MrKのぼやき

煩悩を解脱した前期高齢者男のぼやき

頭痛は腹痛より尊し?

2010-11-26 22:35:21 | 健康・病気

子供の反復する腹痛は心因性としてよいのか?
そういった子供にはどのように接するべきなのだろうか?

11月22日付 New York Times 電子版

A Prescription for Abdominal Pain: Due Diligence 腹痛への対応:適切な配慮を

Functionalabdominalpain

By Perry Klass, M.D.

腹痛の患者は頭痛の患者をいささか羨ましく思っている。
 「どういうわけか頭痛となると重視されるのです」と、オハイオ州の有名な小児胃腸科医であり臨床小児学の教授である Carlo Di Lorenzo 医師は言う。「私はこれまで、頭痛を訴える子供に対して親や小児科医が次のように言うのを見たことがありません。『頭が痛いことなんてないんでしょう。頭痛は本物じゃない』と。腹痛はまさに頭痛と同じように本物なのに」
 実際に本物なのである。そして子供の繰り返す腹痛はよくあることであり、ストレスとなり、しばしば説明が困難である。
 10才の健康診断のためにクリニックに来た少女について考えてみる。ここのところお腹が痛いことがある、と彼女は私に話した。その週にはひどい腹痛があったのだが、診察の時には痛みはなかった。
 彼女は便秘として治療されてきていた;セリアック病やその他の疾患について検査を受けていた。痛みが始まってからの2年間に行われた血液検査や便検査はすべて完全に正常だった。ある晩、腹痛があまりに強かったので彼女は緊急室に行ったが、彼女の腹部レントゲンはやはり正常だった。
 このありふれてはいるが得体の知れない疾患の診断名は『機能性腹痛』:反復性の腹痛のことで、2005年から American Academy of Pediatrics(米国小児科学会)がこの病名を用いている。この疾患には腹痛を説明する『解剖学的あるいは代謝性・炎症性・腫瘍性異常』は何ら認められない。
 私がレジデントだった頃、機能性腹痛について話しながら私たちはしばしばニヤニヤ笑っていたものだった。それは、厄介な患者、胡散臭い症状、あるいは心配しすぎる家族の隠語として扱っていたからである。しかし、最近の研究により、私たちの考え方が生物医学的にひどく浅いものであったことが示唆されている。
 腹痛は特定の子供たちにおいて過敏状態あるいは過活動状態になっている特殊な神経系によって伝えられることが科学者たちに理解されるようになってきている。小児の腸内でバルーンを膨らませた研究によると、機能性腹痛を持つ子供たちは腸内のいかなる拡張に対して異常に敏感になっている可能性があることが示唆された。
 「私たちは、痛みについて “生物学的・心理学的・社会的モデル” の観点から考えています」と、ニュージャージー州 Morristown の Goryeb Children’s Hospital の小児胃腸科医で New Jersey Medical School の小児科学准教授の Joel R Rosh 医師は言う。「子供が『お腹が痛い』と言う時、私にとって腹の立つことは、人が『だめ、そんなことはないはず』と言ってしまうことです」
 「なぜ人はそう言ってしまうのでしょう?何かを感じているはずです!生物学的にはどの程度か?心理学的にはどの程度か?社会的にはどの程度か?」
 その痛みがどのように起こっているのか、そしてどう対処できるのかについて理解が向上することで小児科医のこの問題に対する見方を変えることにはなっているが、それによって、これらの子供たちに適切なケアをすること、彼らのことを十分に、しかし過剰にならないよう気にかけること、そしてとりわけ彼らの気持ちを和らげることが必ずしも容易になったわけではない。
 この疾患は、子供の痛覚経路に影響を及ぼす何らかの初期の傷害、感染あるいは炎症で始まることがあるが、それらは同時に子供の中に心理パターンと不安を、親の中に反応パターンと不安を構成する可能性がある。
 その結果、その子供は、最初の病気が終わっても、消化管からの知覚を極度に感じ続けることになる。親にとっての課題(それは小児科医に引き継がれることになるのだが)はこういった痛みをどれほど熱心に調べるべきか、どれほど多くの検査を子供たちが受けるべきか、そしてどれほどのお金が費やされるべきかということである。
 「十分にわかっていることとしては、超専門医に紹介されることでたちまちコストは5倍に跳ね上がるということです」と、Di Lorenzo 医師は言う。「私たちはもっと多くの検査を行う傾向にあります」彼によれば、親が心配すればするほど、安心のために多くの検査が行われることになるという。
 例の10才の少女については、私はできるだけ専門医に紹介しないよう努めた。彼女はなんとかやっていたし、セリアック病でもなかったし、医学的精査の必要性を示唆する警告徴候は何ら認められなかった。
 彼女が自身の腹痛に対処する方法を学び、不安について話せるカウンセラーと面談することを提案した。私たちが彼女の痛みが想像上のものだと考えているように彼女の母親は思っていた。
「データの大部分から示唆されることは、そういった子供たちを救うのは消化管に働きかけることではなく脳に働きかけることです」と Di Lorenzo 医師は言う。「催眠療法は明らかに薬物治療より有効です」
 効果が期待される薬には、(神経伝達物質としてセロトニンが関与している)腸の神経系に作用する薬剤が含まれ、このため機能性腹痛には低用量の抗うつ薬が有効なことがある。
 University of North Carolina の内科学准教授である Miranda A L van Tilburg 氏は Pediatrics 誌に一年前に掲載された研究の筆頭著者だが、この研究でイメージ誘導療法と呼ばれる治療の有効性が示されている。
 「私たちは彼らに治療的暗示を与えます」と、van Tilburg 医師は言う。「たとえば、手の中でバターのように溶ける何かを手の中にイメージさせ、それがお腹に入ってゆくとお腹が強くなる、とか、好きな飲み物を飲むことをイメージさせるとやはりお腹の中がその特別な層でコーティングされる、とかいったたぐいです」子供たちは、予防的方策として日ごろからイメージングを実践するための CD や説明書を持たされて家に帰されたという。
 私たちの患者はこれ以上医師に診てもらいたくないと言った。彼女はこれ以上血液検査を受けたくないし、これまで聞いてきた消化管に関わる検査も受けたくなかった。母親が言ったように検査でどこにも悪いところがないようなら、母親もまたそういった検査をあまり望まなかった。カウンセラーにかかることには熱心ではなかったが、結局彼女らは同意した。
 それは適切な方策である。「お腹の中に得体の知れないものを住まわせていることは大いに力が奪われてしまいます」と、Rosh 医師は言う。「お腹のために自分の人生が振り回されなくて済む術を学ぶべきでは?」
 どのようにすれば、機能性腹痛が “本物”ではないという考え、痛みで二つ折りになっている子供が単に振りをしているに過ぎないという考え、そしてそれらがすべて頭の中の問題という考えから、医師、親、そして子供たちを脱却させることができるだろうか?
 「もしすべてが頭の中の問題なら、頭痛が起こっていることでしょう」と、Rosh 医師は言う。「明らかにお腹の中で何かが起こっているのです」

