MrKのぼやき

煩悩を解脱した前期高齢者男のぼやき

豚インフル、お前だったのか…

2009-04-26 11:20:59 | 健康・病気

由々しき事態である。
メキシコ、米国で豚インフルエンザに感染したと見られる人が
24日までに1,000人を超え、メキシコでは68人が死亡したと
同国保健相が発表した。
25日には米国で、これまでの8人に加え、新たに11人の
感染あるいは疑い例が報告された。
世界保健機関は新型インフルエンザに対する警戒水準を
これまでのレベル3からレベル4に引き上げるかどうかを
協議するという。
 レベル3:人への感染例はあるが人から人への
      感染はないか極めて限定的
 レベル4:ウイルスの人への感染力が強まり人から人への
      感染が小集団で発生
レベル4は事実上新型インフルエンザの発生を
認定することになり、パンデミック発生の危険を
強く示唆することになる。
今のところ症状の軽いケースもあり必要以上に混乱することは
避けるべきと思われるが、大いに心配である。

4月24日付 New York Times 電子版

Fighting Deadly Flu, Mexico Shuts Schools (致死的なインフルエンザに対しメキシコは学校を閉鎖)

Swineflu_2

金曜日、メキシコシティの医療センターで診療を待つ女性たち。メキシコ当局はこの数週間で新たな豚インフルエンザの感染者とみられる患者が1,004人に上ることを発表した。

 メキシコ政府はこの数週間で61人が死亡し、数百人以上が感染した豚インフルエンザの集団発生の拡大に対し緊急の体制を敷き、金曜日には、美術館を閉鎖し、首都およびその近郊の何百万人の学生を対象に学校を休校とした。さらにインフルエンザの症状がある人には出勤せず自宅にいるよう呼びかけた。
 「今のところ制御可能な呼吸器感染症の原因となっている新しいインフルエンザウイルスに対処しています」と、行動計画を策定するため木曜日の夜に Felipe Calderon 大統領や他の政府幹部と協議したあと、メキシコの保健相 Jose Angel cordova 氏は記者に語った。ウイルスはブタから変異し、ある時点で人に感染するようになったと述べた。
 この新しいウイルス株は北アメリカやユーラシアの豚インフルエンザ、北アメリカのとりインフルエンザ、および北アメリカの人インフルエンザからの遺伝子配列を含んでいると Centers for Disease Control and Prevention(CDC)は発表した。類似のウイルスはアメリカ南西部で発見されているが、当地では8例の非致死例が報告されている。
 World Health Organization(WHO)によると、メキシコの死亡例の多くは若く、健康な成人であり、60才以上や3才以下はいなかったという。このことは保健当局に警戒感を与えている。というのは、季節的なインフルエンザによる死者の多くは小児や寝たきりの高齢者に見られるが、スペインかぜや1957年および1968年の大流行のようなパンデミック・インフルエンザはしばしば若い健康な人たちにもっともひどい症状を引き起こすからだ。
 メキシコ当局は数日中に首都において大がかりな免疫対策を行うことを約束したが、同時に国民には大勢が集まる場所を避け、握手をすることや、メキシコでは慣習となってい右頬にキスをして女性を迎えることを控えるよう勧告した。
 メキシコシティは美術館や他の文化施設を閉鎖し、市民にいは映画や公開のイベントに出かけないよう忠告した。金曜日には幼稚園児から大学生まで、メキシコシティと隣接するメキシコ州の700万人の学生たちは休校となった。これについては、1985年の大地震以来の市全域の学校閉鎖と報道機関は報じている。
 これらの状況により、WHOは世界インフルエンザ・パンデミック警戒レベルを3から4に引き上げることを考慮する方向とした。このような高いレベルの警戒態勢は、新しいウイルスの人から人への持続的な感染が発見されたことを意味し、ここ数年では、アジアやエジプトで蔓延した H4N1 型鳥インフルエンザでもこのレベルには到達していなかった。「この警戒レベルは世界中のすべての人たちの身の毛をよだたせることになるだろう」と、Memphis の St Jude Children's Research Hospital のインフルエンザウイルスの専門家である Robert G Webster 医師は言う。
 メキシコのインフルエンザの流行季節は通常はこの時期までには終了するが、保健当局は3月中旬以降インフルエンザ症例の顕著な急増を捉えている。この数週間、メキシコでは、例年の季節発症のインフルエンザより重症と見られるインフルエンザ類似の疾患の罹患者が800例あり、うち60例が致死的となっている、とWHOは発表した。金曜日に Cordova 氏は1,004例の疑わしい症例があると述べた。
 ただし、WHOスポークスマンの Gregory Hartl 氏によれば、新しい H1N1 豚インフルエンザの症例と確認されたのはまだ少数に過ぎないという。メキシコ当局は豚インフルエンザによる16人の死亡例を確認しており、45例は調査中であり、そのほとんどがメキシコシティ地域であるとしている。CDCは米国では8例の非致死例が確認されており、調査のためカリフォルニアとテキサスにチームを派遣したと発表している。
 「我々は懸念しています。これが次のパンデミックに移行するかどうかわかりませんが、監視を続け、深刻に受け止めていく所存です」と、CDCの代理センター長の Richard Besser 医師は言う。
 米国において封じ込め作戦を講じようとしても無駄である、と彼は言う。なぜなら、豚インフルエンザウイルスはすでに San Antonio(テキサス)から San Diego(カリフォルニア)に認められており、それぞれの症例の間になんら明らかな関係がないためという。封じ込め作戦は通常、疾患が狭い地域に限局している時にのみ有効である、と彼は言う。
 CDCはメキシコに出かけないよう国民に警告することを控えていた。そうはいっても、この流行は観光当局にとって嫌な時期に起こっている。当局は暴動によってメキシコが安全でないと旅行者に植えつけられた認識に必死で立ち向かおうとしていた矢先だったからである。この流行はメキシコ人の間でも不安を呼び起こしており、多くのメキシコ人たちはマスクの購入や、受診に走っている。
 保健当局は、発熱、咳、咽頭痛、息切れ、筋肉痛や関節痛がある人は病院に駆けつけるよう呼びかけている。
 新しいウイルスが出現すると全住民に広がる可能性があります、と Cornell University's medical school のインフルエンザの専門家 Anne Moscona 医師は言う。スペインかぜは米国全人口の少なくとも25%に感染したと考えれらえているが、死亡したのは感染者の3%以下であった。
 パンデミックでなぜ若く健康な人たちが多く死亡するかについての有力な説に『サイトカイン・ストーム』がある。新たなウイルスを攻撃するために活発な免疫システムがサイトカインをどっと作り出すのである。これが肺の細胞に炎症を生じ、液体が漏出し、肺を潰してしまうことになる、と Moscona 医師は言う。
 一方、これまでに繰り返しインフルエンザにかかったことのある高齢者では新しいウイルス株に対して交差防御を有する抗体を持っているのかもしれない、と彼女は言う。また、高齢者における免疫反応はそれほど活発ではない。
 中国、インドネシア、エジプトその他でいまだに蔓延している H5N1 鳥インフルエンザに対するここ数年の警戒にもかかわらず、 H5 株がこれまでに一度もパンデミック起こしていないため、H5N1 は決してパンデミックを生じないだろうと主張するインフルエンザの専門家がいる。これまでのパンデミックはすべて H1、H2、あるいは H3 株によって引き起こされている。
 米国の豚インフルエンザの症例では、豚との接触例は認められていない。父親、娘、および二人の16才の学友を巻き込んだケースから、このウイルスは人から人へ感染したものと専門家たちは確信している。
 2003年に SARS エピデミックに見舞われたカナダでは、保健当局は最近メキシコに旅行に行き発病した人はただちに治療を受けるよう呼びかけている。

