ラムの大通り

愛猫フォーンを相手に映画のお話。
主に劇場公開前の新作映画についておしゃべりしています。

『イキガミ』

2008-08-21 09:25:49 | 新作映画
----『イキガミ』?
死神なら分かるけど…。
まさか天使のことじゃないよね。
「いやいや、カミはカミでも
神ではなくて紙のこと。
“逝紙”----これは『国家繁栄維持法』により
1000人に1人の確率で選ばれた18歳から24歳の若者の命が
自動的に奪われるシステムの下、
政府より発行される死亡予告証。
これを受けとったものは24時間後に必ず死亡するんだ」

----なんて無茶苦茶ニャ!
でも、ほんとうにそんなことできるの?
「この世界では小学校入学直前にすべての児童に
『国繁予防接種』が行なわれる。
そのアンプルには1000人に1人の割合で特殊なナノ・カプセルが仕込まれ、
そのカプセルが18歳から24歳までの若者の体内で、
あらかじめ設定された日時に静脈瘤内で自動的に破裂する------
まあ、こう言う仕組みだね。
主人公は厚生保険省の国家公務員・藤本賢吾(松田翔太)。
彼は、対象者の死の24時間前にこのイキガミを配達することなんだ」

----いやな仕事だニャあ。
「ぼくも最初、このプロットを聞いたときには、
なんていやな話だろうと…・。
だって、この法律が施行されている理由が
国民の“生命の価値”を高めることで、
社会の生産性を向上させる----というんだから。
国家繁栄のため“国家の礎”となる、この思想って戦前の---」

----あっ「赤紙」。
「でしょ。
おいおい時代はこんなところまできているのかと
暗澹たる気持ちになったんだ。
ところが観てみて納得。
これはそういう流れというか、
管理社会に対して真っ向から異を唱えている。
つまり、いまの時代の傾向に楔を打ち込んでいるんだ。
藤本賢吾は、この自分の仕事に疑問を抱き、
任務上は許されていない
対象者への感情移入、介入をしばしば行なってしまう。
そんな彼が思想犯として捕まることを危惧し、
冷静な忠告を与える石井課長(笹野高史)。
彼らが勤めているオフィスもどこか『未来世紀ブラジル』を思わせる」

----ニャルほど。少し納得。
じゃあ、映画はその藤本と
彼が関わる対象者の物語で進んでいくんだ。
しかし暗そうだニャあ。
「確かに。
プロローグは
イキガミを受けとってやけになり、
少年時代に自分をいじめた男を捜し出し、
道連れにしようとする男のエピソード。
この後も、こんな陰惨な感じだったらどうしようと思ったら、
これがなんと3つのエピソード、すべてが涙を誘うものばかり。
生テレビに出るその日に死ぬことを告知されるミュージシャン(金井勇太)、
息子(佐野和馬)にきたイキガミを
自分の選挙に利用しようとする超保守派の政治家(風雪ジュン)、
そして交通事故で視力を失った妹(成海璃子)のために
人生の最後に自分の角膜で彼女を救おうとする兄(山田孝之)」

----でも、それってすべて原作にあるわけでしょ。
映画としての良さには見えないけどニャあ。
「正直言って原作を読んでいないからそこのところは分からないけど、
この監督は映画としての見せ方をよく知っているのは確かだ」

----たとえば?
「映画の中には、ある狙撃シーンがあるんだけど、
ここでは狙撃者が撃つ瞬間を見せず、
標的側から写す。その背後で突然銃弾が炸裂するんだ。  
こういう撮影、編集は
ただ派手な撃ち合いを見せればいいという昨今の映画とは一線を画する。
サスペンス、いやドラマそのものを見せてくれるんだ。
あるいは、劇団ひとりの使い方。
最初だけのちょい役で
あらあらもったいないと思ったら、見事な形で再登場。
それは塚本高史にしてもそうだね。
俳優の演技もおしなべていいけど、
見どころはやはり吹雪ジュン。
ショートカットの鬘までつけて大演説。
『美しい国』だの『若者』だの『命』だの言っている姿は
何年か前に深夜放送の討論番組で見た
保守派の女性論客を思い出したな。
名前までは思い出せないけど…。」

----音楽も気に入ってダウンロードしてなかった?
「フィルハーモニックの『みちしるべ』。
劇中でも意味ある使い方がなされ、
エンドクレジットでもじっくり聞かせてくれる、
安易なタイアップと違って映画の中身に即した歌詞。
こういうのは、ほんと好きだな」



           (byえいwithフォーン)

フォーンの一言「こんな国になったらいやニャ」悲しい

※シナリオも演出も泣かせる度

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