MrKのぼやき

煩悩を解脱した前期高齢者男のぼやき

自然な妊娠は安全なのか?

2014-04-29 21:03:54 | 健康・病気

本邦における HIV 感染者数は、
2013年までに22,971人が報告されている。
毎年1,500件前後が新たに報告されているという。
また2013年の感染者のうち約96%が男性である。
一方、HIV に対する治療法は格段に進歩し、
十分にコントロールできる状況となった。
こうした現状から、
HIV 陽性の男性と HIV 陰性の女性の夫婦も
多く存在していると考えられる。
配偶者の一方が HIV 陽性の夫婦を
mixed-status couple というが
こうした夫婦が自分たちの子供を作りたいと
考えても当然である。
しかしそこにリスクが存在しないわけではない。

4月25日付 Washington Post 電子版

As mixed-status HIV couples weigh risks, more choose to conceive the old-fashioned way
どちらかが HIV 陽性の夫婦はリスクを吟味し、昔のやり方での妊娠を選択する人が増えている

Mixedstatuscouples

メリーランド州 Odenton の自宅での HIV 陰性の Susan Hartmann さんと夫で HIV 陽性の Dan Hartmann さん。この夫婦には HIV 陰性の4才になる娘がいる。HIV の治療が進歩する中、こうした片方が HIV 陽性の夫婦(mixed HIV-status couples)が子供を作ることを選択するようになっている。

By Ariana Eunjung Cha,
 Susan Hartmann さんが結婚したとき、彼女とその夫は注意が必要であることを知っていた。彼女が HIV 陰性であり、彼が HIV 陽性であるため、彼らは防護するセックスを怠らないようにしなければならなかった。しかしやがて彼らは子供を持ちたいと考えるようになった。
 安全に妊娠できるようにする高度先進技術の力を借りた生殖技術について聞いたあと彼らはサンフランシスコにある University of California の周産期 HIV クリニックに意見を求めた。しかし、そこの医師らはこの夫婦がそれまで考えてもいなかった選択肢を提示したのである:彼らがそれを従来のやり方で、つまり防護しない性行為を行うことでできるというのである。
 彼女と夫の Dan はその研究を調べた。彼のウイルス量は検出できないほどであり、彼らが防護しない性行為をするのは彼女が排卵する前後のわずかに数回となる見込みであることから彼女が感染するリスクはきわめて低いという考え方が多くの研究により支持されていた。
 結局この夫婦はその目標に向かって進むことにし、幸運な結果は Ryan という名前の小さな女の子によってもたらされた。母親も娘も HIV 陰性である。
 110万人以上の米国民(そのうち約4分の3が男性)が HIV に感染しているが、抗ウイルス治療の進歩のおかげで彼らはより長く生きられるようになっているため、子供を持ちたいと思う人たちも増えてきている。
 これまでの何年間かは、パートナーの片方、あるいは両方が HIV 陽性の夫婦は養子縁組、代理母、あるいはドナー卵やドナー精子を利用してきたが、それらの方法はしばしば途方もなく費用がかかる。現在、新たな選択肢としてコンドームなしでの性行為を容認する医師がいる。それによって夫婦は生物学上の実子を持つことができるし、金もかからない。医学の専門家らは、HIV 感染機序についての新たな知識と、感染リスクを減らすために HIV 陰性側のパートナーが内服する一日1回の効果的な薬剤の開発という後押しを受けている。
 また、父親の状態に関係なく、HIV 陽性の母親に生まれた子供がウイルスを持つリスクは適切な治療によって現在1%以下となっている。
 「リスク軽減の話から可能性の話へと移行しています」サンフランシスコにある Bay Area Perinatal AIDS Center のコーディネーター Shannon Weber 氏は言う。この施設は HIV 陰性の女性パートナーを持つ HIV 陽性の男性(これは医学的に見て、対応に際して最も複雑な状況である)が子供を持つのを支援するプログラムを2012年に開始している。
 「私たちは何年にもわたって彼らにひどい仕打ちを行ってきました」と Weber 氏は言う。「彼らには安全な妊娠についてほとんど情報が与えられませんでした。そして彼らの多くにとって、今回初めて子供を持ちたいかどうかが問われることとなっているのです」
 新たな研究では一貫して、コンドームなしでの HIV 陽性の人との性行為は、もし感染者のウイルス量が少なく、その人が規則正しく薬を内服していれば以前考えられていたほど危険ではないかもしれないことが示されている。そう述べるのは Columbia University Medical Center の産婦人科の副部長 Mark V. Sauer 氏である。ボストンの会議で今年発表された750組のどちらかが陽性(mixed-status)の異性間ならびにゲイカップルの研究で、陽性のパートナーが抗レトロウイルス治療を受けている場合、関連した HIV 感染は一例も見られなかった。
 Sauer 氏によると、彼は子供を作る選択について一方が陽性のカップルへの助言を開始する計画であり、そのためには、そのようなケースで感染のリスクをさらに下げるため 2012年に食品医薬品局によって承認された抗ウイルス薬を HIV 陰性の母親が内服することが求められる。
 「あらゆる革新的治療と同様にまだ十分なデータはありませんが、我々が知っている限りではこれが容認される危険性であることを示唆しています」と彼は言う。
 Drexel University’s College of Medicine の准教授 Erika Aaron 氏はこれまで HIV 陽性のパートナーを持つ5名の HIV 陰性の女性が、その一年半前から抗レトロウイルス薬を投与中に性交によって妊娠する手助けをしてきた。いずれも HIV に感染しなかった。彼女によると、この選択肢について説明を始めたとき「自分の口から情報を出すのはむずかしかった」という。というのも、彼女はそれまで何年もの間反対のことを告げてきたからである。
 しかし Aaron 氏は「コンドームを使う以外のやり方で感染を最小限にすることができる方法がわかった今、これが一つの選択肢であることを彼らに伝えることは重要です」と言う。
 しかし、この見解は広く容認されているわけではない。
 一部のプライマリケアの医師は、このやり方に困惑しているという。なぜなら、小さいとはいえ感染のリスクはやはり存在しており、患者に害を及ぼさないようにすることが彼らの責任だからである。また、公衆衛生の領域の人たちの中には、特に何十年もの間、感染拡大と戦ってきた人たちは、安全な性行為を提唱してきた歳月を元に戻しかねないような無謀な行為を正当化することにこの研究が使われてしまうのではないかと懸念すると主張する。
 ロサンゼルスを拠点とする AIDS Healthcare Foundation の会長 Michael Weinstein 氏は、妊娠の手段として防護しない性行為の研究は有望ではあるが、現状ではその行為でうまくいくことが保証されないという。HIV のウイルス量が変動することや、最も意思の強い母親および父親志願者であっても自身の内服を忘れる可能性があることを指摘する。彼によると、もし夫婦が妊娠を目指しているとき男性のウイルス量が急増するような事態となれば、女性へのリスクは劇的に増大するという。
 「人はリスクに関わる決断はすべて主治医とともに行おうとします。しかし、公衆衛生の人間としてはこれを支持することはできません」と Weinstein 氏は言う。