米国小児学会のガイドラインによると慢性腹痛とは
「社会生活を阻害するような腹痛が
最低3ヶ月にわたり3回以上起ること」とされているが、
その多くが器質的異常のない機能性腹痛である。
こうした原因のよくわからない腹痛に悩まされている子供は
約5人に1人の割合でみられるという。
しかしこれらに対して医師が適正に対応できてない場合が多い。
そこには多くの医師の誤解、知識不足が影響しており、
親の不安に的確に応じることができていないという問題がある。
子供の一見深刻に見える症状に対して
親が冷静でいられるはずもないが、
その圧力から親を安心させようとして行われてしまう
多くの検査を回避するのもまた医師の務めと思われる。
頭痛なら一回のMRI検査で片がつくのかもしれないが、
お腹となるとそう簡単にはいかなさそうで、
むずかしい問題ではある。

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原因不明に繰り返す嘔吐

2010-11-19 22:21:37 | 健康・病気

いよいよ今年も残すところ一ヶ月あまり。
ずいぶん寒くなってきました。
というわけで、
お待ちかねのメディカル・ミステリーでございます。

11月15日付 Washington Post 電子版

Medical Mysteries
Years of vomiting began when child was just an infant  何年も続いた嘔吐は子供がまだ乳児のころから始まった

Yearsofvomiting

「この病気に私の人生を邪魔させてなるものかと心に決めています」Breanna Billiter は自分の病気についてそう話す。

By Sandra G. Boodman
 Lisa と Brian のBilliter 夫妻には、自分たちの末娘が異常に過敏な胃を持って生まれてきたかのように思えた。
 Bree と呼ばれている Breanna は乳児の時、ベビーフードを一さじ分でも余計に食べると食べた物全部を吐き出していたと、Lisa は言う。Bree は生後 18ヶ月の時、週に一度は、午前2時から午前5時の間に目を覚まし、一度吐いてから眠りについていたのだが、普段は気分不良や苦痛の徴候は全く見られなかった。
 主治医の小児科医は無関心の様子で、Bree の嘔吐は彼女が食べた何かか、彼女の3人の兄弟が家に持ちこんだウイルス、あるいは中耳の感染によるものと考えていた。彼女が2才になって早朝のエピソードが激しさを増してきてはじめて、その医師は脳腫瘍を調べるためにCTスキャンを依頼した。
 CT では何も見つからなかったため、この医師はBilliter 夫妻を安心させようとした。夫妻はマサチューセッツ州 West Barnstable に住んでいる。 「心配ありません。彼女は正常に成長してきています」…その医師がそう告げたのを Lisa は思い出す。
 しかし Bree が成長するにつれ、問題のエピソードは一層激しく、恐ろしい状況になっていった。この女の子は、時には 2、3分間だけ、またある時には数時間も激しく嘔吐し、脱水の危険に陥ったり、病院への受診が必要となることもあった。両親にはエピソードの始まりがわかるようになった。Bree はひどい吐き気を訴え、繰り返しあくびをし、それから嘔吐が始まった。発作の間には彼女は周りのことがわからなくなっていて、話すこともできなかったと、母親は言う。
 しかしそういったできごとが終わって 2、3時間も経つと、Bree は正常に戻り、まるで何事もなかったかのようにごはんをお腹いっぱい食べるのだった。
 「それがただ当り前の生活だったのです」と、現在18才になる Bree は思い出す。彼女は現在、ボストンにある Massachusetts College of Art and Design のファッションデザイン専攻科の一年生である。結局、どこが悪いのか医師につきとめられるまでに 5年以上を要した。それは、おびただしい検査と多くの誤った診断が繰り返された、長く、時に苦痛に満ちた道のりだった。
 Lisa にとって最悪の役回りは、娘の嘔吐の問題を過小に評価し、ほとんど何の助言もしてくれない思いやりのない医師と闘うことだった。「私たちの側にある武器庫は空っぽだったのです」と彼女は思い起こす。

