MrKのぼやき

煩悩を解脱した前期高齢者男のぼやき

小さきものから

2011-06-27 18:26:58 | 科学

コーネリア・バーグマン博士は
嗅覚研究ではかなり有名な研究者らしい
(美女でもあるようだ)。
線虫を用いた神経系の研究の第一人者らしいが
その研究内容は複雑である。
ネットでも色々と紹介されているようなので
詳細はそちらでご参照いただきたい。

6月20日付 New York Times 電子版

In Tiny Worm, Unlocking Secrets of the Brain 小さな虫の中で脳の秘密を解明する

Celegans

線虫が特定の化学物質に晒されニューロンが反応すると明るい緑色に輝くよう科学者によって線虫の二つのニューロンに操作が加えられている。

By NICHOLAS WADE

 East River を見下ろす8階のラボで Comelia I. Bargmann(Cori Bargmann)博士は二人の研究員が微細な線虫を操作しているのを見ている。鼻先を管の中に突っ込んだ状態で透明なプラスティックの棒の上の微小な溝の中に虫を捕まえていた。他の虫によって産生された信号化学物質、フェロモン(pheromone)が管を通して送り込まれる。ニューロンが反応すれば虫の頭部の2つのニューロンが明るい緑色に発光するよう研究者によって遺伝子的に操作が加えられていた。

Celegans2

C.elegans と呼ばれる小さな線虫は302個のニューロンしかない。そのため神経回路の研究に格好の対象となっている。研究者らは、線虫の行動をコントロールするために個々のニューロンがどのように相互に作用するかについて全貌を明らかにし始めている。