Other options  他の選択肢

 子供を持とうとしている一方が HIV 感染者である状態、すなわち serodiscordant(HIV 感染不一致)となっている夫婦には、養子縁組、代理母、卵子や精子のドナーなどの従来の手段に加えて他の選択メニューがある。
 もしそれが HIV 陽性の女性であれば、注射器を用いた人工授精が現実的で安価で効果的であるが、HIV 陽性が男性の場合には事態はより複雑となる。
 女性に移される精液中の感染性物質を減じたり排除するよう処理された“洗浄済”の精液を用いることが一つの選択肢となっている。精液の洗浄は他の国々では普及している方法であるが、米国疾病予防管理センターはこの方法を勧めておらず、この方法では必ずしもウイルスを排除できないとしている。結果として、このサービスを提供するクリニックはほとんどないと支持団体は言う。これにより、本来より費用と時間のかかる選択肢となっている。
 性行為を考えている夫婦に対しては、曝露前予防(pre-exposure prophylaxis, PrET)として Truvada(ツルバダ)などの薬を用いることが母親側の一つの防護策となりうるかどうかをめぐって医師らの意見は分かれている。
 青い剤型を示すこの薬は一日1回 365日間内服することになっており、年間 12,000ドルから16,000ドル費用がかかるがその大部分は保険でカバーされる。
 HIV 陽性のパートナーとの間で妊娠を目指す HIV 陰性の女性に対して Truvada あるいは他の抗レトロウイルス薬をどのように投与させるべきかについての研究はこれまでのところ存在しない。夫婦が性行為を行う数日間だけの内服にこれを処方する医師もいる一方、彼らが妊娠を試みる間の数ヶ月あるいは数年間、それを連続的に内服するよう患者に指導する医師もいる。
 パートナーのウイルス量が制御されている女性では、その起こり得る副作用とリスクを考慮してその価値はないとして本剤を処方しない人たちもいる。Truvada は嘔気や嘔吐を引き起こすことが知られており、腎障害との関連も指摘されている。一部の疫学者は、もしこの薬剤が広く不規則に用いられるようであれば、Truvada 耐性ウイルスのスーパー株を生み出すことにつながりかねないという理論的な可能性について懸念を表明している。
 サンフランシスコに住む HIV 陰性の25才 Caroline Watson さんは、HIV 陽性の Deon さん(33)を夫に持ち、性行為によって子供を妊娠したが、潜在的な危険性を理由に Truvada あるいは他の抗レトロウイルス薬の内服を拒否した。しかし彼女も、2月に一才の誕生日を迎えた Valerie ちゃんも感染しなかった。
 「私の何人かの友人は私がおかしい、愚かだと言いました。しかし私の行ったことは科学が支持しているのです」と Watson さんは言う。

