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MrKのぼやき

煩悩を解脱した前期高齢者男のぼやき

残酷な誤診

2015-08-25 22:53:58 | 健康・病気

8月のメディカルミステリーです。

8月24日付 Washington Post 電子版

 

Medical Mysteries: A bad diagnosis  

メディカルミステリー:誤診


Dan Moreau さんとその妻 Dianne さんは治療不能の脳疾患という悲惨な診断を受け入れていたが、ある精神科医が彼の症状について別の原因を発見した。

 By Sandra G. Boodman,

 その医師の言葉が整然とし明確なものだったので、告知の内容は一層衝撃的なものとなった。Dan Moreau さんとその妻 Dianne さんは唖然として言葉もない状態となっていたが、その高名なバルチモアの神経内科医は、彼の怒りの爆発や、ひどい幻覚や、平衡障害はレビー小体型認知症(Lewy body dementia, LBD)によるものであると説明した。これはパーキンソン病、アルツハイマー病の両者に類似した進行性の、多くは治療不能で最終的に死に至る疾患である。

 最初の夫が速やかに死に至るタイプの腎臓癌により55才で死去していた Dianne Moreau さんは呆然とした。「私はこう考えました。『稲妻に2度までも打たれるの?』と」そう彼女は思い起こす。

 当時62才でキャリア開発や個人的財務についてなど6冊の本の著者である Dan Moreau さんにとって、2012年3月のその診断は彼にあらためて死を思い起こさせるものとなった。2009年、彼は心臓の問題を解決するために5本のバイパス手術を受け成功していた。しかし今回の疾患は回復には至らないものであることを彼は知ったのである。その神経内科医はただちに運転を止める必要があると彼に告げた。最初のショックが和らぐと、6年間は妻との旅行や、家族や友人たちと一緒に時を過ごすことに彼は重きを置くことにした。

 「私は頭がおかしくなる前に物事を深く味わいたかったのです」と彼は思い起こす。

 2年以上にわたって、アナポリスに住むこの夫婦は Dan さんの死に備えて準備した。自身の葬式を計画し、認知症の進行とともに必要になると考えられる技能を訓練した。元リーディング・スペシャリスト(読書指導の専門家)で当時60才だった Dianne さんは彼の疾病について調べることに没頭し、支援団体に参加し、夫のケアがもはや無理になったとき彼にとって最適な場所を探し求めてメリーランドの各施設を見て回った。

 心臓内科医、何人かの神経内科医、内分泌医、泌尿器科医など彼らが受診した多くの専門医の誰もがその診断を疑問視しなかった。しかし2014年6月、Dan さんは怒りの爆発への対処を求めてある老年精神科医を受診した。

 「あなたの病気が何かはわかりませんが、認知症ではありません」との精神科医がそう告げたと Dan さんは言う。

 Moreau 夫妻は愕然とし、高揚感が始まるのを抑えようとした。実際の原因が何かを解明までには、さらに数ヶ月間に及ぶ検査や正しいと実証できる仮説が必要となった。その後 Dan さんの病気は治療不能な脳の疾患の症状ではなく容易に治療できるものであることを彼らは知る。両人には、致死的診断の不安の中で生きてきたことの心理的影響はなかなか消えないでいる。真実を「いまだに心に受け入れようとしている最中です」と Dan さんは言う。

 

Not himself どこかが変

 

 2011年の初め、Dan さんは「自分の考えがおかしい」と訴えるようになった。彼は異常に気むずかしくなっているようだった。「私は細心の注意を払わなければなりませんでした」そう Dianne さんは思い起こす。バイパス手術から回復後、彼は多くの薬を飲んでいた。その中には血圧を下げ心拍数を遅くするβ遮断薬や、コレステロールを下げる薬があった。

 Dan さんの脳のCT検査では異常は見つからなかった。しかし6月のフランスへの旅行中、橋の上を運転中に Dan さんは意識を失った。この夫婦と一緒に旅行していた古くからの友人がハンドルを掴んだため、かろうじて惨事は避けられた。その旅行中 Dan さんがひどくおかしかったことにショックを受けていたことをその友人は後に Dianne さんに話した。

 その後数ヶ月間、彼のもうろう状態や興奮性の亢進はほとんど Dianne さんに向けられ、症状は強くなったり弱くなったりした。アナポリスの神経内科医の診察を受けたが特に何も発見されなかった。Dan さんは日常的に疲労感を訴え、両足が“ゴムのような感じがする”と言った。

 Dianne さんは徐々に心配が増していった。最初の夫が死去した前の年、気分がすぐれないと訴えていたが、そういった訴えは、彼が死去する8週間前に癌と診断されるまで医師から無視されていた。「物事を実際に探求し調査することに関して実に厳しい反省をしました」と彼女は言う。彼女は Dan のケースに没頭したが、「何もわからなかった」。

