本邦における HIV 感染者数は、
2013年までに22,971人が報告されている。
毎年1,500件前後が新たに報告されているという。
また2013年の感染者のうち約96%が男性である。
一方、HIV に対する治療法は格段に進歩し、
十分にコントロールできる状況となった。
こうした現状から、
HIV 陽性の男性と HIV 陰性の女性の夫婦も
多く存在していると考えられる。
配偶者の一方が HIV 陽性の夫婦を
mixed-status couple というが
こうした夫婦が自分たちの子供を作りたいと
考えても当然である。
しかしそこにリスクが存在しないわけではない。
As mixed-status HIV couples weigh risks, more choose to conceive the old-fashioned way
どちらかが HIV 陽性の夫婦はリスクを吟味し、昔のやり方での妊娠を選択する人が増えているメリーランド州 Odenton の自宅での HIV 陰性の Susan Hartmann さんと夫で HIV 陽性の Dan Hartmann さん。この夫婦には HIV 陰性の4才になる娘がいる。HIV の治療が進歩する中、こうした片方が HIV 陽性の夫婦(mixed HIV-status couples)が子供を作ることを選択するようになっている。
By Ariana Eunjung Cha,
Susan Hartmann さんが結婚したとき、彼女とその夫は注意が必要であることを知っていた。彼女が HIV 陰性であり、彼が HIV 陽性であるため、彼らは防護するセックスを怠らないようにしなければならなかった。しかしやがて彼らは子供を持ちたいと考えるようになった。
安全に妊娠できるようにする高度先進技術の力を借りた生殖技術について聞いたあと彼らはサンフランシスコにある University of California の周産期 HIV クリニックに意見を求めた。しかし、そこの医師らはこの夫婦がそれまで考えてもいなかった選択肢を提示したのである:彼らがそれを従来のやり方で、つまり防護しない性行為を行うことでできるというのである。
彼女と夫の Dan はその研究を調べた。彼のウイルス量は検出できないほどであり、彼らが防護しない性行為をするのは彼女が排卵する前後のわずかに数回となる見込みであることから彼女が感染するリスクはきわめて低いという考え方が多くの研究により支持されていた。
結局この夫婦はその目標に向かって進むことにし、幸運な結果は Ryan という名前の小さな女の子によってもたらされた。母親も娘も HIV 陰性である。
110万人以上の米国民(そのうち約4分の3が男性)が HIV に感染しているが、抗ウイルス治療の進歩のおかげで彼らはより長く生きられるようになっているため、子供を持ちたいと思う人たちも増えてきている。
これまでの何年間かは、パートナーの片方、あるいは両方が HIV 陽性の夫婦は養子縁組、代理母、あるいはドナー卵やドナー精子を利用してきたが、それらの方法はしばしば途方もなく費用がかかる。現在、新たな選択肢としてコンドームなしでの性行為を容認する医師がいる。それによって夫婦は生物学上の実子を持つことができるし、金もかからない。医学の専門家らは、HIV 感染機序についての新たな知識と、感染リスクを減らすために HIV 陰性側のパートナーが内服する一日1回の効果的な薬剤の開発という後押しを受けている。
また、父親の状態に関係なく、HIV 陽性の母親に生まれた子供がウイルスを持つリスクは適切な治療によって現在1%以下となっている。
「リスク軽減の話から可能性の話へと移行しています」サンフランシスコにある Bay Area Perinatal AIDS Center のコーディネーター Shannon Weber 氏は言う。この施設は HIV 陰性の女性パートナーを持つ HIV 陽性の男性(これは医学的に見て、対応に際して最も複雑な状況である)が子供を持つのを支援するプログラムを2012年に開始している。
「私たちは何年にもわたって彼らにひどい仕打ちを行ってきました」と Weber 氏は言う。「彼らには安全な妊娠についてほとんど情報が与えられませんでした。そして彼らの多くにとって、今回初めて子供を持ちたいかどうかが問われることとなっているのです」
