そして持ち前のコミュニケーション能力で相手を油断させて懐に入る能力に長けている。納税を督促する仕事には怖さや高圧的なイメージが伴いがちだが、饗庭は『敵じゃない、味方になりたいんです』と滞納せざるを得なくなった払えないワケを聞き出し、市民が本来受けられるはずの公的支援や税金控除などの知識に基づいて寄り添う方法を模索していく“神対応”な一流職員だ。そんな徴税吏員が様々な事情を抱える税金滞納者に真摯に向き合う姿を描きながら税金を通して見えてくる社会問題に斬り込む。税金の勉強になりそうなドラマ。

 

 

NHK日8(大河ドラマ) 継続中 『どうする家康』 松本潤、大森南朋、山田裕貴、杉野遥亮、板垣李光人、広瀬アリス、松本まりか、里見浩太朗、松嶋菜々子、ムロツヨシ、松山ケンイチ、山田孝之、志田未来、角田晃広、溝端淳平、小手伸也、岡部大、寺島進、リリー・フランキー、他

これまでの戦国時代のキャラクターが極端に偏向した人物に描かれているため強い違和感がある。例えば明智光秀や豊臣秀吉は『麒麟がくる』の長谷川博己の明智光秀、佐々木蔵之介が演じた彼らとは全く別人である。他の単発時代劇ならそれも許されるかもしれないが、やはり長く続いている大河ドラマでは一定のイメージを覆すようなキャラ設定は避けていただきたいものである。

 

 

TBS日9 10/15 ~ 『下剋上球児』 鈴木亮平(主演)、黒木華、井川遥、小日向文世、生瀬勝久、松平健、小泉孝太郎、明日海りお、山下美月(乃木坂46)、きょん(コットン)、他

平凡な社会科教師が廃部寸前の弱小野球部の顧問となり日常が一変、高校野球を通して様々な愛が描かれる。原案は菊地高弘著『下剋上球児 三重県立白山高校、甲子園までのミラクル』だが登場する人物・学校・団体名・あらすじはすべてフィクションとして制作。鈴木亮平演じる主人公は、大学まで野球一筋だがケガを機に引退した“ごく普通”の社会科教師・南雲脩司。32歳で大学へ再入学し、教師となり、三重県立越山高校に赴任して3年目。そんなある日、地元の大地主の孫が入学したことを機に、廃部寸前の弱小野球部の顧問を担当することになり、プライベートでは2児の父で、妻と共働き、さらに義父と同居の彼の日常が一変する。姉さん女房として南雲を支える妻の南雲美香(なぐもみか)に井川遥。越山高校の南雲の同僚教師・山住香南子(やまずみかなこ)に黒木華、南雲が顧問を引き受けるきっかけとなった、地元の先祖代々の大地主・犬塚樹生(いぬづかみきお)に小日向文世、越山高校の元教師で南雲が顧問に着任するまで野球部の顧問・監督と務めていたが定年退職後は監督となった横田宗典(よこたむねのり)に生瀬勝久、三重県一の野球強豪校として知られる星葉高校の野球部監督・賀門英助(がもんえいすけ)に松平健、越山高校の校長・丹羽慎吾(にわしんご)に小泉孝太郎、と日9ならではの豪華なキャスティングとなっている。高校野球を通して社会の教育や家族問題など様々な愛が描かれるようである。

 

 

テレ朝日10(朝日放送)日10 10/22 ~ 『たとえあなたを忘れても』 堀田真由(主演)、萩原利久、他

浅野妙子の脚本によるオリジナル作品。何度も記憶を失い続ける青年とその青年を愛する女性のラブストーリー。神戸の町を舞台に、堀田真由演じる、夢を失い生活苦に陥ってしまった音楽教室のピアノ講師・河野美璃(こうのみり)と、萩原利久演じる、記憶を失ってしまう『解離性健忘症』という障害を抱えながらもキッチンカーを運営し懸命に生きる青年・青木空(あおきそら)との恋物語が描かれる。

 

 

