MrKのぼやき

煩悩を解脱した前期高齢者男のぼやき

肥満のかげに…

2016-05-18 20:16:21 | 健康・病気

5月のメディカルミステリーです。

5月16日付 Washington Post 電子版

 

For half her life, doctors told her to lose weight. But something else was going on.

これまでの人生の半分は、医師に体重を減らすよう言われてきた。しかし、実際には別の何かが起こっていた。

By Sandra G. Boodman, 

 Deborah E. Savage さんにとって、その医師を受診することはしばしば屈辱の中での試練となっていた。

 15年以上、Savage さんの医師たちは同じ助言を与え続けていた。体重が増えないようにする必要があると。Savage さんは食事に気をつけ運動を心がけてきたが、さらに何ポンドか太ってしまったと返答するとき、彼らが彼女のことを全く信じていないのは明らかだった。彼女の家族も同じように疑っていた。

 「私は姉と同じように食べていました。でも彼女は体重が増えないのに私だけ増えていたのです」そう Savage さんは思い起こす。彼女は Montgomery 郡に住む土木技師で来月31才を迎える。

 Savage さんの容赦ない体重増加は中学校時代に始まりその後肥満となっていたが、それが彼女の唯一の問題ではなかった:何年もの間、痛みを伴うニキビの出現と顔の発毛にも悩まされていた。「これらが私を醜くしていたのです」と彼女は言う。

何年もの間、Debbie Savage さんは体重が増え続けていた。彼女はおぞましいニキビと冷淡な医師らに苦しめられていた。

 昨年のこと、なかなか妊娠できなかった Savage さんはそれが月経不順と関連があるのではないかと考え、新たな産婦人科医のもとを訪ねた。その医師は、Savage さんの様々な症状は一つの原因によるのではないかと言った。しかし、きちんとした検査を行ってもらうために2人目の産婦人科医にかからなければならなかった。そしてそれによってようやく、よく見られる大切な疾病の確定診断にたどりつくことができたのである。

 「あれほど多くの医師たちがこの疾病を考えなかったことに悔しい思いをしています」と彼女は言う。「もしわかっていたなら何年も前に変わることができていたでしょう」

 

Comparisons rankled 比較されることに苦しんだ

 

 12才のときから、減量できないことが彼女の人生の決定的要素の一つとなっていたと彼女は思い起こす。そして、彼女が低身長(5フィート3インチ= 約160㎝)であることから余分な肉が特に目立っていた。痩せていた彼女の姉と家族内で比較されることに苦しんだ。

 母親の勧めで Savage さんはスポーツジムに参加したが数ポンド(1.5kg)以上体重を減らすことはできなかった。

 Savage さんによると、彼女が食事療養に忠実に従い運動をしてもなぜ体重が変わらないのか恐ろしくて医師たちに聞くことができなかったという。

 そしてまた彼女は、苦しんでいた他の症状について話さなかった。「顔の発毛のことは恥ずかしかったのでそれについては話したくなかったのです。ニキビについても同じように、非常に過敏になっていました」そう彼女は思い出す。

 Savage さんは不順な月経についてどう考えるべきかわからなかったが、医師たちは気にかけているふうではなかった。時には3ヶ月間月経がないこともあった;またある時には月経が2週間続くこともあった。大学では何とか少し体重を落としたが、ニキビや他の症状は続いていた。

 20才代前半には、彼女の婦人科医は彼女の体重があまりに多いことについて叱責した;毎年、彼女は10ポンド(約4.5kg)ずつ増えていたようである。「ダイエットや運動に努めてきたことを説明しましたが、十分な努力をしていないと彼女は言うのです」そう Savage さんは思い出す。

 月経周期を調整し、ニキビを抑えるために、その医師は経口避妊薬を処方したが、これによって皮膚はきれいになり、月経はいくらか不規則でなくなった。

 2010年に結婚したとき、Savage さんと夫は、お互いにやる気を起こさせることにつながると考え人気のある減量プログラムに参加した。

 Savage さんによると、彼女自身は数ヶ月でわずかに約8ポンド(3.5kg)しか減らなかったが、同じ食事療法に従った夫の方は難なくそれよりはるかに多くの体重を減らすことができたという。