豚インフルエンザによるパンデミックは一部で懸念されていたものの
これまでの対策はほとんど鳥インフルエンザに向けられていた。
H1N1 型ウイルスに対する新ワクチンが必要だが、接種までには
半年かかるという。
メキシコで予防接種の行列ができているというが、
一体何のワクチンを用いているのだろう。
同じ H1N1 型ウイルスであるAソ連型に有効な
タミフルやリレンザは有効であるとみられている。
今のところはとにかく冷静な対応を心がけるしかなさそうだ。

コメント (4)
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ボロは着てても

2009-04-21 18:47:07 | デジタル・インターネット

もとよりインターネットに載せようとして
作られたビデオでないことはわかる。
ここまで世界中の反響があるとは
誰も予想していなかっただろう。
どこにでもいそうな
髪のボサボサでデブで不細工な田舎のオバちゃんが
オーディションのステージで歌い始めたら、
あまりにすばらしい歌声と歌唱力で審査員や観客が仰天。
歌を聞き始めた途端、パフォーマンス前には彼女をバカにしていた
会場の人々の態度が一転、賞賛の嵐、というビデオ。
主役が美女で、同じような抜群の歌唱を披露していたとしたら、
まったく話題になっていなかっただろう。
意外性、アンバランスが大うけとなったというわけだ。
(オーディションに出たというのは既に大きな契機といえそうだが)
イギリスの片田舎のオバちゃんが
イギリスだけでなく、世界中でブレイクしてしまうところが、
ネットの計り知れないところである。

4月20日付 Washington Post 電子版

How a Villager Became the Queen of All Media (田舎人が全メディアの女王となったわけ)

Susanboyle  インターネットで Susan Boyle のようなケースにお目にかかったことはない。彼女のオンラインでの人気は歴史的記録に一直線、である。
 “Britain's Got Talent”という実際にあるショーでの Boyle のパフォーマンス・オンライン・ビデオが、一週間の視聴回数で記録を更新、しかもその勢いには留まる気配はみられない。YouTube、MySpace、その他のビデオ配信サイトからのビデオを調査している Visible Measures によれば、彼女のテレビインタビューとチャリティCDとして10年前に録音された“Cry Me a River”の最近公開された彼女による実演のビデオ・クリップを含めた Boyle が主役のすべてのビデオは 8,520万回の視聴を記録した。それらのうち2,000万回近くが一晩で視聴された。

Susan Boyle のオーディション・ビデオ(YouTube)

 最初  YouTube に投稿され、その後オンライン上に広まったこの7分間のビデオは、すでに数ヶ月間流されているはるかに知名度の高いビデオ映像を簡単に上回った。Visible Measures の関係者によれば、Tina Fey による Sarah Palin の物まねは3,420万回を記録し、選挙の夜の Obama 大統領の勝利スピーチは1,850万回視聴されている。
 小さなスコットランドの町から来た地味な女性 Boyle が席捲したのはオンラインビデオだけではない。彼女のウィキペディアのエントリーは、先週の日曜日に作られてから約50万件の閲覧を呼び込んだ。週末にかけて、彼女の Facebook のファン・ページにはコメントが殺到し、一分間に何百人もの新しい会員が加わるという状況もみられた。金曜日午後1時にはこのページの会員数は15万人に達した。昨夜までに100万人以上となっている。
 実際、眠ることのないインターネットでは、彼女による24時間不休の舞台が演じられ、YouTube など聞いたこともないという47才は、今やウェブで最も人気のあるエンターテイナーとなっている。「彼女は今まさに世界の歌手なのです」と YouTube のスポークスマンである Julie Supan 氏は言う。彼女は同社に在籍して4年になるが、このような短い期間にこれほど多くの視聴回数を記録したビデオは他に覚えがないという。
 メディア観測筋にとって、Boyle のオンライン上の偏在化のスピードとその範囲の広さは、古いメディア(彼女のパフォーマンスはイギリスのテレビが最初に放映した)と新しいメディア(そのパフォーマンスは YouTube、Twitter、そして Facebook へと進んでいった)との融合が、一つの媒体から次のものへ、そして同時に人から人へと、全メディアの到達範囲を拡大せしめていることの証拠となっている。
 「“ウイルス性”オンラインというものへ向かう事柄についての言及は多くあります。しかし、“ウイルス性”というのは、誰かがウイルスを作り出し、まるで人々にそのウイルスを運ぶ以外には選択肢がないかのように知らないうちにそれを感染させてしまうことを意味します。しかし、今回は、それが Susan Boyle をどんどん突き進めていることではありません」とマサチューセッツ工科大学 Comparative Media Studies program の責任者で、“Convergence Culture: Where Old and New Media Collide”の著者である Henry Jenkins 氏は言う。水曜日に Boyle のオーディションのビデオを見た後で、彼は友人たちに e-mail を送った。「心温かく感じ、それに酔いしれるのにはもう少し時間をかけるべきだ」彼はそう e-mail の件名に記した。そして Twitter にログオンし Boyle について彼の1,798人の支持者たちに警告した。
 「我々が実際に極めて実効力のある手段として Susan Boyle に見ているものは“波及性 spreadability”の力です。自身のオンライン・コミュニティの中の利用者たちは Susan Boyle をオンラインの中で広めようと意識的な選択を行っているのです」と、Jenkins 氏は続けて言う。
 いついかなる時でも、どのような特殊な場所でも、誰かが Boyle をオンラインで伝えているということだ。インタビューを受けたオンライン・ユーザーたちはこのオーディションのビデオによって奮い起こされた感情は様々であると言う。笑い、皮肉、そして驚き。「常軌を逸しているように聞こえるかもしれませんが、彼女は私たちが生きている瞬間にとって格好の感情の触発剤となっているのです。あざけるような笑い声を聞いた時、尻ごみして逃げ出すこともできたでしょうが、彼女はやり遂げたのです」と、Las Vegas でレストランを経営している2児の父親である Jose Salazar さん(31)は言う。
 序盤、中盤、そして終盤、さらにヒロイン(明らかに Boyle)、おなじみの悪役を揃えた一幕ものとしてのビデオの質の良さに惹かれたと言う視聴者もいる。また、あれはやらせであると確信していたという人もいる。結局、彼らは、知らず知らずのうちにビデオを繰り返し見て、なじみのない言葉を調べるためにネットに入っている自分に気づくのだ。Elaine って誰?"Les Misérables"って何?なんで彼女は "I Dreamed a Dream" を歌ったの?
 Mark Thompson 氏はイギリス、ヨークシャーの自宅のリビングで、Boyle がグラスゴーにある Clyde ホールで観衆に衝撃を与えてた例の "Britain's Got Talent" を見た。Boyle の歌を聞いた10分後、この42才のエンジニアは Boyle を収めた YouTune チャンネルを作成した。彼は "SusanHasGotTalent" と題し、彼女のその7分間のオーディションをアップした。
 「そのチャンネルは私に関連するものではありません。それは Susan についてのものです」と Thompson 氏は電話インタビューで答えた。
 その数時間後、マサチューセッツ州 Williamstown の Williams College の大学2回生の Will Slack 氏はニュース収集サイト Reddit で最も読まれている記事の一つに興味を持った。びっくり仰天のパフォーマンスについての何かだったが彼はその見出しを記憶していた。それで、彼は、Boyle のオーディションを視聴し、Boyle についての Scotosman.com と Sunday Express のニュース記事を読んだ後、彼女がウィキペディア記事にふさわしい、十分注目に値する人物であると判断した。記事が信頼のおけるニュース・ソースに基づいている限り、対象者とは無関係に誰でもウィキペディア記事を作成することができる、と Slack 氏は言う。この20才の男性は、17才のころから Wikipedia 記事を作成、編集してきた。
 「Susan Boyle は間違いなくウィキペディア記事になる価値があります。彼女のしたことを考えてみてください!」と Slack 氏は言った。