Living their lives 彼らの人生を生きること

 Hartmann夫妻は Annapolis で同じ高校に通い、仲の良い友人同士だった。正常に血液が凝固しない病気である血友病に罹った Dan さんは12才の時血液製剤を介して HIV に感染した。Susan さんは彼の HIV の状況を知ったが、その時も、そして数年後に再び連絡を取りあったときにもそのことは彼女に何ら影響を及ぼすことはなく二人は恋に落ちた。
 彼らが結婚し Northern California に住むようになって一年後、彼らが子供を作ることを決めたとき初めてそれが問題となった。彼女は Berkeley’s Center for Cities and Schools の University of California のプログラム管理者で、彼は州で働いているグラフィック・アーチストだった。
 HIV 陰性の女性に抗レトロウイルス薬が用いられることはそれほど多いことではなかったため、Susan さんはその内服をしないことに決めたのだという。彼女は2ヶ月経たないうちに妊娠した。
 「もし私が勝負をかけ、HIVにかかったとしたら、それは自分の意思で冒した危険です。そんな結果を最小にするためにできることをしたのですが、HIV 陰性のパートナーとしては、負わねばならない一定のリスクが常に存在するのです」と彼女は言う。
 共に39才の Hartmann 夫妻は4才になる彼らの娘と現在はメリーランド州 Odenton に住んでいる。もう一人子供を持つことを考えているところだと彼らは言う。もし彼らがそうするとしたら、恐らく同じ道をたどることになるだろう。
 「私たちは、生きたいと思う人生をどのように生きるかについて自己分析を多く行ってきました。夫は自分が死ぬまでの日数を数えているのではないのです。彼は長い人生に期待しているし、私たちは家族を望んでいるのです」と Hartmann さんは言う。

一方が HIV 陽性のカップルの場合、
HIV 陰性のパートナーへの新規感染は重大な問題である。
夫が HIV 陽性、妻が HIV 陰性の夫婦が
子供を作りたい場合、
夫の精液を介して感染するリスクがあるため、
本来なら、精液から HIV を除去した精子を用いた
人工授精が行われる。
ただし、この方法も理論上感染の可能性はゼロではない。
一方、HIV 陽性の女性が妊娠した場合も
胎児への感染リスクがあるが、
抗レトロウイルス薬の投与によりそのリスクは
1%未満となっている。
いずれにしても、当該夫婦のリスクに対する認識が
重要であるだけでなく
HIV 感染者の基礎疾患の安定と
専門医による厳重なコントロールが不可欠である。
残念ながら
自然な妊娠という選択肢には、感染のリスクが
全く排除されているとはいえないのが現状のようである。

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殺人ウイルスの恐怖

2014-04-18 13:28:07 | 健康・病気

世界保健機関(WHO)によると、
西アフリカのギニアでは
4月14日までのエボラ出血熱の感染者は168人に上り、
うち108人が死亡しているという。
今回の流行は『前例のない規模』と発表されている。
このエボラ出血熱とは一体どのような疾患なのだろうか?
CNN 医療編集長 サンジェイ・グプタ先生による
現地からの報告である。

