飯島一孝ブログ「ゆうらしあ!」

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「新モスクワ情報7」 リベラル派議員が全滅したわけは?

2009年10月23日 14時06分57秒 | Weblog
 モスクワ滞在中は、市議選の真っ最中だった。政党に投票を呼びかける横断幕や旗があちこちに掲げられていたが、プーチン首相が党首を務める与党「統一ロシア」のものがほとんどだった。帰国後の10月11日に投開票が行われ、与党が35議席中、32議席を獲得、圧勝した。残り3議席は共産党が得た。

 この結果は、リベラル派の有力政治家ルイシコフ元下院議員(43)=写真=へのインタビューであらかじめ推測できた。彼は選管が野党候補の立候補を制限していると述べ、黒幕はルシコフ・モスクワ市長であるとまで言い切っていた。このためルイシコフ氏は支持者に投票のボイコットを呼びかけていた。同氏は93年から下院議員を3期務め、06年には野党連合「もう一つのロシア」に加わったが、07年の下院選で落選した。

 ルイシコフ氏によると、リベラル派などの野党候補約20人が選管から候補者登録を不当に拒否された。立候補の手続き上の“不備”を理由にされた候補が多く、次のようなケースも。立候補には決められた数の支持者の署名が必要なので、ある候補の陣営が所定の署名を集めて選管へ持参したところ、「候補者本人の署名が違っている」と判定された。「間違いなく本人のものだ」と反論したが、候補者登録は認められなかったという。

 ルイシコフ氏は「選管の決定を不服として提訴しても、投票日には間に合わない。選管はそれを承知で不当な判定を行った。野党側から汚職の告発を受けている市長が裏で糸を引いていることは間違いない」と語っていた。市長は与党の代表者の一人で、プーチン首相の信頼も厚い。

 地方選は政党比例代表制で、得票率が7%以上ないと議席は獲得できない仕組みだ。今回の市議選では、リベラル派野党はこのハードルを突破できず、全滅した。これまでは「ヤブロコ」(りんごの意)が2議席持っていた。ルイシコフ氏は「リベラル派は都市部で有権者の2割近い支持者がいるのに、与党側の選挙妨害などにあって、それに見合った議席が取れない状況が続いている。これでは一党独裁だった旧ソ連共産党時代とあまり変わらない」と嘆いていた。

 国政レベルでも同様で、07年暮れの下院選では与党が3分の2以上の議席を獲得し、リベラル派野党は全滅した。共産党や自由民主党は残る3分の1の議席を分け合っているが、裏では与党と取引していて真の野党ではないとの見方が強い。ルイシコフ氏は「生活さえ安定していればいいと満足するエリート層が増え、政治への無関心が広がっている。改革を抑制され、無気力な気分が充満したブレジネフ書記長当時の『停滞の時代』に状況が似てきた」と話していた。

 大統領職の2期8年を含め、事実上10年間続いているプーチン体制は、64年から18年間続いたブレジネフ書記長の長期政権に迫りつつある。だが、ブレジネフ時代が旧ソ連国民のやる気を奪い、ソ連崩壊の原因を作ったように、このまま強権的なプーチン体制が続けばロシアも活気を失い、再び大国の地位を滑り落ちかねない。