ラムの大通り

愛猫フォーンを相手に映画のお話。
主に劇場公開前の新作映画についておしゃべりしています。

『うつせみ』

2006-01-21 00:39:20 | 新作映画
※映画の核に触れる部分もあります。
鑑賞ご予定の方は、その後で読んでいただいた方がより楽しめるかも。



----あれっ?キツネの映画はどこに行ったのよ…。
「う~~ん。あれはむにゃむにゃ。
ま、それよりほら『うつせみ』。こっちは蝉のぬけがら。
監督が話題のキム・ギドク。
いやギドクというだけあって毒の強い監督だわ」

----よくそんなアホなこと言えるね。
もともとはこれ『空き屋』とかいうタイトルじゃなかったっけ?
「そう。よく知っているね」
----だってキム・ギドクと言えばいま世界の注目株。
確か一年でベルリン、ベネチアの二つの映画祭で受賞しなかったっけ。
「ベルリンが『サマリア』。
この『うつせみ』はベネチアだね。
いずれも最優秀監督賞。
つまりは演出力を高く買われたと言うこと。
なるほど、それはこの映画を観てよく分かったよ。
お話自体はシンプルだけに、
よけいに演出力が勝負となってくる」

----どんなお話なの?
「ミステリアスな青年テソク。
彼は留守宅に忍び込んでは
食事を作ったり入浴を楽しんだり洗濯したり。
しかも、記念撮影や壊れたものの修理までやってしまう。
そんなある日、テソクは夫によって家に閉じ込められた女ソナと出会う。
テソクはゴルフボールでこの暴力夫を懲らしめ、ソナを連れて旅へ。
ふたりは留守宅に忍び込む日々を続けるが…」

----ふうん。アメリカのアンチ・ヒーローものみたい。
「そうだね。
『俺たちに明日はない』などの
アウトロー・ムービーがベースにある気もする。
しかしそれらの映画と大きく違うのは、
主人公の二人がまったく言葉を交わさないこと。
映画史上まれに見る静謐なカップルの登場だ。
しかもそれどころかテソクは
留置所の係官相手に自分の気配さえも消してしまおうとする。
この本当の目的が分かったときにはさすがに驚いたね」

----えっ、留置所?
ふたりは捕まっちゃうんだ。
「うん。病死していた老人のところに忍び込んだのがきっかけでね。
でも彼らは何も盗んでもいない。
逆に死んだ老人を手厚く葬っている。
そのため微罪で釈放されるわけだけど…」

----でも常識にとらわれる警察、
そしてソナをさらわれた夫はそれでは収まらないよね。
これは凄絶なラストが待ち受けていそうだ。
『スカーレット・レター』
とかだとそうなるけど、
その凄絶さを回避するのがテソクの今回の手法。
修羅場になることなく
ふたりが一緒にいられる方法とは……?
ほんとこれにはやられたって感じ。
まさに現代の寓話だね」

        (byえいwithフォーン)

※『子ぎつねヘレン』は別の形で書きました。
随想っぽくなっていて少し恥ずかしいですが、
興味がある方は『子ぎつねヘレン』で思い出した最初の犬エルのこと。
をご覧になってください。

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