大福 りす の 隠れ家

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みち  ~未知~  第80回

2014年03月07日 14時46分36秒 | 小説
『みち』 目次



『みち』 第1回から第50回までの目次は以下の 『みち』リンクページ からお願いいたします。

  『みち』リンクページ



『みち』 第51回からは以下からになります。

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『みち』 ~未知~  第80回



(何なのよ、山を登りに来たんじゃないのよ。 どうしてこんなに歩かなきゃいけないのよ) 息をするのさえ苦しい。 独り言すら口から出なくなった。

(あ、そう言えば・・・待ってよ、確か半分くらい行った所に休憩所があったわよね。 あそこは分かれ道になってたわよね・・・。 もしかしたらあそこの分かれ道に滝があるのかしら。 ここまで来たんだから、とりあえずあそこまで行ってみよう) 息も戻ってきて腰を上げ歩き出した。

道々、励まされることが多かった琴音。 息を上げてヨロヨロと歩く琴音の姿を見て励まさずにはいられないのであろう。

(人ってありがたい) 感謝の念が出る。 
感謝の念。 大切な事なんだよ。 琴音は今まで感謝をする事がなさすぎた。 「有難う」 と言っていてもそこに念が入っていなかったのだよ。 

今の琴音に出来る事は微笑んで返事をする事だけなのだが、段々とそれもままならなくなってきた。

(お願い、声をかけないで。 挨拶をしないで) そんな事を考え出していた。
それじゃあ1回目に登った時と同じじゃないか。 まだまだ駄目だね。

休憩所で腰を下ろしていると赤ちゃんを背負った女性が入ってきた。

(私一人でもこんなにしんどいのに 赤ちゃんを背負って登るなんて・・・) 琴音には考えられないようだが、愛宕山ではそういう姿をよく見る。 3歳までに愛宕山頂にある愛宕神社に参拝をすると一生火事に合わないと言うのだ。
上がった息が整ったのでまた歩き出した琴音だが、やはりすぐに息が上がる。

(もうイヤ。 どうして私が山を登らなきゃいけないのよ。 山を登りに来たんじゃないのよ) それはさっきも聞いたよ。

(もう滝なんてどうでもいいわ。 下りる!) ハァハァとした息でそう思った瞬間

<登りなさい> 頭の中に声が聞こえた。

「え?」 一瞬辺りをキョロキョロしたが誰も居ない。

(誰も居ない・・・優しい女の人の声・・・) 考える。

(きっとどこかでお母さんか誰かが 子供に言ってるのが聞こえたのね) 誰も居ないのにそんなはずないだろう。 それに山登りでそんなに優しい声で言わないだろ? 

優しく全てを包むような声。

(はぁ、偶然にしても聞こえちゃったんだから・・・じゃあ、とにかく登ろうか) なんとか琴音が半分くらいにあると思っていた分岐の場所まで来た。 

『水尾の分れ』 だ。

案内板を見て辺りを見るが滝なんてどこにも書かれていない。 休憩所に入り座り込み

(ここって半分の所じゃなかったのね。 それ以上登って来た所だったのね) そうだよ。 よく歩いてきたね。

(滝・・・いったいどこにあったのかしら。 ちゃんと最初の案内板を見てくれば良かった) 今更遅いね。 でもこの先の案内板で見ることが出来るよ。

(とにかく滝は諦めたわ。 それに・・・ここまできたら最後まで登って後は下りるだけよ。 もうそれだけ。 ここまで来て途中止めなんて考えたくないわ。 それに滝がどうのこうのなんて考えてたら自分が馬鹿らしくなっちゃうわ) ここへ来てやっと腹を括ったようだ。

足の疲れも息の荒さも落ち着き腰を上げた。

(あら? 鳥の声) 可愛らしい鳥の声が聞こえた。

(今まで気付かなかったわ) 山へ来て鳥の声を聞かないなんてもったいないね。

そしてそのままずっと登っていったが 相変わらず聞こえるのは自分の息だけ。 だがそれは聞こえると言っても 右から入って左に抜けるだけのものだ。 頭の中に少しでも留まって自分の息を意識するなどと言うものではない。

(ああ、また何も聞かないで登っちゃってたわ。 鳥の声聞いていたいのに) 登りながらそう考え鳥の声に耳をやるが、それも一瞬で終わってしまう。 すぐに無の世界だ。

そんな事の繰り返しをしながらもやっと社務所に着いた。

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