MrKのぼやき

煩悩を解脱した中年男のぼやき

それは喉から始まった

2019-02-09 16:50:56 | 健康・病気

2月のメディカル・ミステリーです。

 

2月2日付 Washington Post 電子版

 

First he was hoarse. Then he couldn’t chew. How one man’s hunch led to the truth.

最初、彼はしわがれ声(嗄声)になった。それから噛むことができなくなった。男性はその直感から真実にたどりついた。


By Sandra G. Boodman,

 Larry Weller(ラリー・ウェラー)さんはパーティーを台無しにしたくなかった。

 彼の一番年長の孫娘の18回目の誕生日を祝うためお気に入りのイタリアンレストランに集まっていた親戚に囲まれて、ブツブツと心配をつぶやいていた妻以外の人間に自分のしていることが気付かれないことを彼は強く願っていた。

 Wellerさんはオリーブオイルの塗られた堅焼きパンを楽しんでいた。しかし、彼の好物であるショートリブに2、3度かぶりついたとき、彼の顎が相次ぐ倦怠に襲われるのを感じた。噛むことに非常に労力を要する状態となったのである。さらに飲み込むこともできなかった。Weller さんは人に見られないようにナプキンに食べ物を吐き出したが、まわりの人たちが自分のことを特に気に留めていないことを知って彼は安心した。

 それから、彼は持ち帰り用容器を頼む頃合いとなるまでに、自分の皿の周囲にある食べ残した料理を押しのけた。

 2017年11月のこの奇異なできごとは、それまで一年以上にわたって元農学者のこの男性を悩ませてきた一見無関係な一連の症状の一部だった。そのディナーから一ヶ月後、それまで数人の医師が調べてきたものではなく、Wellerさんが求めた特別な血液検査によって、彼が噛んだり飲み込んだりできない原因が明らかになる。かつては良好だった彼の健康がなぜ突然に急降下したかもそれによって説明できたのである。

 「実際にどこかが悪いことはわかっていました」 イリノイ州、シカゴから130マイル南にある Bloomington(ブルーミントン)に住む Weller さんは言う。「医師たちが十分な問診をしてこなかったように思っています」

 

Larry Weller さんは多くの専門医を受診し、増えていく症状に対して多くの薬を内服した。必死の思いで、彼はオンラインで見つけられることを探すことにした。そしてそこで彼は答えを見つけた。

 

Was it cancer? それは癌?

 

 2016年の初夏、当時70歳だった Weller さんは、それまで呼吸器感染を起こしたことがなかったにもかかわらず発作性の喉頭炎を繰り返した。彼の家庭医は彼を耳鼻咽喉科専門医(ENT)に紹介した。その医師は制酸薬の用量を増量した。胃酸の逆流はしばしば嗄声(させい)の原因となるからである。Weller さんは何年も前に胃酸逆流症と診断されており、症状を抑える薬を内服していた。

 しかしこの薬が高用量となってから 3ヶ月過ぎても彼の嗄声は長引いていた。その ENT は効果が出るまで時間がかかる可能性があると彼に告げたため、Weller さんは 8ヶ月間その薬を飲み続け、食事も変えてみた。

 「それでも何も変わりませんでした」そう彼は思い起こす。

 2017年10月、その ENT は videostroboscopy(喉頭ストロボスコピー検査)を行った。これは声帯を観察するために内視鏡を用いる検査である。それによって Weller さんの喉頭に leukoplakia(白板症)が見つかった。これは白色の斑状病変を特徴とする多くは良性の病変である。その医師は Weller さんにその斑状病変には癌の疑いがあると告げ、生検を予定した。

 生検では癌は認められなかったが、blastomycosis(ブラストミセス症)と呼ばれるアメリカ中西部でよく見られる空気感染症の徴候が明らかにされた。腐朽葉や土を吸入することで引き起こされるこの真菌感染症はしばしば無害である。しかし、一部の人、特に免疫系の低下した人では、感冒様症状を起こし、しばしばそれが重症となることがある。Weller さんは自分の車で種の入った袋を運んでいたことがあり、それから程なく息切れがあった。

 その ENT はその感染症を叩くために強力な抗真菌薬を処方した。

 しかし、それも効果はなかった。一週間後、Weller さんはひどい咽頭痛を経験した。医師は連鎖球菌感染症の可能性があるとして Azithromycin(アジスロマイシン)を処方した。さらに抗真菌薬も切り替えた。

 依然として良くなかった。Weller さんは二人目の耳鼻咽喉科医に紹介されたが、そこから感染症の専門医に送られた。するとその医師は今度は胃腸科医を受診するよう助言した。しかしブラストミセス症が疑われる以外には何も発見されなかった。

 ベテラン看護師である妻の助けを借りて、Weller さんは家庭医とのケアの調整を試みた。しかしそれは困難だったと彼は言う。その医師が病気であり、その医師のグループ診療が非常に過密となっていたからである。

 「どの医師であれ受診できるようにすることはきわめて困難でした」と Weller さんは思い起こす。「間際になって予約がキャンセルされる状況でした。私は大変苛立ちました」

 さらに多くの薬が処方されるだけだったが、中には具合をさらに悪くさせるものもあった。そして Weller さんの増え続ける症状を引き起こしている可能性がある病気はどの医師にもわかっていないようだった。

 

'It's not your heart' 「心臓が原因ではない」

 

 冒頭のイタリアンレストランでのあのできごとから一週間後、Weller さんはかかりつけ医を受診した。彼の咀嚼や飲み込みの能力は回復していたが、彼は柔らかい食べ物しか摂取できなかった。そして、もし彼が気をつけていなければムセることもあり、時には食べた物を誤嚥した。

 彼の倦怠感は悪化し、平均的な広さである自分の庭でさえ、数回立ち止まって休まなければ歩き回ることができないほどになっていた。そして彼の歩行の調子が悪くなった:Weller さんによると、歩行すると足が上下に揺れ動いた。医師は化学ストレステストと心臓エコー検査をオーダーした。後者は超音波を用いて心機能を調べる検査である。

 「心臓内科医は、あなたの心臓が原因ではない、心臓は良好だと私に言いました。あなたは別の部位を調べるべきですと」そう Weller さんは思い起こす。

 徐々に打ちひしがれていった Weller さんは、オンラインで見つけられるものはないか調べることにした。連鎖球菌感染の可能性に対してアジスロマイシンを内服していたとき、彼は警告表示を読んでいた。重症筋無力症(myasthenia gravis, MG)の患者では病状を悪化させる可能性があるため本剤を内服してはならないと警告されていたのである。Weller さんは MG を耳にしたことはなかった。これは呼吸や運動を司る筋肉の脱力を起こす慢性の神経筋自己免疫疾患である。しかし、彼は、その薬剤を内服してから劇的に悪化したと感じていた。そもそも連鎖球菌感染自体なかったことも分かっていた。

 彼の探索により Mayo Clinic(メイヨ・クリニック)のウェブサイトにたどり着き、ひどく見覚えのある症状の表現を目にした:筋力低下、倦怠感、息切れ、咀嚼・嚥下困難、そして歩行障害。また症状は一般に休息で改善すると。

 Weller さんは、最も頻度の高い症状、すなわち複視と、眼瞼下垂と呼ばれる瞼の垂れ下がりを除くほぼすべての MG の症状が自分にあることがわかった。神経と筋との間の伝達エラーによって引き起こされるこの疾患は血液検査で診断可能である。その検査は、神経細胞と、それが支配する筋を繋ぐ部位である神経筋接合部の正常の伝達を阻害する抗体のレベルを測定するものである。

 Weller さんは Mayo Clinic に電話をしたが、ミネソタ州 Rochester(ロチェスター)にある神経内科部門に予約することはできなかった。Rochester までは車で6時間であり冬には行きたいとは思わなかった。彼は地元でできることを調べることにした。

 12月中旬に彼の家庭医を受診することを予定したが、その予約は間際でキャンセルされた。その代わりに彼はナース・プラクティショナー(上級看護師)への受診を手配した。そこで彼は質問用紙とともに、合計12以上にもなる症状の一覧表を作成した。彼の目標は MG の診断に用いられる血液検査を受けることだった。

 彼の作戦は功を奏した。そのナース・プラクティショナーは AchR antibody(アセチルコリン受容体抗体)の検査を依頼してくれた。これは MG を他の神経筋疾患と鑑別するのに有用な検査である。

 「私が依頼したことを聞き入れ、そして実行してくれたことに本当に彼女には感謝しています」と Weller さんは言う。

 5日後、Wellerさんは自分の直感が正しかったことを知った。

 彼のアセチルコリン受容体抗体値は正常よりおよそ1200倍高かった。彼は MG だったのである。この病気は米国民10万人あたり約20人が罹患している。高齢者では男性の症例が多いが、それ以外では男性より女性が多く女男比は 2:1 となっている。

 「神経内科医であればこれを認識できていたと強く確信しています」そういうのはノースカロライナ州 Winston-Salem(ウィンストン・セーレム)にある Wake Forest School of Medicine(ウェイク・フォレスト医科大学)の神経内科学教授 James B. Caress(ジェームズ・B・カレス)氏である。彼は MG の治療を専門としている(Weller さんの神経内科医とプライマリケア医はインタビューを拒否した)。

 Caress 氏によると、咀嚼障害は本疾患の古典的徴候の一つだという。ギリシャの実業家・Aristotle Onassis(アリストテレス・オナシス)氏が、まだ治療が進歩する前の1975年に本疾患で死去している。家庭医、特に小さな都市圏(Bloomington地区の人口は約16万8千人)において開業している医師は、一例の症例も診ていない可能性があると彼は付け加えて言う。

 また医師らは真菌感染によって誤った方向に導かれてしまった可能性があると Caress 氏は推測する。

 Weller さんが実際にブラストミセス症だったのかどうかは明らかでない。確定的検査は何も行われなかったと Weller さんは言う。また彼の主な症状であった息切れは MG の一つの徴候となり得るものである。

 

A low point 最悪の経験

 

 Weller さんと妻が娘の元を尋ねてルイジアナに滞在中、彼は抗体検査の結果を知った。すぐに Peoria(ピオリア)の神経内科医を受診できるよう夫妻はクリスマスの数日前に自宅に車で戻るよう計画した。

 いつもは Weller さんは運転が好きだった。しかし、Shreveport(シュリーブポート)から Bloomington までの720マイルの行程を出発してから数時間で、彼の眼瞼が突然下がり開かなくなった。それが彼にとって初めての眼瞼下垂の経験だった。

 数時間、四苦八苦して運転したが、ついに断念した。「あれは最悪の経験でした」と彼は言う。

 神経内科医は、Weller さんは MG の重症例であり、同疾患の最も懸念される合併症の一つのリスクがあると考えた:それは、呼吸を支配する筋肉が弱くなり機能できなくなるために起こる breathing crisis(呼吸クリーゼ)である。この場合、人工呼吸器など緊急の治療が必要となることがある。

 Weller さんには、直ちに抗体の産生を抑制する副腎皮質ホルモンであるプレドニゾンの投与が他の薬剤とともに開始された。

 この一年間、彼は隔週で plasmapheresis(血液浄化療法)を受けてきた。この治療は血液透析と似た方法で血液を濾過し抗体の除去を行うものだが、その効果は短時間で減弱する。

 Weller さんは主治医の神経内科医を信頼していると言う。その医師は現在彼以外の MG を数人治療している。

 この2ヶ月間、原因は明らかではないが彼の健康状態は悪化している。「まさにジェットコースターです。朝起きて、薬を飲んで、今日の具合を計ります」

 自分自身の長引いた嗄声や他の症状の原因を強く求めるべきだったと Weller さんは思っている。

 「自分に何が起こっているのかに注目するよう、人には言いたいです。自分の身体は自分が一番良く分かっているのですから」そう Weller さんは言う。

 

 

重症筋無力症(myasthenia gravis, 以下 MG)の詳細については

下記ウェブサイトをご参照いただきたい。

 

難病情報センター

MGスクエア(重症筋無力症情報サイト)

名古屋市立病院腫瘍・免疫外科学のサイト

 

 MGは筋肉を支配する神経の終末部、すなわち神経筋接合部の

シナプス後膜上の分子に対する臓器特異的自己免疫疾患で、

筋力低下を主症状とする。

本疾患には胸腺腫や胸腺過形成などの胸腺病変が合併する。

自己免疫の標的分子として

ニコチン性アセチルコリン受容体(AChR)が80~90%、

筋特異的受容体型チロシンキナーゼ(MuSK、マスク)が

約20%とされている。

AChRやMuSKに対する自己抗体により神経筋伝達が

阻害されることにより、筋力低下、易疲労性があらわれる。

抗AChR抗体価と重症度は患者間で必ずしも相関しないが、

同一患者内では、抗体価と臨床症状に一定の相関が見られる。

軽症例や眼筋型では自己抗体が陰性のこともある。

本疾患と胸腺異常(過形成、胸腺腫)との関連性については、

いまだ不明の点が多い。 

 