A terrifying episode 恐ろしいエピソード
 2才から6才までの間、Bree は小児科の主治医と耳鼻咽喉科専門医(ENT)の間を行ったり来たりの状況が続いた。そして時には説明を求めて地方の緊急室を受診することもあった。
 初め、彼女が繰り返している中耳の感染症が原因と考えられていた。抗生物質アモキシシリンと胃腸薬ペプトビスモルの組み合わせで最初のうちは嘔吐が止まっており、問題の症状が中耳の感染が軽快傾向にある夏にはほとんど見られないことに Billiter 夫妻は気がついていた。
 しかし、Bree が外科的に両耳にチューブが挿入され、小児の再発性中耳炎に対する通常の治療が行われた結果、同感染症は軽快したものの、問題のエピソードは良くならなかった。耳鼻咽喉科医はこの奇妙なエピソードの原因として耳の疾患を除外した。またレントゲンでも解剖学的に明らかな原因は認められなかった。なぜ Bree には時として数週間から数ヶ月間も症状が見られないことがあるのか、なぜこのエピソードは早朝に始まるのか、なぜ誕生日やクリスマス、学校でのテストなど、良いにつけ悪いにつけ感情の高まるできごとが発作を誘発しているように思われるのか、そういった疑問には誰にも答えることはできなかった。親戚の中には Bree がただ過剰に神経質になっているのではないかと言うものもいた。
 最も恐ろしいエピソードの一つが1999年1月に起こることになる。6才半になっていた Bree が血を吐き始めたのである。恐怖に襲われた母親は近くの緊急室に彼女を車で連れてゆき、顔が筋状の血液で汚れ、ぐったりしている娘を抱えてドアに駆け込んだ。
 医師らは脱水に対して静脈ラインをとり、いくつか検査を行い、彼女に制酸薬と鎮静薬を投与したところ嘔吐は治まった。2、3 時間もすると Bree はずっと良くなった。ERの医師は彼女に潰瘍ができている可能性を疑い Billiter 夫妻に小児胃腸科医を受診するよう勧めた。
 Lisa はボストンにある世界的に有名な Children’s Hospital の医師への紹介を希望したが、かかりつけの小児科医は彼女を専門医に紹介することに二の足を踏んだ。「私は泣き叫びました」と、彼女は思い起こす。そのためその小児科医は Bree を別の病院の胃腸科専門医に紹介した。
 そこの医師たちによる精密検査が始まった。消化管内視鏡検査では潰瘍が見つかったが、その他に血液検査、尿検査、画像検査、さらにはてんかんを調べるための脳波検査が行われた。しかし食道への逆流と軽度の副鼻腔炎以外にはほとんど異常は見つからなかった。
 「Breanna の繰り返す嘔吐の明確な原因は依然不明です」と小児神経科医は診断を下し、詳細不明の代謝性疾患、あるいは頭痛よりむしろ腹部症状が特徴的な腹性片頭痛の可能性を挙げた。
 「彼らには何もつかめていなかったことは明らかでした」と、Lisa は言う。
 看護学の学位を取得していた Brian はそのころ別の小児科医のところで働き始めていた。一家はクリニックを変え、Children’s Hospital に紹介してもらい、小児胃腸科医の Alan Leichtner 氏の診察を受けるために Bree を連れて行った。