ビデオ内容には演出が感じられる。
いかにもわざとらしい。
自分が最初に見ていたら、さらりと見流していただろう。
しかし、それを面白いと感じ、ネットに載せようとする人がいた。
それを見て、さらにネットに流布しようとする人もいた。
それに惹かれる莫大な人たちがいた(あんただろ)。
さらにコメントを加える人たちがいた(あんただろ)。

それにしても、話題の Susan さん。
とても美人とは言い難いが、どことなく親しみのある、
飽きのこない顔、何度も見たくなる顔、
と言えそうだ(あんただけだろ)。

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万能毒薬のゆくえ

2009-04-17 18:49:55 | 健康・病気

万能薬とはいかにも非現実的な言い回しかもしれないが、
実際にそれに近い薬がある。
ボトックス®(ボツリヌス毒素)である。
最近、皺取りなど、美容外科領域で繁用されるように
なったので、ご存知の方も多いだろう。
食中毒の原因となるボツリヌス菌が産生する
きわめて毒性の強い毒素である。
本邦では眼瞼けいれん、半側顔面けいれん、痙性斜頸の
3疾患に対する治療薬として承認されている。
この薬品の製造元であるアラガン社に今後も一層の
成長が期待されている理由は
このボトックスがこれら以外にはるかに多くの疾病の
治療薬となり得る可能性を秘めていることにある。
アメリカにおけるボトックス事情についての記事。

4月11日付 New York Times 電子版

So Botox Isn't Just Skin Deep(もはやボトックスは皮膚の深さに留まらず)