臨床症状は骨格筋の筋力低下で、

運動の反復により筋力が低下する疲れやすさ(易疲労性)や

夕方に症状が増悪する日内変動をみることが特徴である。

四肢の筋力低下は近位筋に強く、

整髪時あるいは歯磨きにおける腕のだるさ、

あるいは階段を昇る時の下肢のだるさを認める。

四肢の筋力低下より、嚥下障害や構音障害が目立つこともある。

多様な症状が認められるが、

一般的に眼症状(眼瞼下垂、複視)が初発症状となることが多い。

重症例では呼吸筋麻痺により呼吸不全を来すことがある。

 

治療は胸腺腫合併例では、原則、拡大胸腺摘除術が

治療の第一選択となる。

重症例ではMG症状を改善させたうえで手術を行う。

胸腺腫が周囲臓器へ浸潤している場合には、

放射線療法や化学療法を併用する。

胸腺腫を合併していない例では、抗AchR抗体陽性例の場合、

全身型で罹病期間が5年以内の場合には胸腺腫摘出を

考慮する。

抗MuSK抗体陽性患者への胸腺摘除術は推奨されていない。

また 65歳を越える抗AChR抗体陽性患者や

思春期以前の抗AChR抗体陽性患者に対する胸腺摘出の

有効性のエビデンスはいまだ得られていない。

眼筋に筋力低下・易疲労性が限局する眼筋型は

コリンエステラーゼ阻害薬の内服で経過を見る場合もあるが、

非有効例にはステロイドが選択される。

症状が眼筋のみでなく四肢筋、体幹筋など全身の骨格筋に及ぶ

全身型では、ステロイドや免疫抑制薬の併用がなされる。

免疫抑制薬をステロイド薬に併用することで

早期に寛解導入が可能となり、ステロイド薬の減量や

副作用軽減が期待できる。

重症例ではMG症状を改善させたうえで手術を考慮する。

難治例や急性増悪時には、血液浄化療法や

免疫グロブリン大量療法、ステロイドパルス療法が併用される。

これらは、早期改善の目的で病初期から使われることもある。

本症の患者は日常生活において病状を悪化させないよう

気をつける必要がある。

風邪をひいたりストレスがあったりすると症状の悪化を

みることがある。

また痛み止め、睡眠薬、アミノグリコシド系抗生物質、

過活動膀胱の薬などでは MG の症状を悪化させることがあるので

注意を要する。

感染や外傷、ストレスなどをきっかけに、

急激に全身の筋肉が麻痺することがあり、

特に呼吸に関わる筋肉の低下によって呼吸困難が

生じることがある(クリーゼ)。

症状の悪化があれば早めに察知して病院を受診し、

あるいは救急車を呼ぶなど適切な対応が必要である。

 

『子連れ狼』などに出演した名優・萬屋錦之助が

この病気だったことはよく知られており、

臨床上、決して思い浮かばない病気というわけではない。

しかし典型的な症状である眼瞼下垂がみられない場合には

診断が遅れるケースもあると思われる。

コメント

数十年に渡る病気との、そして自分との闘い

2019-01-17 22:35:58 | 健康・病気

2019年1月のメディカル・ミステリーです。

 

1月12日付 Washington Post 電子版

 

For decades, she was told she was ‘just anxious.’ A midair incident uncovered the truth.

数十年の間、彼女は“ただの心配性”だと言われてきた。しかし、飛行機内の出来事で真実が明らかになった。

 

 

By Sandra G. Boodman,

 生まれてこのかた、Lorri Devlin(ローリー・デブリン)さんは、しばしば経験する厄介な感覚は単純な原因によるものだと言われ続けてきた:すなわち彼女は“単に心配性”なだけだ、と。

 5歳の時、Devlin さんは真夜中に歯がガチガチする音に驚いて目を覚ましたことを覚えている。頭がぼんやりし、“何かが非常に妙だ”と感じた彼女は、両親の寝室に入っていった。彼女は話したが、その内容は全く伝わらなかった。

 彼女は小児科医から“神経質で、潰瘍になりそうな子供”だと告げられたことを思い出す。高校、大学では、奇妙な離人感をしばしば感じていた。成人すると寝ている間に頬の内側を咬んだためにできた瘢痕組織で隆起が生じた。ひどいストレスに苦しめられた時には、時折失神することもあった。

 看護師として訓練を受けた Devlin さんは、パニック障害(panic disorder)と診断されていた自身の病気に対応するため、長年に渡って心理療法、抗不安薬、さらには瞑想などを試みた。

 「自分がそのように弱い人間であることを恥ずかしく思っていました」と彼女は言う。

 しかし今から約2年前、この元保険会社の重役の人生は、ある飛行機内での出来事によって一変したのである。50年以上経ってついに、Devlin さんはそれまでの人生のほぼすべての面に影響を与えてきた症状の原因を知ることとなった。

 

 

Lorri Devlin さん、60歳。彼女が向き合っていたものが神経あるいは他の要因によって引き起こされていたことを知らされた。実際の病気が何だったかを知ったとき、彼女は衝撃を受け、そして怒りを感じた。

 

 

 「最初は、大きな安堵を感じました」Cape Cod(ケープ・コッド)在住で現在60歳になる Devlin さんは言う。「それから、一時、怒りの時期を経験しましたが、それは医療機関に対するものではなく、自分自身に対してでした。若いころの自分を悲しく思っています。私は気持ちをしっかり保つためだけに悪戦苦闘しなくてはならなかったのですが、今はそれを乗り越えたことを誇りに思っています。

 

'Lorri's nervous' ‘ Lorri は神経質 ’

 

 ある朝、彼女が通っていたマサチューセッツ州 Stoughton(ストートン)の小学校で the Pledge of Allegiance(米国民の米国に対する忠誠の誓い)を声に出していたとき、Devlin さんによると、まるで自分の身体がフワフワしているように感じ、何ともいえない恐怖感に身体が包み込まれたという。彼女は死ぬのではないかと不安に思った。

 両親は彼女に、それは新たな“神経症の発作”だと告げた。家族には都合の良い説明があった:それは、“Lorri は神経質”というものだった。そして神経質は家族の中に蔓延していた。

 「私の母親は心配性な人でしたが、それとうまく付き合っていました」と、4人姉妹の一番上である Devlin さんは思い起こす。「私たちは教会に行き、たくさん祈っていました。私は強くなければならないと感じていました―私たちは冷静沈着なアメリカ人なのだからと―しかし実際には私は恥ずかしく思っていたのです」

 Devlin さんは努力して自分の気持ちを抑えるようにした。

 12歳のとき、Devlin さんがソフトボールをしていると、再びふらつきを感じ、同時に一時的に見えなくなり腕が上がらなくなった。「あなたは震えていたよ」いとこがあとで彼女にそう話した。

 17歳のとき、恐怖に襲われて目を覚まし、勇気を振り絞って母親に告げた。「誰かに診てもらう必要があると思う」

 彼女はそのときの母親の返事をありありと覚えていると言う。「彼女は縫い物をしていて、見上げてこう言いました。『精神科を受診する必要があるとでもいうの?ベッドに戻りなさい。あなたはどこも悪くない』」そう Devlin さんは思い起こす。

 この否定的な対応は衝撃的なものだが、1970年代には精神疾患はしばしば恥ずべき人間性の欠陥とみなされていた。Devlin さんによると、母親は特に神経質だったが、それは、第2次世界大戦の退役軍人だった彼女の兄が、現在は外傷後トレス症候群(post-traumatic stress disorder)と呼ばれている疾患で精神病院に入院していたことによるという。

 Devlin さんは傷つきやすい感性を抱えながら生きる術を身につけ、看護学校と2回の困難な妊娠を頑張り抜いたという。

 かかっていた歯科医は、彼女の数年に渡って欠けた状態になっている6本の歯と、寝ている間に咬んでできた頬と唇の内側の瘢痕組織の隆起を指摘した。彼もまた、聞き覚えのある原因によるものだとした:神経症である。

 

Panic disorder? パニック障害?

 

 30歳代のとき、Devlin さんは自分は恐らくパニック障害ではないかと思い込み心理治療を開始、数年間継続した。療法士は、彼女の離人感、見当識障害、恐怖感などの感情を指摘し、彼女の自己診断と同意見を示した。

 親切で、助けになってくれたと Devlin さんが言うその療法士は彼女に瞑想を始めることを勧め、抗不安薬を処方したが、Devlin さんによれば抗不安薬の内服は控えめにしていたという。しかしそれでも症状は続いた。

 Devlin さんの人生を変えることとなった出来事は2017年4月に起こった。彼女と彼女の2番目の夫がフロリダ州 Captiva Island(キャプティバ島)への休暇旅行から戻る飛行機に搭乗中のことである。

 フライトの途中、Devlin さんがうたた寝をしていると、突然、何かが“恐ろしくおかしい”と感じて目を覚ました。飛行機の壁が紙のように薄っぺらく感じ、繰り返し恐怖を感じたと彼女は言う。意識を失う前、彼女が覚えている最後のことは、夫に助けを求めたことである。

 Devlin さんは程なく目を覚ましたが、混乱し動揺していた。彼女は中央席と通路席に横たわり、夫の膝の上に頭を置いていた。客室乗務員は彼女の周りに集まり、どういうわけか、濡れた茶色のペーパータオルで彼女を軽く叩いていた。Devlin さんは自身のジーンズが濡れているのに気付いた:彼女は失禁していたのである。「私は大変恥ずかしく思いました」と彼女は言う。

 一時間後、Providence(プロビデンス:ロードアイランド州の州都)に着陸後、救命救急士は彼女を小さな地域病院に搬送した。

 「そこの緊急室で夫は、私が座席でずり下がる前に『何かがおかしい、気を失いそう』と言っていたことを医師に伝えました。その数秒後、私は目を見開き、口をポカンと開けていました。私は真っ直ぐ前を見つめながら前後に激しく身体を揺れ動かし始めていたのです」と彼女は言う。

 その医師は彼女に飛行恐怖症があるかどうか尋ねた。それはないという彼女の返答に彼は無関心の様で、彼女の腕を軽くポンポンと叩き、彼もフライト中に一度気を失ったことがあると話した。

 自宅に戻った Devlin さんは気を失ってはいなかったと思っていた。彼女の病院の書類には“てんかん発作 (seizure) vs 失神 (syncope)”と記載されていた。このことは、彼女の短時間の意識消失が、別名 fainting ともいう失神によるものであるかどうか医師らにはわかっていなかったことを意味していた。Devlin さんの夫は、その出来事を目撃していた乗客の一人が「彼女はてんかん発作を起こしている」と言ったことを彼女に伝えた。

 彼女はそれまでの人生ずっと、同じような症状を経験してきたように思った:すなわち、ふらつき、繰り返し襲われる恐怖感、離人感である。Devlin さんは記録したものを集め、きわめて明白に見える何かを、彼女や、そして特に彼女を診てきた医師らがどのような理由で見逃してきた可能性があるだろうかと考えた。

 数日後、Devlin さんは内科医を受診した。「それは失神ではなかった。てんかん発作です」医師がそう言ったことを彼女は覚えている。

 Devlin さんはボストンにある Harvard の教育病院、Beth Israel Deaconess Medical Center(ベス・イスラエル・ディーコネス・メディカルセンター)に向かった。彼女は以前そこの患者だったことがある。専門医の一覧をスクロールし、てんかんおよび臨床神経生理学部門のチーフである Bernard S. Chang(バーナード・S・チャン)氏にたどりついた。

 

Obvious — and overlooked 明らかだが、見逃されていた

 

 Chang氏に初めて会う前、緊張していたことを Devlinさんは覚えている。彼が、これまで受診した他の医師らと同じように、彼女を“例によって神経質な女性と決めつけてしまう”のではないかと心配したのである。

 しかし実際にはそんなことはなく、飛行機内での出来事や、何十年か遡るあまり劇的でないエピソードについての彼女の説明にも Chang 氏は耳を傾けた。

 彼女の病歴やカルテは側頭葉てんかん(temporal lobe epilepsy)に一致しているように思われると彼は Devlin さんに告げた。300万人以上のアメリカ国民が、慢性の神経疾患であるてんかんを持っていると考えられている。機内での出来事はおそらく、てんかんに関連する強直間代発作、あるいは大発作だった。これは、一般にてんかんに合併する激しいけいれん発作である。Devlin さんが話せなかったり、またある時に移動することができなかったりしたことは部分発作あるいは焦点発作を示すものだった。