A turning point 転機
 現在 Children's Hospital の胃腸科および栄養科の副部長となっている Leichtner 氏は1999年に Bree を初めて診察した時、病名はこれではないかという強い疑いを持っていたと言う。しかし確定的診断がなされるには、嘔吐および関連する症状をきたし得る数十以上の疾患がまず除外されなければならない。
Children's Hospital の小児神経内科によっていくつかの検査と診察が行われた後、Bree の病気が 周期性嘔吐症(cyclic vomiting syndrome, CVS)であることを Leichtner 氏は Billiters 夫妻に告げた。これはあまり知られていない不明な点の多い疾患であり、軽症例からひどく衰弱を来たす重症例まで多様である。
 「診断はパターン認識的アプローチによります」と、Harvard Medical School の小児科学准教授の Leichtner 氏は言う。同氏はこれまで20人以上の CVS の患児を治療している。「彼女はそのパターンに適合したのです」
 1882 年、英国の医師 Samuel Gee によって初めて発見された CVS は、医学教科書 emedicine の記載によると、原因も治療法もわかっていないという。片頭痛との強い遺伝的関連があり(Bree の場合もそうだが、この疾患の多くの患者に片頭痛の既往のある親戚がいる)、CVS を患いながら成長した小児にはしばしば成人後に頭痛が見られる。
 しかし、CVS は腹性片頭痛とは異なるものである。なぜならその最も特徴的な症状は嘔吐であり、腹痛ではないからである。
 通常嘔吐は朝早くか起床時に始まり、しばしばほぼ毎月の同じ時期に見られることもある。それはかなり性質の悪いもので、1時間に6回あるいはそれ以上起こり休まることがなく、それはウイルスや食中毒が原因で引き起こされる典型的な嘔吐でも同じように見られる。誘因として感染、ストレス、興奮などがある。一連のエピソードはしばしば 24時間から 48時間続くが、時にはさらに長く、最も激しい時間帯にはほとんど昏睡状態となることもある。鎮静がしばしば治療の一つとなっているのは、それによって症状の回復や脱水状態の改善が得られるからである。
 この疾患の多くは3才から7才の小児に認められるが、生後6日の新生児や成人の症例も報告されている。米国での頻度は不明であるが、アイルランドのある研究では小児10万人に3人が CVS に罹患し、白人に偏って多いという。
 治療はほとんど対症的であり、脱水を予防し、エピソードの程度を和らげることやエピソードの回避に向けられる。Bree でもそうであったように発作の合い間は CVS の患者は “すっかり元気である” と、Leichtner 氏は言う。
 軽症例の多くは診断されることはなく、本疾患はしばしば誤って腸管のウイルス感染が原因と診断されてしまっていると彼は言う。この疾患を知らない可能性がある医師の間に「もっとしっかり注意を促すことがきわめて重要です」と、彼は付け加えた。
 Leichtner 氏は食道への逆流を合併している Bree の CVS を中等度に重症(moderately severe)と分類している。「私にとってうれしいことは、彼女が7才から成長して大学生となり、この対処能力を身に着けてくれていることです。それは驚異的なことです」と、今も彼女の治療を続けている Leichtner 氏は言う。
 Bree は前よりうまく対処できるようになっていると言うが、依然としてこの疾患はやっかいであると話す。一時期、1年間エピソードなく過ごせたこともあるなど今は発作の間隔が以前より長くなっているとはいうものの、やはり 2、3 ヶ月おきには起こっている。DVS についての説明と受けるべき治療法が明記してある Leichtner 氏からの手紙を彼女は常に携行している。最近も発作でかかったChildren's Hospital の近くに大学のキャンパスがあることも安心に思っている。
 家から2時間離れた大学に娘を行かせることは難しい選択だった。「私たちはとても心配でした。しかし、すべてがいい方向に進んでおり、今は Bree も幸せです」と、Lisa Billiter は言う。
 「最初大学がどんなところか見当がつきませんでしたが、とてもうまくやっていけてると思っています」と、Bree は言う。「この病気に私の人生を邪魔させてなるものかと心に決めています」

いわゆる自家中毒の重症型か?
日本ではアセトン血性嘔吐症とも呼ばれる。
しかし自家中毒って
成長につれ治ってゆく病気だとばかり思っていたが…。
病因は不明だが、ミトコンドリアDNA多型との
関連が示唆されている。
感染、過食、精神的ストレス、睡眠不足が引き金となり
脳内の大脳辺縁系や嘔吐中枢を興奮させることで
嘔吐を繰り返すと考えられている。
決まって同じ時刻に症状が見られるなど
不可解な点も多い。
自家中毒は以前より
末っ子、一人っ子、神経質な子に多いと言われてきた。
そういった子供がつい『頑張りすぎて』しまい、
本人が意識しないまま
激しい嘔吐に襲われてしまうというイメージ。
これに対して決定的な治療がないとなれば、
せめて手厚い精神的サポートなどで
何とかしてあげたい気もする。
それとも実のところ
精神的要因だけで片付けられない疾患である可能性も
あるのだろうか?

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“買うと死にます” という商品

2010-11-15 21:15:54 | 健康・病気

10月からのタバコの値上げで
国内でも一時的に高まった禁煙促進ムードだが、
早1ヶ月半を過ぎ、すでに
禁煙を断念された御仁も多いのではないだろうか?
新大陸発見来500年以上にわたって世界に蔓延し
人の寿命を縮めてきたといわれるタバコに対し
世界的に撲滅運動が進められている。
このたびアメリカは
パッケージにおぞましい絵を載せる作戦に
着手したとのことである。

11月11日付 New York Times 電子版

F.D.A. Unveils Proposed Graphic Warning Labels for Cigarette Packs

FDA がタバコのパッケージの生々しい警告ラベルの図案を公表

Graphicwarning1

タバコの包装の新しい警告ラベル36図案の中からの3図案例

By Gardiner Harris
 ワシントン発――水曜日、連邦医薬品規制当局はタバコ包装用の警告ラベル36図案を公表した。その中には死体の足の母趾につけられたタグを表したものや、母親が自分の赤ちゃんに煙を吹きかけるものがあった。

