もとよりインターネットに載せようとして
作られたビデオでないことはわかる。
ここまで世界中の反響があるとは
誰も予想していなかっただろう。
どこにでもいそうな
髪のボサボサでデブで不細工な田舎のオバちゃんが
オーディションのステージで歌い始めたら、
あまりにすばらしい歌声と歌唱力で審査員や観客が仰天。
歌を聞き始めた途端、パフォーマンス前には彼女をバカにしていた
会場の人々の態度が一転、賞賛の嵐、というビデオ。
主役が美女で、同じような抜群の歌唱を披露していたとしたら、
まったく話題になっていなかっただろう。
意外性、アンバランスが大うけとなったというわけだ。
(オーディションに出たというのは既に大きな契機といえそうだが)
イギリスの片田舎のオバちゃんが
イギリスだけでなく、世界中でブレイクしてしまうところが、
ネットの計り知れないところである。
4月20日付 Washington Post 電子版
How a Villager Became the Queen of All Media (田舎人が全メディアの女王となったわけ)
インターネットで Susan Boyle のようなケースにお目にかかったことはない。彼女のオンラインでの人気は歴史的記録に一直線、である。
“Britain's Got Talent”という実際にあるショーでの Boyle のパフォーマンス・オンライン・ビデオが、一週間の視聴回数で記録を更新、しかもその勢いには留まる気配はみられない。YouTube、MySpace、その他のビデオ配信サイトからのビデオを調査している Visible Measures によれば、彼女のテレビインタビューとチャリティCDとして10年前に録音された“Cry Me a River”の最近公開された彼女による実演のビデオ・クリップを含めた Boyle が主役のすべてのビデオは 8,520万回の視聴を記録した。それらのうち2,000万回近くが一晩で視聴された。
Susan Boyle のオーディション・ビデオ(YouTube)
最初 YouTube に投稿され、その後オンライン上に広まったこの7分間のビデオは、すでに数ヶ月間流されているはるかに知名度の高いビデオ映像を簡単に上回った。Visible Measures の関係者によれば、Tina Fey による Sarah Palin の物まねは3,420万回を記録し、選挙の夜の Obama 大統領の勝利スピーチは1,850万回視聴されている。
小さなスコットランドの町から来た地味な女性 Boyle が席捲したのはオンラインビデオだけではない。彼女のウィキペディアのエントリーは、先週の日曜日に作られてから約50万件の閲覧を呼び込んだ。週末にかけて、彼女の Facebook のファン・ページにはコメントが殺到し、一分間に何百人もの新しい会員が加わるという状況もみられた。金曜日午後1時にはこのページの会員数は15万人に達した。昨夜までに100万人以上となっている。
実際、眠ることのないインターネットでは、彼女による24時間不休の舞台が演じられ、YouTube など聞いたこともないという47才は、今やウェブで最も人気のあるエンターテイナーとなっている。「彼女は今まさに世界の歌手なのです」と YouTube のスポークスマンである Julie Supan 氏は言う。彼女は同社に在籍して4年になるが、このような短い期間にこれほど多くの視聴回数を記録したビデオは他に覚えがないという。
メディア観測筋にとって、Boyle のオンライン上の偏在化のスピードとその範囲の広さは、古いメディア(彼女のパフォーマンスはイギリスのテレビが最初に放映した)と新しいメディア(そのパフォーマンスは YouTube、Twitter、そして Facebook へと進んでいった)との融合が、一つの媒体から次のものへ、そして同時に人から人へと、全メディアの到達範囲を拡大せしめていることの証拠となっている。