 てんかん発作は脳の異常な電気的活動の結果として起こる。てんかんは頭部外傷、疾患、あるいは発達異常によって引き起こされる;しかし多くのケースではその原因は不明であり、Devlin さんもこれに含まれる。てんかんの患者が、奇妙な感情や感覚を経験することはよくみられる。側頭葉てんかんの患者では、前兆(auras)を経験することがある。これは不吉な感覚、奇妙な臭いや味覚、あるいはジェットコースターに乗っている感覚に似た揺れ動く感覚などが引き起こされる。

 不安や抑うつが、てんかん発作の結果として、あるいは、発作を抑制するための薬物の副作用として起こることがある。 

 てんかんには完治できる治療法はないが、大部分のケースでは薬剤で発作をコントロールできる。

 この脳疾患は長らく誤った通念(myth)や恥辱(stigma)の対象となってきた。それは、一つには何世紀にも渡って“取り憑かれること”とか悪魔的であることとの関連付けから生じている。Chang 氏によると、恥辱は診断の遅れの一因となってきたという。てんかんはしばしば、統合失調症などの精神疾患と誤診される。

 「私たちは、凝視症状があるために注意欠陥障害(attention-deficit disorder)と診断されている子供たちをみることがあります」凝視症状は欠神発作(absence seizures)でも一般に見られる行動である。

 診断の遅れはまれではないが、50年の遅れはめずらしいと Chang 氏は言う。

 Devlin さんのケースで診断するのは「今振り返ってみれば容易です」と彼は言うが、他の疾患を除外する必要がある。

 「私たちは彼女に対しただちに薬物治療を開始することに十分な確信がありました」と Chang 氏は言う。それから Devlin さんは脳腫瘍を除外するために MRI 検査を受け、脳の電気的活動を記録する脳波検査を受けた。両検査とも正常だったが、神経内科医によると、てんかん患者での正常脳波はよくみられることだという。

 Devlin さんの抗てんかん薬に対する急速で劇的な反応は診断を確かなものとした。

 「私は恐れおののきました」内服を開始して数日で変化したと感じた Devlin さんは言う。

 彼女はもはや就眠中に唇や頬の内側を咬むことはなくなった。筋肉の痛みで目を覚ますこともなかった。ふらつきとともに離人感も消失した。気持ちも落ち着いた。唯一の副作用は眠気だったが、これには慣れていった。

 「ようやく診断が下され、知識を持った医師を、そして症状に対処する薬を得ることができたことに安堵するあまり、本当に泣きました」と彼女は言う。

 恥辱と否定に加えて、彼女が自身の症状の説明に慎重だったこともあって、自身の発作が、寝ているときなど、頻回に起こるようになるまで診断が遅れていた可能性もあったと Devlin さんは思っている。

 積極的に話すと“自分が頭がおかしいように思われそうだった”と彼女は考えていたのである。

 Devlin さんの家族歴を考えると、てんかんを考慮しなかったことはとりわけ驚きだった。

 彼女の姉妹の一人は20歳で側頭葉てんかんと診断されていた。また叔母には凝視発作があったが、診断は得られていなかった。(遺伝的因子は本疾患の一部の発現に関与していると考えられている)。

 この診断は彼女の人生を大きく見直すきっかけになったと Devlin さんは言う。

 「それは抗し難いものです」と彼女は述べ、さらに付け加えて言う。もし、自分が“ただの心配性で”重大な欠点があると思い込んで数十年間を過ごしてきたようなことがなかったとしたら、「自分の人生はどのように違っていただろうかと思っています」

 

 

てんかんには様々な種類があるが、ここでは

内側側頭葉てんかんについて記載する。

 

詳細は下記サイトをご参照いただきたい。

協和発酵キリンてんかん診療Q&A

難病情報センター『海馬硬化を伴う内側側頭葉てんかん』

 

内側側頭葉てんかん(medial temporal lobe epilepsy)は

海馬・扁桃体など辺縁系を主座として起始するてんかんである。

原因は不明で、4~5歳以下の乳幼児期に先行損傷の既往

(熱性けいれん、外傷、低酸素脳症、中枢神経感染症など)を

持つ例が多いが全例ではない。

臨床発作は前兆として、上腹部不快感、上向性嘔気、恐怖感、

既視感、未視感、離人感、嗅覚・味覚症状などが生じる。

意識障害を伴う複雑部分発作では、意識減損、運動停止、

凝視、瞳孔散大、口や手の自動症などが認められ、

数分間の発作後もうろう状態が生じる。

また、優位半球焦点であれば発作時あるいは発作後に失語が

みられることもある。

強直間代発作に移行する二次性全般化発作が時にみられる。

記憶障害などの認知機能障害、抑うつなどを伴うことがある。

薬物治療が有効な症例もみられるが、

側頭葉てんかんに対する長期予後は良好でなく、

安定した発作抑制が得られない例も多い。

一側の海馬の病変(海馬硬化症)によるケースでは

近年、詳細な画像診断や発作時脳波・ビデオ同時記録など

慎重な術前診断で発作の原因となる病変を同定することで

病変切除術の成績の向上が得られてきている。

 

意識を失い、激しいけいれんの起こる発作であれば

診断も比較的容易だが、

気分や感覚の変化を来す程度の発作にとどまる場合には

診断が遅れる可能性もある。

本疾患に対する誤解や偏見が早期診断の障壁とならないよう、

周囲の十分な配慮が求められる。

コメント

“医者いらず” になれない私たち

2018-12-22 14:58:53 | 健康・病気

2018年最後のメディカル・ミステリーです。


12月15日付 Washington Post 電子版

 

A fitness fanatic runs into an alarming ailment that was caught in the nick of time

フィットネスの熱狂的愛好家はただならぬ病気になるが、ぎりぎりのところで診断された


 


By Sandra G. Boodman,

 Barry Goldsmith(バリー・ゴールドスミス)さんは、医師にかからないようにするためにはどんなことでもした。

 自身の体調を万全に保つため、運動、特にランニングの効果に対する思いは長く彼の信条となっていた。もし身体の具合が悪ければ、Goldsmith さんは靴紐を結び“走って解決した”。このメリーランド州の特許専門弁護士の走行距離は通常毎週約30マイルに及び、マラソンあるいはトライアスロンに向けてトレーニングしている場合には、さらにそれより長く走り、加えて水泳、自転車、さらにはウェートトレーニングを組み入れた。

 実際、30年以上の間、彼の目論見は功を奏していた。

 「Barry はものすごく元気で、ずっと、医師にかからずにきた一流のアスリートでした」彼の妻で元教師の Paula(ポーラ)さんは言う。彼の病院嫌いは妹が家庭医になってからも続いた。

 しかし数年前、現在 56 歳になる Goldsmith さんは、回避できない一連のただならぬ症状を経験した。

 それらはあるパターンをたどった:最初 Goldsmith さんの両足にピリピリした感じが出現、それから10分ほどで、ドキドキする心臓の動悸が起こり、それが治まると吐き気に襲われた。

 

息子の Jacob くん、娘の Jordan さん、妻の Paula さんと写真に収まる Barry Goldsmith さん。自分の症状が、何年も前から発症していた致死的ともなり得る病気によって引き起こされていたことを知って彼はショックを受けた。

 

 最初、その症状は散発的なものだった。しかし、そのうちその頻度と持続時間が増え、Goldsmith さんがランニングを始めた途端に近くの芝生の上に倒れ込んでしまうこともあった。

 人並み外れた壮健さによって部分的にカモフラージュされていた彼の症状が、実は何年も前から発症していた致死的ともなり得る病気によって引き起こされていたことを知って夫婦はショックを受けた。

 「健康状態が良好であることはありがたいことでもある一方、不幸でもありました」つい先日、Goldsmith さんはそのように言う。「遅れた分だけ、自分自身を危険にさらしていたのです」

 

Off the charts とんでもない数値

 

 Goldsmith さんが最初に異常に気付いたのは、2014年にアメリカを横断する空の旅を終えたときだった。カリフォルニアに降りたって、立ち上がったとき、ピリピリ感、動悸、吐き気に一斉に襲われたが、それらはかなり急速に消退した。

 たぶん機内で長く座りすぎていたためだろう、そう考えたことを Goldsmith さんは覚えている。その後その症状がほぼ毎月繰り返しみられるようになったことから、彼はそれが“気がかり”にはなっていたが、彼の妻や、年に一回程度受診していたかかりつけの内科医にはその症状のことを何ヶ月もの間、話すことはなかった。2015年には朝方の頭痛が時々見られるようになった。

 Goldsmith さんは、激しい運動で引き起こされる可能性がある徐脈のことで用心のため以前受診したことのある心臓内科医を受診したが、やはりこの症状について話さなかった。Goldsmith さんは健康そうにみえるとその医師は言った。

 「夫は私に『私は今元気だ、乗り越えたよ』と言って、頑張り続けました」Paula さんはそう思い起こす。

 2016年には朝方の頭痛がより頻回に起こるようになっていた。時々、Goldsmith さんは疲れを感じていたが、年のせいか、もしくは十分に眠れていないためだと考えた。

 「私たちは二人ともそれを気にしないようにしていました。ひどくなることはなかったし、大抵彼は元気でしたから」と Paula さんは言う。

 しかし、2017年7月の 5km レースのとき、Goldsmith さんはひどい脱力に襲われ、途中で立ち止まりゴールラインまで歩かなければならなかった。動悸や吐き気はさらに頻回となっていた。

 Goldsmith さんが妹に電話をかけたところ、彼女は内分泌医を受診するよう勧めた。彼らの親戚の何人かに甲状腺疾患があったためだ;彼にもその可能性があった。

 9月に彼が受診した内分泌医が血液検査を行ったところ、軽度の甲状腺機能低下があることがわかった。その受診時に、Goldsmith さんは、あれ以来再発はなかったもののランニング時の症状と、朝方の頭痛のことをぽろりと話した。内分泌医は甲状腺治療薬を試してみたい気持ちがあると言い、3ヶ月後に再診するよう伝えた。

 その年の秋の終わりには、Goldsmith さんは完走が一層困難となっていた;頭痛はほぼ毎日みられるようになっていた。

 眼科医をしている友人は、診察室での血圧は正常であっても、彼に blood pressure spikes(血圧の急上昇)が起こっているのではないかと言った。それはうなずける話しだった:彼の両親はともに60歳代で軽度の高血圧症になっていたからである。

 この友人の勧めにより、Goldsmith さんは血圧測定用のカフを購入した。しかし、彼はすぐにその機器が正常に機能していないのではないかと疑った:時々、測定値がとんでもない数字になっていたからである。高すぎて、恐らく正確ではない可能性があると彼は考えた。あるときには204/118の数字が出たが、これは緊急治療を必要とする高血圧性クリーゼに合致する数値である。しかし普段は、測定値は正常で 125/85 前後だった。

 そこで Goldsmith さんは友人の血圧計を使ってみた;しかし同じことが起こった。

 かかりつけ医に電話するよう Paula さんは何度も進言したが、Goldsmith さんは一ヶ月様子をみた。数値が安定するかどうか見たかったのだと彼は言う。

 「私はプッシュしまくりましたが、そのすべてに彼は抵抗しました」と彼女は思い起こす。「彼はすべてを軽くみていました。それが彼のスタイルであり、“ Goldsmith が認めるところの特性”でした」

 12月、Goldsmith さんはついに妻の希望に応じて、かかりつけ内科医のパートナーの一人を受診した。診察室での彼の血圧値は 170/87 と懸念すべき数字だった。Goldsmith さんは、血圧を下げる薬を処方したその医師に、自分は転職し、多大なストレス下にあると説明した。Goldsmith さんは薬を忠実に内服したが、急激な血圧上昇は続いた。

 

Things fall apart 事態は総崩れに

 

 2018年1月、Goldsmith さんは Paula さんに付き添われて先の内分泌医を再診した。彼は血圧の急上昇と頭痛のことを話した。その専門医は Goldsmith さんのホルモン値を測定するために血液検査を行い、甲状腺機能低下症に対し低用量の薬を飲み始めるよう彼を説得した。

 彼らが診察室を出ようとしていたとき、その内分泌医によってオーダーされた検査を受けるため階下にある臨床検査室に立ち寄るよう Paula さんは促した。しかし Goldsmith さんは難色を示した:彼が針を嫌いだったこともある。また彼のかかりつけの内科医が血圧の薬の量を増やしたばかりだったし、その医師が、血液検査の前にその新しい処方が有効かどうかをみたいと言っていたことも一つの理由だった。