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FDAによって提案されたタバコのラベルは露骨である。

 今回タバコの箱や大箱のおもての半分を、また広告のすべての5分の1を占めるように図を配置することが決められているが、そういった標示はタバコの危険性を思い起こさせるものを準備することによって喫煙者に禁煙を促そうとするものである。このたびタバコ製品に対して、差し止めまではできないが規制を加える権限が米食品医薬品局に初めて与えられた昨年可決された法律の下、今回のラベルが義務化されることになった。
 公衆衛生当局は、この新しいラベルによって近年沈滞している国の禁煙活動が再び活性化することを期待している。本邦では、成人の20.6%に当たる 4,660万人が、そして高校生の10.5%、340万人のティーンエイジャーが喫煙者なのである。
 毎日、約1,000人の子供やティーンエイジャーが新たに習慣的喫煙者となり、4,000人が初めて吸ってみようとしている。喫煙に関係した疾病で毎年約44万人が死亡し、そのような疾患の治療費は毎年960億ドルを越えている。
 今回のラベルが会社の所有権と言論の自由を侵害するとして連邦裁判所で争うことを明言したタバコ製造業者があった。ケンタッキー州の連邦判事は1月、関連する訴訟で、FDAは生々しい警告ラベルを強制することはできるが、タバコの包装から魅力的な色合いを排除することを目的とした規制案は表現の自由を侵害するものであると裁定した。この判決は上訴中である。
 「図による警告の利用は、こういったタバコのリスクに対する意識になんら貢献しないし、単に喫煙者を冒涜し喫煙行為を非正当化するだけです」と USA Gold タバコのメーカー、Commonwealth Brands の副社長 Anthony Hemsley 氏は言う。
 ラベルの図案の中で最も注意をひくものに、男性が喉に開けられた孔から煙を吐き出しているものがある。喉頭癌に侵された喫煙者では鼻や口の代りに気管切開部から呼吸をしなければならなくなる場合がある。しかし、今回のラベルの図案はヨーロッパで義務化されたものほどおぞましいものではない。ヨーロッパでは黒ずんだ歯と腐りかけた口の不気味な写真がありタバコの包装にさながらハロウィーンのイメージをもたらしている。
 「今日の発表は、子供たちやアメリカ国民の健康を守る画期的な出来事となります」と、保健社会福祉省長官の Kathleen Sebelius 氏は水曜日に語った。
 米国はタバコ製品に健康上の警告を掲載するよう義務付けた最初の国であり、現在同国内で販売されているすべてのタバコの包装には『公衆衛生局長官からの警告:喫煙は肺癌、心疾患、肺気腫の原因となり、妊娠に問題を生ずる可能性があります』といった控えめな警告が記載されている。
 しかし、39のその他の国々ではそのような簡潔な警告をはるかに越える喫煙の影響に対する大きく描かれた生々しい描写を義務付けている。水曜日の声明によって、17世紀のヨーロッパ人による最初の入植以来世界的なタバコ乱用を作り出し拡大させたアメリカが、数世紀間に及ぶタバコに関連した死亡の蔓延を減少させようとしている国々の活動へ向かってようやく一歩近づいたことになる。
 「これは米国の歴史上、タバコの健康への害を警告することにおける最も重要な変革です」と Campaign for Tobacco-Free Kids(子供をタバコから守る運動)の Matthew L Myers 会長は言う。
 図による警告は、文章のみで表示されているものより若者の注意をひきやすいことが研究によって示されている。それらは吸うつもりのタバコの数を減らし、禁煙を進め、若者が吸い始めないようにするのである。
 しかし、最もおぞましい図は印象的ではあるが、それも喫煙者には早晩無視されてしまう徴候がみられると保健当局は述べている。カナダ保健省は最近、政府が Canadian Medical Association Journal からの非難を受けてよりおぞましい警告を導入する計画を取り下げた。
 「それほど生々しくない画像でも、時として行動を変えさせる効果を発揮することがあります」と、食品医薬品局のタバコ製品センター長である Lawrence R Deyton 医師は言う。
 FDAは、喫煙者にタバコをやめさせ、若者には吸い始めないようにさせるにはどのラベルが最も有効かを明らかにする目的で喫煙者 18,000人に対する調査をある会社に依頼した。結果は数週のうちに発表される見込みであり、6月までに36の図案の中から9つに絞り込む参考資料として、一般人や専門家のコメントと併せて用いられることになっている。
 2010年10月22日には、製造業者はこれら生々しい警告を表示しないタバコを米国内で販売目的で流通させることはもはや認められなくなる。9つすべての警告を一様に割り付けることが義務化されるのである。
 健康局副長官の Howard K Koh 医師はインタビューの中で、この新しいラベル規制は、州や地域の禁煙運動を支援するための2億5,000万ドルを盛り込んだオバマ政権の包括的タバコ規制計画の一環であると述べている。
 「私たちは新しいFDAの規制当局を支援するだけでなく、タバコの乱用を終わらせようとする国を挙げての取り組みを再び活性化させたいと考えています」と、彼は言う。
 タバコの小売業者はこの新しい包装の表示という課題に直面することになる。なぜなら、多くの店は、この警告が表示されるタバコの包装の表面のみを陳列するため、銘柄がわかりにくくなるからである。葉巻やばらのタバコからの収益が多い高級タバコ店は、高額な製品のそばには警告が目につかないようにしたいかもしれない。
 「タバコを店に置くのをやめることになるかもしれません」と、Washington の Georgetown Tobacco の支配人 Ben Blackman 氏は言う。
 FDAのコミッショナー Margaret Hamburg 医師は、同局は最終的な9つを選んだあともそれらのラベルの有効性を調査し続けると述べた。そしてもし既に選んだものより別のラベルが有効であると判明すれば変更を行うことになると Hamburg 医師は言う。
 「我々は調査範囲をサブ集団まで広げ、どういった集団に何が最も有効であるかを見つけ出す努力をしています」と彼女は言う。「今回の規制が有効であれば、誰かがタバコの包装に反応するたびに喫煙の健康への影響が明らかにされるでしょう」
 Mayo Clinic の Nicotine Dependence Center の所長 Richard D Hurt 医師は、これらのラベルが命を救うことになると期待を寄せているが、一方でタバコにかかる連邦税のさらなる引き上げや職場での制限強化も必要であると言う。
 「その根拠に、生々しい表示のラベルが喫煙者に禁煙を促すことに差異があるということがあります」と彼は言う。
 しかし、タバコ製造会社が箱のカバーやその他の包装でラベルの効果を鈍らせるような方法を考え出してくる可能性を Hurt 医師は予測している。「彼らが何をしてくるか、面白くなりそうです」と、彼は言う。

これまで『肺癌になるよ』とさんざん脅されても
『死んでもタバコは止められん』と
頑なに吸い続けてきたヘビースモーカーたちには、
どんなに生々しい絵を見せつけようと
効果は期待できないように思われるが…。
とはいえ、喫煙歴の浅いスモーカーには
有効なのかも。
このように
多くの国々でタバコ撲滅の努力が進められる一方、
分煙すら徹底されず、
何もアクションを起こさない日本は
この流れから大きく取り残されてしまいそうだ。
それにしても、
『買うと死にます』てなメッセージをつけた商品って
ホントにあり?

