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煩悩を解脱した前期高齢者男のぼやき

予防接種はシロなのか?

2012-02-01 00:12:43 | 健康・病気

2012年メディカル・ミステリー第1弾です。

1月31日付 Washington Post 電子版

Medical Mysteries: Seizures hit baby girl soon after she had routine shots メディカル・ミステリー:決められた予防注射のすぐあとに発作が女の赤ちゃんを襲った

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By Sandra G. Boodman
 『Men in Black(黒衣の男)』がスクリーンに映し出されていた。Laura Cossolotto さんと夫は久しぶりに、住んでいるアイオワ州 Centerville の町にある映画館で夜を楽しんでいた。そのとき、彼女の義弟が暗い映画館の中に駆け込んできた。
 この夫婦の3番目の子供で6ヶ月になる Michaela ちゃんがちょうどひどい発作を起し近くの病院に運ばれたのである。Cossolotto さんがその赤ちゃんのもとに駆けつけたとき、3日前ジフテリア、百日咳、破傷風の混合ワクチン(DPT)を受けたあとに熱を出していたことをすぐに思い出した。「その注射がこのことに何か関係しているに違いないと思いました」と、Cossolotto さんは思い出す。「私には他に2人子供がいますが、そんなことは起こったことがありません。ですから他に何が考えられたでしょうか?」

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Michaela Cossolotto さんはすっかり良くなって現在高等学校に通っている

 その病院で、医師は、Michaela ちゃんは熱性けいれんを起していたのだと言って安心させた。彼らによれば、これは驚かされるが、通常は害のない出来事であり、再発の可能性は低いとのことだった。用心のため、赤ちゃんは観察入院した。しかし数時間後、2度目に起こったさらに重篤な発作を医師らは抑えることができず、100マイル北の Des Moines の大きい病院までヘリコプターで移送された。
 1997年7月のその夜は、それからの10年半に及ぶ厳しい試練の始まりとなった。4つの州の十数人以上の専門医が Michaela ちゃんの頻回におこる難治な発作の根本的原因と、それが不可逆的な脳損傷や死をもたらす前に抑え込む治療法とを見つけ出そうとしたがうまくいかなかったのである。
 何年間も Cossolotto さんは Michaela ちゃんの病気に関して DPT ワクチンがその原因であると考え、自閉症をはじめとする重大な医学的疾患や発達障害の誘発が、小児向けワクチンの様々な成分によるものであるとする親たちのグループに参加してきた。1980年代前半以降、こういった主張は、疑惑に満ちた説や、より最近では、『巧妙に仕立て上げられた欺瞞』と見なされながらも影響力の大きかった昨年のイギリスの研究などに基づいて台頭してきているが、それは主にインターネット上に揺るぎない支持があることによる。結果として、心配な親たちは自分の子供たちへの予防注射を拒否し、麻疹や百日咳などワクチンで予防可能な疾患の流行を引き起こすことになっている。
 Cossolotto さんは何時間もかけて必死になって答えを探し、特に、医師たちからそれに代わる説明を得られなかったことから、ワクチン仮説が説得力のあるものに思えた。しかし遅くはなったが自分の娘の原因が解明されたことで Cossolotto さんが長く抱き続けてきた考えは覆され、Michaela ちゃんの生活に大幅な改善がもたらされることになるのである。

Was it autism? 自閉症なのか?