 しかし後に2つめの薬が追加されたこともあって、薬の増量により彼の具合はさらに悪化した。そして Goldsmith さんには新たな症状が出現した:大量の発汗である。

 血圧の綿密な記録をつけてみて彼はあるパターンに気付いた。目が覚めた直後、頭痛があるときには彼の血圧は通常とてつもなく高かった。しかし一時間後には血圧は正常に復した。その時点で彼は降圧薬を内服し、走りに行き、もう一度測定した。すると血圧は 83/48 と驚くほど低く、そんなときには大抵 Goldsmith さんは脱力感、疲労感を感じ、意識を失うのではないかと心配になった。しかし2、3時間で測定値は再び正常に戻っていた。

 医師らは彼に、降圧薬の適正な用量を調節することは困難であると話し、飲むタイミングを変えてみるよう勧めた。

 しかし 5月、事態は総崩れとなった。

 友人達と走っていたとき、1マイルにも達しないところで立ち止まった。そして嘔吐し、脱力が強く立っていられなくなり近くの芝地の上に倒れ込んだ。

 Paula さんは何分か遅れて到着した。そのときには彼はいくらか回復しているように見えた。

 彼女は恐ろしさと怒りを感じたのを覚えている。「『これは効いてないってことでしょ!心臓が障害されているのよ。血圧の専門医を見つけなくてはならないわ』と私は言いました」そう彼女は思い起こす。

 Goldsmith さんはインターネットを調べ、血圧の急上昇の原因について学べることを調べてみた。褐色細胞腫(pheochromocytoma、フェオクロモサイトーマ)と呼ばれる多くは良性の稀な副腎腫瘍が繰り返し出てきた。その症状は覚えのあるものだった:突然の高血圧、あるいは血圧の急上昇、大量の発汗、頻脈、脱力、そして頭痛だった。これらは、この腫瘍が、特に身体活動やストレスに反応して、アドレナリンを含むホルモンを制御されることなく放出してしまうことに起因する。副腎のホルモンは、心拍数、代謝、血圧、ホルモン反応など多くの機能の調節に関与している。

 Goldsmith さんはかかりつけの内科医に eメールを送り、医学用語で “pheo(フェオ)” と呼ばれるそんな腫瘍が自分にありうるかどうか尋ねた。

 その内科医はあり得ると答え、内分泌医に電話するよう彼に伝えた。

 一週間後、彼は、内分泌医の診察室を再受診した。彼が結局受けていなかった 6ヶ月前に彼女がオーダーした血液検査の一つが行われていればこの問題に答えることができていたはず、とその医師は彼に告げた。それはカテコールアミン(catecholamines)の血中濃度を測るものだった。これは両側の腎臓の上に対をなして存在する臓器である副腎から分泌されるホルモン群である。これらのホルモンの数値が上昇していることは内分泌腫瘍の存在を示唆する。

 Goldsmith さんの血中濃度は正常をはるかに上回っていることがわかった。

 その内分泌医が彼に腹部CTを行ったところ巨大な腫瘍が見つかった。およそエイコーン・スクワッシュ(どんぐりカボチャ)の大きさで、右の副腎を巻き込んでいた。おそらく pheo とみられた。その約10%は悪性である。

 この腫瘍は米国では年間100万人におよそ2人の割合で診断されるが、高血圧患者の0.2%を占め高血圧のまれな原因となっている。

 Pheo はしばしば原因不明に発生するが、少なくとも25%の症例では遺伝的要因が関与している。医師らはこの腫瘍を“時限爆弾”と考えている;これが脳卒中、腎不全、心筋梗塞、あるいは原因不明の突然死を引き起こす可能性があるためである。一般的に治療は、患側の副腎とともに腫瘍を摘出する手術が行われる。

 Goldsmith さんを診察した内分泌医はただちにワシントンの内分泌外科医 Erin Felger(エリン・フェルガー)氏に電話をかけた。

 

An anxious wait 気を揉んだ待機期間

 

 MedStar Washington Hospital Center(メッドスター・ワシントン・ホスピタル・センター)の一般外科の副プログラム・ディレクターを務める Felger 氏は2日後にこの夫婦と面談した。

 Goldsmith さんのゆっくりと増大する腫瘍のサイズは 10 センチほどで、腹腔鏡での摘出は二人の外科医を要する難易度の高い手術になると彼女は Goldsmith 夫妻に説明した。

 「彼が何年間もそれを持っていたことは明らかです」と Felger 氏は言う。

 手術の見通しと、このような腫瘍によってもたらされる突然死の危険に怖い思いをしたものの、Felger 氏の経験、率直な態度、そして、彼女もまた同じランナーだったという事実に安堵したと Goldsmith 氏は言う。

 この手術を250件以上行ってきた Felger 氏は起こりうる合併症を列挙した。それには術後の心臓障害や輸血を要するほどの失血などがあった。

 Goldstein さんにはまず、血圧を安定させる薬剤を投与する必要があった。術中に著しく血圧が急上昇する可能性があるからである。

 Paula さんにとって、術前の2週間は夫の突然死の不安でいっぱいとなり非常に長い時間となった。彼女によると、毎朝、彼がまだ生きているだろうかと思って目を覚ましたという。

 「私は彼のそばを離れたくありませんでした」と彼女は思い起こす。

 6月29日の手術は“完璧に行われた”と Felger 氏は言う。彼は2日間を集中治療室で過ごし全入院期間は5日間の予定だった。しかし Goldsmith さんの経過が良好だったため術翌日に退院することができた。

 6週間後、Goldsmith さんは Felger 氏の許可を得て、最初は、ゆっくりのペースで短い距離ではあったもののランニングを再開した。彼の血圧は若干高いままだったが、これは術後にはよく見られることである。まれに見られる腫瘍の再発がないことを確認するため、彼には生涯にわたる観察が必要となる。

 Goldsmith さんによると、診断される前の数ヶ月間、恐怖感が障壁になっていたという:医師らが発見するものに対する恐怖が増大していたのである。

 振り返ってみると、彼はもっと迅速に行動していれば良かったと思っている。「2~3年は節約できていたでしょう」と彼は言う。

 

 

褐色細胞腫の詳細については

今年、日本内分泌学会の監修により

『褐色細胞腫・パラガングリオーマ診療ガイドライン2018』が

本年刊行されている(診断と治療社刊、2,800円+税)。

お金に余裕のある方は購入いただきたい(いらねぇよ)。

お金も興味もないワタクシは読んでいないので、とりあえず、

ここでは MSDマニュアル をまとめてみた。

 

褐色細胞腫は腎臓の上にある副腎という小さな臓器の

髄質から発生する腫瘍である。

また褐色細胞腫と親戚のような腫瘍に

パラガングリオーマ(傍神経節腫)があり、

これは頸部・胸部・膀胱近傍などの傍神経節から発生する。

いずれもカテコールアミンを過剰に産生し高血圧ほか多様な

症状を呈する。

カテコールアミンとは、アドレナリン・ノルアドレナリン・

ドーパミンなどの神経伝達物質やホルモンとしてはたらく

化学物質で、本来、心臓の収縮力を増加させたり、

全身の血管を収縮させたりして重要な臓器への血流調節に

重要な役割を果たしている。

褐色細胞腫は男女差なく、両側性が10%、悪性は10%未満。

小児から高齢者まで発症するが、20歳代から40歳代に多い。

また褐色細胞腫は、遺伝子の変異が関連している例が

約10%に認められ、現在までに10種類以上の遺伝子の異常が

明らかにされている。

家族性に発症する

多発性内分泌腫瘍症(multiple endocrine neoplasma, MEN)の

一病変として褐色細胞腫が認められることもある。

 

症状としては、頭痛・動悸・発汗が古典的三徴とされているが

実際にこれらが揃う症例は少ない。

著明な高血圧をみるが、45%で発作性に上昇する。

その他の症状には、頻脈、発汗、起立性低血圧、頻呼吸、

冷たく湿った皮膚、頭痛、狭心症、動悸、悪心、嘔吐、

心窩部痛、視覚障害、呼吸困難、錯感覚、便秘、

死の切迫感などがある。

高齢患者では持続性高血圧を伴う顕著な体重減少によって

本疾患が示唆されることがある。

また血圧異常が長期化すると心不全、動脈硬化、心筋梗塞、

脳血管障害などの合併症を来たす。

 

診断は、突発性で説明不能な高血圧をみた場合に

本疾患を疑い、血漿遊離メタネフリンまたは

尿中メタネフリンの測定結果が陽性の場合、

CT または MRI 検査を行って腫瘍の存在を確認する。

アドレナリンやノルアドレナリンは間欠的に

分泌されるのに対して、血漿メタネフリンは持続的に

上昇しているため感度が高い。

尿中メタネフリン、ノルメタネフリン、

バニリルマンデル酸(VMA)、および

ホモバニリン酸(HVA)の増加も参考になる。

小さな副腎腫瘍ではカテーテルを挿入し、

副腎静脈内のカテコールアミン濃度の上昇を確認する。

放射線医薬品である123I-MIBGを静注し、

褐色細胞腫への取り込みを確認することもある。

褐色細胞腫の85%で取り込みがみられる。

 

治療はまずα遮断薬とβ遮断薬を用いて血圧を管理する。

腫瘍が確認されれば外科手術による切除が行われるが

術中の血圧変動は大きなリスクとなるため厳格な血圧管理が

必要である。

多くの場合は腹腔鏡下に摘出術が行われる。

転移性の悪性褐色細胞腫に対しては、化学療法が行われる。

 

突発的に異常高血圧を認める例では

常に本疾患の可能性を考えておく必要があるだろう。

コメント

2019年1月新ドラマ

2018-12-10 23:49:17 | テレビ番組

2018年もいよいよ終わろうとしている。

狂暴化した自然(地震・豪雨・猛暑・台風)の前に

私たちはなすすべもなかった一年だった。

そんなとき、私たちを元気づけてくれるのがドラマ…、

と言いたいところだが…結果は裏切られっぱなし。

2018年10月クールも感動を覚えたドラマは皆無だったが

とりあえずそれらを振り返ってみたい。

 

テレビ朝日『リーガルV~元弁護士・小鳥遊翔子~』より

 

 12月9日放送分までの

平均視聴率[関東地区・ビデオリサーチ社調べ]上位から

10月クールドラマについてコメントする

【( )内数字は平均視聴率】。

 

 

①テレ朝木9 『リーガルV~元弁護士・小鳥遊翔子~』(15.44%)

米倉涼子演じる弁護士資格を剥奪され大手弁護士事務所をクビになった訳あり元弁護士が、個人事務所を立ち上げ、ワケありの弁護士・パラリーガルたち弱小メンバーで法廷に挑むドラマ。米倉のイメチェンを図るべく今回は『ドクターX』を見送ったはずが、派手な衣装、高飛車な態度は大門未知子そのもの。意味不明に『現場百回』鎧塚平八と鉄道オタクが毎回申し訳程度に出てくるが大して面白くもなく…。『ドクターX』の視聴率には及ばず、今後を練り直す必要がありそうだ。

 

 

②テレ朝水9 『相棒(17)』(15.36%)

開始から18年となる長寿マンネリドラマ。とはいえ、誰もが“見やすい”ドラマであることは確か。昔の、『水戸黄門』『遠山の金さん』『銭形平次』などに代わる番組といえそう。今シリーズは、これまで仲間だった角田六郎課長と一時険悪な雰囲気になるなど意表を突く回もあるにはあったが、基本的には路線は安泰。杉下右京の半端ない“博識さ”には若干違和感を感じたが、水谷豊の年齢が遙かに“定年”を上回っていようとも、このドラマ、延々と続いていくに違いない。

 

 

③TBS 日9 『下町ロケット(2期)』(12.9%) 

2015年10月クールで放映された『下町ロケット』の3年ぶりとなる続編。今回はロケットエンジンから、トラクターのエンジン、トランスミッションへと目標変更し、大幅にスケールダウン。相変わらずお人好しの佃製作所社長・佃航平(阿部寛)が“人を信じては裏切られ”、の繰り返しで、視聴者も思わず『またかよ~』。最後は成功するとわかっていても、このワンパターンの繰り返しではさすがに疲れる。肝心の主要キャストも、常人に見えない歌舞伎役者、セリフ棒読みの歌手、堅苦しい顔芸の落語家、実況中継してるかのようなアナウンサー、笑えないお笑い芸人らが集結。さながら芸能界の学芸会のよう。もう少し真剣にドラマ作りに取り組んでもらうことはできないものだろうか?