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トロイの木馬はあるけれど…

2010-11-10 23:24:21 | 健康・病気

昨年11月22日のエントリー『バリアを打ち破れ』で
悪性脳腫瘍のグリオブラストーマ(神経膠芽腫)に
侵された Sugrue 氏の闘病についての詳しい記事を紹介した。
この疾患の生存期間中央値は15 ヶ月であるが
発症から18 ヶ月が経過した今も彼は元気に過ごしている。
積極的な戦略によるこの不治の病との戦いの続報である。

11月8日付 New York Times 電子版

A Direct Hit of Drugs to Treat Brain Cancer 薬を直接到達させて脳腫瘍を治療する

By Denis Grady

 それは絶望的な病気に対する窮余の策だった。14ヶ月前、医師の手によって細いカテーテルが動脈経由でDennis Sugrue 氏の脳まで誘導された。それによって彼らは腫瘍が摘出された脳の部位に直接 Avastin(アバスチン)という薬を注入することができた。それは、この手技が安全かどうかを見極めることと、どのくらいの量の Avastin に脳が耐え得るかを調べることを主目的に立案された臨床試験だった。しかし、当時50才だった Sugrue 氏はこの試験によって脳腫瘍から解放されることも望んでいた。

Avastin

グリオブラストーマの実験的治療では Avastin という薬が脳の患部に直接散布される

 彼は、既知のすべての治療に抵抗性の脳腫瘍、グリオブラストーマに罹っていた。昨年 Edward M Kennedy 上院議員を死に至らしめたのと同じ病気である。Sugrue 氏の腫瘍は2009年4月に診断され、通常の方法で治療を受けた。すなわち手術、放射線および化学療法である。しかし数ヶ月のうちに、腫瘍は再増大した。彼が Avastin の臨床試験に参加したのはそんな時だった。
 年間国内で約10,000人がグリオブラストーマを発症する。多くの人で標準的治療が功を奏するように見えるのだがそれは一時的である。そしてそこで時計は止まり始める。治療を行っても、生存期間の中央値は約15ヶ月である。2年間生存できるのは患者の25%に過ぎない。
 本疾患は多くの研究の焦点となっており、恐らくこの先何年もその状態が続くだろう。グリオブラストーマや他の脳腫瘍に対して数百を数える研究が行われている。中でも、ワクチン、薬物の併用、さらには特別な薬剤到達技術が注目される。進歩はわずかな前進をもって評価される。それは生存期間の2、3ヶ月の延長とか2年間生存の患者が増加したとかである。論文上ではそういった前進は微々たるものに見えるかもしれないが、患者にとっては、得られた時間は、前進がなければ間に合わなかったはずの卒業や結婚に振り分けられることになるかもしれない。
 グリオブラストーマの治療には二つの大きな障壁がある。第一に有効性の高い薬がないこと、第二に、もしそのような薬があったとしてもそれを腫瘍に到達させるのが困難であることである。多くの薬は脳内の毛細血管周囲に並んでいるしっかりと詰まった細胞のシステム、すなわち血液脳関門( blood-brain barrier )を通過できない。この関門がすべての脳腫瘍の治療を困難にしている。
 Sugrue 氏が参加した、再発グリオブラストーマの患者に対するこの臨床試験は New York- Prebysterian/Weill Cornell の脳外科医 John Boockvar 医師によって行われている。医師らはまず、一時的に血液脳関門を開くマンニトールとよばれる薬を注入し、それから Avastin を腫瘍領域に送りこむ。Avastin は腫瘍に必要な新生血管の成長を阻害する。この薬剤はグリオブラストーマへの使用が認可されているが、それに対して腫瘍が耐性を獲得する可能性がある。
 通常は Avastin は静脈内に点滴される。しかし、Boockvar 医師らは動脈を通して腫瘍部位までマイクロカテーテルと呼ばれる細い管を誘導し、そこから薬を注入することによってはるかに高用量の薬で腫瘍を叩きたいと考えた。
 Sugrue 氏は少ない量で治療された2例目の患者だった。その後、高用量(彼が受けた量の7倍)でも安全に用いられることが研究によって示された。
 最初の30例の報告が先月 The Journal of Neurosurgery 誌にオンライン上で発表された。何例かの患者、特にそれまでに Avastin を投与されなかった症例で腫瘍の縮小が見られている。しかし、1例は治療により脳梗塞を来たし一側の麻痺を生じた。この方法が生存期間を延長できたかどうかを判定するにはまだ時期尚早であるという。
 「私たちは一年前に始めたばかりです」と、Boockvar 医師は言い、初期の患者はきわめて進行例であり、Avastin の一回投与しか受けていないことを付け加えた。「私たちはこれまでに15例、患者の半分を失っています。しかし残りの人たちは元気に生存しています」
 彼のチームはマンニトールとマイクロカテーテルを用いて他の薬も脳内に直接届かせる新しい実験的治療を始めている。将来は、Avastin に一定の薬剤が組み合わされる可能性がある。
 血液脳関門通過治療の専門家で、ロサンゼルスの Cedars-Sinai Medical Center の脳神経外科部長 Keith Black 医師はたとえ脳内に直接注入した場合でも 生存率を大いに改善させるほど効果が Avastin にあるかどうかは明らかでないと言う。より有効な薬剤が求められている。
 「我々は薬を到達させることはできますが、グリオブラストーマについては、たとえば、それによって薬の限界を越えることはできたとしても生存率はそれほど大きく改善しないと考えています」と、Black 医師は言う。「ちょうど、中に入れる兵士が揃っていないのにトロイの木馬を持っているような感じなのです」
 グリオブラストーマの患者の中にワクチンが有望と思われる例があると彼は言う。さらに、動物実験で、勃起機能改善薬であるバイアグラやレヴィトラが、特に腫瘍周囲の血液脳関門を開きそれによって抗がん薬が到達可能となることが示唆されている。理論的にそれらの薬剤はマンニトールと異なり錠剤の形で内服できる。乳腺や肺のような他の臓器からの転移性腫瘍を含めた様々なタイプの脳腫瘍の患者でこの発想を試す計画であると Black 医師は言う。他の臓器癌の脳への転移は年間約10万人に認められる。
 Sugrue 氏が参加した臨床試験はまだ進行中である。そして Sugrue 氏自身も追跡中である。彼はコネチカット州 Starnford に妻の Donna、ティーネイジャーの子供たち Molly と Tim と一緒に住んでいる。高校最上級生である Molly は看護学校への進学を希望している。Sugrue 氏は今も定期的に Avastin の静脈注射を受けている(脳内への注入は一回だけだった)。現在腫瘍再発の徴候は見られない。
 しかしこの一年は楽ではなかった。手術創の感染により何度も手術が必要となった。彼は視野の一部を欠いており、運転はできない。理学療法や作業療法が必要である。いくらか仕事はしているがヘッジファンドの業務にフルタイムで戻ることはできないでいる。しかし、すばやい機転とユーモアのセンスは失われてはいないと、妻は言う。そして「彼がだめな人間だったら、彼が体験したことでとっくに死んでいたでしょう」と付け加えた。
 もしも一度それを受けるように言われたら、臨床試験にエントリーするだろうか?
 「間違いなく」先週の電話インタビューで Sugrue 氏は答えた。「実際、どこかにもっと臨床試験がないか Boockvar 医師に尋ねようと思っています」

