MrKのぼやき

煩悩を解脱した前期高齢者男のぼやき

コサックの再興と新たな火種

2014-01-28 20:56:44 | 国際・政治

ソチオリンピック開幕まであと10日。
日本勢の活躍が楽しみだが、
一方で、当地の治安も心配なところである。
ところで、私たちはコサックと聞くと、やはり
しゃがんで足を交互に前に出すあのすごいダンスを
思い出してしまうのだが、
コサックには帝政ロシアとの長年の因縁が
あったようである。

1月25日付 CNN.com

Once Russia's henchmen, Cossacks now helping with Olympic security
かつてロシアの忠実な部下だったコサック兵が今オリンピックの警備を手伝う
By Zarifmo Aslamshoyeva, CNN

Cossack

数百人のコサック兵士がロシア、Sochi(ソチ)に配備され、2,014年冬季オリンピックに向け警備を行っている。右側の兵士がコサックで丈の高い帽子で区別される。ロシアはこれまでコサックと不安定な関係にあった。

 2014年冬季オリンピックが近づき、丈の高い毛皮の帽子と飾りのついた伝統的な上着を着た数百人のコサック兵がロシア・Sochi(ソチ)の通りをパトロールしている。
 その先祖を数百年前にたどることのできるこれらのロシアの兵士は、その重力に逆らうようなダンススタイルで西側に知られている。さらに本質に近いところでは、コサックは長く西ロシア、南ロシアおよびウクライナにおける叛乱と軍事力を象徴していた。
 その名声は、ロシアの文豪 Leo Tolstoy(レフ・トルストイ)や Alexander Pushkin(アレクサンドル・プーシキン)によってさらに高まった。これらの著書はコサックをめぐる神話の形成に貢献した。
 しかし、彼らの丈の高い帽子の中には暗い歴史が隠されている。
 ロシアの封建制度への反抗姿勢が知られていたコサック国家は、一枚岩のロシア帝国を作るべくロシア皇帝と手を結んだ。この騎馬軍団はシベリアをはじめとする国の広大な領域にロシアの統治をもたらすのに貢献した。
 14世紀~16世紀の間、コサックはロシア人との地域戦争でロシア皇帝のために戦いそれによって皇帝の忠実な部下という評判を集めた。ロシア皇帝のために行動したコサックは、19世紀ロシアにおいて pogroms(ポグロム)すなわちユダヤ人の大虐殺を行った。
 しかし、時代とともに皇帝はロシア帝国に反するコサックの刑罰の免除や十分な制御ができなくなったことに対し警戒するようになった。そのため、帝国、およびそれに押し付けられた支配に抗して叛乱分子に転じたとき、皇帝は無情にもコサックの指導者や兵士たちを処罰した。この例として 18 世紀末に Catherine the Great(エカチェリーナ2世)に対して Yemelyan Pugachev(エメリアン・プガチョフ)が率いたコサックの叛乱をみることができる。
 しかし、20世紀初頭の Bolsheviks(左派勢力ボリシェビキ)の勃興の際、皇帝とコサックはいつの間にか再び手を結んでいた。コサックは、1917年のボルシェビキ革命とそれに続くロシア内戦の際、White Movement(白軍)を編成した皇帝ニコライ2世と反共勢力を支援した。
 (後に共産党となる)ボルシェビキが政権を握ると、彼らは革命の反対勢力として多くのコサックを虐殺した。
 20世紀後半のソビエト連邦の崩壊以降は、ロシア、および旧ソビエト連邦においてコサックの文化やプライドの復興が見られている。ロシアは警備強化の支援をコサックに頼ってきたが、これは2014年冬季オリンピックの主催都市としてソチが指名される前からのことである。
 New York Times によると、昨年、ソチのあるロシアのクラスノダール地方政府は、多くはイスラム教徒である不法移民の急増を抑制するために約1,000人のコサックの巡回員を雇ったという。
 「諸君にできないことがコサックにはできる」とクラスノダール知事 Aleksandr Tkachev 氏は地元警察に説明した。
 彼のコメントはソチの先住民、少数民族、および移住者からの抗議を招いた。ロシアで民族主義や外国人嫌いが高まっている今、コサックの復活が起こっていることは偶然ではないと識者は指摘する。
 今回、コサックに新たな役割が与えられたことは“厄介な問題”を引き起こしていると Jamestown Foundation のアナリスト Valeriy Dzutsev 氏は書いている。Central Asial-Caucasus Institute (CACI) Analyst に Dzutsev 氏が記載しているところによると、“コサックの再生の過程を支援するために”コサックがモスクワに対してさらなる権限と土地を要求し始めていることがその理由だという。
 そしてロシアがコサックに頼ることは「北コーカサスの土着の人々とコサックとが衝突する事態に必然的につながっていく可能性がある」と Dzutsev 氏は警告する。
 これまでのところ、ほとんどのロシア人はこのコサックの復活を受け入れているが、これはトルストイやプーシキンの著書に追い風を受けたコサックを取り巻く神話によるところがある。
 しかし、モスクワがコサックに対してこの軍属の伝統的衣装を含めたすべての神話の実現を求めるようなときには、コサックとロシア帝国の間のこれまでの動乱の歴史を思い出すことが重要となるだろう。

