ラムの大通り

愛猫フォーンを相手に映画のお話。
主に劇場公開前の新作映画についておしゃべりしています。

『マンダレイ』

2006-01-17 19:21:46 | 新作映画
※映画の核に触れる部分もあります。鑑賞ご予定の方は、その後で読んでいただいた方がより楽しめるかも

----これって『ドッグヴィル』に続く
ラース・フォン・トリアー監督の
アメリカをテーマとした三部作の第2弾なんだよね。
あれ?ニコール・キッドマンがいないね。
「うん。彼女は降板したらしい。
代ってグレースを演じるのがブライス・ダース・ハワード。
ロン・ハワード監督の娘だね。
最初ドクターを演じていた
ジョン・C・ライリーも途中で降板したらしい」

----ラース・フォン・トリアーの現場は大変らしいものね。
前作のときにも話題になった<手法>は
今回も使われいるの?
「うん。
床に引かれた線でそれぞれの建物が区切られ壁はない……。
いわゆる舞台形式は今回も健在。
ただ、前回ほど効果的には見えなかったな」

----えっ?それってどうして?
「前作『ドッグヴィル』では
ヒロイン、グレースがレイプされている側で
日常生活が営まれているのを
ワンフレームに収めて見せるという、
この<壁なし>手法を生かした映像が随所に見受けられた。
ポール・ベタニー演じるトムが窮地に陥り、
グレースをどうするか逡巡する時も、
集会所で待つ村人たちやベッドに横たわったグレースを
緩やかなカメラ移動の中、切り返しなしで映し出し、
その成りゆきを見守る観客の胸をざわつかせる。
ところが今回はこのような
映像的に高揚するシーンがあまりない。
舞台となる農園の女主人(ママ)の邸宅は2階建てだし、
高さが加わったことによって
全体のイメージが変わってきているのかも」

-----でもお話は、奴隷制度がとっくに終わっているにも拘らず
いまだに白人が黒人を奴隷として支配している農園の話でしょ。
それだけでも衝撃的に見えるけど……。
「確かに物語の方はスゴいよ。
グレースと父親とギャングたちは、
新たな居住地を求めるうちに、
アメリカ南部の奥深く、荒野に広がるマンダレイ農園へ。
そこで白人が黒人を鞭打つという非人道的な行為を見たグレースは
マンダレイの黒人たちを独立させ、
彼らが自らの手で収穫を果たすまで、
ここに残り彼らを助けようとする」

----なぜ、彼女はそんなに使命感に燃えているの?
「奴隷を作りあげたのは自分たち白人。
だから責任を取らなくては…というわけだね。
そんな娘に父親は
彼女が子供の頃、自分の忠告を無視して
カゴの小鳥を空に放した結果、
鳥は、翌朝窓辺で凍死していたことを思い出させる」

----う~~ん。それってフォーンもいやだな。
今年は特に寒いし。いまさらこの家、出て行けないや。
「そう、そこなんだよ。この映画のポイントは。
彼ら黒人たちも奴隷という立場から解放されても
どうやって生きていったらいいか分からない。
なにせ彼らは差別的な『ママの法律』に沿って生きていて、
それを守ってさえいれば
食事にもお金にも
不自由はしなかったのだから…。
しかし、そんな彼らにグレースは自由を与えたばかりか
<民主主義>教育をしようとする」

----ちょっと待って。
それって今のアメリカとイラクの関係じゃ?
「そうなんだね。
この映画は、ブッシュ批判が強烈に織り込まれている」

----と言うことはグレースがブッシュ(爆)…。
「いやいや笑いごとじゃないんだね。
この『マンダレイ』を観ていると、
ブッシュは別に悪意があるんじゃなくて、
心底、自分がヤッていることを正しいと思っているのでは?
という気になってくる」

----でもアメリカ嫌いで知られるラース・フォン・トリアー。
グレースの試みは、おそらく失敗に終わりそうだ。
「そう言うこと。
しかもその結末、
最後に明かされる農園の<秘密>はかなり衝撃的。
ただ、さっきも話したように
その<秘密>がビジュアルとして立ち上がるのではなく、
ストーリーとして語られるだけだから
波状的に感情が揺さぶられるというところまではいかない。
前作からそんなに時間も経っていないし、
ラース・フォン・トリアー、少し疲れたのかな?
ただ次の『WASHINGTON』は脚本に時間をかけているみたいだし、
これはそれへの橋渡しと考えた方がいいかも」

----ニャるほど。でも次のグレースはだれだろう?
ブライス・ダース・ハワードが引き続きやるのかな?
「ローレン・バコールはケイト・ブランシェットを推したとか。
もしかしたらニコールとブライスのWキャストかもよ」

----それじゃ「おわらない物語・アビバの場合」だ(笑)。 

       (byえいwithフォーン)

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※画像はポーランド・オフィシャルのティーザー・ポスターより