Corneliabargmann

Cornelia I. Bargmann 博士は線虫の脳がどのように機能しているかどうかを解明中である。

 小さな動物の行動を探索するためのこういった独創的な技術は Bargmann 博士のラボや他のラボによる長年の研究の成果である。知的能力の程度において線虫は低級であるにもかかわらず、その神経系の研究は人間の脳を理解するのに最も有望なアプローチの一つを提供してくれるのである。というのも、それはまさに同じ機能的要素を用いながら、何百万倍も単純だからである。
 一般に線虫として知られている Caenorhabditis elegans はわずか1mmの長さの小さな透明な動物である。腐敗した動植物で増殖するバクテリアを餌とする。これはいくつかの理由で格好の実験生物となっている。その一つにその脳がかなり単純であるということがあり、そこには302個のニューロンしかなく、神経間の連結部であるシナプスは8,000箇所しかない。こういった連結は個体間でほとんど同一であり、このことは、すべての線虫において脳は本質的に同じように配線されているということを意味する。そのようなシステムを理解するのは、数十億のニューロン、10万マイルの生物学的回路、および100兆ヶ所のシナプスからなる構造を持つ人間の脳よりかなり容易であるに違いない。
 生物学者の Sydney Brenner 氏はこのゴールを念頭に置いて1974年に実験動物として線虫を選んだ。302個のニューロンがどのように接続されているかという神経回路図を誰かが彼に提供してくれれば、彼はこの線虫の行動を割り出すことができると考えた。
 線虫の神経回路系統を再構成する仕事は、現在 University of Wisconsin に所属する John G. White 氏の肩にかかることになった。線虫体の20,000枚の電子顕微鏡の断面図を調べる必要があった作業に10年以上取り組んだ末、White 博士は、302個のニューロンがどのように相互接続されているかを正確に解明した。
 しかし、線虫ですら脳の神経回路図が複雑であることがわかり Brenner  博士のコンピューターでのアプローチは成功していなかった。Bargmann 博士は White 博士の神経回路図を採用し、他の方法でそれが解明されるかどうかを見た最初の生物学者の一人だった。
 Cori Bargmann 博士は、米国南部 Deep South の小さな大学都市ジョージア州 Athens で育った。そこのUniversity of Georgia で父親は統計学を教えていた。彼女の両親は通訳をしていて、Rolf Bargmann 氏がニュルンベルク裁判所で働いていたときに知り合った。母親の Ilse さんはオーストラリアの動物行動主義者の Konrad Lorenz と Karl von Frisch の研究をドイツ語で彼女に読んで聞かせていた。このことが彼女の神経科学への関心の素地を作ったのである。
 「私が科学の道を選んだのはラボが好きだったからです」と Bargmann 博士は言う。彼女は機械や道具が好きで、自分自身で物を作り、他の誰も知らないことを学ぶ楽しみを好んでいた。抜群に優秀な学生だった彼女は博士号をとるために一流の癌生物学者である Robert A. Weinberg 氏の M.I.T. のラボで研究することになった。そこでは癌を起こし得る最初の変異遺伝子が分離されている。「それは素晴らしく刺激的な時間でした」と、彼女は言う。
 彼女の仕事は neu と呼ばれるラットの遺伝子をクローニングすることだった。その遺伝子に変異が起こると腫瘍を生ずるが、それはラットの免疫系が攻撃し破壊できる腫瘍である。数年後、人間版の neu 遺伝子に相当する HER-2 が乳癌で増幅しているのが発見され、その受容体たんぱく産物が、有力な乳癌治療薬のハーセプチンと呼ばれる人工抗体のターゲットとなっている。
 Bargmann 博士は、博士課程終了後の活動として動物の行動について研究することに決めた。マウスはそういった研究の標準的な動物であるが、彼女は毛で覆われた動物を傷つけるのが好きではなかった。「Weinberg 先生のラボで、マウスで何かしなければならないたびに泣きだしていました」と、彼女は言う。毛に覆われていない代わりの動物がミバエだった。彼女はカリフォルニアの有数の研究所の面接を受けたが、その時は夫がそこへの異動を希望しなかった。
 それで線虫が残ったのである。今では世界中には数百の線虫のラボがあり、それらのうち30ほどが Bargmann 博士のラボと同じように、線虫の神経系に焦点を当てている。1987年には「線虫に今ほどの評価があったわけではありません」と、Bargmann 博士は言う。しかし、ちょうどM.I.T. では、H. Robert Horvitz 氏が米国で最初の本格的な線虫ラボの一つを創設していた。彼女は彼のラボに加わり、線虫について書かれたものをすべて読んだが、それにはこの小さな領域の非公式な雑誌 The Worm Breeder’s Gazette のすべてのバックナンバーが含まれていた。
 彼女は、C. elegans の特異な行動は記載されているものの、十分解明されていないことを知った。この動物は水質汚染化学物質を摂取し、興味をそそるものであると感じた方向へ移動する。White 博士の神経回路図はその前年の1986年に発表されていた。それを手にしながら、彼女はこの線虫の302のニューロンのどれがその化学物質追跡の行動を支配しているのかを明らかにしようと思っているとHorvitz 博士に言った。
 この研究課題はあまりに大胆であると彼は考えたが、この試みに6ヶ月かけてもよいと言った。線虫の脳内のそれぞれのニューロンは知られており、3文字の名前が割り当てられている。顕微鏡下に特異なニューロンを同定でき、レーザー光線で焼くことが可能であり、その操作によって線虫から一体どんな機能が失われたかでそのニューロンの機能が推測できるのである。
 一つ一つニューロンを断つという作業を繰り返し Bargmann 博士は辛抱強く前進した。顕微鏡下で一つのニューロンを他のニューロンと区別するのは容易ではない。「一房ブドウの中ではそれぞれの粒が違っているのはわかっていても、それを必ずしも見極めることができないことに似ています」と Horvitz 博士は言う。「彼女がまずしなければならなかったことは線虫の神経解剖を学ぶことであり、それまでにただ一人しかやっていなかった方法で彼女はそれを行ったのです」(彼が指しているのは、成虫体内にある全959個の細胞の卵細胞からの系統を追跡した John E. Sulston 氏のことである)
 線虫の休眠状態への切り替えをコントロールするニューロンを彼女は偶然発見した。これは食べ物が少なかったり、仲間が過剰状態にあるときの生き残りの戦略である。そしてついに彼女は嗜好をコントロールするニューロンを発見した。それらのニューロンがなければ線虫は化学物資を追跡できないこと、線虫の他のすべてのニューロンを断ってもこの能力を保持していたことを示したのである。
 彼女はまたこの線虫が味覚だけでなく嗅覚、すなわち空気中の化学物質を感知する能力、を持っていることを発見した。線虫は腐敗しかけている植物や死骸を餌とするバクテリアを食べることから、線虫は腐敗の臭いを感知しそれを目指して追いかけることができるに違いないと彼女は考えた。これらの実験で漏れ出てくる臭いを伴う隙間風は Horvitz 博士のラボで苦情を招いた。成功を収めてから彼女はこう述べている。「Horvitz 氏は私に、私の科学者としての強みは、私が線虫のように考えることができることだと言いました」
 「Cori は線虫のように考えるだけでなく才能を持っています」と、今、Horvitz 博士は言う。彼女は厳密で独創的なやり方で考えることができる人ですが、ほとんどの人がまねできません。それゆえ彼女はさらに新しい種類のアプローチをたびたび開発してきました」
 Bargmann 博士は自身のラボを立ち上げるため 1991 年に University of California, San Francisco に移った。そこで彼女は線虫が嗅覚を持っているという自身の知見をさらに追求することから始めた。1991年、Richard Axel、Linda Buck 両氏は嗅覚の分子的基盤を発見した。それによると、鼻の中の嗅神経終末に分布し特異な臭いに反応するたんぱく、すなわち臭気物質受容体を作り出す遺伝子が、ラットで少なくとも約1,000個存在するという。
 C. elegans の全遺伝子情報はすでに解読されていたため Bargmann 博士は線虫の臭気物質受容体の遺伝子を同定することができた。実際のところ、線虫は2,000個の遺伝子を持っていたのだが、これはラットの約2倍である。
 「これが線虫の行っていることなのです」と、Bargmann 博士は言う。線虫は見ることができない。線虫の世界は視覚の世界ではなく嗅覚の世界である。餌である土壌のバクテリアを嗅ぎつけ、一方では有害なものを回避する必要がある。部分は不快なものだが臭いに対する最高の鑑別家にこの線虫を仕立て上げるために遺伝子の10%が用意されているのである。
 嗅覚遺伝子を手に入れたことで、Bargmann 博士は、線虫の嗅覚がどのように機能するかの解明に遺伝学を応用することが可能となった。彼女は、変異を持った線虫を用いることによって特定の受容体が特定の臭いを認識することを彼女は示した。これは Axel-Buck の発見から示唆されていたことであったが、それまで誰にも明確にされていなかった。
 彼女は odr-10 と呼ばれる遺伝子に変異がある線虫は diacetyl(ジアセチル)を嗅ぎわけられないことを発見した。この化学物質はバターにその臭いをもたらすものであり、線虫の大好物であるバクテリアによって産生される。Diacetyl を感知する臭気物質受容体たんぱくを作る odr-10 遺伝子は線虫を臭いの方へ導くニューロンで活性化している。
 Bargmann 博士は、線虫が嫌うような臭いを感知するニューロン内でのみ odr-10 が発現するよう操作した。するとこれらの線虫はバターの臭いを敬遠したことから、線虫が臭いを心地よいと見なすか嫌いと見なすかを決定するのは臭気物質受容体ではなく神経系の回路そのものであることが示された。
 これは驚くべき結果だった。なぜなら、ほとんどの人たちは、感覚情報は中立的に感じられ、その後諸状況からそれが良いか悪いかが脳で決定されていると考えていたからである。虫レベルでのみこういったやり方で行動していると主張する科学者もいたが、その後同じ結果がマウスにおいても得られている。
 Bargmann 博士はこの機序を進化的意味合いで考えている。「情報の一端がより確かになればなるほど、それはますますゲノムにシフトされてゆきます」と、彼女は言う。生物はその方が、何が良くてなにが悪いかを学ぶのにリスクを冒さなくてすむのである。つまり、遺伝子はそれを神経系にプログラミングすることで正しい行動を決定づけるのだ。線虫は diacetyl がおいしい食べ物を意味していると知るよう脳が配線されているのである。
 遺伝子を変異させることで線虫を研究してきた Bargmann 博士は、次に線虫の行動の遺伝的基盤における自然のバリエーションを探った。本来、ほとんどの線虫は塊状に集まる傾向にあるが、C. elegans のラボの異型では通常と異なり単独で存在することを好むようになっていた。彼女は行動におけるこの違いを npr-1 と呼ばれるたんぱく(neuropeptide Y receptor-1)における一つのアミノ酸の入れ替えと関連づけた
  このシステムがどのように機能するかを知るのにはさらに数年を要した。そして線虫における社会的行動がRMG と呼ばれる一対のニューロンによってコントロールされていることがわかった。この2つの RMG ニューロンは、線虫を集合させるいくつかの環境信号を感知する様々な感覚ニューロンからの入力を受け取る。RMG はこの情報を統合し、信号を線虫の筋肉に送るのである。
 この RMG ニューロンの通常の役割は社会的行動を促進することであるが、npr-1 遺伝子が活性化しているときには RMG ニューロンは感覚ニューロンからの入力を受け取ることができず、その線虫は単独の行動に切り替わるのである。
 線虫の嗅覚を解明しながら、Bargmann 博士は一人の嗅覚研究者 Richard Axel 氏と恋に落ちた。Axel 博士は Columbia University に勤めており、彼女が Rockfeller University に場所が見つかったことから、ニューヨークで彼と付き合うことができるようになった。Axel 博士がサンフランシスコの彼女のアパートを引き払うのを手伝っていたとき、自分がノーベル賞を受賞したことを聞いた。
 この喜ばしいニュースの直後、売り払うものを運ぶために近隣の Goodwill store まで運転しなければならなかった。「もしあなたが科学者と結婚したら、四六時中、科学のことを話すことになるとみんなに思われるでしょう」と、Bargmann 博士は言う。彼らは発表の前にお互いの論文を読むが、一緒に実験を計画することはしない。Axel 博士は嗅覚情報が、人間およびマウスの脳で最も高次レベルの大脳皮質でどのように処理されるかについて研究している。
 「たぶん週に一度か二度くらい私たちが夕食を共にしていて、Richard が『大脳皮質は見込みがない』と言ったなら、私は言います、『だから私は線虫で研究しているのよ』」と、Bargmann 博士は言う。
 24 年間この小さな動物を研究してきて、彼女は、その神経系がどのように機能しているかの理解にさらに近づいていることを確信するようになっている。しかし White 博士によって提示された神経回路図を解釈するのがなぜそんなにむずかしいのだろうか?彼女は、その神経回路図が最初に記載された雑誌のボロボロになったコピーを自分の棚から引き出す。その図は神経系において302個のニューロンのそれぞれが他のニューロンと構成している電気的接続を示している。これらは人間のニューロンによって形成されるのと同じ種類の接続である。
 電気的信号を伝達するシナプスに加えて、ニューロン間には直接的な化学的連絡が可能な、いわゆるギャップ・ジャンクションも存在する。ギャップ・ジャンクションの回路はシナプスのそれとは全く異なっている。Bargmann 博士が connectome(コネクトーム)と呼んでいるものではお互いに重なりあう2つの別々の神経回路を持っているだけでなく、再配線し続ける第3のシステムも存在する。これはニューロンから放出されて他のニューロンに影響を及ぼすホルモン様の化学物質、neuropeptides(神経ペプチド)に基づくものである。
 この神経ペプチドは恐らく脳全体の状態あるいは気分をコントロールするのに役立っているだろう。神経ペプチドがどのように機能しているかについての強力なヒントは npr-1 遺伝子によってもたらされた。この遺伝子は神経ペプチドに反応するたんぱくを合成する。この npr-1 遺伝子が活性化していると、そのニューロンは、その局所的回路には参加しなくなる。
 線虫の行動が神経回路図から計算できない理由はそのためかもしれない。接続のパターンは、線虫の250の神経ペプチドの影響下にひっきりなしに変化しているのである。
 このコネクトームは電気的接続を示しており、それゆえこれは線虫の脳内を情報が移動する最も速い回線である。「しかし、もし時を選ばずニューロンの一部集団だけが機能しているとしたら、このコネクトームは曖昧なものとなってしまうのです」と、彼女は言う。
 人間の脳もまた気分を定め、行動を修正する神経ペプチドを持っている。深刻な局面で疼痛の伝達経路が中断され、それによって重傷にもかかわらず人が機能することができるような場合、おそらく神経ペプチド が作用しているのだろう。
 人間の脳は線虫の脳より極めて複雑ではあるが、神経ペプチドから神経伝達物質に至るまで人間の脳は同じ構成要素の多くを用いている。そのため線虫の神経系について知り得たことすべては人間のシステムにも当てはまる可能性が高い。
 線虫の神経系は決まって単純に表現されるが、それは人間の脳と比較する限りに確かである。線虫は22,000の遺伝子を持っているが、それは一人の人間とほぼ同数であり、その脳は生物的機構の中でも高度に複雑な部品である。Bargmann 博士やその他のラボの研究によってその作動メカニズムの多くが解き明かされてきた。
 線虫の神経系が完全に解明されたと言うには何が必要だろうか?「みなさんは端から端まで行動を理解したいと思うでしょう。そして、行動がどのように変化するかということも理解したいでしょう」
「そのゴールは達成不可能ではありません」そう彼女は付け加えた。

むずかしすぎてよくわからないが、要するに
個体のどの行動の側面が遺伝子によって決められ、
どの側面が経験によって影響を受けるのか?
その謎解明の鍵を C. elegans が握っているらしい。
しかし、小さく単純な構造に思われる線虫においても
相当に複雑なメカニズムが存在するようである。
地道な実験の繰り返しには
気の遠くなるような努力と忍耐が求められそうだ。
つくづく自分の性格ではとても無理な世界であると
痛感するのである(頭脳からして無理)。

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果たして活躍の場はあるか?