4月14日付 CNN.com

Ebola: A swift, effective and bloody killer
エボラ:敏速で効率的で残酷な殺人ウイルス

Ebola

By Dr. Sanjay Gupta, CNN Chief Medical Correspondent
Conakry, Guinea(コナクリ市、ギニア)発― ここで起こっていることの衝撃を感じ取るのに時間はかからなかった。
 我々はギニアの首都 Conakry(コナクリ)にちょうど入ったところだった。空港のすぐ外側の地区で若い女性が涙に暮れていた。彼女は声を上げて泣き、スス語で声を上げて叫び始めた。スス語は人口1,200万のこの小さな国で話される40の言語の一つである。集まった群衆は静かになり、熱心に耳を傾けた。
 私の隣に座っていた若い男性が静かに訳してくれたが、既にいくつかの可能性が考えられた。彼はその女性の夫がエボラで死亡したと伝え、すぐに離れるように我々を導いた。
 我々を Conakry まで運んだ飛行機も、当地のすべてのホテルがそうであったようにほとんどガラガラに空いていたのはおそらく驚くべきことではない。米国民でギニアを訪れたことのある人、あるいは西アフリカのどこにこの国が位置しているかを特定できる人はあまりいないだろう。以前より世界で最も貧しい国々の一つとなっており、エボラをめぐるパニックはそれをさらに悪化させている。
 それももっともなことである。それは今回のアウトブレイクが特異だからである。過去においては、エボラが人里離れた森林地帯から外に広がることはほとんどなかった。
 その鍵は良いニュース・悪いニュースを厳しく見ることだ。エボラは患者を動けないようにし短時間で死に至らしめる傾向にあるため、患者が旅行できる機会はほとんどなく自分たちの小さな村から外にこの疾病を広げることもない。しかし、今回、エボラは200万の住民を抱える首都 Conakry 市内に存在する。さらに懸念されること、それは我々が着陸した国際空港のあるところから目と鼻の先のことであるということだ。
 急速に広まっており、願いは海外に広がらないということだ。
 そんなシナリオについて現地の医師に尋ねたところ、彼らの意見は分かれていた。そういった懸念は確かにあるが考えにくいと数人は言う。エボラのほとんどの患者は森の中の小さな村由来であり海外旅行で飛行機に乗ることはありそうにないと彼らは言う。さらに、エボラが西側諸国に広がることはないと考えている;死者に触れないという我々の医学的専門知識や文化がそれを予防するだろうと。
 しかしそれほど確信を持てない人もいる。
 ただこのような理論は誰も検証したがらない。
 エボラでは、2日から21日の潜伏期間がある。この数字を覚えておいていただきたい。これはある人間が曝露してから発症するまでにかかる時間幅である。
 すぐ近くに国際空港があることは、エボラ感染症の早期症状となっている頭痛、発熱、倦怠感、および関節痛を発現する前に世界の向こう側に行ってしまう可能性があることを意味する。続いて、下痢、発疹、さらには出血が見られる。吃逆(しゃっくり)はエボラの特に重要な症状である。それは呼吸を行う横隔膜に炎症が起こり始めていることを意味する。
 エボラについて我々が知っていることは多いが、そのことが、知らないこととほとんど同じくらい我々を恐れさせるのである。
 小さなゲノムを持つ単純なウイルスであるエボラは敏速で効率的で残酷な殺人ウイルスである。死亡率は50%以上であり、あるアウトブレイクでは90%に達している。
 エボラは巧妙な方法で人を死に至らしめるようである。早い段階で戦略的に免疫系を無力化し、阻害を受けることなくウイルスを複製し体内すべての臓器を侵す。血液を過剰に凝固させるがそれは血管内においてのみである。それによって血管は詰まる一方、凝固機能の予備力が失われ身体の他の部において出血が始まる。
 身体の外側で出血が始まる。鼻出血、打撲、単純な針刺しでも凝固しなくなる。しかし、さらに悲惨な問題を引き起こすのは身体内部の出血であり、外からは見ることができない。
 患者の多くは平均10日以内にショックで死亡する。
 さながらホラー映画のできごとのようである。しかし、身に迫る危険があるにもかかわらず、エボラは“感染”しにくい。もし感染しやすかったなら、アウトブレイクのさなかに私がここに来ることを妻は拒否していただろう。
 感染するには、一般に重篤な状態にある人と長い時間を過ごし、感染した患者の体液に触れなければならない。そのため家族や医療従事者が最も発病しやすい。
 この3週間ですくなくとも104名が死亡したが、このうち14名が医療従事者である。
 ある感染症では、発病するずっと前にウイルスを放出し拡散する。しかし、これはエボラには当てはまらない。発病し発熱して初めて感染性となる。しかし、感染し死に至らしめるのに必要なウイルス量はほんのわずかである。素手についたごくわずかな小滴でも皮膚の隙間を通して侵入しうる。自覚があろうとなかろうと、我々にはすべて皮膚に隙間があるのである。
 私は子供のころからアウトブレイクには関心があった。新たな病原体が動物から人へと感染すること、すなわち動物原性感染症と呼ばれる病態を医学校で学んだ。
 これは、人と動物が持続的に接触するような地域で起こる。David Quammen はこれを“Spillover(スピルオーバー:溢出)”と、同名の著書の中で呼んでいる。東南アジアにおけるアヒル、ガチョウ、ニワトリ、豚、および人の混在が、鳥インフルエンザ H5N1 のスピルオーバーにつながった。メキシコでは豚と人の接触がブタインフルエンザ H1N1 をもたらした。また、豚とオオコウモリがマレーシアにおける Nipah fever(ニパウイルス感染症)の原因となっている。
 オオコウモリはさらにエボラウイルスの自然宿主でもある可能性が最も有力だが、これについてはいまだ立証されていない。Quammen は次のように主張している:『エボラが我々の世界に入ってきたのではない、我々がエボラの世界に入ったのである』。
 病原体はライオンやトラや熊と同じような肉食動物である可能性がある。ウイルスは大型のネコ科動物がするようなやり方をたくらむことはないかもしれないが、ある意味、その獲物に忍び寄り、一瞬のチャンスを待ち、獰猛さを持って攻撃する。何年間も静かなままでいることから、エボラは Jack the Ripper(切り裂きジャック)のような殺戮者のように見られることも多い。
 おそらくアウトブレイクは何らかの人・動物の接触によって始まったとみられるが、その接触が継続するようになってから後、エボラに醜い頭角を現させることになったものが何であるかはわかっていない。我々は、この疾患に対する治療法もそれに対する予防接種の手段も知らない。どのように治療すべきか本当に不明なのである。
 空港で例の女性と別れるときこのことについてあれこれと考え、以来、彼女に対してずいぶん思いをはせてきた。彼女の悲しみは我々すべての心に強く刻まれた。
 そのことで、世界には知られているもののいまだ十分に理解されていないこの謎の多いめずらしいウイルスが一層身近で恐ろしいものとなった。(潜伏期を越える)21日先まで、我々が遭遇したその女性は、夫からエボラに感染した可能性を示す発熱や他のあらゆる早期症状について監視されることになる。もし彼女に症状が見られれば、彼女は隔離され、輸液、酸素投与、あるいは栄養補給の治療を受けることになる。
 それが現実に行うことのできるすべてである。繰り返すが、エボラには治療法はない。
 ギニアやその国境を越えた彼女の近隣の人たちにとって、もう一つの重大な意味を持つ数字は42となる。42日、つまり潜伏期の2倍である。もし当地の医療チームがその期間中に新たな症例を見なければ、アウトブレイクは終わったと公式に発表できる。しかし我々はまだその状況にない、それに近づいてすらいない。
 時計は時を刻んでいる…。

エボラ出血熱の詳細については
ここのページをご参照いただきたい。

今回のアウトブレイクでは、ギニアだけでなく、
隣国のマリやリベリアでも感染の疑いのある患者が
複数見つかっているという。
またリベリアに渡航していたカナダ人男性が帰国後に
エボラ出血熱と思わしき症状を呈したことも報道されている。

