MrKのぼやき

煩悩を解脱した前期高齢者男のぼやき

40年以上繰り返した下痢の真の原因

2014-10-06 22:25:17 | 健康・病気

2014年9月のメディカル・ミステリーです。
今回は消化管の病気です。

9月29日付 Washington Post 電子版

Medical Mystery: What was causing a woman’s chronic digestive distress?
メディカルミステリー:女性の慢性消化器症状の原因は何だったのか?

Womanschronicdigestivedistress
40年以上の間、Janice Rohlf さんは気まぐれな消化器系を必死でコントロールしようとしてきた。

By Sandra G. Boodman,
 Janice Rohlf(ジャニス・ロルフ)さんは簡単には打ちひしがれなかった。水道もない家で“極貧”の中で育ち二つの大学院で学位を取得し成功した職歴を築いてきた人間の不屈さを示していた。しかし、40年以上の間、彼女は精神的に負担となる症状を抱えて生き、彼女が食べた何かによって突然の消化器系の不調が引き起こされたのではないかと不安に感じてきた。
 「私は常に覚悟が必要でした」Stony Brook にある State University of New York の政府関係部門の元代表だった Rohlf さん(73)は言う。「それは常に気にかけるということです。いつも警戒しているのです」 Rohlf さんにとって、それは、最も近くにあるトイレをよく調べておくこと、そして、レタス、マッシュルーム、チーズなど、ほぼ毎日起こっていた下痢の原因とみられる食品の一覧が徐々に増えていたがそれらを避けること、を意味した。
 現在は退職し、Long Island と Maui にある家を行ったり来たりしている Rohlf さんによると、それは自宅にずっといることを意味することではなかった。お腹の具合で生活を左右されないよう心に決めた彼女は定期的に海外に旅行した。アフリカへ2度、インドへ1度行ったが、後者の地では細心の注意が必要な消化管を持つ者にとって予測される結果がもたらされた。大学の生物統計学者である彼女の夫はしばしば国際学会に招待されたが、彼女が一緒に旅行してくれることを望んだ。「私には最高に辛抱強い夫がいます」と彼女は言い、彼は彼女の問題を理解してくれていたと付け加えた。
 Rohlf さんによると、何年もの間彼女は過敏性腸症候群であるといわれてきた。これは消化器系症状の包括的診断名である。結局 Rohlf さんの発作の制御を可能たらしめた新たな診断と治療を受けることになったのは、新たな胃腸科医が彼女のケースを詳しく調べることになったこの18ヶ月のことである。
 「素晴らしいことでした」と彼女は言う。「四六時中このことについて心配する必要がないというのがどんなものなのか忘れていました」

Womanschronicdigestivedistress02
Rohlf さん(73)は2回目の妊娠まで消化管の症状は全くなかった。しかし、彼女の消化器系疾患は、検査で診断未確定の疾患が明らかになるまで続いた。

‘Just ridiculous’ 「ばかばかしいだけ」

 Rohlf さんは1967年の2回目の妊娠まで全く消化器症状はなかったという。しかしこの年、牛乳と乳製品で下痢が起こった。しかし息子が生まれると症状は消失した。Rohlf さんによると、もう一人子供を産むつもりだったので彼女は主治医に助言を求めた;彼は牛乳あるいは他の食物に含まれる乳糖が消化できない乳糖不耐症の検査を行うため入院を勧めた。そうして1970年に3日間の検査を受けたが、問題を発見することはできなかった。
 2年後、3人目の子供を妊娠している間、激しい下痢の症状が再発した。しかし今回は子供が生まれても消失せず、ブロッコリーや芽キャベツ、そして彼女の好物の一つ、ザウアークラウト(塩漬け発酵キャベツ)などさらに多くの食物で下痢が引き起こされるように思われた。
 「私はただそれらの食べ物を避けるようにしました」と Rohlf さんは言うが、発病の引き金が何かを知ることは徐々に困難となっていった。何の問題もなく食物を食べられることもあれば、その同じ食べ物で食直後にトイレに走らされることもあった。
 1985年、Rohlf さんは何人かの胃腸科医のうち最初の医師に相談した。彼は内視鏡を行った。この検査は、閉塞や腫瘍などの異常を発見するために消化管を観察する小さなカメラをつけた器具が用いられたるものだが何も発見されなかった。その年の後半、彼女を襲う嘔吐と下痢の発作があまりにひどかったので一週間ほど入院したと彼女は言う。検査で胆石が見つかった。これはコレステロールと胆汁が含まれる小さな沈殿物である。その病院で彼女を治療した医師は胆嚢を切除することを勧めた。
 手術を嫌がった Rohlf さんは数週間後、友人を治療したことのある有名なマンハッタンの胃腸科医を受診した。その専門医は胆嚢手術は必要ないと Rohlf さんに告げた;胆石は良く見られるものであり、彼女の疾病が胆嚢に関連したものであるという証拠がなかったからである。彼女が入院した原因は胆石ではなく、細菌感染、おそらく汚染された貝による赤痢だったと考えた。
 当時、Rohlf さんにはより差し迫った問題があった。最初の夫と離婚の只中にあったそれより数年前に、乾癬性関節炎(psoriatric arthritis)と診断されていた。これは鱗のように剥げ落ちる皮膚の疾患である乾癬と関節を破壊する関節炎の両者を引き起こす重篤な自己免疫疾患である。「率直に言って自分の関節炎の方が大きな問題でした」と彼女は言う。「私はそのためひどく手足が不自由でした」医師らはそれをコントロールしようとして強力な薬剤を様々に組み合わせて投与していた。
 警戒と試行錯誤を重ねて消化器症状に何とか対処し、再婚後はうまく生活できていたので用心すれば旅行することができたと Rohlf さんは言う。何年間かは我慢して受け入れていたが、人間というものは往々にして“こんなこと、ばかばかしいだけ”と思う域に達するものである。