コサックとは、一般に、特定の民族や部族ではなく、
南ロシアからウクライナなどで活動していた騎馬集団のことを指す。
これは農奴制を逃れた農民や没落貴族からなるロシア人に加え、
モンゴル人、カザフ人、オセット人、ウクライナ人、
トルコ人などの混合集団である。
ロシア帝国はシベリアやカフカスなど辺境防備にコサックを利用し
それらの自治を抑制し統治を維持してきた。
現在のコサックは、自らをコサックの子孫と称したり、
コサックの伝統を継承しようとしたりする人々であり、
その数はロシア全土で700万人に上るとされている。
懸念されるのは、コサックの価値観が、
ロシア民族主義やロシア正教の強い影響を受けていることから、
異民族排斥の信条を持つ者もが多いことである。
今回厳戒態勢のソチでは周辺地域のコサック 800人以上が
警備に投入されたといわれている。
ソチが隣接するカフカス地方は
五輪阻止のテロが警戒されるイスラム過激派をはじめとする
異民族のひしめく地域であり、
コサックと異民族の衝突の危険がさらに高まることが
心配されるのである。

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パティスリー“マーズ”へようこそ

2014-01-25 20:29:00 | 科学

このたび火星上で奇妙な石が発見されたそうである。
形だけでなく成分もずいぶん特異なのだという。
この石には果たしてどのような意味があるのだろうか?

1月24日付 Washington Post 電子版

Mars rover Opportunity finds mysterious ‘jelly doughnut rock’ on the Red Planet  
火星探査車 Opportunity(オポチュニティ)が赤い惑星(火星)上で謎の“ゼリー・ドーナツ石”を発見

Marsroveropportunity

By Meeri Kim,
 ほぼ10年前、NASA が“blueberries(ブルーベリー)”と名付けたものを探査車 Opportunity(オポチュニティ)が火星上で発見した。これは小さな鉄分の多い球体で、火星の表面に散乱しており、太古の水の存在を示唆していた。今回、この古い探査車は、謎の“ゼリー・ドーナツ石”の発見によって、十年の探査活動に花を添えた。
 洋菓子サイズのこの石は、これまで科学者たちが火星上で見てきたものすべてと異なっており、それ以前にはなかったところに奇妙にも現れたのである。
 「外側周辺は白く、中央には暗赤色のへこみがあります。ちょうどゼリー・ドーナツに似ています」と Mars Exploration Rover Mission の主任調査官で Cornell University の天文学者 Steven Squyres(スティーヴン・スクワイアズ)氏は言う。彼は Pasadena にある California Institute of Technology で先週行われたこの探査車の10周年を称える祝賀イベントでこの発見を発表した。
 この石は Endeavour Crater(エンデバー・クレーター)の辺縁で Murray Ridge と呼ばれる場所に数週間前に現われた。Murray Ridge は Opportunity がそこで 6回目の火星の冬を迎えていた場所である。前後の写真(冒頭の写真参照)では同じ地面の一画が示されており、そこには小石やゴツゴツした石がころがっている。しかし12日後に撮られた後の方の写真には白色とえび茶色の奇妙な物体の出現が明確に捉えられていたのである。
 「それは出現したのです、明らかにあの場所に現われたのです」と Squyres 氏は言う。NASA はそれを“Pinnacle Island(直訳すると尖塔島、尖閣島?)”と呼んでいる。
 この石がその場所にどのようにしてやってきたのかについて彼は2つの説を考えているが、いずれも皆が期待するような多分に刺激的なものではない。一つの可能性は、Opportunity の走路に付近の隕石の衝撃が岩屑の破片を飛ばしたというものである。もう一つは、より可能性の高い説明であると Squyre 氏が考えていることだが、探査車の6つの車輪の一つが地面から拾い上げたというものだ。
 Pinnacle Island が逆さまの状態にあったため、何十億年もの間大気にさらされていなかった火星の石の下側を偶然発見することができたのだろうと科学者たちは考えている。NASA のチームはその組成を綿密に調査しているが、これまでのところこの石はこれまで見てきた他のものとは全く異なっている。
 「私たちはドーナツ部分とゼリー部分の両方の写真を撮っています」そのイベントで彼は言う。「我々は昨日、ゼリー部分の組成に関して初めてのデータを得ました」
 その暗赤色部分には多くの硫黄とマグネシウムが認められ、さらに、これまでに火星で測定された物質の2倍のマンガンが含まれている。Squyres 氏によると、この結果は NASA の科学者をひどく混乱させており、これが意味することについて激しい議論を呼び起こしているという。
 同チームは、Endeavour Crater における粘土形成した表面下の水性環境についての新たな Opportunity による結果も発表しており、これは1月23日に Science 誌に掲載されている。露出した岩の一部は、これまで Opportunity によって調査された中でも最古の物質で、火星が棲息可能であった時代からのものである。
 隕石衝突以前に存在した水はほぼ中性からわずかに酸性であった可能性があり、生物に有利であった条件を提供するものである。この研究は、かつて“飲むことのできる”水をたたえていた早期の湖の存在を示唆する新型探査車 Curiosity(キュリオシティ)の最近の発見を補完するものである。
 両探査車は火星の歴史像の解明に貢献している:すなわち数十億年前の中性の水を有する温暖で湿潤な環境から、より酸性となり水分活性の減少に至るまでの歴史である。そして、この30億年で火星はきわめて乾燥した生物の棲めない場所となってしまったのである。
 もともとわずか90日間の任務が予定されていた Opportunity は、1月25日に火星到着10周年が祝賀される予定となっている。この10年間に同探査車は火星の地表をほぼ25マイル走行した。しかし、この信頼できるロボットにも老朽化が見られるようになっている。
 「前側の操縦装置が故障しており、ロボットのアームには関節炎が見られます」1月23日の記者会見で Mars Exploration Rovers のプロジェクト・マネージャー John Callas 氏はそう述べた。彼はさらに Opportunity について、そのフラッシュメモリーの障害により“物忘れがある”と表現した。しかし全体として見ると、その長寿命と、火星理解への多大な貢献に対して同チームはうれしい驚きを抱いている。
 最初の年、Opportunity は着陸地点の近くで NASA の科学者たちが、その大きさと球形の形から“ブルーベリー”と名付けたものを発見した。それらは地表一面に散乱しており、さらにブルーベリー・マフィンのように岩に埋め込まれていた。同チームは、この球体が液体水の可能性を示す徴候であると考えた。なぜなら、解析により、それらが、通常水性の環境で形成される酸化鉄である赤鉄鉱(ヘマタイト)でできていることが明らかになったからである。
 「私の言いたいことの一つは、火星は私たちに新しいことを投げかけ続けている、ということです」と Squyres 氏は言う。「それが探査の本質なのです」