日テレ(読売テレビ)日22:30 10/22 ~  『セクシー田中さん』 木南晴香(主演)、生見愛瑠、他

原作は芦原妃名子のコミック『セクシー田中さん』(小学館)。自分の存在価値に自信を持てない派遣社員が、同じ職場の地味なアラフォー社員の正体を知り、新しい自分を見出していくというコメディ。木南晴香が演じるのは地味で友達も恋人もいないアラフォー会社員の“田中さん”こと田中京子。経理部所属、独身の40歳。TOEIC 900点越え、税理士の資格を持ち経理部のAIと評されるほど優秀な OL。しかし実は、秘密裡に超セクシーなベリーダンサー Sali という裏の顔を持っていた。そんな田中さんの夢は、いついかトルコかエジプトにダンスの勉強に行くこと、そして独り立ちして自分の名前でお客さんを呼べるダンサーになることだった。毎朝5時に起き、テキパキと家事をこなし、毎日のルーチンワークは決して崩さない。主婦力も高く料理も完璧だ。一方、『若くて可愛い』ことにしか自分の市場価値はないと焦り合コンに明け暮れながら虚しさと生きづらさを感じていた同僚の派遣社員・朱里(生見愛瑠)は、田中さんの“正体”を知り、彼女の“我が道”を行く生き様に惹かれ憧れていく。朱里は田中さんのファンとなり、同じベリーダンス教室に通うようになる。正反対な2人の関係性はその後化学反応を起こし、周りからのレッテルを跳ね除け、新しい自分を見出していくことになる。

 

 

 

10月ドラマはかなり異色な作品が目立つ。

変わったところでは主演が3~4人というドラマが2本ある。

そんな中、やはり豪華キャストをそろえたTBS日9が抜け出そうである。

久々にベテラン勢で固めたフジ月9の復活も期待される。

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間一髪(close call)からの生還

2023-08-16 19:40:05 | 健康・病気

2023年8月のメディカル・ミステリーです。

 

812日付 Washington Post 電子版

 

 

Medical Mysteries: Why did a teen collapse mid-jump on a trampoline?

メディカル・ミステリー:なぜ十代の若者はトランポリンのジャンプ中に意識を失ったのか?

 

(Bianca Bagnarelli for The Washington Post)

 

By Sandra G. Boodman,

 

 

 2022年9月の土曜日の夕方、ワシントンにある Children’s National Hospital(チルドレンズ・ナショナル・ホスピタル)の救急診療部にはピリピリした雰囲気が広がっていた。看護師、医師、技師ら20数名に及ぶチームが14歳の少年の到着を待っていたのである。

 BB と呼ばれている Akinbiyi Akinwumi(アキンビー・アキンウミー)さんはメリーランド州 Prince George’s County(プリンス・ジョージズ郡)の自宅近くの屋内トランポリン施設で突然意識を失っていた。意識はすぐに戻ったが、うまく話すことができず、胸痛としびれを訴えていた。連絡を受け現場に駆けつけた救急隊員は、心電図で気がかりな異常な電位上昇を認め、若い人ではまずあり得ないほど稀と考えられたが、彼が心筋梗塞を起こしているのではないかと考えた。

 救急隊員が彼を同病院の trauma bay(救急蘇生室)に運び込んだ時には、BB は部屋を見回していたため、彼を最初に診察した救命救急の心臓内科医である Gil Wernovsky(ギル・ウェルノフスキー)氏はその様子は良い徴候であると考えた。

 BB の血圧と心拍数は安心なほど正常であり、Wernovsky 氏は頭の中で彼の意識消失の原因となりうるリストをチェックした:dehydration(脱水);arrhythmia(不整脈)と呼ばれる心臓のリズム異常;命にかかわる感染症である sepsis(敗血症);まれだが重篤な心臓壁の感染症である myocarditis(心筋炎);drug overdose(薬物中毒)、さらには Lyme disease(ライム病)が挙げられた。

 その小児心臓内科医は心臓超音波検査を開始した。これは超音波を用いて心機能を評価する検査である。

 画像がモニターに映し出されると、一同は「驚きの声をあげ、その後完全な沈黙が続きました」と Wernovsky 氏は思い起こす。

 BB の発作、さらには、意識消失に先行してみられた数ヶ月間の原因不明の倦怠感、めまい、および胸痛の原因が存在したのである。

 その ERチームは直ちに人を集め BB と彼の家族には緊急手術に向けて心の準備を求めた。「私たちは非常に迅速に動く必要がありました」と Wernovsky 氏は言う。「果たして私たちが彼を死から間一髪で救うことができるのか本当にわかりませんでした」