新たな研究では一貫して、コンドームなしでの HIV 陽性の人との性行為は、もし感染者のウイルス量が少なく、その人が規則正しく薬を内服していれば以前考えられていたほど危険ではないかもしれないことが示されている。そう述べるのは Columbia University Medical Center の産婦人科の副部長 Mark V. Sauer 氏である。ボストンの会議で今年発表された750組のどちらかが陽性(mixed-status)の異性間ならびにゲイカップルの研究で、陽性のパートナーが抗レトロウイルス治療を受けている場合、関連した HIV 感染は一例も見られなかった。
Sauer 氏によると、彼は子供を作る選択について一方が陽性のカップルへの助言を開始する計画であり、そのためには、そのようなケースで感染のリスクをさらに下げるため 2012年に食品医薬品局によって承認された抗ウイルス薬を HIV 陰性の母親が内服することが求められる。
「あらゆる革新的治療と同様にまだ十分なデータはありませんが、我々が知っている限りではこれが容認される危険性であることを示唆しています」と彼は言う。
Drexel University’s College of Medicine の准教授 Erika Aaron 氏はこれまで HIV 陽性のパートナーを持つ5名の HIV 陰性の女性が、その一年半前から抗レトロウイルス薬を投与中に性交によって妊娠する手助けをしてきた。いずれも HIV に感染しなかった。彼女によると、この選択肢について説明を始めたとき「自分の口から情報を出すのはむずかしかった」という。というのも、彼女はそれまで何年もの間反対のことを告げてきたからである。
しかし Aaron 氏は「コンドームを使う以外のやり方で感染を最小限にすることができる方法がわかった今、これが一つの選択肢であることを彼らに伝えることは重要です」と言う。
しかし、この見解は広く容認されているわけではない。
一部のプライマリケアの医師は、このやり方に困惑しているという。なぜなら、小さいとはいえ感染のリスクはやはり存在しており、患者に害を及ぼさないようにすることが彼らの責任だからである。また、公衆衛生の領域の人たちの中には、特に何十年もの間、感染拡大と戦ってきた人たちは、安全な性行為を提唱してきた歳月を元に戻しかねないような無謀な行為を正当化することにこの研究が使われてしまうのではないかと懸念すると主張する。
ロサンゼルスを拠点とする AIDS Healthcare Foundation の会長 Michael Weinstein 氏は、妊娠の手段として防護しない性行為の研究は有望ではあるが、現状ではその行為でうまくいくことが保証されないという。HIV のウイルス量が変動することや、最も意思の強い母親および父親志願者であっても自身の内服を忘れる可能性があることを指摘する。彼によると、もし夫婦が妊娠を目指しているとき男性のウイルス量が急増するような事態となれば、女性へのリスクは劇的に増大するという。
「人はリスクに関わる決断はすべて主治医とともに行おうとします。しかし、公衆衛生の人間としてはこれを支持することはできません」と Weinstein 氏は言う。Other options 他の選択肢
子供を持とうとしている一方が HIV 感染者である状態、すなわち serodiscordant(HIV 感染不一致)となっている夫婦には、養子縁組、代理母、卵子や精子のドナーなどの従来の手段に加えて他の選択メニューがある。
もしそれが HIV 陽性の女性であれば、注射器を用いた人工授精が現実的で安価で効果的であるが、HIV 陽性が男性の場合には事態はより複雑となる。
女性に移される精液中の感染性物質を減じたり排除するよう処理された“洗浄済”の精液を用いることが一つの選択肢となっている。精液の洗浄は他の国々では普及している方法であるが、米国疾病予防管理センターはこの方法を勧めておらず、この方法では必ずしもウイルスを排除できないとしている。結果として、このサービスを提供するクリニックはほとんどないと支持団体は言う。これにより、本来より費用と時間のかかる選択肢となっている。
性行為を考えている夫婦に対しては、曝露前予防(pre-exposure prophylaxis, PrET)として Truvada(ツルバダ)などの薬を用いることが母親側の一つの防護策となりうるかどうかをめぐって医師らの意見は分かれている。
