ほぅほぅの主
4月11日の深夜、「ほぅほぅ、ほぅほぅ、ほぅほぅ」と鳴く声が聞こえた。窓を開けて外を覗いたが、暗闇には何も見えなかった。声は断続的に続いていた。アパートからすぐ近くにある小学校の方から聞こえる。しだいに遠ざかっているようで、声はだんだん小さくなっていき、声に気付いてから10分も経つと、聞こえなくなった。
「ほぅほぅ、ほぅほぅ」という鳴き声を生で聞いた記憶が私には無い。聞いた経験は無いけれど、テレビで観たり、話で聞いたり、本で読んだりした経験から、それはおそらくフクロウの類であろうと想像はできた。しかしながら「こんな所にフクロウ?」と不思議に思った。何故なら、「森のフクロウ」というくらいだから、フクロウは森の住人だと認識していたから。けれど、「ほぅほぅ、ほぅほぅ」は確かに聞こえた。
『沖縄の野鳥』を調べると、「ほぅほぅ、ほぅほぅ」と鳴くフクロウの類が1種だけあった。アオバズクという。私が聞いた声の主はきっとこいつに違いない。「沖縄では留鳥で年中見られる」、「ホウホウ、ホウホウと低い声で鳴く」、「平地や山地の森林に生息する」といった説明が、私の聞いた「ほぅほぅ、ほぅほぅ」の条件に合う。すぐ近くにある小学校の庭は森林とは言えないが、徒歩30分圏内に弁が岳公園、末吉公園といった十分に森林と呼べる場所がある。いずれかに住んでいる1羽のアオバズクが、4月11日の深夜、「ちょいといつもと違う所を散策してみっか」と思ったに違いない。
「ほぅほぅ、ほぅほぅ」はそれから数日後の未明にも聞こえた。図鑑のアオバズクはまん丸目玉のひょうきんな顔をしている。「ほぅほぅ、ほぅほぅ」を聞きながら「会いたいなぁ」と思ったが、夜の弁が岳公園、または末吉公園に行く気はしない。必ず奴が出る。暗い中では危険察知能力も劣る。私はきっと嚙まれるに違いない。ハブに。
追記:2018.12.24
畑仕事を辞め、時間に余裕ができて、物置作りなどしながら知人のH爺様に頼まれている薬草表作りを延々と続けていたら、10月終わり頃、使っていたパソコンが壊れるという事件があり、別に使っていた代わりのパソコンの中身の整理を始めた。
パソコンの中身にはいろいろなデータが入っていて、もうすっかり記憶から消えていた画像なども出てきた。2010年8月に本部博物館で撮ったヤンバルの生き物たち、2012年6月に大宜見の山と水の博物館で撮ったヤンバルの生き物たちの写真がザクザク出てきた。記憶が蘇る。「自分で撮れない写真はこれらが使えるな」と喜んじゃないか。そう喜んだこともすっかり忘れて、もう6年も過ぎてしまった。やっと陽の目を見る。
アオバズク(青葉木菟・青葉梟):フクロウ目の留鳥
フクロウ目フクロウ科の野鳥 中国、朝鮮、日本などに分布 方言名:タカヂクク
名前の由来は広辞苑にあった。「青葉の頃鳴き始めるからいう」とのこと。では、ズクとは何ぞや?となって調べてみたが、資料が無く不明。梟と漢字が充てられているのでフクロウの別称ということなのかもしれない。
方言名はチクク、タカヂククとあり、共にフクロウ類の総称とのこと。同じフクロウ類でもミミズクの類(耳のように見える長い羽毛を持つもの)はマヤーヂククという。猫のようなフクロウということだが、であれば、タカヂククは鷹のようなフクロウということであろう。本種は、顔はフクロウの顔だが、体は鷹のように見える。
全長は29センチ。耳羽は無く、体の下面は淡色に太い黒褐色の縦縞が目立つ。目は黄色。平地や山地の森林に生息。日本では夏鳥と広辞苑にあったが、沖縄には亜種のリュウキュウアオバズクが留鳥として生息し、年中見られるとのこと。夏にやってくるアオバズクとよく似ていて両者の識別は困難とのこと。
山地や平地の森林の他、人家近くの林にも生息し、夜間、昆虫などを捕食する。鳴き声はいかにもフクロウらしいホウホウ、ホウホウで、活動している夜間に鳴く。
ちなみに学名は、
アオバズク Ninox scutulata
リュウキュウアオバズク Ninox scutulata totogo
訂正加筆:2018.12.24
記:2011.5.1 ガジ丸 →沖縄の動物目次
参考文献
『ふる里の動物たち』(株)新報出版企画・編集、発行
『沖縄大百科事典』沖縄大百科事典刊行事務局編集、沖縄タイムス社発行
『沖縄の野鳥』沖縄野鳥研究会編、(株)新報出版発行
『いちむし』アクアコーラル企画発行