 BB の母親 Shron Akinwumi(シュロン・アキンウミー)さんは医師から説明されたことに戸惑うと同時に、彼女の下の息子である彼が強く求めていたであろう肝のすわった表情を見せようとしたことを覚えている。彼女と、医師であり疫学者である夫の Akin(アキン)さんは同意書にサインをし、do-not-resuscitate orders(蘇生禁止指示)についての質問に答え、それまで健康だった子供が手術で死亡する可能性があるという通告を受け入れようと努めた。

 「お願い、どうか私の息子を救って下さい」彼が手術室に運ばれていく前に医師たちにそう話したことを Shron さんは覚えている。

 彼の異常なまでの急速な回復は BB の深刻な診断とは対照的だった。この10代の若者が救急車で瀕死の状態で運ばれて4日も経たないうちに彼は自宅に戻ったのである。

 「あまりに回復が早かったので彼と話す時間はほとんどありませんでした」と Wernovsky 氏は言う。

 

Akinbiyi Akinwumi さんの診断は、症状を評価する際、広く考えることの重要性を思い出すヒントになっていると、ある医師は語る。(Courtesy of Shron Skinwumi)

 

A pulled muscle? 肉離れ?

 

 彼が Children’s National に運ばれるまでの数ヶ月間、バスケットボールの選手である BB は胸の痛み、腕のしびれ、繰り返す倦怠感や脱力感を感じていたが、母親はじめ他の誰にもそれについて言及することを避けていた。彼の症状は「きわめて不規則にみられていたのです」と Shron さんは思い起こす。彼女は GW Medical Faculty Associates(ジョージワシントン大学と提携している非営利の5013医師グループ診療所)で患者アクセスの責任者を務めている。

 BB の胸部の痛みについて小児科医に尋ねると、その医師は肉離れかもしれないと彼女に話した。確かにこれは小児の胸部の痛みの最も多い原因の一つである。そして彼に Tylenol(タイレノール、成分はアセトアミノフェン)を飲むよう助言したところ、多少効果があるようだった。それまでの受診時には医師らは特に異常を認めていなかった。

 トランポリン施設で意識を失う6週間前の8月初旬、BBは兄の Akintola(アキントラ)さんとメリーランドのジムに出かけていた。トレーニング中、めまいと「チクチクとした痛みがあり、全体的に調子が悪い」と訴えるとその後短時間意識を失った。彼は母親に電話した。

 「『座っていなさい、迎えに行くから』と私は言いました」そう Shron さんは思い起こす。彼女が到着すると、駐車場の縁石に腰かけていた彼を見つけたが、そこで彼は嘔吐していた。BB はパーカーを着ていたので、Shron さんは彼が熱中症、もしくは前兆を伴う片頭痛を起こしたのではないかと考えた。2年間、彼はさほど頻回ではない頭痛を経験していたが、通常は市販薬で効果がみられていた。

 自宅に戻ると BB は短時間眠った。目を覚まし、ジムにいたことを覚えていないと言った時、最初 Shron さんは彼が冗談を言っているのだろうと思った。しかしそうではないとわかると彼女は 911 に電話した。救急隊員が彼を調べたところ、彼のバイタルサインは正常だったが、一人の救急隊員が彼女に Children’s National に連れて行くよう勧めた。

 二人は ER で6時間過ごした。BB の記憶は戻り神経学的検査も正常だった。Shron さんは、かかりつけの小児科医のもとで経過を見るよう助言を受けたが、心電図で高血圧、心臓の弁の異常、あるいは激しいスポーツ選手のトレーニングで引き起こされる可能性がある左心室壁の肥厚である左室肥大が示唆されたため同病院の心臓クリニックに紹介された。