BotoxAndrew Blitzer 医師は声帯の障害に Botox を用いる。喉頭に注入する。

 Cleveland Clinic、Center for Headache and Pain の所長である Mark Stillman 医師は、頻繁におこる片頭痛の患者に対してある治療を行っている:Botox(ボトックス)を頭部や頸部の周囲に注射するのだ。
 Manhattan、St Luke's-Rosevelt Hospital Center の中にある Center for Voice and Swallowing Disorders の所長 Andrew Blitzer 医師は声帯の問題による言語障害に対して治療を行っている:Botox を喉頭に注射するのだ。
 Manhattan とフロリダ州 Coral Gables で皮膚科学を専攻している Fredric Brandt 医師は脂性顔と皮膚の発赤に対して新しい治療手段を講じている。
 ご名答:やっぱり Botox。
 過去10年間に Botox は、美容医学に関わるすべての事業者にとって、顔の皺取り治療の代名詞、一種の省略語になった。しかし、今、新たな医学的用途の普及とともに、この薬物の医療的治療への応用は収入面においてもその認知度においても美容的治療を凌駕する勢いである。
 Botox の次の大当たりとなる医療的利用を発見を狙って医師たちは身体中の筋肉や分泌腺に実験的に注射してきており、あたかも便利な修理用テープの医学版といったような存在となっている。
 最近の医学誌によれば、Botox を用いた治療対象には、咀嚼障害、嚥下障害、骨盤筋の痙攣、流涎、脱毛、裂肛、幻肢痛などがある。
 「Botox は広く使われ続ける物質と我々は見ています。それに対する理解がさらに深まるにつれ、利用の仕方について新たな考えが出てきます」、本薬剤の製造元である Allergan (アラガン)社で Botox 担当の科学技師長である神経学者 Mitchell F Brin 博士は言う。
 「これほど多くの使途が示された治療薬は他にありません」と、彼は言う。
 しかし連邦のガイダンスや厳密な臨床試験がこの新しい治療の安全で有効な投与量を確立する前に医師たちが Botox の新たな使用を広く導入し始めていることに懸念を示す健康擁護者もいる。
 「それは神経毒を用いた手探り治療です」と、消費者擁護団体 Public Citizen の health research group の責任者をしている Sidney M Wolfe 医師は言う。昨年、本グループは注射用毒素に警告表示を求めて食品医薬品局(FDA)に申し立てた。
 Botox は、筋肉を麻痺させて死亡する可能性がある疾患ボツリヌス中毒症を起こす細菌によって産生される神経毒であるボツリヌス毒素の精製物質である。Botox の注射は極小の毒矢のように作用して、筋肉あるいは分泌腺への化学的神経信号を一過性に鈍らせ、それらの活動を減弱する。
 FDAはこれまで4つの疾患に対する治療に Botox を承認している:眼瞼筋の異常、頸筋の異常、多汗症、そして加齢に伴う厄介な副産物である眉間の皺である。しかし、総額 145 億ドルの特殊医薬品会社 Allergan は、この薬物の90以上の利用法について特許を取得、または申請している。
 Allergan 社の Brin 博士は、Botox は長期の安全性の実績があると言う。それは、30年にわたる Botox を有益とみる研究、世界中の11,000人での調査、1994年以来米国における1,700万件の治療、などに裏打ちされていると言うのだ。
 「そういった安全な側面が、体のさらに深部や新たな部位での効果を探索し続けることを可能にしています」と、Brin 博士は言う。Allergan 社が本薬剤の承認されていない使用法を積極的に宣伝するようなことはないと彼は言う。
 Botox は Alan Scott 医師によって1970年代に開発された。彼は San Francisco の眼科医で内斜視の治療法を研究していた。斜視眼を内側に引っ張る筋肉を弱める目的で微量の神経毒を用いればこの疾患を治療できると彼は理論立て、様々な麻痺薬で実験した。
 その時、生物兵器として軍事使用の可能性を探ってボツリヌス毒の菌株を分離精製していた生化学者が Scott 医師にサンプルを送った。それがうまくいった。
 Scott 医師はこの新しい薬物を Oculinum と名づけた。1989年、FDAは内斜視と眼瞼けいれんの治療薬としてこれを承認した。Allergan 社は1991年、Oculinum を900万ドルで買いとり Botox と商標変更した。1998年に David E I Pyott が同社の最高責任者になったとき、Botox は年9,000万ドルの売り上げを出した。そして昨年の売り上げは10億ドルを越えた。
 「当時、Allergan 社には、自分たちがどれほど大きな宝の山の上にいるかということを理解していた人間はいませんでした」と、Pyott 氏は言う。
 製薬会社は自分たちのパイプラインを満たすために複数の製品に依存することがしばしばである。しかし Allergan 社では Pyott 氏の着任後、Botox それ自体が事実上のパイプラインとなった。Botox が他の適応に漸次拡大利用される可能性がある薬剤であることを認識していた。
 自分たちが適切と見なせば未承認の方法でも承認薬を用いることが許されている医師たちは、その時点で既に目の筋肉以外の部位で Botox をFDA承認適応症外で使用していた。患者たちが予想外の副次的な効果を示したことを報告した医師たちもいた。たとえば、Botox 投与後に頭痛が軽減したり、皮膚が滑らかになったりした。
 Pyott 氏は社内研究の拡大に多額の投資を行い、それまで発表されていた研究によって医師たちの個々の事例の観察結果を正当化できるとして医師たちを鼓舞した。彼はまた、皺を目立たなくさせる注射に対して気前よく金を出すアメリカ人がいることもわかっていた。この薬物の効果を証明するために、同社は美容医学的な目的、ならびに他の筋異常に Botox を用いる臨床試験を後援した。
 その後現在までの9年間に、FDAは痙性斜頸の治療と、多汗症の軽減に Botox を承認、さらに同じ薬物だが、Botox Cosmetic という薬名で前額部の皺伸ばしにも同局は承認した。
Botox3  昨年、Botox は世界中で 13億ドルを売り上げたが、美容的使用と医療的使用でほぼ同額であった。ボツリヌス毒素の中では、Botox はマーケットの83%のシェアを占めていると、Allergan 社は言う。
 しかし、競合する毒素がアメリカ市場に参入を始めるとともに、Allergan 社は、他の医療的使用の方向に Botox を位置づけた。Botox の医療での売上がやがてBotox Cosmetic の売り上げを上回ると Pyott 氏は期待してる。
 医療保険は時に Botox の医療的使用を補填してくれる。たとえば開口障害の治療では3ヶ月毎に1,000ドル費用が支給される。しかし、昨年末には若干数が減った美容的使用では利用者は現金で支払う必要がある。
 「たとえ経済が回復しても医療的な要求の方が美容的な要求を上回るでしょう。そこには満たされていない大きな医療的ニーズがあるからです」と Pyott 氏は言う。
 この数ヶ月のうちに、手足の痙縮やけいれんに苦しむ脳卒中患者に対して本薬の市場参入の連邦の認可が下りることを同社は期待している。
 Pyott 氏によれば、Allergan 社には、本年後半、慢性片頭痛に対して本薬の市場進出の承認を求めてゆく計画がある。さらに、いずれは、前立腺肥大症の治療薬として Botox を売り出すためにFDAの承認を得る計画が同社にはあるという。
 しかし多くの医師たちはこれらの疾患に対して Botox を注射できるよう連邦の認可を待っているわけではない。Allegan 社が Botox を売り叩くことはしていないが、おそらく Botox の売り上げの半分はすでに承認適応外使用から得られていると投資銀行 Leerink Swann のアナリスト、Gary Nachman 氏は、見ている。
 「それは魔法の弾です」と、Nachman 氏は言う。
 Botox は広く用いられており、大衆の文化に入り込んでいるので、新たな使用法が実験的ではないと考える医師たちがいる。
 数年前、Manhattan の顔面外科医 Kamran Jafri 医師は顔面の皮膚の直下に Botox を注射し始めた。このテクニックは毛穴の大きさ、染み、油症肌を軽減させる効果があると彼は言う。
 「投与量は試行錯誤によって決まります。数多く行ってきている治療であり、実際に効果が上がっているため、それが実験的であるとは思っていません」と、Jafri 医師は言う。
 そのような臨機応変の Botox の使用は医師たちにとっては全く合法である。しかし、医療の専門家の中には、臨床試験や政府の承認が新しい適応に対して安全な投与量を確立する前に、そしてその新たな治療法が有効であるという明確な証拠がないままに、医師たちが Botox 治療を試み、導入していることに懸念を示す人たちがいる。
  Botox や他のボツリヌス毒素の使用では、生命にかかわる合併症は稀であるが、治療後に死亡した患者も少数ある。毒素が注射部位から拡散し、重篤な嚥下障害や呼吸障害を起こしたケースもある。たとえば、四肢に高容量を注射された後死亡した脳性麻痺の小児も数例みられている。
 「過量投与は起こりえます。これは毒なのです。うまく行かないこともあります。稀ですが起こり得るのです」と、ロードアイランド州 Providence の V.A. Medical Center 麻酔科部長である Frederick Burgess 医師は言う。
 昨年、NPOの Public Citizen はFDAに対し、ボツリヌス毒素が注射部位から拡散するリスクと、嚥下困難や呼吸困難があれば緊急に医療行為を受ける必要があることを患者にを強調するさらなる強い警告を求めて申し立てを行った。カナダの保健当局は今年既に、そのような表示変更に着手した。
 Botox 注射後に深刻な問題が2、3件起こっているが、必ずしもこの薬物によって直接引き起こされたものではないと Allergan 社の Pyott 氏は言う。彼によれば、治療の前から重篤であった患者もいたという
 「医師たちはより高い用量を試みてきました。他の薬同様、もし過量を用いれば副作用は起こりえます」と、Pyott 氏は言う。
 FDAのプレス・リリースによれば、同局はボツリヌス毒素の安全性について見直しているところだという。また、昨年、同局は、頸部筋の問題への使用で Dysport と呼ばれる新しい毒素の承認を延期した。FDAは製造者に対して、同薬物の危険性を医師と患者に周知させる計画を進展させるよう要請した。
 月曜日、FDAは、Reloxin と呼ばれる Dysport の美容向け製剤について結論を出す予定になっている。
 Johnson & Johnson 社も、PureTox と呼ばれる皺取り注射剤を開発中である。
 しかし、監督機関がすべての銘柄に、より強い警告ラベルの表示を完了するまでは、FDAは新しいボツリヌス毒素の承認を延長するだろうと業界アナリストたちは見ている。
 Pyott 氏が Allergan 社に着任したとき、同社は眼の治療薬を専門に扱っていた。過去10年間で彼は同社を、Botox が築く企業へと転換し、補完的事業を買収することによって様々な医療の専門分野でこの薬の信頼性を拡大していった。
 たとえば、外観的美容医学における Allegan 社の優勢度を固めるために、同社は皮膚を膨張させる注射と豊胸手術用インプラントのトップ・メーカー、Inamed を2006年に320億ドルで買収した。また頭痛、過活動性膀胱、および前立腺肥大の治療薬として Botox を計画的に導入する準備に向けて、同社は Botox 以外の専門的薬剤を開発、販売することで、神経科領域や泌尿器科領域でも地歩を固めてきたと Pyott 氏は言う。
 Botox の利益の上がる新しい使用拡大の可能性が世間に注目されずにきたわけではない。先月、GlaxoSmithKline との合併の可能性があるという噂が出て Allergan 社の株は2日間で24%上昇し48ドル95セントとなった。現在は47ドル47セントで取引きされている。両社は合併のうわさについてコメントを控えている。
 「今は売りの時ではありません。というのも、進行中のすばらしい事柄すべてからまだ報いを受けていないからです。2、3年間はこのまま様子見でいようと思います」と、Sanford C Bernstein 社のアナリスト Ronny Gal 氏は言う。
 FDAが新たな医学的使用を承認するならば、Botox の売り上げは今後5年から7年の間に倍増する可能性があると Gal 氏は言う。Gal 氏によれば、慢性頭痛に対して100万人以上の人たちが Botox の注射を希望すると見込まれる一方、前立腺肥大の顧客は実質的に75才以上のすべての男性になると見ている。
 一方で、Pyott 氏はヒット商品としての Botox をさらに拡大する基本計画を持っている。同社は、筋力を弱めることなく疼痛のレセプターのような特異な標的を治療することを目的とする本薬剤の新しい反復投与法を開発中である。
 Allegan 社はまた、その毒素の他の多くの使用について特許を所有あるいは申請しているが、これは、拡大使用で競合相手が製品を市場に出すことを回避しようとする動きである。
 「港の中の美しい船とともに佇んでいるのに自分たちの宝の山がどこにあるかを示す地図をみなさんに渡し忘れているような感じでいます」様々な国で出願したと言う Botox の特許について Pyott 氏はこう述べた。「もし私たちの特許の一つが当たれば、それはどでかい一発となります」
 アナリストである Gal 氏はクリスマス休暇も返上して Allegan 社による世界中への90の特許申請の掘り出しにあたった。これには副鼻腔炎による頭痛、線維筋痛症の疼痛、潰瘍、内耳障害、子宮の疾患だけでなく、“臀部の変形”のような外観的問題に対する Botox の治療が含まれる。
 それでも Botox が解決できないいくつかの疾患があるのも事実である。たとえば Botox は吃音(どもり)には効果がない。これは、口唇、喉頭、舌など多くの解剖学的器官がこの病態に関与しているためであると、Allegan 社の Brin 医師は言う。
 「吃音はあまりにも複雑です。良い結果が出ませんでした」と、Brin 医師は若干物憂げに語った。