エボラウイルスは
モノネガウイルス目フィロウイルス科エボラウイルス属に
分類される RNA ウイルスであり、インフルエンザウイルスの
約10倍の長さを持つ。
エボラウイルスは、その毒性と感染力から
BSL(バイオセーフティーレベル:研究所で微生物を扱う際の危険度で、
1から4までがある。ちなみにインフルエンザウイルスはBSL2)では
最高度の4と定められている。
エボラ出血熱は、1976年、このウイルスが最初に
検出された男性の出身地がアフリカの当時ザイールの
エボラ川流域の村だったことからこの名がつけられた。
このウイルスは感染力および毒性が強く、
有効な治療法が確立されていないことから、
本邦では『一類感染症』に分類されている。
本ウイルスの自然宿主はコウモリと考えられているが、
鳥類と考える科学者もいる。
それらからサルや人などの哺乳類、
あるいは鳥などに感染するとみられる。
体内に数個のエボラウイルスが侵入しただけでも容易に発症する。
このように感染力は強いにもかかわらず
これまで爆発的な流行が見られなかったのは
基本的に空気感染をしないためと考えられるが、
人に感染する前に感染者が死に至ってしまうことも
その一因と考えられている。
人が感染した場合の致死率は50%から90%とされている。
なお、エボラウイルスの場合、他のウイルスと異なり、
人から人へ感染していくたびに致死性が下がることが
知られている。
感染は通常、患者の血液などの体液に触れることや飛沫を
吸い込むことで起こる。また性交渉・性行為でも感染する。
幸い日本国内での感染例は確認されていない。
潜伏期間は記事中にあったように2日~21日程度だが
平均的には7日前後である。
突発的に発症し、突然の40度を超える発熱、悪寒、頭痛、
筋肉痛、食欲不振、嘔吐、下痢、腹痛、吃逆などを起こす。
進行すると血管内で血栓形成が生じ
血管の破綻を引き起こし随所で出血が始まる。
口腔、歯肉、結膜、鼻腔、皮膚、消化管などから出血が
認められ出血性ショックを起こす。
死亡者のほとんどに消化管出血が見られ大量の吐血や下血を見る。
死亡原因は、主として多臓器不全や出血性ショックである。
なおエボラウイルスはコラーゲンを分解するため
内臓などが融解し、壊死を生ずる。
このような激烈な症状を見る患者がいる一方で、
不顕性感染者(感染しても症状が出ない人)も
数%存在するといわれる。
本症に対しては感染予防に努めることが重要である。
ワクチンについてはいまだ開発段階である。
治療についてはいくつかの治療法が試みられているが、
確立されたものはなく、通常は対症療法が行われる。
エボラウイルスはまさに殺人ウイルス。
もしさらに強い感染力を獲得することとなれば、
人類の滅亡もありうるのではないかと危惧されるのである。

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“ミイラ”が何を語るのか

2014-04-11 13:38:54 | 歴史

ミイラから古代の人たちの生活様式など
得られる情報は多い。
とはいえ、その棺をむやみに開けたり遺体を傷つけたりすれば、
死者の永年の安らかな眠りを妨げることになる。
そこで活躍が期待されるのが高解像度のCTということらしい。

4月9日付 Washington Post 電子版

New technology unwraps mummies’ ancient mysteries
新しい技術でミイラの太古の謎を解く

Mummiesancientmysteries

紀元前900年ころの神殿の歌手だったとみられる Tamut のミイラ(the Mummy of Tamut)が 2014 年4月9日水曜日にロンドンの British Museum(大英博物館)で行われた記者会見で示された。British Museum の科学者たちはCTスキャンとボリュームグラフィックス・ソフトウェアを用いて包帯の下を覗いて、皮膚、骨、内臓を明らかにしてきたが、ある一体では遺体処理人が頭蓋内に残っている脳を掻き出すヘラが認められた。これらの結果は、同博物館の8体のミイラとともにそれらの内部の詳細な3次元画像が用意された展示会で公開されることになっている。

Mummiesancientmysteries02

2014年4月9日(水)に大英博物館より提供されたこの日付のないこのサンプル画像は、名前の不明な成人男性のミイラの頭蓋骨のコンピューター処理されたCTスキャンを示している。このスキャン画像には、青色で塗られた脳の残存と、緑色となっているミイラ化処置の間の失敗として頭蓋内に残された道具の形跡が認められる。