 Sharon さんによると、彼女は BB の小児科医に電話したが、その症状は片頭痛関連の可能性があると説明し彼に無理をさせないよう助言したという。

 6週間後、Akintola さんが働いているトランポリン施設まで BB と彼のいとこを車で連れて行った約30分後、彼女の電話が鳴った。施設の管理者が、BBがジャンプ中に“だらんとなった”と彼女に説明した;そして救急車が要請された。兄が彼を抱き起した後、駐車場まで走っていき救急隊員を待った。

 Shron さんは現場に駆けつけ、その後救急車について Children’s National に向かった。

 

‘Do what you need to do’ ‘必要なことをして下さい’

 

 部屋をうずめた人たちが黙ってモニター上の画像を見つめていると BB が声を上げた。「あってはいけないものかも」と半信半疑に怯えた声で彼は言った。カリフラワーの茎のような形をした大きな腫瘤が彼の心臓に付着していた;それはハリケーンに揺れ動く木に似ていた。「本当にショックでした」と彼は言う。

 ER の心臓内科医が努めて穏やかに情報を伝えようとしたことを Shron さんは思い起こす。BB の心臓の左側に付着した奇妙な塊は腫瘍だった。それが良性か悪性かは不明だが、すぐに明らかになるはずだと Wernovsky 氏は Shron さんに説明した。

 Wernovsky氏によると、その腫瘍は cardiac myxoma(心臓粘液腫)であることをほぼ確信していたという。この腫瘍は成人でもまれだが、小児ではさらにまれである。この心臓内科医は38年間の職歴で他に2例を経験していた:1例は新生児で、もう1例は10歳児だった。

 粘液腫は良性がほとんどではあるが、BB の腫瘍は「悪い場所にありました。トランポリンで跳躍すること以上に怖ろしい運動を思いつくことはできません」と Wernovsky 氏は言う。なぜなら大きな腫瘍は容易に BB の心臓の血流を閉塞し、即死していた可能性があったからである。

 「それが良性であると彼女を安心させたかったが、できませんでした。それを取り除くまで確信できないからです」と彼は付け加えて言う。

 「『必要なことをして下さい』と」それが Shron さんの返答だったと Wernovsky 氏は思い起こす。「彼女は実にしっかりしていました。彼女は息子の偉大な擁護者でした」

 Shron さんが最も鮮明に覚えていることはとにかく BB を安心させようとしたことだという。「かろうじて話すことができる子が『お母さん、死にたくない…』と言うのですから…」彼女の話す声は次第に消え入った。「『あなたは死んだりしない。彼らはこの手術を毎日しているんだから』と私は言いました」

 通常心臓の上の方の部屋(心房)が侵されることの多い心臓粘液腫の原因はほとんどわかっていない。30歳から60歳の女性に診断されることが多く、何か他の病気の精密検査で偶然発見される。約10%は Carney syndrome(カーニー症候群〔カーニー複合〕)と呼ばれる稀な遺伝性疾患に起因すると考えられているがほとんどの例は BB のように遺伝と関連なく発生する。

 腫瘍に対しては外科的切除が推奨される治療法であり、再発はめったにみられない。

 

Delayed meltdown 遅れて起こった感情の崩壊

 

 Sharon さんによると、気を紛らすために、BB が手術を受けていた5時間の多くを自身の  iPad で “Downton Abbey(ダウントン・アビー:イギリスの時代劇テレビドラマ)” を見て過ごしたという。夫の方が「(医師として)何が起こりうるかを知っているのでもっと緊張していたのではないか」と思っていたそうである。二人とも不安を何とか紛らわそうとしながら、彼らの上の息子を元気づけようとした。

 手術は成功した。一日以内に BB は心臓集中治療室から出た。Sharon さんは、なぜあんなに多くの医師が彼を見に来るのか尋ねたことを覚えているが、それらの訪問は彼の腫瘍の希少性と彼の回復の速さに促されたものだったと説明を受けた。「彼らは口々にこう言ったのです。『あなたはあれやこれやに立ち向かっておられます』と」と彼女は言う。

 しかし、彼女の強さの予備力は無限ではなかった。家族で病院から自宅に向かうとき、彼女に「本格的な感情の崩壊が起こった」と Sharon さんは言う。「私は振り返って彼を見ました、そして起こったことの現実に」包み込まれた彼女は泣き出したのである。BB が2週間後に「ママ、僕は大丈夫」と彼女に伝えるまで、彼女は彼の部屋の椅子で睡眠をとった。