この探査車、10年経った今でも、
遠く離れた火星で存分な活躍を見せているとは驚きだ。
今回、この探査車は、天候の回復を待つために
1ヶ月以上同じ場所から動いていなかったところ、
奇妙な石の突然の出現に気付いたようである。
これがただの石ころでないとすると、
そこから新たな発見につながることも期待される。
そんな石ころをゼリードーナツ風と形容するところは
いかにもアメリカらしい。
ところで、NASA がこの不思議な石を
『Pinnacle Island(尖閣島)』と名付けたのはなぜなのか?
まさか日本に配慮して、
なんてことは、ないだろうな~。

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“極端”例に本質を探る

2014-01-19 00:15:28 | 健康・病気

肥満は公衆衛生上の大きな問題である。
しかしそれを阻む安全で決定的な抗肥満薬はいまだない。
そこで、肥満が主症状となる極端な疾患をもとに
肥満全体のメカニズムの解明を
目指そうと考える人たちがいるらしい。

1月14日付 New York Times 電子版

Seeking Clues to Obesity in Rare Hunger Disorder 空腹感異常をきたすまれな疾病に肥満の手がかりを探る
By ANDREW POLLACK,

Pladderwillisyndrome01_2
Kristin Tremblay さんはフロリダ州 Gainesville の自宅で夕食を作るのを手伝っている。彼女には抑えきれないほど空腹となってしまう病気がある。