 「それは大変悔しい思いをしました」と彼女は思い起こす。「私は本腰を入れて制限を守りましたが報われなかったのです。もうお手上げって感じでした」

 2015年の初め、彼女は自暴自棄になっていた。彼女は妊娠を希望しほぼ一年前から経口避妊薬の内服をやめていた;薬が切れると、彼女のニキビは再びぶり返し、顔の発毛の症状が悪化した。Savage さんは最も重い体重(約109kg)になっており、かかりつけ医は、210mg/dlとなっていたコレステロール値が高すぎると警告した。

 3月、彼女は婦人科医を変えた。新しい婦人科医は彼女の月経不順と体重に焦点を絞り、polycystic ovarian (or ovary) syndrome(PCOS:多嚢胞性卵巣症候群)という代謝異常について聞いたことがあるかどうか Savage さんに尋ねた。

 大学の友達が PCOS と診断されていたと Savage さんは答えた。Savage さんにもそれがあるのではないかと考えているとその医師が応じたので彼女は驚いた。

 

An explanation at last ついに答えが

 

 PCOS はよく見られるホルモンの不均衡であり、思春期に始まることが多く女性の10%に見られる。その原因は不明だが遺伝が関与しているようである:母親あるいは姉妹がこの疾病を持つ女性には高いリスクがある。PCOS の女性の多くは、排卵を妨げる男性ホルモンであるアンドロゲンを過剰に産生する、液体で満たされた複数の嚢胞を含有する肥大した卵巣が認められる。PCOS の他の徴候として、不順な月経や無月経、あるいは月経の遷延や、ニキビ(座瘡)や顔面の発毛や体毛の増加が見られる。後者は多毛症(hirsutism)と呼ばれる症状である。

 さらにこのホルモンはインスリンの調節を阻害するため、PCOS の女性の多くは過体重や肥満となる。コントロールはできるが治癒させることができないこの疾患は2型糖尿病、高血圧、および心筋梗塞のリスクを高める。

 その婦人科医は Savage さんも PCOS であると告げた。この疾患の検査をすることは可能かどうか Savage さんが尋ねたところ、その婦人科医は、検査はない、と誤った事実を彼女に伝えた。本疾患の最善の治療法は体重を減らすことだとその医師は助言した。そして、自分の診療所で減量セミナーを行っていると言い添えて、Savage さんに参加を促した。

 Savage さんは拒否した。2週間後、彼女は3人目となる産婦人科医で、Montogomery 郡と Frederick 郡で開業している Neil Horlick 氏に相談した。

 彼女の病歴を聴取し検査を行った Horlick 氏は、彼女が PCOS であると考えたという。Savage さんが、それに対する検査はないと言われたことを彼に話すと、検査が可能であることを伝えそれを実施することを彼女に約束した。

 甲状腺や副腎の異常でも同じような症状を引き起こし得ることから、まずそれらを除外する必要がある。PCOS は基本的には除外診断であり、診断は血液検査、患者の症状、および卵巣の超音波検査を基に行われる。

 「一般的に PCOS の3つの診断基準のうち2つを探します」と Horlick 氏はいう。この基準は、月経不順あるいは無月経の病歴、男性ホルモン、中でもテストステロン値の上昇、そして卵巣嚢胞の存在からなる。Savage さんのケースでは、超音波検査では嚢胞は認められなかったが、テストステロン値の上昇が確認された。

 Savage さんの症状がそれほど長い間診断されないままだったことに驚いたと Horlick 氏は言う。「月経不順の患者が体重増加と多毛を訴えた場合「私たちは常に PCOS を念頭に置きます」と Horlick 氏は主張する。

 妊娠の可能性を高めるには減量が重要であると彼は Savage さんに伝えた。Horlick 氏は体重減少を促進する糖尿病薬、メトホルミン(metformin)を処方した。メトホルミンは PCOS の患者によく処方され、排卵の促進にも有用である可能性がある。

 Savage さんは食物に対する新たな取り組みを行うことにした。彼女はパレオダイエット(paleo diet:旧石器時代食)を始めたが、これは肉、野菜、木の実、果実を重視し、炭水化物、砂糖、加工食品の摂取を徹底的に減らすものである。