細菌が猛毒を産生するというのも恐ろしい話だが
ボツリヌス菌の毒素に万能薬としての効果があるとは…
ボツリヌス菌の神経毒の基本的作用は、
神経の末端(シナプス前膜)に結合して、
神経伝達物質であるアセチルコリンの放出を阻害することで、
筋肉の運動を抑制するというもの。
まさに匙加減一つで毒をもって毒(病気)を制す、の代表例。
もちろん治療で実際に用いられるのは
致死量よりはるかに少ない量であるわけだが。
美容外科領域では、前述の皺取りの他
交感神経末梢の作用を抑え、発汗や分泌を減少させることから
多汗症やワキガ、脂性顔の治療にも用いられる。
また噛む筋肉の緊張を落として
小顔に見せることもできるという(それでいいのか?)。
いずれも治療効果の持続は4ヶ月程度と言われており
永続的ではない。
ただ効果が一時的とはいえ、メスを用いなくても手術と同等の
効果が期待できるとなれば理想的な治療といえるだろう。
しかしあくまで毒を用いるという点を考慮すれば、
日本でも将来、増加が予想される治療対象疾患それぞれに対して、
きちんとした臨床試験が行われ、それに基づいて
投与法や投与量が厳密に設定されるべきだろう。

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記憶の編集いたします

2009-04-11 08:42:46 | 健康・病気

エビちゃんは「蛯原友里」、よくご存知で…
産経ニュース、ウェブ魚拓
さすが、サブカルチャーにお詳しい!
この方面の記憶力はしっかりしておられる。
ご立派です(な、わけない)。

最近とみに記憶力が落ちた、と思う MrK。
脳の中のニューロンの連結が
かなり緩くなったなかなぁ(なんて誰も思わないって)
やっぱり神経細胞の性能が低下したのだろうか(ああ、そうだよ)。

記憶のメカニズム…
単純ではないだろう。
誰もがそう思っているに違いない。
しかし最近、記憶の鍵となる分子が話題である。
それは PKMzeta(プロテイン・カイネース・M・ツィータ)という
たんぱくで
このたんぱくを阻害する薬剤を脳に投与すると、記憶が失われるという。
一つのたんぱくの機能を抑えることで記憶が障害されるという発見は
画期的なことらしい。
映画『トータル・リコール』のように
人の記憶を自在に操ることのできる時代も
そう遠い先のことではないように思われる。

4月5日付 New York Times 電子版

Brain Researchers Open Door to Editing Memory(記憶編集への扉を開く脳の研究者)