 Lisa Tremblay さんは、野外のクックアウトで娘の Kristin さんが残飯から蟻まみれになったホットドッグをひっぱり出してまさにそれを食べようとしていた時のことをいまだに恐怖を感じながら思い出す。
 Kristin さんには絶え間なく抑えきれない空腹感がもたらされるまれな遺伝性の疾患がある。Prader-Willi syndrome(プラダ―・ウィリー症候群)というこの病気を持つ人の中には胃が破裂するまで食べて死ぬものもいる。そして当然のことながら患者の多くは肥満である。
 「彼女はドッグ・フードやキャット・フードを食べたこともあります」とフロリダ州 Nokomis に住む Tremblay さんは言う。現在28才の Kristin さんが子供のころ、彼女がひどく空腹であることを訴えるため食事を与えられていないのではないかと近所の人が考えて社会福祉当局に電話をかけたことがあるという。
 かつては良くわからず注目されていない疾患だったこの Prader-Willi 症候群は、ある単純な理由から研究者や製薬会社から多くの注目を集めるようになっている。過食や肥満といったはるかにありふれた公衆衛生上の問題の手がかかりが得られる可能性があるためだ。
 「これらは重症の肥満の素晴らしい人間モデルなのです」と言うのはルイジアナ州 Baton Rouge にある Pennington Biomedical Research Center の元専務理事で教授の Steven B. Heymsfield 博士である。「これらのきわめてまれな疾患の発症機序を解明すれば通常のタイプの肥満解明のヒントが与えられることになるでしょう」
 肥満の人たちの体重を減らすために開発されているある薬が Prader-Willi 症候群の患者で一応の成功の兆しを見せている。この beloranib(ベロラニブ)という薬は、脂肪合成を抑制し、脂肪の利用を促進することで効果を発揮すると考えられている。この薬の開発を行った Zafgen 社によると、小規模なトライアルで体重と体脂肪を減らし、食べ物を求める衝動を低下させたという。
 「Prader-Willi 症候群の患者で実際に試みられとりあえず成功を見たのはこれが最初です」と University of Florida の小児内分泌学の准教授でこの臨床試験の治験主任者である Jennifer Miller 医師は言う。
 Prader-Willi 症候群と一般的な肥満との関連について慎重になるべき理由が存在する。それは両者の背後にあるメカニズムが十分に理解されておらず異なっている可能性があるからである。
 しかし Prader-Willi 症候群の患者運動団体は、同症候群と一般的な肥満の問題とを関連づけることが彼らの疾病に対する学術的ならびに製薬業界的研究を呼び込むことになるという願いからその関連性を積極的に推し進めている。
 一方、Zafgen 社の結果について慎重になる理由も存在する。このトライアルにはわずかに17人しか含まれておらず、その主たる部分はわずかに4週間しか続いていない。また体重減少というこの試験の重要な測定値を含めた一定の尺度では、この薬剤とプラセボの間の差は統計学的に有意ではなかった。
 それでも、Zafgen 社の最高経営責任者の Thomas E. Hughes 氏は、この結果は十分に強力であり同社は Prader-Willi 症候群の治療に beloranib が承認されることをめざすさらに規模の大きい臨床試験を行う予定であると語った。
 「私たちには、治療が間違いなく最も困難な疾病で私どもの薬の有益性を立証する手段が与えられているのです」と彼は言う。
 別の会社、Ferring Pharmaceuticals 社は、同社の薬剤 carbetocin の試験をまもなく開始する予定である。本薬剤は、人間の性愛を促進することからしばしば愛情ホルモンと呼ばれるoxytocin(オキシトシン)と同じ様な働きをする。フランスでの小規模な臨床試験で、オキシトシンは本疾患に関連した行動的問題を改善させるだけでなく食欲も抑える可能性があることが示唆されている。
 新興企業の Rhythm 社も Prader-Willi 症候群に対して実験的肥満薬 RM-493 の試験を行う予定である。減量薬 Belviq を販売する Arena Pharmaceuticals 社も Prader-Willi 症候群は興味深い領域であると述べている。さらにいくつかの学術的試験も進行中で、並外れた活動量となっていると支持者からも声が上がるような状況が生み出されている。
 「2014年と2015年の私たちの最大の問題は試験を行う十分な家系を確保することです」と Foundation for Prader-Willi Research の科学審議会の議長である Theresa Strong 医師は言う。
 Prader-Willi Syndrome Association はこの疾患を持つ米国における患者が少なくとも8,000人はいるとみている。患者のほとんどが15番染色体のかなりの部分を欠失している。同染色体の完全なコピーを二つ持っている例もある。
 強烈な食欲がしっかり見られない場合でも Prader Willi 症候群の患者には遅延した代謝が認められており、彼らが甚だしく体重増加しやすいことを意味している。また大部分の人たちに知的障害や自閉症的行動が見られる。
 患者ならびに介護者にとっては体重を抑制することが持続的な闘いとなっている。
 「私たちは冷蔵庫にも、冷凍庫にも、さらには食糧庫にも鍵を掛けています」14才の息子 Zachary 君が Prader-Willi 症候群である、Denver に住むヘッジファンドのコンサルタント Mark Greenberg 氏は言う。
 この家族は台所のゴミ入れにまで鍵を掛けている。もし Zachary 君が家から出ようとすれば警報が鳴るようにしている。
 食欲は、それが強いことで人間が自立して生活したり仕事を持ったりすることが不可能になることから、非常に大きな問題となる。
 メリーランド州 Baltimore の Jim Kane さんは、高校の卒業証書を持つ娘の Kate さんが他の従業員の食べ物を奪うことでいくつかの職場から解雇されてきたという。
 彼によると彼女は2、3本のグラノーラ・バーを食べようとして空港で万引きをして逮捕されたこともあるという。
 科学者たちには Prader-Willi 症候群の背後にある機序はわかっていないが、強烈な食欲は、空腹をコントロールする脳の領域である視床下部の機能障害に基づいているようである。
 研究者らによると、アルツハイマー病、高コレステロールなど他の疾患におけると同じように、その最も極端なケースや最も早期に発症するケースを研究することにより多くのことが明らかになる可能性があるという。
 「Prader-Willi 症候群においてそれらが明らかにできたとしたら、食欲について信じられないほど多くのヒントがそのメカニズムから得られることになるでしょう」と National Institutes of Health の内分泌学者でこの症候群やその他のまれな摂食に関連する疾病について研究を行っている Joan Han 博士は言う。
 たとえば、彼女自身の研究では、Prader-Willi 症候群の患者の血中では brain-derived neurotropic factor(脳由来神経栄養因子)というたんぱくレベルが低いことを発見している。さらにこのたんぱくの欠損と肥満をと関連づける他の研究もある。
 しかし一部の専門家によると Prader-Willi 症候群の患者は食欲増進ホルモンである ghrelin(グレリン)の値が高いなどの点で他の肥満の人たちと異なっているという。
 「Prader-Willi 症候群には、それが肥満すべての代役、あるいはモデルとはならない可能性を示唆する特異な特徴がいくつか存在します」と Vanderbilt University の Vanderbilt Kennedy Center のセンター長である Elisabeth M. Dykens 氏は言う。彼女は発達障害を研究している。
 しかし、Zafgen 社にとっては Prader-Willi 症候群は比較的限られた投資で市場へのより早い近道となる可能性を示すものである。一般的な肥満の治療として beloranib が早期の試験で良好な結果を示している一方、その使用の承認を得るには重大な副作用を除外するために数千人の患者を対象とした臨床試験が恐らく必要となるだろう。
 一方、Prader-Willi 症候群で承認を得るにはわずかに数十人から数百人の患者での試験が求められるだけで済む可能性がある。また同疾患では治療が切望されていることから副作用に対して寛容となると思われる。さらに Prader-Willi 症候群はまれな疾患であることから、Zafgen 社はOrphan Drug Act(オーファンドラッグ法)の下、優遇税制措置や市場優先権が与えられることになり、製品に対して非常に高い薬価を設定することが可能となる。
 Zafgen 社の beloranib は酵素の methionine aminopeptidase 2(メチオニン・アミノペプチダーゼ2)を阻害することで効果を発揮する。この阻害により、脂肪の燃焼を促進し、その形成を減じるとみられている。
 Zafgen 社の試験の17人の患者はフロリダ州 Gainesville にある Prader-Willi 症候群の患者のためのホームの住人だった。そこでは食餌が厳格に管理されている。この試験期間中、毎日のカロリー摂取量は、beloranib が体重や食欲に影響を及ぼすかどうかをみるのを容易にするため50%増量された。
 Kristin Tremblay さんはこの試験の参加者の一人だった。彼女の母親は、この試験が終了してすぐにKristin が家に帰ってきたとき大きな変化には気付かなかったという。
 しかし奇妙なことに Kristin さんはサラダをたいらげるのに苦労したという。そして、この試験中カロリーが上がったにもかかわらず体重は増えなかった。
 「もう一度それを試みるつもりです。彼女に害を及ぼさなかったことは確かなのですから」と Tremblay さんは言う。

