大福 りす の 隠れ家

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みち  ~未知~  第56回

2013年12月13日 14時38分44秒 | 小説
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『みち』 ~未知~  第56回



琴音が手を合わせ終わり立った時に下山してきた男性が

「こんにちは」 と挨拶の言葉をかけてすれ違って行った。

「こんにちは」 琴音もすぐに返事をしたが

(これが山のご挨拶なのね。 うふふ、なんて清清しいのかしら) 初めての経験だった。

だがそんな呑気な事を考えられていたのも束の間、すぐにまた上りが始まった。 そうするとすぐに足が重くなる。 息もすぐに上がってくる。
下山してくる人も多くなりみなが声をかけてくる。 振り絞って返す声。 だがその度に返事をする気力さえなくなってきた。 それどころか

(誰ももう声をかけないで) とさえ思っていた。

終わりが見えないずっと続く道。 もう上半身さえ重く感じてきた。 背中を丸くし両手は両足を支えに膝に付いている。 そんな状態で一段一段階段を上っていたが 頭の中は全く何も考える事ができなくなっていた。 風の音、鳥の声、木々の揺れる音、勿論自分の荒れた息さえ聞こえない。 俗に言う無の世界だ。

七合目の小屋に着きまた休憩を取ったがもうお茶が残り少ない。 それでも喉は水分を要求している。 後のことが気にはなったが全部飲み干してしまった。
七合目の小屋を出てまた歩き出した。 平坦な道が少しあったがまたすぐに上りだ。
すぐに無の世界に入っていった琴音である。 階段を2段3段と上ると止まってはハァハァと息を上げ また1段2段3段と上っての繰り返しだ。 まぁ、今日中には登れるだろうけどここまで体力がなかったとはね、4キロを甘く見すぎたね。

ようやく見えてきた黒門だが下を向いてばかりいる琴音はまだ気付いていない。
歩いていると足元が違っているのに気付き上を向いたときにやっと気付いた。

(これって愛宕神社の鳥居?) 違うよ。

(でもまだ道があるわ) 鳥居じゃないからね。 

そのまま歩き続けていくと大きな広場へ出た。 坂道から開放された琴音はあたりを見渡し

(ここが頂上なのかしら) まだ先があるよ。

そのまま真っ直ぐに歩いていくと社務所に並んで休憩小屋があり自動販機が目に入った。

(自販機だわ!) すぐにコーヒーを買った。 

一気にその場で1本飲み干した。 お茶と違ってサッパリとはしないが その分渇いた喉にミルク分が絡みつき喉を潤した。 そして続けて2本目を買い小屋で足を投げ出し休んでいると 暫くして身体中にかいていた汗が急に冷えてきて寒さを感じてきた。

腰に巻いていたパーカーを脱ぎ、見てみると巻いていたパーカーの腕の所も トレーナーの腰の辺りも汗でびっしょり濡れている。 琴音の見ることが出来ない背中は隙間なく汗で濡れている。 その背中においては悪寒さえ走る。

(やだ、このままじゃ風邪をひくじゃない。 足も少しは楽になったからお参りだけして帰りましょう) 2本目をサッサと飲みその場をたった。

あーあ、そんなに飲んじゃ後が大変じゃないか。 朝食をとってないんだから無茶な水分の取り方をするんじゃないよって言ったのに・・・あ、でも聞こえないか。

(確か神社があるって書いてあったけど どこなのかしら? せっかく来たんだからお参りしてから帰りたいものね) 平坦な道の広場だ。 辺りを見ながらゆっくりと歩くのに足は疲れない。 先を歩いていくと

(うそ!) 石階段があった。

(また階段なの!? ここを上るの?・・・もうここまで来たらやけくそよ。 上ってみせるわよ) 階段を上り始めるとまたすぐに両手は両足を支えにして一段づつ上がる。 

少し上っては足が止まる。 寒さもなにも感じなくなったどころかまた汗をかき始めた。
それにさっき飲んだコーヒーが上がってくる。 

(吐くわけにはいかないけど・・・ああ、吐きそう) 朝食抜きの胃にコーヒーを一気に2本も飲むからだよ。

「おきばり もうちょっとやで」 階段を下りてきた男性が声をかけた。  

「はい」 虫の声である。 時間をかけて上りようやく鳥居が見えてきた。

(鳥居だわ。 あと少し・・・) 残念だね、少しじゃないよ。
ようやく鳥居まで上ったが 

(嘘でしょ!) 大きく溜息が出た。 鳥居の奥にはまだ階段があったのだ。

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