血管内皮細胞増殖因子に対するモノクローナル抗体である
Avastin(一般名:ベバシツマブ)は
米国では2009年に悪性神経膠腫に対する
経静脈投与薬として認可されている。
しかし日本ではまだ認可されていない。
(治癒切除不能の進行・再発直腸結腸癌、
扁平上皮癌を除く切除不能な進行・再発非小細胞肺癌
に対しては承認)
しかし、グリオブラストーマの場合、
この Avastin も効く人には効くが
決定的な薬とはほど遠いようだ。
幸い今のところ再発の徴候が見られていない Sugrue 氏だが、
せめて娘さんが立派な看護師となるまで
脳腫瘍の再発がないことを祈るばかりである。

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ヘリカル CT が喫煙者を救う

2010-11-08 23:33:15 | 健康・病気

一部の国内新聞でも報道されていたが、
肺癌のハイリスク患者に対する CT による
スクリーニング検査が肺癌による死亡率を
有意に下げたというお話。

11月4日付 Washington Post 電子版

Study: CT scans reduce lung cancer deaths by 20% compared with X-rays 研究:CT スキャンはレントゲン検査に比べ20%肺癌死亡を減少させる
By Rob Stein

Lungcancer

 最新技術のCTスキャンを用いた喫煙者と喫煙経験者のスクリーニングによって、最も多い死亡原因となっている肺癌による死亡を有意に減らせることが初めて明らかになったと、木曜日、連邦保健当局から発表があった。
 以前へピースモーカーだった、あるいは現在へピースモーカーである53,000人以上の中高年の人たちを対象として行われた待望の研究により、毎年のスクリーニング検査を通常の胸部レントゲン撮影で受けた人に比べて、低線量のヘリカルCTを受けた人で20%死亡者が少なかったことが明らかになった。
 この結果がたいへん衝撃的であったため、この研究を後援した National Cancer Institute(米国国立癌研究所)は、一般市民や治験の参加者への注意を喚起するため早期にこの National Lung Screening Trial(全国肺検診試験)を中止した。
 「肺癌のリスクの高い人たちの中で多くの命を救える可能性があることから、今回の結果は公衆衛生上重要な意義があります」と NCI の Harold Varmus 所長は言う。「本邦の数千万人の現喫煙者および喫煙経験者を肺癌死亡から守ろうとするこれからの努力において重要な要因となるでしょう」
 肺癌は年間、米国民の196,000人以上に発生し、159,000人以上死亡する。これは乳癌、直腸結腸癌、膵臓癌、前立腺癌を合わせた以上である。他の癌による死亡の減少においては大幅な進歩が得られているが、肺癌は依然として治癒が得られにくいままであり、ほとんどの患者は死亡する。米国においては現喫煙者および喫煙経験者は9,150万人に上るとみられ、それらすべてで肺癌のリスクが高い。
Benefits and risks 有益性とリスク
 CTスキャンは胸部レントゲンによる2次元の透過性画像と異なり、肺の3次元画像を作り出す。CTスキャンでは、腫瘍がまだ小さく手術で比較的摘出しやすい段階の腫瘍が見つかる可能性が高く、患者の生存の機会も高まる。
 今回の結果は米国癌協会、米国肺協会などから歓迎されている。
 「今回の前向きな治験結果により、癌との戦いの歴史において単独因子による癌死亡率の大きな減少を知る機会が得られたのです」と、シカゴにある Rush University Medical Center の研究担当者 James L Mulshine 氏は、Lung Cancer Alliance(肺癌連盟)から発表された声明で述べている。
 CT スキャンはほとんどの病院で施行可能であるが、CT による肺癌のスクリーニング検査について特異的に勧告を出すには時期尚早であると専門家は強調している。どういう人が有益であるか(それはおそらくより少ない本数を吸う人が対象となる)、またどのくらいの頻度でスクリーニング検査を行うべきかを明らかにするにはさらなる解析が必要であると彼らは述べている。