By Associated Press,
ロンドン発―ミイラの魅力は決して廃れることはない。今、大英博物館は新しい技術を用いて太古の謎を解こうとしている。
 同博物館の科学者たちはCTスキャンと最新の画像化ソフトを用いて包帯の下を覗いて、皮膚、骨、残っている臓器を明らかにしてきた。そしてある一体では、遺体処理人が頭蓋内に残っている脳を掻き出すヘラが認められた。
 今回の発見は来月、同博物館の8体のミイラとともに、それらの内部の詳細な3次元画像や、それらに埋め込まれたいくつかのアイテムの3次元プリンターによって作られたレプリカなどが用意された展示会で公開されることになっている。
 生物考古学者の Daniel Antoine 氏は水曜日、その目的は、こられのはるか昔に亡くなった個体を“ミイラとしてではなく人間として”提示することだと述べた。
 1759年の開設以来、ミイラは大英博物館の最大の呼び物の一つとなってきた。館長の Neil MacGregor 氏によると、昨年、ロンドンにあるこの施設を680万人が訪れたが、「私どもの職員に対して誰もが『ミイラはどこ?』と尋ねるのです」と言う。
 同博物館は 1960 年代からミイラのX線検査を行ってきたが、近代のCTスキャナーははるかに鮮明な画像を与えてくれる。今回の展示会に選ばれたミイラは、生きている患者と同じようにロンドンの病院で検査された(とはいえ診療時間後に運びこまれるのであるが…)。
 もともと自動車工業技術用に作られたボリュームグラフィックのソフトが、スキャンの骨格に情報を付け加えるのに用いられた。つまり、骨格を表示し、軟部組織を付け加え、内部のへこみや空洞を探索した。
 この8体のミイラは紀元前3,500年から紀元700年の間にエジプトやスーダンに住んでいた人のものである。それらは、最も廉価な埋葬方法として土中にそのまま残された貧乏な人から、手の込んだ儀式的な葬儀が行われた高い身分のエジプト人まで様々である。
 「基本的に金を惜しめばそれなりしか得られないということです」と博物館のミイラの専門家 John Taylor 氏は言う。「ミイラには様々なグレードがありました」
 遺体処理人は鼻から死者の脳を取り出すなど非常に熟練した技術を持っていたが彼らはしばしばミスを犯していた。
 脳の取り出しに失敗するだけでなく、ある男性の頭蓋骨の内部からヘラの様な棒が発見され、同博物館の科学者たちは興奮した。
 「頭蓋骨の後ろの方ににあったその道具は驚くべき新事実でした。なぜなら遺体処理人の道具は私たちにはよくわかっていないものだからです」と Taylor 氏は言う。「ミイラの内部に実際にそれを見つけたということは途方もない前進です」
 紀元前600年ころに死亡したこの男性には痛みを伴うような歯の膿瘍があり、それによって命を奪われた可能性がある。別のミイラで、紀元700年ころスーダンで生活していた女性は、大腿の内側に Archangel Michel(大天使ミカエル)の名前のタトゥーを入れたクリスチャンだった。
 今回の展示のスターは Tamut で、彼女は高級な祭司の家系の出であり、紀元前900年ころテーベで死亡した神殿の歌手だった。鳥や神の絵で覆われ、鮮やかに飾られた彼女の棺はこれまで開けられたことはなかったが、CTスキャンによって、彼女の良好に保存された身体が、その顔や短く刈られた髪の毛にいたるまで、きわめて詳細に確認された。
 死亡したとき Tamut は30ないし40才代で、動脈には石灰化したプラークが認められた。これは彼女が脂肪の多い食事を摂っており社会的地位が高かったことの証である。おそらく、心臓発作あるいは脳梗塞で死亡したとみられる。
 彼女の身体にはいくつかの魔除けがきちんと並べられており、その中には彼女の喉の周りを守るように広げた翼を持つ女神の像がある。また、死後に内蔵を守るために彼女の胸の内部に置かれた蜜蝋でできた神の像を見ることもできる。
 「画像の鮮明度はきわめて急速に進歩しています」と Taylor 氏は言う。「科学技術の進歩とともに、ミイラの内部の物体に象形文字で書かれたものを読むことさえできるようになると期待しています」
 MacGregor 氏によると、同博物館は最終的には所有する全120のエジプトとスーダンのミイラを検査し、それらの生活についてさらに多くを明らかにする予定だという。
 「もう5年して再び来られれば Tamut が歌うのを聴くことができるかもしれませんよ」と彼は言う。
 『古代の生命:新たな発見』は5月22日より 11月30日まで開催される。

ミイラの作成には複雑な手順が必要で
完成まで一年近くの月日を要したようである。
遺体を永年に渡って残しておきたいというのが
当時の人たちの強い願いであったと思われるが
3,000年が過ぎても風化しないで存在し、
歴史を後世に伝え続けているということは
きわめて優れた保存技術であるといえる。
一度、大英博物館で実物を拝んでみたいものである。
詳細を知りたい方はここをご覧いただきたい。

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脳内監視・制御装置でてんかんを抑える

2014-04-01 20:06:19 | 健康・病気

薬物治療に抵抗性のてんかん患者では
発作の焦点を切除するなどの外科的治療が検討されるが、
頭蓋骨に埋め込んだ装置で脳波を監視し、
発作の前兆となる異常を感知するや否や脳に電流刺激を行い、
発作の広がりを抑制するという治療法が
昨年11月、米国当局により承認された。
一体どのような装置なのか?

3月24日付 New York Times 電子版

Easing Epilepsy With Battery Power バッテリー電源でてんかんを軽減させる
By CATHERINE SAINT LOUIS

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てんかんがあり頭蓋骨に刺激装置が埋め込まれている Kevin Ramsey 氏は棒状の器具を用いて脳の活動に関するデータをダウンロードした。