A new look 新たな見立て

 2013年、Rohlf さんはうんざりしていた。彼女は料理をしてディナー・パーティーを開くのが好きだったが、彼女の症状が予測できない性質であることから次第に無力感に陥るようになった。医師らもその症状の治療に困っているようだった。何年もの間、種々の検査によって、彼女の大腸の病気や、小麦に含まれる物質であるグルテンを遺伝的に消化できない病気であるセリアック病(celiac disease)など様々な疾患が除外されていた。
 1年前、インドへの2週間の旅行の際、当地では Rohlf さんはほとんど米とパンを主食としていたが、送別の宴で、彼女が安全だとして用意していたいくつかの新鮮な野菜を食べていた。しかし彼女は抗生物質治療を要するほどのひどい腸炎で自宅に戻った。それ以前にも、水質に関しては問題にはならないようなウイーン、ローマ、あるいはパリの町でも下痢の発作に悩まされていた。
 Rohlf さんは病院幹部である友人に消化器疾患を専門にしている施設の名前を尋ねた。彼はマンハッタンにある Mount Sinai Hospital を勧めた。Rohlf さんは最近着任していた消化器医 Gina Sam に紹介された。彼女は食べ物が消化管を通過するときに発生する腸管の運動障害や疾病の専門医である。
 Rohlf さんは2013年4月にSam 氏を初めて受診した。病歴を見直した Sam 氏は、Rohlf さんの症状が過敏性腸症候群や、大腸の炎症によって引き起こされる重篤な慢性疾患である潰瘍性大腸炎の診断に合致しないという事実に驚いた。両疾患においては疼痛が明らかな特徴となっている。Rohlf さんには痛みがなかったのである。
 「その時点で私は microscopic colitis(顕微鏡的大腸炎)を疑いました」Mount Sinai の腸管運動センター長の Sam 氏は言う。潰瘍性大腸炎ほど深刻ではないが顕微鏡的変化が下痢や腹痛発作を起こすことがある;顕微鏡下で細胞を調べることで発見され、これには通常大腸内視鏡検査が必要となる。
 しかし Sam 氏は顕微鏡的大腸炎の所見を発見できなかったため2番目の可能性に目を向けた:小腸内細菌増殖症(small intestinal bacterial overgrowth, SIBO)である。
 胃腸科医が腸内細菌叢(microbiome)の重要性に焦点を当てるようになったためこの疾病が新たな注目を集めている。腸内細菌叢とは腸管の生態系を構成する細菌や他の微生物の集まりであり、食餌の影響を受ける。食物を取り込み消化するという小腸の機能は、ブドウ糖果糖液糖を含む食物中の炭水化物、乳製品中の乳糖、緑色野菜中の食物線維を糧とする細菌の過増殖によって妨げられる;その結果、下痢、腹部膨満、あるいは重症のケースでは栄養不足、さらには栄養失調が起こり得る。
 この疾病にはいくつかの原因がある。その中には糖尿病、自己免疫疾患、腹部手術、特に胃バイパス術などの減量手術がある。この疾病は抗生物質によっても引き起こされるが、Sam 氏によると、それらの薬剤が小腸の自然の微生物叢を変化させるからだという。
 「常にそれが起こる原因が確定されるわけではありません」と彼女は言う。「しかし栄養不足を避けるためには治療が必要な診断名なのです」
 Sam 氏は Rohlf さんに消化管系に発生する水素とメタンを測定する呼気検査を受けるよう勧めた。患者は砂糖と乳糖を含む溶液を飲み、続いて機器内に一定の間隔で息を吹き込む。水素とメタンのうち一方、あるいは両方の数値が上昇した場合、小腸内で発酵が生じていることが示唆され、細菌の過増殖の徴候となる。
 Rohlf さんは4月26日にこの検査を受けた;彼女のメタン濃度は正常だったが、水素濃度が極端に高いことがわかった。この所見から、細菌の過増殖が彼女の下痢を引き起こしているのではないかという Sam 氏の疑念が確定した。
 Sam 氏はリファキシミンを2週間処方した。これは体内に吸収されずに過剰な細菌を殺す抗生物質である。「一度の治療によって著明な結果が得られる患者も見られます。というのもその人たちは一日14回もトイレに行っていたのですから」と Sam 氏は言う。患者の約40%がこの最初の治療に反応するがこの疾病は再発する可能性がある。
 一ヶ月後の再受診の際、Rohlf さんは劇的な改善を報告した。彼女の下痢は、一週間に一回以下にまで減少していたのである。
 「驚きました」と Rohlf さんは言う。この新たな治療で彼女はこれまでほとんど試みることのなかったことができるようになった:夕食後の散歩である。
 しかし、それ以降、彼女には何度か再発があった。一度はひどかったのでこの薬剤の2度目のコースが必要となった。しかし以前の発作ほど重篤なものは一度もない。
 最近、Mount Sinai の栄養士の支援でブドウ糖果糖液糖と乳糖を排除するよう作られた特別食に彼女は取り組んでいる。彼女がブドウ糖果糖液糖と乳糖に不耐症であることがわかっている;これらは細菌の過増殖の原因となり下痢を引き起こす物質中に含まれる。
 「抗生物質を避けている間は、そして乳糖や他の疑わしい含有物を排除した食事で彼女の予後は良好だと思います」と Sam 氏は言う。
 Rohlf さんは、たとえそれまでに数十年を要したとはいえ、自身の改善にはわくわくしており、自分の病気に確定的な説明が得られたことで幸せに思っている。「これまでのところ、たいへんいいです」と彼女は言う。「このことを常に気にかけなくてすむことが何よりの安心です」