 彼女によると最初の一月で体重が15ポンド(6.8kg)も減ったのを知って大喜びしたという;4月から9月にかけて50ポンド(22.7kg)減量し、コレステロールは 20 ポイント下がった。ニキビも改善し、テストステロン値も低下、月経周期もさらに規則的となった。

 Savage さんは親戚に、他に誰か PCOS と診断された人はいないかどうか尋ねたという。「両親はその病気を聞いたことがありませんでした」と彼女は言う。

 2015年10月、彼女と夫は、一卵性双生児の男児を妊娠したことを知り大喜びした。Savage さんは、Maryland 州の Shady Grove Medical Center に6週間入院し厳重に観察された。というのも、彼女の双子が単一の羊膜嚢と胎盤を共有している稀な異常が見られたためだが、これは PCOS とは関連のない病状だった。赤ちゃんは4月22日に生まれた。

 自身の経験が「他の女性たちが私のように何年もの間苦しまないで済むよう」願っていると Savage さんは言う。

 「これは奇っ怪な病気ではありません。私は教科書通りのケースなのですから、発見までにこれほど多くの医師を要することなどあってはならないはずです」と彼女は言う。

 

多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の詳細については以下のサイトを

ご参照いただきたい。


こそだてハック

聖マリアンナ医科大学病院生殖医療センターHP

 

PCOS は若い女性の排卵障害の原因としてよく見られる疾患で、

近年、患者数が急増している。

卵巣内に形成される卵胞の発育が遅く、

ある程度の大きさになっても排卵されず

卵巣内に多数の卵胞が蓄積された状態で

月経異常や無排卵月経など不妊の原因となる。

20才代~40才代の女性に多い。

PCOS の原因はいまだ分かっていないが、

内分泌異常と糖代謝の異常によるとする説が有力となっている。

脳下垂体から分泌される、

卵胞の発育を促進する黄体化ホルモン(LH)と

卵胞刺激ホルモン(FSH)のバランスが崩れ(LH優位となる)

卵胞の発育に支障が生じ排卵が起きにくくなるという説、

あるいは、膵臓から分泌されるインスリンの量が増加することで

男性ホルモン値が高くなり

月経不順などの症状を引き起こすという説がある。

以下の症状が認められる。

①排卵が起こりにくいことによる月経不順(周期が35日以上)、

無月経、無排卵月経

②卵胞に含まれる男性ホルモンが血中に増加することで起こる

多毛、ニキビ、声の低音化

③肥満

④黄体ホルモンの分泌異常による月経過多、不正出血

⑤排卵障害による不妊

ほとんど無症状のケースから多彩な症状を示すケースまで、

PCOS の重症度は様々である。

卵巣の超音波検査では 10mm 大の卵胞が

卵巣の表面下に多数並んで認められる(ネックレスサイン)。

PCOS の根本的な治療法はいまだ確立されていないため

対症療法が主体となる。

排卵障害に対してはクロミフェンという排卵誘発剤が用いられる。

クロミフェンに反応が見られない場合には、

hMG-hCG 療法(ゴナドトロピン療法)が用いられるが、

本薬剤に対する過剰反応により卵巣が腫大したり腹水が貯留する

卵巣過剰刺激症候群(ovarioan hyperstimulation syndrome, OHSS)を

招く恐れがある。

薬剤で排卵が見られない場合で妊娠を希望する場合には

体外受精の適応となる。

その他、腹腔鏡下手術で卵巣表面に穴をあけて排卵を促したり、

低用量ピルなどのホルモン療法で月経を調節するなどの治療が行われる。

記事中にもあったように、

糖尿病薬のメトホルミンが排卵障害を改善することがわかっている。

血糖を下がることでインスリンの過剰分泌が抑えられるため、

卵巣での男性ホルモン産生も低下し排卵が起こりやすくなると

考えられている。

また糖代謝異常を改善すべく、過食、肥満のある女性は、

運動療法や食事療法を行い生活習慣を改善することが

予防的にも、また病状の進行を抑える上でも重要である。

いずれにしても病歴から早期に発見、診断し、

早期に治療を開始することが、不妊の回避や、生活上の支障の軽減に

つながるため重要と考えられる。

本記事の Savage さんに関しては、

前医らがきちんと診断できなかったのは問題だが、

しつこく減量を勧めたこと自体はあながち間違いではなかったと

いえそうだ。

コメント
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