 Michaela ちゃんの発作が単に熱性のものでなかったことはたちまち明白となった:発作は熱のないときにも起こり、医師たちはてんかんを疑った。「彼女はクッションの効いた椅子に座って、両手は空中にまっすぐ突き上げられていました」と Cossoloto さんは思い出す。「私はてんかんについて全く知識がありませんでした」
 だが彼女はすぐに思い知らされることになる。時には Michaela ちゃんの発作があまりに激しいため、医師たちは救命のために彼女を薬剤誘発性昏睡の状態とする必要があった。3才になるまでに8回、緊急治療のために Des Moines や Iowa City までヘリで搬送された。「ICU の彼女のベッドの脇に座ってあれこれ思いを巡らしたものです。目を覚ましてくれるのだろうか?たとえ目を覚ましても植物状態になるのではないか?」そう Cossolotto さんは回想する。
 検査に次ぐ検査が行われたにもかかわらず、彼女がどのようなタイプのてんかんなのかを医師は特定できず、薬物のいかなる組み合わせも発作を抑えるのに有効ではなかった。さらに彼女が年齢を重ねるにつれ出現する症状の原因も医師にはわからなかった:すなわち言語遅滞、軽度の精神発育遅滞、および重度の発育不全である。
 専門医たちは、心臓の欠損症や脳奇形に加え、精神発育遅滞、胃腸吸収障害、嚢胞性線維症、多くの稀な代謝障害などを引き起こす染色体異常である脆弱X症候群(fragile X syndrome)を除外した。
 3才から5才にかけて Michaela ちゃんは1オンス(28グラム)も体重が増えなかった。5才で幼稚園に入った時は33ポンド(約15kg)だったが、これはおよそ2才半の女児の平均体重である。彼女を発育不全と評価した発育クリニックの医師が Cossolotto さんにこう告げたのを彼女は思い出す。「問題は私が一日中彼女におやつばかり食べさせていることで、私は悪い親である」と。
 4才のころ、Michaela ちゃんは後戻りし始め、自閉症の古典的徴候のように見える状況を呈するようになった:何時間も身体を揺れ動かし、視線を逸らし、自分だけの世界に引きこもるように見えた。このころ Cossolotto さんは一日何時間もインターネットで徹底的に調べていた。説明となる見込みがありそうなものをすぐに彼女は見つけ出したのである:それが小児ワクチンだった。
 Michaela ちゃんの主治医らは懐疑的だったが、Cossolotto さんは、可能性がある答えを見つけ出せたことをますます確信するようになった。彼女は5時間かかる St. Louis にある環境医学専門家の診察を受けるため娘を連れて行くことになった。彼はワクチン説を支持しており、独自の検査を行い、カビアレルギーと診断した。Cossolotto さんの要求に応じて彼は、Michaela ちゃんが必須となっている予防接種を受けないで幼稚園に通うことのできる権利放棄証書に署名した。「あえて危険を冒すつもりはなかったのです」と母親は思い起こす。
 しかし数ヶ月後、自閉症は影をひそめていったのである:Michaela ちゃんが学校で受けた治療的援助が自閉性行動を沈静化していった。Cossolotto さんによると、ワクチン説に対する彼女の信念も徐々に弱まっていったが、こころの奥底にはまだ残っていたという。
 Michaela ちゃんが5才のとき、Cossolotto さんの一番下の娘がDown症候群を持って生まれてきた。彼女が必死で障害を持った二人の子供の世話をするとき、ときにそのプレッシャーに耐え切れなくなるようなことがあった。
 発作は衰えることがないため、Cossolotto さんはミネソタ州 Rochester にある Mayo Clinic に電話した。そこの小児神経科医は、根本的原因を探し続ける一方で、様々な抗てんかん薬を用いて Michaela ちゃんの治療を開始した。一時、この小さな女の子はほぼ1年間発作が見られないこともあったが、発作が再び始まると以前より増悪した。
 2007年9月、Cossolotto さんは10才になっていた Michaela さんを、原因不明の医学的症例を扱ったテレビショーで紹介されていた小児神経学者の診察に連れて行った。「そのとき私は彼女の症状を説明する統合的な診断名を持っていませんでした」と、アイオワで開業しているこの専門医は書いている。
 Mayo の Michaela ちゃんの主治医も同じだったが、彼は同院の新しい小児てんかん専門医(てんかん小児の治療を専門とする神経内科医)である Elaine Wirrel 氏への紹介を申し出た。「てんかん専門医なんて聞いたこともありませんでした」と Cossolotto さんは言う。
 2007年11月、Michaela ちゃんは Wirrell 氏の診察を受けた。これが果てしなく続くかと思われた一連の医師の最後となった。診察は他の多くの医師と変わりはなかった。Michaela ちゃんの病歴を聞き、彼女のカルテを見直したあと、Wirrel 氏はまれな疾患が疑われるので検査を依頼したいと Cossolotto さんに告げた。
 「わたしは『ああ、もう一度血液検査をすれば、他の診断を除外できることになる』と思いました」そう Cossolotto さんは思い起こす。