 

 

④フジ月9 『SUITS/スーツ』(10.67%)

ハーバード卒の“敏腕ながら傲慢なエリート弁護士”と、驚異的記憶力を持ちながら“その日暮らしの天才フリーター青年”という凸凹な二人がタッグを組み、数々の困難な訴訟をあらゆる手段で解決していく物語。原作の米国ドラマは見ていないが、本ドラマを見て、オリジナルはこんなちっちゃいスケールではないに違いない。これをリメイク作品と言ってしまうと、さぞかし本家はお怒りなのでは?こんなドラマなら、盗作にならない程度に同じような設定にしてオリジナルと銘打った方がまだまし。“織田裕二&鈴木保奈美の再共演”だけではインパクトが弱いので、“アメリカヒットドラマのリメイク”という箔をつけたかったのだろうか。この内容では今後のシリーズ化はむずかしそう。

 

 

⑤TBS金10 『大恋愛~僕を忘れる君と』(9.67%) 

若年性アルツハイマーに侵されつつある女医と、売れない元小説家の男性との10年にわたる純愛ストーリー。徐々に記憶や人格が失われていく聡明で気の強い女性に振り回されながらも強い愛情で献身的に彼女を守っていこうとする無愛想だが純朴な男性の物語…、かと思いきや、コメディ、さらにサスペンスの要素が中途半端にはまり込み、結局何がいいたいのかわからないドラマとなった。うれしいときも、悲しいときも、辛いときも、怒ったときも、常に全く表情に変化がないムロツヨシは、NHK の『LIFE~人生に捧げるコント』のコントシーンとまるっきり一緒、残念!

 


⑥日テレ 日10:30 『今日から俺は!!』(9.57%)

 “ツッパリ”という言葉が全盛期の1980年代初頭、千葉を舞台に、不良高校である私立軟葉高校とその周辺地域を舞台に、三橋貴志(賀来賢人)と伊藤真司(伊藤健太郎)が様々な敵と戦ったり珍事に巻き込まれたりするバトル&ギャグコメディ。一言でいうなら、“ナンセンス&喧嘩”オンパレードなドラマ。全くナンセンスなギャグの繰り返しと、血なまぐさい暴力シーンの連続。よくもまあこの内容で BPO からクレームがつかないものである。10:30ドラマなので許される?若い人たちには逆に新鮮に映ったかもしれない。

 

 

⑦日テレ水10 『獣になれない私たち』(8.74%)

仕事も恋も世渡り上手を演じ続けてきた男女2人が本音でぶつかり合い、傷つきながらも自分らしく踏み出そうとするラブコメディ。恋に仕事にいっぱいいっぱいという新垣結衣演じる主人公・深海晶だが、ドラマではほぼ毎晩クラフトビールバーに通い、悩んでる風も追い詰められた感じも全く見られず余裕綽々。仕事を押しつけられパワハラを受けるも悲壮感ゼロでリアリティもゼロ。毎回毎回どうでもいいエピソードを盛り込んで展開も超スロー。さすがにこの展開では視聴率も落ちる。この男女、はなから本能のまま“野獣”のように生きているように見えてしまうのだが、ドラマのコンセプトを理解できないまま終わってしまいそうである。

 

 

⑧日テレ土10 『ドロ刑~警視庁捜査三課~』(8.72%)

新米刑事が熟年大泥棒とバディを組み、大泥棒ならではの知識を活用して難事件を解決していくドラマ。中島健人演じる主人公の新米刑事・斑目勉が、その性格の悪さで遠藤憲一演じる煙鴉をひっかき回すという設定かもしれないが、主人公の態度が悪すぎるため感情移入できないのは辛い。もう少し性格の良いキャラクターにしても良かったのでは?遠憲も遠憲らしさが発揮されず不完全燃焼。捜査対象が窃盗事件のみというのも興味がそそられず、終盤は飽きがきた。

 

 

⑨フジ木10 『黄昏流星群~人生折り返し、恋をした~』(6.71%)

人生の黄昏期にさしかかったアラフィフ男女が織りなすヒューマン・ラブストーリー。人間ドラマとはいいながらそこに不倫が絡むと拒絶反応が避けられないのでは?さらに、女性陣が中山美穂、黒木瞳では、そこに生活臭が全く感じられない。エリート銀行員夫人とはあんなもの?食堂のパートのおばちゃんってあんな感じ?リアリティもなく、共感も湧かないドラマの視聴を継続するには相当なエネルギーが要りそうだ。

 

 

⑩フジ(関西テレビ)火9 『僕らは奇跡でできている』(6.64%)

髙橋一生演じる変人大学講師・相河一輝が世の常識、価値観に疑問を投げかけていくヒューマンドラマ。物語がのんびりと展開するため人によっては退屈に感じるかも。偏見や先入観、固定観念にとらわれない純粋な人物といっても、時間やルールを守ることができないただの自分勝手な男にも見える。そんな人物が普通に生きていくことのできる環境があるのが奇跡?前クールの『グッドドクター』にある意味通じるところがある。

 

 

⑪TBS 火10 『中学聖日記』(6.58%)

有村架純演じる新米女性教師・末永聖が、婚約者がいる身でありながら年下の教え子である10歳年下の男子中学生に心奪われるという禁断の恋ドラマ。しかし、相手の黒岩晶(岡田健史)の中学生時代が中学生にはほど遠く(完全な大人)、一方の聖も教師らしさが全く感じられないため、中学教師と中学生というイメージが最初から構築できなかった。本来なら視聴者は、周囲の猛反対や白い目にさらされるドラマの主人公らを応援したくなるものだが、この二人に対しては、うまくいかないでほしいという気持ちしか湧かない(これって嫉妬?)。この点において、もはやこのドラマは終わっている。

 

 

⑫テレ朝金 11:15(金曜ナイトドラマ) 『僕とシッポと神楽坂』(5.25%)

動物病院を舞台に若き獣医師のもとに集う動物と人とが織りなす物語。相葉雅紀演じる主人公・高円寺達也が動物好きには見えるものの、腕の立つ獣医師に全く見えない点が残念。広末涼子演じる動物看護師ももう少し若い女性にできなかったものか。動物が出てくるドラマはどうしても、人間側の作為を感じてしまうので苦手。残念ながら最後まで見届けることはできなかった。

 

 

 

プライムタイムではさすがのテレ朝がワン・ツー・フィニッシュ。

そして、再びフジが低迷。

全体を通して、物足りないドラマばかりだった。

 

それでは気を取り直して

新年、2019年1月からの新ドラマをチェックしてみたい。

 

 

 

フジ月9 1/7 ~ 『トレース~科捜研の男~』 錦戸亮(関ジャニ∞)、新木優子、船越英一郎、小雪、矢本悠馬、山崎樹範、山谷花純、加藤虎ノ介、遠山俊也、篠井英介、他

原作は元科捜研研究員・古賀慶の漫画『トレース~科捜研法医研究員の追想』、科捜研を舞台にした科学サスペンス。原作通りのタイトルにすればいいものを、ドラマのサブタイトルは“科捜研の男”。なお、“トレース”とは現場に残された痕跡のこと。主人公の真野礼二(錦戸亮)は幼いころに陰惨な事件に遭遇した過去を持つ科捜研法医研究員。常に冷静沈着だが、協調性に欠ける。主観や憶測に捕らわれず鑑定結果から得られる客観的な真実のみを信じて、被害者の思いや無念を明らかにしていく。膨大な知識と高い鑑定技術を備え、人とは違う独自の着眼点を有している。一方、科捜研の新人法医研究員・沢口ノンナを新木優子が演じる。大学院での遺伝子の研究に行き詰まりを感じ、何の目的もなく科捜研の世界へと足を踏み入れた。当初は殺人事件に関わることに戸惑いを感じていたが、被害者や残された遺族に感情移入するようになる。最初は真野の言動に巻き込まれ振り回されるが、事件の真相を見つけ出したいという気持ちが芽生え法医研究員として成長していく。さらにベテラン刑事・虎丸亮平を船越英一郎が演じる。長年の刑事の勘を頼りに事件を捜査し犯人逮捕に情熱を注ぐ。所轄から警視庁捜査一課へ異動した叩き上げの刑事で、上司や周りの意見を聞き入れず、自分の考えに従って捜査を行う。仕事に没頭するあまり妻と息子に逃げられ、現在は独り身。当初は自身が培ってきた“勘”にこだわり、客観的事実と証拠を重視する真野と対立するが、真野の強い信念と確かな腕を目の当たりにし次第に信頼を寄せるようになっていく。事件現場の小さな欠片から3人が協力しあって事件を解決する姿と、真野自らの過去の真相解明が並行して描かれる。新人法医研究員の役名“沢口”が気になるところだが原作でも同名なので、これについては『事件だわっ!』を意識したものではないようである。

 

 

フジ(関西テレビ)火9 1/22 ~ 『後妻業』 木村佳乃、高橋克典、木村多江、伊原剛志、他

原作は黒川博行の小説『後妻業』。女結婚詐欺師が資産家の老人男性を狙うラブ・サスペンス。大阪を舞台に、後妻として遺産相続を狙う詐欺師と、その相手家族との間で愛憎が交錯するドロドロ劇。本原作は、2016年に映画化され、大竹しのぶ主演、『後妻業の女』のタイトルで公開されている。後妻業とは、資産家の老人を狙って遺産相続目当ての結婚詐欺を行うこと。男をたぶらかすのが天才的な“後妻業”のエース・武内小夜子を木村佳乃が演じる。一方、高橋克典が演じる柏木亨は、表の顔は結婚相談所『微祥』の経営者だが、実は小夜子たちが行う“後妻業”の黒幕。金と女が好きで、後妻業をなりわいとする女を何人か抱えている。また小夜子のターゲットとなった男の娘・中瀬朋美を木村多江が演じる。小夜子に父親の遺産を奪われるのを阻止するため、小夜子とは壮絶な舌戦やビンタ合戦を繰り広げる。伊原剛志演じる本多芳則は元大阪府警のマル暴刑事。警察の情報をヤクザに流したことがばれて退職、私立探偵をしている。朋美が大学のゼミの後輩であった関係から、“後妻業”の調査依頼を受け、小夜子と柏木の秘密に迫り、2人を追い詰めていく。ひとクセもふたクセもある登場人物たちの欲や思惑がうごめくサスペンスであるとともに、4人の大人の男女の恋模様が複雑に絡み合う大人のラブストーリーも展開される…とのことだが、オバサン、オジサンたちのドタバタ劇に終わらないことを祈るばかりである。東京出身の木村佳乃の関西弁が心配の種。

 

 

TBS 火10 1/15 ~ 『初めて恋をした日に読む話』 深田恭子、横浜流星、永山絢斗、中村倫也、若林拓也、堀家一希、櫻井圭佑、永田崇人、高橋洋、石丸謙二郎、鶴見辰吾、安達祐実、皆川猿時、生瀬勝久、壇ふみ、他

原作は持田あきの漫画『初めて恋をした日に読む話』(集英社『クッキー』連載)。アラサー塾講師が主人公のラブコメディ。塾の教え子の東大受験を通じて4人の男女が交錯する。深田恭子が演じる主人公・春見順子は人生何もかもがうまくいっていない、しくじり鈍感アラサー女子。優等生として成長したが、東大受験も就職試験も失敗、さらに婚活サイトに登録するもさらに失敗。で、今は三流予備校の講師として働いている。そんな順子の前に、タイプの違う3人の男性が現れることから、人生のリベンジともいえる闘いが始まる。その3人とは、まず、クールなルックスとエリートで『できる男』の品格がある順子の従兄弟・八雲雅志(永山絢斗)、続いて、髪をピンクに染め超おバカな高校に通うイケメン不良高校生・由利匡平(横浜流星)、そして、順子・雅志と同級生で、匡平の担任をしている高校教師・山下一真(中村倫也)である。教え子となる匡平が東大合格を目指すことになり、順子も一緒に東大合格を目指すことになるのだが、そんな順子をめぐって、3人の男たちが恋のバトルを繰り広げる。匡平の友人役に、永田崇人、堀家一希、櫻井圭佑、若林拓也らが出演するほか、順子の親友でキャバクラのオーナー・松岡美和役に安達祐実、順子の父・春見正役に石丸謙二郎、匡平の父・由利菖次郎役に鶴見辰吾、順子が働く塾『山王ゼミナール』の塾長・梅岡道真役に生瀬勝久、順子が東大受験に失敗してから険悪な仲となっている母親・春見しのぶ役に檀ふみ、など豪華なキャスティング。いまだにこんなドラマで主役に使われるとは、さすがは深キョンである。