2011-06-20 18:38:46 | 健康・病気

自己免疫疾患・膠原病の全身性エリテマトーデス(SLE)、
米国ではlupus(ループス、狼瘡)と呼ばれている。
今年3月、SLEに対する新たな治療薬が認可されたが、
なんと1955年のハイドロキシクロロキン、
コルチコステロイドの認可以来56年ぶりのことだとか。
患者の疼痛などの症状緩和に大いに期待されていたのだが、
この新薬、画期的薬剤と手放しでは言えないようで…

6月14日付 Washington Post 電子版

New lupus drug gets only mixed reactions from patients, experts 患者・専門家から賛否両論の新しいループスの治療薬

Benlysta

リウマチ専門医の Phillip Kempf 氏は、ループスに対する新しい薬ベンリスタ(Benlysta)を用いた注射治療を行う前に Janice Fitzgibbon さんを診察する。

By Authur Allen
 Janice Fitzgibbon さんにとって、これは奇跡の薬の物語である。
 2年前ループスに対する実験的な初めての注射治療を受けるために Arthritis Clinic of Northern Virginia を訪れたが、それまでの3年間、彼女は痛みと不安で途方に暮れていた。
 「ベッドから起き上がることのできなかった日が何日も過ぎていました。少し良いときでも、いつまた炎症が再び襲ってくるのかわからないためいつも恐れていました」と、Fitzgibbon さんは言う。「私の世界はとても狭かったのです。私はソファの上で8日間を過ごし、ずっと Turner Classic Movies(映画専門チャンネル)を見ていたこともありました。私のどこが悪いのか実際に理解できる人はいませんでした」
 今、彼女が話す限りにおいては正常な54才の女性である。「私は一日3マイル歩きます。バーベルも持ち上げるんです」
 Fitzgibbon さんによると、その違いはベリムマブ belimumab(商品名ベンリスタ Benlysta)によるものであり、本剤はループスの症状と原因に特異的に効果を発揮するよう開発された最初の薬剤として今年米国食品医薬品局の認可を得た。
 Washington Hospital Center のリウマチ科長 Arthur Weinstein 氏にとっては、ベンリスタはその最終的な評価について多くの不確定性を持ったまま FDA の承認プロセスを潜り抜けた薬剤といえる。「この薬剤が承認されてうれしい気持ちはありますし、その役割を果たしてくれることを希望しています。しかしそうなるかどうかはまだわかりません」と、彼は言う。
 ループスの患者の10~20%の患者がベンリスタから恩恵を受けるものと Weinstein 氏は推測しており、長い目でみてその少数群についてもどの程度有用であるかはわからないという。一方で、この薬剤は12ヶ月間の注射に約35,000ドルの費用がかかると見られている。
 この薬剤を承認に導いた研究では、ベンリスタで改善した患者の割合はプラセボで改善した患者のそれをわずかに上回るだけだった。結果的に、それを行ったことの高いコストの正当性に疑念をいだくリウマチ専門医もいる。
 「データから見ると、素晴らしい薬のようには思われません」と、Dallas のリウマチ専門医 John J. Cush 氏は言う。「どういう人がこの薬から恩恵を受けるのかわからないのです」
 これはループスに苦しんでいる人たちにふりかかるジレンマである。この恐ろしい、予測できない、ひどく苦痛を伴う疾患に対する有望な治療薬としては50年ぶりの登場である。しかし、これが患者たちには効果がないかもしれないし、その高い値段のため彼らに用いられないかもしれないのである。

Difficult to diagnose  診断の困難さ

 ループスは自己免疫疾患であり、そのほとんどは原因不明に免疫系が自分の身体に向かうものである。皮膚から骨、腎臓、心臓、あるいは脳にいたるまであらゆる臓器、器官を攻撃する。患者の90%以上が女性である。
 「私の症状は常に変化しているようでした。ある週は関節、その次は口内炎、そして皮疹というように」と、Fitzgibbon さんは言う。「それはまるで『オーケイ、ループスさん、次は私のどこを狙うつもり』って感じでした」
 Lupus Foundation of America によると、150万人のアメリカ人がループスまたはその関連疾患を有している。しかし、そのうちリウマチ専門医によって診断されているのは約32万5千人にすぎない。リウマチ専門医がループスを専門にしているのは、本疾患のほとんどの場合で患者の関節が冒されているからである。ループス診断の曖昧さと困難さが症例の不均等性を説明する。本疾患を確定する単一の血液検査や症状は存在しないのである。症状のひどくない患者は必ずしもリウマチ専門医にかからない。
 ループスの確定診断が困難である限り、この疾患を効果的に治療することも困難となる。25才のループスの患者が、痛みやその他の症状をコントロールするためにステロイドから化学療法薬剤、さらには抗マラリア薬(免疫調整目的で用いられる)まで一度に5剤も6剤も投与されているというのもまれではない。生殖能力の喪失、歯の脱落、あるいはけいれんなどもくみられる副作用である。しばしば、薬剤が、ループスだけで認められるのと同じくらい患者の調子を悪くすることがある。ループスには治療法がないのが現状であり、3月に市場に出てきたベンリスタもその状況を変えることはない。
「既に少なくとも他の2剤が用いられており、疾患に対する効果が確認できていない患者のために作られています」と、本薬剤を製造し、Gaithersburg に本社を置くHuman Genome Sciences 社の商品化担当副社長 Barry A. Labinger 氏は言う。リウマチ専門医によって診断されているループスの患者32万5千人のうち20万人ほどがそのようなカテゴリーに分類されると HGS 社は考えている。
 ベンリスタは、ループスの患者と同じくらい、創設19年になる同社にとっても一つの画期的なものとなっている。HGS 社から初めてとなる FDA の認可を得た薬剤である。同社は10年前のバイオテクノロジー・バブルのおめでたい薬品を具現化しようとしてきた企業であるが、これまで数多くの候補薬が市場に達することはなかったのである。
 Labinger 氏はこの薬剤がループスの重要な治療薬となると楽観的に見ている。同薬剤は抗体を産生する白血球の一つ B 細胞の反応を阻止することで効果を発揮する。ベンリスタは B 細胞の受容体に結合すると、同細胞の増殖を引き起こすたんぱくの作用を阻害する。要するに、ベンリスタは、免疫反応、特に自己免疫反応を起こす部分を抑制するのである。
 ベンリスタの価格は、生産に費用のかかる比較的新しい部類の薬剤である他のモノクローナル抗体のそれとほぼ同等であると Labinger 氏は言う。彼によれば、これまでのところ保険者側はこの薬剤の支払いについてなんら躊躇を示していないという。