「“ウイルス性”オンラインというものへ向かう事柄についての言及は多くあります。しかし、“ウイルス性”というのは、誰かがウイルスを作り出し、まるで人々にそのウイルスを運ぶ以外には選択肢がないかのように知らないうちにそれを感染させてしまうことを意味します。しかし、今回は、それが Susan Boyle をどんどん突き進めていることではありません」とマサチューセッツ工科大学 Comparative Media Studies program の責任者で、“Convergence Culture: Where Old and New Media Collide”の著者である Henry Jenkins 氏は言う。水曜日に Boyle のオーディションのビデオを見た後で、彼は友人たちに e-mail を送った。「心温かく感じ、それに酔いしれるのにはもう少し時間をかけるべきだ」彼はそう e-mail の件名に記した。そして Twitter にログオンし Boyle について彼の1,798人の支持者たちに警告した。
「我々が実際に極めて実効力のある手段として Susan Boyle に見ているものは“波及性 spreadability”の力です。自身のオンライン・コミュニティの中の利用者たちは Susan Boyle をオンラインの中で広めようと意識的な選択を行っているのです」と、Jenkins 氏は続けて言う。
いついかなる時でも、どのような特殊な場所でも、誰かが Boyle をオンラインで伝えているということだ。インタビューを受けたオンライン・ユーザーたちはこのオーディションのビデオによって奮い起こされた感情は様々であると言う。笑い、皮肉、そして驚き。「常軌を逸しているように聞こえるかもしれませんが、彼女は私たちが生きている瞬間にとって格好の感情の触発剤となっているのです。あざけるような笑い声を聞いた時、尻ごみして逃げ出すこともできたでしょうが、彼女はやり遂げたのです」と、Las Vegas でレストランを経営している2児の父親である Jose Salazar さん(31)は言う。
序盤、中盤、そして終盤、さらにヒロイン(明らかに Boyle)、おなじみの悪役を揃えた一幕ものとしてのビデオの質の良さに惹かれたと言う視聴者もいる。また、あれはやらせであると確信していたという人もいる。結局、彼らは、知らず知らずのうちにビデオを繰り返し見て、なじみのない言葉を調べるためにネットに入っている自分に気づくのだ。Elaine って誰?"Les Misérables"って何?なんで彼女は "I Dreamed a Dream" を歌ったの?
Mark Thompson 氏はイギリス、ヨークシャーの自宅のリビングで、Boyle がグラスゴーにある Clyde ホールで観衆に衝撃を与えてた例の "Britain's Got Talent" を見た。Boyle の歌を聞いた10分後、この42才のエンジニアは Boyle を収めた YouTune チャンネルを作成した。彼は "SusanHasGotTalent" と題し、彼女のその7分間のオーディションをアップした。
「そのチャンネルは私に関連するものではありません。それは Susan についてのものです」と Thompson 氏は電話インタビューで答えた。
その数時間後、マサチューセッツ州 Williamstown の Williams College の大学2回生の Will Slack 氏はニュース収集サイト Reddit で最も読まれている記事の一つに興味を持った。びっくり仰天のパフォーマンスについての何かだったが彼はその見出しを記憶していた。それで、彼は、Boyle のオーディションを視聴し、Boyle についての Scotosman.com と Sunday Express のニュース記事を読んだ後、彼女がウィキペディア記事にふさわしい、十分注目に値する人物であると判断した。記事が信頼のおけるニュース・ソースに基づいている限り、対象者とは無関係に誰でもウィキペディア記事を作成することができる、と Slack 氏は言う。この20才の男性は、17才のころから Wikipedia 記事を作成、編集してきた。
「Susan Boyle は間違いなくウィキペディア記事になる価値があります。彼女のしたことを考えてみてください!」と Slack 氏は言った。
ビデオ内容には演出が感じられる。
いかにもわざとらしい。
自分が最初に見ていたら、さらりと見流していただろう。
しかし、それを面白いと感じ、ネットに載せようとする人がいた。
それを見て、さらにネットに流布しようとする人もいた。
それに惹かれる莫大な人たちがいた(あんただろ)。
さらにコメントを加える人たちがいた(あんただろ)。
それにしても、話題の Susan さん。
とても美人とは言い難いが、どことなく親しみのある、
飽きのこない顔、何度も見たくなる顔、
と言えそうだ(あんただけだろ)。