At last, an answer ついに、答が

 3週間後、Wirrell 氏は Cossolotto さんに電話をかけ、あれほど長い間彼女にわからなかった最終的な答を伝えた。SCN1A 遺伝子の血液検査で Michaela ちゃんが Dravet(ドラベ)症候群であることが明らかになったのである。この疾患は小児の重症ミオクローヌスてんかんとして知られるもので、1978年に記載したフランス人医師にちなんで名前がつけられた稀で重篤なタイプのてんかん性疾患である。
 National Institute of Neurologica Disorders and Stroke によると、Dravet 症候群は通常、生まれたときに存在する(遺伝性でなく)自然発生的な遺伝子変異によって引き起こされ、脳細胞の機能が障害されるという。その特徴は生後最初の一年間におこる制御困難な重篤なけいれんである。Doravet 症候群は20,000人から40,000人に一人の割合で発生するが、本症候群を有する多くの小児には、言語能力の障害、行動異常、認知障害なども認められる。Doravet 症候群には治療法はないが、けいれんのコントロールには一部の薬剤が有効である。たとえば clobazam(マイスタン)に stiripentol を併用するものがある。後者の薬剤は食品医薬品局でまだ承認されていないフランスの薬だが、まれな疾患を治療するためであれば合法的に輸入可能である。
 多くのケースで Doravet 症候群は、赤ちゃんが発熱したときに発症し、それは予防接種を受けたあとにも起こりうる。しかし、Mayo の小児てんかん部長である Wirrell 氏は「予防接種が Doravet 症候群を引き起こすということは間違いなくありません」と言い、むしろ発熱が潜在する疾患を表面化させるのだと指摘する。これまで20人の Doravet 症候群の患児を診てきた Wirrell 氏は、予防接種を受けていなかった子供たちも高熱を出したあとに症状が出現していたという。
 いくつかの最近の研究で DPTワクチンと Dravet 症候群との関係が検討されているが、これはオーストラリアのてんかんの専門家チームによる2006年の研究で神経疾患の原因として初めて示唆された。Lancet Neurology の2010年の研究では、ワクチンは Dravet 症候群の転帰に影響を及ぼさないことが明らかにされている。すなわち予防接種後に発作が始まった赤ちゃんは、本疾患がそれ以外のタイミングで顕在化した赤ちゃんより悪い経過をとっていなかったのである。Pediatric 誌の2011年のレポートでは、DPTワクチンによって神経障害が引き起こされたと推定された5人の子供たちはのちに Dravet 症候群を有していることが明らかになった。
 Michaela ちゃんのケースでは、DPT ワクチンを受けてまもない6ヶ月時に始まった発作であることや、他の原因がないことなどを考え合わせることで Wirrell 氏は Dravet 症候群を疑い、遺伝子検査でそれを確認したのである。ただし、Dravet 症候群の患児の約30%は検査で陽性とならない。
 Cossolotto さんにとって、この診断は、娘が、深刻で治癒できない疾患であるという現実を突きつけられたことを意味する。「もしそれが何であるかを知ることになったときには、私たちはそれに備えることができると常に考えていました」と彼女は言う。「しかしそれが Dravet 症候群でした、そしてそれには治療法がありませんでした。わたしは自分自身に言い聞かせ続けなければなりませんでした。『あなたは答をもらったのだ』と」

What took so long? どうしてこんなに時間がかかったのか?

 「5年ないし10年前はこれが発作症候群であるとは多くの人が考えていなかったのです」と、Wirrell 氏は言う。彼女は親たち、特に Cossolotto さんに信頼を置いている。彼女は2008年以来 Dravet.org と呼ばれる支持・権利擁護団体の会長を務めている。この団体はこの疾患に対する関心を高め、有効な治療法の推進を行っている。
 てんかん専門医が Dravet 症候群に注目するようになった一方で、一般の神経内科医はそれをよく知らない可能性があると彼女は付け加えた。「人生の実に早期に繰り返す長引くけいれんを見たら小児てんかんの専門医への紹介を考えるべきです」と彼女は忠告する。
 診断と適正な内服治療の結果、Michaela ちゃんの生活は劇的に改善した。彼女はまだ認知的問題や行動異常に取り組んでいるところだが、彼女のけいれんは年間わずかに数えるほどまで減少した。現在15歳の彼女は、友人がいて、フェイスブックのページを持ち、青春の飾りをつけた高校一年生となっている。診断がついていなければ、恐らくまだあの DPT ワクチンが Michaela ちゃんの病気を起こしたと誤って信じていただろうと、Cossolotto さんは言う。「これは遺伝子の病気であると理解しています。答が得られたということは重要なことです」と彼女は言う。

Dravet 症候群は、
てんかん発作により乳幼児に重篤な脳機能障害を引き起こす
乳幼児破局てんかんの1つである。
本症候群は乳児重症ミオクロニーてんかん(SMEI)とも
呼ばれる。
1才未満に発症し平均発症年齢は
生後4ヶ月から6ヶ月である。
全身性または半身性の強直間代性、または
間代性けいれんで発症する。
発作は発熱や入浴など体温上昇で誘発されやすい。
その後幼児期にはミオクロニー発作が出現する。
発作とともに発達遅滞や行動障害が認められ
多くの患者で重度の知的障害を残す。
電子依存性ナトリウムチャネルαサブユニット1型遺伝子
(SCN1A遺伝子)の変異が関与していると考えられているが、
その因果関係は十分には解明されていない。
本症候群の発作を抑制する特効薬とされ
記事にもある stiripentol(スチリペントール)は
米国同様、本邦においても未だ承認されていない。
日本小児神経学会からも早期承認が要望されている
なお本症候群は発症当初は通常の熱性けいれんとの
鑑別が困難であり診断が遅れる可能性がある。
本症候群が早期に診断され、早期の適切な治療により
繰り返すてんかん発作による脳機能障害に苦しむ患児が
一人でも救われることを願うばかりである。

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