‘A different woman’  『特別な女性』

 Lupus Foundation of America のワシントン支部長 Penny Fletcher さんにとってベンリスタは希望を意味する。「Janice さんがちょうどその臨床試験に参加したときから知っていますが、確かに彼女は特別な女性なのです」と、Fletcher さんは Fitzgibbon さんについてそう述べる。「それは炎症を回避させ、痛みや不安の少ないより安定した健康状態を彼女にもたらしてくれたのです。有効な患者にとっては、それは素晴らしいものとなります。しかし、ループスのすべての患者にとっても重要な薬なのです」と、Fletcher さんは付け加える。なぜなら、それが他のループスの治療薬につながるかもしれないからである。
 ここ数十年、有効に思われた多くのループスの候補薬が失敗に終わっているが、今回のFDA によるベンリスタの認可はチャンスがあるという気持ちを他の企業にも起こさせた。そう指摘するのは、San Diego にある University of California のlupus Clinical Trials Consortium 部門を監督する Kenneth Kalunian 氏である。こういった企業には Genentech 社、Medimmune 社、Astra-Zeneca 社、Eli Lilly 社などがある。
 しかし HGS 社の臨床試験でわかったようにループスについては事は単純ではない。ループスの症状は現れてはすぐに消え、患者ごとに千差万別である。本疾患の進行について明確な検査がほとんどないため、HGS 社は、被験者の症状の重症度に対する薬剤の効果を評価するコーディング・システムを考案した。
 本治験の早い段階では、アフリカ系アメリカ人(理由は不明だが本疾患に不釣り合いに罹患率が高い)でこの薬剤が特に有効のようであったが、さらに大規模となった治験の後期にはこのグループにほとんど有効性は見られなかった。統計学的にこれらの結果はいずれも有意ではなかったが、厄介な問題を残しておりHGS社はアフリカ系アメリカ人患者だけを対象とする別個の治験を約束した。
 かなり痩せていて短いブロンドの髪と目鼻立ちのくっきりしたJanice Fitzgibbon さんは McLean 市の快適な並木通りに住んでいる。49才だった5年前、指とつま先の関節から始まって、その後、肘、首、膝が痛み始めた。「『まあ、これは何?』って感じでした」と彼女は言う。痛みより辛かったのは激しい倦怠感だった。「私はいつもぐっすり眠れる人間でした。今、起きたとき疲れが抜けていません。私はどうやらサメのようです。動き続けていなければなりません。そうでなければ眠ってしまうのです」
 体中に広がっていって二階まで上がることができなくなるほど強い痛みを初めて感じたとき、Fitzgibbon さんはステロイドの注射を受けたが、それによって不眠と、奇妙な自殺念慮が引き起こされた。「この病気は知らぬ間に進行し、変動するのです。計画を立てることはできません、病気の劇発がいつ起こるかわからないからです」と、彼女は言う。「人にわかってもらうのは困難です」
 それでも彼女の場合は軽度と考えられている。視力を失っていないし、けいれんはないし、股関節の置換術も必要となっていない。「そういう病状に苦しんでいる女性に遭遇すると、私などは詐病者のように思われてしまいます」と、彼女は言う。
 ループスは患者にこっそり忍び寄り、痛みを起こし、活力を弱らせる。Fitzgibbon さんの場合、気分が良くなっていたとしてもそれもまた緩やかな進行だった。「(ベンリスタの臨床試験の一環として)2、3ヶ月の注射を行ったとき、私は『これは効果が見られません。私はプラセボのグループだったに違いありません』と言いました。すると夫はこう言ったのです。「冗談だろ?君はもう陰気には見えないぞ。午後6時にソファの上で寝たりしないじゃないか」6ヶ月後、効果があることに気づきました。遅くまで起きていられたし、よく眠れるようになっていたのです。犬の散歩もできました。自分がループスであることを忘れる日もあります」
 彼女には今、2年間この薬が使われており、臨床試験の下、無償で毎月の注射を受け続けている。
 出だしで失敗したが数年後には生活を変えることのできそうな薬を発売できて喜んでいる HGS 社だが、ベンリスタの将来性については比較的謙虚な姿勢でいるように見える。その長期的な有用性はまだ不明である、そう同社は認めている。
 「リウマチ専門医たちは進みながら学んでいます。そして、彼らはどのくらいそれが有効であるかを見るために彼ら自身の臨床で試す必要があるのです」と、Labinger 氏は言う。「ループスに単純な治療効果は得られないわけですから」

自己免疫疾患の全身性エリテマトーデス(SLE)は
女性が9割を占め、有色人種に多いとされている。
15~44歳で発症、発熱、易疲労感などの全身症状の他、
皮膚・粘膜、血管、消化管、関節、腎臓、肺、心臓、血液、
中枢・末梢神経などいずれの臓器にも発生する可能性がある。
皮膚症状のうち、両頬から鼻梁にかけて広がる丘疹状の紅斑、
すなわち蝶形紅斑は本疾患に特徴的であるが、半数程度にしか
認められない。
治療にはステロイドが最も使われるが、その他に
非ステロイド性消炎鎮痛薬、免疫抑制薬、免疫調整薬などが
用いられたり、血漿交換が行われたりすることもある。
ステロイドは有効だが副作用の問題があるため、
症状を見ながら少しずつ減量を図る必要がある。
記事中にもあるように、自然経過でも病状の変動が大きく、
検査データから病勢を客観的に捉えることも困難であるため
正確な診断および病状判断にはリウマチ専門医や
膠原病の専門医による診療が必要であるが、
そういった専門医も不足しているのが現状である。
なおベンリスタは、本邦でも今年から
臨床試験が開始されていると聞く。
たとえ有効性が低くても、SLEに治療の選択肢が広がることは
望ましいことであると思われる。

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酒で片づけないで!

2011-06-16 22:25:18 | 健康・病気

お待ちかね、
6月のメディカル・ミステリーのコーナーです~。

6月14日付 Washington Post 電子版

Medical Mystery: Alcoholism didn’t cause man’s diabetes and cirrhosis
メディカル・ミステリー:男性の糖尿病と肝硬変はアルコール依存症が原因ではなかった
By Sandra G. Boodman,

Alcoholism

 それまで他の医師たちが主張していたJanet Janas さんの双子の兄の突然の重大な病気の原因をそのレジデントが繰り返して言ったとき、彼女はついに感情を抑えきれなくなった。
 「その診断を考え直していただきたいと思います。なぜならそれが証明されていないからです」、そう言ったのを普段は冷静なこの臨床看護師は覚えている。彼女によれば、そのレジデントはじろっと横目でにらみ明白なことを否定しようと決意しているかのように自分のフラストレーションを発したという。
 2008年1月、オレゴン州 Portland の病院の集中治療室に集まった Janas さんとその家族に対して、せん妄状態で攻撃的になっている彼女の兄の Jeff Williams が進行したアルコール依存症によるものであると医師たちは告げていた。彼は肝硬変、消化管出血、さらには新たに診断された糖尿病からケトアシドーシス(インスリン不足で昏睡や死に至りうる医学的緊急事態)に陥っていると医師たちから告知されたのである。
 元来健康であったこの46才の電子工学技術者 Williams 氏が付き合い程度にしか飲酒しない人間であったのは間違いないと家族から異議が唱えられたが、スタッフは意見を異にした。「そういう人たちは実にうまく隠すのです」看護師の一人が彼女にそう言ったと Janas さんは言う。
 2週間の入院中もその退院後も同じような不信に直面していたと Williams 氏は言う。「『私は一日にビール一缶ほど飲みますが、その程度では肝硬変を起こさないでしょう。ですからそれが原因ではありません』と私は言いました」繰り返し医師に話したことを彼は思い出す。「彼らは私を無視する感じでこう言ったのです。『ですが、それが現実です』」
 結局のところ、彼の家族全員、特に彼の双子の妹に影響を及ぼすことになる診断にたどつけたのは、真の原因を見つけ出そうとする Williams 氏の強い決意だった。

Worsening eyesight 悪化する視力

 2007年11月、Nothern Virginia の Janas さんの自宅に一週間滞在していた。本来なら活動的な兄が、いつもより“柔和”に見え、毎日午後には昼寝までしたのだが、それは彼が休暇で気が緩んでいるためだろうと彼女は考えていた。Portland に戻って数週間後、彼は突然目がかすむようになった。Janas さんは主治医に電話をするよう彼に言った。彼の保健維持機構(HMO:米国民間保険の一つ)は彼を検眼医に紹介し、初めてかける眼鏡を処方した。
 しかし数日のうちに彼の視力は悪化した。Janas さんは兄に主治医に電話をするよう促したが、結局彼は同じ検眼医のもとに送り返された。なぜ視力がそんなに急に悪化したのか彼は質問した。「そういうこともあり得ます」と彼女は答え、彼が希望した眼科医への紹介を拒否しさらに度の強い処方を施した。
 数週間後、Williams 氏は重症のインフルエンザに罹ったのではないかと思った:彼は疲労困憊となりあちこちが痛んだのである。12月28日にはベッドから起きられなくなり、ひどい脱水状態となって“ゲータレード”を大量に飲み、HMOの緊急医療センター(urgent care center)を受診した。彼の血糖値は371mg/dl と驚くほど高かった。これは糖尿病の診断を考える閾値の2倍に近い。医師は糖尿病の薬を処方し彼を帰宅させた。
 Williams 氏によると、家に帰ったことを覚えていなかったが、近所に住んでいる20才になる娘に何とか電話をかけたという。「私はこう言いました。『調子が悪い。もしよくならなければ私を病院に連れていってくれ』と」彼は言う。翌日、彼女は見当識障害を起こしほとんど意識がない状態にある彼を発見し、急いで病院に連れて行った。彼の血糖値は500以上で腹部は復水で腫れており、脾臓は腫大していた。そして彼はコーヒー残渣のようなものを嘔吐していたが、これは消化管出血があることを示していた。
 「もし12時間来院が遅れていたら私は死んでいただろうと彼らは言いました」と Williams 氏は言う。彼は集中治療室に収容されたのである。
 太ってもなくこれまで健康で筋骨逞しいこの男性に認められたこれらの症状の原因を探るために、医師は感染症、C型肝炎、およびその他の疾患を除外し、最も可能性が高いとみられる疾患にたどり着いたのである。アルコール依存症である。彼の錯乱や昏迷は禁断症状と見なされ、ケトアシドーシスは1型糖尿病の合併症だったが、これは46才においてはまれな診断である。というのもそのほとんどが小児や若年成人において発症するからである。
 病院のカルテには、Williams 氏はアルコール依存を強く否定したが、『若いころかなりのアルコールの乱用があったことを率直に認めている』と書かれていた。彼の兄弟や娘は、彼がどれくらい飲んでいたかを知らないと言ったが、病院のスタッフに対して、ルームメイトと共同で使っていた家の地下室には kegerator と呼ばれるビールのディスペンサーがあったと話していた。Williams 氏の父親は、息子がアルコール依存者であることを頑として否定した。Janas さんも同じようにそのことに懐疑的だった。
 「私たちはきわめて親密な家族なのです」と彼女は言い、双子の兄が何年間もそのような秘密を持っていたという考えは不可解だった。彼女の家で過ごした1週間も、彼はたまにビールを飲むだけだったのだ。
 Janas さんによると、自分の疑念について看護師の一人に話したところ、その反応は冷たく見下す態度であり、Williams 氏もまたそんな態度に直面していたと言う。「入院するまでの2週間一滴も飲んでいませんでした。というのもあまり体調が良くなかったからです」と彼は言う。「そんな状況でどうして禁断症状になるというのでしょう?まったく理にかなわないことでした」