難病情報センターのHPによると
Prader-Willi 症候群は、
1956年内分泌科医のプラダーと神経科医の ウイリーによって
はじめて報告された。
内分泌学的異常として肥満、糖尿病、低身長、性腺機能不全、
などが見られ、
また神経学的異常として発達遅滞、筋緊張低下、
特異な性格障害・行動異常などが特徴的に認められる。
発生頻度は10,000~15,000人に一人で
日本国内には約4,000人の患者がいると推測されている。
本症候群は、
ゲノムインプリンティング(ゲノム刷り込み)の関与が
初めて見出された疾患で ある。
一般に哺乳類は父親と母親から同じ遺伝子を二つ受け継ぐが、
いくつかの遺伝子については片方の親から受け継いだ遺伝子のみが
発現することが知られている。 このように遺伝子が両親の
どちらからもらったか覚えていることを
ゲノムインプリンティングという。
染色体15q11-13領域に存在する遺伝子群は、
その由来が父親か母親かによって働きが異なっているため、
同じ遺伝子異常であっても、
父親由来の遺伝子群の欠失ではPrader-Willi症候群、
母親由来の欠失ではAngelman症候群という全く異なる疾患となる。
Prader-Willi 症候群は
新生児期には筋緊張低下、色素低下、外性器低形成を3大特徴とする。
筋緊張低下により哺乳障害が認められる。
色素低下が著明な場合には白皮症と誤診される場合もある。
また外性器低形成は、女児では目立たないが、
男児では停留精巣が90% 以上に認められる。
3~4歳頃から過食傾向が始まり、
幼児期には肥満、低身長が目立ってくる。
学童期には、学業成績が低下し性格的にはやや頑固となってくる。
思春期頃には、二次性徴発来不全、肥満、低身長が認められ
頑固な性格からパニック障害を示す人がいる。
思春期以降は、肥満、糖尿病、性格障害・行動異常などが
問題となる。
過食は視床下部満腹中枢の障害に起因すると推測されている。
いくら食べても満足感がなく、常に空腹を感じることから、
しばしば盗食も見られる。
年長になるにつれ性格の偏りが顕著となり、
執拗さ、頑固さ、こだわり、あるいは思い込みが強くなり、
周囲とのトラブルが増すようになる。
行動異常では、万引き、虚言癖、など反社会的行動が目立つ場合がある。
最も問題となる合併症は、糖尿病、呼吸障害、側弯症である。
基礎代謝が低く、運動能力も低いことから、体重は増加の一途をたどり、
糖尿病の発症頻度は10歳以上では30%におよぶ。
呼吸障害では、しばしば中枢性と閉塞性の混合性呼吸障害をきたし
低年齢児では突然死が起こることもある。
また、側弯症の頻度は40%を越え
治療で用いられる成長ホルモンとの関連が考えられているが、
詳細はわかっていない。
本症候群に対する根本的な治療はなく
治療指針もいまだ定まっていない。
肥満に対する基本的な食事療法や運動療法、
低身長に対する成長ホルモン投与、
性腺機能不全にたいする性ホルモン治療、
精神的問題に対する向精神薬投与、などが行われる。
糖尿病に対する治療は、摂食異常があることから
血糖のコントロールが困難なことが多い。