 

 

テレ朝水9 継続 『相棒(17)』 水谷豊、反町隆史、浅利陽介、鈴木杏樹、川原和久、山中崇史、杉本哲太、石坂浩二、他

コメントは前述。3月まで続く見込み。

 

 

日テレ水10 1/9 ~ 『家売るオンナの逆襲』 北川景子、松田翔太、仲村トオル、工藤阿須加、千葉雄大、イモトアヤコ、鈴木裕樹、本多力、臼田あさ美、梶原善、草川拓弥、長井短、他

2016年7月クールドラマ、2017年のSPドラマの続編。不動産営業マン・三軒家万智があらゆる手段で家を売りまくる不動産コメディ。大石静のオリジナル脚本ドラマ。家を売って売って売りまくる伝説の不動産屋・三軒家万智(北川景子)はテーコー不動産本社が密かに進めていた再開発計画に反対する行動をとったために会社を首になった。そして新宿営業所時代の課長だった屋代大(仲村トオル)と結婚し二人でサンチー不動産という会社を立ち上げた。新会社では万智が社長を務めているため、かつての上司だった屋代は万智の部下となっていた。そんな万智が姿を消して2年、ついに逆襲が始まる。今回は新たな登場人物として松田翔太演じるフリーランスの“家売るオトコ”留守堂謙治が登場。万智の最大のライバルとなる。留守堂は人間味あふれる方法で仕事を完璧にこなすがドジな一面もある。そのほか、テイコ―不動産新宿営業所所長・布施誠役の梶原善、同営業マン・庭野聖司役の工藤阿須加、同営業マン・足立聡役の千葉雄大、同営業マン・宅間剛太役の本多力、宅間と結婚した旧姓・白洲美加役のイモトアヤコ、バー『ちちんぷいぷい』のママ・珠城ココロ役の臼田あさ美らは前作から引き続き登場する。さほど面白いドラマとは思えなかったのだが、日テレもネタ切れか。

 

 

テレ朝木9 1/17 ~ 『ハケン占い師アタル』 杉咲花、及川光博、志尊淳、志田未来、間宮祥太朗、板谷由夏、若村麻由美、他

遊川和彦によるオリジナル脚本ドラマ。派遣社員・的場中(まとばあたる)が特殊能力を駆使して職場の問題を解決していくお仕事コメディ。平成最後の新“働き方改革”をニュータイプの救世主が遂行する。派遣社員の的場中(杉咲花)はいつもニコニコしながら楽しそうに働く派遣社員。通勤時はいつもニット帽にサングラス・コートを着用する怪しい女子。しかし彼女には特殊能力があった。それは、目を合わせた相手の悩みや内面、原風景など、他人のあらゆることが見えてしまうのだった。そんな一種の占い能力を駆使して、周りの正社員たちが抱える悩みを根本から解決していき、彼らを救っていく。しかし自分の過去については決して語らずベールに包まれている。中を取り巻く人物には、まず、中が派遣された『シンシアイベンツ』の制作Dチームの正社員で、かつては将来を有望視されたエリートだったが結果が出せずに主査に降格となった上野誠治役に小澤征悦、中の教育係となるが自分の選択に自信がなく決断力に欠ける同チーム正社員・神田和実役に志田未来、父親のコネで入社、仕事ができないくせに上から目線の同チーム正社員・目黒円役に間宮祥太朗、入社1年目で上野からパワハラまがいの扱いを受け転職を望んでいる同チーム正社員・品川一真役に志尊淳、職場でも家庭でもストレスを抱え頭を悩ませている同チーム正社員で課長の大崎結役に板谷由夏、同チームの部長で親会社からの出向のため早く本体に戻りたいと考えている出世欲の強い代々木匠役に及川光博、さらに毎回様々な相談者と面会し問題解決に導いているようだがその素性が謎に包まれた占い師・キズナ役に若村麻由美がキャスティングされている。『家政婦のミタ』同様、秘密めいた展開が軸になると予測されるが、遊川ドラマがテレ朝でも再び大ヒットするかは疑問。

 

 

フジ木10 1/10 ~ 『スキャンダル専門弁護士 QUEEN』 竹内結子、水川あさみ、中川大志、バカリズム、他

倉光泰子によるオリジナル脚本ドラマ。スキャンダル対応を専門とする女性弁護士の奮闘劇。情報操作術を駆使して世論のパッシングを受ける女性を救い出す。主演の竹内結子が、情報を操作し裏で社会を動かす“スピン・ドクター”を演じる。スピン・ドクターとは、情報を自分の有利な方向へ仕向ける特別な技術を持ち、その技術を駆使して綿密な戦略のもと、印象を変え正当化し人々の心を動かす、いわば世論の誘導者。弁護士で危機管理の専門家である氷見江(竹内結子)の主戦場は法廷ではなくスキャンダルの裏側。これまで社会的窮地に陥ったクライアントを 99.9%の確率で救ってきた。必要とあらば嘘であっても正義に変えてしまう凄腕のスピン・ドクター。その信念は『危機にある女性の最後の砦』となることであり、女性を救うためなら手段を選ばず、どれほどの逆境であろうと覆すことを絶対に諦めることはない。本ドラマでは、そんな氷見が様々なスキャンダルと対峙し、崖っぷちに立たされている女性の心に寄り添い、危機から救うべく奔走する姿が描かれる。日々話題となっている多くのスキャンダルへの対応の実際の裏側を垣間見ることができる?

 

 

TBS金10 1/11 ~ 『メゾン・ド・ポリス』 高畑充希、西島秀俊、小日向文世、野口五郎、近藤正臣、西田尚美、竜星涼、木村了、戸田昌宏、他

新米女性刑事が、シェアハウスで暮らす退職刑事でワケありな“おじさま”たちに振り回されながらも、彼らの力を借りて事件を解決していく一話完結の刑事ドラマ。原作は加藤実秋の小説『メゾン・ド・ポリス』シリーズ(角川文庫刊)。新人警察官の牧野ひより(高畑充希)は念願かなって柳町北署の刑事課に配属される。そんなある日、所轄内で人が焼かれる動画が投稿サイトにアップされるという事件が発生。捜査本部は5年前に起きた焼殺事件の模倣犯と見て捜査を開始。ひよりは事件の手がかりを探るべく、『デスダンス事件』と呼ばれたその5年前の事件を担当していた元警視庁捜査一課の敏腕刑事・夏目惣一郎(西島秀俊)から話を聞くため、高級住宅街にある古びた洋館を訪れる。この洋館には、館のオーナーであり元警察庁のキャリア・伊達有嗣(近藤正臣)、ジャージ姿で新聞を読んでいる現場主義の元所轄の熱血刑事・迫田保(角野卓造)、キザな口調でひよりに近寄ってくる元科学捜査のプロ・藤堂雅人(野口五郎)、管理人として家事全般を担当する元警務課勤務・高平厚彦(小日向文世)らが住んでいた。夏目はその洋館で雑用係をしていたのである。つまりそこは元警察官のおじさんばかりが共同生活を送るシェアハウスだった。ひよりは夏目から話を聞き出そうとするが、当の夏目は口を割ろうとはしない。逆に藤堂や迫田のペースにひよりは乗せられていく。警察を退職し今や一般人となっているおじさんたちが捜査に介入してくるため、ひよりは慌てるが、「上には私が一声かけておきましょう」という伊達の一言で話は進んでいく。それぞれ持病を抱えたクセの強い“おじさま”たちに振り回されながらも、何としても事件を解決したいという強い信念を持って事件解決に走り回るひよりを中心にドラマが展開される。その他の登場人物としては、柳町北署の鑑識係でひよりのよき相談相手である杉岡沙耶役に西田直美、買物コーディネータとしてメゾンに御用聞きとして出入りする瀬川草介役に竜星涼らがキャスティングされている。基本路線はひよりと夏目がバディとなって捜査に当たることになりそうである。

 

 

テレ朝金 11:15(金曜ナイトドラマ) 1/11 ~ 『私のおじさん~WATAOJI~』 岡田結実、遠藤憲一、城田優、田辺誠一、青木さやか、小手伸也、他

新人女性ADとおっさん妖精が織りなす異色のSF社会派コメディ。世のモヤモヤをおっさん妖精がぶった切るという岸本鮎佳によるオリジナル脚本ドラマ。恋に破れ、働き口もなくした一ノ瀬ひかり(岡田結実)だったが、ようやく超過酷なロケで有名なバラエティ番組『限界MAX★あなたも私もヤッテミー!!』のADとして採用される。過酷な業務を押し付けられ、言いたいことも言えない新人ADのひかりの前に、ある日突然、等身大の妖精のおじさん(遠藤憲一)が現れる。陽気だが、毒舌で性格の悪いおじさんは、その日から四六時中ひかりに付きまとうが、その姿はひかり以外の人間には見えていないようだった。ひかりに励ましの言葉をかけるどころかディスりまくりで、ひかりが人と話しているときでも横から何かと口を出してきて、相手のことまで文句を言い始める。最初はうっとうしく思っていたひかりだったが、自分が口に出せない本音や愚痴をズバズバ言ってくれるおじさんの存在に、徐々に爽快感を覚えるようになるのだった。これまた遠憲ファン向けドラマ?私オジ=WATAOJIねぇ。ふーんてな感じ。

 

 

日テレ土10 1/19 ~ 『イノセンス~冤罪弁護士』 坂口健太郎、川口春奈、藤木直人、他

古家和尚によるオリジナル脚本。えん罪事件を科学の力で解決していく裁判・科学ドラマ。一人の若き弁護士がジャーナリストや科学者の協力を得て、意外な実証実験を行って科学的に冤罪事件を解き明かす。『ガリレオ』の弁護士板のようなドラマ。坂口健太郎演じる主人公の黒川拓は保駿堂法律事務所に所属する弁護士。不可能に近いとされる『冤罪弁護』に積極的に立ち向かい何度か勝利した実績を持つ。現場で起きた事象を実験で再現し事件の解明に挑む。先入観や思い込みに基づいた捜査の矛盾点を突いていく。黒川は普段は動きやすい服装で、第三者との円滑なコミュニケーションのために様々なものが詰め込まれた布袋を背負っている。基本的にいつも金欠。この黒川が所属する法律事務所に入ってきた新人弁護士・和倉楓役に川口春奈。手伝いとして拓と共に弁護活動にあたることになり黒川に振り回されるが、黒川が行う実証が『損得抜きの真実を求めるためのもの』と知ってからは次第に黒川を見る目が変化していく。また黒川が実証実験を依頼するのが、学生時代の先輩で東央大学理工学部物理学科准教授の秋保恭一郎(藤木直人)。秋保は他人には興味はないものの、犯罪に関わる実証実験であれば引き受ける。警察の捜査がいまだに科学的実証を軽視している現状に強い危機感を抱いており、それが黒川に協力する動機となっていた。実は秋保には肉親にまつわる悲しい過去があった。土曜10時枠としてはめずらしくジャニーズ色のないまじめなドラマで新鮮味はありそう。

 

 

NHK日8 1/6 ~ 大河ドラマ 『いだてん~東京オリムピック噺~』 中村勘九郎、阿部サダヲ、ビートたけし、森山未來、神木隆之介、星野源、小泉今日子、松坂桃李、松重豊、他