‘That’s what I have!’  『それだったのか!私の病気は』

 その後数ヶ月の間に Williams 氏は少しずつ回復し、高度の肝障害を抱えながらインスリン依存性糖尿病患者としての生活に適応していった。しかし自分の病気の原因を見つけ出す決意をし、彼は長年の友人である引退した病理医 Delbert Scott 氏に電話をかけた。5月、オレゴン東部にある Scott 氏の大牧場で彼は数日を過ごした。
 「私たちは彼の病歴と糖尿病について検討しました。そしてひょんなことから Merck Manual(メルクマニュアル)を取り出し、考えられる肝不全の原因を調べたところ、それがあったのです」と Scott 氏は思い起こす。肝硬変と糖尿病の原因一つに hereditary hemochromatosis(遺伝性ヘモクロマトーシス)があり、これは過剰な鉄の吸収と蓄積を起こし、その結果臓器障害をきたす遺伝性の病気である。
 「それを読んで私はこう言いました。『ああ、私の病気はそれだったのか!』」Williams 氏はその時のことを思い出す。しかし Scott 氏に確信はなかった。確定的な症状である銅色の皮膚が彼の友人には見られなかったからだ。「私がそれまで見た患者はかなりブロンズ色を呈していました」と Scott 氏は言う。
 米国で最も多く見られる遺伝性疾患の一つ、遺伝性ヘモクロマトーシスは約100万人と推定される米国人が罹患しており、そのほとんどは Williams 氏のような北ヨーロッパの子孫であるカフカス人である。National Institutes of Health によると、1996年に発見された鉄調節遺伝子である HFE 遺伝子の欠損の2つのコピーを受け継ぐ人たち(米国人1,000人に約5人の頻度で見られる)で最もリスクが高いが、彼らのすべてがヘモクロマトーシスを発症するわけではない。欠損した遺伝子を片親からのみ受け継いだ人たち(これは人口の約10%)はキャリアとなる。彼らは知らないうちにその遺伝子を子供たちに受け渡すが、欠損遺伝子2コピーを受け継いだ人たちに比べると発症する頻度は低い。
 進行するとヘモクロマトーシスは肝硬変や糖尿病、さらには心不全を引き起こす。本疾患は血清中のフェリチンの測定をはじめとする血液検査で発見されるが、フェリチン値が上昇していた場合、遺伝子検査を行うことになる。
 多くの遺伝的疾患と違って、有効な治療法があり、それは単純である。鉄量を減らすため、通常の1パイント(473cc)前後の瀉血と、鉄量を抑えた状態を保つための維持的放血である。
 Williams 氏はすぐに HMO に電話をかけ関連する検査を求めた。彼のフェリチン値は 2,350 ng/ml であり、男性の正常上限と一般に考えられている 300 ng/ml をはるかに越えていた。まもなく彼が問題の遺伝子の2コピーを受け継いでおり、彼の推測が正しかったことがわかった。アルコール依存症ではなくヘモクロマトーシスこそが、彼が入院することになった一連の病気を説明してくれたのである。つまり、突然の視力障害で始まった肝硬変や糖尿病、実際にはケトアシドーシスだったインフルエンザ様の症状までもそれによるものだったのだ。
 「私はとにかく相当腹立たしく思っていました」と、Williams 氏は言う。早速、毎週の瀉血治療を開始した。双子の一方と同じように Janas さんも同じ遺伝子の2コピーを受け継いでいて、この疾患の早いステージにあることをすぐに知ることとなった。彼女はただちに毎週の瀉血を開始し、8ヶ月後には彼女のフェリチン値は安全域に低下していた。彼らの長兄はキャリアであることがわかり、Janas さんの10代の息子もそうだった。二人とも現在経過観察中である。
 「彼女は回復しています」Janas さんに診断が下されて以来治療を行ってきた Northern Virginia の血液内科医 Lee Resta 氏は言う。2009年5月、Williams 氏は自身の病院カルテを手に入れた。彼の退院サマリーの中に彼を動揺させる内容が隠されていた。医師は実際に彼の血清フェリチン濃度を測定しており、2,098 ng/ml と“著しく上昇”していることを知っていたのである。彼らはこの値が肝硬変の結果であり、原因ではないと考えたため遺伝子検査を行わなかったのだ。
 Resta 氏によるとこの不可解な異常所見を追求しない決定がなされているのを彼は見つけているという。「肝臓疾患と2,000 ng/ml 以上のフェリチンレベルでありながら、なぜそれをチェックしなかったのか?」と、彼は指摘する。
 満足のいく説明を決して受けていないと Williams 氏は言う。この誤診が害をもたらしたことを証明しようがないことから、医療過誤訴訟を起こさないことに決めたと彼は言う。恐らく彼の肝障害が入院よりずっと以前に発生していたということもある。
 彼は自身の怒りを、この疾患の認識を高めることやスクリーニング検査の推奨に向けようとしてきた。彼が一緒に働いている人たちの中に彼の経験の結果から問題の遺伝子を持っていることがわかったものがいると彼は言う。Williams 氏によれば彼はきちんと自分の身体に気を配る方であり、忠実にインスリンを注射し、糖尿病をコントロールするために毎日4回血糖値を測っているという。不可逆的な肝硬変の経過として肝臓癌の懸念が彼の頭から離れないでいる。毎週瀉血を行い彼の鉄を安全域に下げるのにほぼ18ヶ月を要した。
 「私が元気でいられる理由はただ一つ、彼が身体を壊したからです」と、Janas さんは言う。彼女は後ろめたさを感じるとともに感謝もしていると言う。「彼がいなければ知らないまましばらくは幸せな気分でいたでしょう。しかし、彼が耐え抜いた苦痛、私の家族が味わった苦難を思うと…」と彼女は続けたが、その声は次第に小さくなっていった。
 「彼女は物事が正しく行われたときに見られる事例であり、私は正しく行われなかった事例です」と Williams 氏は言う。医師たちが現実を無視して彼がアルコール依存症であると決めつけたことに今でも怒りを覚えており、真実につながる発見がなされなかったならどうなっていただろうかと考えている。「これをそのままにさせなかったのは技術者としての私だったのです」

常染色体劣性遺伝の遺伝性ヘモクロマトーシスは
本邦ではきわめてまれであり、
欧米の3分の1以下の頻度と言われている。
ちなみに本邦で多くみられるのは
頻回の赤血球輸血に伴って起こる
続発性ヘモクロマトーシスである。
遺伝性ヘモクロマトーシスでは
記事中にあるように
HFE 遺伝子の変異によって
トランスフェリン受容体と結合して血中の鉄の輸送を
調節しているHFE たんぱくが機能異常を生じ
生体に鉄沈着症を引き起こすと考えられている。
その結果、鉄は肝臓、膵臓、心臓、皮膚、関節など諸臓器の
実質細胞内に沈着し、それぞれの臓器の機能障害を
もたらす。
月経などで鉄が失われやすい女性より男性の方が
発症しやすいと言われている。
4主徴として、肝硬変、糖尿病、皮膚色素沈着、
および心不全が挙げられるが、
内分泌障害や関節症状なども認められる。
治療は臓器に沈着した鉄を除去する方法として
瀉血療法と鉄キレート薬の投与がある。
前者はヘモグロビン値 11g/dl前後を目標として
毎週約400mlずつ瀉血する。
肝硬変が進めば肝移植が必要となることもあり
肝臓癌の発生リスクが増してくる。
肝障害が進む前に発見し早期に治療を開始することが
重要である。
それにしても、
記事中で悪者にされている医療スタッフたち、
どうしてあそこまでアルコール依存症に
拘泥したのだろうか?(単なる脚色?)