以上のように Pladder-Willi 症候群の患者は
激しい過食に加え、性格や行動の問題を抱えているため、
本人はもちろん、家族は苦悩の日々を
送っておられるようである。
プラダ―・ウィリー症候群児親の会HP 参照
これまで有効な治療法がなく
藁をもすがる思いで生きてきた人たちにとって
かすかでも光明の感じられる治療薬が登場してきたことは
大きな救いと思われるにちがいない。

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動脈の壁が“解離”する

2014-01-10 11:38:47 | 健康・病気

昨年12月30日、
ミュージシャンで音楽プロデューサーの
大瀧詠一氏が突然死去した。
死因は解離性動脈瘤だったとのことだが、
解離性大動脈瘤とは報じられておらず
どの動脈の解離だったかは明らかでない。
動脈解離が大動脈や椎骨動脈に起こった場合、
死に直結する可能性がある。
しかし椎骨動脈の解離では
早期に診断されない場合も多いという。
一体なぜなのか?

1月6日付 New York Times 電子版

Symptoms of Torn Artery Are Easy to Miss 動脈解離の症状は見逃されやすい

Symptomsoftornartery

By JANE E. BRODY
 ブルックリンに住む35才の Karin Satrom さんは妊娠23週までは体調はよかったが、ある夜、「酔っぱらっているかのように、ひどく、ひどくフラフラするように」なったという。彼女の夫は横になるように言ったが彼女は目を閉じていても部屋は回り続けた。
 午前中依然として激しくめまいが続き二重に見えたため Satrom さんは主治医に電話をかけたところそのまま New York Methodist Hospital に運ばれた。彼女の症状には妊娠に関連した理由は何も認められなかった。しかし、神経内科医は脳の後半部に血液を供給する頸部の動脈の解離を疑った。
 MRI でその診断、椎骨動脈解離が裏付けられ、その結果彼女が経験した一過性脳虚血発作、あるいは mini-stroke(小規模脳梗塞)による永続的な脳の損傷は残されていなかったことも明らかになった。
 Satrom さんはただちに Lovenox(一般名エノキサパリンナトリウム=低分子ヘパリン)の注射を受けたが、この抗凝固薬を彼女は、3月ころに赤ちゃんが生まれるまで一日2回注射(皮下注)を続けなければならない。それから、問題の動脈が回復しているかどうかを見るために再度検査が行われることになる。
 6週間が過ぎた現在、Satrom さんは「自分の頭部を回転するようなことは何もしないこと、水泳も禁止、運転も禁止」という医師からの命令を忠実に守っており、症状も認められていない。
 Los Angeles の Cedars-Sinai Medical Center の神経外科医で椎骨動脈解離の専門家である Wouter I. Schievink 医師によると、Satrom さんが本格的な脳梗塞になる前に彼女の症状を起こしたこの原因に注目した洞察力を有する医師にかかったことは幸運だったという。しかしすべての人が同じように運がいいとは限らない。
 解離は、大量の出血を起こすような動脈にあいた穴とは異なる。むしろ、亀裂は血管の内層の一部に生じ、脳への血管の流れを部分的に、あるいは完全に閉塞する血管壁内の血液の貯留を引き起こす。
 まれに、解離は、血管の外側の壁の膨隆、すなわち動脈瘤を形成するが、痛みを伴う場合もあれば伴わない場合もある。
 椎骨動脈の解離は、若年成人の脳梗塞の最も多い原因の一つであるが、最初は何ら顕著な症状を生じない可能性がある。症状があったとしても、それは頭痛あるいは頸部痛というようにしばしば特異的ではない。手遅れになるまで症状が無視されたり、間違ってはるかに深刻度の低い病気が原因とされてしまうこともある。
 Johns Hopkins University School of Medicine の神経内科医の Rebecca F. Gottesman 医師と共著者による1,972人の患者を対象にした75の研究のレビューでは、Satrom さんに見られたようなふらつき、めまいが最も高頻度に訴えられた症状となっていた。めまいは同研究の患者の58%に見られており、頭痛(通常後頭部)は51%、頸部痛は46%だった。
 しかし患者のほぼ4分の1は診断時に頭痛や頸部痛を訴えていなかった。
 ふらつき、頭痛、および頸部痛はきわめてありふれた症状だが、そのほとんどは椎骨動脈解離に関係しないものである。しかし、そのような症状が突然起こり、それらが尋常でないような場合、遅滞のない緊急の医学的注意が求められると Gottesman 医師はインタビューで答えている。
 脳梗塞の最大の危険は動脈が解離を起こしてから初めの2、3週間に訪れることから迅速な診断が重要であると彼女らは述べている。しかし、その割合は不明だが、解離の一部は症状を起こすことはなく、治療を行わなくても自然に治癒すると Gottesman 医師は言う。
 椎骨動脈解離はスポーツ外傷や自動車事故で起こり得る。激しい咳やくしゃみ、嘔吐、頸部の過伸展(美容室で起こるような場合や、天井にペンキを塗ったり、ヨガを行うなどでも起こる)あるいはカイロプラクティック手技などの軽微な外傷でも解離がおこることが報告されている。カイロプラクティック手技の役割が議論されているが、それは患者が知らないまま既存の解離の症状となっている頸部痛にカイロプラスティック治療を求める可能性があるからでありそれ自体が原因というわけではない。「もし頸部痛がこれといった理由もなく突然起こったり、多少なりともいつもと違うようであれば、カイロプラクターのところに行く前に考え直すべきです」と Gottersman 医師は言う。
 Gottesman 医師の研究では解離を来し得るはっきりとした外傷を訴えた患者は半数以下であり、Ehlers-Danlos 症候群や Marfan 症候群など解離のリスクが高まる結合組織疾患を持つ患者は8%以下であった。
 その他の危険因子として、高血圧症、動脈壁に異常な細胞増殖を引き起こす fibromuscular disease(線維筋形成異常)、片頭痛、妊娠(妊娠は全身の結合組織を弛緩する)、および最近の呼吸器感染症などが挙げられる。
 重症度は、罹患動脈が頭蓋骨に入る前に解離が起こるかそれとも入った後に解離が起こるかに依存する。後者では症例の半数以上で脳と頭蓋骨の間(くも膜下腔)に出血が起こり、はるかに予後が不良となる。現在、通常動脈構造を強調する造影剤を用いて行われるMRIが、椎骨動脈解離の診断のゴールドスタンダードとなっている。
 解離の主たる危険は、血栓の形成、あるいは連続的な血栓形成であり、それが脳に運ばれ脳梗塞を引き起こす。一過性脳虚血発作は、脳梗塞が起こり得るという警告徴候であり、常に深刻に受け取るべきである。
 数ヶ月あるいはそれ以上に及ぶ抗凝固薬(多くの場合ワルファリンであり、これは商品名クマディンとして知られる)による治療が、脳を障害する血栓形成を阻止するのに必要である。この治療法を正当化する比較臨床試験はないが、専門家らはその論理を立証している。(Satrom さんは Lovenox を投与されたが、妊娠中はワルファリンよりその方がはるかに安全なためである)
 ほとんどの解離が自然に治癒するものの、6ヶ月間の抗凝固療法後も脳梗塞に関連した症状が持続する場合さらなる介入がしばしば必要となる。その際、損傷した動脈はステントあるいはコイルを留置する方法で治療されることがある。
 もし解離動脈が完全に閉塞され、有効な抗凝固療法が行われているにもかかわらず症状が起こり続ける場合、動脈の損傷部位に代わる外科的なバイパス術が行われる。