 今回の結果が、不必要なスクリーニング検査を受ける人の増加につながる可能性があるという懸念を表明している人もいる。今回のCT検査ではスクリーニングを受けた人の約25%で以上が認められたがそのほとんどは偽陽性であることが判明している。
 「あらゆるスクリーニング検査と同様に、過剰診断の可能性や不要な手術など考慮すべき有害事象の可能性も存在します」と、米国癌協会の Otis W Brawley 主任医学担当官は言う。「私たちはマンモグラフィーなど他のスクリーニング検査の長期解析から、検査に関係する利益と害悪の両方を考慮することが重要であることを学んでいます」
 医療の専門家らは様々な健康問題に対するスクリーニング検査の有用性を詳細に調べてきた。近年、乳癌に対するマンモグラフィー、前立腺癌に対する PSA 検査、あるいは子宮頸癌に対するパパニコロ塗抹検査などが乱用され、患者に不要な検査や治療を受けさせているのではないかということが問われてきた。
 「公衆衛生各機関は、今回の結果の即時的効果にうまく対処することができるでしょうか?また、フォローアップの治療が行える場所でスクリーニング検査が提供され、同様に有益と考えられる人たちに対して念入りに計画されたスクリーニング検査を展開することが確実にできるでしょうか?」 ニューヨークの Memorial Sloan-Kettering Cancer Center の医師であり研究者である Peter Bach 氏はこう e-mail に書いて送ってきた。「それとも発見されたものが何であれそれをどのように扱うか、あるいはスクリーニング検査にふさわしい患者をどのように選択するかについて何ら定まったプランのないままに企業家精神にあふれた放射線医が次々と有益性の重要性を誇張した全面広告や広告看板を出すのを見ることになるのでしょうか?」
 過去の研究では、より治療しやすい最も早い時期に肺癌を捉える手段としての CT によるスクリーニングの有用性については功罪入り混じった結果が得られている。CT スキャンの有用性が放射線被曝のリスクや偽陽性によって生じる不必要な生検やその他の治療に関連する危険性や不安を上回るかどうかは依然不明のままである。
Emphasis on smoking 喫煙に対する重視
 専門家たちは喫煙が肺癌の主要な原因であり、この疾患に取り組む最善の手段は決してタバコを吸わない、あるいは禁煙することであると強調してきた。
 「今回の結果によって私たちの気持ちが喫煙を抑制しようとする継続的な取り組みから反らされてはなりません。喫煙は肺癌やその他の疾患の主要な要因であり続けるからです」と Varmus 氏は言う。
 一回の CT スキャンは約300ドルかかり、大規模なスクリーニング検査となると相当高額となる可能性がある。現在、メディケアやほとんどの民間健康保険では肺癌スクリーニング検査のための CT スキャンは補填されない。しかしメディケアおよびメディケイドサービスの関係者たちは今回の結果を検証する方針だと言う。
 2002年に始まった2億5,000万ドルの今回の研究は国内33ヶ所で53,500人の男女を対象とした。被験者は30年間一日一箱の喫煙に相当する喫煙者とした。また肺癌の症状や病歴を持つものは除外された。被験者らは、CT スキャンか通常の胸部レントゲン撮影かのいずれかで毎年のスクリーニングを3回受けるようランダムに割り当てられた。
 誰が肺癌を発症しているかをいるため5年間被験者らは追跡された。もし癌が診断されれば患者は標準的治療を受けた。CT スキャンを受けた被験者では肺癌の死亡者が354人であったのに対し、胸部レントゲン検査を受けた被験者では442人であり、肺癌死亡率は 20.3%少なかった。
 CT スキャンを受けた人の肺癌死亡の減少はさることながら、この研究ではすべての原因による死亡も7%低かった。なぜそういう結果が生じたのかは定かではないが、他の癌や心疾患や肺疾患などのその他の疾患が CT スキャンによって発見されたことに起因する可能性があると研究者らは推測している。

確かにハイリスクの喫煙者にとっては
CTによるスクリーニング検査で
肺癌が早期発見され、生存率が改善されることだろう。
しかし、それでは受動喫煙によって肺癌になる人には
何ら恩恵はない。
肺癌については早期発見も重要であるが、
やはりなんといっても禁煙の推進が最優先だと思うのだ。

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