 運動障害や怒りに加えて、Dan さんはふらつきや幻覚や生々しい悪夢に悩まされた。2012年2月には、バルチモアのトンネル内を Dianne が運転中に、彼は彼らの周りでトンネルが崩れかけていると思いこんだ。またあるときには、彼の車が虎で埋め尽くされているとか、リスがベッドに入り込んでいると感じた。時には真夜中に目を覚ましこう叫んだ。「何が起こっているんだ?」

 検査で何も発見されなかったことから、その神経内科医はバルチモアの専門医に紹介、そこでレビー小体型認知症と診断された。「Dan にはきわめて早期の症状が見られていると確信を持って彼女は言いました」そう Dianne さんは思い起こす。

 この疾患は、変動が見られるものの悪化していく認知機能、鮮明な幻視、そして一部の症例では振戦や歩行異常が特徴的である。コメディアンの Robin Williams が、昨年の自殺直前にこの病気であると診断されている。

 Dan さんは深い抑うつ状態に陥った。彼はケーブルテレビシリーズの“Boss”を見た。このドラマでは新たに診断された LBD に対処しようとする汚職にまみれたシカゴ市長を俳優の Kelsey Grammer(ケルシー・グラマー)が演じている。「私はそのドラマの最初のエピソードを何十回と見ました。そこで Grammer 演じる人物がこれから直面することを知ることになるのです」と Dan さんは思い起こす。「そのため、この疾病を理解してもらうよう友人たちにそれを勧めました」

 バルチモアの神経内科医から、もし Dan が暴力的になり対応できなくなったら自身を守る必要に迫られるかもしれないと言われた Dianne さんは支援団体に参加した。夫が LBD である2人の女性と親密になり、忍耐を学んだ。これは「毎日ずっと必要なものだった」と彼女は言う。Dan さんは、それ以後内服することになったいくつかの認知症薬の最初のものとなったアリセプトが処方された。しかし薬剤はどれも効果がなかった。

 さらに彼は頻回に腎臓結石を排出し始めていた。2年間に20個以上だった。これらの硬い無機化合物の沈降物は多くの人にとってひどく辛いものである;しかし Dan さんには軽い痛みがあるだけだった。泌尿器科医はそれらは食事に起因すると考えた。

 

Getting worse さらに増悪

 

 2012年の夏には、Dan さんは口汚くののしるようになり、しばしば巧みにあしらっているとして Dianne を責めた。「それはあまりに彼らしくありませんでした」と彼女は言う。ある夜、幻覚あるいは悪夢に襲われたのか、彼女を“守ろうと”して彼女をマットレスに押さえつけたことがあり、それ以後 Dianne さんはドアに鍵をかけてゲストルームで寝ることにした。

 その次の年、この夫婦は Dan さんの病状と苦闘することになる。病状は親友や親戚に対しては明らかだったが、ちょっとした知り合いに対しては認められなかった。Dianne さんによると、Dan さんは自分の行動の影響については異常に意識しており、彼女に対する影響については後悔の念を抱いているようで、認知症を持つ人への洞察は目立っていたという。

 そして、彼には欠落を補う能力が残されていた。グルメ料理人の彼はディナーを作るのに4時間もかかり、以前は機械的だった手順を書き留めておく必要があったが、まだ夫婦の食事を準備できていた。

 支援団体の女性たちの夫たちほど Dan さんが速く悪化していないことを Dianne さんは奇妙に思った。ある医師は、Dan さんが「大変明晰なので通常の人間で見られる速度で悪化しないのだろう」と話したと彼女は言う。

 2014年4月、Dan さんは、怒りの爆発を抑えるために Johns Hopkins の老年精神科医を受診した。その医師は認知機能検査を行い、さらに脳画像検査が行われた。

 その結果は全く驚くべきものだった。Dan さんが高いレベルの認知機能を有していることが明らかになった~これはほぼ3年間を経過した LBD の患者としては矛盾していた~さらに脳の PET 検査ではいかなる疾病の証拠も示されなかった。

 「この高いカルシウム値には注意していきます」その精神科医がそう話したことを Dan さんは覚えている。「誰もこのことに気付かなかった?」その答は:そんなことはない、である。

 臨床検査で最初に Dan さんの血液中のカルシウム値の上昇が発見されたのがいつかは明らかではないが、2012年に彼を認知症と診断した神経内科医によって指摘されていた。Dan さんのカルシウム値の上昇が彼の症状を引き起こした可能性があるかどうか様々な医師に繰り返し訪ねたが、それはないと言われたと Dianne さんは言う。それでも彼女は懐疑的だった;彼女が調べたところでは、特に副甲状腺ホルモン(PTH)の上昇を伴う場合、過剰なカルシウムは腎結石だけでなく、認知行動異常を引き起こす可能性があることがわかった。

 

Elevated calcium カルシウム値の上昇

 