Pkmzeta_2 記憶分子(短縮ダイヤル分子)についての研究が、脳の秘密に穴をこじ開けようとしている

 もし科学者たちが脳の中の一つの物質を操作することである記憶を消すことができるとしたらどうだろう。まとわりつく恐怖、外傷による喪失感、あるいは悪い嗜癖ですら忘れさせてくれることができるとしたら。
 Brooklyn の研究者たちは最近、感情的つながり、空間知識、あるいは運動技能のような特殊なタイプの記憶を保持するのに重要な脳の領域へ実験的薬物を一回投与することで、そういった作業に匹敵するような離れ技を示して見せた。
 その薬物は、脳が学習した情報の多くを留めておくのに必要とする物質の活性を阻害する。逆にもしその物質が増強されることになれば、認知症やその他の記憶の障害を回避する助けとなる可能性がある。
 これまでのところ、この研究は動物でのみ行われている。しかし、この記憶のシステムは人間においてもほとんど同じように機能していると科学者たちはいう。
 このような重要と見なされる記憶の分子の発見とその利用の見込みは、わずか数年前までは不可能と考えられていたことを突然可能にした分野、すなわち脳科学、脳研究を取り巻く熱狂の一部にすぎない。
 「もしこの分子が予測されているとおりに重要であるなら、密接な意味を持つ可能性が推測されます」と、今回記憶へのその影響を示した、Brooklyn にある SUNY Downstate Medical Center で研究チームを指導する52才の神経科学者 Todd C Sacktor 博士は言う。「外傷。あるいは学習行動の一つといわれる依存症。究極的には記憶力の改善や学習にも意味があります」
 芸術家や作家は自我同一性、意識、あるいは記憶の探索を何世紀にもわたってリードしてきた。しかし、科学者たちが人間を月へ、宇宙船を土星へ、海底に潜水艇を送ったにもかかわらず、そのような業績に貢献した手段、すなわち人間の頭脳はそのほとんどすべてが暗闇であり、過去の探検者たちにとって新世界がそうであったと同じくらい神秘的で広漠とした未知の領域である。
 一世代前にはほとんど存在していなかった領域である神経科学は今、急速に進歩しており、新しい投資先として何十憶ドルもの資金と大勢の研究者たちを惹きつけている。Society for Neuroscience によれば National Institute of Health は昨年52億ドルを脳関連のプロジェクトに使ったが、これは同施設の総予算の約20%を占める。
 Wellcome Trust や Kavli Foundation などの基金は何億ドルも投入し、Columbia や Yale を初めとして世界中の大学に研究施設を創設した。
 こういった金銭、優秀な人材、テクノロジーの流入は、科学者たちがとうとう脳についての真の答えを見つけ出そうとしていること、さらに誰も答えることができないうちに、科学的および倫理的な種々の疑問を提起し始めていることを意味する。
 たとえばの話、何百万人もの人たちがひどく苦痛な記憶を消すことに惹きつけられるかもしれない。しかし、その過程においてそれと関連を持つ個人的に重要な別の記憶を失ったとしたらどうだろうか?また、後天的な依存的嗜癖を“消去”する治療が存在することによって、人々にそういった嗜癖を試してみさせたくさせる結果につながるとしたらどうだろう?
 そしておそらくさらに重要なことは、記憶力を増強する薬剤を科学者たちが見つけたとき、誰もがそれを使わずにはいられないような気になるのではないだろうか?
 利害の問題や、脳科学の無制限なチャンスは、新たな発見の速度を加速する一方だろう。
 「この分野では、私たちは、巨大な山脈のふもとの山にいるに過ぎません。そして、科学の他の領域とは異なり、膨大な投資や巨大なラボのない個人や小さなグループでも重要な貢献をすることがいまだに可能なのです」と、Columbia 大学の神経科学者である Eric R Kandel 氏は言う。
 Sacktor 博士は近代の探求の始まり以来、思想家たちを沈黙させてきた疑問に答えんとする何百人の研究者の一人である。その疑問とは、一体どのようにして一群の脳組織が、詩、情動反応、好みの飲み屋の場所、はるか昔の子供のころの風景などすべてを捉え、保存できるのだろうか?というものだ。経験が脳の中に何らかの痕跡を残すという考えは少なくともプラトンの“Theaetetus”(テアイテトス)にある蠟に押された印章の比喩にまでさかのぼる。そして、1994年、ドイツの学者 Richard Semon はそんな精神的な痕跡に名前をつけた。エングラム engram である。
 このエングラムとは実際には一体何なのだろうか?
 過去の研究によれば、経験によって活性化された脳細胞がお互いに生物学的な短縮ダイヤルで連絡を維持する。それは、何か印象深いできごとの共通の証人として参加させられた一団の人々のようなものだ。一つに呼びかけると、言葉は迅速に細胞のより大きなネットワークに広がり、それぞれにどうやら、詳細や、視覚、音、臭いなどが添加されるようだ。脳は、これらの細胞間の通信回線をより密接に、効率よくすることで記憶を保持しているように見える。
 それでは、今回の何十憶ドルの問題って、どういうものだろう?
 この処理過程が1960年代と1970年代に記載されるようになって以来、数十年間に、科学者たちはこの過程に関わっている多くの分子を発見してきた。しかし、過去何年もの間、この分野ではそのそれぞれが持つ意味の特定に四苦八苦してきた。それらの物質自体を見つけられないということが問題ではなかったのである。
 1999年の Journal Nature Neuroscience の論文で、脳科学の最も有名な研究者である二人、ハーバード大学の Jeff W Lichtman、Joshua R Sanes の両博士は、“長期増強”として知られる過程、すなわち、一つの細胞が隣接する細胞との間に持続的な短縮ダイヤル接続を作り出す時に、何らかの形で関与している 117 の化学物質を列挙した。
 彼らには、これらの発見が必ずしも、記憶がどのように形成されるかについての実態を明らかにするものではないということはわかっていた。しかし、彼ら自身のリストにある風変わりな物質が特異な役割を持っていることが明らかとなった。

A Helpful Nudge(助けとなった軽い一押し)