 BB がほとんど伝えてこなかった数ヶ月に及ぶ症状の経験を母親が知ったのは、彼が回復したときだった。手術の2、3週後、それまでの何年間かに比べてずっと気分が良いと彼は母親に伝えた。

 数週間のうちに高校2年生となる予定の BB はバスケットボールを再開しているが、今のところコンタクトスポーツや激しい運動を避けている。開心術を受けているため、生涯心臓内科医による毎年の追跡検査が必要となる。

 Wernovsky 氏にとって、若い医師たちの教育症例として用いているこの BB の経験は、症状を評価する際、広く考えることの重要性を思い出すヒントとなっている。

 BB の意識消失の前の数ヶ月間、彼女がしっかりと追求してこなかったという罪悪感に苦しみ続けていると Sharon さんは言う。そうしていれば、もっとひどくない状況で手術にたどり着けていたかもしれなかったからだ。

 「もっと前に押し進めるべきでした」と彼女は言うが、Wernovsky 氏や他の医師は、彼女にさらにできていたことは何もなかったと明言している。「今ならもし彼が足の爪が痛むと言ったなら私はちゃんとそこにいます。そして彼はここにいるのです。それが最善のことなのです」

 

 

Cardiac myxoma(心臓粘液腫)の詳細については以下のサイトを

参照いただきたい。

 

慶應義塾大学心臓血管低侵襲治療センターのHP

 

心臓に発生する腫瘍は全剖検例の0.1%以下と稀ではあるが、

その 70%が良性腫瘍、30%が悪性腫瘍である。

良性腫瘍の中で、最も多いのは粘液腫で良性腫瘍の約半分、

全心臓腫瘍の3割強を占める。

粘液腫は粘液状の基質が豊富に存在し赤茶色のゼリー状を呈する。

女性が男性より2~3倍多く、75%が有茎性で

心臓内のどこにでも発生するが、約 3/4 が左心房にみられる。

稀に複数の部位に生じることもある。

粘液腫の約5%に家族性の発症例(Carney complex, カーニー複合)があり、

その場合、若年男性、多発性、再発が多いのが特徴となっている。

本症候群は常染色体優性形式に遺伝し、心臓粘液腫のほか、

皮膚病変や多発性内分泌腫瘍などを併発する。

 

症状

腫瘍占拠に伴う血流障害と腫瘍塞栓による症状が主体となる。

左心房に発生した粘液腫が増大し血流障害を来すようになると

左心房と左心室の間の弁である僧帽弁の隙間が狭くなり、

僧帽弁狭窄症と似た症状(失神、めまい、息切れ)が出現する。

体位によって症状に変化がみられ、立位では、重力により粘液腫が

僧帽弁に向かって引き込まれるため血流が障害され症状が出現する。

腫瘍が僧帽弁口にはまり込んだまま動かなくなり血流が途絶すると

突然死を来すことがある。

粘液腫の30~50 %では腫瘍の一部がちぎれて血流に乗り塞栓症を

引き起こす。

この場合約半数で中枢神経系の塞栓症(脳梗塞)を起こす。

 

診断

腫瘍の存在は、心エコー検査やCT検査などで容易に確認される。

しかし腫瘍の種類については鑑別が困難なこともあり、

切除した組織から病理学的に初めて診断が確定する場合もある。

 

治療

治療は手術による切除が原則となる。

薬物治療で腫瘍を縮小させるのは不可能である。

手術は人工心肺装置を用いて心臓を一時的に停止させ、

心臓を切開し腫瘍を切除する(開心術)。

手術で完全に切除できた場合、通常の社会生活が可能となる。

ただし粘液腫の 5~10%程度に再発があるとされており、

定期的な心臓超音波検査による経過観察は必要となる

 

本記事は 10代の男性であり、

いかにも遺伝性疾患の関連が疑われるが、実際には孤発例であり、

きわめてめずらしいケースであるといえそうだ。

この年代で心臓超音波検査などまず行われないため、

早期の診断は難しいものと思われる。

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