 Dan さんは、カルシウムとリンの濃度を調節する4つの小さな分泌腺で産生されるたんぱくである PTHの濃度は正常であると数人の医師は彼女に告げた。しかも Dan さんのカルシウムはわずかしか上昇していなかった。その精神科医を受診する数週間前、アナポリスの内分泌医は、カルシウム値や PTH の値の上昇を引き起こす腺腫と呼ばれる良性の腫瘍を調べるために Dan さんの副甲状腺の検査を行ってほしいという Dianne さんの要求を拒否していた。

 その精神科医は Dan さんを、カルシウム異常が専門の Hopkins の内分泌科医 Suzanne Jan De Beur 氏に紹介した。

 「それはめまいがするほど不信感が噴出した瞬間でした」と Dan さんは思い起こす。一方、Dianne さんは慎重だった。「我が身をかばうためにはあまり興奮できないと感じました」

 Dan さんの最初の受診の時、Jan De Beur 氏は彼の異常な症状に強い印象を受けた。カルシウム値が上昇する高カルシウム血症の患者では「通常、幻覚や怒りの爆発をみることはありません」と彼女は言う。そして Dan さんの数値は 10.7mg/dl だった;正常上限は 10.2mg/dlである。

 彼女は2つ以上の問題が Dan さんの症状を引き起こしているのではないかと考えた。まず第一に、彼の高いカルシウムの原因を解明しなければならなかった。そして画像検査でエンドウ豆サイズの副甲状腺が見つかった。これで多数の腎結石、倦怠感、認知機能の不明確さを説明できた。

 一方、Dan さんの長期にわたって増え続けていた薬のリスト~そのうちのいくつかは彼の心臓手術以来内服してきていたものだった~を見直すと、あることが顕著となった。Jan De Beur 氏は、ある薬の内服中に恐ろしい幻覚に襲われた患者を何人か治療したことがあった;ある男性は妻を絞殺しようとした。

 その問題は新しいものではないがいまだに過小評価されていると Jan De Beur さんは言う。1985年まで遡るがメトプロロール(metoprolol)を内服した患者における幻覚や鮮やかな悪夢や行動異常が医師によって報告されている。Dan さんとまさに同じように寝室に動物がいると述べていた患者がいることをイギリスの研究者らが報告している。

 Jan De Beur氏の提言により Dan さんの心臓内科医は異なるβ遮断薬を処方した。彼の幻覚や悪夢は消失した。しかし、彼のカルシウムと副甲状腺ホルモンの値が上昇したため Dan さんには腫瘍を切除する手術が必要であることが次第に明らかとなった。

 2015年3月、Dan さんは45分間の手術を受けた。回復室で、彼はこう言った。「綿のベールが私の脳から引き出されるような感じでした」彼の気分の変動や思考や運動神経の障害は消失した。彼のカルシウムと PTH の値はすぐに正常に回復し、そのまま維持できている。

 Dianne さんの支援と忍耐によって彼は地獄のような2年間を切り抜けることができたのである。Dianne さんは内科医の Scott Eden 氏の援助のおかげと考えている。

 Jan De Beur 氏にとって、Dan さんの経験は、診断を確定あるいは否定するような客観的な検査ではなく、主に症状に基づいて行われる臨床診断の潜在的な落とし穴を強調するものとなっている。レビー小体型認知症や他の多くの疾患にはそのような検査が存在しない。そういう理由から、医師が「これ対する他の原因はないだろうかと」問いかけることが重要であると彼女は言う。「彼のケースでは他の何かと考えられる同時に起こっているものがありました。しかし一時的にせよ彼は衝撃的な診断とともに生きてなければならなかったのです」

 この夫婦は厳しい試練を懸命に受け入れようとしてきた。Dan さんは何度か精神科医を受診した。彼はレビー小体型認知症の診断を行った神経内科医に今回の誤診が伝えられたと別の医師から聞かされたという。

 Dan さんはその神経内科医とは連絡をとっていない。「彼女に対して何を言ったらいいのでしょう?一体彼女は私に何と言うでしょうか?」そう彼は言う。

 

本ケースには最終的に2つの要因が関わっていたと考えられる。

高カルシウム血症とβ遮断薬メトプロロールの副作用である。

高カルシウム血症は

血中のカルシウムを上昇させる副甲状腺ホルモンの過剰分泌や、

カルシウムの過剰摂取によって引き起こされる。

また骨転移のある癌や、

副甲状腺ホルモン類似のホルモンを産生する癌を持つ患者でも

みられることがある。

高カルシウム血症の初期症状としては

便秘、嘔気、嘔吐、腹痛、食欲低下、多尿が見られる。

重症例では、錯乱、情動障害、意識の混濁、幻覚、昏睡など

脳の症状を引き起こす。

そのほか、筋力の低下や不整脈、あるいは

尿中カルシウムの増加による腎結石が見られる。

 

一方、メトプロロール(商品名セロケン)による

幻覚や悪夢などの精神症状発現の頻度は低いとみられるが、

忘れてはならない副作用であろう。

(特に“悪夢”はメトプロロールに限らず他のβ遮断薬でも

その精神神経系副作用として有名である)

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