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メジャー・リーガーと脳腫瘍

2011-06-08 17:17:04 | スポーツ

ボストン・レッドソックスの松坂大輔投手が
右肘靭帯損傷で、来週にも靭帯修復手術を受けることに。
復帰は来季後半以降ということで、
松坂の野球人生にとって最大の危機。
しかし、こういったアスリートの大変なケガも
手術が成功すれば立派に復活してしまうのには
つくづく感心させられる。
一部のパーツが壊れても
そこさえきちんと治せば見事に復活できるのは
他のパーツもやはり一級品だからであろう。
松坂投手もめげずに無事復帰を果たし
もう一花咲かせてもらいたいものである。

さて、米大リーガーも色々な病気で亡なくなっているようだが
脳腫瘍の中でも最も悪性のグリオブラストーマ(神経膠芽腫)で
この世を去った有名選手や監督が多いらしい。
何かいわくがあるのか、それとも偶然か、
それは読んでみてのお楽しみ…

6月3日付 Time.com

Is Brain Cancer Stalking Major League Baseball? 米大リーグに忍びよる脳腫瘍?

By Jeffrey Kluger

Garycarter_2

メッツのキャッチャー Gary Carter  1986年

 メジャーリーグ・ベースボール(米大リーグ)通の人なら、肘の損傷、回旋筋の肉離れ、膝の故障などの身体的問題に苦しむ多くの選手を耳にすることだろう。しかしまず聞くことがないと思われるのが脳腫瘍である。
 しかし、悲しいかな、腫瘍もまた問題の一つだった。今週、主にモントリオール・エクスポズやワールドシリーズを制したニューヨーク・メッツでプレーし野球殿堂入りしているキャッチャー Gary Carter(ゲーリー・カーター)氏が手術不能のグリオブラストーマに冒されていると多くの報道機関が伝えている。この腫瘍はまれではあるがきわめて悪性の脳腫瘍の一つで、平均生存期間は14ヶ月ほどである。
 この報道にはちょっとした悲惨なデジャヴ以上のものがある、というのも、監督では Dick Howser(ディック・ハウザー)、Johnny Oates(ジョニー・オーツ)の両氏、投手では Dan Quisenberry(ダン・クイゼンベリー)、Tug McGraw(タグ・マグロー)の両氏、そして外野手の Bobby Murcer(ボビー・マーサー)氏、彼らは皆、同じこの稀な疾患にかかり、短期間で死亡している。しかしそれでも、Duke University 付属の Preston Robert Tisch Brain Tumor Center の共同部長代理で Carter 氏の主治医を務める Henry Friedman、Allen Friedman 両氏の話しぶりは、著名人である受け持ち患者の見通しを語るにしては思った以上に明るく聞こえるのである。
 「状況としては、この病気になればすなわち末期状態にあるということです」と、Harry Friedman 氏は言う。「しかし、私たちは前向きであろうとしています。新しい治療計画や治療法によって15年以上生存する患者がいます。9年、10年、11年と生きている人もいます。確かにそれはごく一部の人ですが、治癒する患者の一団もいるということを信じることが大切です」
 ここで2つの疑問が持ち上がる:ほんのわずかであるが通常のグリオブラストーマの予後とそれほどかけ離れた症例を実現化するために Tisch Center は一体何をすることができるのだろうか?そして、それほど多くの著名人をきわめて稀な腫瘍の犠牲者にしてしまう米大リーグには一体何が起こっているというのだろうか?
 ベースボールの方の疑問に答えるのは簡単である。なぜなら次のような答えがあるからだ:つまり、恐らく起こっているものは何もない、ということだ。ただ、何年間もスポーツ界でもてはやされたステロイドが世間では長く脳腫瘍と関連付けられてきた。少なくとも、アナボリック・ステロイドを常用し1992年に同疾患で死亡した NFL の守備のラインマン Lyle Alzado(ライル・アルゼイド)氏の死後からはそうだった。彼は自身の病気のことで薬物使用を悔やみながら亡くなった。しかし、Alzado 氏はステロイドの命にかかわる多くの影響についての悲劇の大家とはなったが、医師ではなかった。
 「Alzado 氏は脳のリンパ腫であって、グリオブラストーマではありません」、米大リーグの医療部長 Gary Green 医師は言う。さらにまた、グリオブラストーマになった Carter 氏や他の野球選手たちは、ステロイド以前の時代に正々堂々とプレーしており、彼らはすべてプレーから引退してかなり後に病気になっている。米大リーグの脳外傷の顧問医師で脳神経外科医の Alex Valadka 氏は、ケースによってステロイドは実際に脳腫瘍の治療にも用いられていると指摘する。「脳が損傷を受けると腫れるのです。そしてステロイドはそれを軽減してくれるのです」と、彼は言う。
 脳震盪も考えられる原因として取り上げられてきたが、それは、脳震盪によって、脳組織にこれまで気づかれることのなかったあらゆる種類の損傷が生ずることが徐々に明らかにされてきたからである。さらに Carter 氏や Oates 氏はキャッチャーだった。キャッチャーは試合中、最も危険で、衝撃を受けやすいポジションであることは明らかである。しかし、ここもまた、医師たちは却下する。
 「いかなる形であれ脳震盪を脳腫瘍に関連付けるデータはありません」と Friedman 氏は言い、これにGreen 氏も同意見である。「無関係です」と、彼はきっぱりと言う。強い発癌性があり米大リーグで広く人気があるという事実はあるものの、脳腫瘍と噛みタバコの間にもこれまた確かな関連はない。「そうです、たしかにそれは口腔や顎の癌を引き起こします」と Friedman 氏は言う。「しかし、いくらか胃に取り込まれ、そこから血中に入ったとしても、脳組織に影響を及ぼすのに十分な量とはならないでしょう」
 結局、メジャーリーグにおいて目立つところのグリオブラストーマ症例の集団において実際に働いているのは恐らく単に統計的な錯覚である。年間18,000人におよぶ米国民が本疾患と診断されており、この数字は非常に多いように見えるが、米国人口3億人の0.00006に過ぎない。
 明らかに野球は小規模な社会である。しかし、約1,600人の男たちが1シーズンにメジャーリーグのユニフォームを身に着け、数シーズンのみでこのスポーツを引退するプレーヤーやずっと長く続けているプレーヤーを合わせると25年間で延べ約5,200人になる。それに対して、6人のプレーヤーというのは全人口におけるグリオブラストーマの頻度とかなり近い値で一致している(MrK註:6÷5,200=0.00115、一方0.00006×25=0.0015)。さらに、Valadka 氏は、「おまけに野球選手はすべて男性であり、男性は女性より高いグリオブラストーマの頻度が高くなっています。診断されたとき、彼ら全員の年齢が高かったのは、この病気の起こる時期がそうだからなのでしょう」
 しかしプレーヤーの一人が発病すると、そういった事が気を楽にしてくれることはないし、診断されていた6人のうち5人がたちまちのうちに亡くなっているのは事実である。そのため2つ目の疑問が持ち上がる:Tisch の医師たちに、Carter 氏に良い結果がもたらされるかも知れないと思わせるものは何なのか?その一つが、グリオブラストーマに対して彼らがとろうとする2面からのアプローチである。治療は従来の方法で始まる。つまり、手術とそれに続く放射線・化学療法である。しかし可能な限り多くの患者が、より新しく、より有効な可能性のある薬剤の臨床試験に登録される。それを選ばなければ予後があまりにも不良であることから、ほとんどの患者は進んで登録に同意する。「皆、この領域を推し進めるために臨床試験を行おうとしているのです。私たちは自分たちの患者がそれらに参加するよう手伝おうとしています」と、Friedman 氏は言う。
 一方、実験的薬剤が心配であるとか、保険がそれらを補填してくれないとかの理由で参加しない患者に対しては現存する薬剤が用いられるが、新しい投与法で行われる。新規のグリオブラストーマのケースの治療に用いられる最も一般的な化学療法薬はテモゾロマイドであり、その他の薬剤は再発時や、治療の最初のコースが有効でなかった場合に用いるため使用が差し控えられる。ところがTisch の治療戦略では、初回の戦いの場に一気に複数の銃を用意するのである。
 「有効であることを示す無作為化試験が得られるまでは、新規に診断された患者に対して再発時用の薬剤は追加しないと考える人が多いのです」と、Friedman 氏は言う。「私たちはそれが有効であろうという信念に懸けているのです」
 それは国内の他の数ヶ所の脳腫瘍センターでも同じように試みられている挑戦であり、Tisch 同様、驚くほど良い結果がいくつか得られてきている。すべての成績は施設間で共有されている。この新しい治療で成功した少数の患者と、効果のない圧倒的多数の患者とを区別するものが何であるかは今のところわかっていない。腫瘍の遺伝子、あるいは患者自身の遺伝子、さらには患者の免疫系の強さに何か違いがあるのかも知れない。確かなことは、数年の猶予を獲得しながら、数ヶ月しか猶予を与えない病気から患者を取り戻していることである。
 科学者たちの目標は、少数の幸運な患者の集団について可能な限り多くのことを学び、幸運でないその他の人たちを救うために学んだことを応用することである。野球ファン、特にメッツのファンは、Carter がこの先何年も開幕日を迎えることのできる少数の一人になることをただ望んでいるのである。