宮藤官九郎のオリジナル脚本によるオリンピック大河ドラマ。舞台は20世紀、ドラマでは日本と五輪の関係を通じて近代日本の変遷が描かれる。主人公は2人。一人は中村勘九郎演じる“オリンピックに初参加した男”金栗四三、もう一人は阿部サダヲ演じる“オリンピックを呼んだ男”田畑政治。2人の主役をリレーしながら、“知られざるオリンピックの歴史”が明らかにされる。日本のオリンピックは、マラソンの金栗四三と陸上短距離の三島弥彦の2人の選手から始まった。ところが 1912年に初参加した『ストックホルム大会』で、金栗は日射病で失神、三島も大惨敗してしまう。しかし持ち前の根性で猛勉強、その後日本はスポーツ大国へと成長する。1936年の『ベルリン大会』では、水泳の前畑秀子をはじめ金メダルを量産。念願の『東京オリンピック』招致を勝ち取る。だが、時代は戦争へと突入、夢は幻と消えてしまう。 そして敗戦。田畑は蛙と芋で飢えをしのぎ、執念で競技を再開。ついには、1964年の『東京オリンピック』を実現する。ドラマでは、1912年『ストックホルム』から、1936年『ベルリン』、1964年『東京』までの3大会を中心に、日本人の“泣き笑い”の歴史、激動の52年間を3篇の構成で描いていく。1909年からの“スポーツ維新”『ストックホルム大会』篇は、東京高等師範学校校長・嘉納治五郎のもとにオリンピックの招待状が届いたところから始まる。初の予選会が開催され、短距離走では三島弥彦が、マラソンでは金栗四三が優勝し世界に挑む。金栗は熊本の田舎っ子で高等師範の学生、一方の三島は子爵家の超エリートと好対照の二人だった。いよいよ『ストックホルム大会』、三島は外国人選手の体格に度肝を抜かれ予選敗退、一方の金栗は26キロ地点で日射病で倒れ惨敗。三島は競技を諦め銀行マンとして金融界で出世するが、一方の金栗は帰国後、春野スヤと結婚、再び壮絶な練習に挑む。しかし第1次世界大戦が勃発し『ベルリン大会』は中止。絶頂期で夢を奪われた金栗を、嘉納が救う。「夢は後進に託せばいい」。金栗は学校の先生になり、箱根駅伝を創設。多くの弟子を育て“スポーツ”は日本全国へと広がっていく。続いて 1930年からの“オリンピックの光と影”『ベルリン大会』篇、スポーツ大国へと成長した日本は、嘉納を中心に“東京オリンピック” 招致運動を始める。田畑政治は嘉納と行動を共にする。だが、ローマと競合、イタリア首相・ムッソリーニに直談判するも状況は厳しい。さらにIOC会長を日本へ招待するが、奇しくも 2・26 事件が発生。東京には戒厳令がしかれ、招致は最大の危機を迎える。しかし 1936年『ベルリン大会』開会式前日のIOC 総会で、東京は辛くも勝利。選手団長の田畑は感動に涙した。ヒトラーによる壮大な大会が幕を開け、「前畑頑張れ!」の実況に日本中が熱狂した。ところがその翌年、日中戦争が勃発。軍国化する日本に対し、各国からボイコット運動が起こる。嘉納はカイロ総会で「アジアの平和の実現は、日本の最高の決意である」と力説。執念のスピーチに東京開催が再度承認されるも帰路についた嘉納は船中で病死。程なく『東京オリンピック』返上が発表されてしまう。そして 1964年からの“復興、平和への願い”『東京大会』篇。1959年、田畑らの尽力により、ついに『東京オリンピック』の開催が決定する。だが、それは国を挙げての狂想曲の始まりであった。東龍太郎都知事の号令で“東京大改造”が始まる。慢性化する渋滞。進まない住居立ち退き。東京砂漠と言われた水不足。選手村の場所すら決まらない。相次ぐ危機が、組織委員会事務総長の田畑を襲う。委員会が置かれた“赤坂離宮”ではドタバタ劇が繰り広げられる。果たして、ドラマの行方は…。稀代の落語家・古今亭志ん生の目線から明治から昭和にかけての庶民の暮らしの移ろいが語られ、“東京の変遷”が4Kの美しい画像で映像化される。2020年の東京オリンピックを翌年に控え、これまでの大河ドラマのイメージと大きく異なる作品となりそうだ。ただし面白いかどうかは別。

 

 

TBS 日9 1/13 ~ 『グッド・ワイフ』 常盤貴子、唐沢寿明、小泉孝太郎、水原希子、北村匠海、滝藤賢一、吉田鋼太郎、賀来千香子、他

これまたリーガルドラマ。2009年から7年間米国で放映された人気ドラマ『The Good Wife』の日本版リメイク。弁護士に復職した主婦の活躍を描く法廷ヒューマンドラマ。夫がスキャンダルで逮捕され、16年ぶりに弁護士に復帰する妻を常盤貴子が演じる。主人公の蓮見杏子は出産を機に弁護士の仕事を辞め専業主婦としてエリート検事である夫・壮一郎(唐沢寿明)を支え、子供を育て、家庭を守ってきた。ところがある日、東京地検特捜部長を務める壮一郎が汚職の容疑で逮捕され、さらに女性スキャンダルまで持ち上がる。真相が明らかにならない中、子供たちを守るため杏子は復職を決意し、司法修習生時代の同期・多田征大(小泉孝太郎)が共同経営する神山多田法律事務所に仮採用され16年ぶりに弁護士として復帰する。しかしスキャンダルの渦中の妻として世間からは好奇の目にさらされ、さらに弁護士としての16年のブランクは大きく悪戦苦闘する。それでも杏子は強い信念を持ち、自分をあきらめず、自身の弱みも逆手にとって強く生き抜き、弁護士として、人として成長していく。検察内部で出世のために壮一郎を尋問し汚職事件を暴き、代わって東京地検特捜部長の席に座った脇坂博道を吉田鋼太郎が演じる。脇坂は壮一郎に立ちはだかる最大の敵となる。また壮一郎の部下だった特捜部員・佐々木達也役に滝藤賢一、法律事務所のパラリーガル・円香みちる役に水原希子、新人弁護士・朝飛光太郎役に北村匠海、多田と共同代表を務める神山佳恵役に賀来千香子らがキャスティングされている。夫の裏切りと逮捕という最悪な出来事で人生が一変してしまった杏子が、弁護士という仕事を通して自らの困難に果敢に立ち向かっていく姿と、神山多田法律事務所の面々が、表現の自由、過重労働、集団訴訟など、『いつ、誰が巻き込まれてもおかしくない』様々な案件に取り組んでいく活躍が描かれる。

 

 

日テレ 日10:30 1/6 ~ 『3年A組 今から皆さんは、人質です』 菅田将暉、永野芽郁、片寄涼太(GENERATIONS from EXILE TRIBE)、川栄李奈、上白石萌歌、萩原利久、秋田汐梨、佐久本宝、若林薫、富田望生、鈴木仁、古川毅、望月歩、新條由芽、箭内夢菜、今田美桜、堀田真由、他

脚本家・武藤将吾による学園ミステリー。生徒29名を人質に取り、立てこもりを開始した高校美術教師の真実を追う。卒業まで残り10日、生徒たちの高校生活は平穏に幕を閉じるはずだった。だが、菅田将暉演じる3年A組の担任教師・柊一颯(ひいらぎいぶき)はその日、担任生徒29人を集めて、突然こう告げた。「今から皆さんは…僕の人質です」鳴り響く爆発音。騒然とする生徒たち。 この瞬間から教師と29人の人質生徒による『最後の授業』が始まる。 それは数ヶ月前に自ら命を落とした『ある一人の生徒の死の真相』に関連するものだった。遺書もなく、何かを告げることもなく、突然この世を去ったかつての学園のスター生徒。 29人の生徒は1人の教師に人質に取られ、心に蓋をして目を背けていたその『真実』と向き合うことになる。 なぜ、生徒は突然命を落としてしまったのか。 なぜ、教師は『人質』というセンセーショナルな方法で最後の授業を行おうとしたのか。事件の真相、そして謎が明らかになるまでの10日間が描かれる。本心を隠し、常に空気を読んで行動する学級委員・茅野さくら役に永野芽郁、成績優秀・頭脳明晰なクール男子・逢沢博己役に萩原利久がキャスティングされているほか、生徒役に、秋田汐梨、佐久本宝、若林薫、片寄涼太、富田望生、鈴木仁、川栄李奈、古川毅、上白石萌歌、望月歩、新條由芽、箭内夢菜、今田美桜、堀田真由ら、若手人気俳優が多く出演。異色なミステリードラマである。

 

 

 

 

最近、はやりとなっているリーガル・ドラマが3編。

前クールにも2編あり、さすがに新鮮味が薄れてきた。

2019年スタートの各ドラマ、予告サイトを覗いても

食指を動かされるような作品はほとんどない。

このまま平成は終わってしまうのか…。

寂しい限りである。

コメント

繰り返す鼻出血はなぜ?

2018-11-29 22:25:57 | 健康・病気

11月のメディカル・ミステリーです。

 

11月17日付 Washington Post 電子版

 

It was just a nosebleed caused by bone-dry air — or was it?

それは単なる乾燥した空気による鼻出血――果たしてそうなのか?


Zina Martinez(ジナ・マルチネス)さんと彼女の子供たちは鼻出血を起点に深刻な病気に苦しんだ。その病気の解明は家族にとって人生を変えるほどの意味があった。

 

By Sandra G. Boodman,

 問題の鼻出血が始まったのは 2番目の子供を妊娠し7ヶ月を迎えていた Zina Martinez(ジナ・マルチネス)さんがラスベガスの自宅のリビングルームに座ってアイスクリームを食べていた夜のことだった。

 22歳の Martinez さんは鼻出血には慣れていた。彼女が10歳のときからほぼ毎日起こっていたので、厄介な問題ではあったが、医師からはその都度、恐らく乾燥した空気が原因であるから大したことではないとして片づけられていた。

 しかし今回は違っていた。

 通常は滴る程度に過ぎない出血を止めようと Martinez さんが鼻をつまんで閉じたところ、血液が彼女の口からあふれ出したのである。夫が彼女を近くの緊急室に連れて行くと、そこの医師は鼻の中の静脈を焼灼し、それによって出血は止まった。

 彼女が原因不明の凝固異常に対して毎日アスピリンを内服していたことを知った耳鼻咽喉科医は内服を止めるよう彼女に言った:アスピリンは出血を引き起こす可能性があるからである。しかし、それまで何年も Martinez さんが受診してきた他の医師同様、彼もそれ以上の精査をしなかった。

 そして、鼻出血を実際に引き起こしていた原因を Martinez さんが知ることになったのはそれから6年が経過してからだった。その結果は、彼女の家族にとって人生を変えるほどの意味があり、その時までに3人の幼い子供たちもそれに巻き込まれる事態となっていた。

 「私には5歳のときから徴候や症状がありました」現在36歳になる Martinez さんは言う。「でも、実際に原因を調べられたことはありませんでした」

 

History of nosebleeds 鼻出血の病歴

 

 Martinez さんは、5歳の時、時々てんかん発作を起こしていたが、医師らは根本的原因を発見できなかった。有効な抗てんかん薬を2年間続けたあと、医師はその薬は必要ないと判断した。

 それから 3年後、鼻出血が始まった。Martinez さんによると、彼女の母親は小児科医から、乾燥した砂漠の空気と、彼女が鼻をつついている可能性とが合わさったことが原因として最も疑わしいと告げられたという。

 2003年、Martinez さんが20歳の時、息子の Daunte(ダンテ)くんを出産した。5週早産だったが、それ以外は健康だった。2番目の息子 Antonio(アントニオ)くんは2006年に生まれた。このとき彼女は鼻出血に加えて子癇前症を発症した。子癇前症は、妊娠によって引き起こされ、もし治療されなければ致死的となりうる高血圧である。しかし Antonio くんは健康に生まれた。3年後、彼女は再び、娘の Elliyana Meade(エリヤナ・ミード)ちゃんの妊娠中に子癇前症を発症した。この赤ちゃんは緊急帝王切開で生まれ、未熟児だったため新生児集中治療室で2週間近くを過ごすこととなった。

 2011年5月、Martinez さんが Elliyana ちゃんと自宅にいたとき、Daunte くんの小学校の看護師から緊急の電話を受けた。直ちに息子を迎えに来る必要があると Martinez さんは告げられた。7歳になる息子が激しい頭痛を訴え、その後嘔吐し始めたというのである。その看護師は、彼が運動場で転倒し、その際に頭部を打撲したかもしれないと考えた。

 Martinez さんは学校に駆けつけ、そこから病院に急行した。CT検査で脳振盪よりはるかに悪い状況が明らかになった。Daunte くんは動静脈奇形(arteriovenous malformation, AVM)と呼ばれる脳の血管の異常な塊が原因となって大きな脳出血を起こしていたのである。肺など他の身体部位にも発生しうるAVMは通常、生下時には既に存在しており、破裂しなければ全く症状を引き起こさないこともしばしばある。

 もし脳AVMが破裂すれば、脳卒中を起こし昏睡や死をもたらしうる。激しい頭痛がしばしば最初の兆候となる。Martinezさんによると、Daunteくんの生存する確率は五分五分だと言われたという。彼は数日間、医療的に人工的昏睡状態に置かれ、その後塞栓術を受けた。その手技は鼠径部の動脈から脳にカテーテルを通し、AVMに流れ込む血液の供給を遮断する目的で接着剤やその他の物質を詰めるものである。

 Daunteくんは病院に8日間入院したが、幸い脳の損傷はなかった。Martinez さんによると、彼の出血の重症度を考えるとこの状況はほとんど奇跡的なことだったと医師らが考えていたという。