 「実は、私にこの物質に注目するように言ったのは父でした。彼も科学者でした。今は亡くなりましたが、彼はこういった直感を持っていました。とにかく、すべてはそこから始まったのです」と、Sacktor 博士は話す。彼は Yonkers にある彼の自宅から Brooklyn 近隣の East Flatbush にある彼の研究所へ運転中だった。後部座席には3つのキッシュと袋に入ったベーグルが揺れていた。それは研究室での昼食だった。
 父親の助言は最終的に息子を PKMzeta と呼ばれる物質に導いた。一連の研究で Sacktor のラボは、脳細胞が隣接するニューロンによって短縮ダイヤルが取り付けられるとき間違いなく、この分子が存在し細胞内で活性化されることを発見した。
 実際、PKMzeta という物質は、小さな半島を占拠する米国特殊部隊の Army Rangers のように、結合の強められたまさに脳細胞間の指状の連結部に集まるように思われた。そして、それらは生物学的な番兵のように、いつまでもその部位に留まっていた。
 要するに、一つの細胞が別の細胞を刺激する時放出される多数の移動する化学物質の一団の中で壁の花となっている物質 PKMzeta は、短縮ダイヤル機能を作動させた状態を維持する働きがあるかのように思われたのである。
 「その後は、PKMzeta が行動に対して実際のところどれほど重要であるかを見るために、もっぱらこの物質に焦点を絞ることにしました」と、Sacktor 博士は言う。
 研究室を運営することは週末のサッカーチームを操ることに似ているところがある。選手たちは、ヨーロッパ、インド、アジア、Grand Rapids(MrK 註:健康科学分野研究で有名なミシガン州の都市)から去来する。それぞれの技量に応じて選手たちをあちこち移動させる。East Flatbush にある黄色い強制的な研究室で一日12時間張り付いている博士課程の学生たちのために、昼食を用意しなくてはならない。
 「我々のところのような公立の学校は地味でのんびりしていると人々は思っていますが、それは真実であり、実際にそうなのです」と、SUNY Downstate の physiology and pharmacology department の学部長である Robert K S Wong 氏は言う。彼は Columbia 大学から Sacktor 博士とともに移ってきた。「補助金を申請するプレッシャーが小さく、自分の考えを苦労して成し遂げるための時間を多くとることができると私は思います」
 生きていて呼吸をしている動物にとって PKMzeta が持つ何らかの意味を見出すため、Sacktor 博士は、同じ SUNY Downstate の André A Fenton 氏のラボへの階段を降りていった。Fenton 氏はマウスやラットを用いて空間記憶について研究していた。
 Fenton 博士は既に、物がどこにあるかということについての強い記憶を動物に植え込む巧妙な手段を考案していた。動物の足へ流される軽度の電気ショックを避けるようにして小さな部屋を動き回るよう動物に教え込む。ひとたび動物が学習すると、彼らは忘れることはない。一日後でも、一ヶ月後でもその部屋に戻すと、どのようにしたらショックをかわすことができるかを迅速に思い出し、実際に行動する。
 しかし、PKMzeta を阻害する ZIP と呼ばれる薬剤を直接脳内に注入すると、ほとんどその直後に最初の時点に戻ってしまう。「これが起こったのを最初に見たとき、大学院生たちは大いに喜びましたが、私はこの研究以上に多くのことが必要だと叫んだのです」と、Fenton 博士は言う。
 今、彼らはそれを手に入れている。Fenton の研究室は様々な方法で実験を繰り返した。記憶研究者の多施設研究もまた、それぞれが異なる方法を用いて成果を上げてきている。

A Conscience Blocker?(良心遮断薬?)

 「記憶編集の可能性は途方もなく大きいと考えられるため、非常に多くの倫理的問題を生じています」と、Harvard の神経生物学者である Steven E Hyman 博士は言う。
 「一方で、トラウマ的な記憶を引き出された人が、その記憶を弱める薬物投与の手段を持っている、というシナリオを想像してみてください。あるいは、依存症の場合、渇望を喚起する神経連絡を弱める薬物があります」
 研究者たちはすでに、苦痛となる記憶や、嗜癖衝動を既存の薬物で和らげる努力をしてきている:しかし PKMzeta の阻害ははるかに効果的であると考えられている。
 しかし、そのような薬物は不品行の記憶、さらには犯罪の記憶さえ消去・遮断するため、誤用される可能性がある、と Hyman 博士らは論じている。もし心の傷として残る記憶が悪いストーカーのような形で存在であるとしたら、そのうっとうしい記憶―およびそれらに対する健康的な忌避―こそが道徳的道義心の基礎を形成するのである。
 記憶の生理学を研究する人たちにとって、PKMzeta の特性は、より遠大な青写真を期待させる。エングラム工場そのものの設備を刷新しようという展望である。科学者たちによると、2025年までに 10億以上の人たちがアルツハイマー病や他の認知症になると推計されるが、これよりはるかに多くの人たちが加齢による記憶力の減退に苦しむことになる。
 「これは確かに最も重大なターゲットです。そして、どのように対応して成果を上げるかについて幾つかの考えがあります。たとえば、細胞に、より多くの PKMzeta を作らせることです。ただし、現時点ではこれらは構想に過ぎないのですが…」と Sacktor 博士は言う。
 記憶力を改善させる物質はたちまち社会的関心を巻き起こすであろう。「人々がすでに頭の良くなる薬や成績を向上させるあらゆるものを用いていることを承知しています。そういう状況にあるため、実際に記憶力を改善させる物質があるとしたら、激しい競争を引き起こすことになるでしょう」と、Hyman 博士は言う。
 これに関する科学の領域では多くの疑問が未解決のままとなっている。たとえば、PKMzeta は本当に生涯ニューロンのネットワークをつないでおくことが可能なのか?もしそうなら、どのようにして?ほとんどの分子はせいぜい数週間しか存続しないのだが。
 そしてこの分子は記憶を作り出すのに重要と思われる他の多くの物質とどのように連動するのであろうか?
 「単一の記憶分子しか存在しないということはないでしょう。記憶のシステムがそんなに単純であるはずがありません」と Irvine にある University of California の神経科学者であり Society for Neuroscience の会長である Thomas J Carew 氏は言う。「様々な種類の記憶や、学習し、保管し、引き出すといった過程のあらゆるところに関与する多くの分子が存在すると思われます」
 ようやく科学者たちは暗いふもとの山を抜け出して、ほのかな明かりにたどりつきつつある今、ようやく、芸術家や作家が行ってこなかったやり方で人類の本性についての理解を改めようとする態勢に入ったと言える。

『記憶の編集』というにはまだ程遠いように思われる。
ただ、阻害物質を注入する部位を変えることで
記憶抹消の内容は変わってくるようだ。
記憶力の低下は確かに困ったことではあるが、
全く忘却できなくなってしまったら
大変なことになってしまうだろう。
人為的な記憶の操作…
安易に踏み込んではならない領域のように
思ってしまうのだ。

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繁殖力と Type A

2009-04-05 19:16:44 | 出産・育児

Type A Personality(タイプA性格)とは
血液型がA型の人の性格という意味ではない。
1959年、アメリカ心臓病の権威、
Friedman、Rosenman の両博士が
性格と心血管疾患との関連を調査するのに、
時間ばかり気にしてせっかちでいつもイライラしていて、
負けず嫌いで競争心が強く、キレやすい、といった性格の人は
心血管疾患になりやすいのではないかと考え、
Type A Personalityと名づけた。
対して、Type B Personality の人は
イライラせずマイペースで行動し、非攻撃的な性格である。
実際、タイプAの人はタイプBの人より2.37倍も心血管疾患に
なりやすいと報告された。
(ちなみに癌になりやすいといわれるタイプCの性格と
いうのもあるそうだ【周囲に気を遣う、否定的感情を抑制する、
自己犠牲的】)
ただ、タイプAの性格内容すべてが
寿命を短縮させるわけではないようで、
タイプAの中でもプラスの要素があるという
(「決して遅れない」「全力を尽くす」「一生懸命やる」)。
さて、今回、タイプAは子孫繁栄に有利であるとの研究成果が
報告されたそうなので紹介してみたい。