脳腫瘍で亡くなったプロ野球選手といえば
広島東洋カープの津田恒美投手を思い出す。
しかし、どうやら野球選手にとりわけ
グリオブラストーマが多いわけではなさそうで、
日本のプロ野球選手のみなさんも
安心されたのでは?
一方、先ごろ、WHOの国際がん研究機関が、
携帯電話の電磁波による
脳腫瘍(神経膠腫・聴神経腫瘍)のリスクに
『限定的な証拠が認められる』と発表。
『で、一体どうすればいいの?』と言いたくなる。
気持ちのいい話ではないのである。

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2011年7月新ドラマ

2011-06-04 10:55:00 | テレビ番組

長い梅雨が予想されるうっとうしい毎日ですが、
皆様いかがお過ごしでしょうか。

早くも2011年前半のクールが終了。あっというまである。
過去ドラマを振り返って、
『嗚呼もうそんなに前のドラマだったのか…』と思うとき、
時の流れの速さを感じてしまうのである。

3

早速ですが2011年4月クールのドラマを振り返ってみよう。
『JIN~仁~2』は予想通り、高視聴率を記録したが、
これに対して裏の『マルモのおきて』もかなりの善戦。
これも、芦田愛菜の人気?ワンコ・パワー?
それとも阿部サダヲの演技力?
この『マルモ…』をはじめ、『名前をなくした女神』
『グッドライフ』『犬を飼うということ』など
大人顔負けの子役の名演技が光った。ついでにワンコの演技力も。
一方、特殊メイクを駆使した、『リバウンド』のズッコケコンビ、
速水・相武の体当たり演技もなかなか見ごたえがあった。
『幸せになろうよ』は、やはり震災後のこの時期に結婚相談所?、
ということで予想通り不発。
今やSMAP 効果はほとんどゼロ、があらためて実証された。
失望が大きかったのは『BOSS2』。今回はおふざけがひどすぎた。
やはり刑事ドラマの中でコント的セリフは頻発させるものではない。
たまに出てくるのが良いのである。
犯罪解明ストーリーの練り上げにもっと時間をかけるべきだった。
せっかくシリーズ化が期待されたドラマだったのに、
恐らく今回で終了だろう。残念である。

さて、それでは7月クールのドラマを一通りチェックしてみよう。
夏ドラマは例年あまり期待できないが、どうだろう。

フジ月9 7/?~ 『全開ガール』 新垣結衣、錦戸亮(NEWS)、平山浩行、蓮佛美沙子、鈴木亮平、 佐藤二朗、青山倫子、荒川良々、竹内力、薬師丸ひろ子
最強の女=新垣、最弱の男=錦戸が繰り広げる、痛快子育てラブコメディー。国際弁護士をめざす新人弁護士・鮎川若葉(新垣)は勤務先の法律事務所所長・桜川昇子(薬師丸)の5才の娘・日向の世話を押しつけられる。日向を迎えに行った保育園で出会ったのが、人の良い騙されやすい人情家で下町の定食屋で料理人をしている山田草太(錦戸)だった。彼はマンションの隣に住むシングルマザーの息子・ビー太郎の育児をまかされたイクメンだった。プライドの高い若葉にとって草太は、彼女が最も嫌悪するタイプだったが、子育てを通じてお互いが成長し関わりが深まってゆく。錦戸はどのドラマでも同じ表情で出てるのが気になるが演技力は買われているのだろうか。もはや落ちるとことまで落ちている月9もやはり天才子役に期待するしかない?

テレ東月10 7/?~ 『IS~男でも女でもない性~』 福田沙紀、剛力彩芽、井上正夫、西田尚美、南果歩
原作は六花チヨのコミック『IS(アイエス)』。ISとはインターセクシュアル(intersexual)の略で、生殖器や染色体等が男性型か女性型かのいずれかに統一されておらず男女の区別があいまいな人。半陰陽とも呼ばれる。20才の福田沙紀と、今ミスドCMで売り出し中の18才の剛力彩芽が高校生役でW主演。ISなのは福田演じる星野春、戸籍上は女性となっているものの中学まで男性として生活してきた。しかし高校では男子とは認められず女子生徒として過ごすことになる。ISの事実を隠して女子を“演じて”いた春だが、クラスメートの相原美和子(剛力)をはじめ数人の女子の同級生は春がISであることを知りながら受け入れてくれる。しかし春が生まれて初めて恋心を抱いた相手はサッカー部の伊吹憲次(井上)だった。ISとして生まれた高校生の心のゆらぎ、当人を取り巻く友情、家族の絆などが描かれる。繊細でむずかしい問題を取り上げたドラマ。

フジ火9 7/?~ 『絶対零度~特殊犯罪潜入捜査~』 上戸彩、宮迫博之、山口紗弥加、丸山智己、北川弘美、木村了、永田彬、南圭介、齋藤めぐみ、中原丈雄、杉本哲太、北大路欣也
2010年4月クール『絶対零度~未解決事件特命捜査』の続編。個人的にはあまり面白いとは思わなかったが、意外にも視聴率が取れたため(平均視聴率14.4%)、今クール再登場。スタート前に『絶対零度~未解決事件匿名捜査~Special』が放映され、ここで特命のメンバーが再結集されるという設定。ただし舞台は迷宮入り未解決事件を扱う『特命捜査対策室』から、現在起こっている事件を扱う『特殊犯罪特命対策室』となる。基本的に上戸は刑事役が全く似合わないことから違和感を拭い切れないのだが、前作並みの視聴率が取れるかは疑問。

フジ(関西テレビ)火10 7/?~ 『チームバチスタ3~アリアドネの弾丸~』 伊藤淳史、仲村トオル、小西真奈美、福士誠治、市川知宏、中村靖日、名取裕子、林隆三、利重剛、安田顕、尾美としのり、高橋克典
原作は海堂尊著『アリアドネの弾丸』。2008年10月クール『チーム・バチスタの栄光』、2010年4月クール『チーム・バチスタ2 ジェネラル・ルージュの凱旋』につづく第3弾。海堂先生の『田口・白鳥シリーズ』としては5作目の著書。シリーズの根底にある死因究明の徹底をテーマに、『AI(autopsy imaging)』をめぐる医療と法医学・警察の対立が描かれる。東城大学におけるAIセンターの設立をめぐって新型MRIの中でメーカー技術者が殺害される事件が起こる。続いて院内で拳銃による殺人も発生。この事件で病院長の高階(林隆三)が逮捕されてしまう。田口・白鳥の迷コンビが事件の真相を解明し高階の無実を晴らそうとする。最初の頃の感動がだんだん薄れてしまっているように思われるこのシリーズだが、果たして視聴率は?個人的にはもういいんだけど。

テレ朝水9 7/?~  『新警視庁捜査一課9係(6)』 渡瀬恒彦、井ノ原快彦(V6)、津田寛治、穂のか、羽田美智子、吹越満、田口浩正、原沙知絵、中越典子
2006年4月クールからスタートした刑事ドラマのシリーズもの。今回第6シーズンとなる。これまでおおむね11~13%台の視聴率だが、前シーズンは14.7%と好調だった。登場人物はムサいオッサンばかりで、とりたてて(穂のか、羽田、中越には申し訳ないが)うら若い端麗な美女が出演するわけではないのに人気はある。『相棒』とは異なるテイストながら、『○○刑事○○』シリーズの後釜として並行して刑事ドラマの人気シリーズを確立してゆこうとする意図が見える。

日テレ水10 7/6~ 『ブルドクター』 江角マキコ、石原さとみ、稲垣吾郎(SMAP)、志田未来、ブラザートム、さくら、大野拓朗、池田成志、阿南健治、マギー、市川亀治郎、市毛良枝、小日向文世 
『医療ヒューマンミステリー』。犯罪に巻き込まれて死亡しながら、正しい死因が特定されないまま闇に葬り去られようとしている犠牲者がいるという現実に立ち向かう法医学者と刑事の二人の女性。その法医学者を4年ぶりドラマ復帰の江角マキコ、ライバルの?刑事を石原さとみが演じる。この二人、意地やプライドが激突し相性は最悪。バトルを繰り広げながらも、不本意に犯罪で命を落とした人たちの声を拾い上げてゆく。タイトルの『ブルドクター』は、ブルドーザーのように豪快に仕事を進めてゆくドクターの意味とか。対抗する石原の役は、理想は高いが思うような人生を掴みきれていないアラサー女子。そんな二人に怪しく関わるエリート法医学者を稲垣吾郎が演じる。『ヴォイス~命なき者の声』の女医版といったところか。