動脈解離とは動脈の壁の内側が裂ける疾患である。
脳動脈の解離はその8割以上が椎骨動脈に発生する。
椎骨動脈は脳のおよそ後ろ3分の1に血液を送る動脈である。
この動脈は首の後側で頸椎の孔を通って頭蓋骨の底の穴から
頭蓋内に入る左右一対の動脈で、頭蓋内に入って左右が合流する。
椎骨動脈が解離を起こし破裂するとくも膜下出血を来し
激しい頭痛を生ずる。
動脈解離の300~600人に一人がくも膜下出血を起こすという。
一方、解離を生じただけでも頭痛を生ずることが多いが、
この場合程度は比較的軽く、片頭痛や緊張型頭痛などと
区別することはほとんど困難である。
また動脈壁の剥がれた箇所から枝分かれする血管の閉塞、
解離した動脈自体の閉塞、あるいは
解離した部分にできた血栓が飛ぶことなどによって脳梗塞を生じる。
椎骨動脈の行き先は脳幹、小脳のため
頭痛・めまいに留まらず、
四肢の麻痺や意識障害など重篤な症状を来すことがある。
なお解離が生じても無症状に経過する場合も見られる。
解離の原因はいまだ解明されていない。
カイロプラクティックなどの頸部への運動ストレス、
スマホなどの使用に伴う頭部姿勢維持の負担、
頭部の打撲や頸部の回旋などが誘因となることもある。
一般に動脈硬化との直接的関係はない。
出血で発症したケースでは再出血を防止するため、
開頭手術や、カテーテルによるコイル塞栓術が行われる。
出血以外のケースに対しては、
解離の状況をMRIなどで追跡しながら、
抗血小板療法や抗凝固療法が選択されるが
有効性のエビデンスはいまだ得られていない。
比較的若年者に
突然の頭痛・頸部痛・めまいなどの症状を見た場合、
本疾患の可能性を常に念頭に置いておく必要がある。
いずれにしても椎骨動脈解離の実態には不明な点も多く、
症例の蓄積が行われているところである。

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クールダウンで乗り越える

2014-01-07 09:14:47 | 健康・病気

昨年12月29日、
フランスのリゾート地メリベルで、元 F1 ドライバー(2012年引退)の
ミハイル・シューマッハ氏(44)がスキー中に事故に遭い頭部を打撲。
重症の頭部外傷で意識不明が続き手術を受けたとも伝えられている。
一体どのような経過なのか?