ニューハンプシャー州アレキサンドリア:Kevin Ramsey 氏は薬でコントロールできないてんかん発作を抱えてこれまでの人生の大半を生きてきた。
 彼は月に少なくとも一回は、意識を失い激しく身体を震わせて倒れ、しばしばケガをした。夜間の発作により彼は明け方にはぐったりとし、舌は血まみれとなった。仕事中の発作があっても解雇されないよう頑張った。しかし運転はあまりにも危険となった。28才のとき、彼はトラックを売り母親の予備の寝室に転居した。
 治療困難なてんかんの症例がハッピーエンドを迎えることはまれだが、現在 Ramsey 氏には発作が見られない。彼の頭蓋骨に埋め込まれたバッテリー電源の装置と彼の脳内に差し込まれた導線が脳の電気的活動を監視し起こりそうになる発作を鎮めるのである。夜には、彼は頭部に棒のようなものを置き、医師らが観察できるようその装置からラップトップへ脳のデータをダウンロードする。
 「私にはまだ内部で発作が起こっているのですが私の刺激装置がそれをすべて食い止めているのです」と Ramsey 氏(36)は言う。いまでも飲まなければならない3つの抗てんかん薬のうちの一つの影響で彼の手は震えている。「以前はできなかったことが自力でできます。自力で店に行くことができ食料品を買うことができます。前には運転できなかったのです」
発作を防止するインプラント機器:NeuroPace 社の RNS システムはてんかんに苦しむ患者の発作を予防する埋め込み型の装置である。
 アメリカ食品医薬品局(FDA)によって承認されたばかりの RNS(Responsive Neurostimulation)システムという待望の機器は、薬物や脳手術で治療できないてんかん患者、約40万人の発作を減らし、彼らの生活を改善させようとするものである。「これはてんかんの新世代の治療法と考えられる最初のものです」と NeuroPace 社のRNS の主試験で治験責任医師を務めた Cleveland Clinic の成人てんかん部門の部長である Dileep R. Nair 医師は言う。「それは局所療法を行うものです。脳組織を摘出することはないのです;脳は無傷のままです。そしてこれは強引な治療法といえる薬物治療とも違います」
 すでに Nair 医師のセンターではこの装置の待機リストに70人が登録されている。カリフォルニア州 Mountain View を拠点とする NeuroPace 社の医療部門の責任者である Martha J. Morrell 医師によると、精密な診断的検査を行う約110のてんかんセンターがこの治療を提供できるよう書類を提出しているという。この数はてんかんを持つ成人を治療するおよそ130のレベル4のセンターの大部分となっている。
 残念ながら多くの患者は、発症から数年、あるいは20~30年を経て病気の解明に乗り出され、ようやく担当医によってこれらのセンターに紹介されてくるのである。
 「私たちは大至急これを必要としています」 NYU Langone Medical Center の Comprehensive Epilepsy Center のセンター長 Orrin Devinsky 医師は言う。来月、同センターは保険承認を待ちながら最初の患者にこの装置を埋め込む予定にしている。
 国内約230万人の成人にてんかんが見られるが、その3分の1は薬剤で発作がコントロールできていない。脳手術で発作を完全に取り除ける可能性はあるが、多くの患者は、切除できない脳の部位から発作が始まるためその対象とならない。
 治療の選択肢がなければ、治療困難なてんかんの患者はしばしば仕事を持つことや配偶者を見つけることが困難となる。繰り返される転倒や熱傷などで受傷する可能性がある;このため彼らの死亡率は同世代のそれに比べて2~3倍高い。「次の治療を強く切望している人たちはいたるところにいます」と Epilepsy Foundation の研究責任者である Janice Buelow 氏は言う。
 この神経刺激装置で、アイスフィッシングと皮肉を言うことの好きな Ramsey 氏は現在、屋内薪ストーブで暖房されている改修されたハウストレーラーの中で独りで生活している。そこには彼が撃った鹿の頭の剥製がある。彼は Dartmouth-Hitchcock Medical Center への受診に紫色の Ford Ranger を運転して行く。
 最近彼はパートタイムの仕事を探し始めた。しかし彼は躊躇している。「自分のてんかんのせいで、多くの人たちに危険が及ぶようなことがあってはならないのです」
 彼の治療は大部分の人たちに比べ良好な結果が得られている。32ヶ所で191人に対して行われた無作為化臨床試験で、患者は刺激装置を設置されたもののそれらが作動するものか否かは知らされていない。Neurology 誌に発表された成績によると、作動した刺激装置の人たちは3ヶ月間で発作が38%減少したのに対し、刺激装置が作動しない人たちでは17%しか減少しなかったという。作動するこの装置をつけた90人の被検者は2年間で50%強の発作の減少を経験している。
 オハイオ州 Mansfield の32才 Andrew Stocksdale 氏は、2008年に刺激装置が設置されるまで一日20回に及ぶ発作を経験していた。それに対して、先月は発作は3回だった。彼は現在結婚し、フルタイムの仕事を持っており、生まれたばかりの息子もいる。
 「私の人生はジグゾーパズルのように崩れ落ちたのです」と Stockdale 氏は言う。「以前は息子を持つことが怖かった。物事を行うことができなかったのです。私は転倒を恐れていました。彼を抱くことなどできなかったのです」
 埋め込み手術には2日間の入院が求められるが、抗てんかん薬を中止したままでの数日間のモニタリングなど詳細な評価が事前に必要である。
 2~3年毎にバッテリーの入れ替えが必要なこの装置は脳内の1ヶ所ないし2ヶ所で発作が始まる人に限り有効である。そのような場所に正確に置かれた細いワイヤーを通して伝えられる電気的刺激によって初期の発作の拡大が阻止される。
 これに対して、別の治療法である迷走神経装置は発作を防止するために胸部に埋め込まれる刺激装置であり、NYU Langone てんかんセンターの Devinsky 医師によると「脳内で起こっていることとは全く関係なくあらかじめプログラムされた基礎的条件に基づいて」発火するのだという。
 さて RNS が刺激を出す前に、患者固有の発作パターンが検知されなければならないがこの過程には数ヶ月を要し、何度もクリニックに受診する必要がある。その後、患者に発作の回数減少が見られるかどうかを見るために、刺激の強さを上げたり下げたり、あるいはパルスの数が変更されるなどの試行錯誤の期間を要する。
 「私はこれを高性能デバイスと呼びたいのです」そう言うのは University of Southern California の包括的てんかんプログラムの部長で RNS 研究の治験責任医師である Christianne Heck 医師である。「私たちは実際に、個別の患者で発作を特徴づける特異なパターンを検出するようこの装置に学ばせます」
 Ramsey 氏の刺激装置の作動が始まって間もなく彼の深刻なけいれん発作は止まったと Barbara C. Jobst 医師は言う。彼女は Dartmouth-Hitchcock のてんかんプログラムの責任者で、本研究の治験担当医師でもある。しかし、彼の単純に凝視する状態となるような別の種類の発作を止めるよう微調整するのに3年を要した。
 Ramsey 氏のケースはいくつかの点で例外的であると彼女は警告する「発作がどこから起こっているのかは必ずしも彼に見られたほど明確ではないのです」

