続いては山形の山寺(宝珠山立石寺)。
立石寺は、山形市街から車で
リンゴ、さくらんぼやラフランスの果樹園が続く道を
走ること約30分。
静かな山あいの町の険しい山肌にへばりつくように
寺院や堂宇が散在する名古刹である。
1689年、松尾芭蕉がこの寺を訪れ、
『閑かさや岩にしみ入る蝉の声』という名句を詠んだとされる。
ある夏の日の午後、煩悩を捨て去り山に入れば、
蝉の声以外、何の物音も聞こえず寂寞とした空間で
心澄みわたる思いをした体験をこの句に表現している。
時を越えてそんな静けさを期待して訪れたのだが、
ちょうど紅葉も見ごろの時季とあって、
観光客がわんさと押し寄せ
喧騒の中での参拝となりぬるなり(大丈夫か?)。
1015段の石段を最高点の奥の院・大仏殿までのぼる。
大勢の参拝者たちが皆そろって元気に踏破していたのには感心した。
途中、発汗著しく、息づかいの荒い、
メタボなおじいさんを追い越す。
心筋梗塞大丈夫?と思わず心配になる(無事生還の模様)。
芭蕉の例の句をしたためた短冊が埋められているという
『せみ塚』も人がごった返し、
往事の風情を感じたいという願いは叶わなかった。
この寺の観光地化の是非はともかく、山形市街から程近い場所に
歴史を偲ぶ絶景が存在することには感動した。
ところで、この『閑かさや…』の句から思い出されるのは、
1973年のヤマハ・ポピュラーソングコンテストで
グランプリを受賞した
伊勢功一+卍(まんじ)の『さすらいの美学』だ。
(ちなみにこの年のもう一つのグランプリ曲は小坂明子の『あなた』)。
当時、深夜の人気ラジオ番組『コッキ―・ポップ』では
オープニングに同コンテストのグランプリ曲を流していた。
毎夜遅く『閑かさや…』の吟詠をイントロにアレンジした
この楽曲がラジオから流れるたびに
一種異様な雰囲気に襲われていたことを思い出す(焦りもあったか?)。
この曲をご存知ない方、
是非ともこの風変わりな歌を一度お聴きいただきたい。