小腸内細胞増殖症(small intestinal bacterial overgrowth, SIBO)に関して
メルク・マニュアルを参考に要点をまとめてみたい。
正常な状態においては、
胃酸という強力なバリアがあるため上部小腸内に存在する細菌数は
大腸内に比べると少なく腸液1ml中に10万個未満である。
この数は、正常人では、腸管の運動、胃酸分泌、粘液分泌、分泌性 IgA
などによって維持されている。
ところが腸の解剖学的変化、消化管運動の低下、胃酸分泌の減少
などによって小腸内細菌の異常増殖が起こると
ビタミン欠乏、脂肪吸収障害、さらには栄養不足が引き起こされる。
胃切除術などで解剖学的な変更が加えられた小腸のほか、
糖尿病性神経障害、自己免疫疾患の全身性硬化症、アミロイド―シス
などによる腸管の運動障害もその原因となることがある。
細菌の異常増殖はビタミンB12 や炭水化物などの栄養素を消費するため
摂取カロリーの欠乏やビタミンB12 の欠乏を引き起こす。
また胆汁酸塩が分解され脂肪吸収障害も生ずる。
患者は無症候から軽度の栄養障害、さらには激しい下痢・脂肪便まで
症状の程度はさまざまである。
類似した症状から、多くの患者で過敏性腸症候群と誤診されている
可能性がある。
診断には空腸まで挿入された内視鏡検査によって採取された腸液の培養で
細菌数増多を確認する。
しかしこれは侵襲性の高い検査となるため、
より低侵襲な検査として呼気試験がある(感度は100%ではない)。
ラクツロースやグルコースを用いた糖負荷後の呼気試験や
放射線を発する炭素14のマーカーをつけたキシロースを内服後
呼気中の炭素14を測定するキシロース呼気試験などが行われる。
前者は、腸内の細菌が過増殖している場合、
小腸内で炭水化物が発酵するため、発生した水素が吸収され
呼気中に検出されるという原理である。
後者では異常増殖した細菌によってキシロースが分解されると
14Cが呼気中に出てくるためこれを検知し診断する。
治療は腸管で吸収されないタイプの抗生物質を
経口で10~14日間投与する。
ネオマイシン、カナマイシンのほか、
記事中にあったリファキシミン
検出細菌の感受性試験の結果に基づいて適宜変更する。
有病率の高い過敏性腸症候群との関連性が
議論されているようである。

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