大福 りす の 隠れ家

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みち  ~未知~  第83回

2014年03月19日 14時50分15秒 | 小説
『みち』 目次



『みち』 第1回から第50回までの目次は以下の 『みち』リンクページ からお願いいたします。

  『みち』リンクページ



『みち』 第51回からは以下からになります。

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『みち』 ~未知~  第83回



愛宕山を上って降りて、そしてまた上る。 琴音にはかなりキツイがそれでも行くんだよ。

(もうここまで来たんだから 登ってやるわよ! 滝に飛び込んでやる! 喉もこんなに渇いてるんだからガブガブ清流を飲んでやるわ!) すぐに歩き出した琴音。 
だが息巻いて上ってみたものの川を見、辺りを見ると何故か涙が次から次へとこぼれてきた。

(やだ、どうして涙が出るのよ) 拭う事はしない。 と言うより拭う事が頭になかった。

ただひたすら涙しながら上り続ける。 だが上から人が下りて来たのに気付いたのか慌てて涙を拭った。 
20歳くらいの男女、石の階段が滑りやすいからであろう 男の子が女の子の手を引いている。 すれ違いざま琴音が道を譲ると 

「ありがとうございます」 と男の子の方が言った。 女の子は笑顔に会釈だ。 流石はこういう所に来るだけあって礼儀がきちんとしている。
だが琴音自身は此処の重さをまだ知らない。 
・・・思い出していない。 

息巻いて上り始めたがすぐにダウンだ。 
息も上がる。 途中で休憩だ。 川をじっと眺めていると気付いた事があった。

(え? このドット・・・) 息を上げながら

(ここだったの? 朝見えた水面はここ?」 辺りを見回す。

水の音以外聞こえないとても静かで清浄な空間だ。 誰が返事をするわけではない。 

(まさかそんなわけないわよね。 始めてきた所なんだもの) だが何度見ても朝のそれに間違いはない。

(意味が分からないんだけど) そう思いながらも重い足を引きずって上って行った。 

『八大瀧王』 と書かれた鳥居をくぐり途中ここを通っていいのかと思う場所もあったがそのまま上って行った。 それ以外道はないのだから。

足元に今までと違うものを覚え、顔を上げると鳥居が見えた。 鳥居には『空也』と書かれていた。

(ここで終わり? やっと着いたの?) ずっと下を向いて上って来た琴音。
鳥居をくぐり中へ入っていくと重々しくこの3次元を超越した厳峻なる空間が待っていた。 琴音が思っていた雰囲気とは雲泥の差だ。

「何!? 此処は何なの?」 やっと分かったようだね。 琴音が思っていたように遊ぶ場所ではないんだよ。

恐る恐る中に歩いて行く。 まだ息は上がったままだが目の前に現れたあまりの厳かな滝に見入りまた涙が出てきた。 足はガクガクと揺れじっと立っている事が出来ない。 暫くしてヨロヨロとした足取りでもう少し中に歩を進めると石像が目に入った。 
石像に目をやると

(石像・・・誰かしら) 役小角が前鬼・後鬼を従えている石像だ。

(この人が空也っていう人なのかしら。 それに前に座っているのは人じゃないわよね) 勉強不足だね。

滝の横には不動明王が童子を従えた石造がある。 滝の手前には『空也瀧』 と書かれた石の鳥居があるがそこまで行く勇気がない。 
琴音にとって此処はあまりにも厳粛な場所に感じたのだ。 ただ、鳥居の前に立ち手を合わせなければと、それだけは思ったようだ。 少し離れた鳥居の前で二礼二拍手一礼をし、前を見たときに滝壷の横で何かが動いたのが見えた。

(あら?) じっと見てみるとそれは蛇であった。

(蛇・・・ああ、そのまま泳いで行っちゃあ滝壷に飲まれるわ危ないわ) 蛇は上手く瀧の横の岩に上がっていった。

(よかった。 こんな所でとんでもないものは見たくないわ) え? それだけ? 他に何か思い浮かばなかったのかい? コレで2回目だろう? 大切な場所で2回も蛇を見ただろう? 

まだ息が上がっている琴音、入り口近くに戻り丁度座れる段差に腰を下ろした。 

(とにかく息を整えて足が楽になってから下りればいいわ) 滝に背を向け足を前に投げ出し、ただ流れる川を見ていた。 

10分ほどの時間が経った頃、虫の声が聞こえ出した。 虫の声に耳を傾けると

「もう帰りなさい」 「早く帰りなさい」 そう言われているように聞こえた。

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