TBS木9 前クールより継続 『渡る世間は鬼ばかり(10)』 泉ピン子、宇津井健 他
ドラマが停滞気味で果たして有終の美が飾れるのか心配な展開である。前回解決したはずの問題を再びぶり返し、同じような問答を繰り返すパターンが目に余る。橋田先生、物忘れ大丈夫か?貴子(清水由紀)、加津(宇野なおみ)、壮太(長谷川純)などキャラクターが理解不能で、歯の浮くような彼らのセリフの連発はたいがいにしてほしい。最終回もいよいよ近くなり、焦点は赤木春恵が最後に登場するかどうか。そして、なにより眞(えなりかずき)と加津がいよいよゴールイン?(しつこいよ)。

テレ朝木9 7/?~ 『陽はまた昇る』 佐藤浩市、三浦春馬、池松荘亮、ARATA、斉藤由貴、橋爪功
警察学校を舞台に繰り広げられる人間ドラマ。警視庁捜査一課の鬼刑事として活躍してきた遠野一行(佐藤浩市)が受けた辞令は警察学校の教官勤務だった。そこに待ち受けていた訓練生たちは現場の苦労など全く考えていない今どきの甘い若者ばかりだった。そんな訓練生の一人に宮田英二(三浦春馬)がいた。何でも器用にこなす優秀な訓練生だったが、警察官としての資質には疑問を持つ遠野だった。教官と訓練生のぶつかり合いを描き熱血学園ドラマ風かと思いきや、これに過去の未解決事件がからんできてサスペンスの様相も織り交ぜられている。今どきこの手のドラマをどんな視聴者が楽しむのか疑問に思ってしまうのだが…。

フジ木10 7/?~ 『それでも、生きてゆく 』 瑛太、満島ひかり、風間俊介(ジャニーズJr.)、田中圭、佐藤江梨子、福田麻由子、村川絵梨、倉科カナ、柄本明、段田安則、小野武彦、風吹ジュン、時任三郎、大竹しのぶ
脚本家・坂本裕二によるオリジナル作品。犯罪被害者の兄と加害者の妹が出会い、悲劇を乗り越え希望を見出そうと懸命に生きる姿が描かれる。友人に妹を殺害された主人公を瑛太が演じる。『おひさま』の好演が光る満島ひかりがその加害者の妹役。彼女にとっては連続ドラマ初ヒロイン。自分の怠慢で妹を殺害されてしまった深見洋貴(瑛太)は自責の念を感じていた。一方、加害者の妹・遠山双葉(満島)は周囲の白い目を避けながらひっそりと暮らしていた。事件から15年後、運命のいたずらか、二人は偶然出会う事になる…。結婚で人気低迷する瑛太の主演に加え、全体に暗い展開が予想され、高視聴率は期待できそうにもない。

TBS金10 7/?~ 『美男(イケメン)ですね』 藤ヶ谷太輔(Kis-My-Ft.2)、玉森裕太(Kis-My-Ft.2)、八乙女光(Hey! Say! JUMP)、瀧本美織、六角精児、山崎樹範、清水優、能世あんな、片瀬那奈、井森美幸、柳沢慎吾、高嶋政伸、萬田久子 
2009年の韓流ドラマ『美男(イケメン)ですね』のリメイク。同ドラマは韓国では社会現象にもなり、日本でもブレイクしていたということだが、全然知らず…。いいかげん『イケメン』という言葉も聞き飽きてきたのだが。Kis-My-Ft2 玉森・藤ヶ谷が連続ドラマ初主演!おまけに主題歌『美男ですね』でKis-My-Ft2が待望のメジャーデビュー!ということで『てっぱん』の瀧本美織の起用も話題だが、ほとんど Kis-My-Ft2 のためにあるようなドラマ。原作ではシスターになるため修道院で修行していた双子の妹が、歌手デビューが夢だった兄になりかわって大人気バンド「A.N.JELL」の新メンバーに加入するというストーリー。藤ヶ谷、玉森、八乙女に瀧本を加えた4人が主演。瀧本は双子の兄・桜庭美男と妹・桜庭美子の2役を演ずる。TBSもえらい気合の入れようだが、こんなドラマ、中年以上は絶対見ないよ(中高年のひがみ)。

テレ朝金11:15(金曜ナイトドラマ) 7/?~ 『ジウ 警視庁特殊犯捜査係』 黒木メイサ、多部未華子、城田優、北村有起哉
原作は誉田哲也の次世代警察小説『ジウ 警視庁特殊犯捜査係』。『ジウ』は謎の殺人者。警視庁特殊犯捜査係(SIT)に所属する25歳の伊崎基子(黒木メイサ)と、27歳の門倉美咲(多部未華子)2人の女性警察官を主人公に、謎の殺人者ジウを追いかける物語。なぜ水と油のような黒木・多部のコンビかというと原作がそうだからである。黒木演じる基子は卓逸した身体能力と戦闘本能で躊躇なく人を殺せる肉体派、一方、多部演じる美咲は心優しい性格で涙もろく、すぐに感情移入をしてしまうごく普通の女性。多部は原作の美咲とは若干イメージが異なるのだが、ま、そこは多部の演技力でカバーか?凶悪犯のジウはどうやら日本人ではなく、ドラマでも外国人が演じる予定とのこと。原作も結構面白そうであり、ナイトドラマにはもったいないような作品となるかも。

日テレ土9 7/9~  『ドン・キホーテ』 松田翔太、成海璃子、内田有紀、小林聡美、高橋克実
最強最悪、泣く子も黙る任侠集団の親分(高橋克実)が、ある日、今までとは全く違う世界で生きてゆくことになる。親分の魂がごく普通の青年(松田翔太)の魂と入れ替わってしまったのである。親分は児童相談所の職員となり、青年は任侠集団の親分に。松田が演じることになるこの『親分』が児童相談所で様々なトラブルを起こすことになる。SFコメディーで楽しそうなドラマではある。

NHK日8 継続中 大河ドラマ 『江 ~姫たちの戦国~』 上野樹里、宮沢りえ、水川あさみ、瀬戸康史、向井理、ミムラ、染谷将太、阪本奨悟、斎藤工、鈴木保奈美、岸谷五朗、鈴木砂羽、北村有起哉、袴田吉彦、萩原聖人、和泉元彌、時任三郎、豊川悦司、柴俊夫、大地康雄、市村正親、大竹しのぶ、石坂浩二、奈良岡朋子、北大路欣也
いつ好転するかと期待してきたが、脚本・演出に改善は見られず、これ以上見続けるのが本当に苦痛となってきた。

TBS日9 7/17~  『華和家の四姉妹』 観月ありさ、水川あさみ、吉瀬美智子、真木よう子、片平なぎさ、舘ひろし
原作は柴門ふみのコミック『華和家の四姉妹』。“結婚”をキーワードに四姉妹と家族を通して女性の“幸せとは?”を描くホーム&ヒューマンドラマ! “モテ男”のパパと、一途に愛を貫く純なママの間に生まれた“華和家の四姉妹”は、未婚に離婚、婚活、彼氏ナシと、いずれも男運に見放されている。中でも、次女の竹美は、離婚を繰り返して出戻り、かつ3人の子持ちという“問題児”。竹美を中心に華和家に巻き起こされるトラブルを乗り越えながら、四姉妹たちが女性の幸せをつかんでゆくまでを描いたほのぼのドラマ。柴門ふみの原作ということでそこそこ視聴率は取れそうだ。

フジ日9 7/10~ 『花ざかりの君たちへ~イケメン♂パラダイス2011』 前田敦子(AKB48)ほか
原作コミックは中条比紗也の『花ざかりの君たちへ』。2007年7月クール火曜9時枠で放送された堀北真希主演の『花ざかりの君たちへ~イケメン♂パラダイス』は平均視聴率17.3%を記録した。今回 主演・前田敦子で4年ぶりに復活である。前作では主演・堀北真希演じる芦屋瑞稀が、全寮制男子校に男を装って入り込み、小栗旬や生田斗真ら演じるイケメン男子生徒との恋模様が描かれた。このドラマから水嶋ヒロ、岡田将生、城田優など多くのイケメン男優が輩出された。今回は前田敦子が主役を演じ、主題歌も AKB48 に決まっているなど、AKB 色満載である。前田が『総選挙』でセンターをゲットすれば弾みがつきそう。なお、現在イケメンメンバーやドラマのストーリーは明らかにされていない。4年前とは社会の状況も様変わりしており、前作同様好評を博せるかどうかは疑問。

今クール、残念ながら期待できそうなドラマはほとんどない。
SFものもわずかに一つ。
こんな時期にはやはり夢を与えてくれる明るいドラマが必要だろうと
思うのであるが…。
前クールはまさに子役頼み、ワンコ頼みだったが、
今クールこそは大人の俳優たちに底力を見せてもらいたいものである。

コメント (1)
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