3月31日付 TIME 電子版

Type A Personalities Have the Edge in Procreating

(タイプA性格者は繁殖力に勝る)

Typeafamily Type A 家族

 人類の歴史の大部分において、人は何かを持っていなければ、何かを手に入れることはできなかった。もっと正確に言えば、最も多くの性的パートナーを物にし、その結果、最も多くの子孫を作ってきたのは裕福で権力のある男性であった。一方、富が少なく身分の低い男性は、子を成さないまま亡くなる率が高かった。(女性については地位にかかわらず性に関する選択権は殆どなかった。というのも、男性は、所有物のように女性を扱っていたからである)

 数千年にわたる人類の行動は人為的なものではないと多くの進化学者たちは信じている。現代の男性たちがいまだにステイタスを得ようと懸命に努力するのも、一つには、繁殖の成功度を向上させるのにそうすることが進化的に有利であるという理由があるからだ。しかし、より裕福で、身分の高い男性たちが実際には、貧しい身分の低い男性たちに比べ多くの子供を成していないというデータを示し、その説に異議を唱えてきた研究者たちもいる。

 さて、Journal of Personality に載せられた新しい研究は異なる説を提供している。繁殖力を促進するのは必ずしも富ではなく、もっと基本的で根の深いところにある進化的特徴、すなわちタイプA性格を持つことである、という説だ。責任感が強く、人に行動を求め、ちょっとしたこで怒り、喧嘩をし、速く歩き、速く話し、速く食べるというような未成年者は、成人となったとき、他のタイプの人たちより多くの子供を持つようになるということを、この研究は発見した。これはその子供たちの学校での成績とは関係がなかったという。

 これはヲタクにとっては恐ろしいニュースだ。というのも、たとえ彼らがソフトウェアを開発したり、Lost episodes を書いたり、立派な本を刊行し続けたとしても、結局はいじめっ子や運動屋だけがはるかに根本的なところで優位に立つことを意味するからである。彼らは、さらに多くの小さないじめっ子や運動選手たちへと自分たちの遺伝子を広げる。これは、フン族の王 Attila の究極の勝利と呼んでもよい。

 この研究の著者である University of Helsinki の心理学者、Markus Jokela Liisa Keltrikangas-J?rvinen の両氏は、別の問題(心血管リスク)について長期間の研究に参加した1,313人のフィンランド人の男女にインタビューした。被験者が若い時(12才から21才)にまず心理学的評価を受けてもらい、18年後にも再度評価した。その結果、タイプA性格特性を持っていた若者は39才までに有意に多くの子供を持っていることがわかった。(その計算は複雑である。しかし統計学的にこだわる読者のために:Type-A 特性における増加分のすべての標準偏差を考慮して、子供を持つ確率は男性で11%、女性で19%高かった)。

 社会経済的地位が進化的優位性を示すのではなく、責任感が強く競争心が高いような指導者的特質がそういった優位性を有していることをこの研究は示唆している。「おそらく、子供を持つという概念は、指導者として行動し自身の子孫も含めて人々を支配することを好む人にとって最も魅力的(あるいは少なくとも驚くようなこと)なのである」と著者たちは書いている。この理論は、何千年も昔、タイプA性格の人々が、自身の子供たちの生き残りを保証するためより多くの資産を獲得したことから、進化が遺伝学的にタイプAの人間に子供を持ちたくさせているというものである。

 この論文は、1986年に、雑誌 Journal Behavioral and Brain Sciences University of Pennsylvania Daniel Vining Jr によって提起された進化についての謎に新たな識見を提供するものである。Vining 氏は、現代社会において、裕福な夫婦は、貧しい夫婦と同数(もしくは、しばしば少ない)の子供を持っていると指摘した。人類の生殖行動は完全に後天的に獲得されるもので、遺伝によるものではないということをこの論文は示唆した。

 この考え方に対する最も注目される反論が、Charlotte University of North Carolina (UNC) の社会学者 Rosemary Hopcroft と、現在 London School of Economics and Political Science (LSE) で教えている進化心理学者の Satoshi Kanazawa によって最近発表されている。雑誌 Evolution and Human Behavior 2006年の論文において、Hopcroft は、愛人や2人目(あるいは3人目、4人目)のトロフィー妻に生まれた子供を含めると、金持ちの男性には、貧しい男性より多くの子供がいることを示した。また、2003年の Sociological Quarterly の論文で、Kanazawa は、裕福な男性は婚姻関係での子供は多くはなかったが、貧しい男性に比べ多くのセックスの相手がおり、それぞれの相手と多くのセックスをしていと論じている。

 現代の権力者たちは、たとえば17世紀初頭に亡くなるまで少なくとも700人の息子(人々はそれ以後数えるのをやめた)と確認されていない無数の娘たちを成したモロッコの血に飢えた皇帝 Moulay Ismailのような昔の多産の人物とはその度合いからして比べるべくもない。今日の権力者たちが能力に見合うほどの数の子供を持たない一つの大きな理由は、我々の生殖本能が適応する余裕がなかった比較的新しい発見、すなわち避妊である。

 この新しい論文は、Vining 説をめぐる議論が見当はずれである可能性を示している。それは遺伝的優位性を持っているのは裕福そのものではなく、強力で積極的な性格であるということだからだ。確かに多くのタイプA の性格者は裕福なっているが、平均的生活を送っているタイプA の多くの人を我々は知っている。(お高くとまった高校の数学の先生や、街角で几帳面にランチボックス用にニンジンをスライスしている タイプA のお母さんを思い浮かべてみよ)

 ヲタクで勉強好きな男性とっては、少年時代、彼らをいじめていたガキ大将のようにならない限り、多産になることが期待できないことをこの研究は示唆している。なぜなら、過去の研究が示してきたように、知性が高いほどセックスの頻度が少ない傾向にあり、それゆえ、将来持つ子供の数も少なくなるからである。過去20年間はテレビゲームやコミックやソフトウェア工学が尊重され、それらが主流でさえあったことから、ヲタクたちにとっては黄金期であった。しかし、最終的には、高校時代に彼らをいじめてきた粗野なフットボール選手たちが遺伝的優越性の無慈悲な世界で勝利を収める公算が大きいのである。

不肖MrK 、のんびり生きてるつもりなのだが、
採点(日本心臓財団HPより)すれば、しっかりタイプAである。
一方、MrK の生殖能力はというと…(アウトッ!)(トホホ…)
日本人にはせっかちな人間が多いような気がするが、
少子化には一向に歯止めがかかりそうにない。
そうしてみると、本来の本能や遺伝的要因による効果が
数々の社会的問題によって相殺されていると見るべきか。
真の国益を考えるなら、お隣の打ち上げ花火に大騒ぎするよりも
もっとやるべきことが日本政府にはあるように思うのである。

コメント
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