 Martinez さんは、同じことが他の子供たちに起こることを心配して、繰り返し医師に質問を浴びせたという。彼らも検査すべきなのか?これは遺伝するのか?彼女によると、医師は脳のAVMは小児ではきわめてめずらしいと言って安心させたという。彼女は、他の子供たちにも AVMがあることは “百万に一つの確率”であり、そのようなスクリーニング検査は必要ではないと言われたことを覚えている。

 

'I want answers' ‘答えを知りたい’

 

 しかし、それから18ヶ月も経たないうちに、当時3歳だった Elliyana ちゃんが真夜中に目を覚まし、喉が渇いたと訴えた。Martinez さんが水を飲ませると、少女は強い頭痛を訴え、激しい嘔吐が始まり意識を失った。

 両親は彼女を Daunte くんが治療を受けた同じ病院に急いで連れて行った。Martinez さんは、ぐったりした娘の身体を抱えながら ER に駆け込んだことを覚えている。CT検査で恐ろしい事実が明らかになったのである:脳内の AVM が破裂していたのだ。そのときまでに 2回のけいれん発作を起こしていた Elliyana ちゃんは昏睡状態に陥った。

 Martinez さんは取り乱していたと言い、医師に怒鳴り散らしていたことを覚えている:「あなたたちは子供たちに検査を受けさせる必要はないと昨年言ったわね。答えを知りたいの、今すぐに。」

 数日後、Martinez さんと夫が娘のベッドサイドに座っていたとき、別の医師が入ってきた。

 「あなた方のどちらかに鼻血がおありですか?」彼女はその血液内科医がそう尋ねたことを思い出す。

 「『ワォ!どうして彼は知ってるの?』そう思ったことを覚えています」と Martinez さんは言う。「私は手を上げて、こう言いました。『ほぼこれまでの人生ずっと鼻血に見舞われてきました』」

 彼女によると、その血液専門医はこう答えたという。「なるほど、あなたの子供さんたちの脳が出血する原因はあなたです。あなたは HHT なんです」

 「それは何ですか?」Martinez さんはそう尋ねた。

 遺伝性出血性末梢血管拡張症(hereditary hemorrhagic telangiectasia, HHT)は正常に発達することのできない血管を特徴とする遺伝性の疾患である;中でも AVM の破裂がこの疾患の最も重要な合併症である。

 HHT の患者では、血管が、動脈と静脈との間に介在する微小な構造物である毛細血管を欠いた状態で形成される。これらの血管は通常脆弱で出血しやすい傾向にある。片親が HTTを持つ子供は、50%の確率でこの疾患を発症する。いくつかの遺伝子がこの疾患を引き起こすことが知られている。そのほとんどが、遺伝子検査によって検出可能である。

 HHT では、引き起こされる合併症に対して生涯にわたって観察と治療が必要である。根治的治療法はない。この疾患は稀であり、世界で約5,000人に一人にみられるが、重症度は様々である。通常、脳、肺、および消化管が侵されるが、HHT の90パーセントの人は自身にその病気があることを知らないでいると推測されている。

 普通小児に認められる最も頻度の高い症状は、再発性の鼻出血だが、その程度は軽度から高度まで様々である。しばしば輸血を要するほどの重症例もある。他の症状には、てんかん発作、貧血、息切れなどがあり、後者はしばしば喘息と誤診される。

 診断の遅れは例外的なことではなくむしろそれが通常であると UCLA の HHT Center of Excellence の共同所長でインターベンショナル・ラジオロジストの Justin McWilliams(ジャスティン・マクウィリアムス)氏は言う。平均的には、本疾患の患者は30歳代半ばで診断されている。

 「HHT は進行性の遺伝性肺疾患である嚢胞性線維腫(cystic fibrosis, CF)とほぼ同程度の頻度です」UCLA の放射線医学の准教授でもある McWilliams 氏は言う。「しかし CF と違って、ほとんどの医師はこの病気を耳にすることはなく患者にはこう言ってしまっています。『おや、鼻血ですね』。で、大抵無視されてしまう感じです」

 HTTTの診断は必ずしも複雑ではない。本疾患患者の大部分は、目で確認できる明確な血管拡張、すなわち、患者の手や、鼻腔や口腔内部に点在する小さな赤色斑を有している。しかしこれらの斑点はしばしば成人になるまで出現しない。

 頻回の鼻出血にそれらの赤色斑が組み合わさると、遺伝子検査が行われなくても、脳出血や脳卒中など悲惨なイベントが引き起こされる前に一部の医師では診断を行うことが可能となる。

 検査によって Elliyana ちゃんには脳に5ヶ所のAVMがあることが明らかになった;そのうちの一つに対してのみ早急な治療が必要だった。他の病変はとりあえず観察し、その後、手術と塞栓術で治療が行われた。Elliyana ちゃんは脳出血の後遺症で周辺視野が欠落したが、他の脳の障害は残らなかった。

 

A family rocked 家族の動揺

 

 Elliyana ちゃんの退院後、Martinez さんはインターネットを調べ、メリーランドに拠点を置く全国的な支援支持団体のホームページ Cure HHT を見つけた。この団体の支援、ならびにラスベガスの医師による推薦に基づいて、彼女は UCLA の専門医と連絡を取ることができ、Daunte くんと Elliyana ちゃんの両人を治療した McWilliams 氏に紹介された。

 彼女の真ん中の子で現在12歳の Antonio くんには HHT の合併症はみられていない。彼には AVM はなく、健康状態は観察中である。

 血管を調べるに超音波を用いる造影心臓エコー検査である“bubble study”で Martinez さんの肺に AVM が存在することが明らかになった。さらに彼女の脳の MRI 検査で過去に小さな脳梗塞があった証拠が示された。2013年、彼女は UCLA で McWilliams 氏の手によって肺AVMの治療を受けた。

 彼女のどちらの親に HHT があったのか Martinez さんには分かっていない;二人とも検査を受けていなかったからである。彼女によると、父親には何年も医学的に問題があったが、ベトナム戦争中に使われていた枯れ葉剤 Agent Orange が原因だと家族は考えていたという。

 彼女は、自分の子供全員がこの疾患を受け継いでいたことにショックを受けていて、HHT を彼らに伝えたことに強い後ろめたさを感じているという。

 子供たちの緊急入院というトラウマによって引き起こされた「重度の不安とパニック発作が私たち全員にみられます」と Martinez さんは言う。現在この家族はそれらに対応するために治療を受けている。「私の子供たちが経験したことについては今でも自分を責めています。もし私に HHT があることを知っていたなら、決して子供を持つことはなかったでしょう」

 彼女の信仰、そして、彼女の親族や医師たち、中でも McWilliams 氏の支援が、彼女の忍耐の支えになっていると彼女は言う。

 McWilliams 氏は、Martinez さんが後ろめたく思うべき理由はないが、彼女は“特別に多難な道”を歩んできていると言う。問題の遺伝子を受け継ぐ確率は五分五分だったにも関わらず彼女のすべての子供たちがこの病気を持っていること。さらに、HTT の患者の約10%にしか脳の AVM は認められず、それも多くは一度も破裂しないにもかかわらず、2人は深刻な脳出血を起こしている。また家族の厳しい試練は、彼らの健康保険の補償範囲の問題でさらに深刻化している。

 現在、国内に HHT の治療を専門とするセンターは20数ヶ所あるが、認識の欠如がいまだに厄介な障害になっていると McWilliams 氏は言う。

 早期診断こそ Martinez さんの家族に襲いかかった様な深刻な結果を回避する最善の道である。

 「医師がもっと深く考えて、鼻出血も、単なる鼻出血以上でありうることを認識することが重要です」と彼は言う。

 

 

本疾患については以下の HP を参照いただきたい。

小児慢性特定疾病情報センター

NPO 日本オスラ―病患者会

難病情報センター

 

遺伝性出血性末梢血管拡張症

(hereditary hemorrhagic telangiectasia, HHT)は

オスラー病(Osler-Weber-Rendu disease)ともよばれ、

本邦では難病に指定されている。

皮膚・粘膜・消化管の毛細血管拡張病変からの反復する出血、

多臓器(脳・脊髄・肺・肝臓)の動静脈奇形を特徴とする

常染色体優性の遺伝性疾患である。

男女差はなく、5,000~10,000人に1人の頻度でみられる。

国内には約15,000人の患者がいるとされている。

 

本症の責任遺伝子として血管新生に関係する

3つの遺伝子変異が知られている。

ENG(Endoglin)遺伝子、 ACVRL1( ALK-1 )遺伝子、

および SMAD4 遺伝子があり、

このうち ENG異常によるものを HHT1、

ACVRL1 異常によるものを HHT2 と呼ぶ。

本邦では、HHT1がHHT2の約2倍の頻度となっている。

脳と肺の病変は、HHT1に多く、肝臓病変はHHT2に多い。

HHT1の方が、HHT2 よりも若年で発症する。

患者の80~90 %はこのいずれかの遺伝子変異で起こるが、

残りの患者にはそれ以外の未知の遺伝子の関与が

推定されている。

 

HHT の症状には以下のようなものがある。

鼻腔の粘膜病変による反復性の鼻出血・貧血。

脳の動静脈奇形による脳出血・痙攣、脳梗塞。

脳動静脈奇形は HHT 患者の10~20%に認められる。

肺の動静脈奇形による呼吸不全・肺出血・喀血、心不全。

また肺動静脈奇形の存在が原因となって

脳膿瘍(脳内に膿がたまる状態)を発症することがある。

肺病変は HHT 患者の30%に認められる。

肝臓の動静脈奇形による肝機能障害・肝性脳症。

消化管の粘膜病変による貧血・吐血・下血。

脊髄の動静脈奇形による下肢麻痺・四肢麻痺。

そのほか、頭痛、手指や口腔粘膜・口唇・舌からの出血、

などが認められることがある。

上記症状のうち鼻出血の頻度が最も高く HHT 患者の90%に

認められる。

また HHT の患者の50%に、脳、肺、肝の少なくとも一つに

病変があるとされている。

 

診断には遺伝性出血性末梢血管拡張症の

Curaçaoの診断基準が用いられる。

 

a) 繰り返す鼻出血

b) 皮膚粘膜の毛細血管拡張病変(口唇・口腔・手指・舌)

c) 肺・脳・肝臓・脊髄の動静脈奇形

 消化管の毛細血管拡張病変

d) 一親等に同疾患の家族歴

 

このうち3項目以上が該当すれば確診(define)、

2項目が該当すれば疑診(probable or suspected)、

1項目以下では、可能性が低い(unlikely)とする。

小児期では症状が揃わないことが多く、10歳以下の症例では

この診断基準で確診・疑診となりにくくなっている。

 

画像診断は以下が行われる。

脳病変に対しては MRI 検査。

肺病変に対しては単純CT検査や造影心エコー検査。

肝病変に対しては超音波検査や造影CT検査。

脊髄病変に対してはMRI 検査。

そして消化管病変に対しては内視鏡検査が行われる。

HHT の家族歴があれば、小児の場合には無症状であっても、

遺伝子検査で否定されない限り、その可能性は否定できない。

遺伝子診断も行われるようになってきたが、

遺伝子座の多様性や臨床への応用の困難さという課題が

残される。

 

HHT そのものに対する治療はなく、

病変の見られる臓器それぞれに対し治療が考慮される。

鼻出血に対しては内科的な治療以外に、凝固療法、レーザー焼灼、

鼻粘膜皮膚置換術(皮膚を鼻腔内に移植)、鼻腔閉鎖術などが

行われる。

脳の動静脈奇形には、外科的摘出術、血管内治療、

定位放射線治療が選択されるが、病変が 1cm以下の場合には

経過観察されることも多い。

てんかん発作が見られる場合には抗てんかん薬が投与される。

肺の動静脈奇形では、栄養動脈の径が 3mm以上ある場合に

治療適応があるとされ、コイル塞栓術が第一選択で行われるが

外科的切除も行われるケースもある。

肺動静脈奇形を有する女性の場合には妊娠前の治療が推奨される。

肝臓の動静脈奇形には、保存的治療が選択されることが多い。

脊髄の動静脈奇形は、塞栓術や外科的治療の適応となる。

消化管出血に対しては内視鏡的止血術が行われる。

鼻出血や消化管出血から高度の貧血を来たした場合には

鉄剤の投与や輸血療法が行われることもある。

罹患した臓器により予後は異なるが、死亡率は2~4%とされている。

小児期に鼻出血や脳出血などで発症した場合、本症の可能性を

考慮する。

またHHT の家族歴がある場合には、スクリーニング検査により

病変の発見に努める必要がある。

 

上記のように HHT は様々な症状を呈することから、

単科受診では見逃されてしまうことが多いようである。

早期診断のためには、やはり各科医師がしっかりと

本疾患を認識しておくことが重要である。

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