12月31日付 CNN.com より

Why induced comas help injured brains なぜ昏睡への誘導が損傷した脳に有効なのか?

Michaelschumacher

By Elizabeth Landau, CNN
 元 F1 ドライバー Michael Shumacher(ミハエル・シューマッハ)がスキー事故で重症の頭部外傷を受け昏睡状態でフランスの病院に運ばれた。
 12月29日の事故からの回復を得るため医師団はこのドイツ人ドライバーを医学的に誘導した昏睡状態と低体温状態に保っていると、このドライバーが治療を受けているフランスの University Hospital Center of Grenoble の主任麻酔科部長 Jean-Francois Payen 医師は述べている。
 肘や膝を損傷したとき生ずる炎症と同じように外傷による脳損傷は脳の腫脹を引き起こす。しかし、Emory University School of Medicine、Department of Emergency Medicine の救急神経科学部部長 David Wright 医師によると、脳は頭蓋骨の内部に閉じ込められているため脳の圧が上昇し、血流など多くの重要な機能が制限されるという。
 「頭蓋骨は閉ざされた空間となっているので問題なのです」Weill Cornell Medical College の神経学および神経科学の教授 Nicholas Schiff 医師は言う。「脳が腫脹し始めると、その唯一の行き場は下方から外に向けてであるため脳幹が損傷されます。そうなると死亡する可能性があります。多くの組織の損傷が生じます」
 そこで医師らは脳のエネルギー需要を下げようとする対策を講ずる。それによって血流量と圧が減少し、脳を休止させることになる。
 「エンジンを冷却し、回復の過程をある程度ゆっくりと開始させるような感じです」と Wright 氏は言う。
 昏睡の誘導には通常、麻酔薬の propofol(プロポフォール)が用いられるがシューマッハのケースでどんな薬剤が用いられているかについては医師団から発表されていない。
 シューマッハの損傷の具体的なことや同病院で受けた手術の内容は公開されていないため Wright 氏や Schiff 氏は彼の具体的なケースについてコメントはできていない。
 頭部外傷は、周囲にどのように反応するかによって軽症、中等症、重症に分類される。軽症の外傷では、患者は覚醒し注意を払い、命令に応じる。中等症の外傷では患者は混乱し、あるいは攻撃的で命令に応じない。重症の外傷患者は昏睡状態にある。
 頭部に大きな衝撃を受けると、脳は頭蓋骨の内部で前後に動き、さらなる伸張性の損傷や障害が生じると Wright 氏は言う。
 二次性の“次々と起こる”出来事で脳に有害な化学物質が放出されることによりさらなる障害が生ずる可能性がある。脳細胞内へカルシウムなどのイオンがどっと流れ込むことで細胞死を生ずる。このプロセスが脳の腫脹を引き起こす。もし細胞が即座に死ななかった場合でも基本的に細胞自体を死に至らしめるに十分な損傷を受けてしまう可能性がある。これはアポトーシスと呼ばれる現象である
 「治療の目標はそのようなすべてのプロセスを実際に減らし遅くすることです。それによって可能な限り多くの脳細胞を救うことができるのです」と Wright 氏は言う。
 シューマッハの体温は摂氏34度から35度(華氏93.2度から95度)の間に保たれ、麻酔薬が投与されている状態である。これは治療的低体温と呼ばれるもので、目標となる体温の範囲よりさらに低温になれば有害になると Wright 氏は言う。
 体温を下げる治療は一般に頭蓋内圧を低く保つのに有効であるが、この治療が最終的に転帰を向上させることについてのエビデンスは明らかではないと Wright 氏は言う。しかしそうすることで脳が必要とするエネルギーも下がり、脳の腫脹を遅らせることはできる。
 外傷に対する脳の炎症反応の最も重大な経過では48から72時間後にピークを迎えるため、通常医師たちは低体温を3日間から5日間維持する、と Wright 氏は言う。

ミハエル・シューマッハのその後の容体については
いまだ詳細は不明だが、脳検査の結果は“非常に悪く”
安定しているものの依然危機的な状況にあるという。
また生命の危機は脱したが
片麻痺が残る可能性が高いという報道もある。
目撃者によって撮影されていた動画によると
シューマッハが岩に頭をぶつけた際には
時速20㎞以上は出ていなかったとのことである。
ただしシューマッハが滑っていたのが
2つのスロープの間にある整備されていない区域だったという。
さほどスピードが出ていなかったというのが事実とすれば
ヘルメットを着用していたにもかかわらず、
脳に重症の損傷を生じてしまったとなると
まさに頭の打ちどころが悪かったという他はない。
この昏睡誘導・低体温療法に期待し
彼の回復を祈るばかりである。

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