大福 りす の 隠れ家

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みち  ~未知~  第57回

2013年12月17日 15時03分19秒 | 小説
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『みち』 ~未知~  第57回



(ここまで来たんだから上るしかないわよね) ね、少しじゃなかっただろ?

元気な時に上れば大したこともない階段だ。 だが疲労困憊の琴音には簡単に上ることは出来ない。 この少しの階段を上る間も無の世界だ。
息を荒げながらも何とか上り続けやっと頂上だ。 愛宕神社だ。 時計を見た。

(3時間30分・・・) 最初に鳥居をくぐる前に見た時間から3時間以上が経過していた。

置かれていた椅子に腰掛け、ただ呆然としている。
どれくらいの時間がたっただろう 5分?10分? だが今の琴音には時間の感覚が無い。 あまりの寒さに気がついた。

(寒い・・・) さっきと同じように汗が一気に引いたのだ。

(はぁー、 私どうしてこんな事をしてるのかしら。 溜息しか出ないわ) うん。どうしてだろうね。 まだ分からないだろうね。 始まったばかりだからね。

(もう・・・) うん? なんだい?

(どうでもいいわ) え?

(とにかく登ったのよ) 確かに登ったよ。

(寒いからお参りだけして帰りましょう) そうします? ・・・って、それだけ? まぁ、いいけど。
身体の冷えを感じながらも本殿の前に立った。

(足が震えて上手く立てないわ) 琴音の足をよく見るとガクガク震えている。 
足が悲鳴を上げているのであろう。 まともに立っていられない状態のまま本で読んだように 鈴を鳴らし二礼二拍手で手を合わせた。 だがその先のことは一礼としか本には書かれていない。 ニ拍手の後そのまま手を合わせ

(有難うございました) そう心の中で言いうと琴音が手を合わせる前から横に立っていた礼儀正しそうな男の子とその父親であろう男性の声が聞こえた。

手を合わせながらその声に耳を傾けていると祝詞であったが琴音は祝詞を知らない。

(いい響きだわ。 お経じゃないわよね・・・ここは神社だからもしかしてこれが祝詞なのかしら?) お経は小さな頃から法事に行っては聞いている。 祝詞とお経ではその違いが歴然だ。 祝詞を知らない琴音でもすぐに分かったようだ。
合わせていた手を下げ一礼をしその場を去る時に

(祝詞・・・覚えてみたいわ。 ・・・可笑しいわね、何度も聞いているお経をそんな風に思ったことがないのにどうしてかしら) そう思えるほど印象の深い祝詞であった。

石階段の上に立ち

「この階段・・・この足で下りられるかしら・・・転んだりなんかしたら・・・考えたくもないわ・・・」 ようやく出た独り言だね。

一歩一歩、まるで赤ちゃんが階段を下りるようにして下りて行った。
石階段が終わり広場の平坦な道は難なく歩いていくが それでもどこかぎこちない歩き方だ。

(変な歩き方ってわからないかしら) 心の中に羞恥が広がった。

ガクガクした歩き方で自動販売機のほうに歩いて行きペットボトルのお茶を1本買った。

「とにかく帰りろう」 景色も何も見ることなく下山に向かった。
上りと違ってさすがに下りるのは早い。 上りとは全然違う。 だが琴音の膝の関節はもう悲鳴を上げている。

「膝がつぶれる前に下りなきゃ」 極力、休憩を挟まず足の運びも上りより早くはあったがその琴音の横を 20代くらいの女性が走って下りていくのが見えた。

「え! 走ってる!」 唖然とした。

「若さって凄いわね」 いや、琴音が運動不足すぎるんだよ。 悠森製作所の階段でもう少し鍛えるんだよ。

それからはさすがに膝の痛みが限界だ。 休憩小屋で膝の痛みをとりながら何とか山を下りる事が出来たが太腿も脹脛も膝も、もうガクガクの上に膝の関節が砕けたのではないかというほどの痛みだ。

「足が・・・」 そう思いながらもくぐった鳥居に向かい直り一礼をし

「来た時は山側だったけど・・・今はもう山の風景はいいわ。 川沿いの道から帰りましょう」 その道を選んだのが後になって後悔だ。

来た時に下りて来た山側の坂はそれなりになだらかだが 川側の坂はとんでもなく急だ。 そうとは知らない琴音。 悠長に川を見ながら平坦な道を歩き

「川って見ているだけでも気持ちいいけど この流れる音、激しい音なのに気持ちよく感じるのはどうしてなのかしら」 川に癒されゆっくりと歩を進めていたとき 目の前に現れた急な坂。

「うそ!!」 はい、頑張って上ろうね

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