青い剤型を示すこの薬は一日1回 365日間内服することになっており、年間 12,000ドルから16,000ドル費用がかかるがその大部分は保険でカバーされる。
HIV 陽性のパートナーとの間で妊娠を目指す HIV 陰性の女性に対して Truvada あるいは他の抗レトロウイルス薬をどのように投与させるべきかについての研究はこれまでのところ存在しない。夫婦が性行為を行う数日間だけの内服にこれを処方する医師もいる一方、彼らが妊娠を試みる間の数ヶ月あるいは数年間、それを連続的に内服するよう患者に指導する医師もいる。
パートナーのウイルス量が制御されている女性では、その起こり得る副作用とリスクを考慮してその価値はないとして本剤を処方しない人たちもいる。Truvada は嘔気や嘔吐を引き起こすことが知られており、腎障害との関連も指摘されている。一部の疫学者は、もしこの薬剤が広く不規則に用いられるようであれば、Truvada 耐性ウイルスのスーパー株を生み出すことにつながりかねないという理論的な可能性について懸念を表明している。
サンフランシスコに住む HIV 陰性の25才 Caroline Watson さんは、HIV 陽性の Deon さん(33)を夫に持ち、性行為によって子供を妊娠したが、潜在的な危険性を理由に Truvada あるいは他の抗レトロウイルス薬の内服を拒否した。しかし彼女も、2月に一才の誕生日を迎えた Valerie ちゃんも感染しなかった。
「私の何人かの友人は私がおかしい、愚かだと言いました。しかし私の行ったことは科学が支持しているのです」と Watson さんは言う。Living their lives 彼らの人生を生きること
Hartmann夫妻は Annapolis で同じ高校に通い、仲の良い友人同士だった。正常に血液が凝固しない病気である血友病に罹った Dan さんは12才の時血液製剤を介して HIV に感染した。Susan さんは彼の HIV の状況を知ったが、その時も、そして数年後に再び連絡を取りあったときにもそのことは彼女に何ら影響を及ぼすことはなく二人は恋に落ちた。
彼らが結婚し Northern California に住むようになって一年後、彼らが子供を作ることを決めたとき初めてそれが問題となった。彼女は Berkeley’s Center for Cities and Schools の University of California のプログラム管理者で、彼は州で働いているグラフィック・アーチストだった。
HIV 陰性の女性に抗レトロウイルス薬が用いられることはそれほど多いことではなかったため、Susan さんはその内服をしないことに決めたのだという。彼女は2ヶ月経たないうちに妊娠した。
「もし私が勝負をかけ、HIVにかかったとしたら、それは自分の意思で冒した危険です。そんな結果を最小にするためにできることをしたのですが、HIV 陰性のパートナーとしては、負わねばならない一定のリスクが常に存在するのです」と彼女は言う。
共に39才の Hartmann 夫妻は4才になる彼らの娘と現在はメリーランド州 Odenton に住んでいる。もう一人子供を持つことを考えているところだと彼らは言う。もし彼らがそうするとしたら、恐らく同じ道をたどることになるだろう。
「私たちは、生きたいと思う人生をどのように生きるかについて自己分析を多く行ってきました。夫は自分が死ぬまでの日数を数えているのではないのです。彼は長い人生に期待しているし、私たちは家族を望んでいるのです」と Hartmann さんは言う。
一方が HIV 陽性のカップルの場合、
HIV 陰性のパートナーへの新規感染は重大な問題である。
夫が HIV 陽性、妻が HIV 陰性の夫婦が
子供を作りたい場合、
夫の精液を介して感染するリスクがあるため、
本来なら、精液から HIV を除去した精子を用いた
人工授精が行われる。
ただし、この方法も理論上感染の可能性はゼロではない。
一方、HIV 陽性の女性が妊娠した場合も
胎児への感染リスクがあるが、
抗レトロウイルス薬の投与によりそのリスクは
1%未満となっている。
いずれにしても、当該夫婦のリスクに対する認識が
重要であるだけでなく
HIV 感染者の基礎疾患の安定と
専門医による厳重なコントロールが不可欠である。
残念ながら
自然な妊娠という選択肢には、感染のリスクが
全く排除されているとはいえないのが現状のようである。