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患者の脳に埋め込まれた神経刺激装置がレントゲン写真で示されている。

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 発作が始まる領域の広さもまた、神経刺激装置の有効性に影響を及ぼすと Dartmouth-Hitchcock の神経外科 David W. Roberts 氏は言う。「もし患者の発作が海馬に限局しているならその人には有用な可能性が高いのです」と言い、海馬は小さいと彼は指摘する。
 しかし、もし発作が前頭葉全体に由来していれば、同じ数の電線で「同じ効果が発揮される可能性ははるかに低い」と Roberts 医師は言う。
 良い対象となる患者であったとしても、患者がレベル4のてんかんセンターに紹介されなければこの新しい装置の利用は困難となる可能性がある。そのようなセンターは大学や大きな都市に近いところに存在する傾向にある。ニューヨーク市に8ヶ所あるが、モンタナ、アーカンソー、あるいは南北ダコタにはレベル4のセンターはない。
 National Association of Epilepsy Centers の会長である David M. Labiner 医師は、診断から包括的センターへの紹介までの“時間のずれ”がいまだ20年にも及ぶと言う。
 もう一つのハードルは費用である。データのダウンロードに必要な装置を備えた RNS は4万ドルに及ぶ。しかもこの数字には手術や診断的検査にかかる 1万ドルから2万ドルの費用は含まれていない。これまでのところ FDA の承認以降、メディケアにより負担された1例を含め5 例を越えるケースに対して保険業者は費用の大部分を支払っている。
 長い目で見れば発作の低減は費用効果があると一部の専門家は主張する。
 「たとえ発作を半分減らすだけだとしても保険業者の費用は半減します」と University of Arizona でてんかんプログラムのトップも務めている Labiner 医師は言う。
 RNS は発作の頻度を減らすかもしれないが、記憶障害を治したり、結婚の困難さを修復することにはなっていない。「たとえ発作が良好にコントロールされても心理社会的な問題は必ずしも良くはならないのです」と、デトロイトにある Henry Ford Hospital のてんかんプログラムの共同創立者である Gregory L. Barkley 医師は言う。
 Ramsey 氏にはまだ認知的問題が残っている。「私はいつも人の名前を忘れてしまいます」と彼は言う。1月にレストランで、直前にシーフードパイを注文しようと決めていたことを忘れてしまっていた。
 彼の神経刺激装置は彼の生活を変えてはくれたが、彼は新たな大転換を望んでいる。「素敵な女性を見つけることです」と彼は言う。「子供が欲しいですし、そうなれば子育てもできるでしょう」

『てんかん』は、先天的あるいは後天的要因によって
脳の神経細胞が過剰は放電を起こすことで
意識喪失や全身けいれんなどの症状を来す疾患である。
『RNS』というインプラント機器は
NeuroPace 社が14年前から開発に着手していたのだという。
約5年前より臨床治験が開始され、
2013年11月14日、FDAによって承認された。
RNS は発作を引き起こす脳領域近傍の頭蓋骨内に埋め込まれ、
脳内に設置された電極で常時モニターを行いながら、
てんかん発作の前兆となる異常な電気信号を検知すると
ワイヤーを通じた微小電極の電気刺激を行って
脳の神経活動を一時的に抑制し発作を抑えるものである。
異常と見なす閾値や脳に加える刺激のパターンなどの
諸パラメータは外部デバイスから調整することが可能となっている。
薬剤で発作を抑制することのできない『難治性てんかん』患者で
この装置の効果が期待される。
しかしわずかな電流とはいえ
長期的な電気刺激が脳に悪影響を及ぼす可能性は否定できず、
まだまだ解明すべき点は多く残されている。
また発作頻度の高い患者では電池の消耗が早まることが
懸念される。
とはいえ、難治性てんかんに苦しむ患者の
有効な治療選択肢の一つとなることに期待したい。

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